説明

抗住環境真菌剤

【課題】住環境真菌の発育抑制又は除去に有用な抗真菌剤の提供。
【解決手段】次の成分(A)と(B)を組み合わせてなる抗住環境真菌剤。
(A)ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の第4級アンモニウム塩
(B)ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール及び1-フェノキシ-2-プロパノールから選ばれる1種以上の有機溶剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住環境真菌の発育防止又は除去に有用な抗住環境真菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
住居、商業用ビル、病院等の建物の洗濯機、浴室等に生育する真菌、又は衣服に付着する微生物は多数存在する。このうち、子嚢菌門又は不完全菌門等の真菌は、カビ汚れ、カビアレルギー、肺真菌症、皮膚真菌症等の病気の原因となる。したがって、環境衛生上の観点から、このような真菌を効果的に制御する方法が望まれる。
【0003】
有機系抗黴剤としてイミダゾール系化合物(チアベンダゾール等)、フタルイミド系化合物(キャプタン等)、フェノール系化合物(クロルキシレノール等)、ニトリル系化合物(クロロタロニル等)、ピリジン系化合物(ソディウムピリチオン等)、ヨード系化合物(ジヨードメチル-p-トリルスルホン)等が知られ(非特許文献1)、また天然系の抗黴剤として孟宗竹エキス、カラシ油、シナモン油、クローブ油、ヒバ油等の天然精油、テトラヒドロリナロール等の香料が知られる(特許文献1)。しかしながら、水に対する溶解度の低さ、皮膚刺激性、基材損傷性、残留性の点で課題があるものが多く、住環境では使用できなかったり、使用可能であっても効果が不十分であった。同様に、次亜塩素酸ナトリウム等も知られるが、化学物質としての性質上取り扱いの際に制限があった。
【0004】
一方、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール等の抗黴剤とβ−フェノキシエタノールを組み合わせた塗料組成物が、長期にわたり防カビ効果を発揮すること(特許文献2)、アルキルメチルアンモニウムクロライド、2−フェノキシエタノール、エタノール及び/又はイソプロピルアルコールを特定の割合で含有する殺菌剤組成物が、真菌類(Aspergillus nigerAlternaria属、Cladosporium属、Penicillium属)の発育抑制に効果があることが報告されている(特許文献3)が、これらは長期にわたる黴の生育を抑制するもので、短時間での殺菌性は示されていない。またベンジルアルコール等の抗菌活性溶媒と過酸等の抗真菌剤を含有する抗菌組成物が、食品汚染カビであるChaetomium funicolaの菌数減少に有用であること(特許文献4)等が報告されているが、効果的に菌数を減少させる為には加熱が必要であり、常温での効果は示されていない。
【0005】
住環境で問題を引き起こす黴を有効に制御する剤は常温且つ短時間で十分な殺黴効果を発現することが求められる為、この環境においてこれらの効果は十分なものであるとは云えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−21606号公報
【特許文献2】特公平7−100767号公報
【特許文献3】特公平7−80726号公報
【特許文献4】特表2004−508291号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「抗菌・抗カビの最新技術とDDSの実際」上田重晴、西野敦、NTS、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、住環境真菌の発育抑制、阻止又は除去に有用な抗真菌剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Cladosporium属真菌、Aspergillus属真菌、Penicillium属真菌、Phoma属真菌、Aureobasidium属真菌等の住環境真菌の生育を効果的に抑制又は阻止できる成分について検討したところ、特定の第4級アンモニウム塩とベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール、1-フェノキシ-2-プロパノールから選ばれる特定の有機溶剤を組み合わせて用いた場合に、当該第4級アンモニウム塩を単独で用いた場合よりも抗菌力が大きく上昇し、例えば第4級アンモニウム塩を単独で用いた場合には抗菌力を十分に発揮し得ない濃度においても、優れた抗菌性を発揮し、当該真菌に由来する黒ずみ汚れの発生抑制、阻止又は除去に有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)〜7)に係るものである。
1)次の成分(A)と(B)を組み合わせてなる抗住環境真菌剤。
(A)ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の第4級アンモニウム塩
(B)ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール及び1-フェノキシ-2-プロパノールから選ばれる1種以上の有機溶剤
2)住環境真菌に対して、加熱処理を加えず5分以内の接触で、1log以上の菌数減少効果を発揮する上記1)の抗住環境真菌剤。
