説明

抗ウィルス性透視カバー

【課題】通気性、透視性の両方を兼ね備えており、寝たきりの老人、透析患者、乳幼児のようなマスクの着用が困難な人、および大部屋の入院患者であっても、乳母車を覆ったり、ベッドを覆ったりする簡易な方法でウィルス感染の予防やウィルスの蔓延を防止することができる抗ウィルス性透視カバーを提供する。
【解決手段】抗ウィルス性透視カバー1は、抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シート2の末端部と、透明または半透明の透視性フィルム3の末端部とを接合した複合シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス感染防止用のカバー等に使用可能な抗ウィルス性通気部と透明または半透明部とを有する透視カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の口と鼻を覆うマスクは、健常者が着用することによって、感染症の原因となるウィルスが、呼吸によって口や鼻から体内に侵入するのを防ぎ、感染症の予防を図ることができる。また、マスクは、ウィルスに感染した患者が着用することで、くしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスの拡散を防ぎ、感染症の蔓延を防止できる。
【0003】
しかし、マスクの着用は、着用者の呼吸を妨げることになるため、体力が弱って呼吸する力が低下している寝たきりの老人や透析患者にとって、長時間の継続着用は困難であることがある。さらに、マスクの着用は、着用者に息苦しさを感じさせるため、マスク着用の意義を理解できない乳幼児にとって、継続してマスクを着用することは困難である。一方、特に乳幼児や寝たきりの老人は、ウィルスに対する免疫力が低く、本来ならマスクを継続着用して、感染症を予防することが必要である。
【0004】
また、病院の大部屋は人の出入りが多く、大部屋にいる入院患者にとって、ウィルスに感染する可能性は高い。入院患者がマスクを着用することで、ウィルス感染の予防は可能である。しかし、入院患者は常にマスクを着用しなければならず、入院患者にとって面倒であり、かつ長時間の息苦しさが強いられる。
【0005】
ところで、特許文献1には、カバー面を網目状に形成して通気性を保持しつつ、所定の部位に透明色のシート部材で窓部を形成した乳母車用カバーが開示されている。この乳母車用カバーを装着した乳母車によれば、乳母車に乗っている乳幼児は、窓部から外界を見ることができるため、圧迫感を感じることなく、蚊や蝿等の外的要因から保護できるものである。
【0006】
また、特許文献2には、感染症に感染した患者の頭部を覆う位置に横長の第1開口を有して患者の前面を被覆する前身頃と、患者の後面を被覆する後身頃と、前身頃に固着されて第1開口を塞ぐ可撓性の透明な合成樹脂プレートと、合成樹脂プレートを弾性変形させるベルトとから構成され、前身頃と後身頃とが病原体バリア性と通気性とを有するシートから作られている隔離用カバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−291931号公報
【特許文献2】特開2005−205069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で開示されている乳母車用カバーは、乳母車に乗っている乳幼児の感染症を予防する機能は存在せず、乳幼児の感染症の予防のためには、乳幼児はマスクを着用することを要する。これに対し、特許文献2に開示されている隔離用カバーによれば、感染症に感染した患者からのくしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスの拡散を防ぎ、感染症の蔓延を防止できる。さらに、隔離用カバー内に収容された患者の顔も合成樹脂プレートから見ることができる。しかし、合成樹脂プレートは、ベルトによって弾性変形されるものであるため、この隔離用カバー内に患者を収容する作業を一人で行うことは困難である。また、この隔離用カバーでは、複数人の患者を収容することは勿論のこと、収容した乳幼児に圧迫感を与え易いため、乳幼児を簡易に収容することも困難である。このため、医療や介護、育児といった分野では、通気性、透視性の両方を兼ね備え、かつマスクの着用をいやがる乳幼児や体力が弱って呼吸する力が低下してマスクの長時間の着用が困難な寝たきりの老人や透析患者を、マスクを着用することなく簡易に収容できる抗ウィルス性透視カバーが求められている。
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、通気性、透視性の両方を兼ね備えており、寝たきりの老人、透析患者、乳幼児のようなマスクの着用が困難な人、および大部屋の入院患者であっても、乳母車を覆ったり、ベッドを覆ったりする簡易な方法でウィルス感染の予防やウィルスの蔓延を防止することができる抗ウィルス性透視カバー、および抗ウィルス性透視カバー構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された抗ウィルス性透視カバーは、抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートの末端部と、透明または半透明の透視性フィルムの末端部とを接合した複合シートであることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載された抗ウィルス性透視カバーは、請求項1に記載されたもので、前記抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートが、下記式(I)
【0012】
