説明

成形条件の設定方法

【課題】充填速度および保圧の応答度合いの選択肢を広げることで応答特性を最適化できると共にその選択作業を容易にする成形条件の設定方法を提供する。
【解決手段】射出充填の開始から終了までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の速度と射出充填の圧力のうちいずれか一方を設定することで、成形条件を1段以上の階段状に設定し、前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した射出充填の速度又は射出充填の圧力となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機における充填速度や保圧などの射出工程における成形条件の設定方法に関し、特に作業者が射出工程の成形条件を設定するにあたり、充填速度や保圧などの応答度合いの選択肢を広げることで応答特性を最適化できると共にその選択作業を容易にする成形条件の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に射出成形機は少なくとも型締装置と射出装置とを備えて、その型締装置で金型装置の開閉や締め付けを行い、その射出装置で可塑化計量した樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出して充填を行う。
そのうち射出装置は、1本のインラインスクリュで可塑化と射出充填の両方を行うインラインスクリュ式射出装置と、可塑化スクリュで可塑化を行うとともに射出プランジャで射出充填を行うスクリュプリプラ式射出装置に大別される。
本明細書中においてはインラインスクリュ及び射出プランジャをまとめて「射出軸」という。
【0003】
上記のような一般的な射出装置では、樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、通常、充填速度が優先して制御される充填工程において、金型のキャビティ内に溶融された樹脂材料(溶融樹脂)を充填したあと、圧力が優先して制御される保圧工程において、そのキャビティ内に充填した溶融樹脂の冷却にともなう熱収縮分を補うために必要な分の溶融樹脂をさらに充填するように制御している。さらに、保圧工程ではキャビティのゲート部分の溶融樹脂が固化するまでキャビティ内の溶融樹脂に圧力を付与する。また、保圧工程では、充填された溶融樹脂に気泡が入り込んだ場合に、そのガス抜きを行う効果もある。
なお、充填工程と保圧工程の切り換えを「VP切り換え」という。また、VP切り換えを行わずに例えば前述の充填工程のみですべての射出工程を完了させることもある。また、前述の充填工程とは違い、圧力優先制御による充填工程のみですべての射出工程を完了させることもある。また、圧力優先制御による充填工程のあと、前述の保圧工程を行って射出工程を完了させることもある。その他、適宜組合せによる射出工程の制御が考えられる。そのような射出工程のあとに、冷却工程において溶融樹脂を固化させてから、金型装置を開いてその固化した成形品を取り出すことになる。
【0004】
充填速度や保圧は、射出軸の動作位置やその動作時間を切り換え条件として、速度や圧力を適宜切り換えるように設定されている。
例えば、充填工程において切り換え条件が射出軸の位置であり、設定値が充填速度である場合には、射出軸が所定の位置に到達する毎に設定速度を階段状に上昇又は下降させることで階段状の成形条件を設定することが一般的である。
また、保圧工程において切り換え条件が時間であり、設定値が保圧である場合には、2段の保圧設定を例にすると、1段目において切り換え条件として設定した時間が経過するまで1段目の設定圧力を維持したあと、次段に切り換えて、2段目において切り換え条件として設定した時間が経過するまで2段目の設定圧力を維持するように階段状の成形条件を設定することが一般的である。
【0005】
ここで、成形条件の具体的な設定方法の一例について説明する。
例えば充填工程の場合、作業者はまず金型のスプルー部に溶融樹脂を充填するのに必要な射出軸の位置(樹脂充填量)と射出軸の前進速度(充填速度)を決定するべく、少なめの樹脂充填量と遅めの充填速度を設定した上で実際に充填作業を行い、順次樹脂充填量及び充填速度を増加させながら条件変更を繰り返していき、最終的な射出軸の位置と充填速度を決定する。
次にランナー部に必要な樹脂充填量と射出軸の充填速度を同様に条件変更を繰り返しながら導き出し、最終的な射出軸の位置と充填速度を決定する。
次にゲート及び製品部に必要な樹脂充填量と射出軸の充填速度を同様に条件変更を繰り返しながら導き出し、最終的な射出軸の位置と充填速度を決定する。
このように条件変更を繰り返しながら充填/保圧工程における成形条件を階段状に設定するのが一般的である。
【0006】