3)(A)の第4級アンモニウム塩が、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド及びジデシルジメチルアンモニウムクロライドから選ばれる1種以上である上記1)又は2)の抗住環境真菌剤。
4)(B)の有機溶剤が、ベンジルアルコールである上記1)〜3)の抗住環境真菌剤。
5)上記1)〜4)の抗住環境真菌剤を含有する抗真菌剤組成物。
6)組成物中に、成分(A)を5〜6000ppm、成分(B)を5000ppm以上含有する上記5)の組成物。
7)(A)ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の第4級アンモニウム塩に、(B)ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール及び1-フェノキシ-2-プロパノールから選ばれる1種以上の有機溶剤を併用することを特徴とする、住環境真菌に対する前記第4級アンモニウム塩の抗菌性増強方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗住環境真菌剤によれば、住環境、特に台所や浴室、トイレ、洗面台等の壁や床、洗濯槽等の器具・機器、浴室のドアや窓等のパッキンといった硬質表面、或いは衣類等に使用した際に、当該硬質表面や衣類における真菌を殺菌、抑制、あるいは除去、又は当該真菌に由来する黒ずみ汚れの形成抑制、阻止、及び付着した黒ずみ汚れを容易に除去することが可能となる。また、本発明によって、住環境で使用する際に求められる常温、且つ短時間での効果を発現が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
成分(A)の第4級アンモニウム塩である、ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩は、抗菌性のカチオン界面活性剤として公知の化合物である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明において、ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩としては、好ましくは、それぞれ、ジアルキル(C8-18)ジメチルアンモニウム塩、アルキル(C8-18)ベンジルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。
ここで、アルキル基としては、炭素数8〜18のアルキル基、好ましくは炭素数8〜18の直鎖アルキル基が挙げられる。具体的には、例えばオクチル、デシル、ドデシル(ラウリル)、テトラデシル(ミリスチル)、ヘキサデシル(セチル)、ヘプタデシル、オクタデシル(ステアリル)が挙げられ、より好ましくはオクチル、デシル、ドデシルである。
好適なジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジデシルジメチルアンモニウム塩が挙げられ、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩としては、オクチルベンジルジメチルアンモニウム塩、ドデシルベンジルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。
【0013】
アンモニウム塩は、F-、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオン、NO3-、及びSO42-等との塩が挙げられるが、ハロゲン化物イオンとの塩が好ましく、塩化物イオンとの塩がより好ましい。
【0014】
より好適な第4級アンモニウム塩として、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドを挙げることができる。
【0015】
上記本発明の第4級アンモニウム塩は、公知の方法を用いて製造することができ、市販品を用いることも可能である。例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩としてコータミンD10P(花王(株)製)、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩として、サニゾール08、サニゾールC(花王(株)製)等を購入して用いることができる。
【0016】
上記第4級アンモニウム塩は、一般に、単独でも24時間程度の接触時間では、例えばPenicillium属真菌やAspergillus属真菌、Candida属真菌等に対して抗菌力を示すが、短時間ではその効果は不十分であり、さらにその抗菌力は真菌の種類や存在状態によって異なり、長時間あるいは高濃度で用いなければ有意な菌数減少が認められない場合もある。また使用場面によっては、汚れが付着した布や硬質表面等を劣化させる可能性がある為、十分な濃度を配合できない場合や十分な接触時間をとれない場合もある。
【0017】
成分(B)の有機溶剤としては、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール及び1-フェノキシ-2-プロパノールをそれぞれ単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。斯かる有機溶剤としては、好ましくはベンジルアルコール、2-ベンジルオキシエタノール、1-ペンタノール、1-フェノキシ-2-プロパノールが挙げられ、より好ましくはベンジルアルコール、2−ベンジルオキシエタノール、1-フェノキシー2-プロパノールが挙げられ、更に好ましくはベンジルアルコールが挙げられる。
