説明

抗ウイルス剤担持シート及びその製造方法

【課題】 シート状物に付着させた微粒子状の抗ウイルス剤の抗ウイルス活性が、より長時間持続しうる抗ウイルス剤担持シートを提供する。
【解決手段】 この担持シートは、シート状物に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤が、ポリビニルアルコール等の接着剤成分によって付着せしめられている。微粒子状の抗ウイルス剤としては、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕した微粒子が用いられる。抗ウイルス剤には、添加剤として炭素数5〜18の脂肪酸が添加されている。特に、脂肪酸としては、粉末状のステアリン酸、液状のカプリル酸、液状の吉草酸又は液状のカプロン酸を用いるのが好ましい。また、シート状物としては、不織布、編織物又は紙等が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を担持した担持シートに関し、特に、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスを不活化させる機能を持つ抗インフルエンザウイルス剤を担持した担持シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、豚インフルエンザや鳥ウイフルエンザの如き新型インフルエンザの流行が危険視されている。特に、鳥インフルエンザは致死率が高いため、医療従事者は、感染者の身の回りにあるタオル、ベッドカバー、カーテン等のシート状物を手で触れることによる接触感染の危険に常に曝されている。
【0003】
このため、これらのシート状物に抗インフルエンザウイスル剤等のウイルス剤を付与することが提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載された抗ウイルス剤は、金属酸化物の水和物よりなる微粒子であり、ヒドロキシラジカルを発生し、このヒドロキシラジカルによってインフルエンザウイルス等のウイルスを不活化させるものである。このような微粒子をシート状物に付着させるには、接着剤を使用する必要がある。
【0004】
接着剤としては、水溶液型、水性エマルジョン型、溶剤型、ホットメルト型等の種々のタイプのものが知られているが、いずれにしても、微粒子をシート状物に付着させる際に、接着剤成分が微粒子を被覆してしまうということがあった。そして、この被覆により、微粒子の抗ウイスル活性が長時間持続しにくいという欠点があった。すなわち、接着剤成分の皮膜によって被覆されていない微粒子の部分(露出している部分)が、当初抗ウイルス活性を示すだけであり、被覆されている部分(露出していない部分)は抗ウイルス活性が使用されていないことにより、かかる欠点が生じるものと考えられる。
【0005】
本発明者は、上記欠点を解決するために、微粒子状の抗ウイルス剤をシート状物に接着剤で付着させても、抗ウイルス活性が長時間持続しうるシート状物を提案した(特許文献2)。すなわち、特許文献2に係る発明は、接着剤成分としてポリビニルアルコールを使用することにより、抗ウイルス活性を長時間持続させうるというものである。
【0006】
【特許文献1】特開2008−37814号公報(特許請求の範囲の項及び段落番号0025)
【特許文献2】特願2009−258447号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特許文献2に係る発明をさらに改良することにあり、シート状物に付着せしめられた微粒子状の抗ウイルス剤が、その抗ウイルス活性をより長時間発揮しうる抗ウイルス剤担持シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特許文献2記載の方法で抗ウイルス活性を検討していたところ、特定の添加剤をヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤と併用することにより、抗ウイルス活性がより長時間持続することを発見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤及び炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩をシート状物に付着させたことを特徴とする抗ウイルス剤担持シート及びその製造方法に関するものである。
【0010】
本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤としては、特許文献1及び国際公開2005/013695に記載されているものが挙げられる。すなわち、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕して微粒子としたものである。微粒子の組成は、CaCO3、Ca(OH)2及びMg(OH)2を主成分とするものである。また、微粒子の平均粒子径は0.1〜60μm程度である。かかる抗ウイルス剤は、ヒドロキシラジカルを発生する。そして、ヒドロキシラジカルは、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスはもとより、旧型インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス及びレトロウイルス等のウイルスを不活化する。
【0011】
また、本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤と併せて、炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩(以下、脂肪酸又はその塩のことを「脂肪酸(塩)」と表記する。)を用いることによって、本発明ではヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。この理由は定かではないが、脂肪酸(塩)の皮膜によって、ヒドロキシラジカルの発生を阻害する水分がヒドロキシラジカル発生源に接触し難くなること、及びヒドロキシラジカルの放出が緩慢となり、ヒドロキシラジカルが長時間に亙って徐々に放出されることに起因しているのではないかと推定している。
【0012】
炭素数5〜18の脂肪酸(塩)としては、ステアリン酸(塩)、カプリル酸(塩)、吉草酸(塩)、カプロン酸(塩)、ラウリン酸(塩)、ミリスチン酸(塩)、オレイン酸(塩)又はリノール酸(塩)等が用いられる。炭素数5〜18の脂肪酸(塩)は、粉末状又は液状で用いられてもよいし、水又はアルコールに溶解させた溶液状で用いてもよい。本発明においては、特に粉末状のステアリン酸、液状のカプリル酸、液状の吉草酸又は液状のカプロン酸を用いるのが好ましい。
【0013】
