説明

抗マラリア薬の精製および濃縮方法

【課題】対象となる過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に対する結合能を有する抗体を新たに創製し、創製された抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤を選択的に濃縮、精製する方法を提供する。
【解決手段】対象となる過酸化物誘導体型の抗マラリア剤、例えば、3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステルに対する結合能を有する抗体として、該過酸化物誘導体と類似する構造を有する3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸に対する抗体のうち、該過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に対する交叉反応性を示すものを選択し、抗原抗体反応を介して、対象の過酸化物誘導体を選択的に抗体に結合させ、濃縮、精製を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗マラリア薬の有効成分として使用される、過酸化物誘導体に対する結合能を有する抗体を利用して、該過酸化物誘導体を選択的に濃縮し、精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリア(Malaria)は、マラリア原虫(Plasmodium spp.)が病原体である、原虫感染症である。マラリア(Malaria)に感染すると、高熱や頭痛、吐き気などの症状を呈する。悪性の場合、意識障害や腎不全などを起こし、死亡に至ることもある。病原体である、マラリア原虫(Plasmodium spp.)の感染は、ハマダラカ(Anopheles spp.)によって媒介されるため、その感染地域は、ハマダラカが生息する、熱帯から亜熱帯に広く分布している。
【0003】
ヒトの病原体となるものは、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、卵形マラリア原虫(P. ovale)の四種である。特に、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアは症状が重い。地球温暖化に起因する亜熱帯域の拡大に伴って、ハマダラカの生息域が拡大する結果、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの感染地域も拡大している。
【0004】
近年では、漢方薬を由来としたチンハオス系薬剤が副作用、薬剤耐性が少ないとされ、マラリア治療の第一選択薬として広く使用されている。前記チンハオス系薬剤は、アーテミシニン(artemisinin)と、その誘導体、類縁体で代表され、分子内にジオキシ結合(−O−O−)を具えている、過酸化物の誘導体である。なお、アーテミシニン(artemisinin)は、下記の構造を有している。
【0005】
【化1】

【0006】
前記アーテミシニン系抗マラリア剤には、薬効の持続時間が短いという欠点がある。そのため、熱帯熱マラリアの治療においては、アーテミシニン系抗マラリア剤と、ルメファントリンと併用して用いられる。ルメファントリンは3日から6日の半減期を持つ。このアーテミシニン系抗マラリア剤と、他の抗マラリア剤を併用するマラリアの治療法は、ACT(artemisinin-based combination therapy)と呼ばれている。
【0007】
なお、従来の過酸化物型の抗マラリア薬では、その血中濃度が、最大20μMとなる範囲に投与量が選択されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006)
【非特許文献2】Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006)
【非特許文献3】Malaria Journal 2008,7:9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、現在、薬効の持続時間の延長を目的として、新たな過酸化物誘導体型の抗マラリア剤の開発も進められている。開発が進められている、新たな過酸化物誘導体型の抗マラリア剤は、化学合成される化合物であり、医薬品として使用する上では、高純度に精製することが必須である。特に、生産コストを抑える上では、目的の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤の高純度精製を少ない工程で達成することが可能な精製手法の開発が望まれる。
【0010】
医薬品として使用される化合物の精製手段として、各種のクロマトグラフィー法が利用されている。特には、対象の化合物に対して、高い選択性を示す親和性クロマトグラフィー法を応用することで、対象の化合物を選択的に濃縮、精製する手法が好適に利用されている。
【0011】
例えば、各種のペプチド化合物の単離、精製手段として、対象のペプチド化合物に対する特異的な抗体が利用可能である場合、抗原抗体反応によって、対象のペプチド化合物をその特異的な抗体に結合させ、単離、精製する手法が、汎用されている。前記抗原抗体反応によって、抗原性化合物とその特異的抗体とで形成される複合体は、解離平衡状態にある。抗原性化合物とその特異的抗体の間の結合は、分子間結合であり、結合解離剤を作用させることにより、形成されている複合体から、抗原性化合物を解離させ、回収することができる。
【0012】
過酸化物誘導体型の抗マラリア剤は、低分子化合物であり、それ自体は免疫原性を示さないため、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に特異的抗体は、一般に利用できないため、抗体を利用する親和性クロマトグラフィー法は応用されていない。仮に、該過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に対して選択的な結合能を有する抗体が入手できれば、この選択的な結合能を有する抗体を利用する、親和性クロマトグラフィー法は、該過酸化物誘導体型の抗マラリア剤を選択的に濃縮、精製する手法となる。
【0013】
実際、抗マラリア剤自体、感染者の体内に存在する病原体のマラリア原虫が完全に除去されるまでの期間、長期、反復投与が可能な薬剤であることが必須要件であり、それ自体は、免疫原性を示さないことが必須である。そのため、それ自体は免疫原性を示さない、過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に対する特異的抗体の作製は、これまでなされていない。
【0014】
本発明は、前記の課題を解決するものである。すなわち、本発明の目的は、対象となる過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に対する結合能を有する抗体を新たに創製し、創製された抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤を選択的に濃縮、精製することが可能な、親和性クロマトグラフィー精製方法を提供することにある。
【0015】
本発明の目的は、例えば、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤として、下記の式(I)に示される過酸化物に対する結合能を有する抗体を新たに創製し、創製された抗体を利用して、抗原抗体反応を応用して、該式(I)に示す過酸化物誘導体型の抗マラリア剤を選択的に濃縮、精製することが可能な、親和性クロマトグラフィー精製方法を提供することにある。
【0016】
3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester):
【0017】
【化2】

【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、先ず、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤に対する結合能を有する抗体を新たに創製する手法を検討した。
【0019】
対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア剤自体は免疫原性を示さないことは、既に判明している。一方、免疫原性を持たない低分子量化合物であっても、キャリア・タンパク質上に該低分子量化合物を結合させ、該低分子量化合物により修飾された修飾タンパク質とすると、免疫原として機能する場合がある(非特許文献1:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。この手法を利用して、免疫原性を持たない低分子量化合物に対して特異的な反応性を示す抗体を作製した事例は少なくないが、全ての低分子量化合物に対して有効というものではない。すなわち、修飾タンパク質において、該低分子量化合物が結合されている部位が、実際に、免疫原性を示すか否かは、その部位の立体構造に依存するため、全ての低分子量化合物に対して有効というものではない。
【0020】
実際に、本発明者らも、例えば、式(I)のエステル化合物を構成する、カルボン酸部分を、キャリア・タンパク質上に結合させ、得られる修飾タンパク質を利用して、マウスの免疫を試みたが、該カルボン酸部分に対する反応性を有する抗体の創製には成功しなかった。
【0021】
さらに、本発明者らは、抗原抗体反応においては、抗体は、本来の抗原と類似する構造を有する物質に対しても反応性を示す現象、所謂、交叉反応性を示す場合があることに着目した。すなわち、対象の低分子量化合物に代えて、該低分子量化合物と類似する構造を有する抗原に対する特異的な抗体を多数種創製すると、この多数種の抗体群のうちに、対象の低分子量化合物に対して、交叉反応性を示す抗体が存在する可能性があることに想到した。
【0022】
本発明者らは、実際に、式(I)のエステル化合物において、特徴的な構造は、そのカルボン酸部分であり、該カルボン酸部分と構造的な類似性を有する低分子量化合物多数種のうち、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示すものを探索した。次いで、探索された、修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫することで創製される抗体多数種のうち、式(I)のエステル化合物に対して、交叉反応性を示す抗体が存在するか、否かについて、探索を行った。上記の二段回の探索過程を実施したところ、幸運にも、下記の式(II)に示す化合物が、キャリア・タンパク質上に結合された際、得られる修飾タンパク質が免疫原性を示し、該修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫することで創製される抗体多数種のうちに、交叉反応性を示す抗体が存在することが見出された。
【0023】
3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)
【0024】
【化3】

【0025】
具体的には、式(II)に示す化合物をキャリア・タンパク質上に結合させて得られる修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫することで創製された、式(II)に示す化合物に対する抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞株を作製し、この一群のハイブリドーマ細胞株から、式(I)のエステル化合物に対して、交叉反応性を示す抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞株数種を選別することができた。
【0026】
この選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体は、少なくとも、免疫動物として利用したマウスの内因性物質とは、交叉反応性を示さないが、式(II)に示す化合物と、式(I)のエステル化合物に対する反応性を具えていることが確認された。加えて、本発明者らは、選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体は、少なくとも、式(I)のエステル化合物と複合体を形成するが、例えば、アセト二トリルなどの結合解離剤を作用させると、該複合体から式(I)のエステル化合物を解離させることが可能であることも確認した。
【0027】
なお、前記修飾タンパク質を免疫原として、マウスを免疫すると、該マウスの血液中には、式(II)に示す化合物に対する特異的な抗体が複数種存在している。この免疫を施したマウスから採取した血液から調製される血漿は、式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体を含有している。前記の式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体も、式(I)のエステル化合物に対する交叉反応性を示すことも確認された。
【0028】
以上の一連の知見に加えて、本発明者らは、前記の式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体中には、式(I)のエステル化合物の合成過程で使用される原料化合物や、副生産物に対する結合能を示す抗体は含まれていないことも確認した。結論として、選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体に加えて、前記の式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体も、式(I)のエステル化合物を選択的に結合させ、濃縮、単離する用途に利用可能であることが確認された。
【0029】
すなわち、選別されたハイブリドーマ細胞株数種が産生するモノクローナル抗体、あるいは、免疫を施したマウスから採取される式(II)に示す化合物に対する特異的なポリクローナル抗体を担体上に固定化し、親和性クロマトグラフ・カラム剤を作製し、該抗体を利用する親和性クロマトグラフ・カラム剤を応用して、式(I)のエステル化合物を選択的に濃縮、単離することができることを検証した。
【0030】
本発明者らは、上述する一連の知見、ならびに、検証結果に基づき、本発明を完成させた。
【0031】
すなわち、本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法は、
溶液中に含まれる下記の式(I)に示す構造を有するエステル化合物:3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)を濃縮、精製する方法であって、
【0032】
【化4】

【0033】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体を担体表面に固定化してなる、抗体固定化担体に、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物を含有する溶液を接触させ、抗原抗体反応によって、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物を、前記抗体固定化担体の表面に固定化されている抗体に結合させる工程と、
前記溶液を、該抗体固定化担体から分離する工程と、
前記分離工程後、該抗体固定化担体に、結合解離剤を含有する溶出液を接触させ、前記抗体固定化担体の表面に固定化されている抗体に結合されている、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を、前記結合解離剤の作用により解離させる工程と、
前記解離工程後、前記結合解離剤を含有する溶出液中に移行している、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を含む、前記溶出液を回収する工程と、
回収される前記溶出液中に含まれる、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を、該溶出液から分離して、濃縮する工程とを含む
ことを特徴とする濃縮、精製方法である。
【0034】
特には、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体であり、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対して交叉反応性を有することが好ましい。
【0035】
その際、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)であることが好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
上記の構成において、
本発明の第一の形態では、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対して交叉反応性を有する抗体である。
【0038】
本発明の第二の形態では、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対して交叉反応性を有する抗体である。
