抗酸化化合物、抗酸化性藻類エキス、及びそれらの製造方法
【課題】本発明は、主に、新規抗酸化化合物、抗酸化性藻類エキス、及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、下記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物又はその塩及びその製造方法、抗酸化性藻類エキス及びその製造方法、該化合物又はその塩、該抗酸化性藻類エキスを含有する食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物、ペットフード及び飼料用組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、下記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物又はその塩及びその製造方法、抗酸化性藻類エキス及びその製造方法、該化合物又はその塩、該抗酸化性藻類エキスを含有する食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物、ペットフード及び飼料用組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、新規な抗酸化化合物、一酸化窒素産生抑制化合物、抗酸化性藻類エキス、一酸化窒素産生抑制藻類エキス及びそれらの製造方法を提供する。本発明は、また、該新規抗酸化化合物、一酸化窒素産生抑制化合物、該抗酸化性藻類エキス及び/又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含有する酸化防止剤(活性酸素・フリーラジカル消去剤)、一酸化窒素産生抑制剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物、飼料用組成物およびペットフードにも関する。
【背景技術】
【0002】
食品や飼料、ペットフード、化粧品、サニタリー用品、洗剤、油脂、医薬品、化成品その他工業製品を変質させたり劣化させたりする原因として、空気中の酸素や溶存酸素、熱・光等によって起こる酸化が知られている。このような品質の劣化を防止する目的で、種々の酸化防止剤が開発されている。
【0003】
例えば、人工合成により供給されている酸化防止剤としては、tert−ブチルヒドロキシルアニソール(BHA)や、tert−ブチルヒドロキシルトルエン(BHT)などが広く用いられている。これらは安定な化合物で、酸化防止効果に優れるが、人体の健康に対する悪影響(発がん性や脱毛促進作用)が報告されており、食品等への使用が制限されている。さらに、近年は、直接人体・生体に触れる可能性のある製品については、安心・安全を求める動き、使用が認められている分野においても、これらの酸化防止剤の使用を制限する動きが高まっている。
【0004】
また、天然由来の酸化防止剤、たとえば、トコフェロールやアスコルビン酸等は、安全性が高いものの、安定性に欠けるため、逆に着色や変色、においの変化の原因となるなどの問題がある場合が多い。さらに、近年の流通環境の変化やコンビニエンスストアの普及、包装材料の多様化に伴って、製品が日光や蛍光灯などの光に曝される機会が増えており、安全でなおかつ安定性の高い酸化防止剤の開発がなおいっそう望まれている。
【0005】
酸化は、生体防御や障害・炎症・疾病とも大きな関わりがあるといわれている。活性酸素種や活性窒素種、フリーラジカルが引き起こす酸化ストレスは、それが障害を引き起こさない程度の合目的的用量である場合には、生体防御力を高め、ヒトや動物に健康をもたらす。しかしながら、加齢・ストレスに伴う細胞機能の低下、高カロリー食、タバコ・汚染物質・紫外線等の暴露、過度の運動等による過剰な酸化ストレスは細胞構成成分に障害を与え、様々な疾病の原因となる。
【0006】
活性酸素種としては、還元分子種であるスーパーオキシドアニオンラジカル(O2−)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)および励起分子種である一重項酸素(1O2)などが知られている。また、不飽和脂肪酸の酸化物である不飽和脂肪酸ペルオキシラジカル(LOO・)、不飽和脂肪酸ラジカル(L・)、不飽和脂肪酸ヒドロペルオキシド(LOOH)、不飽和脂肪酸アルコキシラジカル(LO・)等も同様の酸化による障害を引き起こすことが知られている。これらの活性種が引き起こす疾病としては、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害等が知られている。
【0007】
さらに、生体内で多様かつ重要な役割(血管拡張・微生物の殺菌・神経伝達等)を有する生理活性ラジカルとして、一酸化窒素が知られている。単球等の免疫細胞は、微生物の刺激に対して、殺菌効果の高い一酸化窒素を産生することが知られている。しかしながら、一酸化窒素はフリーラジカルであり、その過剰産生が、生体内の酸化ストレス亢進を招いている。一酸化窒素産生の制御により、酸化ストレスが引き起こす様々な疾患(炎症、動脈硬化症、加齢性疾患)の予防が可能と考えられる。
【0008】
以上のことから、ヒトにおける過剰な酸化ストレスを緩和することを目的とし、酸化防止作用、活性酸素種・一酸化窒素・フリーラジカル等の消去能を有する食品や化粧品、医薬品の開発が望まれている。また、ペットや家畜等においても同様の効果を有する飼料の開発が望まれている。
【0009】
一方、藻類、例えば、岩礁地帯等に生息する紅藻類は、主に日光に由来する紫外線等に暴露されていることから、過剰な酸化ストレスを緩和する因子を有する可能性が指摘されている。中でも、スサビノリ(Porphyra yezoensis)、アサクサノリ(Porphyra tenera)、ウップルイノリ(Porphyra pseudolinearis)、壇紫菜(Porphyra haitanensis)等に代表されるアマノリ属藻類は東アジア地域で大量に栽培されていることから、上述の酸化防止効果を有する化合物の原料として期待されている。さらに、近年、スサビノリ生育環境の悪化により、ノリの色落ちや品質低下がもたらされており、商品価値の低い「色落ちノリ」や「下等ノリ」が大量に廃棄されている。このような廃棄ノリに新たな価値を見いだし、有効利用することが急務となっている。
【0010】
非特許文献1は、スサビノリに含まれるカタラーゼの精製とその活性酸素消去能について言及している。カタラーゼは過酸化水素を不均化して酸素と水に変換する反応を触媒し、細胞内の酸化・還元制御に関与する重要な酵素である。しかしながらカタラーゼはタンパク質であり、高分子で安定性が低く、加熱やpH変化等により容易に失活する、あるいは、経口による体内吸収が期待できないといった欠点がある。また、アマノリ属に含まれるカタラーゼの含量も極めて少ないことから、カタラーゼを核にしたアマノリ属の産業的利用は実現していない。
【0011】
非特許文献2は、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メタノール、熱水を用いて抽出したスサビノリ抽出物の抗酸化性について言及しているが、90℃でのスサビノリ熱水抽出物の抗酸化活性が低いという結論に至っている。また、メタノール抽出物より、ノリ由来の抗酸化性因子として既知物質ウスジレン(Usujirene)を特定しているが、産業的に利用するには本成分の含量は極めて少なく、現実的でない。
非特許文献3は、Porphyra haitanensis中の硫酸化多糖類の抗酸化性について言及している。本文献における硫酸化多糖類の抗酸化性は低く、産業上利用することは難しい。また、硫酸化多糖類は高分子であり粘性を有することから、物性的な面から食品や医薬への応用が厳しく限定されてしまう。以上の点から硫酸化多糖類の酸化防止剤としての産業利用は未だ実現していない。
【0012】
以上の背景から、酸化防止剤の原料としての藻類の利用は期待されていたものの、これまで、食用以外の用途に用いられることはなかった。
【非特許文献1】Nakano et al., Characterization of catalase from the seaweed Porphyra yezoensis., Plant Sci., 104 (1995) 127-133.
【非特許文献2】Nakayama et al., Antioxidant effects of the constituent of susabinori (Porphyra yezoensis)., JAOCS, 76 (1999) 649-653
【非特許文献3】Zhang et al., Antioxidant activities of sulfated polysaccharide fractions from Porphyra haitanesis., J. Appl. Phycol., 15 (2003) 305-310.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、主に、新規抗酸化化合物、一酸化窒素産生抑制化合物、抗酸化性藻類エキス、一酸化窒素産生抑制藻類エキス、及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、マイコスポリン様アミノ酸(以下、MAA(Mycosporine−like Amino Acid)とも呼ぶ)を含む溶液をpH6.5以上にて、所定の温度条件で加熱することにより得られた処理物中に抗酸化成分が含まれていることを見いだし、その抗酸化成分を単離、精製、構造決定した。さらに、この抗酸化成分が一酸化窒素産生抑制作用も有することも見出した。さらに、この抗酸化成分の前駆体はMAAであり、MAAをpH6.5以上の環境下で所定の温度条件で加熱することにより、抗酸化成分が生成されることを見出した。さらに、藻類よりMAAを含む画分を調整し、pH6.5以上の環境下で所定の温度条件で加熱することにより、抗酸化性を有するエキスが製造可能なことを見出した。本発明は、かかる知見に基づき完成された。
【0015】
即ち、本発明は、主に、以下の事項に関する。
[項1]下記構造式(I)で表される化合物又はその塩:
【0016】
【化1】
【0017】
ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される。
[項2]下記構造式(I−I)、(I−II)又は(I−III)の構造で表される、化合物又はその塩(R1及びR2は、項1の通りである):
【0018】
【化2】
【0019】
ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示す。
[項3]R1及びR2の少なくとも一方がカルボキシメチル基である、項1又は2に記載の化合物又はその塩。
[項4]R1及びR2の一方がカルボキシメチル基であるとき、他方の官能基が1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基及び1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基からなる群より選択される、項1〜3のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[項5]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、酸化防止剤及び/又はラジカル消去剤。
[項6]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、一酸化窒素産生抑制剤。
[項7]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する食品組成物。
[項8]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、医薬組成物。
[項9]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、化粧料。
[項10]皮膚の老化防止又は美白のための、項8の化粧料。
[項11]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、油脂組成物。
[項12]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
[項13]下記の構造式(II)
【0020】
【化3】
【0021】
(ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される)で表される化合物又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物又はその塩の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒をpH6.5以上にて、以下の式(A)又は(B)で規定される下限温度で加熱する工程を包含する、項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法:
(pH6.5〜7.6のとき)
T (℃) = −26PH + 289 式(A)
(pH7.6以上のとき)
T (℃) = −6.3PH + 139 式(B)
ここで、Tは下限温度、PHは処理液のpHである。
[項14]逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1種の精製方法により、前記加熱工程により得られた産物から項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程をさらに包含する、項13の製造方法。
[項15]以下の工程A〜Eを包含し、該工程の順番が以下の製造方法1〜3のいずれかで規定される、項1〜4のいずれかに記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法:
工程A:水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液と藻類とを75℃以下で混合する工程
工程B:混合物のpHを6.5以上に調整する工程
工程C:加熱する工程
工程D:固液分離する工程
工程E:溶媒可溶性成分を分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程
製造方法1:工程A→工程B→工程C→工程D→工程E
製造方法2:工程A→工程D→工程E→工程B→工程C
製造方法3:工程A→工程D→工程B→工程C→工程E
(ここで、工程Aで得られる混合物のpHが6.5以上である場合には、工程Bを省略してもよい)。
[項16]前記工程Cの加熱温度の下限が、項13に記載の式で表される、項15に記載の製造方法。
[項17]藻類と水とを混合する工程、
120℃以上150℃以下で30分以上の加熱を行う工程、次いで、
分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程、
を包含する、項1又は2に記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法。
[項18]項15〜17に記載の製造方法により得られた、抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項19]項14に記載の精製方法により、項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスから項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程を包含する、項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法。
[項20]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を0.1重量%以上含有する、項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項21]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩と項12に記載の構造式(II)の化合物又はその塩との存在比が、項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩:構造式(II)の化合物又はその塩=10〜100:90〜0である、項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項22]藻類が紅藻である、項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項23]紅藻がPorphyra属であることを特徴とする、項22に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項24]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、食品組成物。
[項25]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、医薬組成物。
[項26]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、化粧料。
[項27]皮膚の老化防止又は美白のための、項26の化粧料。