尚、成分(B)の有機溶剤は、市販品を購入して用いることができる。例えば、日本乳化剤(株)や日本触媒の製品を購入して用いることができる。
【0018】
成分(A)と(B)の具体的な組み合わせとしては、成分(A)がジデシルジメチルアンモニウム塩、オクチルベンジルジメチルアンモニウム塩又はドデシルベンジルジメチルアンモニウム塩で、成分(B)がベンジルアルコール、2−ベンジルオキシエタノール又は1-フェノキシー2-プロパノールであるのが好ましく、Cladosporium属真菌、Penicillium属真菌又はAspergillus属真菌に対する抗菌活性の点では、成分(A)がオクチルベンジルジメチルアンモニウム塩又はドデシルベンジルジメチルアンモニウム塩で、成分(B)がベンジルアルコールであるのが好ましく、Cladosporium属真菌、Alternaria属真菌、Ochroconis属真菌、Phialophora属真菌、Phoma属真菌、Aspergillus属真菌、Aureobasidium属真菌、Exophiala属真菌等の黒色真菌に対する抗菌活性の点では、成分(A)がオクチルベンジルジメチルアンモニウムで、成分(B)がベンジルアルコールであるのが好ましい。
【0019】
上記(A)第4級アンモニウム塩と(B)特定の有機溶剤を組み合わせて用いる本発明の抗住環境真菌剤では、第4級アンモニウム塩の真菌に対する抗菌活性が格段に向上し、
第4級アンモニウム塩を単独で用いた場合には抗菌力を十分に発揮し得ない濃度及び接触時間においても、優れた抗菌性能を発揮する。
そして、その抗菌性は、真菌に対して、加熱処理を加えず、5分以内の接触で、1log以上の菌数減少が認められ、より短時間で抗菌作用が発揮される(実施例1−4)。
【0020】
なお、本発明において加熱処理を加えないとは、加熱処理のみで真菌の生存性に影響を与えないことであり、具体的な例としては通常の住環境の温度範囲内の温度で処理を行うことであり、より具体的な例としては、0〜45℃で処理を行うことである。なお、真菌の生存性に影響を与えないとは、菌数が実質的に減少しないことであり、具体的には菌数が1/2以下に減少しないことである。
【0021】
従って、本発明の抗住環境真菌剤としては、常温(加熱処理を加えず)、5分以内の接触で、1log以上、更に2log以上、更に3log以上、更に4log以上の菌数減少効果を示す抗菌性能を有するものが好ましい。
また、住環境真菌の中でも、後述するCladosporium属真菌、Aspergillus属真菌、Alternaria属真菌、Phoma属真菌、Aureobasidium属真菌、Exophiala属真菌等に代表される黒色真菌に対して、当該抗菌性を示すものがより好適である。
【0022】
本発明の抗住環境真菌剤は、住環境真菌を殺菌、またその生育を抑制又は阻止する抗真菌剤、或いは生活環境における住環境真菌由来の黒ずみ汚れの付着防止又は除去するための抗真菌剤として用いることができる。
ここで、「住環境真菌」とは、住居、商業用ビル、研究所、工場、病院、学校、飲食店、浴場等の建築物に存在する真菌、衣服に付着する真菌、空調機器、洗濯槽、製造設備、医療機器、調理用具等に存在する真菌を意味する。洗濯水、洗濯槽、家庭用排水、浴室、家庭用浴室又は公衆浴場の風呂水、排水汚泥から子嚢菌門及び不完全菌門の真菌が検出されている(例えば、Bokin Bobai、30(11)、p.703-708(2002);生活衛生、49(3)、p.161-167(2005);Mycopathologia、97、p.17-23(1987);Bokin Bobai、30(6)、p.369-376(2002);「カビによる病気が増えている」、p.139-144、農分協、2006年、等参照)。
従って、本発明組成物の適用対象となる住環境真菌としては、子嚢菌門又は不完全菌門の真菌が好適に挙げられ、具体的には、Exophiala属真菌、Acremonium属真菌、Fusarium属真菌、Scolecobasidium属真菌、Chaetomium属真菌、Phoma属真菌、Phialophora属真菌、Cladosporium属真菌、Ochroconis属真菌、Alternaria属真菌、Saccharomyces属真菌、Rhodotorula属真菌、Aspergillus属真菌、Penicillium属真菌、Aureobasidium属真菌、Candida属真菌、Pichia属真菌、Ramichloridium属真菌、Capronia属真菌、Trichoderma属真菌、Alcaligenes属真菌、Eurotium属真菌、Carvularia属真菌、Cruptococcus属真菌、Chrysosporium属真菌、Byssochlamys属真菌、Botrytis属真菌、Epicoccum属真菌、Geotricham属真菌、Gliocladium属真菌、Monascus属真菌、Monillia属真菌、Mucor属真菌、Nigrospora属真菌、Oidium属真菌、Paecilomyces属真菌、Pestalotia属真菌、Rhizopus属真菌、Rhizoctonia属真菌、Scopulariopsis属真菌、Stachybotrys属真菌、Symcephalastrum属真菌、Trichothesium属真菌、Ulocladium属真菌及びWallemia属真菌等が挙げられる。このうち、Cladosporium属真菌、Alternaria属真菌、Ochroconis属真菌、Phialophora属真菌、Phoma属真菌、Aspergillus属真菌、Aureobasidium属真菌、Exophiala属真菌等は、増殖した場合に対象面に黒ずみ汚れを引き起こす、所謂「黒色真菌」である。従って、本発明の組成物は、斯かる黒色真菌に対して優れた抗菌作用を有するものが好ましく、第4級アンモニウム塩を単独で用いた場合に比較的高濃度でなければ抗菌力を示さない、Cladosporium属真菌及びAspergillus属真菌に対して少なくとも抗菌力を示すものがより好ましい。