【0039】
本発明の第一の形態、ならびに、第二の形態においては、
前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスであることが好ましい。
【0040】
また、前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することが好ましい。
【0041】
本発明の第一の形態、ならびに、第二の形態においては、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、その分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を選択し、
該分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の結合がなされていることが好ましい。
【0042】
その際、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされていることが好ましい。
【0043】
本発明にかかる濃縮、精製方法では、
前記結合解離剤を含有する溶出液として、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を溶解可能な、親水性の有機溶媒を、前記結合解離剤として含有する水性溶液を用いることが望ましい。
【0044】
例えば、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を溶解可能な、親水性の有機溶媒として、アセトニトリルを選択することができる。
【0045】
一方、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体を担体表面に固定化してなる、抗体固定化担体は、
該担体の基材はシリカゲルであり、該シリカゲル基材の表面には、プロテインAまたはプロテインGによる修飾がなされており、
該担体表面への抗体の固定は、該シリカゲル基材の表面を修飾しているプロテインAまたはプロテインGによる、該抗体分子の固定化によって達成されている形態を選択できる。
【0046】
本発明の第二の形態では、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 15B-1E(FERM ABP−11126)が産生する、前記式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0047】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法では、過酸化物誘導体型の抗マラリア薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体、あるいは、ポリクノーナル抗体を利用しており、該モノクローナル抗体、あるいは、ポリクノーナル抗体の該過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対する交叉反応性によって、抗原抗体反応を介して、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を選択的に抗体と結合させ、濃縮、精製することが可能である。例えば、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬が、3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)である際には、該エステル化合物と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対するモノクローナル抗体、あるいは、ポリクノーナル抗体を利用しており、該モノクローナル抗体、あるいは、ポリクノーナル抗体の該過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対する交叉反応性によって、抗原抗体反応を介して、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を選択的に抗体と結合させ、濃縮、精製することが可能である。特には、本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法を応用することによって、化学合成により作製される、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の高純度精製を再現性よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる濃縮、精製方法において利用可能な、3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対するポリクローナル抗体の、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を示すグラフである。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる濃縮、精製方法において利用可能な、3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)に対するモノクローナル抗体の、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)に対する交叉反応性をELISA法により評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法に関して、詳細に説明する。
【0050】
まず、本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法に利用される、過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対する結合能を有する抗体と、その製造方法に関して、より詳しく説明する。
【0051】
低分子量の有機化合物に対する抗体を創製する手段として、対象の低分子量の有機化合物自体は免疫原性を示さない場合、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法がある(非特許文献1:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))。
【0052】
具体的には、低分子量の有機化合物が反応性の官能基、例えば、アミノ基(−NH2)、ヒドロキシル基(−OH)、スルファニル基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)を具えている場合、該反応性の官能基を利用して、他の反応性官能基を有する有機化合物を共有結合的に連結することが可能である。キャリア・タンパク質は、複数のアミノ酸残基が連結されてなるペプチド鎖で構成される、三次元構造を有しているが、その表面には、側鎖上に反応性官能基を有するアミノ酸残基が複数個存在している。従って、三次元構造を有している、キャリア・タンパク質の表面に存在する、アミノ酸残基の側鎖上の反応性官能基を利用して、反応性の官能基を具えている、低分子量の有機化合物を結合させることが可能である。この表面に低分子量の有機化合物に因る修飾が施された、修飾キャリア・タンパク質は、非天然型タンパク質分子であり、哺乳動物自体の内因性タンパク質分子と相違する、異質な物質として、認識される頻度が高い。特に、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位は、免疫原性を発揮する頻度が高い。修飾キャリア・タンパク質表面の、低分子量の有機化合物に因る修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する場合、該修飾キャリア・タンパク質を用いて、哺乳動物を免疫すると、該修飾キャリア・タンパク質に対する、特異的な抗体が創製される。
【0053】
該修飾キャリア・タンパク質の表面において、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)が複数存在する可能性がある。その場合、前記複数の免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)のそれぞれに特異的な抗体複数種が創製される。創製された、修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちには、その修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体が存在する頻度が高い。修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能に基づき、スクリーニングを行うことで、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体を、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)とする抗体を選別することが可能である。
【0054】
但し、修飾キャリア・タンパク質の表面に存在する抗原決定基に対して、高い交叉反応性を示す抗体を、免疫対象の哺乳動物が既に保持している場合には、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。すなわち、免疫対象の哺乳動物が既に保持している抗体が示す高い交叉反応性を利用して、該修飾キャリア・タンパク質に対する免疫反応が可能である場合、この交叉反応性を示す抗原決定基に対する、新たな抗体の創製は起こらない。
【0055】
さらには、修飾が施された部位が、免疫原性を発揮する部位(抗原決定基)として機能する場合であっても、該抗原決定基に特異的な抗体は、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に対する結合能は高くない場合も、少なくない。
【0056】
すなわち、前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を利用して、修飾に利用した低分子量の有機化合物自体に特異的な抗体を創製できる、否かは、下記の要因に依存している。具体的には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造、利用するキャリア・タンパク質との組み合わせ、ならびに、該キャリア・タンパク質上への結合形態、その修飾部位の選択、以上4つの要因に依存している。
【0057】
実際には、対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造は既に決定されているため、残る3つの要因に関して、適切な組み合わせを選択できるか、否かは、多分に偶然性に依存したものである。すなわち、キャリア・タンパク質上への結合形態、その修飾部位は、利用するキャリア・タンパク質の種類に依存しており、また、対象の低分子量の有機化合物が有する反応性官能基の種類によって、制限される。対象の低分子量の有機化合物自体の立体構造によっては、残る3つの要因に関して、適切な組み合わせが選択できない場合もある。
【0058】
一方、過酸化物誘導体型の抗マラリア薬自体が、その分子内に反応性官能基を保持していない場合には、上記の前記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法を適用できない。勿論、過酸化物誘導体型の抗マラリア薬は、低分子量の有機化合物であり、それ自体は免疫原性を示さない。
【0059】
そのため、本発明では、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数を創製し、その類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体多数のうち、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対して交叉反応性を有する抗体を選別する方法を採用している。
【0060】
以下に、対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬として、下記の式(I)に示す構造を有するエステル化合物:3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステルを例に採り、本発明で利用される抗体の作製方法をより具体的に説明する。
【0061】
【化6】

【0062】
式(I)に示すエステル化合物の構造的特徴は、そのスピロ環構造そのものである。このスピロ環構造の特徴を具え、分子内に反応性官能基を有する、低分子量の過酸化物型化合物のうち、哺乳動物自体に対する毒性は高くなく、また、キャリア・タンパク質上に結合させる際、そのスピロ環構造を保持可能なものを探索した。
【0063】
その探索の結果、毒性が低い抗マラリア薬剤としての利用が検討されている、低分子量の過酸化物型化合物の一群のうち、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)が前記の要件を満足する候補として、選択された。
【0064】
【化7】

【0065】
本発明では、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の分子内に存在する反応性官能基である、カルボキシル基(−COOH)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、特に、アミノ基(−NH2)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させることで、キャリア・タンパク質の表面に結合させる形態を選択することが好ましい。
【0066】
その際、キャリア・タンパク質は、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献1:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質を利用することができる。キャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)などが好適に利用できる。
【0067】
キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する場合、免疫操作を施した哺乳動物中では、該修飾キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される。その際、利用するキャリア・タンパク質自体も、一般に、免疫原性を具えているため、該修飾キャリア・タンパク質中の修飾部位に特異的な抗体以外に、キャリア・タンパク質自体の抗原決定基に特異的な抗体の創製もなされる。
【0068】
その点を考慮すると、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質に対して、未修飾のキャリア・タンパク質の混入比率が低いことが好ましい。勿論、未修飾のキャリア・タンパク質の混入が無い、修飾キャリア・タンパク質を使用することがより好ましい。
【0069】
一方、利用されるキャリア・タンパク質上には、対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾を行うことが可能な部位(修飾可能部位)が、一般に、複数箇所存在している。この修飾可能部位は、それぞれ、反応性官能基が存在しているが、その反応性には、一般に、差違が存在している。従って、反応性の高い修飾可能部位から優先的に、対象の低分子量の有機化合物の結合が進行し、対象の低分子量の有機化合物が消費されるため、反応性の低い修飾可能部位に対して、対象の低分子量の有機化合物の結合が達成される効率は一層低下する傾向がある。キャリア・タンパク質上に存在する、複数の修飾可能部位の全てに、対象の低分子量の有機化合物の結合を達成させるためには、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、複数の修飾可能部位の合計に対して、相当に過剰な量に選択することが望ましい。例えば、キャリア・タンパク質上に存在する、修飾可能部位がN箇所である場合、反応に使用する対象の低分子量の有機化合物の量は、キャリア・タンパク質1分子当たり、最低限、N分子が必要であるが、少なくとも、少なくとも、50分子以上、好ましくは、60分子以上に選択することが望ましい。
【0070】
免疫操作は、該対象の低分子量の有機化合物を結合させた、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液を、例えば、免疫対象の哺乳動物に対して、注射により投与することにより行うことが望ましい。その注射による投与の形態では、皮下注射、皮内注射、静脈注射、または腹腔内投与の形態が利用可能である。通常、皮下注射によって、前記溶液を投与する。その際、前記修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。通常、該アジュバンドとしては、従来から免疫操作に利用されているアジュバンドが利用できる。利用可能なアジュバントとしては、フロイント完全アジュバントや水中油中水型乳剤、水中油乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバンドがある。フロイント完全アジュバンドは、汎用されており、本発明でも、好適に利用できる。例えば、初回の免疫操作(感作)時には、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましい。