[項28]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性藻類エキスを含む、油脂組成物。
[項29]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
【0022】
本発明の化合物
本発明の化合物は、構造式(I)で表される化合物又はその塩:
【0023】
【化4】
【0024】
或いは、上記構造式(I)で表される化合物又はその塩を水、メタノール、エタノール、アセトニトリル等のプロトン性溶媒に溶解させた時に、構造の一部が共鳴することにより得られる構造式(I−I)、構造式(I−II)又は構造式(I−III)で表される共鳴混成体である。
【0025】
【化5】
【0026】
(ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示す。)
ここで、構造式(I)、(I−I)、(I−II)及び(I−III)において、R1及びR2は、前述の通りである。また、R1及びR2について、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基はスレオニン由来、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基はセリン由来、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基はバリン由来、1,3−ジカルボキシプロピル基はグルタミン酸由来、カルボキシメチル基はグリシン由来、1−カルボキシエチル基はアラニン由来、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基はグルタミン由来の置換基である。なお、各アミノ酸は、L体であってもD体であってもよい。また、R1及びR2について、2−ヒドロキシエチル基はエタノールアミン由来、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基は2−アミノクロトン酸由来、1−プロペニル基は1−プロペニルアミン由来、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基はセリノール由来の置換基である。ここで、アミノ酸又は化合物由来の置換基とは、アミノ酸又は化合物のα炭素から−NH2を除いた部分の置換基を意味する。
【0027】
好ましいR1及びR2の組み合わせは、R1及びR2のうち一方が−CH2COOH、−H及び−CH3からなる群より選択される置換基であるのに対して、他方が−CH2COOH、−CH(COOH)CH3、−CH(COOH)CH2OH、−CH(COOH)CH(OH)CH3、−CH(COOH)CH2(CH3)CH3、−CH(COOH)CH2CH2COOH、−CH(COOH)CH2CH2CONH2、−CH2CH2OH及び−CH(CH2OH)CH2OHからなる群より選択される置換基である。
【0028】
構造式(I)で表される化合物は、互変異性を有し得る。
【0029】
構造式(I)で表される化合物の塩には、アミノ基の酸付加塩、或いは、カルボキシル基又は水酸基の塩基塩が含まれる。
【0030】
酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0031】
塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、又は、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0032】
本書では、上記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物をMAC(Mycosporine−like Amino Acid −derived Antioxidative Compound;マイコスポリン様アミノ酸由来抗酸化化合物)とも称する。
【0033】
本書では、上記構造式(II)で表される化合物又はマイコスポリン様アミノ酸をMAA(Mycosporine−like Amino Acid)とも称する。
【0034】
MACは、藻類、シアノバクテリア、光合成微生物、熱帯産の無脊椎動物等に普遍的に存在する紫外線吸収物質であるMAAを前駆体とし、MAAが溶解している液体をpH6.5以上の環境下、所定の温度条件で加熱することにより生成することができる。質量分析により帰属されるMAAとMACの質量の差(MWMAA−MWMAC)が水(H2O)の分子量18Daに等しく、また、核磁気共鳴スペクトル等により帰属されるそれぞれの物質の分子構造の比較から、MACはMAAより脱水反応を経て生成されると推定される。
【0035】
【化6】
【0036】
MAAとMACは類似する部分を有しているにもかかわらず、驚くべきことに、MAAは抗酸化作用を示さず、MACは強い抗酸化作用を示す。これは、MACに特異的な部分が抗酸化作用に関与していることを意味する。これより、MACに特異的な部分を有するMACの塩も、同様の抗酸化作用を有すると考えられる。MAAの構造は、アミノ酸の窒素基が、シクロへキセノン環に結合した特徴的なものである。アミノ酸の置換基部分は、MAAとMACで変わりないことから、MACの抗酸化性に直接的あるいは間接的に関与しているのは、アミノ酸の置換基を除いた部分の構造であると推定される。これより、前記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物において、R1及びR2で表される前記アミノ酸由来の置換基が他のアミノ酸由来の置換基に置き換わった該化合物も、前記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物と同様の抗酸化作用を有すると考えられる。
【0037】
MAC又はその塩の抗酸化作用のレベルは、DPPHラジカル消去活性の測定試験により評価した。この試験に用いた1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)は分子内に安定なフリーラジカルを有する。DPPHラジカル消去活性試験では、このフリーラジカルの消去率を吸光度の減少率によって求め、この消去率により試験物質の抗酸化作用を測定する。DPPHラジカル消去活性を有する物質は、一重項酸素やヒドロキシラジカル、過酸化脂質のラジカルを消去することが期待されている。
【0038】
本発明のMAC又はその塩の抗酸化作用は、概して、合成抗酸化剤として多用されるブチルヒドロキシルトルエン(BHT)の抗酸化作用よりも顕著に高い。本発明のMAC又はその塩のDPPHラジカル消去活性におけるIC50値(モル)は、BHTのDPPHラジカル消去活性の例えば約50%以下、好ましくは約40%以下、より好ましくは約35%以下であり得る。
【0039】
MAC又はその塩の製造方法
本発明は、下記の構造式(II)
【0040】
【化7】
【0041】
(ここで、R1及びR2は、前述の通りである)
で表される化合物又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物又はその塩の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒をpH6.5以上にて、以下の式(A)又は(B)で規定される下限温度で加熱する工程を包含する、MAC又はその塩の製造方法も提供する:
(pH6.5−7.6のとき)
T (℃) = −26 PH + 289 式(A)
(pH7.6以上のとき)
T (℃) = −6.3 PH + 139 式(B)
ここで、Tは生成効率50%を満たす下限温度、PHは処理液のpHである。
【0042】
なお、生成効率とは、存在する構造式(II)の化合物(MAA)又はその塩が総てMAC又はその塩に変換した場合を100%として表したものである。MAA又はその塩を、本発明のMAC又はその塩に変換するためには、前記下限温度が肝要である。加熱温度の上限は特に限定されないが、150℃を超える温度での加熱はMAC又はその塩の分解を引き起こす恐れがあり、好適でない。
【0043】
式(A)及び(B)は、生成効率に及ぼす加熱時間およびpHの影響について検討することにより導き出された。
【0044】
加熱時間は、MAA又はその塩の濃度および溶媒のpHに依存しており、特に限定されない。例えば、MAA又はその塩の濃度が1.2mMである抽出溶媒を20mMリン酸緩衝液存在下120℃で加熱するとき、生成量がプラトーに達する時間は10分である。しかしながら、MAA又はその塩の濃度がこれより高濃度である場合には、通常、より長い加熱時間を要する。また、加熱時間は加熱方法、所望の収量等によっても異なっており、例えば、連続式熱交換器を用いた加熱を行う場合には、加熱温度は5秒以上30分以下が好ましい。また、加熱釜等を用いてバッチ加熱する際には、効率よいMACの生成を促すため、5分以上の加熱が好ましい。省エネルギーおよびMACの変質防止の観点から、加熱時間の上限は、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0045】
MAA又はその塩の供給源としては、藻類、シアノバクテリア、光合成プランクトンあるいは暖海性の無脊椎動物、そのペースト、エキス、粉砕物、破砕物、乾燥物等が挙げられるが、MAA又はその塩を含む物質であれば特に限定されない。原料の確保という点では、藻類(特に、紅藻類)、そのエキス、粉砕物、乾燥物等が好ましい。
【0046】
紅藻類としては、例えば、Porphyridium(チノリモ)属、Bangia(ウシケノリ)属、Porphyra(アマノリ)属、Acanthopeltis(ユイキリ)属、Gelidiella(シマテングサ)属、Gelidium(テングサ)属、Pterocladia(オバクサ)属、Ptilophora(ヒラクサ)属、Yatabella(ヤタベグサ)属、Halosaccion(ベニフクロノリ)属、Palmaria(ダルス)属、Pseudorhododiscus(ベニゴロモ)属、Rhodophysema(フチトリベニ)属、Callophyllis(トサカモドキ)属、Carpopeltis(マツノリ)属、Cirrulicarpus(エゾトサカ)属、Constantinea(オキツバラ)属、Cryptonemia(カクレイト)属、Dudresnaya(ヒビロウド)属、Dumontia(リュウモンソウ)属、Gloiopeltis(フノリ)属、Gloiosiphonia(イトフノリ)属、Grateloupia(ムカデノリ)属、Halymenia(イソノハナ)属、Hyalosiphonia(イソウメモドキ)属、Kallymenia(ツカサノリ)属、Masudaphycus(ニセカレキグサ)属、Neodilsea(アカバ)属、Pachymeniopsis(フダラク)属、Peysonnelia(イワノカワ)属、Pikea(ミチガエソウ)属、Polyopes(マタボウ)属、Prionitis(キントキ)属、Schimmelmannia(ナガオバネ)属、Tichocarpus(カレキグサ)属、Ahnfeltiopsis(オキツノリ)属、Calosiphonia(ヌメリグサ)属、Catenella(イソモッカ)属、Caulacanthus(イソダンツウ)属、Ceratodictyon(カイメンソウ)属、Chondrus(ツノマタ)属、Eucheuma(キリンサイ)属、Gelidiopsis(テングサモドキ)属、Gigartina(スギノリ)属、Gracilaris(オゴノリ)属、Halarachnion(ススカケベニ)属、Hypnea(イバラノリ)属、Mastocarpus(イボノリ)属、Mazzaella(アカバギンナンソウ)属、Meristotheca(トサカノリ)属、Nemastoma(ヒカゲノイト)属、Phacelocarpus(キジノオ)属、Platoma(ニクホウノオ)属、Plocamiumn(ユカリ)属、Portieria(Chondracoccus)属、(ナミノハナ)属、Rhodoglossum(イボギンナン)属、Sarcodia(アツバグサ)属、Schizymenia(ベニスナゴ)属、Schmitzia(ホウノオ)属、Solieria(ミリン)属、Stenogramma(ハスジグサ)属、Tsengia(ヒカゲノイト)属、Tylotus(ナミイワタケ)属、Acanthophora(トゲノリ)属、Acrocystis(ツクシホウヅキ)属、Acrosorium(ハイウスバ)属、Acrothamnion(リュウノタマ)属、Amansia(ウスバヒオドシ)属、Antithamnion(フタツガサネ)属、Ardissonula(ヒヨクソウ)属、Benzaitenia(ベンテンモ)属、Bostrychia(コケモドキ)属、Brachioglossum(ヒゲムラサキ)属、Callithamnion(キヌイトグサ)属、Caloglossa(アヤギヌ)属、Campylaephora(エゴノリ)属、CarpoblepharisCentroceras(ゴノメグサ)属、Ceramium(イギス)属、Chondria(ユナ)属、Congregatocarpus(ノコハノリ)属、Dasya(ダジア)属、Delesseria(ヌメハノリ)属、Delesseriopsis(ウスムラサキ)属、Digenea(マクリ)属、Enantiocladia(アイソメグサ)属、Enelithosiphonia(マキイトグサ)属、Euptilota(ヨツガサネ)属、Griffithsia(カザシグサ)属、Herpochondria(ニクサエダ)属、Herposiphonia(ヒメゴケ)属、Heterosiphonia(イソハギ)属、シマダジアHypoglossum(ベニハノリ)属、Janczewskia(ソゾマクラ)属、Kurogia(イカダコノハ)属、Laurencia(ソゾ)属、Leveillea(ジャバラノリ)属、Marionella(ハブタエノリ)属、Martensia(アヤニシキ)属、Melanamansia(ヒオドシグサ)属、Membranoptera(ホソベニヤバネグサ)属、Murrayella(ナガミグサ)属、Myriogramme(スジギヌ)属、Neoholmesia(スズシロノリ)属、Neoptilota(カタワベニヒバ)属、Neorhodomela(フジマツモ)属、Neurymenia(イソバショウ)属、Nithophyllum(ウスバノリ)属、Odonthalia(ノコギリヒバ)属、Phycodrys(カシワバコノハノリ)属、Platysiphonia(ヒゲウスバ)属、Platythamnion(イトシノブ)属、Pleonosporium(クスダマ)属、Plumariella(イソシノブ)属、Polysiphonia(イトグサ)属、Pterosiphonia(ハネグサ)属、Ptilota(クシベニヒバ)属、Reinboldiella(チリモミジ)属、Rhodomela(フジマツモ)属、Schizoseris(ベニヤハズ)属、Sorella(ウスベニ)属、Spermathamnion(ヒビダマ)属、Spyridia(ウブゲグサ)属、Symphyocladia(イソムラサキ)属、Tolypiocladia(イトクズグサ)属、Vidalia(カエリナミ)属、Vanvoorstia(カラゴロ)属、Yamadaphycus(コノハノリモドキ)属、Asparagopsis(カギケノリ)属、Bonnemaisonia(カギノリ)属、Delisea(タマイタダキ)属、Ptilonia(ヒロハタマイタダキ)属、Pachymeniopsis(フダラク)属、Peysonnelia(イワノカワ)属、Pikea(ミチガエソウ)属、Polyopes(マタボウ)属、Prionitis(キントキ)属、Schimmelmannia(ナガオバネ)属、Tichocarpus(カレキグサ)属等が挙げられる。中でも、産業上利用される紅藻類で生産量が多く安定しているPorphyra属、Gelidiella 属、Palmaria属、Gloiopeltis属、Chondrus属、Eucheuma属、Gigartina属、Gracilaris属、Meristotheca属、Porphyridium属、Campylaephora属がより好ましい。さらには、安定生産が可能なPorphyra属、Chondrus属、Eucheuma属、Porphyridium属がより好ましい。
【0047】
MAA又はその塩は、資源量の豊富さおよび資源の有効活用の観点から、R1及びR2のうち一方が−CH2COOHであるのに対して他方が−CH(COOH)CH(OH)CH3である構造式(II)の化合物(Porphyra−334とも呼ばれる)、或いは、R1及びR2のうち一方が−CH2COOHであるのに対して他方が−CH(COOH)CH2OHである構造式(II)の化合物(Shinorineとも呼ばれる)が好ましい。
【0048】
MAA又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒を調製するための溶媒の種類は、特に限定されないが、コストの面から、水、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、或いは、それらの混合溶媒又は緩衝液が望ましい。
【0049】