【0023】
本発明の抗住環境真菌剤において、成分(A)と(B)の質量比は、(A)/(B)が200/1〜1/40000、より20/1〜1/10000、更に2/1〜1/4000であるのが好ましい。
【0024】
本発明の抗住環境真菌剤は、成分(A)と(B)のみで、或いは必要に応じて、抗菌効果の更なる向上や効果の持続性等を図るために、他の成分、例えば、キレート剤、水溶性溶剤、その他の界面活性剤等と共に、上記の各種住環境、或いは住環境に使用される製品や製剤(例えば、洗濯乾燥機洗浄剤、排水口洗浄剤、蛇口ケア剤、風呂用洗剤、トイレ用洗剤等)に抗菌性を付与するための素材として使用することができる。
【0025】
ここで、キレート剤としては(1)トリポリリン酸、ピロリン酸、オルソリン酸、ヘキサメタリン酸及びこれらのアルカリ金属塩、(2)エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシイミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸及びこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、(3)アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイド及びこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、(4)アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるモノマーの単一重合体又は共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリα−ヒドロキアクリル酸及びそのアルカリ金属塩、(5)クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸から選ばれる多価カルボン酸及びそれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上、(6)アルキルグリシン−N,N−ジ酢酸、アスパラギン酸−N,N−ジ酢酸、セリン−N,N−ジ酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミンジコハク酸又はこれらの塩等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の抗住環境真菌剤は、さらに、例えば、油分、高級脂肪酸、シリコーン類、pH調整剤、増粘剤、懸濁剤、粉末成分、天然抽出物、色素、香料等の添加剤を適宜配合し、撹拌混合して分散又は溶解させ、抗真菌剤組成物を製造するために使用することができる。
【0027】
ここで、pH調整剤としては塩酸や硫酸など無機酸や、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸などの有機酸などの酸剤や、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、アンモニアやその誘導体、モノエタノールアミンやジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン塩など、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ剤を、単独もしくは複合して用いても構わない。また、これらの酸剤とアルカリ剤を組み合わせて緩衝剤系として用いても構わない。
上記抗真菌剤組成物は、上記のpH調整剤により、20℃におけるpHが2〜12になるように調整することが好ましく、特にpH4〜11になるようにすることが抗菌性の点から好ましい。
【0028】
本発明の抗真菌剤組成物中の成分(A)の含有量は、抗菌活性の観点から、1〜6000ppmが好ましく、2.5〜5000ppm、更に5〜4000ppmがより好ましい。
成分(B)の有機溶剤の含有量は、3000ppm以上が好ましく、4000ppm以上、更に5000ppm以上がより好ましい。但し、成分(B)に関しては基材損傷性や配合の都合から100000ppm程度以下であることが望ましい。
また、成分(B)の有機溶剤を5000〜10000ppmで用いる場合、成分(A)を100ppm〜6000ppmとするのが好ましく、成分(B)を10000ppmより高濃度、例えば10000〜40000ppmで用いる場合は、成分(A)を1ppm〜3000ppmとするのが好ましい。
【0029】
本発明の抗住環境真菌剤及びこれを含有する抗真菌剤組成物は、住環境、特に温度や湿度が高くなりやすい居住空間(浴室、キッチン、洗面所、トイレなど)等における微生物汚染を生じやすい場所の硬質表面(例えば、台所や浴室、トイレ、洗面台などの、壁面や床面、洗面桶の底部、シャンプーなどのボトル底部、排水口、水栓回り、トイレの便器内の喫水線部、浴室のドアや窓等のパッキン等)、洗濯槽等の器具・機器、或いは衣類等に対して、住環境真菌又はそれに由来する黒色汚れが発生する前、或いは発生した後に、塗布することにより用いることができる。ここで、塗布は、特に限定するものではなく、組成物を対象面へ直接かけること、トリガーやエアゾール等の噴霧装置に充填し噴霧することなどが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1 オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドの抗菌力におけるベンジルアルコールの併用効果