【0071】
また、免疫操作では、初回の免疫操作(感作)後、所定の期間が経過した時点で、追加免疫を行う。この追加免疫においても、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を含む溶液に、各種のアジュバンドを添加することが好ましい。例えば、追加免疫時にも、該アジュバンドとして、フロイント完全アジュバントを利用することが好ましいが、フロイント不完全アジュバントを利用することでも、相当の効果が得られる。
【0072】
初回の免疫操作(感作)後、実施される追加免疫は、複数回行うことが望ましい。その間隔は、前回の免疫操作(感作)に対する免疫反応に伴う、血液中の抗体濃度が極大を示し、抗体濃度の減少期となった時点で、追加免疫を行うことが望ましい。前回の免疫操作(感作)後、血液中の抗体濃度が極大に達するまでの日数は、通常、用いる免疫原の体内での代謝速度に依存する。従って、追加免疫の間隔は、用いる免疫原の種類、対象の免疫動物の種類、その健康状態に依存する。マウスなどの小動物を免疫動物に利用する際には、初回の免疫操作(感作)後、例えば、2週間、4週間、6週間、8週間後に、追加免疫を実施する形態を選択できる。
【0073】
科学的には、免疫対象の哺乳動物の種類は問わないが、倫理的な観点から、ヒト以外の哺乳動物から選択する。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を創製する場合、免疫対象の哺乳動物に利用可能な、ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、ヤギなどを選択することができる。
【0074】
免疫対象の哺乳動物としては、該修飾キャリア・タンパク質に対して、交叉反応性を示す抗体を既に保持している哺乳動物は好ましくない。すなわち、当該免疫対象の哺乳動物は、後天的に獲得した免疫が無い個体であることが、一般に好ましい。前記の要件を考慮すると、各種の免疫原性物質に曝される機会が本質的にない環境下において、出産後、生育された哺乳動物を利用することが好ましい。あるいは、出産後、免疫操作を施すことが可能な程度に生育するまでの期間が短い哺乳動物を利用することが好ましい。これらの条件を考慮すると、医学的な研究に利用される、血統的に確立されている小型の哺乳動物を利用することがより好ましい。具体的には、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどが好ましく、特には、マウスまたはラット、更には、マウスを利用することがより好ましい。
【0075】
免疫操作に先立ち、免疫動物として利用される、ヒト以外の哺乳動物において、該修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、キャリア・タンパク質自体の免疫原性と、該キャリア・タンパク質に対する特異的な抗体が創製される免疫条件を予め調査することが望ましい。上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献1:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に利用されている、各種のキャリア・タンパク質に関しては、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、前記の事項は、既に調査されており、その報告が利用できる。
【0076】
また、上記のキャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を免疫原に利用する手法(非特許文献1:Chemistry Letters, Vol.35, No.10, p.1126-1127(2006))において、既に報告されている成功例を参照して、各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどについて、修飾キャリア・タンパク質の免疫有効量を相当の確度で推定することも可能である。
【0077】
各種の新規な抗体の創製に利用されている、マウス、ラット、ラビットなどに対する、免疫操作の手順は、既に報告されている成功例で利用された手順に沿って、選択することが望ましい。
【0078】
免疫対象の哺乳動物として、マウスまたはラットを選択する場合、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、その後の追加免疫の回数、その間隔を考慮して、選択される。具体的には、複数回の追加免疫を終了した後、当該免疫動物の血液中に、免疫原に特異的な抗体が存在することを検証する必要がある。従って、複数回の追加免疫を終了する時点で、当該免疫動物が抗体を生産する能力が低下する齢に達しないように、初回の免疫操作(感作)を実施する齢を選択することが好ましい。初回の免疫操作(感作)後、複数回の追加免疫を終了するまでの期間を、8週間程度に選択する場合、マウスまたはラットでは、初回の免疫操作(感作)を実施する齢は、10〜15週齢の範囲に選択することが好ましく、通常、12週齢程度に選択することがより好ましい。マウスまたはラットでは、12週齢程度に達すると、十分な抗体を生産する能力を有しており、新規な抗体を創製する能力が最も高くなることが知られている。
【0079】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物は、公知の化合物であり、その合成方法は、文献に既に報告されている(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。該式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物は、室温において、固体であるため、キャリア・タンパク質上に該化合物を結合させる反応は、該化合物を溶解可能な反応溶媒を利用して実施する必要がある。一方、利用されるキャリア・タンパク質は、溶媒の種類によっては、変性を受ける場合がある。従って、利用されるキャリア・タンパク質の変性を引き起こさず、同時に、該化合物を溶解可能な反応溶媒を選択する必要がある。
【0080】
従来、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、修飾キャリア・タンパク質を調製する際に利用された、各種の反応溶媒中から、前記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を溶解可能な反応溶媒を選択することが好ましい。実際に、前記の反応溶媒の選択を進めたところ、特に、好ましい反応溶媒として、ジメチルスルホン(DMSO:(CH32SO)とホウ酸緩衝液が選択された。
【0081】
ジメチルスルホン(DMSO:(CH32SO)は、非水溶媒であるが、キャリア・タンパク質を変性させずに溶解可能であり、また、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を相当に高濃度で溶解可能な溶媒である。
【0082】
また、ホウ酸緩衝液は、その緩衝作用が発揮できるpH領域は、6.8〜9.2の範囲であるが、上記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物を溶解可能な溶媒系としては、通常、pHを8.2〜8.7の範囲に選択する組成、特には、pHを、8.5前後に調整可能な組成を選択することが好ましい。
【0083】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の分子内に存在する反応性官能基である、カルボキシル基(−COOH)を利用して、キャリア・タンパク質表面に存在する反応性官能基、特に、アミノ基(−NH2)との間で、アミド結合(−CO−NH−)を形成させる場合、カルボジイミドを利用するアミド結合形成法を利用することが好ましい。カルボジイミドを利用するアミド結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド(EDC)、N−[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDAC)などを利用することができる。該結合剤カルボジイミドの量は、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物1分子当たり、5分子〜20分子の範囲に選択することが好ましい。
【0084】
一方、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の使用量は、キャリア・タンパク質の表面に露呈する、アミノ基(−NH2)の総数に基づき、決定する。その際、キャリア・タンパク質1分子の表面に露呈する、アミノ基(−NH2)の総数がN個である場合、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の使用量を、該キャリア・タンパク質1分子当たり、N×3分子〜N×10分子の範囲に選択することが好ましい。その結果として、該キャリア・タンパク質1分子当たり、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物が、1/2×N分子〜N分子の範囲で、結合している、修飾キャリア・タンパク質を調製することが望ましい。
【0085】
本発明では、上記の免疫操作に利用する、免疫原として、キャリア・タンパク質上に対象の低分子量の有機化合物を結合させ、得られる修飾キャリア・タンパク質を利用している。免疫操作によって、新たに創製される、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、先ず検証する。
【0086】
上記の最終回の追加免疫を終了した後、免疫原として利用する、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体の血液中濃度の有意な上昇が見出される時点で、当該免疫動物から採血し、採取した血液から、抗血清を調製する。この抗血清中に含まれる、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうちに、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体が実際に存在することを、検証する。
【0087】
すなわち、該低分子量の有機化合物自体を抗原決定基とする、ポリクローナル抗体の有無を検証する。複数種の抗体を含有している抗血清中に、特定の抗原決定基に特異的に結合する抗体が存在することを検証する手段としては、酵素免疫測定法(ELISA法)が好適に利用される。酵素免疫測定法(ELISA法)は、特定の抗原決定基に対する抗体の特異的な反応性を利用するため、選択性が高く、特に、抗血清中に含有されている、特定の抗原決定基に対する抗体の濃度が不明な場合に、その抗体価を簡便に評価することが可能である。
【0088】
本発明では、利用したキャリア・タンパク質上に結合していない、該低分子量の有機化合物自体に対しても高い反応性を示す抗体の検出を行うため、酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原として、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を利用する。勿論、その別種のキャリア・タンパク質自体は、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種と反応しないことが必要である。
【0089】
免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質と、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質を、免疫原の作製に好適に利用されるキャリア・タンパク質の群から、互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせを選択することが好ましい。
【0090】
前記のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該キャリア・タンパク質自体の抗原決定基は、通常、相違しており、該修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が、前記別種のキャリア・タンパク質自体に反応性を示す可能性を排除できる。また、前記の互いに相違する二種のキャリア・タンパク質の組み合わせでは、該低分子量の有機化合物を結合可能な部位の局所的な構造(部分アミノ酸配列)が実質的に一致する可能性も極めて低い。従って、前記の組み合わせでは、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種のうち、該低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質に対して結合能を示す抗体は、該低分子量の有機化合物自体に結合する抗体と見做すことができる。
【0091】
特に、前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ブロッキング用タンパク質として、汎用されるウシ血清アルブミンを選択し、一方、免疫原の作製に利用されるキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミン以外の汎用のキャリア・タンパク質、例えば、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択することがより好ましい。前記の酵素免疫測定法(ELISA法)で利用する、修飾キャリア・タンパク質型の抗原の作製に利用される別種のキャリア・タンパク質として、ウシ血清アルブミンを選択すると、その修飾キャリア・タンパク質型の抗原の、ウシ血清アルブミン部分に非選択的に抗体分子が結合する現象も排除される。さらに、ウシ血清アルブミンをキャリア・タンパク質とする、該修飾キャリア・タンパク質型の抗原は、ELISAプレート上に、高密度で固定することが可能である。
【0092】
取得された抗血清中に、免疫原の作製に利用している、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有する抗体が存在することを検証した後、該低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するポリクローナル抗体が、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)自体に対して、交叉反応性を示すか否かを検証する。
【0093】
本発明において、前記抗体の交叉反応性の検証は、二種の抗原の抗体に対する競合反応を利用することが好ましい。
【0094】
目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)自体は、低分子量の有機化合物であり、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。また、上記の免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物も、抗体との抗原抗体反応を行う際、その結合は、抗体分子の相補性決定部位の一つにより達成されると考えられる。
【0095】
従って、抗体が交叉反応性を有する場合、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物との結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位と、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)自体の結合に関与する、該抗体分子の相補性決定部位とは一致する可能性が極めて高い。その場合、該抗体分子の相補性決定部位に、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)が結合すると、免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物の結合を阻害する。この競争阻害の現象を利用することで、当該抗体分子の特定の相補性決定部位に対して、交叉反応性を示すか否かを検証することができる。
【0096】
具体的には、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性に検証に利用した、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を、ELISAプレート上に固定化する。一方、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)は、該ELISA法において、抗原抗体反応を行わせる反応液中に、ポリクローナル抗体の含む抗血清とともに溶解させる。