pH調整のための手段は、特に限定されず、アルカリを用いても、緩衝液を用いてもどちらでも構わない。使用するアルカリは、アルカリ水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、アルカリイオン交換樹脂によるプロトン交換、脱塩等の手段によりpHを調整しても構わない。緩衝液を用いる場合の塩濃度は、特に限定されないが、110mMを超える濃度で抽出する場合には、加熱工程の前までに、透析装置や逆浸透膜分離装置等を用いて塩濃度を110mM以下、より好ましくは80mM以下に低減させることが望ましい。したがって、工程の簡略化の観点から、緩衝液の塩濃度は110mM以下、より好ましくは80mM以下であることが望ましい。
【0050】
前期加熱工程により得られた産物をさらに精製してもよい。精製方法としては、例えば、電気透析等による脱塩、限外ろ過膜等による分子量分画、サイズ排除クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、合成吸着樹脂による精製、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー等を用いることができる。なかでも、陰イオン交換クロマトグラフィー、合成吸着樹脂法、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィーが純度の点では好ましい。精製効率を上げる観点から、複数の精製方法を併用しても構わない。
【0051】
陰イオンクロマトグラフィーによる精製の場合、強塩基性の担体を用いると溶出に高濃度の塩が必要となる。したがって、塩の使用量の低減という観点から、クロマトグラフィーにもちいる担体は弱塩基性のものが好ましい。
【0052】
合成吸着樹脂法による精製の場合、MACを吸着担体に保持させるために、平衡化液、洗浄液を酸性にするのが好ましい。また、逆相分配クロマトグラフィーによる精製の場合、分離度を挙げるために、移動相を酸性にするのが好ましい。酸性にするための酸としては、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸等が用いられるが、トリフルオロ酢酸等の強酸を用いた場合、分取後にMACが長期間強酸環境下に曝されることから、通常、分取後迅速に溶媒除去の操作を行わねばならない。したがって、MACの安定性の観点から、使用する酸は酢酸およびギ酸が好ましい。移動相への酸の添加濃度は、0.01〜0.1vol%の範囲内が好ましい。また溶離液(移動相)はメタノール、エタノールあるいはアセトニトリルと水の混液が好適に用いられる。
【0053】
MAA又はその塩の純度は、特に限定されず、精製物であってもよいし、粗分画又は粗精製物であってもよい。MAA又はその塩の粗分画を得るための粗分画法としては、選択的溶媒抽出、限外ろ過膜による分子量分画等が挙げられる。MAA又はその塩の精製物又は粗精製物を得るための精製方法としては、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等、特に好ましくは順相分配クロマトグラフィーならびに陰イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。
【0054】
MAC又はその塩は、後述の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス抽出方法により得られる藻類エキス、好ましくは紅藻エキス、より好ましくはノリエキス中に多量に含まれている。そこで、本発明は、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー等の精製方法により該藻類エキスからMAC又はその塩を精製する工程を包含する、MAC又はその塩の製造方法も提供する。
【0055】
藻類エキス抽出方法
本発明はまた、MAC又はその塩を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法を提供する。この製造方法は、少なくとも以下の工程を包含する。
工程A:水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液と藻類とを75℃以下で混合する工程、
工程B:混合物のpHを6.5以上に調整する工程、
工程C:加熱する工程、
工程D:固液分離する工程、
工程E:溶媒可溶性成分を分子量に基づき分画し、例えば、分子量約20万以下、好ましくは約10万以下、より好ましくは約5万以下の分子を含む画分を得る工程。
【0056】
ここで、工程の順番は、
製造方法1:工程A→工程B→工程C→工程D→工程E
製造方法2:工程A→工程D→工程E→工程B→工程C
製造方法3:工程A→工程D→工程B→工程C→工程E
のいずれの方法も採用できる(ここで、工程Aで得られる混合物のpHが6.5以上である場合には、工程Bを省略してもよい)。
【0057】
また、工程Eの前に工程Cが実施される場合、すなわち低分子成分を分画する工程の前に加熱を行う場合には(上記製造方法1および3)、工程Bそのものを省略することができる。具体的に、MAAからMACへの効率的な変換を促すためには、溶媒のpHを6.5以上に調整することが肝要であるが、藻類由来の高分子成分がMAAと共存している場合には、例外的にpHの調整は不要である。このとき、加熱時のpHは、通常5.5から6.5の間である。この理由としては、工程Eによって除去される高分子成分のある特定の因子が、MACの効率的生成に何らかの役割を果たしているためであると推察される。
【0058】
工程Cにおける加熱温度の下限は、加熱する混合物、抽出物、分画物のpHにより異なり、前述の式(A)及び式(B)で規定される。
【0059】
加熱時間は特に規定されないが、5秒以上10時間以下の範囲が好ましい。加熱時間は加熱方法、所望の収量等に応じて異なり、例えば、連続式熱交換器を用いた加熱を行う場合には、加熱温度は5秒以上30分以下が好ましい。また、加熱釜等を用いてバッチ加熱する際には、効率よいMACの生成を促すため、5分以上の加熱が好ましい。ただし、製造方法1および3において緩衝液やアルカリを用いず且つ工程Bを省略した場合には、120℃〜150℃で30分以上の加熱を行なうことが望ましい。省エネルギーおよびMACの変質防止の観点から、加熱時間の上限は、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0060】
該製造方法は、必要に応じて、電気透析装置や逆浸透膜装置等によって分子量200以下の塩を除去する工程(工程F)をさらに包含してもよい。ここで、工程Fは、工程Dの後であれば順番は問わない。
【0061】
水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液としては、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示すエキスを抽出できる限りにおいて特に限定されず、たとえば、水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、含水メタノール、含水エタノール、含水プロパノール、含水アセトン、含水アセトニトリル等が挙げられる。好ましい使用溶媒は、水、含水メタノール、含水エタノールおよびそれらの緩衝液混合液である。含水メタノールおよび含水エタノールの有機溶媒濃度は、例えば80%(v/v)以下、好ましくは2〜60%(v/v)、より好ましくは2〜50%(v/v)である。有機溶媒濃度が80%(v/v)より高くてもMAC、及びMACの出発物質であるMAAの抽出率は変わらないが、有機溶媒濃度が80%(v/v)以下であればクロロフィル等のきょう雑の色素成分が抽出されにくい。pH調整のためのアルカリの種類は特に限定されない。
【0062】
水に緩衝液を加えた際の最終の塩濃度は、特に限定されないが、110mM以上になる場合は、加熱工程の前に、脱塩処理して110mM以下に調整するのが好ましい。
【0063】
抽出原料は、MAA又はその塩が含まれている限り特に限定されないが、好ましくは前述の藻類、より好ましくは前述の紅藻類、例えば、Porphyra属、Gelidiella 属、Palmaria属、Gloiopeltis属、Chondrus属、Eucheuma属、Gigartina属、Gracilaris属、Meristotheca属、Porphyridium属、Campylaephora属等であり、特に好ましくはPorphyra属である。原料の安定確保の観点から、Porphyra属藻類の中でもPorphyra yezoeinsis、Porphyra tenera、Porphyra haitanensisが好ましい。
【0064】
本発明は、これらの製造方法により得られた、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す藻類エキスも提供する。
【0065】
本発明の藻類エキスは、MAC又はその塩を例えば0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上含有する。
【0066】
また、本発明の抽出方法により得られた藻類エキスのMAC又はその塩とMAA又はその塩の存在比は、例えばMAC又はその塩:MAA又はその塩=10〜100程度:90〜0程度、好ましくは30〜100程度:70〜0程度、より好ましくは50〜100程度:50〜0程度である。
【0067】
酸化防止剤
本発明のMAC又はその塩は、強い抗酸化作用を示すことから、酸化防止剤の有効成分として有用である。
【0068】
本発明は、MAC又はその塩を含有する酸化防止剤も提供する。
【0069】
本発明の酸化防止剤は、高い品質(色彩、風味、香り、つや等)及び安全性が求められる分野、長期保存が求められる分野、酸化や過酸化によりラジカル種を発生し得る脂肪酸や油脂を用いる分野等で好適に使用することができる。例えば、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物、飼料組成物、ペットフード等の分野で好適に使用することができる。
【0070】
本発明の酸化防止剤におけるMAC又はその塩の含量は、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等に含有されたときの最終的なMAC又はその塩の含量が重要であるため特に限定されないが、通常、3〜100%程度、好ましくは10〜100%程度である。食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等に添加される酸化防止剤におけるMAC又はその塩の含量は、後述する。酸化防止剤におけるMAC又はその塩の含量が、100重量%であってもよい。
【0071】
本書において、酸化防止剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等におけるMAC又はその塩の含量は、特に言及しない限り、酸化防止剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等における固形のMAC又はその塩の合計量(重量%)で表される。
【0072】
一酸化窒素産生抑制剤
本発明のMAC又はその塩は、一酸化窒素産生抑制作用を示すことから、一酸化窒素産生抑制剤の有効成分として有用である。
【0073】
本発明は、MAC又はその塩を含有する一酸化窒素産生抑制剤も提供する。
【0074】
本発明のMAC又はその塩は一酸化窒素消去作用も有し得る。
【0075】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤は、例えば、食品組成物、医薬組成物、化粧料、飼料組成物、ペットフード等の分野で好適に使用することができる。
【0076】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤におけるMAC又はその塩の含量は、食品組成物、医薬組成物、化粧料等に含有されたときの最終的なMAC又はその塩の含量が重要であるため特に限定されないが、通常、3〜100%程度、好ましくは10〜100%程度である。一酸化窒素産生抑制剤におけるMAC又はその塩の含量が、100重量%であってもよい。
【0077】
食品組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有する食品組成物、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す紅藻エキスを含有する食品組成物を提供する。食品組成物には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる食品組成物が含まれる。
【0078】
本発明の食品組成物には、必要に応じて、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。かかる添加物については、本書においてそれらの全体が援用される「指定品目 食品添加物便覧 1999年版」岸 眞之輔 編集、平成11年12月10日発行、又は、「新訂版=よくわかる 暮しのなかの食品添加物」日本食品添加物協会編集、1996年12月20日発行」に記載される添加物を用いることができる。
【0079】
食品組成物としては、例えば、ハム・ソーセージ等の食肉加工品、たらこ・サーモン等の水産物加工品、バター・チーズ・ヨーグルト等の乳加工品、うどん・そば・中華そば・スパゲッティ・インスタントラーメン等の麺類、豆腐・豆乳・大豆粉・醤油・豆菓子・分離大豆タンパク質などの大豆加工品、農産物加工品、ジャム・プルーンエキス・ピューレ等の果実加工品、調味料、発泡酒・ワイン・ビール等の酒、清涼飲料水・炭酸飲料水・コーヒー・紅茶等の飲料、漬物、パン、菓子、氷菓、惣菜、レトルト、米製品等が好適に例示される。
【0080】
食品組成物におけるMAC又はその塩の含量は、食品組成物の種類、形態、油脂含量、加工状態、設定される消費又は賞味期限、所望の効果、食品組成物の保存形態、共存する成分等によって異なるため限定されないが、例えば、0.00001〜80重量%、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.0001〜30重量%である。
【0081】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の食品組成物は、食品組成物自体の酸化防止の目的でMAC又はその塩を含有する食品組成物である。この場合の食品組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00001〜5重量%、より好ましくは0.00001〜3重量%である。
【0082】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の食品組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化物、脂質の過酸化物等が一因となって引き起こされる疾患又は症状(例えば、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害、腎障害等)を改善及び/又は予防し得る機能性食品組成物である。機能性食品組成物としては、例えば、粉末、錠剤、顆粒、タブレット、チュアブルタブレット、カプセル、ソフトカプセル、トローチ、飴、キャンディー、ガム、ゼリー、グミ、ビスケット、クッキー、飲料等の食品組成物が好適に例示される。この場合、食品組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.001〜80重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%である。
【0083】
本発明の藻類エキスを含む食品組成物における藻類エキスの含量は、上記の食品組成物におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0084】
本発明の紅藻エキスを含む食品組成物は、活性酸素、フリーラジカル、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる食品組成物自体の品質劣化を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができる。本発明の食品組成物は、機能性食品組成物として、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化物、脂質の過酸化物等が一因となって引き起こされる前述の疾患又は症状を改善及び/又は予防し得る。
【0085】
ペットフード及び又は飼料用組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有するペットフード及び/又は飼料用組成物、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す紅藻エキスを含有するペットフード及び/又は飼料用組成物も提供する。
【0086】
本発明のペットフード及び/又は飼料用組成物には、必要に応じて、穀物類、豆類、イモ類、野菜、果物、肉及び魚介、油脂、糠又は粕、糖類、色素等の動物の生命維持に必要な栄養源が配合される。
【0087】
ペットフード及び/又は飼料用組成物におけるMAC又はその塩の含量は、動物の種類や年齢等に応じて異なるので特に限定されないが、前述の食品組成物と同様の含量を用いることができる。本発明のペットフード及び/又は飼料用組成物は、前述の食品組成物と同様の効果を発揮し得る。
【0088】
医薬組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有する医薬組成物、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す紅藻エキスを含有する医薬組成物も提供する。