ここで、充填/保圧工程の成形条件を階段状とした場合には、速度/圧力が階段状に変化する位置/時間では速度/圧力の立ち上がりや立ち下がりに応答遅れが生じる。
そこで、成形品形状が複雑な場合や、多数個取りあるいはマルチゲートなど、キャビティ及び溶融樹脂流路(スプルー、ランナー等)が複雑な形状の場合には、この応答遅れも考慮して成形条件を設定することで成形品の歩留まり及び品質を向上させている。
また、成形品の形状や溶融樹脂流路が複雑でない場合には多少の応答遅れが生じたとしても、階段状の成形条件の設定だけで十分な精度の成形品を得ることができる。
【0007】
例えば、速度/圧力が階段状に変化する位置/時間における成形条件を所定の関数に沿った曲線形にすることで微調整や応答特性向上を可能にする技術が知られている(特許文献1及び2)。
特許文献1には、充填工程において初速度と最高速度の少なくともいずれか一方の立ち上がりの応答特性について、予め設定されている複数の関数から適当な特性を持つものを作業者がタッチパネルのボタンで選択・設定する方法が開示されている。
また、特許文献2には、矩形、勾配、折線または円形を表す関数をコード化し、時系列に位置、速度、関数コード等を入力することで速度制御パターンを設定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−258097号公報
【特許文献2】特開2002−86533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記従来技術では以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に開示された技術では、例えば初速度の立ち上がりの応答特性を複数の関数から選択することで初速度到達位置が自動的に決定されるようになっている。したがって、作業者が応答特性と初速度到達位置の両方を設定することができず、成形条件の設定が不十分になるおそれがあった。また、応答特性を与える関数として一次関数、二次関数、三角関数などが規定されているのみであり、選択肢が少なく、複雑な形状に対応した成形条件を設定することが困難という問題もあった。
また、特許文献2に開示された技術では、充填開始位置から時系列で位置、速度及び関数のコードを入力してパターンを設定する。つまり、上述したように、最初に階段状の成形条件を設定し、その後必要に応じて速度/圧力の微調整や応答特性向上を図るのではなく、階段状の成形条件を設定することなく矩形、勾配、円形等が混在した成形条件を時系列で設定するようになっているため、複雑な形状の成形品には向いておらず、また、設定作業に時間がかかるという問題があった。
【0010】
本発明はこのような問題に鑑み、作業者が成形条件を設定するにあたり、充填速度や保圧などの応答度合いの選択肢を広げることで応答特性を最適化できると共にその選択作業を容易にする成形条件の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明における成形条件の設定方法は、樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程における成形条件の設定方法であって、射出充填の開始から終了までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の速度と射出充填の圧力のうちいずれか一方を設定することで、成形条件を1段以上の階段状に設定し、前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した射出充填の速度又は射出充填の圧力となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択することを特徴とする。
請求項2の発明における成形条件の設定方法は、樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程における成形条件の設定方法であって、前記射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、前記充填工程において、射出軸の充填開始位置からVP切り換え位置までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の速度である充填速度を設定することで、射出軸の位置と充填速度とから規定される成形条件を1段以上の階段状に設定し、前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した充填速度となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明における成形条件の設定方法は、樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程における成形条件の設定方法であって、前記射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、前記保圧工程において、射出軸のVP切り換え時から保圧終了時までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の圧力である保持圧力を設定することで、保圧時間と保持圧力とから規定される成形条件を1段以上の階段状に設定し、前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した保持圧力となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択することを特徴とする。