【0097】
上記の競合反応が進行すると、前記反応液中に存在する、交叉反応性を示す抗体は、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)と抗原抗体反応する結果、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子の量が減少する。この競合反応に起因する、プレート上に固定化されている、修飾キャリア・タンパク質型の抗原との抗原抗体反応を介して、固定化される抗体分子量の減少を、酵素免疫測定法(ELISA法)を応用して検出する。
【0098】
この手法を利用することで、抗血清中に含有される、上記の免疫原の修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対するポリクローナル抗体中、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)と交叉反応性を示す抗体が含まれることを検証することができる。
【0099】
換言すると、前記の検証がなされた抗血清は、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有するポリクローナル抗体を含むものである。
【0100】
前記の目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)と交叉反応性を示す抗体を産生していることの検証がなされた免疫動物の抗体産生細胞群を採取し、この抗体産生細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0101】
通常、前記の検証がなされた免疫動物から、その脾臓を摘出して、脾臓細胞群を調製する。この脾臓細胞群と、骨髄腫由来の細胞株の細胞とを細胞融合させ、一群のハイブリドーマ細胞を作製する。
【0102】
前記の細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株は、融合対象である、免疫動物由来の脾臓細胞と適合性を有することが必要である。また、細胞融合で創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能は、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株に依っており、増殖能力の優れた骨髄腫由来の細胞株を利用することが好ましい。
【0103】
例えば、免疫動物として、マウスを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、マウスの骨髄腫由来の細胞株である、P3X63 Ag8.653、P3X63Ag8U、Sp2/O Ag14、FO・1、S194/5.XX0 BU.1等が好適に使用される。特に、細胞株P3X63Ag8Uの利用は、創製されるハイブリドーマ細胞の増殖能が高く、また、該ハイブリドーマ細胞の産生する抗体分子は、適正な組み立てがなされた全抗体であり、組み立ての完了していない抗体分子の断片を含まないので、より好ましい。
【0104】
例えば、免疫動物として、ラットを選択する場合、細胞融合に利用される、骨髄腫由来の細胞株として、ラットの骨髄腫由来の細胞株、210、RCY3.Ag1.2.3、YB2/0などが挙げられる。
【0105】
上記のハイブリドーマ細胞を創製するための細胞融合の手法として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。ポリエチレングリコール法は、細胞毒性が少なく、融合操作も容易であり、特に、再現性が高いので、本発明により適している。すなわち、本発明では、免疫原の修飾キャリア・タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体を産生する、一群のハイブリドーマ細胞のうち、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選別する必要がある。創製される、一群のハイブリドーマ細胞のうち、前記の交叉反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞が含まれる頻度は、決して高く無いので、スクリーニング対象の一群のハイブリドーマ細胞の細胞株数(母数)を大きくする必要がある。従って、より再現性の高い細胞融合手法を選択することが好ましく、ポリエチレングリコール法は、前記の要請に適合している。
【0106】
創製された、一群のハイブリドーマ細胞は、分散した上で、マイクロプレートに分注して、利用した骨髄腫由来の細胞株に応じて、適宜選択される公知の培養条件で増殖させる。上記の培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株が産生するモノクローナル抗体について、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)と交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0107】
培養により確立される、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株について、各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清を採取する。各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清は、該細胞株の産生するモノクローナル抗体を含んでいる。
【0108】
各ハイブリドーマ細胞の細胞株の培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するか、否かを先ず検証する。
【0109】
その検証には、該類似の構造を有する低分子量の有機化合物を、別種のキャリア・タンパク質の表面に結合させた、別種の修飾キャリア・タンパク質を抗原とする、酵素免疫測定法(ELISA法)による検証手法が利用できる。その具体的な測定法は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の反応性に関する検証と、原理的には同じである。
【0110】
この検証によって、一群のハイブリドーマ細胞の細胞株中から、免疫操作に利用される、修飾キャリア・タンパク質の作製に利用される、類似の構造を有する低分子量の有機化合物自体に対する反応性を有するモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。この一次スクリーニングで選別される、ハイブリドーマ細胞の細胞株の群について、該ハイブリドーマ細胞の細胞株の産生するモノクローナル抗体は、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、すなわち、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体か否かを検証する。
【0111】
この交叉反応性に関する検証は、上記の抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性に関する検証と、原理的には同じ手法を適用することで行うが可能である。
【0112】
前記目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、すなわち、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性の検証(二次スクリーニング)によって、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、すなわち、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞の細胞株が選別される。なお、選択されるモノクローナル抗体のタイプは、酵素免疫測定法(ELISA法)に利用される、抗Ig抗体の示す抗体タイプ特異性に依存する。
【0113】
この二次スクリーニングによって、選別されるハイブリドーマ細胞の細胞株を使用して、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を生産することができる。
【0114】
選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株のin vitro細胞培養を行い、その培養上清を回収し、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。また、選別されたハイブリドーマ細胞の細胞株を、免疫に利用したヒト以外の哺乳動物の腹腔内に接種すると、該腹腔内で増殖し、腹水内に産生されたモノクローナル抗体が蓄積される。その後、該腹水を採取して、含有されるモノクローナル抗体を精製することができる。
【0115】
腹水または培養上清中に含まれる、モノクローナル抗体の精製は、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法,エタノール分画法などを、適宜組み合わせ、目的の純度まで精製を施す。望ましい純度は、95%以上、より好ましくは98%以上である。例えば、目的とする過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を、当該過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製に利用する際には、夾雑物に対する反応性を具える抗体が混入すると、その濃縮効率、精製純度を低減させる要因となる。その点を考慮すると、前記の純度まで精製を行うことが望ましい。
【0116】
加えて、本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対する結合能を有する抗体、例えば、上記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有する抗体、特に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)に対する抗体中から選別される、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を有する抗体においては、下記式(III)の過酸化物に対する交叉反応性を実質的に示さないものが好ましい。
【0117】
【化8】

【0118】
すなわち、前記式(III)の過酸化物に対しても交叉反応性を示す抗体は、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)と式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)に特徴的なスピロ環構造に対する特異的な反応性を有していない可能性がある。上記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有する抗体を、該式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を選択的に検出する目的に利用する場合、スピロ環構造に対する特異的な反応性を有していることが必要である。その観点では、前記式(III)の過酸化物に対しても交叉反応性を示す抗体は、必ずしも、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)と式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)に共通している、スピロ環構造に対する特異的な反応性を有していると判断できない。
【0119】
上記式(III)の過酸化物に対する交叉反応性を実質的に示さないとは、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を基準として、式(III)の過酸化物に対する交叉反応性が、1/20以下であることを意味する。式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を基準として、式(III)の過酸化物に対する交叉反応性が、1/100以下であることがより望ましい。
【0120】
(受託番号)
なお、
本発明に利用される、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 15B-1Eが、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託(平成21年 5月12日付け)がなされている。
【0121】
【表1】

【0122】
上記のハイブリドーマ細胞株は、後述する第二の実施態様に開示する手順によって、創製され、選別されたハイブリドーマ細胞株である。なお、ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 15B-1Eは、後述のモノクローナル抗体mAb−m004を産生するハイブリドーマ細胞株である。
【0123】
本発明においては、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を利用することで、下記の構成を有する親和性クロマトグラフィー濃縮、精製方法とすることが好ましい。
【0124】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法は、抗原抗体反応を利用して、溶液中に含まれる対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を濃縮、精製する方法である。親和性クロマトグラフィー法を応用する、該濃縮、精製方法は、通常、
前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対する結合能を有する抗体を担体表面に固定化してなる、抗体固定化担体に、該対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を含有する溶液を接触させ、抗原抗体反応によって、該対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を、前記抗体固定化担体の表面に固定化されている抗体に結合させる工程と、
前記溶液を、該抗体固定化担体から分離する工程と、
前記分離工程後、該抗体固定化担体に、結合解離剤を含有する溶出液を接触させ、前記抗体固定化担体の表面に固定化されている抗体に結合されている、前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を、前記結合解離剤の作用により解離させる工程と、
前記解離工程後、前記結合解離剤を含有する溶出液中に移行している、前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を含む、前記溶出液を回収する工程と、
回収される前記溶出液中に含まれる、前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を、該溶出液から分離して、濃縮する工程とを含む。
【0125】
前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬に対する結合能を有する抗体を担体表面に固定化してなる、抗体固定化担体は、下記の手法を利用して作製することが好ましい。
【0126】
前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬が、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)であるので、上記の方法に従って調製される、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有する抗体を利用する。
【0127】
その際、本発明の第一の形態では、上記の手順に従って、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで調製される、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対して交叉反応性を有する抗体を利用する。
【0128】
本発明の第二の形態では、上記の手順に従って、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで調製される、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対して交叉反応性を有する抗体を利用する。
【0129】
一般に、ポリクローナル抗体は、対象の抗原に対する抗原抗体反応性に差違を有する抗体複数種で構成され、その構成比率もバラツキを示すことが少なくない。一方、モノクローナル抗体は、本質的に、単一種類の抗体であり、対象の抗原に対する抗原抗体反応性は均一である。この点を考慮すると、モノクローナル抗体を利用することが、一般に望ましい。
【0130】