本発明で用いる微粒子状の抗ウイルス剤は、シート状物にたとえば接着剤成分によって付着せしめられる。接着剤成分としては、従来公知のものが用いられる。好ましい接着剤成分は、ポリビニルアルコール又はポリオレフィン樹脂である。
【0014】
接着剤成分であるポリビニルアルコールの重合度は250〜1000であるのが好ましい。この理由は、水溶液として取り扱いやすく、かつ接着作用を十分に発揮しうるからである。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%程度であるのが好ましい。特に、66〜99モル%が好ましく、より好ましくは90〜99モル%である。なお、ポリビニルアルコールは、一般的に水に溶解させたポリビニルアルコール水溶液の状態で接着剤として取り扱われる。
【0015】
接着剤成分であるポリオレフィン樹脂は、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂の形態で用いるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、日機装社製の「マイクロトラック粒度分布計 UPA150(MODEL No.9340)」を用いて求めたものである。数平均粒子径が大きすぎると、水系溶媒中に良好に分散しにくくなる傾向が生じる。
【0016】
本発明では、特に水系溶媒に分散しやすいポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。かかるポリオレフィン樹脂は本件出願人が開発したものであって、特許第3699935号公報に記載されているものであり、(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物と(A2)炭素数2〜6のアルケンを含むモノマーを共重合してなる共重合体からなるものである。(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。また、(A2)炭素数2〜6のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が用いられる。なお、(A1)及び(A2)の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のアクリル酸エステルを第三成分として共重合しても差し支えない。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル等の第三成分を共重合しても差し支えない。
【0017】
(A1)と(A2)の共重合比は、質量比で、(A1):(A2)=0.5〜20:99.5〜80程度である。また、第三成分を共重合するときは、全体の35質量%以下程度の量で共重合される。
【0018】
以上のような組成を持つポリオレフィン樹脂微粒子は、特許第3699935号公報に記載されているように、水系溶媒によく分散するものである。したがって、接着剤成分の一つであるポリオレフィン樹脂微粒子は、一般的に、水及び/又はアルコールに分散させた水系分散液の状態で接着剤として用いられる。
【0019】
本発明に用いる抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤をシート状物に付着させるには、たとえば、以下のような方法によるのが好ましい。まず、微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する。水系溶媒中にアルコールを併用するのは、シート状物が不織布や編織物のように繊維間隙を持ったものである場合、当該繊維間隙への浸透性を向上させるためである。アルコールとしては、エタノール等の低級アルコールが水よりも低い沸点を持っており、水と共に蒸発させうるので、好ましい。そして、この水性分散液に、ポリビニルアルコールが溶解しているポリビニルアルコール水溶液等の接着剤成分を含む水性接着剤液を添加混合した後、さらに炭素数5〜18の脂肪酸(塩)を添加混合する。炭素数5〜18の脂肪酸(塩)が粉末として取り扱われるときには、この粉末を添加混合すればよい。また、炭素数5〜18の脂肪酸(塩)が液状として取り扱われるときには、この液状物を添加混合すればよい。さらに、予め、脂肪酸(塩)を水及び/又はアルコールに溶解させて脂肪酸溶液の形で用いるときには、この脂肪酸溶液を添加混合すればよい。なお、アルコールとしては前記と同様の理由でエタノール等の低級アルコールを使用するのが好ましい。以上のようにして得られたスラリー液を、浸漬法、塗布法又は噴霧法等の従来公知の手段で、シート状物に付与する。そして、乾燥して、スラリー液中の水及びアルコールを蒸発させると、微粒子状の抗ウイルス剤が、接着剤成分によってシート状物に付着せしめられるのである。
【0020】
また、接着剤成分としてポリオレフィン樹脂を用いるときは、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂が水系溶媒に分散している水系分散液を、接着剤成分を含む水性接着剤液として用いればよい。この水系分散液も、水及びアルコールよりなる水系溶媒に、微粒子状のポリオレフィン樹脂を分散させて準備すればよい。アルコールを併用するのは、前記したのと同様の理由であり、かつ微粒子状のポリオレフィン樹脂の分散性を向上させるためである。また、使用するアルコールも、前記したのと同様の理由で、エタノール等の低級アルコールであるのが好ましい。
【0021】
微粒子状の抗ウイルス剤に対する脂肪酸(塩)の配合割合は、微粒子状の抗ウイルス剤100質量部に対して、脂肪酸(塩)が1〜80質量部が好ましく、特に1〜40質量部が好ましい。
【0022】
シート状物としては、不織布、紙、編織物、プラスチックフィルム、金属箔等の任意の素材のものが用いられる。タオルやカーテン等の素材として用いられるシート状物には、不織布や編織物を多いので、これらを用いるのが好ましい。本発明では、抗ウイルス剤の接着性(抗ウイルス剤の付着量やその接着力)の向上を目的として、ポリオレフィン樹脂微粒子からなる接着剤成分を併用することがあるため、不織布や編織物としても、ポリオレフィン系繊維よりなるものを用いるのが好ましい。ポリオレフィン系繊維としては、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維を挙げることができる。特に、不織布の場合には、芯成分が高融点のポリエステルよりなり、鞘成分が低融点のポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンよりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維を用いると、鞘成分のみの融着によって長繊維相互間が結合させて不織布を得ることができ、風合いを硬化させずに、形態安定性のよい不織布が得られるからである。
【0023】
