説明

手動式印字装置

【課題】使用者が所定の直線移動方向に手動で移動操作することに基づいて、被記録媒体に印字を行う手動式印字装置に関し、手ぶれ等に起因するずれが生じた場合であっても、より所望の態様に近しい印字結果を印字可能な手動式印字装置を提供することを目的とする。
【解決手段】手動式プリンタ1を移動させて印字を行う際に、補正周期T内に曲がり移動が生じた場合、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bにより検出される第1検出回数Na、第2検出回数Nbに基づいて、曲がりズレ量Xa、曲がりズレ角度θが算出される。又、斜行移動が生じた場合、第1検出回数Na、第2検出回数Nb、直前の斜行ズレ角度αn-1に基づいて、斜行ズレ量Xb、今回の斜行ズレ角度αnを算出する。そして、曲がりズレ量Xa、斜行ズレ量Xbにより算出される累積総ズレ量Xnの値に基づいて、印字データを1dot単位で補正して印字を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の手動操作により、被記録媒体上を移動することで印字を行う手動式印字装置に関し、特に、手動操作に基づく手ぶれ等を検出可能な手動式印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、印字装置本体を手で持って被記録媒体上を移動させることにより、任意の位置、方向で、被記録媒体に対して所望の印字を行う手動式印字装置が知られている。これらの手動式印字装置では、エンコーダ等の検出手段により、手動式印字装置自体の移動量を検出し、当該検出結果に基づいて、印字ヘッドを駆動することで被記録媒体に印字を行うように構成されている。
【0003】
ここで、このような手動式印字装置では、被記録媒体に印字品質の高い印字を行うためには、所定の直線移動方向に沿って、当該手動式印字装置を移動させる必要がある。しかしながら、装置本体を移動させる方法が、使用者自身の手動操作であるが故に、手ぶれ等が生じてしまう可能性を完全に排除することができない。そして、手動式印字装置の移動中に手ぶれ等が生じた場合、印字結果が全体的に蛇行してしまったり、或るキャラクタに歪みが生じてしまったりするため、使用者が手にする印字結果物は、印字品質の低いものとなってしまっていた。
【0004】
この点、手動式印字装置の移動操作中に生じる手ぶれ等に伴う印字品質の低下を解決する為になされた発明として、特許文献1に記載された手動式印字装置に係る発明が知られている。
この特許文献1に記載された手動式印字装置は、装置本体内部に自由回転可能なボールと、Xエンコーダと、Yエンコーダを備えている。即ち、特許文献1に係る手動式印字装置では、XエンコーダとYエンコーダによって、当該ボールの回転に基づく上記所定の直進移動方向に相当するX軸方向の移動量と、前記X軸方向に直交するY軸方向への移動量を検出することで、所定の直線方向を基準とした手動式印字装置自体の移動方向のずれの発生を検出している。そして、特許文献1に係る手動式印字装置では、所定の直線移動方向に対するずれ(即ち、Y軸方向の移動量)が生じた場合には、ずれが生じた時点で印字を停止するように構成されている。更に、印字停止後、手動式印字装置を所定の直線移動方向上に戻した場合には、当該印字データに基づく印字を再開するように構成されている。
【特許文献1】特開平9−95014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る手動式印字装置では、Y軸方向への移動量が検出され、所定の直線移動方向から多少のずれが生じた時点で印字を停止してしまうため、使用者は、所望の印字が途中で中断された中途半端な印字結果を得ることになってしまう。
この点、特許文献1に係る手動式印字装置においては、印字停止後、所定の直線移動方向上に戻した場合には、当該印字データに基づく印字を再開するように構成されている。しかしながら、当該機能を利用するためには、使用者は、手動式印字装置本体を所定の直線移動方向上に手動で戻さなければならない。
手動式印字装置を手動で所定の直線移動方向上に正確に戻すことは困難であるので、当該機能に基づいて、印字を再開した場合には、印字中断前の印字結果と、印字再開後の印字結果に微妙なずれが生じることになる。つまり、上記特許文献1に係る手動式印字装置では、当該機能によって、中断後に印字を再開することによって、印字データ全体を印字することができるが、この時得られる印字結果は、中断前後でずれが生じていることが多く、使用者が所望する印字結果を得ることは困難であるという問題点があった。
【0006】
本発明は、前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、使用者が所定の直線移動方向に手動で移動操作することに基づいて、被記録媒体に印字を行う手動式印字装置に関し、手ぶれ等に起因して、所定の直線移動方向に対するずれが生じた場合であっても、より所望の態様に近しい印字結果を印字可能な手動式印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために成された請求項1に係る手動式印字装置は、装置本体を所定の直線移動方向に手動で移動させることにより、印字データを被記録媒体に印字する印字手段を備える手動式印字装置において、前記移動方向の左右となる位置に回転可能に配設された第1車輪及び第2車輪と、前記第1車輪の回転量に基づいて、装置本体の一面側の移動量を検出する第1移動量検出手段と、前記第2車輪の回転量に基づいて、装置本体の他面側の移動量を検出する第2移動量検出手段と、前記第1移動量検出手段及び第2移動量検出手段の検出結果に基づいて、装置本体の移動方向と、所定の直線移動方向とのズレ量を検出するズレ量検出手段と、前記ズレ量検出手段により検出されたズレ量に基づいて、前記印字手段により印字される印字データを補正して印字を実行する印字制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
又、請求項2に係る手動式印字装置は、請求項1に記載の手動式印字装置において、前記ズレ量検出手段は、前記第1移動量検出手段により検出された移動量と、第2移動量検出手段により検出された移動量との間に差がある場合に、装置本体が前記直線移動方向に対して曲がって移動することで生じる曲がりズレ量を検出することを特徴とする。
【0009】