請求項4の発明における成形条件の設定方法は、前記1以上の区間のうち最終の区間における保持圧力から保持圧力ゼロへ変化させるための応答区間も設定可能であることを特徴とする。
請求項5の発明における成形条件の設定方法は、請求項2に記載の設定方法と請求項3又は4に記載の設定方法を行うことを特徴とする。
請求項6の発明における成形条件の設定方法は、射出成形機の表示部に前記曲り度合いが異なる2種類以上の関数の中からいずれか一つを選択するための選択欄を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜3の発明によれば、まず成形条件を1段以上の階段状に設定した後、少なくとも一つの区間について応答区間を設定し、当該応答区間における成形条件を曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択する。
したがって、作業者による成形条件の設定作業に要する時間の短縮及び作業の容易化が可能となる。
また、応答区間の距離/時間と当該応答区間における応答特性(関数)とを関連付けて設定できると共に、複数の関数の中から最適な関数を選択できるので、複雑な形状の成形品に対して応答特性の最適化が可能になり、歩留まりの向上や品質向上を図ることができる。
請求項4の発明によれば、保圧工程の最終区間における保持圧力から保持圧力ゼロへ変化させるための応答区間も設定可能となり、応答特性をより最適化できる。
請求項5の発明によれば、充填工程と保圧工程の両者について応答区間の設定による応答特性の最適化が可能となる。
請求項6の発明によれば作業者による関数選択作業を容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】充填工程における成形条件の設定方法を示す図である。
【図2】充填工程における成形条件の設定方法を示す図である。
【図3】立ち下がり曲線に関する関数を示す図である。
【図4】立ち上がり曲線に関する関数を示す図である。
【図5】保圧工程における成形条件の設定方法を示す図である。
【図6】保圧工程における成形条件の設定方法を示す図である。
【図7】表示部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の成形条件の設定方法について図を用いて説明する。
本実施の形態においては、樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程が充填工程と保圧工程からなる。
充填工程では射出軸の位置と射出充填の速度である充填速度を制御しながら充填作業を行う。
図1に示すように、充填工程においては、射出軸の充填開始位置X0からVP切り換え位置までを1以上の区間(本実施の形態においては3つの区間A〜C)に分割している。区間A〜Cはそれぞれ距離がS1〜S3に設定されており、各区間に対して充填速度V1〜V3を設定することで、成形条件を1段以上(本実施の形態においては3段)の階段状に設定している。
【0016】
具体的な設定方法の一例としては、作業者が金型のスプルー部に溶融樹脂を充填するために必要な射出軸の位置(樹脂充填量)と充填速度を決定するべく、少なめの樹脂充填量と遅めの充填速度を設定した上で実際に充填作業を行い、樹脂充填量及び充填速度を増加させながら最終的な射出軸の位置X1(充填開始位置X0からの距離S1)と充填速度V1を決定する。これにより階段状の成形条件の1段目(区間A)が形成される。
次にランナー部に必要な樹脂充填量と充填速度を同様に条件変更を繰り返しながら導き出し、最終的な射出軸の位置X2(位置X1からの距離S2)と充填速度V2を決定する。これにより階段状の成形条件の2段目(区間B)が形成される。
最後にゲート部及び製品部に必要な樹脂充填量と充填速度を同様に条件変更を繰り返しながら導き出し、最終的な射出軸の位置X3(位置X2からの距離S3)と充填速度V3を決定することで成形条件の3段目(区間C)が形成され、成形条件が3段の階段状に設定される。
なお、充填工程が終了する位置、すなわち位置X3がVP切り換え位置となる。
【0017】