【化1】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、WおよびOsから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす数)で示される金属フタロシアニン誘導体が担持されている繊維を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載された抗ウィルス性透視カバーは、請求項1に記載されたもので、前記抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートが、オレフィン−マレイン酸共重合高分子、スチレン−マレイン酸共重合高分子、ビニルエステル−マレイン酸共重合高分子、酢酸ビニル−マレイン酸共重合高分子および塩化ビニル−マレイン酸共重合高分子から選ばれる少なくとも1つの共重合高分子が担持されている繊維を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載された抗ウィルス性透視カバーは、請求項1に記載されたもので、前記接合がヒートシール、縫合または接着剤による接着でなされていることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載された抗ウィルス性透視カバー構造物は、少なくとも1種類の抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートの末端部と、少なくとも1種類の透明または半透明の合成樹脂を含む透視性シートの末端部とを接合して形づくられた複合シート構造物であることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載された抗ウィルス性透視カバー構造物は、請求項5に記載されたもので、前記複合シート構造物が乳母車カバー、ベッド覆い、カーテン、蚊帳または雨除けに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抗ウィルス性透視カバーは、通気性および抗ウィルス性を兼ね備えているので、この抗ウィルス性透視カバーの内部に収容された収容者は、この抗ウィルス性透視カバーが覆われていないときと同じように呼吸できる。このため、収容者はマスクを着用する煩わしさから解放される。また、抗ウィルス性透視カバー内の収容者がウィルスに感染した患者である場合には、抗ウィルス性透視カバー外の患者の面会人等も、ウィルスへの感染を予防できる。さらに、本発明の抗ウィルス性透視カバーは、透視性を備えているため、収容者の圧迫感を減じることができ、収容者が乳幼児であっても収容される不安感を減じることができる。しかも、収容者の様子を、抗ウィルス性透視カバーの外側から充分に観察できる。このため、収容者が乳幼児である場合、乳幼児の親等は、この抗ウィルス性透視カバーを覆ったままで、内部の乳幼児の様子を充分に視認することができる。
【0018】
この抗ウィルス性透視カバーによれば、ウィルスに感染した患者が横たわっているベッドを簡易に覆うことができ、患者のくしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスの拡散を効果的に防ぐことができるので、ウィルスによる感染症の蔓延を防止できる。
【0019】
さらに、この抗ウィルス性透視カバーは、微小なウィルスを遮断しつつ通気性を有するため、塵、埃、および花粉のようなアレルギー物質の通過も遮断することができるので、アレルギー体質の人も快適に生活できる。
【0020】
本発明の抗ウィルス性透視カバー構造物によれば、通気性、抗ウィルス性および透視性を有する抗ウィルス性透視カバーによって、収容者の頭部或いは全身を覆って収容できる。このため、収容者は、抗ウィルス性透視カバーの通気性および抗ウィルス性によってマスクを着用することの息苦しさを解消でき、かつ抗ウィルス性透視カバーの透視性によって圧迫感を減少でき、快適に過ごすことができる。
【0021】
この抗ウィルス性透視カバー構造物を、例えば乳母車カバー、ベッド覆い、およびカーテンに適用したとき、その収容者は抗ウィルス性透視カバーを介して内部から外が見え、外からも内部が見えつつ、ウィルスによる感染症を予防できる。さらに、この抗ウィルス性透視カバーは、微小なウィルスを遮断しつつ通気性を有するため、蚊のような害虫の侵入を防止する蚊帳や雨除けにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用する抗ウィルス性透視カバーの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用する抗ウィルス性透視カバー構造物の使用状態の一例を示す斜視図である。
【図3】図2に示す抗ウィルス性透視カバー構造物の他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明を適用する別な抗ウィルス性透視カバー構造物の使用状態の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明を適用する抗ウィルス性透視カバーを構成する通気性繊維シートで覆われたゲージ内の酸素濃度を測定する測定装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の好ましい形態について、図1を参照しながら説明する。
【0025】
本発明の抗ウィルス性透視カバー1は、例えば、四角い形状で抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シート2と、四角い形状で透視性の透明または半透明の透視性フィルム3とからなるものである。この通気性繊維シート2と透視性フィルム3とは、その両者の末端部同士を重ねた接合部4で接合されている。
【0026】
この通気性繊維シート2に含まれている抗ウィルス繊維としては、ウィルスを不活化させる性能を有する繊維であれば特に限定されないが、上記式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体が担持されている抗ウィルス繊維であることが好ましい。
【0027】
この金属フタロシアニン誘導体では、同一または異なる−COOH基または−SOH基である官能基の数、すなわちn1〜n4の合計数が4以下、さらに好ましくは1または2であることが好ましい。官能基の合計数が4以下であると、抗ウィルス効果が高い傾向にある。特に、MがFeの場合、官能基は−COOH基であることが好ましい。また、MがCoの場合、官能基は−SOH基であることが好ましい。かかる金属フタロシアニン誘導体としては、特に、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸、コバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸、およびコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸の金属フタロシアニン誘導体の抗ウィルス効果が高く、好ましい。なお、上記式(I)の構造を有する金属フタロシアニン誘導体の−COOH基または−SOH基に、Na等の金属対イオンが結合している金属塩であってもよい。