そして、請求項3に係る手動式印字装置は、請求項1又は2に記載の手動式印字装置において、前記ズレ量検出手段は、前記第1移動量検出手段により検出された移動量と第2移動量検出手段により検出された移動量との間の差が検出された後、装置本体が直進した場合、装置本体が前記直線移動方向に対して斜行することで生じる斜行ズレ量を検出することを特徴とする。
【0010】
又、請求項4に係る手動式印字装置は、請求項1乃至3の何れかに記載の手動式印字装置において、前記ズレ量検出手段で検出されたズレ量が、印字手段で印字される印字データの1ドットよりも大きくなった場合に、当該印字データを前記直線移動方向側に1ドット移動させる補正が可能か否かを判断する補正許可手段を備え、前記印字制御手段は、前記補正許可手段により当該補正が許可された場合に、当該印字データを前記直線移動方向側に1ドット移動させる補正を行うことを特徴とする。
【0011】
そして、請求項5に係る手動式印字装置は、請求項4に記載の手動式印字装置において、前記印刷制御手段は、前記補正許可手段により当該補正が許可されなかった場合に、当該印字データに係る印字を中断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
即ち、請求項1に係る手動式印字装置によれば、装置本体を所定の直線移動方向に手動で移動させることにより、印字データを所望の態様で被記録媒体に印字することができる。又、請求項1に係る手動式印字装置には、第1車輪及び第2車輪が当該手動式印字装置の移動方向に対して左右となる位置に夫々回転可能に配設されているので、当該手動式印字装置を、より容易に直線移動方向に沿って移動させることができる。
そして、装置本体の移動方向が手ぶれ等に起因して、所定の直線移動方向からずれた場合には、第1移動量検出手段と第2移動量検出手段による検出結果に基づき、ズレ量検出手段によって、装置本体の移動方向と、所定の直線移動方向との間のズレ量を検出することができる。
更に、請求項1に係る手動式印字装置では、印字制御手段によって、印字データに対して、ズレ量検出手段により検出されたズレ量に基づく補正が行われ、補正された印字データに基づく印字が行われる。
これにより、当該手動式印字装置によれば、装置本体の移動方向に、所定の直線移動方向に対するズレが生じた場合であっても、ズレ量に応じた補正がなされた印字が行われるので、使用者が所望する態様の印字結果を提供することができる。又、所定の直線移動方向からずれた状態で印字を行った場合でも、所望の態様で印字が行われるので、印字ミスに基づく再度の印字等の煩雑な操作を行う必要もなくなる。
【0013】
そして、請求項2に係る手動式印字装置によれば、第1移動量検出手段により検出された移動量と、第2移動量検出手段により検出された移動量との間に差がある場合に、装置本体が前記直線移動方向に対して曲がって移動することで生じる曲がりズレ量を検出する。
ここで、手動式印字装置の移動方向と所定の直線移動方向との間に、ズレが生じる場合には、常に、装置本体の移動中に、装置本体の移動方向が直線移動方向に対して曲がる点が存在する。
つまり、請求項2に係る手動式印字装置では、装置本体の移動方向が曲線を描く際に生じる曲がりズレ量を検出し、この曲がりズレ量に基づいて、適確に印字データを補正して印字を実行する。この結果、曲がりズレ量に応じて補正がなされた印字データに基づいて印字が行われるので、装置本体の移動に曲がりが生じた場合であっても、再度の操作を行うことなく、使用者が所望する態様で印字を行うことができる。
【0014】
又、請求項3に係る手動式印字装置によれば、前記第1移動量検出手段により検出された移動量と第2移動量検出手段により検出された移動量との間の差が検出された後、装置本体が直進した場合、装置本体が前記直線移動方向に対して斜行することで生じる斜行ズレ量を検出することができる。
ここで、第1移動量検出手段により検出された移動量と第2移動量検出手段との間に差が生じた場合には、装置本体が曲がって移動していることになる。そして、一度曲がりが生じると、その後まっすぐ移動したとしても所定の直線移動方向に対して斜行することになり、所定の直線移動方向と、装置本体の移動方向との間には、斜行ズレが発生することになる。
つまり、請求項3に係る手動式印字装置では、装置本体の移動方向が曲線を描いた後、直進した場合に生じる斜行ズレ量を検出し、この斜行ズレ量に基づいて、適確に印字データを補正して印字を実行する。この結果、請求項3に係る手動式印字装置によれば、斜行ズレ量に応じた補正が行われた印字データに基づく印字が行われるので、装置本体が所定の直線移動方向に対して斜行した場合であっても、再度の操作を行うことなく、使用者が所望する態様で印字を行うことができる。
【0015】
そして、請求項4に係る手動式印字装置によれば、補正許可手段によって、前記ズレ量検出手段で検出されたズレ量が印字手段で印字される印字データの1ドットよりも大きくなった場合に、当該印字データを前記直線移動方向側に1ドット移動させる補正が可能か否かを判断し、そして、前記補正許可手段により当該補正が許可された場合に、当該印字データを前記直線移動方向側に1ドット移動させる補正を行う。
即ち、請求項4に係る手動式印字装置では、印字データの最小単位である1ドット単位でズレ量に対する補正が行われ、補正後の印字データに基づく印字が実行される。これにより、印字データに対して、より適確な補正を行うことができ、もって、使用者が所望する態様で印字を行うことができる。
【0016】
又、請求項5に係る手動式印字装置によれば、前記補正許可手段により当該補正が許可されなかった場合に、印刷制御手段によって、当該印字データに係る印字を中断する。即ち、請求項5に係る手動式印字装置では、1ドット単位での補正を行うことができない場合、つまり、1ドット単位での補正を行うと、使用者が所望する態様と異なる印字結果となってしまう場合には、当該印字データに係る印字を中断する。
これにより、補正を行うことができないほど、所定の直線移動方向に対するズレ量が大きくなった場合、当該印字データに係る印字を中断するので、使用者が所望する態様と大きく異なる印字を行うことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る手動式印字装置を、手動式プリンタ1に具体化した実施形態に基づいて、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、手動式プリンタ1の外観図である。
