説明

打設コンクリートの養生装置及び養生方法

【課題】養生マットを敷設せずとも高湿度を持続でき、さらにより効率的な湿度管理の実施が可能な、打設コンクリートの養生装置及び養生方法を提供すること。
【解決手段】打設したコンクリートを養生するための養生装置であって、コンクリートの打設区間を自動的に往復走行可能な自走体と、前記自走体に搭載し、自動的な旋回運動により前記打設コンクリートに噴霧可能な噴霧装置と、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設したコンクリート表面を養生するための養生装置及び養生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート整形施工後の表面クラックを防止する一般的な方法としては、コンクリート打設面の周辺に散水を行って周囲の湿度を90%程度に保つことで熱源を吸収し、コンクリートの打設後に化学反応によって生じる発熱の内外温度差を低くしながら養生を行う方法がある。
【0003】
コンクリート打設面への散水態様には種々の方法が考案されている。
例えば、特許文献1に記載された散水車は、複数の散水孔を有し、車輌本体の側面に基端部を回動可能に支承して他端を支持部材によって水平状態を保持するように張架するよう構成することで、養生中のコンクリート上に車輌を乗り入れることなく散水することを可能とした発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−116673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の養生方法では、以下の様な問題のうち、少なくとも一つの問題を有する。
(1)散水前にコンクリート打設面に対して養生材の散布、養生マットの敷設を行う必要があり、さらに養生完了後にも、養生マットの撤去や廃棄処分を行う必要がある。
(2)コンクリート打設面周辺に対する湿度管理は、少なくとも打設後72時間程度維持させることが求められるため、定期的に人力による散水作業を行う必要がある。
(3)養生マットの敷設作業や散水作業は、打設したコンクリートがある程度固まってから行う必要があるため、その待機時間分、作業が滞る場合がある。
(4)上記(1)による養生剤、養生マットの材料費、(1)及び(2)による人員の確保、或いは(3)による施工工期の延長、等の各種要因に相当する施工費用の負担が避けられない。
【0006】
すなわち、本願発明は、養生マットを敷設せずとも高湿度を持続でき、さらにより効率的な湿度管理の実施が可能な、打設コンクリートの養生装置及び養生方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、打設したコンクリートを養生するための養生装置であって、コンクリートの打設区間を自動的に往復走行可能な、自走体と、前記自走体に搭載し、自動的な旋回運動により前記打設コンクリートに噴霧可能な、噴霧装置と、からなることを特徴とする、打設コンクリートの養生装置を提供するものである。
【0008】
また、本願の第2発明は、前記自走体が、前記コンクリート表面から上方に間隔を設けた位置から前記打設区間の幅方向に跨って延伸した載置台と、前記載置台の両側に設け、前記打設区間の外縁部を走行する走行手段と、からなる、前記第1発明に記載の打設コンクリートの養生装置を提供するものである。
【0009】
また、本願の第3発明は、前記噴霧装置の風量及び水量を自動制御自在に構成してある、前記第1又は第2発明に記載の打設コンクリートの養生装置を提供するものである。
【0010】
また、本願の第4発明は、前記自走体の走行区間及び走行速度を自動制御自在に構成してある、前記第1乃至第3発明の何れかに記載の打設コンクリートの養生装置を提供するものである。
【0011】
また、本願の第5発明は、前記走行手段が、先行するコンクリートフィニッシャの走行機構を兼用して走行するよう構成してある、前記第2発明乃至第4発明の何れかに記載の打設コンクリートの養生装置を提供するものである。
【0012】
また、本願の第6発明は、前記第1乃至5発明の何れかに記載の養生装置を用いたコンクリート表面の養生方法であって、前記養生装置を前記コンクリート打設区間内で往復移動させながら、自動的な旋回運動により前記打設コンクリートに噴霧することを特徴とする、打設コンクリートの養生方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、下記に示す効果のうち、少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)コンクリートの打設区間内で自動的に噴霧作業を行うため、安定した湿度管理を実現でき、保水性を確保すべく別途養生マットを敷設する必要が無くなる。