次に、作業者は充填速度が変化する位置、すなわち充填速度がV0=ゼロからV1に変化する位置X0、V1からV2に変化する位置X1及びV2からV3に変化する位置X2における成形条件を、充填速度の応答遅れを考慮して適宜設定することで応答特性の最適化を行う。
具体的には、図2に示すように、区間A〜Cのうち応答度合いの調整が必要な区間に対して応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を選択する。
本実施の形態での充填工程における「応答区間」とは、当該応答区間を含む区間に射出軸の制御が切り換えられたあと、充填速度が当該区間に設定された値になるように射出軸の駆動を制御するための区間を指す。充填工程における応答区間は距離で規定される。なお、応答区間は、射出軸の制御が切り換えられる前に設定されても良いし、あるいは、射出軸の制御が切り換えられる時点を含むようにその前後にわたって設定されても良い。
また、「応答度合いの調整が必要な区間」とは、射出軸を駆動するためのモータ等の機械的特性に起因して当然に生じる応答遅れに基づいて射出軸を駆動すると成形品の品質低下や歩留まりの低下を招くおそれがある区間を指す。したがって、機械的特性に起因して当然に生じる応答遅れに基づいて射出軸を駆動したとしても成形品の品質低下等のおそれがない区間については必ずしも応答区間を設定する必要はない。
【0018】
本実施の形態においては区間A〜Cのうち区間A及びBについて応答区間a及びbを設定する。区間Cについては応答区間を設けずに機械的特性に起因して生じる応答遅れに基づいて射出軸の駆動を制御するものとする。
応答区間aは、区間Aの充填開始位置X0における充填速度V0=ゼロから充填速度V1になるように射出軸の駆動を制御するための区間であり、その距離をs1としている。また、区間Bでは充填速度V1から充填速度V2となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間bを設定し、その距離をs2としている。
また、図3及び図4に示すように、応答区間a及びbにおける成形条件として、曲り度合いが異なる2種類以上(本実施の形態においては−5〜0〜+5の11種類)の関数が規定されている。図3は立ち下がり曲線に関する関数であり、図4は立ち上がり曲線に関する関数である。
【0019】
次に、応答区間の距離と関数の具体的な設定方法について、区間Bを例にして説明する。
位置X1において区間Aから区間Bに射出軸の制御を切り換えたあと、充填速度をV1からV2へと変化させるにあたり、仮に作業者がV1に近い速度をできるだけ長く維持しながらV2に近づけていく必要があると判断した場合には、応答区間bにおける距離s2を長くすると共に図3の立ち下がり曲線に関する11種類の関数のうち上方に膨らんでいる関数−1〜−5のうち適当な一つを後述する表示部から選択する。実際には作業者が経験則に基づいてs2の距離と関数を適宜変更しながら実際に射出充填を行い、試作を繰り返しながら最適なs2の距離と関数を決定することになる。
なお、上述の通り区間Cについては応答区間を設定しておらず、区間Cにおいて充填速度がV2からV3に立ち上がる際には機械的特性に起因した応答遅れが生じることになるため、射出軸の実際の動作は図2に示した階段状とは異なるものになる。
応答区間a及びbについて最適な距離と関数を決定することで充填工程における成形条件の設定作業が終了し、次に保圧工程における成形条件の設定作業を行う。
【0020】
保圧工程では保圧時間と射出充填の圧力である保持圧力を制御しながら充填作業を行う。
図5に示すように、保圧工程においては、VP切り換え時Y0から保圧終了時Y3までを1以上の区間(本実施の形態においては3つの区間D〜F)に分割している。区間D〜Fはそれぞれ時間がT1〜T3に設定されており、各区間に対して保持圧力P1〜P3を設定することで、成形条件を1段以上(本実施の形態においては3段)の階段状に設定している。
なお、VP切り換え時の保持圧力P0は、充填工程が終了した時点での射出充填の圧力である。
次に、作業者は保持圧力が変化する時点、すなわち保持圧力がP0からP1に変化する時点Y0、P1からP2に変化する時点Y1及びP2からP3に変化する時点Y2における成形条件を、保持圧力の応答遅れを考慮して適宜設定することで応答特性の最適化を行う。
【0021】
具体的には、図6に示すように、区間D〜Fのうち応答度合いの調整が必要な区間に対して応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を選択する。
本実施の形態での保圧工程における「応答区間」とは、当該応答区間を含む区間に射出軸の制御が切り換えられたあと、保持圧力が当該区間に設定された値になるように射出軸の駆動を制御するための区間を指す。保圧工程における応答区間は時間で規定される。なお、応答区間は、射出軸の制御が切り換えられる前に設定されても良いし、あるいは、射出軸の制御が切り換えられる時点を含むようにその前後にわたって設定されても良い。