【0028】
この金属フタロシアニン誘導体の繊維に対する好ましい担持量は、0.1〜10質量%である。より好ましい担持量は、0.3〜5質量%であり、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
【0029】
この通気性繊維シート2に金属フタロシアニン誘導体が担持されている抗ウィルス繊維が含まれている例を挙げたが、抗ウィルス繊維として、オレフィン−マレイン酸共重合高分子、スチレン−マレイン酸共重合高分子、ビニルエステル−マレイン酸共重合高分子、酢酸ビニル−マレイン酸共重合高分子および塩化ビニル−マレイン酸共重合高分子から選ばれる少なくとも1つの共重合高分子が担持されている繊維を用いることができる。
【0030】
これらの共重合高分子の繊維に対する担持量は、繊維に対して1〜100質量%、特に5〜60質量%とすることが好ましい。また、これらの共重合高分子に、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンが担持されていると、抗ウィルス効果が高くなるので、好ましい。中でも、銅イオンは抗ウィルス効果が高いので、より好ましい。なお、図1に示す通気性繊維シート2には、金属フタロシアニン誘導体が担持されている抗ウィルス繊維または前記共重合高分子が担持されている抗ウィルス繊維が単独で含まれていてもよく、両抗ウィルス繊維が併用されていてもよい。
【0031】
この金属フタロシアニン誘導体および/またはこれらの共重合高分子を担持させることができる繊維素材は、天然繊維、再生繊維、合成繊維、半合成繊維が挙げられる。具体的には、木綿、麻、レーヨン、パルプのようなセルロース系繊維;羊毛、絹のような蛋白質系繊維;ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミド系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸のようなポリエステル系繊維;ポリアクリル系繊維;ポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル系繊維;ポリ塩化ビニリデン系繊維;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンのようなポリオレフィン系繊維;ポリウレタン系繊維が挙げられる。
【0032】
中でもセルロース系繊維は吸水性がよいので、金属フタロシアニン誘導体の酵素様機能が発現しやすい点、共重合高分子に担持させる金属を陽イオン、または陰イオンの状態で保持させておくことができる点、くしゃみの飛沫を吸収しやすい点で好ましい。また、セルロース系繊維は、合成繊維のように静電気によって埃が吸着されることがないので、抗ウィルスを奏する部位が塞がれず、抗ウィルス効果が持続しやすい点でも好ましい。
【0033】
この通気性繊維シート2を形成する抗ウィルス繊維の他の繊維素材として、熱融着性繊維が含まれていると、ヒートシーラーで通気性繊維シート2と透視性フィルム3とを簡単に接合できるので、好ましい。また、熱融着性繊維が含まれていると、通気性繊維シート2の引裂強度が高くなり、その取扱いが良好となる。熱融着性繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維が挙げられる。熱融着性繊維の好ましい含有量は、通気性繊維シート2に対して10〜50質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0034】
通気性を確保するため、この通気性繊維シート2の目付は、15〜80g/mの範囲とすることが好ましく、30〜50g/mの範囲とすることがより好ましい。かかる通気性繊維シート2としては、繊維素材で構成され、通気性を有するシート状の形態であれば特に限定されない。具体的には、不織布、織物、編物、網状物等が挙げられるが、不織布であると、軽量であり、取扱いが容易な点で好ましい。
【0035】
前述した通気性繊維シート2と併用する透視性フィルム3は、透明または半透明の透視性を有していれば特に限定されず、透湿性、非透湿性は問わない。ただし、この透視性フィルム3には、埃や花粉のようなミクロンサイズの有害物質はもとより、細菌や細菌の大きさよりもはるかに小さいウィルスのような病原体をも透過しない機能を有することが好ましい。
【0036】
この透視性フィルム3の素材は、例えば、セルロース系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系等が挙げられる。中でも、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PP/PE、PP/ポリエステル/PP、PP/ポリエステル/PE、PE/ポリエステル/PEであると、ヒートシール性が良好であり、好ましい。
【0037】
この透視性フィルム3の厚みは、特に限定されないが、20〜500μmであることが好ましい。より好ましくは、40〜200μmである。透視性フィルム3の厚みが上記範囲内にあると、透視性が良好であるとともに、ヒートシール性が良好である点、および適度な柔軟性を有している点で、好ましい。
【0038】
前述した通気性繊維シート2の端末部と透視性フィルム3の端末部とは、接合部4で接合されている。この接合の方法は、熱圧着、超音波溶着、高周波溶着等のシールによる接合、接着剤による接合等を挙げることができる。
【0039】
図1に示す抗ウィルス性透視カバー1は、例えば、以下のようにして製造される。
【0040】
まず、金属フタロシアニン誘導体が担持された繊維(以下、抗ウィルス繊維Pともいう)を作製する方法について述べる。
【0041】
金属フタロシアニン誘導体、例えば、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得て、得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。
【0042】
天然繊維、再生繊維、合成繊維または半合成繊維のような繊維素材に、前記で製造した金属フタロシアニン誘導体を担持させると、抗ウィルス繊維Pが得られる。繊維素材に金属フタロシアニンの誘導体を担持させる方法としては、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維構造物へ印刷、噴霧またはコーターを用いて塗布する方法、繊維構造物を該溶液へ浸漬させる方法、あるいは直接染色、イオン染色などの染色法がある。イオン染色法とは、コットン、レーヨンなどの繊維にカチオン基を結合させ、そのカチオン基と染料の持つカルボキシル基やスルホン基のアニオン基をイオン的に結合させて行う染色法がある。