【0089】
本発明の医薬組成物には、必要に応じて、薬学的に許容される担体、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味剤、矯臭剤、安定剤等の通常の医薬組成物に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。これらの添加剤については、例えば、本書においてその全体が援用される「医薬品添加物事典2000」日本医薬品添加剤協会 編集、2000年4月28日発行に記載の添加剤を用いることができる。
【0090】
医薬組成物の投与形態及び製剤形態は、特に限定されない。投与形態としては、経口投与、筋肉内投与、静脈内投与、経腸投与、直腸内投与、皮下投与等が挙げられる。製剤形態としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、トローチ剤、座剤、散剤、パウダー等の固形又は半固形剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、ローション剤、エアゾール剤、浸剤、煎剤等の液剤等が挙げられる。
【0091】
医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量は、使用目的、製剤形態、組成、設定される使用期限、共存する成分等によって異なるため限定されないが、例えば、0.00001〜100重量%、好ましくは0.00001〜90重量%、より好ましくは0.0001〜90重量%である。
【0092】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、医薬組成物自体の酸化防止の目的でMAC又はその塩を含有する医薬組成物である。この場合の医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.00001〜20重量%、好ましくは0.0001〜15重量%、より好ましくは0.0001〜10重量%である。
【0093】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳・神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害、腎障害等)の治療及び/又は予防の有効成分としてMAC又はその塩を含有する医薬組成物である。この場合の医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.01〜100重量%、好ましくは0.01〜90重量%、より好ましくは0.1〜90重量%である。
【0094】
本発明の紅藻エキスを含む医薬組成物における紅藻エキスの含量は、上記の医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0095】
本発明の医薬組成物は、活性酸素、フリーラジカル、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる医薬組成物の品質劣化(例えば、有効成分の効能、形態等における変化)を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができる。また、MAC又はその塩を有効成分として含有する本発明の医薬組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化物、脂質の過酸化物等が関与する上記疾患又は症状の治療及び/又は予防に有効である。
【0096】
化粧料
本発明は、MAC又はその塩を含有する化粧料(ヘアケア化粧料も含む)、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す藻類エキスを含有する化粧料も提供する。本発明の化粧料には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧料が含まれる。
【0097】
本発明の化粧料には、必須成分であるMAC又はその塩に加え、必要に応じて、粉末、顔料、油脂類、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、増粘剤、洗浄剤、賦形剤、乳化剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、アミノ酸、香料等の通常の化粧料に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。これらの添加剤については、本書においてその全体が援用される特開平9−87133公報、特開平3−264510公報等の公報を参照することができる。
【0098】
本発明の化粧料の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系等のような剤型であり得る。皮膚への安全性の点からpH4〜8程度に調整されることが好ましい。
【0099】
本発明の化粧料の用途も任意であり、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等のフェーシャル化粧料、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアムース、ヘアスプレー等の頭髪又は整髪化粧料、ファンデーション、口紅、グロス、アイシャドー、アイブロー、チーク、マスカラ等のメーキャップ化粧料、ボディーローション、ボディークリーム等のボディー化粧料 、クレンジングフォーム、洗顔料、ハンドソープ、ボディーソープ等の洗浄料、香水、デオドラント剤等の芳香化粧、マニキュア、ベースコート、トップコート、除光液等のネイル化粧料、入浴剤等に用いることができる。
【0100】
本発明の化粧料におけるMAC又はその塩の含量は、化粧料の使用目的、剤型、組成、設定される使用期限、設定される保存状態、共存する成分等によって異なるため特に限定されないが、例えば、0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜50重量%、より好ましくは0.0001〜30重量%である。
【0101】
本発明の好ましい実施形態において、化粧料は、化粧料自体の酸化防止の目的でMAC又はその塩を含有する化粧料である。この場合の化粧料におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.000001〜10重量%、好ましくは0.00001〜5重量%、より好ましくは0.0001〜3重量%である。
【0102】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の化粧料は、皮膚の老化(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、皮膚の色素沈着、日焼け防止等の治療及び/又は予防の有効成分としてMAC又はその塩を含有する化粧料である。この場合の化粧料におけるMAC又はその塩の含量は、0.0001〜50重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%である。
【0103】
本発明の藻類エキスを含む化粧料における藻類エキスの含量は、上記の化粧料におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0104】
本発明の化粧品は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる化粧品の品質劣化(例えば、香り、色彩、形態、効果等における変化)を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができるとともに、MAC又はその塩の抗酸化作用により、皮膚の老化予防又は美白効果を奏する。
【0105】
油脂組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有する油脂組成物、並びに、並びに、抗酸化作用を示す藻類エキスを含有する油脂組成物も提供する。本発明の油脂組成物には、油脂を主成分とする複数の成分からなる組成物はもちろんのこと、(MAC又はその塩以外の成分が)全て油脂である組成物も含まれる。
【0106】
油脂組成物としては、ペンキ、ワックス、ニス等の塗料、クリーニング液等の洗浄料、食用油脂等が例示できるが、これらに限定されない。
【0107】
油脂組成物における油脂含量は、特に限定されないが、例えば約1〜100重量%、好ましくは約2〜100重量%、より好ましくは3〜100重量%である。
【0108】
本発明の油脂組成物には、必須成分であるMAC又はその塩に加え、必要に応じて、顔料、光沢剤、界面活性剤、分散剤、増粘剤、増量剤、結合剤、緩衝剤、保存剤、安定剤、溶解補助剤、防腐剤等の通常の油脂組成物又は油脂製品に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。本発明の油脂組成物の形態は任意であり、液体、半液体(ゾル、ペーストを含む)、半固体(ゲルを含む)、固体、水−油脂二層体、水−油脂−粉末三層体等のような形態であり得る。
【0109】
油脂組成物におけるMAC又はその塩の含量は、使用目的、形態、組成、設定される使用期限、設定される保存状態、共存する成分等によって異なるため特に限定されないが、例えば、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00001〜5重量%、より好ましくは0.00001〜3重量%である。本発明の藻類エキスを含む油脂組成物における藻類エキスの含量は、上記の油脂組成物におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0110】
本発明の油脂組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる油脂組成物の品質劣化(例えば、色彩、形態、つや、におい、安全性等における変化)を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができる。
【0111】
なお、本発明の食品組成物、医薬組成物及び化粧料に関し、酸化ストレスと各疾患又は各症状との関係については、例えば、以下の文献(これらは、本書においてその全体が援用される)を参照することができる:発癌については、「Toyokuni, Pathol. Internat., 49(1999) 91-102」、「Kitano ,Nat. Rev. Cancer., 4(3)(2004) 227-35」、「Feinberg et al., Nat. Rev. Genet., 7 (2006) 21-33」、老化については、「松尾ら, 老化と酸化ストレス., 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2001, 172-176.」、神経変性疾患(アルツハイマー病・パーキンソン病)については、「Tabner et al., Free Radic. Biol. Med., 32 (2002) 1076-1083」、「Jenner, Ann. Neurol., 53(Suppl 3) (2003) S26-36」、動脈硬化性疾患については、「Cynshi et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(1998) 10123-10128」、炎症性腸疾患については、「内藤, 炎症性腸疾患と酸化ストレス., 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線 ver 2(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2006, 286-290」、慢性腎不全については、「中尾, 慢性腎不全と酸化ストレス., 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線 ver 2(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2006, 322-325.」、皮膚疾患・老化については、「Podda et al., Clin. Exp. Dermatol., 26 (2001) 578-582」「河野ら, 皮膚と活性酸素―酸化ストレスからの防御―, 炎症・再生, 20 (2000) 119-129」「金, 皮膚の抗老化最前線, エヌ・ティー・エス, 2006, 358-378.」「Lin et al., J. Invest. Dermatol., 125 (2005) 826-832」「尾藤ら, 臨床皮膚科, 59 (2005) 152-154.」、糖尿病関連疾患については、「Koba et al., J. Am. Soc. Nephrol., 14 (2003) S250-S253」、肺疾患については、「Rahman et al., Eur. J. Pharmacol., 533 (2006) 222-239」、気管支喘息については、「Ohrui et al., Tohoku J. Exp. Med., 199 (2003) 193-196」、網膜疾患については、「Blanks et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 33 (1992) 2814-2821.」、白内障については、「中西, 白内障と酸化ストレス, 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線 ver 2(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2006, 411-413」、を参照することができる。
【発明の効果】
【0112】
本発明により、活性酸素の消去能、脂質の過酸化防止効果及びを示す新規抗酸化化合物及びその製造方法が提供された。本発明の抗酸化化合物の抗酸化作用は、合成抗酸化剤として多用されるブチルヒドロキシルトルエン(BHT)の抗酸化作用よりも顕著に高いものであった。また、本発明の抗酸化化合物は、藻類等の天然素材から製造できる化合物であることから、安全性が高いと考えられる。本発明により、該抗酸化化合物を含有する酸化防止剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物が提供された。
【0113】
さらに、本発明により、抗酸化作用を示す藻類エキス及びその製造方法、該藻類エキスを含有する食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物も提供された。
【0114】
また、本発明の抗酸化化合物は、一酸化窒素産生抑制作用も有しているので、一酸化窒素産生抑制化合物、一酸化窒素産生抑制作用を示す藻類エキス及びその製造方法、並びに該藻類エキスを含有する食品組成物、医薬組成物、化粧料も提供された。本発明の抗酸化化合物の一酸化窒素産生抑制作用は、同じ抗酸化作用をもつクロロゲン酸と比較しても顕著なものであった。
【0115】
本発明の酸化防止剤は、高い品質及び安全性が求められる各種組成物の酸化劣化を効果的に抑制することができる。
【0116】
本発明の食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる製品の酸化劣化による品質低下を起こすことなく、品質及び安全性を長期間保つことができる。本発明の食品組成物又は医薬組成物は、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害、腎障害等の疾患又は症状を改善及び/又は予防するという優れた効果を奏する。本発明の化粧料は、皮膚の老化(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、皮膚の色素沈着、日焼け防止等の治療及び/又は予防するという優れた効果を奏する。
【0117】
本発明の抗酸化化合物の原料として下等ノリ、色落ちノリ等の廃棄ノリを用いる場合には、廃棄物利用の観点からも有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0118】
以下に実施例を示すが、この実施例は、本発明を何ら限定するものではない。また、本発明者らは、本発明が理論により拘束されることを望まない。
【実施例1】
【0119】
1.1 マイコスポリン様アミノ酸の粗分画
アマノリ属スサビノリ(Porphyra yezoensis)の乾燥物1gを細切し、50mMリン酸緩衝液(pH6.8)50mLに懸濁させ、1時間撹拌した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得た。これを分画分子量3,000Daの限外ろ過膜付遠心式フィルター(ザルトリウス社製Vivaspin 20)でろ過し、スサビノリ低分子抽出液を得た。これを、以下に示す条件で高速液体クロマトグラフ−エレクトロスプレーイオン化−イオントラップ型質量分析(HPLC−ESI−ITMS)に供した:カラム,Unison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属,インタクト株式会社製);移動相,A液(アセトニトリル:水=5:95(v/v),0.05%トリフルオロ酢酸),B液(アセトニトリル:水=95:5(v/v),0.04%トリフルオロ酢酸),0→3分(A100%保持),3→15分(B0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm),ESI−ITMS(Scan range,100−500m/z;Porality,positive;Capillary voltage,4000V;End plate offset voltage,500V;Nebulizer,45psi;Dry gas,8L/min;Dry temperature,350℃);注入量,3μL;HPLC,HP1100 Series(Agilent Technologies製)+Esquire HCT Ultra(Brucker Daltonics);カラム温度,25℃。