【0018】
本実施形態に係る手動式プリンタ1は、使用者が手動式プリンタ1を把持し、被記録媒体である用紙50(図2参照)上を移動させることより、用紙50上に印字データに基づく印字を行うプリンタである。
図1に示すように、手動式プリンタ1のプリンタ本体2は、円筒形状に形成されており、使用者が手動式プリンタ1を把持しやすいように構成されている。又、このプリンタ本体2には、スイッチ部5が形成されている。スイッチ部5は、手動式プリンタ1に対する電源のオン・オフや、印字モードの選択等を行うための操作手段である。
【0019】
そして、手動式プリンタ1の上端には、インターフェイス部3が配設されている。インターフェイス部3は、外部装置(図示せず)から送信された印字データを受信する為の赤外通信用インターフェイスである。尚、本実施形態においては、インターフェイス部3を赤外通信用インターフェイスとしたが、USB端子等でインターフェイス部3を構成することも可能である。
【0020】
一方、手動式プリンタ1の下端側には、略直方体状の印字側端部7が形成されている。この印字側端部7には、手動式プリンタ1による印字が実行される印字移動方向に対して左右にあたる側面に、夫々、同径の第1車輪10A、第2車輪10Bが回転可能に配設されている。そして、第1車輪10Aの回転軸は、第2車輪10Bの回転軸に対向する位置に配設されている。
そして、図1に示すように、プリンタ本体2内部には、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bが配設されている。この第1エンコーダ30Aは、後述するように、第1車輪10Aの回転量を検出する検出手段である。同様に、第2エンコーダ30Bは、第2車輪10Bの回転量を検出する検出手段である。第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bの構成については、後に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
従って、本実施形態に係る手動式プリンタ1では、プリンタ本体2を把持し、用紙50の印字面に第1車輪10A、第2車輪10Bを接触回転させつつ、直線状の印字移動方向に移動させることにより、後述する印字ヘッド20による印字が行われる。
【0022】
次に、手動式プリンタ1の内部構成について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図2は、手動式プリンタ1の内部構成を示す側面断面図である。
プリンタ本体2内部の上端側には、インターフェイス部3が配設されている。そして、このインターフェイス部3の下方には、コントロールユニット40と、電源15が配設されている。コントロールユニット40は、手動式プリンタ1の印字制御等の各種制御を行う制御ユニットである。一方、電源15は、乾電池等の小型の電力供給部とこれらの電力を安定化する装置等で構成されている。即ち、電源15は、手動式プリンタ1の駆動源であり、コントロールユニット40や後述する印字ヘッド20等に電力を供給する。
【0023】
そして、図2に示すように、プリンタ本体2内部のコントロールユニット40、電源15の下方には、インクタンク8及び印字ヘッド20が配設されている。
インクタンク8は、印字ヘッド20の上方に配設されており、印字ヘッド20に対して、適宜インクを供給する。
印字ヘッド20は、プリンタ本体2の水平断面略中央部に配設され、入力された印字データに基づいて、用紙50に印字を行う印字手段である。本実施形態においては、印字ヘッド20として、インクジェットヘッドが配設されている。このインクジェットヘッドには、複数のノズルが列設されており、各ノズルからインクが噴出されるように構成されている。そして、印字ヘッド20は、印字ヘッド20に形成されたノズル列が、第1車輪10Aの回転軸と第2車輪10Bの回転軸を結ぶ直線と平行となるように配設されている。
【0024】
又、プリンタ本体2の内部には、上述したように、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bが配設されている。第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bは、夫々、光学式ロータリーエンコーダである。即ち、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bは、夫々、円盤状のディスクと、フォトインタラプタで構成されている。
尚、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bの構成は同一の構成であるので、第1エンコーダ30Aの構成について、図2を参照しつつ詳細に説明する。
【0025】
図2に示すように、円盤状のディスクは、プリンタ本体2内部に回転自在に配設されている。そして、当該ディスクの円周近傍には、所定の間隔で複数のスリットが形成されている。又、ディスクには、第1車輪10Aの回転軸の回転力を伝達するベルトが取り付けられている。
従って、手動式プリンタ1の手動操作に伴い、第1車輪10Aが回転すると、第1車輪10Aの回転力がベルトを介して、第1エンコーダ30Aに伝達されるので、第1エンコーダ30Aのディスクは、第1車輪10Aの回転に連動して回転する。
【0026】
一方、フォトインタラプタは、ディスクの円周近傍に固設されており、ディスクに形成されたスリットの有無を検出する。つまり、第1車輪10Aの回転に伴い、第1エンコーダ30Aのディスクが回転すると、ディスクの円周近傍に形成されたスリットがフォトインタラプタの検出部を通過する。この結果、フォトインタラプタは、第1車輪10Aの回転速度に連動して、パルス信号を後述するコントロールユニット40に送信することができる。
【0027】
このように、本実施形態に係る手動式プリンタ1では、第1車輪10Aの回転速度を、第1エンコーダ30Aからのパルス信号に基づくスリットの検出回数に変換することができる。
又、上述したように、第2車輪10Bに対しては、前記第1エンコーダ30Aと同様の構成を備える第2エンコーダ30Bが配設されているので、第2車輪10Bの回転速度は、第2エンコーダ30Bによって、スリットの検出回数に変換される。