本発明に係る抗ウイルス剤担持シートは、任意の用途に用いられる。たとえば、シート状物として不織布や編織物を用いた場合には、不織布や編織物が従来用いられている種々の用途、たとえばカーテン、包帯、手術用ガウン、ベッドシーツ、タオル、手袋、カーペット、エアーコンディショナーのフィルター材等に用いることができる。また、シート状物として紙を用いた場合にも、紙が従来用いられている種々の用途、たとえば壁紙やペーパータオル等に用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る抗ウイルス剤担持シートは、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、炭素数5〜18の脂肪酸(塩)と共に、シート状物に付着せしめられている。炭素数5〜18の脂肪酸(塩)は、微粒子状の抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。したがって、豚インフルエンザウイルス等のウイルスが担持シートに付着しても、長時間に亙ってヒドロキシラジカルによるウイルスの不活化が可能となる。よって、本発明に係る抗ウイルス剤担持シートは、抗ウイルス活性が長時間持続するという効果を奏する。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤と炭素数5〜18の脂肪酸(塩)を併用すると、ヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになるとの知見に基づくものとして、理解されるべきである。
【0026】
実施例1
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)4.5gが水25.5gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール13.2gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)0.225gを水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液2.25gを前記水性分散液に添加し、十分に攪拌して混合した。その後、攪拌しながら、下記方法によって調製されたポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液(固形分濃度25質量%)2.7gをゆっくり添加混合した。さらにその後、ステアリン酸粉末0.45gを添加し攪拌して混合し、スラリー液を得た。このスラリー液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約9質量%であり、ポリビニルアルコールの濃度は約0.5質量%であり、ポリオレフィン樹脂微粒子の濃度は約1質量%であり、ステアリン酸の濃度は約1質量%である。
【0027】
[ポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液の調製]
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、100gのポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、商品名「ボンダイン HX−8290」)、有機溶媒として120gのエタノール、塩基性化合物として3.36gの85%水酸化カリウム及び170gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌し、ポリオレフィン樹脂微粒子を水中に浮遊させた。そして、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴に漬けて、回転速度300rpmを保ったまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した。最後に、300メッシュのステンレス製フィルター(平織組織で線径0.035m)を用いて加圧濾過(空気圧0.25MPa)した。得られたポリオレフィン樹脂微粒子が分散した水系分散液は乳白色であり、微粒子の数平均粒子径は約0.06μmであった。
なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂は、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%より構成された共重合体であり、融点は81℃のものである。
【0028】
上記方法で得られたスラリー液を、スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名「エルベス SO503WDO」、目付50g/m2)上にバーコーターを用いて塗布した後、120℃で90秒間乾燥して、スパンボンド不織布(シート状物)に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片1を得た。ここで用いているスパンボンド不織布は、芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維で構成されたものであり、部分的にポリエチレンの融着によって生じた熱融着区域を持っているものである。なお、スパンボンド不織布に対する抗インフルエンザウイルス剤、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン樹脂微粒子及びステアリン酸の付着量は、合計約20g/m2であり、各々は以下のとおりであった。すなわち、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約15g/m2であり、ポリビニルアルコールの付着量は約0.75g/m2であり、ポリオレフィン樹脂微粒子の付着量は約2.25g/m2であり、ステアリン酸の付着量は約1.5g/m2であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対するステアリン酸の付着量は約10質量部である。
【0029】
実施例2
ステアリン酸粉末の添加量を0.225gに変更する他は、実施例1と同様の方法で試験片2を得た。試験片2において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約5質量部である。
【0030】
実施例3
ステアリン酸粉末の添加量を0.135gに変更する他は、実施例1と同様の方法で試験片3を得た。試験片3において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約3質量部である。
【0031】
実施例4
ステアリン酸粉末の添加量を0.045gに変更する他は、実施例1と同様の方法で試験片4を得た。試験片4において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約1質量部である。