【0120】
HPLCにおけるクロマトグラムを図1に示す。保持時間2.24分ならびに2.88分の位置に、マイコスポリン様アミノ酸(以下、MAAと定義する)を特徴づける吸収極大約334nmのピークが認められた。各々のITMSならびにITMS/MSスペクトルを測定した結果を図2に示す。過去の文献値から、保持時間2.24分のピークはShinorine(化1, プレカーサイオン[M+H]+,m/z333;プロダクトイオン,m/z186,230,274,300)、保持時間2.88分のピークはPorphyra 334(化2,プレカーサイオン[M+H]+,m/z347;プロダクトイオン,m/z303)と同定された。(引用文献;Electrospray ionization tandem mass spectrometric and electron impact mass spectrometric charactarization of mycosporine−like amino acids. K. Whitehead et al.,Rapid Comun. Mass Spectrom.2003;17:2133−2138,Fragmentation of mycosporine−like amino acids by hydrogen/deuterium exchange and electrospray ionization tandem mass spectrometry. K. H. M. Cardozo et al.,Rapid Commun. Mass Spectrom.2006;20:253−258.)
1.2 MAA粗分画液の加熱処理
1.1で得られたMAA粗分画液1mLをねじ口バイアルに入れて密封し、ヒートブロックで120℃、1時間加熱した。
【0121】
1.3 抗酸化活性の評価
須田の方法(食品機能研究法,光琳,pp218−220,2000)に準じてMAA粗分画液ならびに加熱処理液の1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去能を測定した。各サンプルをメタノール(MeOH)で22〜25倍希釈した。これらを50μLのMES緩衝液を予め入れておいた96穴マイクロプレートに50μLづつ添加し、シェーカにて混合した。さらに、DPPH−メタノール溶液(80μg/mL)を100μL添加し、シェーカにて混合した。静置30分後(20℃)における520nmの吸光度を、マイクロプレートリーダ(Molecular device社製Spectramax‐M5)にて測定した。同時に、Troloxを用いて検量線を作成し、DPPHラジカル消去活性をTrolox当量で算出した。その結果、図3に示すように、両方のサンプルにおいて濃度依存的なDPPHラジカル消去活性が認められたが、特に加熱処理液において、加熱前の液に比して高い抗酸化性が認められた。
【実施例2】
【0122】
2.1 HPLCによる抗酸化因子の特定
1.1で得られたMAA粗分画液及びその加熱処理品を逆相分配クロマトグラフィーに供した。検出器出口よりフラクションコレクターを用いて分取し、DPPHラジカル消去活性を測定した。クロマトグラフィーの条件を以下に示す:カラム,Cadenza C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属,インタクト株式会社製);移動相,A液(アセトニトリル:水=5:95(v/v),0.05vol%トリフルオロ酢酸),B液(アセトニトリル:水=95:5(v/v),0.04%トリフルオロ酢酸),0→15分(B:0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm),ESI−ITMS(Scan range,100−500m/z;Porality,positive;Capillary voltage,4000V;End plate offset voltage,500V;Nebulizer,45psi;Dry gas,8L/min;Dry temperature,350℃)注入量,3il;装置,HP1100 Series(Agilent Technologies製)+Esquire HCT Ultra(Brucker Daltonics);カラム温度, 25℃。その結果、図4に示すように、加熱処理品において、保持時間8.1分の画分におけるDPPHラジカル消去活性が認められた。活性に対応するピークは波長226nmを吸収極大とする紫外線吸収性の化合物であった。また、HPLC−ESI−ITMSによる質量分析(ポジティブモード)により、活性ピークにおいて[M+H]+と考えられるm/z329が検出された(図5)。この活性ピークのMS/MSスペクトルおよびMS3スペクトルを図5に示した。プレカーサイオンm/z329をトラップして得られる主要なプロダクトイオンはm/z279、プロダクトイオンm/z279をさらにトラップして得られる主要なプロダクトイオンはm/z233,205,187であった。加熱前の液においても本活性ピークは認められたが、ピーク面積は加熱後に比べて顕著に少なかった。以後、この活性ピークで表現される化合物をMAA−derived Antioxidative Compound(MAC)と呼ぶことにする。
【0123】
2.2 TLC−DPPHによる抗酸化因子の特定
実施例1における加熱処理液50μLを薄層クロマトグラフィー(TLC)用シリカゲルプレート(100x100mm)にスポットし、展開溶媒(ブタノール/酢酸/水=2/1/1(v/v/v))で2回展開し、ドライヤーで十分乾燥させた。このプレートを0.4%DPPH−エタノール溶液に10秒間浸し、速やかに乾燥させた。乾燥30分の時点でスキャナに取り込み、濃色の背景に白く浮かび上がる抗酸化画分を可視化させた。その結果、図6に示すように、強いDPPHラジカル消去活性を示す複数のバンドが確認された。これらのバンドの内最も明るいものを掻き取り、HPLCに供したところ、2.1におけるMACと同じ保持時間の位置にピークが検出されたことから、TLC−DPPHにより可視化される抗酸化活性バンドは、MACより構成される成分であると推察された。
【実施例3】
【0124】
実施例2で示された抗酸化性因子MACの精製方法を検討した。カラムとしてDEAE−Toyopearlpak 650S(Tosoh製、22mmx200mm)を用い、H20を出発溶媒として0.5M NH4HCO3によるグラジエント溶出(溶離液A,H2O;溶離液B,0.5M NH4HCO3;B:0%→50%(0−90min);流速,3mL/min)を行った。実施例1における加熱処理液500μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMAC含有画分を特定した。その結果、保持時間67.2−76.8分の画分にMACの存在が認められた(図7)。本画分を凍結乾燥し、MACを高純度で含有する精製物を得た。
【実施例4】
【0125】
MACの精製法をさらに検討した。カラムとしてWakosil−II 5C18HG Prep(20.0mm x250mm,和光純薬工業株式会社製)を用いた。移動相に酢酸(AcOH)を含有した水/アセトニトリル(AcN)混合溶媒を用いた(移動相A:AcN:H2O=5:95(v/v),0.05%AcOH;移動相B,AcN:H2O=95:5(v/v),0.04%AcOH;B0%→80%(0→48min)、流速:3mL/min;検出,200−600nm)。実施例1における加熱処理液500μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMAC含有画分を特定した。その結果、保持時間33.5‐36.5分のピークにMACを示す分子量関連イオンm/z329が認められた(図8)。本画分を繰り返し分取後減圧濃縮し、MACを高純度で含有する精製物を得た。次に、移動相に蟻酸をAcOHと同様の濃度で添加して、同様の操作でクロマトグラフィーを行ったところ、酢酸とほぼ同一の保持時間にMACが溶出され、これを分取して減圧濃縮することで、MACを高純度で含有する精製物を得た。
【実施例5】
【0126】
MACの精製法をさらに検討した。吸着担体として合成吸着樹脂HP−20(三菱化学株式会社製)を用いた。アセトンで洗浄したHP−20をディスポーザブルカラムに充填し(5mL)、5倍量のMeOH:H2O=5:95(v/v),0.01%AcOHで平衡化した。実施例1の加熱処理液500μLをカラムに添加し、3倍量のMeOH:H2O=5:95(v/v),0.01vol%AcOHで洗浄した。次に、10vol%濃度から10vol%おきにメタノール濃度を上げた含水MeOH(AcOH非含有、カラム容量の3倍量)で段階的に担体吸着成分を溶出させ、各々の画分をHPLC解析に供してMAC含有画分を特定した。その結果、10−50vol%MeOHで溶出される画分にMACの存在が認められた(図9)。MACの溶出が認められた画分を減圧濃縮し、MACを高純度で含有する精製物を得た。
【比較例1】
【0127】
酸洗浄した強塩基性陰イオン交換樹脂(Dowex 1 x8,Cl form、室町ケミカル製)をディスポーザブルカラムに充填し(5mL)、5倍量の純水で平衡化した。実施例1の加熱処理液500μLをカラムに添加し、3倍量の純水で洗浄した。次に、0.2Mおきに塩濃度を上げたNH4HCO3水溶液(0−1.0M)で段階的に吸着成分を溶出させ、各々の画分をHPLC解析に供した。しかしながら、1.0Mまで塩濃度を上げてもMACのカラムからの溶出は認められなかった。このことから、MAC強塩基性の陰イオン交換樹脂に強く吸着し、溶出させるためにはイオン強度の高い塩を使用する必要があった。
【比較例2】
【0128】
カラムとしてUnison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属)を用い、酢酸の濃度を変えた水/AcN混合溶媒を用いてグラジエント分析を行った。分析条件:移動相,0→3分(A100%保持),3→15分(B0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm)。移動相に含まれるAcOH濃度を0,0.01,0.04,0.1vol%に設定した。実施例1における加熱処理液3μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMACの溶出位置を比較した。その結果、酢酸無添加の移動相の場合、MACのピークがブロードになり、良好な分離が得られなかった(図10)。
【比較例3】
【0129】
カラムとしてUnison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属)を用い、蟻酸の濃度を変えた水/AcN混合溶媒を用いてグラジエント分析を行った。分析条件:移動相,0→3分(A100%保持),3→15分(B0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm)。移動相に含まれる蟻酸濃度を0,0.01,0.04,0.1vol%に設定した。実施例1における加熱処理液3μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMACの溶出位置を比較した。その結果、蟻酸無添加の移動相の場合、MACのピークがブロードになり、良好な分離が得られなかった(図11)。(比較例2)および(比較例3)より、MACをカラムへ吸着させ、分離において高い分離能を得るためには、移動相への酸の添加が望ましいことを示している。
【比較例4】
【0130】
カラムとしてUnison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属)を用い、移動相にトリフルオロ酢酸(TFA)を含有した水/AcN混合溶媒を用いた(移動相A:AcN:H2O=5:95(v/v),0.05vol%TFA;移動相B,AcN:H2O=95:5(v/v),0.04%vol TFA;B0%→100%(0→60min)、流速:1mL/min)。実施例1における加熱処理液3μLをカラムにインジェクションし、ESI−ITMS解析によりMAC由来ピークを特定した。その結果、酢酸、蟻酸とほぼ同位置のピークにMACを示す分子量関連イオンm/z329が認められた。本画分を繰り返し分取後3日間冷蔵し、減圧濃縮して再度水に溶解させたところ溶液が黄色く着色し、このものを再度HPLC解析しても、同様の保持時間にMACを示すピークは認められなかった。これは、分取後より脱溶媒までの過程において、強酸酸性下に曝されることにより、MACの構造が失われるためであると判断された。
【比較例5】
【0131】
アセトンで洗浄したHP−20をディスポーザブルカラムに充填し(5mL)、5倍量のメタノール:H2O=5:95(v/v)で平衡化した。実施例1の加熱処理液500μLをカラムに添加し、3倍量のメタノール:H2O=5:95(v/v)で洗浄した。素通り画分およびメタノール洗浄画分に、添加したMACのほとんどの量が回収され(図9)、カラムへの吸着はなかった。
【実施例6】
【0132】
6.1 性状
実施例4における精製物の乾燥物における性状は黄褐色粉末状である。
【0133】
6.2 MSnスペクトル
実施例4における精製物を2.4mg/mLになるように純水に溶解させ、ESI−ITMSn分析に供した。結果を以下に記す。
MS(正イオン):[M+H]+,m/z329;[M+Na]+,m/z351
MS2:m/z299,279(プレカーサイオン,m/z329)
MS3:m/z233,215,205,187(プレカーサイオン,m/z279)
MS4:m/z187(プレカーサイオン,m/z233)
MS(負イオン):[M−H]−,m/z327
MS2:m/z283(プレカーサイオン,m/z327)
MS3:m/z239,224,207(プレカーサイオン,m/z283)
【0134】
6.3 精密質量測定
実施例4における精製物を12μg/mLになるように50%AcNに溶解させ、エレクトロスプレーイオン化−飛行時間型質量分析(ESI−TOF)に供した。質量分析の結果は以下のとおりである。
質量分析:329.1348[M+H]+(計算値329.1348:C14H20N2O7)
【0135】
6.4 紫外吸収スペクトル
3.1で得られた精製品を純水に溶解させ、紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果、この化合物の吸収極大は226nmであった(図12)。
【0136】
6.5 構成アミノ酸
3.1で得られた製製品を窒素雰囲気下6N塩酸で加水分解し(110℃、20時間)、加水分解物を中和後、内部標準としてα―アミノ酪酸を等量添加し、フェニルイソチオシアネート(PITC)で処理した。これを、HPLCに供し(カラム,Super ODS(2.0 x 150mm,Tosoh製);移動相,A液(Acetonitrile:Water=3:97(v/v),0.05%酢酸ナトリウム含有,B液(Acetonitrile:Water=60:40),0→3分(A:100%保持),3→15分(B:0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,紫外検出(254nm),注入量,3μL;カラム温度,40℃)、構成アミノ酸について調査した。PTC誘導体化したMAC−塩酸加水分解物のHPLCクロマトグラムを図13−1に示す。主要な構成アミノ酸として、GlycineおよびThreonineが検出された。
【0137】
6.6 核磁気共鳴(NMR)スペクトル
精製物の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR,13C−NMR)を以下に示す。
(スペクトルデータ)
核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR,400MHz,D2O)
δ=6.17(1H,s),6.11(1H,s),δ=4.45(2H,s),δ=4.16,4.14,4.12,4.11,4.09(1H,m,J=6.3MHz),δ=3.80(3H,s),δ=3.74(2H,s),δ=3.72(1H,d,J=6.8MHz),δ=1.92(2H,s)δ=1.30,1.29(3H,d,J=6.4MHz)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR,100MHz,D2O)
δ=184.0(C),182.4(C),δ=181.8(C),δ=143.8(C),δ=143.7(C),δ=140.4(C),δ=136.1(C)δ=71.3(CH),δ=68.3(CH2),δ=66.9(CH),δ=61.7(CH3),δ=50.3(CH2),δ=25.9(CH2),δ=22.1(CH3)