本実施の形態においては区間D〜Fの全てについて応答区間d〜fを設定するものとする。
応答区間dは保持圧力P0から区間Dに設定された保持圧力P1になるように射出軸の駆動を制御するための区間であり、その時間をt1としている。
応答区間eは保持圧力P1から区間Eに設定された保持圧力P2になるように射出軸の駆動を制御するための区間であり、その時間をt2としている。
応答区間fは保持圧力P2から区間Fに設定された保持圧力P3になるように射出軸の駆動を制御するための区間であり、その時間をt3としている。
なお、本実施の形態においては最終の区間Fにおける保持圧力P3から保持圧力ゼロへ変化させるための応答区間gも設定しており、その時間をt4としている。
【0022】
応答区間の時間と関数の具体的な設定方法について、区間Eを例にして説明する。
時間Y1において区間Dから区間Eに射出軸の制御を切り換えたあと、保持圧力をP1からP2へと変化させるにあたり、仮に作業者ができるだけ短い時間で急激にP2に近づける必要があると判断した場合には、応答区間eにおける時間t2を短くすると共に図4の立ち上がり曲線に関する11種類の関数のうち上方に膨らんでいる関数−1〜−5のうち適当な一つを後述する表示部から選択する。実際には作業者が経験則に基づいてt2の時間と関数を適宜変更しながら実際に射出充填を行い、試作を繰り返しながら最適なt2の時間と関数を決定することになる。
応答区間d〜gについて最適な時間と関数を決定することで保圧工程における成形条件の設定作業、すなわち射出工程における成形条件の設定作業が終了する。
【0023】
次に、図3に示した立ち下がりの場合の各関数の式の例を保圧工程で示す。
[関数0]
P=P+P×t÷t(式1)
[関数1]
P=P+(P×t÷t)×t÷t(式2)
[関数2]
P=P+((P×t÷t)×t÷t)×t÷t(式3)
[関数3]
P=P+(((P×t÷t)×t÷t)×t÷t)×t÷t(式4)
[関数4]
P=P+((((P×t÷t)×t÷t)×t÷t)×t÷t)×t÷t(式5)
[関数5]
P=P+(((((P×t÷t)×t÷t)×t÷t)×t÷t)×t÷t)×t÷t(式6)
[関数−1]
P=Pi−1−(P×経過時間t÷t)×経過時間t÷t(式7)
[関数−2]
P=Pi−1−((P×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t(式8)
[関数−3]
P=Pi−1−(((P×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t(式9)
[関数−4]
P=Pi−1−((((P×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t(式10)
[関数−5]
P=Pi−1−(((((P×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t)×経過時間t÷t(式11)
【0024】
ここで、各区間(図6の例の場合D〜F)の開始時点(図6の例の場合Y0〜Y2)を基準(ゼロ)とし、そこから経過した時間を経過時間tとする。また、最終区間n(図6の例の場合区間F)から保持圧力ゼロになるまでの応答は区間n+1とするが、最終区間nから圧力ゼロに落とす際にも応答区間を設定する場合にのみ必要となる。
=Pi−1−P:Pi−1は区間切り換え直前の保持圧力、Pは切り換え後の保持圧力
=t−経過時間t
i=1、2、〜、n、n+1
n:設定区間の数(1以上)
P:保持圧力
、P、〜、P、P、Pn+1:各区間に設定した保持圧力
:VP切り換え時の圧力
n+1:保持圧力ゼロ
、T、〜、T、T:各区間の時間
、t、〜、t、t、tn+1:各応答区間の時間
n+1:圧力ゼロになるまでの応答区間の時間
【0025】
なお、図4に示した立ち上がりの場合には[関数0]が上記式1、[関数1]が上記式7、[関数2]が上記式8、[関数3]が上記式9、[関数4]が上記式10、[関数5]が上記式11、[関数−1]が上記式2、[関数−2]が上記式3、[関数−3]が上記式4、[関数−4]が上記式5、[関数−5]が上記式6とすればよい。
このように、立ち上がりの場合と立ち下がりの場合とで共に関数が正の値(1〜5)では関数が窪んだ形とし、負の値(−1〜−5)では関数が膨らんだ形と関連付けることで、作業者の関数選択作業を容易にできる。
なお、各応答区間において充填速度/保持圧力が設定値に早く近づく関数(高応答関数)と遅く近づく関数(低応答関数)に分けて、関数の正負の値を設定することにしてもよい。
【0026】
次に、射出成形機の表示部の構成例について説明する。
図7に示すように、表示部10の右側は充填工程、左側は保圧工程における各種パラメータを設定するための射出設定画面になっている。