【0032】
比較例1
ステアリン酸粉末を添加しない他は、実施例1と同様の方法で対照試験片を得た。対照試験片において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して0質量部である。
【0033】
[抗インフルエンザウイルス活性評価]
抗インフルエンザウイルス活性は炭酸ガスと接触すると低下していくことが知られているため、実施例1〜4及び比較例1で得られた試験片を所定時間炭酸ガスに接触させた後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。具体的には、二酸化炭素インキュベーター(31℃、二酸化炭素濃度20%に設定)内に、試験片を静置し、30分間隔で試験片を切り出した。そして、抗インフルエンザウイルス活性と試験片のpHとの間に相関関係があること、すなわち、抗インフルエンザウイルス活性があると試験片にチモールフタレイン指示薬を噴霧すると発色することが知られているため、切り出した試験片にチモールフタレイン指示薬を噴霧し、20分経過後の発色の有無を観察した。この結果を以下の基準で三段階で評価し、表1に示した。
○・・・発色あり
△・・・一部発色あり
×・・・発色なし
【0034】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
切出時間 試験片1 試験片2 試験片3 試験片4 対照試験片
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0分 ○ ○ ○ ○ ○
30分 ○ ○ ○ ○ ○
60分 ○ ○ ○ ○ ×
90分 ○ ○ ○ △ ×
120分 ○ ○ △ △ ×
150分 ○ △ △ × ×
180分 ○ △ △ × ×
210分 ○ △ × × ×
240分 ○ △ × × ×
270分 △ △ × × ×
300分 △ × × × ×
330分 △ × × × ×
360分 △ × × × ×
390分 △ × × × ×
420分 △ × × × ×
480分 △ × × × ×
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0035】
実施例5
ステアリン酸粉末に代えて、カプリル酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片5を得た。試験片5において、カプリル酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0036】
実施例6
ステアリン酸粉末に代えて、ラウリン酸粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片6を得た。試験片6において、ラウリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0037】
実施例7
ステアリン酸粉末に代えて、ミリスチン酸粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片7を得た。試験片7において、ミリスチン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0038】
実施例8
ステアリン酸粉末に代えて、パルミチン酸粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片8を得た。試験片8において、パルミチン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0039】
実施例9
ステアリン酸粉末に代えて、オレイン酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片9を得た。試験片9において、オレイン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0040】
実施例10
ステアリン酸粉末に代えて、リノール酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片10を得た。試験片10において、リノール酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0041】
実施例11
ステアリン酸粉末に代えて、ステアリン酸ナトリウム粉末を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片11を得た。試験片11において、ステアリン酸ナトリウムの付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0042】
実施例12
ステアリン酸粉末に代えて、ステアリン酸溶液を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片12を得た。試験片12において、ステアリン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
実施例12で用いたステアリン酸溶液は、ステアリン酸粉末0.45gを8.5gのエタノールに溶解させたものであり、このステアリン酸溶液約9gを使用した。
【0043】
実施例13
ステアリン酸粉末に代えて、吉草酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片13を得た。試験片13において、吉草酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0044】
実施例14
ステアリン酸粉末に代えて、カプロン酸(液状)を用いる他は、実施例1と同様の方法で試験片14を得た。試験片14において、カプロン酸の付着量は、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部である。
【0045】
試験片5〜14について、前記した[抗インフルエンザウイルス活性評価]を行い、その結果を表2に示した。
[表2]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試 験 片
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