(2)養生マットは、前記(1)に記載した保水性の確保に加えて、従来の散水の水圧によって生じる打設コンクリートの表面の荒れを防ぐ観点からもその敷設が要求されているところ、本願発明で用いる養生用の霧は、従来の散水と比較して打設コンクリート表面に強い水圧を与えることが無い為、養生マットを敷設せずとも打設コンクリート表面を荒らすことが無い。
(3)養生マットの敷設作業にあたって、打設コンクリートがある程度固まるのを待つ必要があるところ、本願発明では、コンクリートの打設作業とほぼ同じタイミングで湿度管理が開始できる。
(4)養生マットの敷設・撤去作業、散水作業に対する人員確保、養生剤や養生マットの購入費用、養生マットの産廃処分費用が不要となる。
(5)噴霧作業を機械制御することにより、人力よりも均一な散水、並びに安定した湿度管理が可能となる。
(6)先行するコンクリートフィニッシャの走行機構を兼用した場合、噴霧装置の為に別途走行機構を設ける必要が無く、より経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明に係る養生装置の基本モデルを示す概略図。
【図2】本願発明に係る養生装置の構成を示す側面概略図。
【図3】本願発明に係る養生方法の実施例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各図面を参照しながら、本願発明に係る養生装置及び養生方法の実施例について説明する。
なお、本願発明に係る養生装置は、屋内、屋外を問わず実施することが可能であるが、より好ましくは、外気に影響を受けにくい条件(屋内などの閉塞空間や、風の少ない屋外)において使用する場合、後述する噴霧装置による霧が打設コンクリートの表面付近で滞留しやすいため、湿度管理が容易である点において好適である。
【実施例1】
【0016】
<1>前提
図1は、本願発明に係る養生装置の基本モデルを示す概略図である。
本実施例に係る養生装置Aは、トンネル内部において路面を構築する為にコンクリートを打設した区間(コンクリート打設区間C)を養生するために用いるものである。
【0017】
[コンクリートの打設・整形・仕上げ]
本実施例では、養生装置Aにおける噴霧・養生作業にやや先行する形で、コンクリートの打設作業、若しくはコンクリートの打設作業に加えてコンクリート打設区間の整形作業を適宜行っても良い。
コンクリートの打設作業は、周知の手段を用いればよく、特段限定するものではない。
コンクリート打設区間Cの整形作業は、機械又は人力等、周知の手段を用いればよく特段限定するものではないが、本実施例では、コンクリートフィニッシャBを用いるものとする。
コンクリートフィニッシャBは、コンクリート打設区間Cのうち、コンクリートが打設されたままの区間(未整形区間C1)を走行して、路面を整形した区間(整形区間C2)へと遷移させる形式が一般的であり、周知の装置を用いることができる。
その他、コンクリートフィニッシャBの走行機構は、レール式、キャタピラ式、タイヤ式など周知の機構を採用することができるが、本願発明では何れかの機構について特段限定するものではない。
【0018】
なお、コンクリートフィニッシャBによる整形作業後、さらに人力等によって仕上げ加工などを施す場合もあるが、本実施例では説明を省略する。
【0019】
<2>養生装置
養生装置Aは、コンクリート打設区間周辺の湿度管理を行うための装置である。
本実施例に係る養生装置Aは、コンクリート打設区間Cを自動的に往復走行可能な、自走体1と、前記自走体1に搭載し、少なくとも略鉛直方向を軸心として、自動的に旋回(首振り)運動しながらコンクリート打設区間Cのコンクリート表面に噴霧可能な、噴霧装置2と、を少なくとも含んで構成するものである。
【0020】
<3>自走体
図2は、養生装置の構成を示す側面概略図である。
自走体1は、該自走体1に搭載した噴霧装置2を、コンクリート打設区間上で移動させるための装置である。
自走体1は、コンクリート表面から上方に間隔を設けた位置から前記コンクリート打設区間の幅方向に跨って延伸した載置台11と、前記載置台11の両側に設け、コンクリート打設区間Cの両外側にある外縁部Dを走行する走行手段12と、でもって構成することができる。
【0021】
[載置台]
載置台11は、噴霧装置2や、給水タンク3、発電機4、受け皿5などのその他の搭載装置を載置するための装置である。
載置台11は、鋼板や、鋼材を複数配置して一体化した平板状の部材等、周知の構造態様を採用することができる。
なお、本実施例では、幅方向に分割した分割体111、112をそれぞれ連結することにより載置台11を構成している。この場合、各分割体の長さを交換することで、コンクリートの打設幅の伸縮に柔軟に対応することができる。