尚、第1エンコーダ30Aで検出されたスリットの検出回数および第2エンコーダ30Bで検出されたスリットの検出回数は、後述する印字処理プログラムで用いられる。この点については、後に詳細に説明する。
【0028】
次に、本実施形態に係る手動式プリンタ1の制御系について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図3は、手動式プリンタ1の制御系ブロック図である。
図3に示すように、手動式プリンタ1の制御系は、コントロールユニット40を中心に構成されている。このコントロールユニット40は、CPU41と、ROM42、RAM43によって構成されている。
CPU41は、ROM42に記憶されている各種制御プログラムに基づいて各種の演算を行うものであり、手動式プリンタ1に係る制御の中枢を担うものである。
ROM42は、インターフェイス部3による印字データの通信に関する通信制御プログラムや、後述する印字制御プログラム等の各種制御プログラムが記憶された記憶手段である。
又、ROM42には、多数の文字等のキャラクタの夫々について、各キャラクタの輪郭線を規定する輪郭線データ(アウトラインデータ)が書体(ゴシック系書体、明朝体系書体等)毎に分類されて記憶されている。そして、ROM42には、印字等の各種制御に必要な各種のデータ及びデータテーブルも記憶されている。
【0029】
RAM43は、CPU41により演算された各種の演算結果を一時的に記憶させておくための記億装置である。そして、RAM43には、後述する印字制御プログラムにより算出される「第1検出回数Na」、「第2検出回数Nb」、「斜行ズレ角度α」、「曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」、「累積総ズレ量Xn」等が記憶される記憶領域が形成されている。尚、「第1検出回数Na」、「第2検出回数Nb」、「斜行ズレ角度α」、「曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」、「累積総ズレ量Xn」については、後に詳細に説明する。
【0030】
そして、コントロールユニット40には、補正周期タイマ44と、ブザー46が接続されている。補正周期タイマ44は、後述する印字制御プログラムにおいて、所定の補正周期T(例えば、0.1秒)を計時する計時手段である。
又、ブザー46は、後述する印字制御プログラムにおいて、使用者にエラーを報知する際に鳴動する(S12)。これにより、使用者は、手動式プリンタ1での印字に「印字エラー」が発生したことを明確に把握することができる。
【0031】
又、コントロールユニット40には、第1車輪10Aの回転量をパルス信号として出力する第1エンコーダ30Aと、第2車輪10Bの回転量をパルス信号として出力する第2エンコーダ30Bが接続されている。これにより、コントロールユニット40は、前記補正周期Tにおける第1エンコーダ30Aの検出回数及び補正周期Tにおける第2エンコーダ30Bの検出回数を取得することができ、RAM43に格納することができる。
尚、本実施形態においては、補正周期Tにおける第1エンコーダ30Aの検出回数を「第1検出回数Na」といい、補正周期Tにおける第2エンコーダ30Bの検出回数を「第2検出回数Nb」という。
【0032】
そして、コントロールユニット40には、ヘッド駆動回路45を介して、印字ヘッド20が接続されている。ヘッド駆動回路45は、印字ヘッド20に形成されている複数のノズルにおけるインクの噴射態様をノズル単位で制御するものであり、後述する印字制御プログラムに基づいて、印字ヘッド20を制御する。
【0033】
次に、本実施形態に係る手動式プリンタ1の印字制御プログラムについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。図4は、印字制御プログラムのフローチャートである。
スイッチ部5の操作により、手動式プリンタ1に電源15から電力が供給された状態で、使用者が用紙50に第1車輪10A、第2車輪10Bを接触させつつ、手動式プリンタ1を移動させると、CPU41は、図4に示す印字制御プログラムを実行する。
【0034】
図4に示すように、印字制御プログラムの実行が開始されると、先ず、CPU41は、RAM43の各記憶領域の初期化等の初期化処理(S1)を実行する。具体的には、CPU41は、初期化処理(S1)において、RAM43に形成された「曲がりズレ量Xa」、「曲がりズレ角度θ」、「斜行ズレ量Xb」、「斜行ズレ角度α」、「第1検出回数Na」、「第2検出回数Nb」に係る記憶領域を初期化し、夫々の値を「0」に設定する。この初期化処理(S1)を実行した後、CPU41は、S2に処理を移行する。
尚、「曲がりズレ量Xa」、「曲がりズレ角度θ」、「斜行ズレ量Xb」、「斜行ズレ角度α」については、後に詳細に説明する。
【0035】
S2に移行すると、CPU41は、補正周期タイマ44に対し、計時開始信号を送信し、所定の補正周期T(例えば、0.1秒)の計時を開始する。そして、計時開始信号を補正周期タイマ44に送信し、補正周期Tの計時を開始した後、CPU41は、S3に処理を移行する。
【0036】
S3においては、CPU41は、RAM43に印字データが格納されているか否かについての判断を行う。インターフェイス部3を介して印字データを受信し、RAM43に印字データが格納されている場合、又は、印字実行中の印字データがRAM43に存在する場合には(S3:YES)、CPU41は、S4に処理を移行する。一方、RAM43に印字データが存在しない場合には(S3:NO)、CPU41は、印字すべき印字データが存在しないので、印字制御プログラムを終了する。
【0037】
S4において、CPU41は、手動式プリンタ1の移動量に相当する印字データに基づく印字処理を実行する。具体的には、CPU41は、先ず、RAM43から手動式プリンタ1の移動量に相当する印字データを読み出し、読み出した印字データを、印字ヘッド20に対応するヘッド出力データに変換する。
そして、CPU41は、ヘッド駆動回路45を介して、印字ヘッド20を制御し、当該ヘッド出力データに基づく態様で、印字ヘッド20の各ノズルから用紙50の印字面にインクを噴出する。これにより、用紙50の印字面には、手動式プリンタ1の移動量に相当する印字データに基づく印字が施される。
尚、この印字処理(S4)における手動式プリンタ1の移動量とは、印字制御処理開始時(S1)から印字処理(S4)に移行するまでの移動量、又は、直前の印字処理(S4)から今回の印字処理(S4)までの移動量である。