【0043】
前記繊維素材に金属フタロシアニン誘導体を担持させるとき、繊維素材を予めカチオン化処理していることが好ましい。カチオン化処理することにより、金属フタロシアニン誘導体の担持効果が大きくなるとともに、金属フタロシアニン誘導体が高い活性状態を保つのでより一層の抗ウィルス効果を高めることができる。
【0044】
前記カチオン化処理におけるカチオン化剤は、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子、カチオン系高分子、クロスリンク型ポリアルキルイミン、ポリアミン系カチオン樹脂、グリオキザール系繊維素反応型樹脂等が挙げられ、これら単独または2種以上組み合わせたものが用いられる。特に、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体が好ましい。
【0045】
繊維素材に金属フタロシアニン誘導体を担持させる例を示したが、繊維素材から糸、繊維ウェブ、不織布のような繊維構造物を作製した後に、金属フタロシアニン誘導体を担持させてもよい。その方法は、例えば、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維構造物へ印刷、噴霧、またはコーターを用いて塗布する方法、繊維構造物をこの溶液へ浸漬させる方法が挙げられる。他に直接染色、イオン染色のような染色法が挙げられる。
【0046】
次に、共重合高分子からなる繊維(以下、抗ウィルス繊維Mともいう)を作製する方法について述べる。
【0047】
共重合高分子、例えば酢酸ビニル−マレイン酸共重合高分子を含む溶液は、酢酸ビニルと無水マレイン酸とを、公知のラジカル重合開始剤を使用して、ベンゼン、トルエン、酢酸エステルのような有機溶媒の存在下に、溶液重合させることにより得られる。
【0048】
ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチルのような過酸化物系重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ系重合開始剤が挙げられる。ラジカル重合開始剤の添加量は、通常全単量体に対して0.05〜1.0質量%である。
【0049】
酢酸ビニルを繰り返し単位とする重合体と、マレイン酸を繰り返し単位とする重合体は、ほぼ等モル共重合体であることが好ましい。共重合体の数平均分子量と重量平均分子量との何れかは、1万〜200万、好ましくは10万〜50万の範囲である。
【0050】
かかる共重合体を得るため、酢酸ビニルと無水マレイン酸とは、0.9:1.1〜1.1:0.9の割合で混合する。重合温度は通常50〜120℃、重合時間は1〜6時間である。
【0051】
得られた酢酸ビニル−マレイン酸共重合体溶液を、公知の方法により得られるセルロースのビスコース溶液、またはセルロースの銅アンモニア溶液のような含金属アルカリ溶液に混合する。その混合液を、紡糸ノズルを通じて紡糸液に吐き出して、いわゆる湿式紡糸により、抗ウィルス繊維Mを得ることができる(例えば特公平8−13905号公報参照)。
【0052】
前述したように、これらの共重合高分子に、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンが担持されていると、抗ウィルス効果が高くなる。かかる金属のイオンを共重合高分子が担持されている抗ウィルス繊維Mに担持させる方法としては、例えば硫酸銅(CuSO)や硝酸銅(Cu(NO)の溶液に抗ウィルス繊維Mを浸漬させる方法を挙げられる。
【0053】
抗ウィルス繊維Mに金属イオンを担持させる例を挙げたが、抗ウィルス繊維Mから繊維ウェブや不織布を作製し、これらに金属イオンを担持させてもよい。
【0054】
次に、抗ウィルス繊維Pと抗ウィルス繊維Mとから繊維ウェブ、それから抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シート2を作製し、それから図1に示す抗ウィルス性透視カバー1を得る方法について述べる。
【0055】
この通気性繊維シート2が不織布である場合の作製例について説明する。まず、抗ウィルス繊維(例えば抗ウィルス繊維Pおよび/または抗ウィルス繊維M)と、必要に応じて他の繊維とを混合または積層してから、夫々繊維ウェブを作製する。繊維ウェブの作製方法は、例えば、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、静電紡糸法が挙げられる。このとき、通気性を阻害しない範囲で、必要に応じて抗ウィルス繊維以外の他の繊維で構成される不織布等の繊維集合物を積層してもよい。
【0056】
得られた繊維ウェブは、所定の抗ウィルス性を有する程度に抗ウィルス繊維を含有させるとよい。抗ウィルス繊維の含有量は、得られた繊維ウェブの全重量に対して少なくとも20質量%であることが好ましい。さらに好ましくは、得られた繊維ウェブの全重量に対して抗ウィルス繊維の含有量を30質量%以上、さらに一層好ましくは50質量%以上とすることがよい。
【0057】
得られた繊維ウェブは、通気性繊維シート2に加工される。通気性繊維シート2の種類は、例えばエアースルー不織布や熱圧着不織布のようなサーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布が挙げられる。軽量性、通気性、および取扱い性の観点から考慮すると、サーマルボンド不織布または水流交絡不織布であることが好ましい。
【0058】
所定の形状(例えば、四角形)に裁断した通気性繊維シート2と、所定の形状(例えば、四角形)の透視性フィルム3とを用意し、夫々の末端部を重ねる。例えば、ヒートシーラーを用いて末端部を接合すると、図1に示す抗ウィルス性透視カバー1が得られる。
【0059】
ヒートシールで通気性繊維シート2と透視性フィルム3とを接合する際の温度は、通気性繊維シート2を構成する繊維または透視性フィルム3を構成する樹脂成分が軟化する温度以上であればよい。好ましい接合温度は、通気性繊維シート2を構成する繊維または透視性フィルム3を構成する樹脂成分のうち、主成分の融点以上、具体的には、その融点に10℃を加算した温度である。例えば、透視性フィルム3として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を接合する場合、110〜125℃の範囲が好ましい。