例えば、充填工程については、符号20の欄の図面左端にVP切り換え位置を示す位置X3を入力し、その右隣りに位置X2、その右隣りに位置X1を入力するようになっている。符号21の欄には、計量完了位置(充填量)を示す位置X0を入力するようになっている。また、符号22の欄には充填速度V1〜V3、符号23の欄には応答区間の距離s1〜s3、符号24の欄には応答区間における関数(応答度合い)−5〜5、符号25の欄には各区間に応答区間を設定するか否かのON/OFFを入力するようになっている。なお、符号20の欄には、各区間の距離S1〜S3を入力するようにしても良い。
また、例えば、保圧工程については、符号30の欄には各区間の時間T1〜T3、符号31の欄には保持圧力P1〜P3、符号32の欄には応答区間の時間t1〜t4、符号33の欄には応答区間における関数(応答度合い)−5〜5、符号34の欄には各区間に応答区間を設定するか否かのON/OFFを入力するようになっている。なお、符号30の欄には、保圧開始から計時された保持圧力の切り換え時点Y1〜Y3を入力するようにしても良い。
【0027】
実際の入力作業は、符号20、21、22、30及び31の欄については、作業者が各欄にタッチすると表示部の別ウインドウが開き、数字入力用のテンキーが表示されるので、このテンキーを使って値を入力することで行われる。
また、符号23、24、32及び33の欄については、まず作業者が符号25又は34の欄を押すことでON/OFFの切り換えを行い、ONを表示させた場合には、当該区間における距離s1〜s3、時間t1〜t3及び関数を適宜符号23、24、32及び33欄に入力できるようになる。また、OFFを表示させた場合には符号25及び34欄が反転し、入力不可の状態になる。
なお、表示部10の画面表示や射出軸の駆動制御を行う制御装置、関数を記憶しておく記憶装置、各種センサー等については一般的な射出成形機が備える構成と同様であるため説明を省略する。また、入力作業は、タッチパネル以外にも適宜の入力手段を用いて行えば良い。
【0028】
また、本実施の形態においては射出工程が充填工程と保圧工程からなり、充填工程と保圧工程の各々について応答区間を設けるものとしたが、これに限定するものではない。
例えば、射出工程が速度優先制御の充填工程のみであってもよく、あるいは射出工程が圧力優先制御の充填工程のみであってもよいので、それらの場合においても本発明を適用することができる。
そして、射出工程を速度優先制御による充填工程のみで行う場合には、充填工程の最終の区間における充填速度から充填速度ゼロへ変化させるための応答区間を設定してもよい。
また、射出工程が充填工程と保圧工程からなり、そのうち充填工程のみに応答区間を設け、保圧工程には応答区間を設けないことにしてもよく、あるいは充填工程には応答区間を設けず、保圧工程のみに応答区間を設けることにしてもよい。
【0029】
また、本実施の形態では充填工程における応答区間a及びbの距離s1及びs2をそれぞれ独立して設定するものとしたが、これに限らず、s1とs2について同一の値を設定することにしてもよい。同様に保圧工程における応答区間d〜fの時間t1〜t3についても同一の値を設定することにしてもよい。これにより作業者による成形条件の設定作業を簡略化できる。
また、本実施の形態では充填工程における応答区間a及びbの関数をそれぞれ独立して設定するものとしたが、これに限らず、応答区間a及びbについて同一の関数を設定することにしてもよい。同様に保圧工程における応答区間d〜fについても同一の関数を設定することにしてもよい。これにより作業者による成形条件の設定作業を簡略化できる。
【0030】
また、充填工程では射出軸の位置と充填速度を制御し、保圧工程では保圧の時間と保持圧力を制御しながら充填作業を行うものとしたが、これに限らず、例えば充填工程において射出軸の駆動時間と充填速度を制御したり、保圧工程において溶融樹脂の充填量と保持圧力を制御するなど、制御の対象となるパラメータは適宜変更可能である。
また、本実施の形態では、VP切り換えを、射出軸の動作位置によって切り換えるとしたが、これに限らず、VP切り換えを、射出充填の圧力値や射出軸の駆動時間などの各種パラメータによって、切り換えるようにしても良い。
また、充填/保圧工程において区間の数をそれぞれ3つ設定するもの、すなわち、複数設定するものとしたが、1つだけでもよい。
また、立ち上がりと立ち下がりの場合でそれぞれ11種類の関数を設定したが、少なくとも2種類の関数でよく、各関数の式についても1次関数、2次以上の複数次関数、指数関数等を適用できる。
また、表示部10の構成は適宜変更可能であり、例えば応答区間を設定するための各欄については別ウインドウで表示するものとしてもよい。
また、表示部10の欄24及び33において関数の番号(−5〜5)を入力するものとしたが、これに限らず、例えば図3及び図4に示したようなグラフを別ウインドウに表示し、作業者が所望の関数の曲線に触れることで関数を選択することにしてもよい。