供試菌株として、住環境の浴室からPoteto Dextrose Agar (PDA) (Difco)+Chloramphenicol (50 μg/ ml)を培地として用いて分離し、コロニー形状、胞子等の実態顕微鏡観察及び28S rRNA 遺伝子 D2 領域の遺伝子解析により、菌種の同定を行ったCladosporium sp. PA-4株を用いた。25℃で1週間培養したPDA平板培地上のCladosporium sp. PA-4株に対して0.05% Tween80を含有する生理食塩水を滴下し、軽く揺することで胞子液を回収した。この胞子液10 μlに対して、滅菌水を希釈することで得られたオクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド溶液、ベンジルアルコール(BA)、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド溶液とBAの混合溶液の何れか1 mlを添加し、常温で5分間接触させた。そして、接触後の液100μlを900μlのLP(Lecithin Polysorbate)希釈液(和光純薬工業)で希釈することで試験液を不活性化し、寒天塗沫法により生残菌数を求めた。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド濃度250〜6000ppmにおいて、ベンジルアルコールを併用することで、極めて高い抗菌力の向上が確認された。
【0033】
実施例2 住環境真菌に対する抗菌力の評価(1)
供試菌株として、住環境からよく分離される真菌種の購入株及び分離株を用いた。
購入株としては、Cladosporium cladosporioides NBRC6348、Aspergillus niger NBRC6341、Aspergillus flavus NBRC6343、Penicillium citrinum NBRC6352、Aureobasidium pullulans NBRC6353を用いた。
分離株は住環境の浴室・衣類から、Poteto Dextrose Agar (PDA) (Difco)+Chloramphenicol (50 μg/ ml)を培地として用いて分離し、コロニー形状、胞子等の実態顕微鏡観察及び28S rRNA 遺伝子 D2 領域の遺伝子解析により、菌種の同定を行ったAlternalia sp. A-BW株、Phoma sp. A-BT株、Exophiala sp. Pc01株を用いた。
【0034】
実施例1と同様の方法にて各菌から胞子液を回収した。この胞子液10 μlに対して、滅菌水を希釈することで得られたオクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド溶液、ベンジルアルコール溶液、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド及びベンジルアルコールの混合溶液の何れか1 mlを添加し、常温で5分間接触させた。そして、接触後の液100μlを900μlのLP(Lecithin Polysorbate)希釈液(和光純薬工業)で希釈することで試験液を不活性化し、寒天塗沫法により生残菌数を求めた。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より、住環境からよく分離される様々な真菌に対して、単独では抗菌性を有さない、あるいは弱い抗菌性を示すオクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド濃度において、ベンジルアルコール5000ppm以上の添加で、常温且つ短時間で極めて高い抗菌性が確認された。
【0037】
実施例3 住環境真菌に対する抗菌力の評価(2)
実施例1と同様の手順で浴室分離株であるCladosporium sp. PA-4株の胞子液を回収した。この胞子液10 μlに対して、滅菌水を希釈することで得られたオクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド溶液、表3に示す各種溶剤、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド及び各種溶剤の混合溶液の何れか1 mlを添加し、常温で5分間接触させた。そして、接触後の液100μlを900μlのLP(Lecithin Polysorbate)希釈液(和光純薬工業)で希釈することで試験液を不活性化し、寒天塗沫法により生残菌数を求めた。結果を表3に示す。
【0038】
表3より、試験に供した全ての溶媒についてオクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドに添加することで抗菌性の向上が確認された。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例4 住環境真菌に対する抗菌力の評価(3)