抗体を担体表面に固定化し、抗体固定化担体を作製する際、通常、該抗体(免疫グロブリン)分子の定常領域、すなわち、抗体のFc部位を利用して、担体表面に固定化する。該担体表面への固定化は、抗体(免疫グロブリン)分子の定常領域、すなわち、抗体のFc部位に結合するリンカーを介して行う。予め、該担体表面に前記リンカーを修飾しておき、このリンカーと抗体のFc部位を結合させる。
【0131】
従って、固定化担体自体は、従来の抗体固定化担体の作製に広く利用されている、シリカゲルやニトロセルロースを主成分とする担体の表面に、前記リンカーを予め修飾したものとすることが好ましい。また、リンカーとして、抗体分子の固定化に広く利用されている、プロテインGやプロテインAが好適に利用できる。
【0132】
抗体固定化担体の抗体との抗原抗体反応によって、結合されている抗原分子は、結合解離剤を含有する溶出液を接触させることで、該抗体から解離させる。一般に、抗体と抗原分子との結合の解離に利用される、結合解離剤としては、強酸、強アルカリ、尿素、キレート剤、界面活性剤、有機溶媒などが利用されている。一方、抗体と前記リンカーとの結合を解離させる機能を有する結合解離剤の利用は、一般に望ましくない。なお、前記の結合解離剤のうち、併用可能なものに関しては、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0133】
前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する、結合解離剤としては、該式(I)に示すエステル化合物(TATP2)自体に対する反応性を持たないものを利用する。すなわち、該式(I)に示すエステル化合物(TATP2)自体は、過酸化物誘導体であるので、結合解離剤として、有機溶媒を利用することが好ましい。
【0134】
特には、抗体と前記リンカーとの結合を解離させることなく、抗体に結合している、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を解離することが可能な有機溶媒を利用することが好ましい。なお、溶出液として利用する際、結合解離剤として利用する有機溶媒は、水性溶液の形状とする。そのため、水と均一な溶液を形成する有機溶媒であることが好ましい。前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する、結合解離剤として好適に利用可能な有機溶媒として、アセトニトリル、ジメチルスルホン、エタノール、ホルムアミド等が挙げられる。特に、アセトニトリルは、抗体(免疫グロブリン)分子の変性を引き起こす懸念が少なく、また、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する良好な溶媒であり、結合解離剤として、より好ましい。
【0135】
溶出工程後、回収される前記溶出液中に含まれる、前記対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬を、該溶出液から分離して、濃縮する。
【0136】
具体的には、回収される溶出液では、抗体と結合しない夾雑物は除去される結果、溶質物質中における、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)の比率は相対的に高くなっている。該溶出液中には、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)以外に、水性溶液を構成する溶媒成分が含まれている。この溶出液中に含まれる溶媒成分を除去することで、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)の濃縮がなされる。上記の結合解離剤として好適に利用可能な有機溶媒は、蒸散によって除去可能であり、その点でも、好ましい結合解離剤である。
【0137】
なお、抗原抗体反応を利用して、試料溶液中に含まれる抗原分子を抗体分子と結合させ、分離する手法は、例えば、表面プラズモン測定装置においても、利用されている。表面プラズモン測定装置における、固定化された抗体を利用する、試料溶液中に含まれる抗原分子の結合も、本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法の特殊な形態に相当している。その際、表面プラズモン測定装置として、例えば、ビアコア(株)社製の表面プラズモンを利用するBIACOREシリーズの装置は、操作性および信頼性の面から、好適に利用できる。
【0138】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法について、以下に、代表的な実施態様を例に挙げ、本発明をより具体的に説明する。
【0139】
以下に例示する各実施態様の具体例は、本発明の最良の実施形態の一例であるが、本発明の技術的範囲は、該具体例に例示する形態に限定されるものではない。
【0140】
(第一の実施態様)
以下に説明する、本発明の第一の実施態様にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法では、濃縮、精製対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬として、下記の式(I)に示す構造を有するエステル化合物:3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)を選択している。
【0141】
【化9】

【0142】
(i) 式(I)に示す構造を有するエステル化合物の合成
本発明の第一の実施形態における、濃縮、精製対象の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬である、式(I)に示す構造を有するエステル化合物:3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)の合成法を説明する。以下、式(I)に示す構造を有するエステル化合物をTATP2と略称する。
【0143】
式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)の合成法は、文献に既に報告されている(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。合成される式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)の精製手法と、その純度の評価方法も、該文献に開示されている。
【0144】
一方、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)を構成するカルボン酸部分に相当する、3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid)の合成も、前記文献の開示に従って、行うことができる。
【0145】
該式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)は、熱帯熱マラリアの治療に利用可能な、過酸化物誘導体型の抗マラリア剤として、ヒトに投与可能である。その際、従来の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の血中濃度は最大20μMの範囲に選択されているので(非特許文献3)、ヒトの血液中における、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)の濃度も、好ましくは、前記の範囲に選択される。
【0146】
(ii) 式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物の合成
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物(TATP2)における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)の合成法を説明する。以下、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物をTATP3と略称する。
【0147】
【化10】

【0148】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)の合成法は、文献に既に報告されている(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。合成される式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)の精製手法と、その純度の評価方法も、該文献に開示されている。
【0149】
式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)において、そのスピロ環構造:7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデカンの環上の9位の炭素原子と、12位の炭素原子は、ともに、不斉中心(キラル中心)となっている。該9位の炭素原子と、12位の炭素原子の立体配置に関して、(9R、12S)と表記可能なメソ体型のジカルボン酸化合物(TATP3)は、二回回転対称性を有する立体構造を具えている。該9位の炭素原子と、12位の炭素原子の立体配置に関して、(9R、12R)と表記可能なシス体型のジカルボン酸化合物(TATP3)は、対称面を有する立体構造を具えている。
【0150】
本第一の実施態様では、前記二種の立体異性体が混合したものを利用している。なお、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)自体は、免疫原性を示さない。
【0151】
なお、式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)も、熱帯熱マラリアの治療に利用可能な、過酸化物誘導体型の抗マラリア剤の一種である。なお、従来の過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の血中濃度は最大20μMの範囲に選択されているので(非特許文献3)、該式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)においても、その治療効果を発揮する上では、その血液中の濃度は、好ましくは、前記の範囲に選択される。
【0152】
(iii) キャリア・タンパク質上への式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物(TATP3)の固定
キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択している。
【0153】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の二種の修飾キャリア・タンパク質を調製し、免疫操作に利用する免疫原とした。
【0154】
(iii-a) 修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)の調製
反応溶媒として、DMSO((CH32SO:和光純薬工業社製)を用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。
【0155】
DMSOに溶解したTATP3、10mg/0.3mlと、DMSOに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)、10mg/1.7mlとを混合する。混合した後、DMSOに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0156】
該DMSOを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−DMSO(TATP3−KLH−DMSO免疫原)溶液とした。
【0157】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が結合される。
【0158】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)上には、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が、平均して、150〜200箇所結合している。すなわち、キャリア・タンパク質KLH表面のリジン残基側鎖のアミノ基に対して、TATP3が結合されている状態に相当する。
【0159】
(iii-b) 修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0160】
ホウ酸バッファーとDMSOの混合液に溶解したTATP3、10mg/(0.3mlDMOS+0.2mlホウ酸バッファー)と、ホウ酸バッファーに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン、10mg/1.5mlとを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0161】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−ホウ酸バッファー(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液とした。
【0162】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が結合される。
【0163】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)上には、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)が、平均して、150〜200箇所結合している。
【0164】
(iv) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)により修飾された、抗原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)を選択している。
【0165】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本第一の実施態様では、下記の修飾キャリア・タンパク質を調製し、抗体の反応性の確認に利用する抗原とした。
【0166】
抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、牛血清アルブミン(BSA)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0167】
DMSOに溶解したTATP3、10mg/0.1mlと、純水に溶解した牛血清アルブミン(BSA)、30mg/1.5mlと、ホウ酸バッファー0.9mlを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.25mlを添加する。
【0168】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に5時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.3mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液とした。
【0169】
(v) 免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いる免疫操作
対象のヒト以外の哺乳動物に対して、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いて、感作を行う。本第一の実施態様では、免疫操作を施す、ヒト以外の哺乳動物として、マウス(SLC:C57BL/6)を選択している。
【0170】
また、免疫には、上記の二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質を混合し、フロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を添加した溶液を用いる。該溶液の組成は、0.01mlのTATP3−DMSO(TATP3−KLH−DMSO免疫原)溶液、0.01mlのTATP3−ホウ酸バッファー(TATP3−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液、0.07mlのPBS、およびは0.01mlのフロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を均一に混合したものである。
【0171】
感作(免疫操作)は、前記溶液1.0mlを、12週齢のマウス(SLC:C57BL/6)に皮下注射を行うことで行った。初回感作(初日)後、22日目、35日目、および49日目に、それぞれ、前記溶液1.0mlを皮下注射し、追加免疫を実施した。
【0172】
初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したマウスから採血を行った。採血された血液から、抗血清を調製した。