また、給水タンク3と発電機4は各側端部近傍に設置して、適当な重量バランスとなるように設計している。
受け皿5は、前記した噴霧装置2や、給水タンク3を載せる皿状の部材であり、噴霧装置2や、給水タンク3からこぼれた水が打設したコンクリートの表面に落下することを防止する。
また、載置台11には、適宜リブなどを設けて補強(図示せず)するなどして、噴霧装置2やその他の搭載装置の重量に耐えうるだけの剛性を備えるよう設計する。
【0022】
[走行手段]
走行手段12は、前記載置台11の両端の下方若しくは側方等に設けるものであって、前記外縁部Dを走行するための装置である。
本実施例では、コンクリートフィニッシャB用の走行機構(レール式)を兼用する態様としてあるため、自走手段11はコンクリート打設面の両外側に位置した外縁部Dに予め設置してある、コンクリートフィニッシャ用の軌道レールを走行する機構としている。
なお、本願発明は走行手段12の走行機構をコンクリートフィニッシャBの走行機構に兼用させる点を必須の要件とするものではなく、タイヤ式、キャタピラ式など、周知の走行機構を採用することができる。
【0023】
[走行方向の切り換え制御]
自走体1は、コンクリート打設区間C内を往復するものであるところ、走行方向(往路及び復路)の切り替えは、各種の方法を採用することができる。
例えば、走行軌道上において、走行方向を切り換えたい位置にストッパを設置しておき、走行体に設けたリミットスイッチとストッパとの接触によって、走行方向を切り換えるよう、構成することができる。
その他、自走体1に赤外線などの近接センサを設けて、コンクリートフィニッシャBや前記のストッパ等との接近を検知した場合に、走行方向を切り換えるよう構成することもできる。
また、前記の切り換え方法と独立或いは併用する形で、載置台11の底面などに設けた湿度センサの値でもって、コンクリート表面の湿度が低い箇所を重点的に往来したり、自走体の走行速度を遅くさせるよう、構成することもできる。
【0024】
[走行速度の制御]
また、前記自走体1の走行速度を可変とし、それらを自動制御自在に構成しておくこともできる。これらの値の制御は、現場の諸条件に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
<4>噴霧装置
噴霧装置2は、前記自走体1に搭載して、コンクリート打設区間Cのコンクリート表面に噴霧するための装置である。
本発明の噴霧装置2は、少なくとも、コンクリート打設区間Cの幅方向に対して自動的に旋回運動可能な構成を呈するものであれば、如何なる噴霧装置を用いても良い。
なお、本実施例に係る噴霧装置2は、加圧水をノズル先端から噴出し、ファンによる気流にのせて霧を放出する送風手段21と、前記送風手段21を略鉛直方向を軸心として回動自在とした第1の回動軸22と、前記送風手段21を旋回させる第2の回動軸23と、前記第2の回動軸23を上下に揺動させて仰角を形成する、アーチ型を呈する仰角調整手段24とを備えている。
そして、仰角調整手段24でもって送風手段21による噴霧の上下方向を設定し、前記第2の回動軸23でもって自動的に旋回運動させることで、養生装置Aの前面若しくは背面の任意の位置に対して噴霧を実施する。
噴霧装置2の旋回角度は、リミットスイッチなどの回転角度調整機構(図示せず)を設けることで、任意に設定すればよい。
【0026】
[噴霧条件の制御]
また、前記噴霧装置2の風量及び水量を自動制御自在に構成しておくこともできる。これらの値の制御は、現場の諸条件に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
<5>使用方法
本実施例に係る養生装置Aの使用例を、図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施例の養生装置Aと先行するコンクリートフィニッシャBの走行例とを示す概略図である。
【0028】
(1)整形開始(図3(a))
開始線EからコンクリートフィニッシャBを走行させて、コンクリート打設面Cの整形を開始する。
このとき、養生装置Aは、コンクリートフィニッシャBの後方で待機している。
【0029】
(2)噴霧開始(図3(b))
コンクリートフィニッシャBがある程度前進した時点で、養生装置A内の噴霧装置2を起動し、自動旋回による噴霧作業を開始する。このとき、噴霧方向を背面側としてある場合には特段問題が無いものの、噴霧方向を前面側としてある場合には自走体1を停止させた状態である程度噴霧を行ってから、自走体11の走行を開始させ、開始部分の湿度ムラが起きないよう配慮してもよい。