【0060】
この抗ウィルス性透視カバー1は、主に人体を覆うために使用されるが、透視性フィルム3は、ほとんど、または全く通気性を有していない。そこで、通気性繊維シート2で息苦しくならない程度の通気性を確保し、覆われた抗ウィルス性透視カバー1内部の酸素濃度を確保することが重要である。この通気性繊維シート2で覆った時、通気性や酸素濃度が確保されているかの指標となる酸素濃度変化率(%)は、10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下であり、さらにより好ましくは、3%以下である。酸素濃度変化率が上記範囲を満たすと、この抗ウィルス性透視カバー1により人体を少なくとも2時間覆っても、内部の人間は息苦しくならない。より長時間覆う場合は、酸素濃度変化率の小さい通気性繊維シート2を用いるとよい。このような抗ウィルス性透視カバー1は、十分な可撓性を呈するため、折りたたんで収容でき、特別な収納容器等は不要である。
【0061】
図1に示す抗ウィルス性透視カバー1を利用した抗ウィルス性透視カバー構造物の一例を図2に示す。図2に示す抗ウィルス性透視カバー構造物10は、所定の形状、大きさに裁断した一枚または複数枚の抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シート2の末端部と、所定の形状、大きさに裁断した一枚または複数枚の透明または半透明の合成樹脂を含む透視性フィルム3の末端部とを重ね合わせ、傾斜面に沿って形成されたフレーム5によって連結するように両末端部を接合して形成した。
【0062】
図2に示す抗ウィルス性透視カバー構造物10は、乳母車カバーとして用いた例である(以下、単に乳母車カバー10と称することがある)。図2に示す乳母車カバー10は、その底面が解放されているため、乳幼児が座っている乳母車20の座席部21の後端から斜めに延びる後側面22に沿って装着される。このため、乳母車カバー10は、乳母車20の後側面22に対応する部分、乳母車20の座席部21に座らせられた乳幼児の正面側、すなわち後側面22に対応する部分の先端から座席部21の先端にかけて傾斜面に形成された部分、および両部分を連結する左側面部分および右側面部分から構成される。この乳母車カバー10の後側面22に対応する部分、左側面部分および右側面部分は通気性繊維シート2で形成されている。また、乳母車カバー10の傾斜面に形成された部分は、透視性フィルム3で形成されている。かかる透視性フィルム3と通気性繊維シート2とは、傾斜面に沿って形成されたフレーム5によって連結されている。また、透視性フィルム3の一部は、重ねあわせた状態で、スナップ6で留められているので、この傾斜部は、乳幼児を座席部21に座らせたり、座席部21に座っている乳幼児を抱き上げたりできるように、開閉可能に形成されている。さらに、透視性フィルム3の上端部の両角部には、乳母車20のパイプ状の取っ手を通す切欠部9が形成されている。
【0063】
図2に示す乳母車20に乳幼児を乳母車20に乗せて外出するとき、乳幼児が乗っている乳母車20の外周面側に乳母車カバー10を装着し、乳幼児を乳母車カバー10によって覆う。乳母車カバー10を乳母車20に装着する際には、乳母車20の取っ手を、乳母車カバー10の下端の開口部から挿入し、透視性フィルム3の上端部の角部に形成した切欠部9を通すことによって、乳母車20の外周面側に乳母車カバー10を装着できる。このように、乳母車カバー10で覆われた乳幼児は、ウィルス感染患者のくしゃみの飛沫や咳に含まれるウィルスが空気中に飛散していても、通気性繊維シート2に付着したウィルスは不活化されるので、乳母車20に乗っている乳幼児は、ウィルスの感染を予防できる。さらに、通気性繊維シート2を介して内部に空気が供給されるので、乳幼児は窒息しない。その一方で、乳幼児の親は、乳幼児を乳母車カバー10で覆ったままで、透視性フィルム3から内部の様子を視認することができる。同時に、内部の乳幼児は、透視性フィルム3から外部の様子を視認することができる。
【0064】
図2に示す乳母車カバー10に代えて、図3に示す乳母車カバー10を用いることができる。図3に示す乳母車カバー10は、乳母車20の後側面22に対応する部分、左側面部分および右側面部分、および左側面部分および右側面部分を連結する連結部分(乳幼児の正面に相当する部分)は通気性繊維シート2で形成されている。さらに、左側面部分、右側面部分および連結部分から成るロ字状体には、左側面部分および右側面部分の傾斜辺に沿った開口部分が形成されている。この開口部分は、透視性フィルム3によって覆われている。通気性繊維シート2と透視性フィルム3とは、側面部分および右側面部分の傾斜辺に沿う両末端部の重複部分4によって接合されている。この透視性フィルム3の上端部の両角部には、乳母車20のパイプ状の取っ手を通す切欠部9が形成されている。さらに、図3に示す乳母車カバー10では、その底辺部分および後側面22に対応する頂辺部分に対応する通気性繊維シート2の各末端部は折り返されて袋状部に形成されている。かかる袋状部の各々には、スポンジ片7が挿入されて乳母車カバー10に下方に引っ張る錘部を形成している。スポンジ片7のうち、乳母車カバー10の頂辺部分のスポンジ片7と、乳母車カバー10の連結部の底辺部分のスポンジ片7とは、それぞれ両端部が露出していて、そこに乳母車カバー10と乳母車20とを固定するためのゴムひも8が取り付けられている。
【0065】
図3に示す乳母車カバー10を乳母車20(図2)に装着する際には、乳母車20の取っ手を、乳母車カバー10の下端のスポンジ片7の錘部で囲まれた開口部から挿入し、透視性フィルム3の上端部の角部に形成した切欠部9を通すことによって、乳母車20の外周面側に乳母車カバー10を装着できる。さらに、乳母車カバー10のゴムひも8を乳母車20の部材に結び付けて、乳母車カバー10を乳母車20に確実に固定できる。乳母車20に装着した乳母車カバー10は、下端部に形成した錘部によって下方に引っ張られおり、かつゴムひも8によって乳母車20に固定されているため、多少の風が吹いても端部が捲り上がることを防止できる。
【0066】
図1に示す抗ウィルス性透視カバー1を、図4に示すようにベッド覆いとして使用することができる。図4に示すベッド覆い30は、ベビーベッド40用のものである。このベッド覆い30は、ベビーベッド40の全体を覆うことができるように略長方体に形成されている。かかるベッド覆い30は、その短辺側(寝ている乳幼児の頭側および足側)の部分および長辺側(寝ている乳幼児の両側)の一方側を通気性繊維シート2で形成し、長辺側(寝ている乳幼児の両側)の他方側および上面側を透視性フィルム3で形成した。かかる通気性繊維シート2と透視性フィルム3とは、長方形の角部に相当する部分で接合した。