【0173】
(vi) 取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体の交叉反応性の検証
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体が、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すことを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0174】
取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体は、免疫操作に利用した、上記二種の免疫原用修飾キャリア・タンパク質に特異的な抗体複数種が混在していると推定される。該ポリクローナル抗体中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することを先ず検証する。
【0175】
具体的には、キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代えて、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体が存在することを、ELISA法を利用して検証する。
【0176】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0177】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0178】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「バッファー」と表記する測定結果は、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0179】
上記のTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応している抗体である。従って、取得された抗血清中に含まれるポリクローナル抗体中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することが検証された。
【0180】
次に、取得された抗血清のポリクローナル抗体中に含まれる、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体が存在することを、競合ELISA法を利用して検証する。
【0181】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が100ppmとなるように、TATP2のPBS溶液を50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATP2の終濃度100ppmは、0.41mMに相当している。
【0182】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATP2と抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0183】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0184】
また、TATP2のPBS溶液に代えて、PBSを加えて、同様に反応を行う。
【0185】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0186】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。図1中に、「TATP2」と表記する測定結果は、上記のTATP2が共存している状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応した抗体の量に相当している。
【0187】
図1に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATP2と抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、該ポリクローナル抗体中に含まる、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示す抗体複数種のうちに、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0188】
従って、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された。
【0189】
また、前記抗マウスIgG−POD標識抗体は、マウスIgG1型抗体に特異性を有しており、前記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体のタイプは、IgG1型であることが確認された。
【0190】
図1には、4種類の抗血清、すなわち、同じスケジュールで免疫操作を施した4匹の異なるマウスから採取した血液から調製した抗血清に対する検証結果、プレート1〜プレート4を併せて示している。
【0191】
式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体を含有することが検証された、抗血清を利用して、抗体固定化担体を作製する。作製される抗体固定化担体は、その表面には、該抗血清中に含まれるポリクローナル抗体が固定化される。該抗血清中に含まれる抗体を、プロテインAで修飾されたシリカゲル(同仁化学研究所製のIgG Purification kit−A)に固定化した。その固定化方法は、前記プロテインAで修飾されたシリカゲルに付された、供給元の取扱説明書に従った。固定化された抗体は、約0.2mgである。
【0192】
式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を含有する、未精製の溶液として、文献(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))に既に報告されている合成工程中、合成反応の終了後、濃縮操作を施していない状態の液を利用している。前記合成反応の収率は18%であり、該未精製の溶液は、反応溶媒の酢酸エチル(EtOAc)中に、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)以外に、残余する原料化合物、副次反応生成物が含有されている。
【0193】
この未精製の溶液、約1ml中に、作製された抗体固定化担体を投入して、室温で30分間放置する。濾過して、液中の抗体固定化担体(シリカゲル)を濾紙で回収する。回収された抗体固定化担体(シリカゲル)を、20%(v/v)のアセトニトリル溶液中に投入し、室温で30分間放置する。その後、濾過して、20%(v/v)のアセトニトリル溶液を回収する。
【0194】
回収されたアセトニトリル溶液を乾燥させ、該溶液中に溶解している溶質成分を、固形物として分取する。分取した固形物を構成する化合物について、エレクトロスプレーイオン化法で質量分析スペクトルを測定した。また、固形物を構成する化合物の結晶を作製し、X線結晶解析を行った。その結果、該分取した固形物を構成する化合物の質量分析スペクトルは、目的とする3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステルの質量分析スペクトルと一致していた。また、X線結晶解析の結果からも、目的とする3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステルであることが検証された。
【0195】
従って、該抗血清中に含まれるポリクローナル抗体を利用して作製した、抗体固定化担体を用いることで、前記未精製の溶液中に含有される、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)の濃縮、精製を行えることが確認された。
【0196】
(第二の実施態様)
以下に説明する、本発明の第二の実施態様でも、濃縮、精製対象となる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬として、上記式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を選択している。
【0197】
本第二の実施態様では、上記の第一の実施態様において、取得された抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることが検証された、マウスの抗体生産細胞群を利用して、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマ細胞の作製を行っている。
【0198】
上記第一の実施態様に記載する手順に従って、初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したマウスから採血を行い、採血された血液から、抗血清を調製し、該抗血清のポリクローナル抗体中には、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体が存在していることを検証する。この検証がなされた、初回感作(初日)後、66日目のマウスから、脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製する。
【0199】
調製されたマウスの脾臓細胞と、P3−X63−Ag8−Uマウスミエローマ細胞とを、細胞数5:1の比率で、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)中、重合度1500の50%ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製)存在下で、37℃、2分間混合し、細胞融合させる。前記細胞融合処理後、得られるハイブリドーマ細胞は、HAT培地(20%牛胎児血清)に懸濁した後、マイクロプレートに分注する。該マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、炭酸ガスインキュベータ中、37℃、5%CO2の条件で培養する。前記培養中、4日に1回の割合で、培地の半量を、新しいHT培地(10%牛胎児血清)に交換する。
【0200】
HAT培地は、RPMI1640培地に、HATサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本第二の実施態様では、RPMI1640培地1ml当たり、HATサプリメント20μlを添加している。
【0201】
HT培地は、RPMI1640培地に、HTサプリメント(インビトロジェン社製)を適量添加したものである。本第二の実施態様では、RPMI1640培地1ml当たり、HTサプリメント20μlを添加している。
【0202】
上記の培養条件で、マイクロプレートに分注した、ハイブリドーマ細胞を、2週間培養して、それぞれハイブリドーマ細胞株を確立した。
【0203】
次に、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に産生されているモノクローナル抗体が、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの確認を行った。さらに、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であることの検証がなされたもののうち、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示す抗体の選別を行った。
【0204】
(a) 式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体であるか、否かの検証
具体的には、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体が、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体であるか、否かを、ELISA法を利用して検証する。
【0205】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に、モノクローナル抗体を反応させる。
【0206】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0207】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0208】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に、モノクローナル抗体を反応させる。
【0209】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0210】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0211】
上記のTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対する反応性を有するモノクローナル抗体は、牛血清アルブミン(BSA)上に結合されている、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応しているモノクローナル抗体である。
【0212】
このスクリーニング手順に従って、各ハイブリドーマ細胞株の培養上清中に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体が存在するか、否かの検証を行った。その結果、ハイブリドーマ細胞株合計13クローン中、13クローンが式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応しているモノクローナル抗体を産生していることが確認された。
【0213】
(b) 式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別
前記(a)の一次スクリーニングで選別された、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体を、競合ELISA法を利用して選別する。
【0214】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、終濃度が100ppmとなるように、TATP2のPBS溶液を50μl加える。次いで、選別された各ハイブリドーマ細胞株の培養上清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に抗体を反応させる。なお、反応液中に含まれるTATP2(分子量274.3)の終濃度100ppmは、0.41mMに相当している。
【0215】
前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATP2と抗体との間で抗原抗体反応が進行すると、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じる。結果的に、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応を介して、プレート上に固定化される抗体の量が減少する。
【0216】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0217】
抗原抗体反応時に、プレート上の液中に、TATP2を添加していない場合と比較し、TATP2を添加した際に、前記酵素反応による反応産物の濃度が減少を示す結果が得られると、TATP2を添加した際に、競合が生じていると判断される。すなわち、かかる競合が生じている場合、そのハイブリドーマ細胞株の培養上清中に含まれるモノクローナル抗体は、TATP2に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体と判断できる。
【0218】
このスクリーニング手順に従って、(a)の一次スクリーニングで選別された、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体複数種から、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体の選別を行った。
【0219】
その結果、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体が複数種選別された。図2に、この二次スクリーニングにより、選別されたモノクローナル抗体複数種のうち、4種のモノクローナル抗体:mAb−m001〜mAb−m004について、測定結果を一例として、示す。
【0220】
図2中に、「バッファー」と表記する測定結果は、上記(a)の一次スクリーニングにおけるELISA法による測定結果、すなわち、TATP2が存在していない状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。図2中に、「100ppm TATP2」と表記する測定結果は、上記のTATP2が共存している状況において、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)に対して、反応したモノクローナル抗体の量に相当している。