6.7 構造決定
MACにおける重水(D2O)中でのHD交換挙動を調べた。MACの水溶液を乾固させ、MACの濃度が1mg/mLになるように重水を添加し、溶解後直ちにESI-IT-MSを測定し、その後経時的に測定した。主要な[M+H]+であるm/z 329は、重水置換直後にm/z 336にまで増加後、徐々に変化し、19時間後にはm/z 338にまで増大して、その後の変化は認められなかった(図13−2)。m/zの経時的変化より、MAC中には、短期間で置換される6個の易動性水素と、徐々に置換される2個の水素が存在していることが明らかになった。このことは、MACにおいて、不飽和二重結合の位置変化を伴う互変異性体の存在を強く示唆するものであった。
【0138】
6.8 構造決定
以上の結果より、MACの構造を構造式(III)のように決定した。また、プロトン性溶媒中における構造を構造式(III−I)、(III−II)及び(III−III)のように決定した。
【0139】
【化8】
【0140】
ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示している。
【実施例7】
【0141】
7.1 MAAの加熱によるMACの生成
実施例6で決定されたMACの推定構造から、本抗酸化性因子は、ノリをはじめとする藻類に普遍的に含まれるMAAの一種Porphyra 334を前駆物質とする可能性が考えられた。そこで、ノリ中のMAAを高度精製し、これを加熱することによる抗酸化因子の生成状況を調べた。Porphyra 334は、下記構造式で表される:
【0142】
【化9】
【0143】
7.2 MAAの精製
スサビノリ粉末品50gに50%(v/v)メタノールを1L添加し、4℃で24時間撹拌した。この懸濁液を遠心分離(20,000xG,20min)し、上清を回収後、沈殿物に再度50%メタノール1Lを加え、常温で30分撹拌した。懸濁液を遠心し、上清を1回目の抽出液と合わせて粗抽出液とした。粗抽出液を分画分子量5,000の限外ろ過膜(Millipore Pellicon 2 MINI)でろ過し、MAAを含む透過液を得た。これを減圧下乾固させ、純水25mLに溶解させた。精密ろ過フィルター(0.45μm)を用いて不溶物をろ過し、電気透析装置(旭化成)により脱塩した。脱塩物を再度ろ過し、50mLに定容し、MAA粗抽出品として−40℃で保存した。
【0144】
MAA粗抽出品を分取HPLCに供し、波長330nm付近に吸収極大を有するピークを分取した(図14)。HPLCの条件を以下に記す:カラム,PA−1(22 x 200mm,ダイオネクス製);流速,2mL/min;溶離液,A液(水),B液(100mM NH4HCO3),B:0→15%(0→40分);注入,500μL(8回繰り返し分取);検出,280nm;カラム温度,常温。分取物は、減圧乾固した後に窒素雰囲気下で再度乾固させ、純水を添加した後に真空凍結乾燥して乾燥物とした。分画物1および2の重量はそれぞれ、0.710gおよび0.247gであった。また、ESI−ITMSn解析の結果から、分画物1はPorphyra 334、分画物2はShinorineと同定された。Shinorineは、下記構造式で表される:
【0145】
【化10】
【0146】
7.3 MAAの加熱
7.2で得られたPorphyra 334およびShinorineを0.1mg/mLの濃度になるようにリン酸緩衝液(20mM,pH8.0)に溶解させ、ねじ口バイアルに入れて密封し、120℃で30分加熱した。加熱前後のサンプルをLC−ESI−IT−MSn解析に供し、クロマトグラムおよび得られるピークのマススペクトルを比較した。その結果、加熱によりPorphyra 334のピーク(保持時間;2.9分)は減少し、代わりに保持時間12.5分の位置にピークが新たに出現した(図15)。このピークの[M+H]+は m/z329で、これはPorphyra 334における[M+H]+であるm/z347に対して18Da低い値であった。
【0147】
Shinorineのピーク(保持時間2.2分)も同様に減少(図16)し、保持時間11.2分の位置に新たなピークが出現した。本化合物のプレカーサイオンは[M+H]+と考えられるm/z315であった。これは、Shinorineにおける[M+H]+であるm/z333に対して18Da低い値であった。本化合物のMS/MSスペクトル(プレカーサイオン:m/z315)を図16に示した。主要なプロダクトイオンはm/z265で、これはMACのプレカーサイオンm/z329より得られるプロダクトイオンm/z 279に対して14Daだけ低い値で、両社のプレカーサイオンの質量差[329−315=14Da]と同一であった。DPPHラジカル消去活性を加熱前後で比較したところ、Porphyra 334とShinorineの両者において、加熱後における活性の顕著な上昇が認められた(図17)。
【0148】
以上の結果から考えて、MACは、MAAの一種であるPorphyra 334が加熱により構造変化を受けて生成したものであることが実証された。また、Shinorineも、同様に加熱により抗酸化活性の高いMACと類縁の化合物に変化することが明らかとなった。以後、構造式(III)、構造式(III−I)、(III−II)及び(III−III)で表されるPorphyra 334由来のMACをMAC−P334、構造式(IV)、構造式(IV−I)、構造式(IV−II)及び構造式(IV−III)で表されるShinorine由来のMACをMAC−SHIと称する。なお、構造式(IV−I)、構造式(IV−II)及び構造式(IV−III)は、MAC−SHIのプロトン性溶媒中における構造である。
【0149】
【化11】
【0150】
以上の結果から、MACの基本構造は構造式(I)で表される構造で、Porphyra 334やShinorineなどのMAAを所定条件下で加熱することにより、脱水によるC−C単結合の不飽和化を経て生成されると考えられた。また、プロトン性溶媒中では、構造式(I−I)、構造式(I−II)又は構造式(I−III)で表される構造をとっている可能性が示唆された。
【0151】
図18に、MAAからMACへの変換様式について記す。
【実施例8】
【0152】
MACにおける抗酸化活性本体の解析
MACにおける抗酸化活性本体を明らかにする目的で、MAC−P334およびMAC−SHIの精製品における抗酸化活性を比較した。分取は、実施例1における加熱処理物を、実施例3の方法で陰イオン交換クロマトグラフィーに供し、得られるMAC含有ピークをさらに、逆相クロマトグラフィーに供することにより行った。分取物は一旦減圧乾固した後、再度50%メタノールに溶解させて窒素雰囲気下で乾固させ、残存の揮発性化合物を除去した。乾固物を精秤し、30mMの濃度になるよう水に溶解させた。これらのDPPHラジカル消去活性を測定した。測定方法は実施例1のとおりである。
【0153】
ラジカル消去活性に及ぼすMACの濃度依存的効果を図19に示す。これより求められるMAC−P334およびMAC−SHIのIC50値(50%抑制濃度)はそれぞれ53μMおよび54μMとなり、両者の活性にはほとんど差が認められなかった。また、この値はトコフェロール誘導体であるトロロックスの24μMには劣るものの、BHTの161μMに比べ高い数値であった。比較としてPorphyra 334やShinorineの活性も測定したが、これらの化合物のDPPHラジカル活性はほとんど認められなかった。したがって、MACの抗酸化活性は、結合するアミノ酸の種類によらず、その活性本体はMAC共通の骨格であると考えられた。
【実施例9】
【0154】
MAC生成に及ぼすpHおよび温度の影響
MACの効率よい生成のための加熱条件について検討した。スサビノリの乾燥物1gを細切し、純水50mLに懸濁させ、1時間撹拌した。懸濁液を遠心分離(20,000 xG,20分)して上清を得た。これを分画分子量3,000Daの限外ろ過膜付遠心式フィルター(ザルトリウス社製Vivaspin 20)でろ過し、MAA粗分画液を得た。ねじ口バイアルに、MAA粗分画液0.1mLおよび純水0.8mLを加え、さらに、pHの異なる0.2Mリン酸緩衝液(pH6.0,6.25,6.5,6.75,7.0,7.5,8.0)、0.2Mリン酸緩衝液−リン酸溶液(pH2.0,3.0,4.0,5.0)あるいは0.2Mリン酸緩衝液−NaOH溶液(pH9.0,10.0,11.0)を0.1mL加えて総量を1.0mLとした。これを密封し、ヒートブロックを用いて75,80,90,100,120℃で1時間加熱した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定し、最も効率の高かった条件におけるMAC−P334生成量を100として、生成率をパーセントで表した。生成率が最大条件の50%以上となる条件を良好な生成条件と定義し、以下の方法で、各種処理温度において、生成率50%となるpHを求めた:横軸にpH、縦軸にMAC−P334の生成率をプロットしたグラフを作成し、グラフより各温度における生成効率が50%となるpHを求めた。プロットしたグラフを図20に示す。また、各種温度における、生成効率50%を満たすpHを図21に示す。図19より、生成効率50%を満たすためのpHの下限は、pH6.5であることがわかる。また、図21より、あるpHにおける生成効率50%を満たす下限温度は、以下の一次回帰式で近似されることが見出された。
【0155】
(pH6.5−7.6のとき)
T(℃)=−25.256PH+288.02(R2=0.9981)
(pH7.6以上のとき)
T(℃)=−6.2966PH+139.33(R2=0.9976)
ここで、Tは生成効率50%を満たす下限温度、PHは処理液のpHである。
【実施例10】
【0156】
MAC生成に及ぼす加熱時間の影響−1
ねじ口バイアルに、実施例9と同一のMAA粗分画液0.1mLおよび純水0.8mLを加え、さらに、0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)、を0.1mL加えて総量を1.0mLとした。これを密封し、ヒートブロックを用いて120℃で5−1200分間加熱した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定した。この結果、図22に示すように、MAC−P334の生成量は、長期間の加熱により低下する傾向が認められ、過熱によるMACの分解が生じている可能性が示唆された。生成効率50%を満たす時間は、5分から600分の範囲であった。
【比較例6】
【0157】
MAC生成に及ぼす加熱時間の影響−2
添加する緩衝液のpHを6.0に変更して、実施例と同様の試験を行った。この結果、図23に示すように、MAC−P334の生成量は、測定した全加熱時間において生成効率50%を超えなかった。
【実施例11】
【0158】
MAC生成に及ぼす塩濃度の影響
ねじ口バイアルに、実施例9と同一のMAA粗分画液0.1mLを加え、さらに、系中の緩衝液濃度が0.2−160mMになるように0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)および純水を加え、総量を1.0mLとした。これを密封し、ヒートブロックを用いて120℃で1時間加熱した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定した。この結果、図24に示すように、MAC−P334の生成量は、緩衝液濃度5−20mMを最大として、濃度の上昇とともに低下する傾向にあった。生成効率50%を満たす塩濃度は、0.2mMから110mMの範囲であった。
【実施例12】
【0159】
150℃加熱によるMAC生成
実施例9と同一のMAA粗分画液10mLに純水80mLおよび0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)10mLを加え、総量を100mLとした。これを、150℃に設定したオイルバスに浸漬したステンレス製熱交換コイル(内容積2mL)に通液し、150℃処理液を調製した。加熱時間は通液速度を変えることで設定した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定した。この結果、図25に示すように、MAC−P334の生成量は、加熱時間3分以上では激減した。以上の結果は、加熱温度が高い場合には、至適加熱時間はより短時間側にシフトすることを示している。
【実施例13】
【0160】
藻類エキスの調製
スサビノリ(板海苔下級品、有明海産,2003年2月製)50gに純水1Lを投入後、オートクレーブを用いて120℃で2時間加熱した。減圧濾過により加熱品を固液分離し、抽出液を限外ろ過膜(分画分子量5,000、Millipore Pellicon 2 MINI)でろ過し、透過液を得た。冷却後凍結乾燥し、藻類エキス粉末約5gを得た。
【実施例14】
【0161】
DPPHラジカル消去活性
実施例13の藻類エキスを純水に溶かして水溶液を調製し、DPPHラジカル消去活性を実施例1に従って測定した。その結果、藻類エキスに濃度依存的なDPPHラジカル消去活性が認められた(図26)。
【実施例15】
【0162】
β−カロテン退色防止活性
また、以下の方法に従って藻類エキス水溶液のβ−カロテン退色防止活性を測定した:リノール酸溶液(0.1g/mL CHCl3)300μL、β−カロテン溶液(1mg/mL CHCl3)500μL、Tween 40溶液(0.2g/mL CHCl3)800μLを混合し、窒素ガスを吹き付けて乾固させ、20mMリン酸緩衝液(pH6.8)60mLを加えてエマルジョン溶液とした。多段階希釈した藻類エキス水溶液20μLにエマルジョン溶液180μLを加え、50℃で30分静置し、β−カロテン溶液の退色を470nmの吸光度を測定することで求めた。退色率を以下の式で求め、BHTの退色防止活性と比較した:退色率(%)=サンプルの吸光度変化(0分−30分)/サンプル無添加品の吸光度変化(0分−30分)×100。その結果、藻類エキスは濃度依存的にβ−カロテンの退色を防止した(図27)。
【実施例16】
【0163】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLのリン酸緩衝液(20mM、pH6.0,7.0,8.0)および20mMリン酸緩衝液−NaOH溶液(pH9.0,10.0,11.0)を加えて100℃で1時間加熱した。加熱後の懸濁液をし、実施例13と同様の操作で透過液を得た。透過液のMAC−P334相対含量をHPLCにて測定した。また、DPPHラジカル消去活性を測定し、トロロックス当量で算出した。その結果、図28に示すように、pH7.0以上の加熱処理品において顕著な抗酸化能の上昇とMAC含量の上昇が認められ、実施例9におけるMAC生成挙動と同様の挙動を示すことが明らかとなった。
【実施例17】
【0164】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて50〜120℃で1時間加熱した。100℃以上の温度においてはオートクレーブを用いた。加熱後の懸濁液を遠心分離(20,000 xG,20分)して上清を得た。この上清を遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液のMAC−P334相対含量をHPLCにて測定した。また、DPPHラジカル消去活性を測定し、トロロックス当量で算出した。その結果、図29に示すように、120℃抽出においてのみ、顕著な抗酸化能の上昇とMAC含量の上昇が認められた。
【実施例18】
【0165】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて120℃で15,30,60分間加熱した。加熱に際してはオートクレーブを用いた。加熱後急冷し、実施例16と同様の操作で透過液を得た。透過液のMAC−P334相対含量およびDPPHラジカル消去活性を測定した。その結果、図30に示すように、加熱時間30分以降において、MAC含量の上昇が認められた。この結果は、加熱媒体として純水を用いる際には、MAC含量の上昇を促すために120℃‐30分以上の加熱時間が望ましいことを示唆していた。
【実施例19】
【0166】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて120℃で2時間加熱した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得た。この上清を遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液のMAC−P334含量を測定した。
【実施例20】
【0167】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、リン酸緩衝液(50mM,pH7.0)を加えて120℃で2時間加熱した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得た。この上清を遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液のMAC−P334含量を測定した。
【実施例21】