印字処理(S4)を終了した後、CPU41は、S5に処理を移行する。
【0038】
そして、S5に移行すると、CPU41は、補正周期タイマ44を参照し、補正周期Tを経過したか否かについての判断を行う。補正周期Tを経過している場合には(S4:YES)、CPU41は、S6に処理を移行する。一方、未だ補正周期Tを経過していない場合には(S4:NO)、CPU41は、S3に処理を戻す。
【0039】
S6に移行すると、CPU41は、「第1検出回数Na」、「第2検出回数Nb」、「直前の補正周期Tにおける斜行ズレ角度αn-1」に基づいて、「曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」、「曲がりズレ角度θ」、「斜行ズレ角度αn」を算出する。
【0040】
ここで、S6における「曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」、「曲がりズレ角度θ」、「斜行ズレ角度α」の算出処理について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0041】
本実施形態に係る手動式プリンタ1では、印字開始当初に決定される直線の印字移動方向に沿って手動式プリンタ1を移動させた場合には、使用者が所望する態様の印字結果が用紙50上に印字される。しかしながら、図5に示すように、使用者の移動操作ミスや手ぶれ等に起因して、手動式プリンタ1が、印字移動方向からズレが生じるように移動してしまうことがある。
本実施形態においては、「印字移動方向に対して曲線を描くように移動すること」を「曲がり移動」といい、「曲がり移動によって生じるずれ」を「曲がりズレ」という。そして、この「曲がりズレで生じた印字移動方向に対するズレ量」を「曲がりズレ量Xa」という。又、「曲がりズレが生じた結果、手動式プリンタ1が印字移動方向に対して回転した角度」を「曲がりズレ角度θ」という。
【0042】
そして、一度「曲がりズレ」が生じた場合、その後、手動式プリンタ1をまっすぐ移動させたとしても、手動式プリンタ1は、印字移動方向に対して斜行することになるため、印字移動方向に対するズレ量は大きくなる(図5参照)。
ここで、本実施形態においては、「一度、曲がりズレが生じた後、まっすぐ移動すること」を「斜行移動」といい、「斜行移動により生じるズレ」を「斜行ズレ」という。そして、「斜行ズレにより生じた印字移動方向に対するズレ量」を「斜行ズレ量Xb」という。又、「斜行ズレが生じている場合に、印字移動方向に対する手動式プリンタ1の角度」を「斜行ズレ角度α」という。
【0043】
尚、S6の算出処理で用いられる値「w」は、手動式プリンタ1の第1車輪10Aと第2車輪10Bの間の車輪間距離を示す値である。従って、この車輪間距離wは、手動式プリンタ1固有の値であるため、規定値となる。
又、S6の算出処理で用いられる値「L」は、第1エンコーダ30A又は第2エンコーダ30Bで一のスリットを検出した場合における第1車輪10A又は第2車輪10Bの移動距離を示す値である。上述したように、第1エンコーダ30Aと第2エンコーダ30Bは、同一の構成であり、第1車輪10A、第2車輪10Bも同一の構成である。更に、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bのディスクには、円周近傍に、所定の間隔で複数のスリットが形成されているので、当該「L」の値も規定値となる。
【0044】
先ず、「曲がりズレ」に起因して算出される「曲がりズレ量Xa」、「曲がりズレ角度θ」の算出について、図6を参照しつつ詳細に説明する。
ここで、図6(A)に示すように、使用者が手動式プリンタ1を移動させた結果、手ぶれ等に起因して、「曲がりズレ角度θ」となる曲がり移動が生じ、「曲がりズレ量Xa」が発生した場合を例として、具体的に説明する。
【0045】
所定の補正周期Tの間における一方の車輪の移動距離が他方の車輪の移動距離よりも大きい場合、手動式プリンタ1は、曲線を描くように移動することになるので、「曲がりズレ」が生じることになる。
例えば、図6(A)の場合、手動式プリンタ1は、第2車輪10B側に曲がって移動しているので、第1車輪10Aの移動距離は、第2車輪10Bの移動距離よりも大きくなる。
そして、「曲がり移動」が生じている場合、手動式プリンタ1は、一方の車輪の用紙50との接地点を軸に回転移動していることになる。即ち、図6(A)の場合、手動式プリンタ1は、第2車輪10Bの用紙50との接地点を軸に、回転移動をしていることになる。
【0046】
ここで、上述したように、手動式プリンタ1では、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bにより、補正周期Tにおける第1エンコーダ30Aによるスリットの検出回数である「第1検出回数Na」と、補正周期Tにおける第2エンコーダ30Bによるスリットの検出回数である「第2検出回数Nb」を検出することができる。そして、一のスリットを検出した場合における第1車輪10A又は第2車輪10Bの移動距離を示す値「L」は、規定値である。
従って、「補正周期Tにおけるスリットの検出回数」に対して、「一のスリットを検出した場合における車輪の移動距離」を乗じることで、補正周期Tにおける車輪の移動距離を算出することができる。即ち、補正周期Tにおける第1車輪10Aの移動距離は、「第1検出回数Na」×「L」、補正周期Tにおける第2車輪10Bの移動距離は、「第2検出回数Nb」×「L」により算出される。
【0047】
この場合、手動式プリンタ1は、補正周期Tにおいて、「第1車輪10Aの移動距離と、第2車輪10Bの移動距離の差Ld」に相当する距離の円弧を描くように、「曲がり移動」していることになる(図6(B)参照)。ここで、「Ld」は、第1車輪10Aの移動距離と、第2車輪10Bの移動距離の差であるので、(|第1検出回数Na−第2検出回数Nb|×L)により算出することができる。
そして、当該円弧は、車輪間距離wを半径とする円弧となるので、「曲がりズレ角度θ」は、「第1車輪10Aの移動距離と、第2車輪10Bの移動距離の差Ld」を「車輪間距離wを半径とする円の全円周」で除算することで算出できる。即ち、「曲がりズレ角度θ」は「(Ld)/(2π×車輪間距離w)」で算出することができる。
【0048】