【0067】
図4に示すベッド覆い30を、乳幼児が寝ているベビーベッド40を覆うように装着したところ、ベッド覆い30の通気性繊維シート2は、寝ている乳幼児の頭側および足側のベビーベッド40の柵部分を覆った。また、ベッド覆い30の透視性フィルム3はベビーベッド40の上面側を覆うと共に、寝ている乳幼児の一側面側のベビーベッド40の柵部分を覆った。このため、ウィルス感染患者のくしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスが空気中に飛散していても、通気性不織布シート2に付着したウィルスは不活化されるので、ウィルスの感染を予防することができる。しかも、寝ている乳幼児が息苦しさを感じることはない。
【0068】
このように乳幼児が寝ているベビーベッド40の全体を、ベッド覆い30で覆うことによって、乳幼児の親や兄弟がウィルスに感染しても、乳幼児はウィルスの感染を予防できる。また、乳幼児の親は、ベッド覆い30の透視性フィルム3から内部の様子を視認することができる。同時に、内部の乳幼児は、透視性フィルム3から外部の様子を視認することができる。
【0069】
図4に示すベッド覆い30はベビーベッド40の全体を覆うものであったが、寝たきりの老人、透析患者または病院の大部屋の入院患者が横たわっているベッドのうち、少なくとも頭部を図1に示す抗ウィルス性透視カバー1で覆ってもよい。面会者や医療従事者がウィルスに感染して、くしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスが空気中に飛散していても、寝たきりの老人、透析患者または病院の大部屋の入院患者はウィルスの感染を予防できる。その一方で、面会者や医療従事者は、この抗ウィルス性透視カバー1で覆われた寝たきりの老人等の収容者の様子を、透視性フィルム3から視認することができる。同時に、内部の寝たきりの老人、透析患者、および病院の大部屋の入院患者は、透視性フィルム3から外部の様子を視認することができる。
【0070】
乳幼児、寝たきりの老人、透析患者または病院の大部屋の入院患者がウィルスに感染した場合も、患者の乳幼児が乗る乳母車や患者の乳幼児、寝たきりの老人、透析患者または病院の大部屋の入院患者が寝るベッドを、この抗ウィルス性透視カバー1で覆えば、ウィルスの拡散を防ぐことができ、感染症の蔓延を防止できる。また、乳幼児の親、寝たきりの老人、透析患者または病院の大部屋の入院患者の面会者、または医療従事者は、この抗ウィルス性透視カバー1を覆ったままで、内部の患者の様子を、透視性フィルム3から視認することができる。同時に、内部の乳幼児、寝たきりの老人、透析患者、および病院の大部屋の入院患者は、透視性フィルム3から外部の様子を視認することができる。
【0071】
塵、埃、および花粉のようなアレルギー物質を忌避するために、この抗ウィルス性透視カバー1を用いてもよい。また、カーテン、蚊帳または雨除けとして、この抗ウィルス性透視カバー1を用いてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の抗ウィルス性透視カバー、および抗ウィルス性透視カバーを用いた抗ウィルス性透視カバー構造物についての実施例を詳細に説明する。
【0073】
(抗ウィルス繊維Pの作製)
イオン染色法により抗ウィルスレーヨン繊維を作製する。まず、カチオン化剤として、50g/LのカチオノンUK(一方社油脂工業株式会社製の商品名)と、15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液との混合液10Lに、レーヨン繊維(繊度1.7dtex、繊維長38mm)1kgを浴比1:10の条件で加えてイオン染色を施した。このイオン染色では、85℃で45分間の条件で染色を施した。得られたカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した。さらに、洗浄したカチオン化レーヨン繊維を、カチオン化レーヨン繊維に対してコバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸およびコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸を1質量%(1%owf)混合した水酸化ナトリウム溶液(pH=12)の10L中に浸し、80℃で30分間撹拌して染色レーヨン繊維を得た。この染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後に乾燥させ、コバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウムおよびコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウィルス繊維Pを得た。
【0074】
(抗ウィルス繊維Mの作製)
酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体水溶性塩の固形分が、セルロースのビスコース溶液(セルロース濃度9%)に対して20質量%となるように、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体水溶性塩を添加し、混合液を作製した。得られた混合液を、硫酸130g/L、硫酸亜鉛10g/L、硫酸ナトリウム250g/Lの強酸性溶液中に、白金ノズルから押出して紡糸した。常法により脱硫、精練漂白することにより、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が担持されたビスコースレーヨン繊維を得た。繊度は1.7dtex、繊維長は38mmであった。このビスコースレーヨン繊維を4%硫酸銅水溶液に浸漬させて10分間放置した後、蒸留水で洗浄し、70℃で3時間乾燥させ、抗ウィルス繊維Mを得た。この抗ウィルス繊維Mの銅担持量は1質量%であった。
【0075】
(比較繊維)
未加工のレーヨン繊維を比較繊維とした。
【0076】
(抗ウィルス繊維PとMとの性能評価)
被検ウィルスとして、国立大学法人鳥取大学鳥インフルエンザ研究センターに保管されている鳥インフルエンザウィルス(H5N3株)を使用した。
【0077】