【0168】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて4℃で一晩撹拌した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得、これを遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液を遠心濃縮して一旦乾固させ、リン酸緩衝液(50mM,pH7.0)を濃縮した液量分だけ加えて十分に撹拌し、固形分を溶解させた。これを120℃で2時間加熱し、加熱処理液のMAC−P334含量を測定した。
【比較例7】
【0169】
実施例21の透過液をそのまま120℃で2時間加熱し、加熱処理液のMAC−P334含量を測定した。
【実施例22】
【0170】
実施例19−21ならびに比較例6におけるMAC−P334相対含量を図31に示す。スサビノリから低温で純水抽出した透過液をそのまま120℃―2時間加熱したもの(比較例6)についてはMACの含量が低かった一方、この透過液をリン酸緩衝液で置換し、120℃―2時間加熱したもの(実施例21)については良好なMAC−P334生成率ならびにDPPHラジカル消去活性を示した。また、分子量分画を行う前に加熱したものについては、抽出溶媒として純水を用いたもの(実施例19)、リン酸緩衝液を用いたもの(実施例20)のどちらも良好なMAC生成率を示した。
【実施例23】
【0171】
産地および収穫時期の異なる8種類のスサビノリ(板海苔下級品,有明海産,2003年2月製)5kgに純水50kgを投入後、密閉釜中で120oCにて約3時間加熱した。純水35kgの加水による冷却後固液分離を行い、熱水可溶性抽出液を得た。抽出液をセラミックフィルタ(1M4−2P型,株式会社ノリタケカンパニーリミテド,名古屋)を用いて限外濾過し、透過液を得た。透過液を噴霧乾燥装置(LB−8型,大川原化工機株式会社,横浜)にて乾燥し、藻類エキス粉末約500gを得た。この藻類エキスに含まれるP334ならびにMAC−P334含量(粉末重量あたりの重量%)をHPLCにより測定した。表1に示すように、MACを高含量で含む藻類エキスが大量調製可能であった。
【0172】
【表1】
【実施例24】
【0173】
24.1 好中球と活性酸素
生体内の基礎免疫機構を担う白血球の主成分、好中球は種々の化学物質により活性化され、多様な細胞機能を発現する。血管内に存在する好中球は、細菌由来のペプチドによる刺激を受けて、スーパーオキサイドアニオンラジカル(活性酸素)を放出して殺菌する。通常、過剰に産生された活性酸素は、SODに代表されるような酵素によって活性酸素を過酸化水素に分解し、さらにカタラーゼによって水と酸素に分解し無毒化しているが、加齢にともないこれらの酵素の生産量は減少することが明らかとなっており、分解できなかった活性酸素は、それ自身反応性があるため、それが細胞への障害となり、ガンや生活習慣病など様々な疾患に関与していると言われている。従って、上記のようなラジカルを消去することが出来る藻類エキスが持つ抗酸化作用により、過剰に存在する活性酸素を消去することが期待できる。そこで、好中球が産生する活性酸素の消去能を評価した。
24.2 ヒト好中球の調製
健常人の静脈抹消血(全血)をヘパリン処理し、さらに3%デキストラン生理食塩水を抹消血と1:1の割合で添加した。赤血球が沈殿したので上清を採取した。さらに、上清を4℃で、1000rpm、10分間遠心し、未沈降の赤血球は水を加え溶血させた。次いで、Ficoll溶液(ファルマシア製)存在下、4℃‐1500rpmで15分間遠心することにより、上層から、リンパ球、単球、好中球の順に分かれた。チューブの底の好中球を採取した。
24.3 好中球が産生する活性酸素消去能の評価
24.2で調製した好中球の生理リン酸食塩水溶液(1.0x106cells/mL)の溶液970μLに100mMのCaCl2(塩化カルシウム、終濃度1mM)、5mMのD−Glc(グルコース)、チトクロムCをそれぞれ10μLづつ加え、全量で1000μLとした。この細胞浮遊液をセルに加え、37℃で5分間インキュベートした。次いで、実施例20の藻類エキスを終濃度0.2mg/mLとなるようにセルに加え1分間インキュベートし、藻類エキスそれ自身が好中球に対して刺激剤として作用していないことを確認後、走化性ペプチドfMLPをその濃度が最終的に10−7Mになるように加えた(図32左)。活性酸素によって還元されたチトクロムCを二波長分光光度計(540−550nm)を用いて測定することで、活性酸素の量を算出した。また、活性酸素消去能は、10−7MのfMLPによって好中球が産生する活性酸素量を100%とした相対活性で表し(図32右)、藻類エキス添加時における活性酸素量を算出することで、活性酸素消去能を評価した。
24.4 藻類エキスの活性酸素消去能
藻類エキスの感作時間を詳細に検討した結果、およそ1分間で活性酸素を消去することが確かめられた(図33)。そこで感作時間を1分に調整し、藻類エキスの活性酸素消去活性における濃度依存的効果を測定した結果、終濃度0.2mg/mLで活性酸素量をおよそ50%以下に低減させることが確かめられた(図34)。このことは、藻類エキスが、好中球が産生する活性酸素を消去し、体内における酸化ストレスの緩和に役立つことを示唆していた。
【実施例25】
【0174】
25.1 MACの一酸化窒素消去能
96穴マイクロプレート(Nunc社製)に各種濃度に希釈したMAC 10μLおよびBuffer 80μLを加え、一酸化窒素発生試薬であるNOC-7[1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-メチル-3-アミノプロピル)-3-メチル-1-トリアゼン]を10μL加える事で反応開始とした。20分後、Greiss試薬を共に50 μLずつ加え、10分後A540を測定した(一酸化窒素C-7の半減期(t=20 min)を考慮し、反応時間は20分とした。)。
【0175】
図35に示す様に、MACは一酸化窒素放出抑制活性を有し、その抑制量は濃度依存的であった。MAC 0.1 mg/mL の濃度でおよそ半分の一酸化窒素の量が消去された。0.5 mg/mL以上のMAC量の添加は一酸化窒素抑制量にほとんど変化は見られなかった。
25.2 MACの一酸化窒素産生抑制
次に、実際の単球による一酸化窒素産生に対する抑制効果を検討した。実施24に従い、鶏の単球を単離した。96穴マイクロプレート(Nunc社製)に各種濃度に希釈したMACを加えた後、サルモネラ死菌刺激により単球を刺激させ、22時間後 Greiss試薬により発色させ評価した。
【0176】
その結果、図36に示すように、MACは鶏単球から産生される一酸化窒素を濃度依存的に抑制し、単球から放出される一酸化窒素に関してもその抑制効果があることが確かめられた。
【比較例8】
【0177】
抗酸化作用と一酸化窒素消去活性の関係を検討するために、既知の抗酸化化合物として知られる、クロロゲン酸を用いて同様に一酸化窒素消去試験を行なった。図37に示す様にクロロゲン酸は一酸化窒素放出抑制活性を有し、その抑制量は濃度依存的であったが、MACと比べとても弱いものであった。MACと同じ0.1 mg/mLの濃度において、クロロゲン酸添加前後の一酸化窒素発生量の相違は、無添加時で一酸化窒素発生量191μM、クロロゲン酸添加時で一酸化窒素発生量172μMであった(一酸化窒素産生抑制率換算で10.5%)。
【0178】
以上の結果より、MACは同じ抗酸化作用をもつクロロゲン酸と比較してもおよそ5倍も高い一酸化窒素抑制効果を示す化合物である事が明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】スサビノリ由来マイコスポリン様アミノ酸粗分画液の逆相HPLCによる分析
【図2】スサビノリ由来マイコスポリン様アミノ酸のITMSおよびITMS/MSスペクトル
【図3】スサビノリ由来マイコスポリン様アミノ酸粗分画液のDPPHラジカル消去活性―加熱処理前後の比較
【図4】MAA粗分画―加熱処理液における逆相HPLCおよび分画物のDPPHラジカル消去活性
【図5】MAA粗分画―加熱処理液由来DPPHラジカル消去活性成分のITMSおよびITMSnスペクトル
【図6】TLC−DPPH法によるDPPHラジカル消去活性成分の可視化
【図7】MAA粗分画―加熱処理液由来DPPHラジカル消去活性成分の弱塩基性陰イオン交換樹脂による分取
【図8】逆相分配クロマトグラフィーによるMACの精製
【図9】合成吸着樹脂へのMACの吸着試験
【図10】逆相分配クロマトグラフィーにおけるMACの溶出に及ぼす移動相中の酢酸含量の影響
【図11】逆相分配クロマトグラフィーにおけるMACの溶出に及ぼす移動相中の蟻酸含量の影響
【図12】MACの紫外吸収スペクトル
【図13−1】MACを構成するアミノ酸
【図13−2】MACにおける重水中でのプロトン-重水素交換挙動
【図14】分取HPLCによるMAA粗分画品からのMAAの精製
【図15】分画物1(Porphyra 334)およびその加熱処理物の逆相HPLCならびにMS, MS/MSスペクトル
【図16】分画物1(Shinorine)およびその加熱処理物の逆相HPLCならびにMS, MS/MSスペクトル
【図17】MAAのDPPHラジカル消去活性―加熱処理前後の比較
【図18】加熱によるMAAからMACへの変換様式
【図19】MACのDPPHラジカル消去活性
【図20】MAC生成率に及ぼすpH及び温度の影響
【図21】MAC−P334における生成効率50%を満たすために必要なpH
【図22】MAC生成率に及ぼす加熱温度の影響−pH8.0の場合
【図23】MAC生成率に及ぼす加熱温度の影響−pH6.0の場合
【図24】MAC生成率に及ぼす塩温度の影響
【図25】加熱温度150℃におけるMAC生成率に及ぼす加熱時間の影響
【図26】藻類エキスのDPPHラジカル消去活性
【図27】藻類エキスのβ−カロテン退色防止活性
【図28】藻類エキスのMAC含量ならびに抗酸化活性に及ぼす加熱時のpHの影響
【図29】藻類エキスのMAC含量ならびに抗酸化活性に及ぼす加熱温度の影響―純水を用いた場合
【図30】藻類エキスのMAC含量に及ぼす加熱時間の影響―純水を用いた場合
【図31】高分子成分の共存によるMAC含量の上昇
【図32】藻類エキス添加後のfMLP刺激による活性酸素量(左)、fMLP刺激による活性酸素量(右)。
【図33】藻類エキスの活性酸素消去能に及ぼす感作時間の影響
【図34】藻類エキスの活性酸素消去能における濃度依存的効果
【図35】MACの一酸化窒素消去能における濃度依存的効果
【図36】鶏単球由来一酸化窒素の産生抑制におけるMACの濃度依存的効果
【図37】クロロゲン酸の一酸化窒素消去能
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、新規な抗酸化化合物、一酸化窒素産生抑制化合物、抗酸化性藻類エキス、一酸化窒素産生抑制藻類エキス及びそれらの製造方法を提供する。本発明は、また、該新規抗酸化化合物、一酸化窒素産生抑制化合物、該抗酸化性藻類エキス及び/又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含有する酸化防止剤(活性酸素・フリーラジカル消去剤)、一酸化窒素産生抑制剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物、飼料用組成物およびペットフードにも関する。
【背景技術】
【0002】
食品や飼料、ペットフード、化粧品、サニタリー用品、洗剤、油脂、医薬品、化成品その他工業製品を変質させたり劣化させたりする原因として、空気中の酸素や溶存酸素、熱・光等によって起こる酸化が知られている。このような品質の劣化を防止する目的で、種々の酸化防止剤が開発されている。
【0003】
例えば、人工合成により供給されている酸化防止剤としては、tert−ブチルヒドロキシルアニソール(BHA)や、tert−ブチルヒドロキシルトルエン(BHT)などが広く用いられている。これらは安定な化合物で、酸化防止効果に優れるが、人体の健康に対する悪影響(発がん性や脱毛促進作用)が報告されており、食品等への使用が制限されている。さらに、近年は、直接人体・生体に触れる可能性のある製品については、安心・安全を求める動き、使用が認められている分野においても、これらの酸化防止剤の使用を制限する動きが高まっている。
【0004】
また、天然由来の酸化防止剤、たとえば、トコフェロールやアスコルビン酸等は、安全性が高いものの、安定性に欠けるため、逆に着色や変色、においの変化の原因となるなどの問題がある場合が多い。さらに、近年の流通環境の変化やコンビニエンスストアの普及、包装材料の多様化に伴って、製品が日光や蛍光灯などの光に曝される機会が増えており、安全でなおかつ安定性の高い酸化防止剤の開発がなおいっそう望まれている。
【0005】
酸化は、生体防御や障害・炎症・疾病とも大きな関わりがあるといわれている。活性酸素種や活性窒素種、フリーラジカルが引き起こす酸化ストレスは、それが障害を引き起こさない程度の合目的的用量である場合には、生体防御力を高め、ヒトや動物に健康をもたらす。しかしながら、加齢・ストレスに伴う細胞機能の低下、高カロリー食、タバコ・汚染物質・紫外線等の暴露、過度の運動等による過剰な酸化ストレスは細胞構成成分に障害を与え、様々な疾病の原因となる。
【0006】
活性酸素種としては、還元分子種であるスーパーオキシドアニオンラジカル(O2−)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)および励起分子種である一重項酸素(1O2)などが知られている。また、不飽和脂肪酸の酸化物である不飽和脂肪酸ペルオキシラジカル(LOO・)、不飽和脂肪酸ラジカル(L・)、不飽和脂肪酸ヒドロペルオキシド(LOOH)、不飽和脂肪酸アルコキシラジカル(LO・)等も同様の酸化による障害を引き起こすことが知られている。これらの活性種が引き起こす疾病としては、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害等が知られている。
【0007】
さらに、生体内で多様かつ重要な役割(血管拡張・微生物の殺菌・神経伝達等)を有する生理活性ラジカルとして、一酸化窒素が知られている。単球等の免疫細胞は、微生物の刺激に対して、殺菌効果の高い一酸化窒素を産生することが知られている。しかしながら、一酸化窒素はフリーラジカルであり、その過剰産生が、生体内の酸化ストレス亢進を招いている。一酸化窒素産生の制御により、酸化ストレスが引き起こす様々な疾患(炎症、動脈硬化症、加齢性疾患)の予防が可能と考えられる。
【0008】
以上のことから、ヒトにおける過剰な酸化ストレスを緩和することを目的とし、酸化防止作用、活性酸素種・一酸化窒素・フリーラジカル等の消去能を有する食品や化粧品、医薬品の開発が望まれている。また、ペットや家畜等においても同様の効果を有する飼料の開発が望まれている。
【0009】
一方、藻類、例えば、岩礁地帯等に生息する紅藻類は、主に日光に由来する紫外線等に暴露されていることから、過剰な酸化ストレスを緩和する因子を有する可能性が指摘されている。中でも、スサビノリ(Porphyra yezoensis)、アサクサノリ(Porphyra tenera)、ウップルイノリ(Porphyra pseudolinearis)、壇紫菜(Porphyra haitanensis)等に代表されるアマノリ属藻類は東アジア地域で大量に栽培されていることから、上述の酸化防止効果を有する化合物の原料として期待されている。さらに、近年、スサビノリ生育環境の悪化により、ノリの色落ちや品質低下がもたらされており、商品価値の低い「色落ちノリ」や「下等ノリ」が大量に廃棄されている。このような廃棄ノリに新たな価値を見いだし、有効利用することが急務となっている。
【0010】
非特許文献1は、スサビノリに含まれるカタラーゼの精製とその活性酸素消去能について言及している。カタラーゼは過酸化水素を不均化して酸素と水に変換する反応を触媒し、細胞内の酸化・還元制御に関与する重要な酵素である。しかしながらカタラーゼはタンパク質であり、高分子で安定性が低く、加熱やpH変化等により容易に失活する、あるいは、経口による体内吸収が期待できないといった欠点がある。また、アマノリ属に含まれるカタラーゼの含量も極めて少ないことから、カタラーゼを核にしたアマノリ属の産業的利用は実現していない。
【0011】
非特許文献2は、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メタノール、熱水を用いて抽出したスサビノリ抽出物の抗酸化性について言及しているが、90℃でのスサビノリ熱水抽出物の抗酸化活性が低いという結論に至っている。また、メタノール抽出物より、ノリ由来の抗酸化性因子として既知物質ウスジレン(Usujirene)を特定しているが、産業的に利用するには本成分の含量は極めて少なく、現実的でない。
非特許文献3は、Porphyra haitanensis中の硫酸化多糖類の抗酸化性について言及している。本文献における硫酸化多糖類の抗酸化性は低く、産業上利用することは難しい。また、硫酸化多糖類は高分子であり粘性を有することから、物性的な面から食品や医薬への応用が厳しく限定されてしまう。以上の点から硫酸化多糖類の酸化防止剤としての産業利用は未だ実現していない。
【0012】
以上の背景から、酸化防止剤の原料としての藻類の利用は期待されていたものの、これまで、食用以外の用途に用いられることはなかった。
【非特許文献1】Nakano et al., Characterization of catalase from the seaweed Porphyra yezoensis., Plant Sci., 104 (1995) 127-133.