ここで、手動式プリンタ1が印字移動方向に沿って移動した場合、用紙50には、車輪間距離wに相当する幅の印字が行われる。尚、この印字移動方向に沿って移動した場合の印字範囲を通常印字範囲という。
そして、手動式プリンタ1が曲がり移動すると、曲がりズレ量Xaに相当する部分が、通常印字範囲から外れる(図6(C)参照)。
上記具体例の場合、手動式プリンタ1は、第2車輪10Bの用紙50との接地点を軸に、「車輪間距離w」を半径として、「曲がりズレ角度θ」分回転移動しているので、曲がり移動後の印字範囲と、通常印字範囲が重複する部分は、「車輪間距離w」×「cosθ」で算出される。即ち、「曲がりズレ量Xa」は、通常印字範囲の幅である「車輪間距離w」と「曲がり移動後の印字範囲と、通常印字範囲とが重複している部分」の差を求めることで算出することができる。つまり、「曲がりズレ量Xa」は、「車輪間距離w×(1−cosθ)」により算出することができる。
【0049】
このように、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bにより、第1検出回数Na、第2検出回数Nbを検出することにより、「曲がりズレ角度θ」を算出することができ、当該「曲がりズレ角度θ」に基づいて、曲がり移動により生じる「曲がりズレ量Xa」を算出することができる。つまり、手動式プリンタ1によれば、第1車輪10Aの移動距離と、第2車輪10Bの移動距離に基づいて、「曲がりズレ角度θ」、「曲がりズレ量Xa」を算出することができる。
【0050】
次に、「斜行移動」時に発生する「斜行ズレ量Xb」、「斜行ズレ角度α」の算出について、図7を参照しつつ詳細に説明する。
ここで、図7(A)に示すように、手ぶれ等に起因して、「曲がりズレ角度θ」となる曲がり移動が生じ、「曲がりズレ量Xa」が発生した後に、補正周期Tの間、まっすぐに移動することで、「斜行ズレ」が発生した場合を例として、具体的に説明する。
【0051】
この場合、手動式プリンタ1は、「曲がり移動」に係る補正周期Tの後、まっすぐ移動することで、「斜行移動」している。即ち、「斜行移動」に係る補正周期Tでは、直進しているので、第1エンコーダ30Aから検出される「第1検出回数Na」と、第2エンコーダ30Bから検出される「第2検出回数Nb」の値は同値となる。
つまり、この「斜行移動」に係る補正周期期間内における移動距離は、第1車輪10A側、第2車輪10B側のいずれにおいても同一の値となり、「第1検出回数Na×L=第2検出回数Nb×L」で算出される(図7(A)参照)。
【0052】
そして、斜行ズレ角度αは、RAM43に格納されている直前の補正周期Tにおける斜行ズレ角度αに対して、「曲がり移動」で生じた「曲がりズレ角度θ」を加算することで算出される。即ち、「今回の斜行移動に係る斜行ズレ角度αn」=「前回までのの斜行ズレ角度αn-1」+「曲がりズレ角度θ」の式により算出される(図7(A)参照)。
これにより、手動式プリンタ1の移動に際し、「曲がり移動」の後、複数の補正周期Tにわたって、「斜行移動」が生じた場合であっても、「今回の斜行移動に係る斜行ズレ角度αn」を正確に算出することができる。
【0053】
そうすると、図7(B)に示すように、今回の斜行移動により生じた斜行ズレ量Xbは、「今回の斜行移動における第1車輪10A及び第2車輪10Bの移動距離」に対して、「今回の斜行移動に係る斜行ズレ角度αnの正弦」を乗じることで算出することができる。即ち、「斜行ズレ量Xb」=「第1検出回数Na×L」×「sinαn」=「第2検出回数Nb×L」×「sinαn」の式により、「今回の斜行移動に係る斜行ズレ量Xb」を算出することができる。
【0054】
こうして、S6により算出された「曲がりズレ量Xa」、「曲がりズレ角度θ」、「斜行ズレ量Xb」、「斜行ズレ角度αn」をRAM43に格納した後、CPU41は、S7に処理を移行する(図4参照)。
【0055】
図5〜図7を参照しつつ説明したように、S6において、「曲がりズレ量Xa」、「曲がりズレ角度θ」、「斜行ズレ量Xb」、「斜行ズレ角度αn」を算出した後、CPU41は、今回の補正周期Tまでの移動で生じた「印字移動方向からの累積総ズレ量Xn」を算出する(S7)。
即ち、S7では、CPU41は、「直前の補正周期Tまでの移動で生じた累積総ズレ量Xn-1」に、「今回の補正周期Tに係る移動で生じた曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」を加算し、「今回の補正周期Tまでの移動で生じた累積総ズレ量Xn」を算出する。算出した累積総ズレ量XnをRAM43に格納した後、CPU41は、S8に処理を移行する。
【0056】
続くS8において、CPU41は、S7で算出された「今回の補正周期Tまでの累積総ズレ量Xn」が、印字データ1dot分の大きさR(例えば、0.1mm)よりも大きいか否かについての判断を行う。累積総ズレ量Xnが印字データ1dot分の大きさRよりも大きい場合には(S8:YES)、CPU41は、S9に処理を移行する。一方、累積総ズレ量Xnが印字データ1dot分の大きさRよりも小さい場合(S8:NO)は、CPU41は、S4に処理を戻す。
【0057】
そして、S9に移行すると、印字データを印字移動方向に向かって、印字データ1dot分シフト移動させるシフト処理が可能であるか否かについての判断を行う。印字データのシフト処理が可能である場合(S9:YES)、CPU41は、S10に処理を移行し、当該印字データを印字移動方向に向かって、1dot分移動させるシフト処理を行う。一方、印字データのシフト処理が不能である場合(S9:NO)、CPU41は、エラー処理(S12)に処理を移行する。
尚、S9の判断処理及びシフト処理(S10)については、後に詳細に説明する。
【0058】
S10により、印字データのシフト処理を行った後、CPU41は、RAM43から、今回の補正周期Tに係る移動後の累積総ズレ量Xnから、シフト処理(S10)により解消された1dot分の大きさR(例えば、0.1mm)を減算する(S11)。累積総ズレ量Xnから1dot分の大きさRを減算した値を、再度「累積総ズレ量Xn」としてRAM43に格納した後、CPU41は、S8に処理を戻す。
【0059】
シフト処理の実行が不能な場合(S9:NO)に移行するエラー処理(S12)では、CPU41は、ブザー46に鳴動信号を送信すると共に、当該印字データに基づく印字を中断する。