前記試作した抗ウィルス繊維PとM、および比較の未加工レーヨン繊維を、約1.5cmの長さに切り揃えた。切り揃えた繊維の各々を0.2g採取し、採取した繊維の各々をポリエチレン袋に入れた。さらに、ポリエチレン袋の各々に、被検ウィルスを燐酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で100倍に希釈したウィルス液Aを各0.6mlずつ分注し、繊維の各々にウィルス液を染み込ませた。次いで、ポリエチレン袋を4℃で反応時間10分間静置した後、各ポリエチレン袋からウィルス液を採取してPBSでさらに10倍段階希釈した。希釈したウィルス液を、10日齢発育鶏卵(SPF)に0.2mlずつ漿尿膜腔内に接種した。2日間培養後、尿膜腔液Bを回収し、鶏赤血球凝集反応によりウィルス増殖の有無を判定した。
【0078】
ウィルス力価はReed & Muench (1938)の方法によって算出された。抗ウィルス繊維とレーヨン繊維とのウィルス力価を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から明らかな通り、抗ウィルス繊維PとMとを使用した尿膜腔液Bは、ウィルス液Aよりもウィルス力価が大幅に減少しており、ウィルス減少率は99.99%以上であった。これは、抗ウィルス繊維PとMとに鳥インフルエンザウィルスに対する抗ウィルス効果があることを示している。
【0081】
(通気性繊維シートの作製)
前述した繊度1.7dtex、繊維長38mmの抗ウィルス繊維Pの20質量%と、繊度1.7dtex、繊維長38mmの抗ウィルス繊維Mの30質量%と、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエステル系熱接着性複合繊維(ユニチカ株式会社製、商品名メルティ)の20質量%と、レギュラーポリエステル繊維の30質量%とを混合し、パラレルカード機を用いて繊維ウェブとした。さらに、得られた繊維ウェブに水流交絡処理を施して、目付約50g/m、厚み(2.94cN/cm荷重時)0.5mmの通気性繊維シートを作製した。
【0082】
この通気性繊維シートのウィルス力価を、前記と同様の方法で測定した。その結果、尿膜腔液B(<100.75(EID50/0.2ml))のウィルス力価は、ウィルス液A(106.75(EID50/0.2ml))よりも大幅に減少していた。その減少率は、99.999%であった。
【0083】
(通気性繊維シートでゲージを覆ったときの酸素濃度変化率)
図5に示される一面開口のアクリル製のゲージ51(内寸0.5m×0.5m×1.0m)を作製し、そのゲージ51内に4匹のフェレットを入れ、開口部に隙間がないように通気性繊維シート2を貼り付け、開口部を覆った。この状態で2時間放置した。ゲージ51内の4匹のフェレットはいずれも元気であった。また、2時間放置した間、ゲージ51内の酸素濃度の経時変化をJIS B 7983(ジルコニア方式)に準拠して測定した。具体的には、ガス吸引部53でゲージ51内の空気を吸引し、ガス濃度計52(CGT−7000;株式会社島津製作所の製品)で酸素濃度を測定した後、測定が終了した空気をガス排出部54でゲージ51内に戻した。一方、対照測定として、通気性繊維シート2で開口部を覆わないこと以外は、前記と同じ方法で測定を行った。その結果を、表2に示す。なお、表2において、ゲージ51の開口部を通気性繊維シート2で覆った水準を「覆いあり」と記載し、ゲージ51の開口部を通気性繊維シート2で覆わない水準を「覆いなし」と記載した。
【0084】
【表2】

【0085】
「覆いあり」と「覆いなし」とについて、2時間後の酸素濃度から、酸素濃度変化率(%)を、下記式
{(覆い無し酸素濃度−覆い有り酸素濃度)/覆い無し酸素濃度}×100
により算出した。その結果、酸素濃度変化率は1.44%であった。このことから、得られた通気性繊維シート2は、通気性を有していて、呼吸をするために必要な酸素濃度が、ゲージ31内で十分に確保されていることが、明らかとなった。
【0086】
なお、得られた不織布の通気度は、240ccsであり、圧力損失は、3.1Pa(風速5.3cm/sec)であった。
【0087】
(抗ウィルス性透視カバー構造物である乳母車カバーの作製)
(実施例1)
図3に示す乳母車カバー10を作製するため、得られた通気性繊維シート2を加工した。
【0088】
図3に示す乳母車カバー10の左側面部分および右側面部分として、通気性繊維シート2を裁断して、底辺に対して長さが異なる二側辺が形成され、二側辺の頂点を結ぶ斜辺が形成された台形状シートを2枚形成した。この台形状シートの底辺は850mmであり、二側辺が700mmと400mmである。さらに、二枚の台形状シートの短側辺を連結する連結部を通気性繊維シート2で形成した。また、乳母車カバー10の後側面22に対応する部分として、通気性繊維シート2を裁断して長方形シートを形成した。この長方形シートの長辺は450mmであり、短辺は400mmである。形成した長方形シートの長辺の各々と台形状シートの長い側辺とをヒートシール接合して、上面が傾斜面のロ字状体を形成した。かかる二枚の台形状シートの底辺側、二枚の台形状シートを連結する連結部の底辺側および長方形シートの頂辺側の各々の50mm分を折り返して袋状部を形成した。この袋状部の各々に、厚さ25mm、高さ40mm、長さ400mmのスポンジ片7を挿入して錘部を形成した。連結部の底辺側および長方形シートの頂辺側に形成した袋状部に挿入したスポンジ片7の露出部に乳母車20に、乳母車カバー10を固定するゴムひも8を取り付けた。
【0089】
また、直鎖状低密度ポリエチレン製の厚さ0.5mmで長方形の透視性フィルム3を準備した。この透明性フィルム3と台形状シートとは、台形状シートの傾斜辺に沿って両末端部を約10mm程度重ねて、接着幅が5mmのヒートシーラーを用いて接合して、図3に示す乳母車カバー10を形成した。接合部4は、台形状シートの傾斜辺に沿って形成されている。かかる透視性フィルム3の上端部の両角部には、乳母車20のパイプ状の取っ手を通す切欠部9を形成した。
【0090】
次いで、接合部4のはく離強度を測定したところ、約40N/cm幅であり十分な強度を有していた。なお、ヒートシールのはく離強度は、JIS L 1085 6.13(はく離強さ)に準じて測定した。
【0091】