【0221】
図2に示す結果は、前記の反応時、プレート上の液中に、添加されている、TATP2とモノクローナル抗体との間で抗原抗体反応が進行するため、プレート上に固定化されている、TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)との抗原抗体反応と、競合が生じていることを明確に示している。すなわち、該4種のモノクローナル抗体は、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)自体に反応性を示すモノクローナル抗体であり、さらに、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体でもあることを検証する結果である。
【0222】
従って、前記の(a)の一次スクリーニングと、(b)の二次スクリーニングによって、選別されるモノクローナル抗体は、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体であることが確認された。
【0223】
なお、図2に示す結果は、抗原抗体反応を行う反応液中に、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を終濃度0.41mMとなるように添加すると、
mAb−m001〜mAbm004では、少なくとも、その90%程度は、TATP2と結合している
ことを示唆する結果である。
【0224】
上記のスクリーニングにより選択された、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体、mAb−m002抗体を利用して、抗体固定化担体を作製する。該mAb−m002抗体を、プロテインAで修飾されたシリカゲル(同仁化学研究所製のIgG Purification kit−A)に固定化した。その固定化方法は、前記プロテインAで修飾されたシリカゲルに付された、供給元の取扱説明書に従った。固定化された抗体は、約0.2mgである。
【0225】
式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を含有する、未精製の溶液として、文献(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))に既に報告されている合成工程中、合成反応の終了後、濃縮操作を施していない状態の液を利用している。前記合成反応の収率は18%であり、該未精製の溶液は、反応溶媒の酢酸エチル(EtOAc)中に、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)以外に、残余する原料化合物、副次反応生成物が含有されている。
【0226】
この未精製の溶液、約1ml中に、作製された抗体固定化担体を投入して、室温で30分間放置する。濾過して、液中の抗体固定化担体(シリカゲル)を濾紙で回収する。回収された抗体固定化担体(シリカゲル)を、20%(v/v)のアセトニトリル溶液中に投入し、室温で30分間放置する。その後、濾過して、20%(v/v)のアセトニトリル溶液を回収する。
【0227】
回収されたアセトニトリル溶液を乾燥させ、該溶液中に溶解している溶質成分を、固形物として分取する。分取した固形物を構成する化合物について、エレクトロスプレーイオン化法で質量分析スペクトルを測定した。また、固形物を構成する化合物の結晶を作製し、X線結晶解析を行った。その結果、該分取した固形物を構成する化合物の質量分析スペクトルは、目的とする3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステルの質量分析スペクトルと一致していた。また、X線結晶解析の結果からも、目的とする3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステルであることが検証された。
【0228】
従って、モノクローナル抗体、mAb−m002抗体を利用して作製した、抗体固定化担体を用いることで、前記未精製の溶液中に含有される、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)の濃縮、精製を行えることが確認された。
【0229】
(参考例1)
本参考例1では、第二の実施態様のスクリーニングにより選択された、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を示すモノクローナル抗体、mAb−m003抗体を利用して、抗体固定化担体を作製する。該mAb−m003抗体を、プロテインAで修飾されたシリカゲル(同仁化学研究所製のIgG Purification kit−A)に固定化した。その固定化方法は、前記プロテインAで修飾されたシリカゲルに付された、供給元の取扱説明書に従った。固定化された抗体は、約0.2mgである。
【0230】
式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)を含有する、未精製の溶液として、文献(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))に既に報告されている合成工程中、合成反応の終了後、濃縮操作を施していない状態の液を利用している。前記合成反応の収率は88%であり、該未精製の溶液は、反応溶媒のメタノール(CH3OH)中に、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)以外に、残余する原料化合物、副次反応生成物が含有されている。
【0231】
この未精製の溶液、約1ml中に、作製された抗体固定化担体を投入して、室温で30分間放置する。濾過して、液中の抗体固定化担体(シリカゲル)を濾紙で回収する。回収された抗体固定化担体(シリカゲル)を、20%(v/v)のアセトニトリル溶液中に投入し、室温で30分間放置する。その後、濾過して、20%(v/v)のアセトニトリル溶液を回収する。
【0232】
回収されたアセトニトリル溶液を乾燥させ、該溶液中に溶解している溶質成分を、固形物として分取する。分取した固形物を構成する化合物について、エレクトロスプレーイオン化法で質量分析スペクトルを測定した。また、固形物を構成する化合物の結晶を作製し、X線結晶解析を行った。その結果、該分取した固形物を構成する化合物の質量分析スペクトルは、3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(TATP3)の質量分析スペクトルと一致していた。また、X線結晶解析の結果からも、目的とする3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(TATP3)であることが検証された。
【0233】
従って、モノクローナル抗体、mAb−m003抗体を利用して作製した、抗体固定化担体を用いることで、前記未精製の溶液中に含有される、式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)の濃縮、精製を行えることが確認された。
【0234】
(参考例2)
本参考例2では、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を構成するカルボン酸化合物:3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸をキャリア・タンパク質上に結合してなる修飾キャリア・タンパク質を利用して、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有する抗体の創製を試みた。
【0235】
(d-1) カルボン酸化合物(TATP2’):3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸の調製
該カルボン酸化合物(TATP2’)も公知の化合物であり、その合成方法は、文献に既に報告されている(非特許文献2:Organic & Biomolecular Chemistry Vol.4, p.4431-4436 (2006))。
【0236】
具体的には、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)から、KOHを利用して、該エステル結合(−CO−OEt)をカルボキシル基(−COOH)に変換することで調製される。そして、精製を行い、該カルボン酸化合物(TATP2’)を回収した。
【0237】
(d-2) カルボン酸化合物(TATP2’)により修飾された、免疫原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択している。
【0238】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、該カルボン酸化合物(TATP2’)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本参考例でも、下記の二種の修飾キャリア・タンパク質を調製し、免疫操作に利用する免疫原とした。
【0239】
(d-2-a) 修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)の調製
反応溶媒として、DMSO((CH32SO:和光純薬工業社製)を用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に、該カルボン酸化合物(TATP2’)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。
【0240】
DMSOに溶解した該カルボン酸化合物(TATP2’)、10mg/0.3mlと、DMSOに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン(シグマアルドリッチジャパン社製)、10mg/1.7mlとを混合する。混合した後、DMSOに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0241】
該DMSOを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP2’−DMSO(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)溶液とした。
【0242】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、該カルボン酸化合物(TATP2’)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、該カルボン酸化合物(TATP2’)が結合される。
【0243】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)上には、目的とする該カルボン酸化合物(TATP2’)が、平均して、150〜200箇所結合している。
【0244】
(d-2-b) 修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)上に該カルボン酸化合物(TATP2’)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0245】
ホウ酸バッファーとDMSOの混合液に溶解した該カルボン酸化合物(TATP2’)、10mg/(0.3mlDMOS+0.2mlホウ酸バッファー)と、ホウ酸バッファーに溶解したキーホールリンペツトヘモシアニン、10mg/1.5mlとを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.5mlを添加する。
【0246】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に2時間放置し、引き続き、4℃で12時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.1mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP2’−ホウ酸バッファー(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液とした。
【0247】
上記の結合剤カルボジイミドを利用する反応条件では、キャリア・タンパク質の表面に露呈するアミノ基(−NH2)に対して、該カルボン酸化合物(TATP2’)のカルボキシル基(−COOH)を利用して、アミド結合(−CO−NH−)を形成することで、該カルボン酸化合物(TATP2’)が結合される。
【0248】
なお、上記の反応条件で調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)上には、目的の該カルボン酸化合物(TATP2’)が、平均して、150〜200箇所結合している。
【0249】
また、上記の二種の反応条件で作製された、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)は、上記第二の実施態様で創製された、モノクローナル抗体mAb−m001〜mAbm004と抗原抗体反応を行うことを確認した。
【0250】
(d-3) 該カルボン酸化合物(TATP2’)により修飾された、抗原用修飾キャリア・タンパク質の調製
キャリア・タンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)を選択している。
【0251】
該キャリア・タンパク質上に、カルボジイミド法により、該カルボン酸化合物(TATP2’)を結合させ、修飾キャリア・タンパク質の調製を行った。本参考例では、下記の修飾キャリア・タンパク質を調製し、抗体の反応性の確認に利用する抗原とした。
【0252】
抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)の調製
反応溶媒として、pH8.5のホウ酸バッファーを用いて、牛血清アルブミン(BSA)上に式(II)に示すジカルボン酸化合物(TATP3)をカルボジイミド法によって結合させ、修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)を調製する。該カルボジイミド法による結合形成では、結合剤カルボジイミドとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(和光純薬工業社製)を利用している。pH8.5のホウ酸バッファーは、0.992gのホウ酸(和光純薬工業社製)、1.906gのホウ砂(和光純薬工業社製)、および2.628gのNaCl(和光純薬工業社製)を180mlの純水に溶解させ、NaOHを加えて、pHを8.5に調整した緩衝溶液である。
【0253】
DMSOに溶解した該カルボン酸化合物(TATP2’)、10mg/0.1mlと、純水に溶解した牛血清アルブミン(BSA)、30mg/1.5mlと、ホウ酸バッファー0.9mlを混合する。混合した後、ホウ酸バッファーに溶解した、前記結合剤カルボジイミド、50mg/0.25mlを添加する。
【0254】
該ホウ酸バッファーを反応溶媒とする反応液を、室温に5時間放置し、反応を行った。pHを8に調整した、1Mのグリシン緩衝液(和光純薬工業社製)0.3mlを添加し、反応を停止させた。そして、該液中に含まれる、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質は、PBS(和光純薬工業社製)透析を行って、精製した。調製された修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)と、未反応のキャリア・タンパク質を含む、タンパク質溶液を、TATP2’−BSA(TATP2’−BSA抗原)溶液とした。
【0255】
また、上記反応条件で作製された、修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)は、上記第二の実施態様で創製された、モノクローナル抗体mAb−m001〜mAbm004と抗原抗体反応を行うことを確認した。
【0256】
(d-4) 免疫原用修飾キャリア・タンパク質を用いる免疫操作
対象のヒト以外の哺乳動物に対して、上記の修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を用いて、感作を行う。本参考例でも、免疫操作を施す、ヒト以外の哺乳動物として、マウス(SLC:C57BL/6)を選択している。
【0257】
また、免疫には、上記の修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を混合し、フロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を添加した溶液を用いる。該溶液の組成は、0.01mlのTATP2’−DMSO(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)溶液、0.01mlのTATP2’−ホウ酸バッファー(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)溶液、0.07mlのPBS、およびは0.01mlのフロイント完全アジュバント(フナコシ社製)を均一に混合したものである。