ここで、シフト処理の実行が不能な場合とは、後述するように、シフト処理を行うと、使用者が所望する印字態様とは大きく異なる印字結果で印字を行ってしまう状態である。従って、エラー処理(S12)において、ブザー46を鳴動させ、当該印字データに基づく印字を中断することにより、使用者に「印字エラー」を報知することができ、所望の態様と大きく異なる印字を防止できる。当該エラー処理(S12)を実行した後、CPU41は、印字制御プログラムの実行を終了する。
【0060】
次に、上述したS9、S10の処理について、図面を参照しつつ具体的に説明する。図8は、印字データのシフト処理に関する説明図である。
ここで、印字データは、通常、1dot単位のドットデータの集合で構成されている。即ち、印字データは、1dot分の印字が実行される印字予定ドットデータと、当該1dot分の印字を実行しない非印字ドットデータを、使用者が所望する印字態様に基づく配置で集合させることにより構成されている(図8参照)。
尚、図8においては、印字予定ドットデータを黒色で示し、非印字ドットデータを白色で示している。
【0061】
図8に示すように、13個のドットデータが、印字ヘッド20の幅方向に並んで配置された印字データが、S9の処理対象となっている場合を例として、上記S9、S10に係る処理について説明する。
この場合における印字データは、印字移動方向(図8中、右方向)に対して左端側に、2つの非印字ドットデータが配置され、それに並んで11個の印字予定ドットデータが配置されている。
【0062】
この場合において、手動式プリンタ1が印字移動方向に対して右方向に移動することで、1ドット分の大きさ(例えば、0.1mm)以上の累積総ズレ量Xnが生じると(S8:YES)、CPU41は、S9の判断処理を行う。
この時、手動式プリンタ1が印字移動方向に対して右方向に移動しているので、印字開始当初の印字移動方向に沿って印字データを印字する為には、当該印字データ中の印字予定ドットデータを、配置を維持した状態で、累積総ズレ量Xnに基づいて左側方向に移動させて印字する必要がある。従って、この場合のS9においては、CPU41は、先ず、当該印字データの左端に非印字ドットデータが存在するか否か、換言すれば、当該印字データの左端に印字予定ドットデータが存在するか否かについての判断を行う。
【0063】
ここで、図8に示す印字データの場合、当該印字データの左端に非印字ドットデータが存在し、印字予定ドットデータが存在しないので、当該印字データに含まれる印字予定ドットデータを、その配置を維持した状態で、印字移動方向に対して右方向に1dot分移動させる処理を行うことができる(S9:YES、S10)。
S10の処理を行うことで、当該印字データにおける印字予定ドットデータは、1dot分右方向に移動する。即ち、CPU41は、当該印字データの左端、右端に夫々1ドット分の非印字ドットデータが位置するように、印字データの補正を行う。(図8参照)。
【0064】
この処理を行うことにより、手動式プリンタ1の曲がり移動、斜行移動により生じた累積総ズレ量Xnはドットデータ単位(即ち、1dot単位)で補正され、当該印字データにおける印字予定ドットデータの配置が維持されているので、使用者は、手動式プリンタ1が曲がり移動、斜行移動してしまったにも関わらず、当初の印字移動方向に沿って移動させた場合と同様の印字結果を得ることができる。
この点、当初の印字移動方向は使用者が任意に定めたものであるから、手動式プリンタ1によれば、手ぶれ等に起因してズレが生じた場合であっても、使用者が所望する印字結果と同様の印字結果を提供することができる。
【0065】
次に、上記S9、S12の処理について、図8に示す印字データを例として具体的に説明する。
前述の場合とは逆に、手動式プリンタ1が印字移動方向に対して左方向に移動することで、1ドット分の大きさ(例えば、0.1mm)以上の累積総ズレ量Xnが生じた場合、(S8:YES)、印字開始当初の印字移動方向に沿って印字データを印字する為には、当該印字データ中の印字予定ドットデータを、配置を維持した状態で、累積総ズレ量Xnに基づいて右側方向に移動させて印字する必要がある。
従って、この場合のS9においては、CPU41は、先ず、当該印字データの右端に非印字ドットデータが存在するか否か、換言すれば、当該印字データの右端に印字予定ドットデータが存在するか否かについての判断を行う。
【0066】
ここで、図8に示す印字データの場合、当該印字データの右端に印字予定ドットデータが存在し、非印字ドットデータが存在していない。この場合に、当該印字データに含まれる印字予定ドットデータを印字移動方向に対して右方向に1dot分移動させると、当該印字データで印字されるべき印字予定ドットデータが1dot分欠落することになる。即ち、当該印字データに含まれる印字予定ドットデータを印字移動方向に対して右方向に1dot分移動させると、印字データに表された使用者が所望する印字態様と大きく異なる印字結果となってしまう。
従って、この場合には、CPU41は、印字データのシフト処理が不能であると判断し(S9:NO)、S12に処理を移行し、ブザー46の鳴動によって使用者に「印字エラー」を報知すると共に、当該印字データに基づく印字を中止する(S12)。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る手動式プリンタ1によれば、第1エンコーダ30A、第2エンコーダ30Bにより検出される「第1検出回数Na」、「第2検出回数Nb」に基づいて、手動式プリンタ1を印字移動方向に移動させる際の手ぶれ等に起因する「曲がり移動」、「斜行移動」に係る「曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」を算出することができる。
そして、手動式プリンタ1では、算出された「曲がりズレ量Xa」「斜行ズレ量Xb」に基づいて、累積的に「累積総ズレ量Xn」が算出され、当該「累積総ズレ量Xn」に基づいて、印字データに対するシフト処理が行われる。
これにより、手ぶれ等に起因して、手動式プリンタ1が印字移動方向からずれて移動する「曲がり移動」、「斜行移動」が生じた場合であっても、当初の印字移動方向に沿った印字態様で、当該印字データを用紙50に印字することができる(図9参照)。
【0068】
又、図4に示すように、シフト処理が可能である限り、S8〜S11の処理が繰り返され、印字データを構成する最小単位である1ドット単位でシフト処理が行われるので、手ぶれ等に起因して生じた「累積総ズレ量Xn」を1ドット以下に抑えることができる。即ち、手ぶれ等が生じた場合であっても、使用者が所望する態様に沿った印字結果を提供することができる。