得られた図3に示す乳母車カバー10を、乳幼児を乗せた図2に示す乳母車20の外周面側に装着した。その際に、乳母車20のパイプ状の取っ手を、乳母車カバー10の下端のスポンジ片7の錘部で囲まれた開口部から挿入し、透視性フィルム3の上端部の角部に形成した切欠部9を通すことによって、乳母車20の外周面側に装着できる。さらに、乳母車カバー10のゴムひも8を乳母車20の部材に結び付けて、乳母車カバー10を乳母車20に固定した。このように、乳母車20に装着した乳母車カバー10内の乳幼児には、外部の人からのくしゃみや咳の飛沫、および外部から飛散してきた花粉等の有害物質が直接接触することを防止できる。これにより、ウィルス感染患者のくしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスが空気中に飛散していても、通気性不織布シート2に付着したウィルスは不活化されるので、ウィルスの感染を予防できる。乳幼児を乗せて1時間程度外出したが、乳幼児が息苦しさを感じている様子はなかった。さらに、この乳母車カバー10の外側から、透視性フィルム3を介して内部の乳幼児の様子を視認できることが確認された。
【0092】
(抗ウィルス性透視カバー構造物であるベッド覆いの作製)
(実施例2)
図4に示されるベビーベッド40用の略長方体のベッド覆い30を作製するため、得られた通気性繊維シート2を以下のように加工した。ベビーベッド40に寝かされた乳幼児の頭側および足側の柵を覆う側面用の通気性繊維シート2として、長方形シートを二枚作製した。側面用の通気性繊維シート2の寸法は、長辺が810mmであり、短辺が720mmである。また、乳幼児の側面の一方側(後側面)の柵を覆う後側面用の長方形シートを一枚作成した。この後側面用の長方形シートの寸法は、長辺が1300mmであり、短辺が720mmである。
【0093】
一方、直鎖状低密度ポリエチレン製の厚さ0.5mmの透視性フィルムから、乳幼児の側面の他方側(前側面)の柵を覆う長方形状の前側面用の透視性フィルム3を作製した。前側面用の透視性フィルム3の寸法は、長辺が1300mmであり、短辺が720mmである。また、ベビーベッド40の上面を覆う長方形状の上面用の透視性フィルム3も作製した。上面用の透視性フィルム3の寸法は、長辺が1300mmであり、短辺が810mmである。
【0094】
次いで、これらの通気性繊維シート2および透視性フィルム3の各末端部を約10mm程度重ねて、接着幅が5mmのヒートシーラーを用いて接合して、図4に示すベッド覆い30を形成した。通気性繊維シート2と透視性フィルム3との接合部4は、上面用の透視性フィルム3の外周縁に沿って形成されている。形成されたベッド覆い30は、ベビーベッド40を完全に覆うものである。
【0095】
作製されたベッド覆い30を、乳幼児が寝かされているベビーベッド40の全体を覆うように装着した。このため、外部の人からのくしゃみや咳の飛沫、外部から飛散した花粉等の有害物質が直接乳幼児に接触することを防止できた。これにより、ウィルス感染患者のくしゃみや咳の飛沫に含まれるウィルスが空気中に飛散していても、通気性不織布シート2に付着したウィルスは不活化されるので、ウィルスの感染を予防することができる。乳幼児を1時間程度ベッドに寝かせたが、乳幼児が息苦しさを感じている様子はなかった。また、このベッド覆い30の外側から、透視性フィルム3を介して内部の乳幼児の様子を視認できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の抗ウィルス性透視カバーは、マスクの着用が困難な人のウィルス感染予防に用いられる。
【符号の説明】
【0097】
1は抗ウィルス性透視カバー、2は通気性繊維シート、3は透視性フィルム、4は接合部、5はフレーム、6はスナップ、7はスポンジ片、8はゴムひも、9は切欠部、10は乳母車カバー、20は乳母車、21は座席部、22は後側面、30はベッド覆い、40はベビーベッド、51はアクリルゲージ、52はガス濃度計、53はガス吸引部、54はガス排出部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートの末端部と、透明または半透明の透視性フィルムの末端部とを接合した複合シートであることを特徴とする抗ウィルス性透視カバー。
【請求項2】
前記抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートが、下記式(I)
【化1】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、WおよびOsから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす数)で示される金属フタロシアニン誘導体が担持されている繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性透視カバー。
【請求項3】
前記抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートが、オレフィン−マレイン酸共重合高分子、スチレン−マレイン酸共重合高分子、ビニルエステル−マレイン酸共重合高分子、酢酸ビニル−マレイン酸共重合高分子および塩化ビニル−マレイン酸共重合高分子から選ばれる少なくとも1つの共重合高分子が担持されている繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性透視カバー。
【請求項4】
前記接合が、ヒートシール、縫合または接着剤による接着でなされていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性透視カバー。
【請求項5】
少なくとも1種類の抗ウィルス繊維を含む通気性繊維シートの末端部と、少なくとも1種類の透明または半透明の合成樹脂を含む透視性シートの末端部とを接合して形づくられた複合シート構造物であることを特徴とする抗ウィルス性透視カバー構造物。
【請求項6】
前記複合シート構造物が、乳母車カバー、ベッド覆い、カーテン、蚊帳または雨除けに形成されていることを特徴とする請求項5に記載の抗ウィルス性透視カバー構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−234867(P2011−234867A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108458(P2010−108458)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(306024078)ダイワボウノイ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】