また、熱可塑性樹脂を材料とする射出成形機の場合について説明したが、それに限定するものではなく、熱硬化性樹脂を材料とする射出成形機においても本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
射出成形機の成形条件を設定するにあたり、応答特性を最適化できると共にその選択作業を容易にするものであり産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0032】
10 表示部
20 区間の位置の入力欄
21 計量完了位置の入力欄
22 充填速度の入力欄
23 応答区間の距離の入力欄
24 関数の入力欄
25 応答区間を設定するか否かの入力欄
30 区間の時間の入力欄
31 保持圧力の入力欄
32 応答区間の時間の入力欄
33 関数の入力欄
34 応答区間を設定するか否かの入力欄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程における成形条件の設定方法であって、
射出充填の開始から終了までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の速度と射出充填の圧力のうちいずれか一方を設定することで、成形条件を1段以上の階段状に設定し、
前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した射出充填の速度又は射出充填の圧力となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択することを特徴とする成形条件の設定方法。
【請求項2】
樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程における成形条件の設定方法であって、
前記射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、
前記充填工程において、射出軸の充填開始位置からVP切り換え位置までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の速度である充填速度を設定することで、射出軸の位置と充填速度とから規定される成形条件を1段以上の階段状に設定し、
前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した充填速度となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択することを特徴とする請求項1に記載の成形条件の設定方法。
【請求項3】
樹脂材料を金型装置のキャビティ内に射出充填するための射出工程における成形条件の設定方法であって、
前記射出工程が充填工程と保圧工程とからなり、
前記保圧工程において、射出軸のVP切り換え時から保圧終了時までを1以上の区間に分割し、各区間に対して射出充填の圧力である保持圧力を設定することで、保圧時間と保持圧力とから規定される成形条件を1段以上の階段状に設定し、
前記1以上の区間のうち少なくとも一つの区間について、当該区間に設定した保持圧力となるまで射出軸の駆動を制御するための応答区間を設定すると共に当該応答区間における成形条件を、曲り度合いが異なる2種類以上の関数から選択することを特徴とする請求項1に記載の成形条件の設定方法。
【請求項4】
前記1以上の区間のうち最終の区間における保持圧力から保持圧力ゼロへ変化させるための応答区間も設定可能であることを特徴とする請求項3に記載の成形条件の設定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の設定方法と請求項3又は4に記載の設定方法を行うことを特徴とする成形条件の設定方法。
【請求項6】
射出成形機の表示部に前記曲り度合いが異なる2種類以上の関数の中からいずれか一つを選択するための選択欄を表示することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形条件の設定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218190(P2012−218190A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83221(P2011−83221)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【特許番号】特許第4834184号(P4834184)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(301056270)株式会社ソディックプラステック (35)
【Fターム(参考)】