例えば、図9に示すように、使用者が当初の印字予定範囲(図9中、一点鎖線で示す通常印字範囲)の幅方向中央に直線を印字しようとしているものとする。この時、図9中に破線で示すように、使用者の手ぶれ等に起因して「曲がり移動」、「斜行移動」が生じてしまったとしても、S8〜S11が繰り返されることにより、「累積総ズレ量Xn」が1ドット分の大きさR以下に補正される。
即ち、手ぶれ等により「曲がり移動」、「斜行移動」の影響を最小限にとどめることができ、使用者が所望する「通常印字範囲の幅方向中央部に直線を印字する」態様と略同様の態様で用紙50に印字を行うことができる。これにより、手動式プリンタ1の利便性を大きく高めることができる。
【0069】
更に、手動式プリンタ1においては、S8〜S11の処理が補正周期T単位で行われるので、手動式プリンタ1の移動と共に、随時、印字移動方向に沿うように印字データの補正が行われることになる。これにより、手ぶれ等に起因するズレが生じた状態での印字を防止することができ、もって、より自然な態様でズレを補正した印字データに基づく印字を行うことができる。
【0070】
そして、本実施形態に係る手動式プリンタ1では、直方体状に形成された印字側端部7の左側面及び右側面に第1車輪10A、第2車輪10Bが回転自在に配設されているので、手動式プリンタ1を移動させる際の直進性を担保することができる。これにより、手動式プリンタ1における印字を実行する際に、「曲がり移動」が生じる危険性を低減することができ、もって、「曲がりズレ量Xa」、「斜行ズレ量Xb」を小さく抑制することができる。
【0071】
又、本実施形態に係る手動式プリンタ1によれば、シフト処理の実行が不能な場合(S8:NO)、ブザー46を鳴動させることで、使用者に「印字エラー」を報知することができる(S12)。これにより、使用者は、当該印字データの再印字等の適切な措置を採ることができる。又、この時、当該印字データに基づく印字が中止されるので、必要以上に用紙50等の被記録媒体を消費することを防止することができる。
【0072】
尚、本発明は前記実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、本実施形態においては、印字ヘッド20として「インクジェットヘッド」を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、印字ヘッド20として「サーマルヘッド」を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本実施形態に係る手動式プリンタの外観図である。
【図2】本実施形態に係る手動式プリンタの内部構成を示す側面断面図である。
【図3】本実施形態に係る手動式プリンタの制御系を示すブロック図である。
【図4】本実施形態に係る印字制御プログラムのフローチャートである。
【図5】印字実行時における曲がり移動、斜行移動に関する説明図である。
【図6】曲がり移動時に生じる曲がりズレ量Xaの算出に関する説明図である。
【図7】斜行移動時に生じる斜行ズレ量Xbの算出に関する説明図である。
【図8】印字データのシフト処理に関する説明図である。
【図9】本実施形態に係る手動プリンタによる一印字態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1 手動式プリンタ
2 プリンタ本体
10A 第1車輪
10B 第2車輪
20 印字ヘッド
30A 第1エンコーダ
30B 第2エンコーダ
40 コントロールユニット
41 CPU
42 ROM
43 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体を所定の直線移動方向に手動で移動させることにより、印字データを被記録媒体に印字する印字手段を備える手動式印字装置において、
前記移動方向の左右となる位置に回転可能に配設された第1車輪及び第2車輪と、
前記第1車輪の回転量に基づいて、装置本体の一面側の移動量を検出する第1移動量検出手段と、
前記第2車輪の回転量に基づいて、装置本体の他面側の移動量を検出する第2移動量検出手段と、
前記第1移動量検出手段及び第2移動量検出手段の検出結果に基づいて、装置本体の移動方向と、所定の直線移動方向とのズレ量を検出するズレ量検出手段と、
前記ズレ量検出手段により検出されたズレ量に基づいて、前記印字手段により印字される印字データを補正して印字を実行する印字制御手段と、を備えることを特徴とする手動式印字装置。
【請求項2】
請求項1に記載の手動式印字装置において、
前記ズレ量検出手段は、
前記第1移動量検出手段により検出された移動量と、第2移動量検出手段により検出された移動量との間に差がある場合に、
装置本体が前記直線移動方向に対して曲がって移動することで生じる曲がりズレ量を検出することを特徴とする手動式印字装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の手動式印字装置において、
前記ズレ量検出手段は、
前記第1移動量検出手段により検出された移動量と第2移動量検出手段により検出された移動量との間の差が検出された後、装置本体が直進した場合、
装置本体が前記直線移動方向に対して斜行することで生じる斜行ズレ量を検出することを特徴とする手動式印字装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の手動式印字装置において、
前記ズレ量検出手段で検出されたズレ量が、印字手段で印字される印字データの1ドットよりも大きくなった場合に、当該印字データを前記直線移動方向側に1ドット移動させる補正が可能か否かを判断する補正許可手段を備え、
前記印字制御手段は、
前記補正許可手段により当該補正が許可された場合に、当該印字データを前記直線移動方向側に1ドット移動させる補正を行うことを特徴とする手動式印字装置。
【請求項5】
請求項4に記載の手動式印字装置において、
前記印刷制御手段は、
前記補正許可手段により当該補正が許可されなかった場合に、当該印字データに係る印字を中断することを特徴とする手動式印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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