【0258】
感作(免疫操作)は、前記溶液1.0mlを、12週齢のマウス(SLC:C57BL/6)に皮下注射を行うことで行った。初回感作(初日)後、22日目、35日目、および49日目に、それぞれ、前記溶液1.0mlを皮下注射し、追加免疫を実施した。
【0259】
初回感作(初日)後、66日目に、該免疫したマウスから採血を行った。採血された血液から、血清を調製した。
【0260】
(d-5) 取得された血清中に含まれる抗体の反応性の検証
取得された血清中に含まれる抗体が、目的とするカルボン酸化合物(TATP2’)に対する反応性を示すことを、ELISA法を利用して検証する。
【0261】
取得された血清中に抗体は、免疫操作に利用した、上記の修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)に特異的な抗体複数種が混在していると推定される。該ポリクローナル抗体中に、目的とするカルボン酸化合物(TATP2’)自体に特異的な反応性を示す抗体が存在することを検証する。
【0262】
具体的には、キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代えて、牛血清アルブミン(BSA)を用いて作製した、前記抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)に対する反応性を有する抗体が存在することを、ELISA法を利用して検証する。
【0263】
1000倍に希釈したTATP2’−BSA(TATP2’−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP2’−BSA(TATP2’−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、PBSを50μl加える。次いで、取得された抗血清を、PBSで100倍に希釈した液、50μlを加える。室温で2時間放置し、該TATP2’−BSA(TATP2’−BSA抗原)に抗体を反応させる。
【0264】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)と反応した抗体に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0265】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0266】
上記のELISA法による反応性の検証を行ったところ、前記酵素反応による反応産物の存在が確認されなかった。すなわち、抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−BSA抗原)に対する反応性を示すIgG抗体の存在を示す結果は得られなかった。
【0267】
従って、上記の修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を利用する免疫操作によっては、目的とするカルボン酸化合物(TATP2’)自体に特異的な反応性を示すIgG抗体の創製がなされなかったと判断した。
【0268】
すなわち、上記の修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−DMSO免疫原)と修飾キャリア・タンパク質(TATP2’−KLH−ホウ酸バッファー免疫原)を利用する免疫操作によっては、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を示すIgG抗体の創製がなされなかったと判断した。
【0269】
(参考例3)
本参考例3では、第二の実施態様に記載するモノクローナル抗体mAb−m004に関して、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性を基準として、式(III)の過酸化物(TATP)に対する交叉反応性が、1/20以下であることを検証している。
【0270】
まず、式(III)の過酸化物(TATP)を、溶媒のアセトニトリルに溶解し、濃度100ppmのTATP溶液を調製する。該濃度100ppmは、約0.45mMに相当している。
【0271】
本参考例3でも、前記第二の実施態様に記載する反応条件を使用している。
【0272】
1000倍に希釈したTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)溶液を用い、ELISA測定用のプレートに自然吸着法で、該TATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)を固定化する。未吸着のタンパク質を洗浄、除去した後、ELISA測定用のプレートに、前記TATP溶液を50μl加える。次いで、mAb−m004溶液(抗体濃度:3.8mg/ml)50μlを加える。36℃で30分間放置し、TATPの存在下、プレート上に固定化されているTATP3−BSA(TATP3−BSA抗原)にモノクローナル抗体mAb−m004を反応させる。
【0273】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、3回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、2000倍に希釈した抗マウスIgG−POD標識抗体(フナコシ社製)液、50μlを加える。室温で1時間放置し、プレート上の抗原用修飾キャリア・タンパク質(TATP3−BSA抗原)と反応した抗体mAb−m004に、抗マウスIgG−POD標識抗体を反応させる。
【0274】
反応終了後、ELISA測定用のプレート上の液を除去し、各PBS100μlを用いて、4回洗浄する。前記洗浄後、プレート上に、ELISA用ペルオキシダーゼ基質(TMBZ,フナコシ社製)液、50μlを加える。抗マウスIgG−POD標識抗体の標識酵素ペルオキシダーゼによる、酵素反応を60分間行った後、1Nの硫酸(和光純薬工業社製)50μlを添加し、反応を停止させる。前記酵素反応による反応産物の濃度を、450nmの吸光度を測定することで決定する。
【0275】
前記TATPのアセトニトリル溶液を用いた際には、前記酵素反応による反応産物に起因する450nmの吸光度は、2.996であった。
【0276】
参考例2に記載するように、コントロールのホウ酸バッファーを用いた際には、前記酵素反応による反応産物に起因する450nmの吸光度は、3.031であった。
【0277】
従って、反応液に添加されたTATPと、抗体mAb−m004との抗原抗体反応に因る、450nmの吸光度の減少量は、僅かに0.035と見積もられる。
【0278】
前記参考例2に記載する結果を参照すると、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)を凡そ0.41mM含有すると見積もられた、前記血清試料を用いた際には、前記酵素反応による反応産物に起因する450nmの吸光度は、2.510であった。従って、血清試料中に含有されているTATP2と、抗体mAb−m004との抗原抗体反応に因る、450nmの吸光度の減少量は、0.521であった。
【0279】
該TATPのアセトニトリル溶液中のTATP濃度:約0.45mMと、前記血清試料中に含有されているTATP2濃度:約0.41mMを考慮すると、
モノクローナル抗体mAb−m004の示す交叉反応性は、
TATP2に対する交叉反応性を基準として、TATPに対する交叉反応性は、少なくとも、1/20以下であると判断される。
【0280】
従って、モノクローナル抗体mAb−m004は、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する交叉反応性は有するが、上記式(III)の過酸化物に対する交叉反応性を実質的に示さないことが検証された。
【産業上の利用可能性】
【0281】
本発明にかかる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬の濃縮、精製方法は、対象となる過酸化物誘導体型の抗マラリア薬、例えば、3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)を化学合成した後、医薬品として要求される高純度に精製する目的に、好適に利用可能である。
【受託番号】
【0282】
(受託番号)
本発明に利用される、式(I)に示すエステル化合物(TATP2)に対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 15B-1Eが、ブタペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地中央第6、郵便番号305−8566)に、国際寄託(平成21年 5月12日付け)がなされている。
【0283】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中に含まれる下記の式(I)に示す構造を有するエステル化合物:3-(3-メチル-1,2,4,5-テトラオクサ-スピロ[5.5]アンデック-3-イル)-プロピオン酸エチル エステル(3-(3-methyl-1,2,4,5-tetraoxa-spiro[5.5]undec-3-yl)-propanoic acid ethyl ester)を濃縮、精製する方法であって、
【化1】

前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体を担体表面に固定化してなる、抗体固定化担体に、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物を含有する溶液を接触させ、抗原抗体反応によって、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物を、前記抗体固定化担体の表面に固定化されている抗体に結合させる工程と、
前記溶液を、該抗体固定化担体から分離する工程と、
前記分離工程後、該抗体固定化担体に、結合解離剤を含有する溶出液を接触させ、前記抗体固定化担体の表面に固定化されている抗体に結合されている、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を、前記結合解離剤の作用により解離させる工程と、
前記解離工程後、前記結合解離剤を含有する溶出液中に移行している、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を含む、前記溶出液を回収する工程と、
回収される前記溶出液中に含まれる、前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を、該溶出液から分離して、濃縮する工程とを含む
ことを特徴とする濃縮、精製方法。
【請求項2】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物に対する抗体であり、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対して交叉反応性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の濃縮、精製方法。
【請求項3】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物は、下記の式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物:3-[12-(2-カルボキシエチル)-9,12-ジメチル-7,8,10,11,13,14-ヘキサオクサ-スピロ-[5.8]テトラデック-9-イル]-プロピオン酸(3-[12-(2-carboxyethyl)-9,12-dimethyl-7,8,10,11,13,14-hexaoxa-spiro-[5.8]tetradec-9-yl]-propanoic acid)である
【化2】

ことを特徴とする請求項2に記載の濃縮、精製方法。
【請求項4】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するポリクローナル抗体であり、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の濃縮、精製方法。
【請求項5】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体は、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質を免疫原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫することで創製される、該低分子化合物に対するモノクローナル抗体であり、該式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対して交叉反応性を有する抗体である
ことを特徴とする請求項2または3に記載の濃縮、精製方法。
【請求項6】
前記ヒト以外の哺乳動物は、マウスである
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の濃縮、精製方法。
【請求項7】
前記低分子化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質において、該キャリア・タンパク質として、キーホールリンペツトヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin)を選択する
ことを特徴とする請求項4〜6に記載の濃縮、精製方法。
【請求項8】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物における特徴的な構造と類似性を具えた構造を持つ低分子化合物として、その分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を選択し、
該分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物を、キャリア・タンパク質上に結合させてなる修飾タンパク質は、該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)を介して、前記分子内にカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の結合がなされている
ことを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の濃縮、精製方法。
【請求項9】
該カルボキシル基(−COOH)と前記キャリア・タンパク質上のアミノ基(−NH2)との間でアミド結合(−CO−NH−)の形成は、カルボジイミド法を利用してなされている
ことを特徴とする請求項8に記載の濃縮、精製方法。
【請求項10】
前記結合解離剤を含有する溶出液として、
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を溶解可能な、親水性の有機溶媒を、前記結合解離剤として含有する水性溶液を用いる
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の濃縮、精製方法。
【請求項11】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物を溶解可能な、親水性の有機溶媒として、アセトニトリルを選択する
ことを特徴とする請求項10に記載の濃縮、精製方法。
【請求項12】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体を担体表面に固定化してなる、抗体固定化担体は、
該担体の基材はシリカゲルであり、該シリカゲル基材の表面には、プロテインAまたはプロテインGによる修飾がなされており、
該担体表面への抗体の固定は、該シリカゲル基材の表面を修飾しているプロテインAまたはプロテインGによる、該抗体分子の固定化によって達成されている
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の濃縮、精製方法。
【請求項13】
前記式(I)に示す構造を有するエステル化合物に対する結合能を有する抗体として、
ハイブリドーマ細胞株:NECP-C57Z 15B-1E(FERM ABP−11126)が産生する、前記式(II)に示す構造を有するジカルボン酸化合物に対するモノクローナル抗体を用いる
ことを特徴とする請求項5に記載の濃縮、精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265239(P2010−265239A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119825(P2009−119825)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】