切出時間 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 30分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 60分 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 90分 ○ ○ ○ △ ○ ○ △ ○ ○ ○ 120分 ○ ○ △ △ ○ ○ × ○ ○ ○ 150分 ○ △ △ △ ○ ○ × △ ○ ○ 180分 ○ △ △ △ ○ ○ × △ ○ ○ 210分 ○ △ △ △ △ ○ × × ○ ○ 240分 ○ △ △ × △ △ × × ○ ○ 270分 ○ △ △ × △ △ × × ○ ○ 300分 ○ × △ × × × × × ○ ○ 330分 ○ × △ × × × × × ○ ○ 360分 ○ × △ × × × × × ○ ○ 390分 ○ × × × × × × × ○ ○ 420分 ○ × × × × × × × ○ ○ 480分 ○ × × × × × × × △ △ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0046】
実施例15
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)4.5gが水25.5gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール13.2gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。この水性分散液に、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体(楠本化成社製、商品名「ネオレッツ R−600」、固形分濃度33質量%)を6.35g添加し、十分に攪拌して混合した。その後、攪拌しながら、ステアリン酸粉末0.45gを添加し攪拌して混合し、スラリー液を得た。このスラリー液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約9質量%であり、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂の濃度は約4質量%であり、ステアリン酸の濃度は約1質量%である。
【0047】
このスラリー液を用いて、実施例1と同一の方法で試験片15を得た。この試験片15は、抗インフルエンザウイルス剤が接着剤成分であるポリエーテル型ポリウレタン樹脂によって、スパンボンド不織布に接着していた。また、ステアリン酸の付着量は、試験片1と同様に、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部であった。
【0048】
実施例16
ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体に代えて、架橋ポリメタクリル酸メチル樹脂水性分散体(積水化成品工業社製、商品名「テクポリマー XX−1872Z」、固形分濃度20質量%)を用いる他は、実施例15と同様にして試験片16を得た。試験片16のステアリン酸付着量も、試験片1と同様に、抗インフルエンザウイルス剤100質量部に対して約10質量部であった。
【0049】
試験片15及び16について、前記した[抗インフルエンザウイルス活性評価]を行い、その結果を表3に示した。
[表3]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
切出時間 試験片15 試験片16
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0分 ○ ○
30分 ○ ○
60分 ○ ○
90分 ○ ○
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0050】
表1〜3の結果から分かるように、抗インフルエンザウイルス剤に炭素数5〜18の脂肪酸(塩)を含有させて得られた試験片1〜16は、それを含有させていない対照試験片に比べて、抗インフルエンザウイルス活性が長時間に亙って有効であることが分かる。特に、ステアリン酸粉末、カプリル酸、吉草酸又はカプロン酸を用いたものは、抗インフルエンザウイルス活性がより長期に亙って有効であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤及び炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩をシート状物に付着させたことを特徴とする抗ウイルス剤担持シート。
【請求項2】
抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤である請求項1記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項3】
脂肪酸が、ステアリン酸又はカプリル酸である請求項1記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項4】
抗ウイルス剤が接着剤成分によってシート状物に付着せしめられている請求項1記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項5】
接着剤成分がポリビニルアルコール及び/又はポリオレフィン樹脂である請求項4記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂が、以下に示す(A1)及び(A2)を含むモノマーを共重合してなる共重合体である請求項5記載の抗ウイルス剤担持シート。
(A1):不飽和カルボン酸又はその無水物
(A2):炭素数2〜6のアルケン
【請求項7】
シート状物が不織布又は編織物である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項8】
不織布の構成繊維が芯鞘型複合長繊維であって、芯成分がポリエステルであり、鞘成分がポリオレフィンである請求項7記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項9】
微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させた水性分散液に、接着剤成分を含む水性接着剤液を添加混合した後、さらに粉末状又は液状の炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩を添加混合するか、或いは炭素数5〜18の脂肪酸又はその塩を水及び/又はアルコールに溶解した脂肪酸溶液を添加混合して得られたスラリー液を、シート状物に付与した後、該スラリー液中の水及びアルコールを蒸発させることを特徴とする抗ウイルス剤担持シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−31115(P2012−31115A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173206(P2010−173206)
【出願日】平成22年7月31日(2010.7.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】