養生装置A及びコンクリートフィニッシャBはそれぞれ並行して各作業を進行することができる。このとき、養生装置AとコンクリートフィニッシャBとの間にストッパ51を適宜配置することができる。
【0030】
(3)往路から復路への切り換え(図3(c))
自走体1に設けたリミットスイッチ(図示せず)がストッパ61と接触することにより、自走体1は走行方向を切り換えて、後方に進行する。このとき、養生装置Aの後方にも別途ストッパ62を適宜配置しておき、自走体1の走行方向の再切り換えに備える。
コンクリートフィニッシャBは前進による整形作業を継続している。
【0031】
(4)往路から復路への切り換え(図3(d))
自走体1に設けたリミットスイッチ(図示せず)がストッパ62と接触することにより、自走体1は走行方向を切り換えて、前方に進行する。
【0032】
(5)まとめ
上記の工程を適宜繰り返すことによって、整形区間C2に対して、自動的に噴霧作業が実施されることとなる。
本願発明によれば、噴霧作業が密に行われ、湿度管理が万全に行えることから、養生マットの敷設作業等が不要となり、施工費用、人件費を低減でき経済的な施工が可能となる。
【0033】
(6)その他
なお、本実施例では、自走体1の走行方向切り換えをストッパとリミットスイッチの組合せにより実現しているが、前述の通り、自走体1に近接センサを用いる場合、ストッパの設置作業を省略することができ、更なる省人化が可能となる。
また、湿度センサを組み合わせることで、コンクリート表面の湿度が低い箇所を重点的に往来したり、走行速度を遅くさせることで、湿度管理をより徹底することもできる。
【実施例2】
【0034】
また、本願発明の養生装置は、スライドセントル(移動式トンネル型枠)によるコンクリート打設後の養生装置として用いることもできる。この場合、養生装置Aを構成する噴霧装置2の噴霧方向を上下、左右に旋回自在に構成することで、トンネルの内周面の前面に渡って噴霧することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
A 養生装置
B コンクリートフィニッシャ
C コンクリート打設区間
C1 未整形区間
C2 整形区間
D 外縁部
E 開始線
1 自走体
11 載置台
12 走行手段
2 噴霧装置
21 送風手段
22 第1の回動軸
23 第2の回動軸
24 仰角調整手段
3 吸水タンク
4 発電機
5 受け皿
61 ストッパ
62 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設したコンクリートを養生するための養生装置であって、
コンクリートの打設区間を自動的に往復走行可能な、自走体と、
前記自走体に搭載し、自動的な旋回運動により前記打設コンクリートに噴霧可能な、噴霧装置と、
からなることを特徴とする、打設コンクリートの養生装置。
【請求項2】
前記自走体が、
前記コンクリート表面から上方に間隔を設けた位置から前記打設区間の幅方向に跨って延伸した載置台と、
前記載置台の両側に設け、前記打設区間の外縁部を走行する走行手段と、
からなる、請求項1に記載の打設コンクリートの養生装置。
【請求項3】
前記噴霧装置の風量及び水量を自動制御自在に構成してある、請求項1又は2の何れか1項に記載の打設コンクリートの養生装置。
【請求項4】
前記自走体の走行区間及び走行速度を自動制御自在に構成してある、請求項1乃至3の何れか1項に記載の打設コンクリートの養生装置。
【請求項5】
前記走行手段が、先行するコンクリートフィニッシャの走行機構を兼用して走行するよう構成してある、請求項2乃至4の何れか1項に記載の打設コンクリートの養生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の養生装置を用いた打設コンクリートの養生方法であって、
前記養生装置を前記コンクリート打設区間内で往復移動させながら、自動的な旋回運動により前記打設コンクリートに噴霧することを特徴とする、
打設コンクリートの養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136872(P2012−136872A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290084(P2010−290084)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【特許番号】特許第4964984号(P4964984)
【特許公報発行日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(591075630)株式会社アクティオ (33)
【Fターム(参考)】