実施例1と同様の手順で住環境からよく分離される真菌種の購入株及び分離株の胞子液を調製した。購入株としては、Cladosporium cladosporioides NBRC6348株とPenicillium citrinum NBRC6352株を用いた。分離株はCladosporium sp. PA-4株とPhoma sp. A-BT株を用いた。また滅菌水で希釈することで得られたドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド溶液に対して、ベンジルアルコールを表4に示す各濃度になるように添加した。これら2種の第4級アンモニウム塩及び溶剤の混合溶液または何れか一方の剤1mlに各胞子液10μlを添加して常温で5分間接触させた後、LP希釈液で10分の1に希釈することで試験液を不活化し、寒天塗沫法により生残菌数を求めた。結果を表4に示す。
【0041】
表4より、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドにベンジルアルコールを添加することでも短時間、常温で高い効果が得られた。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例5 住環境真菌に対する抗菌力の評価(4)
実施例1と同様の方法でCladosporium sp.PA-4株胞子液を回収した。この胞子液10 μlに対して、滅菌水を希釈することで得られたオクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド 1mlを添加し、常温で5〜180分間接触させた。試験は終濃度21628 ppmのベンジルアルコールを添加したものとしていないもので行い、比較した。結果を表5に示す。
【0044】
ベンジルアルコールを添加することで、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド濃度250ppmを用いた僅か5分間という短時間の接触のみで、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドを高濃度(1000ppm)長時間(180分)接触させても得られない高い抗菌活性が得られた。
【0045】
【表5】

【0046】
実施例6 実環境の汚れに対する抗菌性能評価
実際の浴室から黴汚れの付着したパッキンを回収した。これを10×4×1(mm)に切断し、抗菌性試験に供した。抗菌性試験は、500、5000ppm ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド 1mlに終濃度10000、20000ppmベンジルアルコールが添加されたものと添加されてないものについて、パッキンを入れることで行った。常温で5分間接触試験を行った後、LP 希釈液 1 mL を分注した試験管に切片を移し、ボルテックスミキサーで激しく攪拌することで菌を剥離、分散させた後、PDA+クロラムフェニコール50 μg/ ml培地に塗布し、菌数を測定することでパッキン表面に存在する黴への抗菌性を評価した。
【0047】
表6より、実際の浴室に存在するカビに対しても、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライドにベンジルアルコール(BA)を添加することで、短時間で高い抗黴活性が得られた。
【0048】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)と(B)を組み合わせてなる抗住環境真菌剤。
(A)ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の第4級アンモニウム塩
(B)ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール及び1-フェノキシ-2-プロパノールから選ばれる1種以上の有機溶剤
【請求項2】
住環境真菌に対して、加熱処理を加えず5分以内の接触で、1log以上の菌数減少効果を発揮する請求項1記載の抗住環境真菌剤。
【請求項3】
(A)の第4級アンモニウム塩が、オクチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド及びジデシルジメチルアンモニウムクロライドから選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の抗住環境真菌剤。
【請求項4】
(B)の有機溶剤が、ベンジルアルコールである請求項1〜3の何れか1項記載の抗住環境真菌剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の抗住環境真菌剤を含有する抗真菌剤組成物。
【請求項6】
組成物中に、成分(A)を5〜6000ppm、成分(B)を5000ppm以上含有する請求項5記載の組成物。
【請求項7】
(A)ジアルキルジメチルアンモニウム塩及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の第4級アンモニウム塩に、(B)ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、2-ベンジルオキシエタノール、1-(2-ブトキシ-1-メチルエトキシ)プロパン-2-オール、1-ペンタノール及び1-フェノキシ-2-プロパノールから選ばれる1種以上の有機溶剤を併用することを特徴とする、住環境真菌に対する前記第4級アンモニウム塩の抗菌性増強方法。

【公開番号】特開2012−167029(P2012−167029A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26784(P2011−26784)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】