【非特許文献2】Nakayama et al., Antioxidant effects of the constituent of susabinori (Porphyra yezoensis)., JAOCS, 76 (1999) 649-653
【非特許文献3】Zhang et al., Antioxidant activities of sulfated polysaccharide fractions from Porphyra haitanesis., J. Appl. Phycol., 15 (2003) 305-310.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、主に、新規抗酸化化合物、一酸化窒素産生抑制化合物、抗酸化性藻類エキス、一酸化窒素産生抑制藻類エキス、及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、マイコスポリン様アミノ酸(以下、MAA(Mycosporine−like Amino Acid)とも呼ぶ)を含む溶液をpH6.5以上にて、所定の温度条件で加熱することにより得られた処理物中に抗酸化成分が含まれていることを見いだし、その抗酸化成分を単離、精製、構造決定した。さらに、この抗酸化成分が一酸化窒素産生抑制作用も有することも見出した。さらに、この抗酸化成分の前駆体はMAAであり、MAAをpH6.5以上の環境下で所定の温度条件で加熱することにより、抗酸化成分が生成されることを見出した。さらに、藻類よりMAAを含む画分を調整し、pH6.5以上の環境下で所定の温度条件で加熱することにより、抗酸化性を有するエキスが製造可能なことを見出した。本発明は、かかる知見に基づき完成された。
【0015】
即ち、本発明は、主に、以下の事項に関する。
[項1]下記構造式(I)で表される化合物又はその塩:
【0016】
【化1】
【0017】
ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される。
[項2]下記構造式(I−I)、(I−II)又は(I−III)の構造で表される、化合物又はその塩(R1及びR2は、項1の通りである):
【0018】
【化2】
【0019】
ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示す。
[項3]R1及びR2の少なくとも一方がカルボキシメチル基である、項1又は2に記載の化合物又はその塩。
[項4]R1及びR2の一方がカルボキシメチル基であるとき、他方の官能基が1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基及び1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基からなる群より選択される、項1〜3のいずれかに記載の化合物又はその塩。
[項5]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、酸化防止剤及び/又はラジカル消去剤。
[項6]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、一酸化窒素産生抑制剤。
[項7]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する食品組成物。
[項8]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、医薬組成物。
[項9]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、化粧料。
[項10]皮膚の老化防止又は美白のための、項8の化粧料。
[項11]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、油脂組成物。
[項12]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
[項13]下記の構造式(II)
【0020】
【化3】
【0021】
(ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される)で表される化合物又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物又はその塩の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒をpH6.5以上にて、以下の式(A)又は(B)で規定される下限温度で加熱する工程を包含する、項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法:
(pH6.5〜7.6のとき)
T (℃) = −26PH + 289 式(A)
(pH7.6以上のとき)
T (℃) = −6.3PH + 139 式(B)
ここで、Tは下限温度、PHは処理液のpHである。
[項14]逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1種の精製方法により、前記加熱工程により得られた産物から項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程をさらに包含する、項13の製造方法。
[項15]以下の工程A〜Eを包含し、該工程の順番が以下の製造方法1〜3のいずれかで規定される、項1〜4のいずれかに記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法:
工程A:水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液と藻類とを75℃以下で混合する工程
工程B:混合物のpHを6.5以上に調整する工程
工程C:加熱する工程
工程D:固液分離する工程
工程E:溶媒可溶性成分を分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程
製造方法1:工程A→工程B→工程C→工程D→工程E
製造方法2:工程A→工程D→工程E→工程B→工程C
製造方法3:工程A→工程D→工程B→工程C→工程E
(ここで、工程Aで得られる混合物のpHが6.5以上である場合には、工程Bを省略してもよい)。
[項16]前記工程Cの加熱温度の下限が、項13に記載の式で表される、項15に記載の製造方法。
[項17]藻類と水とを混合する工程、
120℃以上150℃以下で30分以上の加熱を行う工程、次いで、
分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程、
を包含する、項1又は2に記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法。
[項18]項15〜17に記載の製造方法により得られた、抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項19]項14に記載の精製方法により、項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスから項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程を包含する、項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法。
[項20]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を0.1重量%以上含有する、項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項21]項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩と項12に記載の構造式(II)の化合物又はその塩との存在比が、項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩:構造式(II)の化合物又はその塩=10〜100:90〜0である、項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項22]藻類が紅藻である、項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項23]紅藻がPorphyra属であることを特徴とする、項22に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
[項24]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、食品組成物。
[項25]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、医薬組成物。
[項26]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、化粧料。
[項27]皮膚の老化防止又は美白のための、項26の化粧料。
[項28]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性藻類エキスを含む、油脂組成物。
[項29]項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
【0022】
本発明の化合物
本発明の化合物は、構造式(I)で表される化合物又はその塩:
【0023】
【化4】
【0024】
或いは、上記構造式(I)で表される化合物又はその塩を水、メタノール、エタノール、アセトニトリル等のプロトン性溶媒に溶解させた時に、構造の一部が共鳴することにより得られる構造式(I−I)、構造式(I−II)又は構造式(I−III)で表される共鳴混成体である。
【0025】
【化5】
【0026】
(ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示す。)
ここで、構造式(I)、(I−I)、(I−II)及び(I−III)において、R1及びR2は、前述の通りである。また、R1及びR2について、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基はスレオニン由来、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基はセリン由来、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基はバリン由来、1,3−ジカルボキシプロピル基はグルタミン酸由来、カルボキシメチル基はグリシン由来、1−カルボキシエチル基はアラニン由来、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基はグルタミン由来の置換基である。なお、各アミノ酸は、L体であってもD体であってもよい。また、R1及びR2について、2−ヒドロキシエチル基はエタノールアミン由来、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基は2−アミノクロトン酸由来、1−プロペニル基は1−プロペニルアミン由来、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基はセリノール由来の置換基である。ここで、アミノ酸又は化合物由来の置換基とは、アミノ酸又は化合物のα炭素から−NH2を除いた部分の置換基を意味する。
【0027】
好ましいR1及びR2の組み合わせは、R1及びR2のうち一方が−CH2COOH、−H及び−CH3からなる群より選択される置換基であるのに対して、他方が−CH2COOH、−CH(COOH)CH3、−CH(COOH)CH2OH、−CH(COOH)CH(OH)CH3、−CH(COOH)CH2(CH3)CH3、−CH(COOH)CH2CH2COOH、−CH(COOH)CH2CH2CONH2、−CH2CH2OH及び−CH(CH2OH)CH2OHからなる群より選択される置換基である。
【0028】
構造式(I)で表される化合物は、互変異性を有し得る。
【0029】
構造式(I)で表される化合物の塩には、アミノ基の酸付加塩、或いは、カルボキシル基又は水酸基の塩基塩が含まれる。
【0030】
酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0031】
塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、又は、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0032】
本書では、上記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物をMAC(Mycosporine−like Amino Acid −derived Antioxidative Compound;マイコスポリン様アミノ酸由来抗酸化化合物)とも称する。
【0033】
本書では、上記構造式(II)で表される化合物又はマイコスポリン様アミノ酸をMAA(Mycosporine−like Amino Acid)とも称する。
【0034】
MACは、藻類、シアノバクテリア、光合成微生物、熱帯産の無脊椎動物等に普遍的に存在する紫外線吸収物質であるMAAを前駆体とし、MAAが溶解している液体をpH6.5以上の環境下、所定の温度条件で加熱することにより生成することができる。質量分析により帰属されるMAAとMACの質量の差(MWMAA−MWMAC)が水(H2O)の分子量18Daに等しく、また、核磁気共鳴スペクトル等により帰属されるそれぞれの物質の分子構造の比較から、MACはMAAより脱水反応を経て生成されると推定される。
【0035】
【化6】
【0036】
MAAとMACは類似する部分を有しているにもかかわらず、驚くべきことに、MAAは抗酸化作用を示さず、MACは強い抗酸化作用を示す。これは、MACに特異的な部分が抗酸化作用に関与していることを意味する。これより、MACに特異的な部分を有するMACの塩も、同様の抗酸化作用を有すると考えられる。MAAの構造は、アミノ酸の窒素基が、シクロへキセノン環に結合した特徴的なものである。アミノ酸の置換基部分は、MAAとMACで変わりないことから、MACの抗酸化性に直接的あるいは間接的に関与しているのは、アミノ酸の置換基を除いた部分の構造であると推定される。これより、前記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物において、R1及びR2で表される前記アミノ酸由来の置換基が他のアミノ酸由来の置換基に置き換わった該化合物も、前記構造式(I)、(I−I)、(I−II)又は(I−III)で表される化合物と同様の抗酸化作用を有すると考えられる。
【0037】
MAC又はその塩の抗酸化作用のレベルは、DPPHラジカル消去活性の測定試験により評価した。この試験に用いた1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)は分子内に安定なフリーラジカルを有する。DPPHラジカル消去活性試験では、このフリーラジカルの消去率を吸光度の減少率によって求め、この消去率により試験物質の抗酸化作用を測定する。DPPHラジカル消去活性を有する物質は、一重項酸素やヒドロキシラジカル、過酸化脂質のラジカルを消去することが期待されている。
【0038】
本発明のMAC又はその塩の抗酸化作用は、概して、合成抗酸化剤として多用されるブチルヒドロキシルトルエン(BHT)の抗酸化作用よりも顕著に高い。本発明のMAC又はその塩のDPPHラジカル消去活性におけるIC50値(モル)は、BHTのDPPHラジカル消去活性の例えば約50%以下、好ましくは約40%以下、より好ましくは約35%以下であり得る。
【0039】
MAC又はその塩の製造方法
本発明は、下記の構造式(II)
【0040】
【化7】
【0041】
(ここで、R1及びR2は、前述の通りである)
で表される化合物又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物又はその塩の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒をpH6.5以上にて、以下の式(A)又は(B)で規定される下限温度で加熱する工程を包含する、MAC又はその塩の製造方法も提供する:
(pH6.5−7.6のとき)
T (℃) = −26 PH + 289 式(A)
(pH7.6以上のとき)
T (℃) = −6.3 PH + 139 式(B)
ここで、Tは生成効率50%を満たす下限温度、PHは処理液のpHである。
【0042】
なお、生成効率とは、存在する構造式(II)の化合物(MAA)又はその塩が総てMAC又はその塩に変換した場合を100%として表したものである。MAA又はその塩を、本発明のMAC又はその塩に変換するためには、前記下限温度が肝要である。加熱温度の上限は特に限定されないが、150℃を超える温度での加熱はMAC又はその塩の分解を引き起こす恐れがあり、好適でない。
【0043】
式(A)及び(B)は、生成効率に及ぼす加熱時間およびpHの影響について検討することにより導き出された。
【0044】
加熱時間は、MAA又はその塩の濃度および溶媒のpHに依存しており、特に限定されない。例えば、MAA又はその塩の濃度が1.2mMである抽出溶媒を20mMリン酸緩衝液存在下120℃で加熱するとき、生成量がプラトーに達する時間は10分である。しかしながら、MAA又はその塩の濃度がこれより高濃度である場合には、通常、より長い加熱時間を要する。また、加熱時間は加熱方法、所望の収量等によっても異なっており、例えば、連続式熱交換器を用いた加熱を行う場合には、加熱温度は5秒以上30分以下が好ましい。また、加熱釜等を用いてバッチ加熱する際には、効率よいMACの生成を促すため、5分以上の加熱が好ましい。省エネルギーおよびMACの変質防止の観点から、加熱時間の上限は、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0045】
MAA又はその塩の供給源としては、藻類、シアノバクテリア、光合成プランクトンあるいは暖海性の無脊椎動物、そのペースト、エキス、粉砕物、破砕物、乾燥物等が挙げられるが、MAA又はその塩を含む物質であれば特に限定されない。原料の確保という点では、藻類(特に、紅藻類)、そのエキス、粉砕物、乾燥物等が好ましい。
【0046】
紅藻類としては、例えば、Porphyridium(チノリモ)属、Bangia(ウシケノリ)属、Porphyra(アマノリ)属、Acanthopeltis(ユイキリ)属、Gelidiella(シマテングサ)属、Gelidium(テングサ)属、Pterocladia(オバクサ)属、Ptilophora(ヒラクサ)属、Yatabella(ヤタベグサ)属、Halosaccion(ベニフクロノリ)属、Palmaria(ダルス)属、Pseudorhododiscus(ベニゴロモ)属、Rhodophysema(フチトリベニ)属、Callophyllis(トサカモドキ)属、Carpopeltis(マツノリ)属、Cirrulicarpus(エゾトサカ)属、Constantinea(オキツバラ)属、Cryptonemia(カクレイト)属、Dudresnaya(ヒビロウド)属、Dumontia(リュウモンソウ)属、Gloiopeltis(フノリ)属、Gloiosiphonia(イトフノリ)属、Grateloupia(ムカデノリ)属、Halymenia(イソノハナ)属、Hyalosiphonia(イソウメモドキ)属、Kallymenia(ツカサノリ)属、Masudaphycus(ニセカレキグサ)属、Neodilsea(アカバ)属、Pachymeniopsis(フダラク)属、Peysonnelia(イワノカワ)属、Pikea(ミチガエソウ)属、Polyopes(マタボウ)属、Prionitis(キントキ)属、Schimmelmannia(ナガオバネ)属、Tichocarpus(カレキグサ)属、Ahnfeltiopsis(オキツノリ)属、Calosiphonia(ヌメリグサ)属、Catenella(イソモッカ)属、Caulacanthus(イソダンツウ)属、Ceratodictyon(カイメンソウ)属、Chondrus(ツノマタ)属、Eucheuma(キリンサイ)属、Gelidiopsis(テングサモドキ)属、Gigartina(スギノリ)属、Gracilaris(オゴノリ)属、Halarachnion(ススカケベニ)属、Hypnea(イバラノリ)属、Mastocarpus(イボノリ)属、Mazzaella(アカバギンナンソウ)属、Meristotheca(トサカノリ)属、Nemastoma(ヒカゲノイト)属、Phacelocarpus(キジノオ)属、Platoma(ニクホウノオ)属、Plocamiumn(ユカリ)属、Portieria(Chondracoccus)属、(ナミノハナ)属、Rhodoglossum(イボギンナン)属、Sarcodia(アツバグサ)属、Schizymenia(ベニスナゴ)属、Schmitzia(ホウノオ)属、Solieria(ミリン)属、Stenogramma(ハスジグサ)属、Tsengia(ヒカゲノイト)属、Tylotus(ナミイワタケ)属、Acanthophora(トゲノリ)属、Acrocystis(ツクシホウヅキ)属、Acrosorium(ハイウスバ)属、Acrothamnion(リュウノタマ)属、Amansia(ウスバヒオドシ)属、Antithamnion(フタツガサネ)属、Ardissonula(ヒヨクソウ)属、Benzaitenia(ベンテンモ)属、Bostrychia(コケモドキ)属、Brachioglossum(ヒゲムラサキ)属、Callithamnion(キヌイトグサ)属、Caloglossa(アヤギヌ)属、Campylaephora(エゴノリ)属、CarpoblepharisCentroceras(ゴノメグサ)属、Ceramium(イギス)属、Chondria(ユナ)属、Congregatocarpus(ノコハノリ)属、Dasya(ダジア)属、Delesseria(ヌメハノリ)属、Delesseriopsis(ウスムラサキ)属、Digenea(マクリ)属、Enantiocladia(アイソメグサ)属、Enelithosiphonia(マキイトグサ)属、Euptilota(ヨツガサネ)属、Griffithsia(カザシグサ)属、Herpochondria(ニクサエダ)属、Herposiphonia(ヒメゴケ)属、Heterosiphonia(イソハギ)属、シマダジアHypoglossum(ベニハノリ)属、Janczewskia(ソゾマクラ)属、Kurogia(イカダコノハ)属、Laurencia(ソゾ)属、Leveillea(ジャバラノリ)属、Marionella(ハブタエノリ)属、Martensia(アヤニシキ)属、Melanamansia(ヒオドシグサ)属、Membranoptera(ホソベニヤバネグサ)属、Murrayella(ナガミグサ)属、Myriogramme(スジギヌ)属、Neoholmesia(スズシロノリ)属、Neoptilota(カタワベニヒバ)属、Neorhodomela(フジマツモ)属、Neurymenia(イソバショウ)属、Nithophyllum(ウスバノリ)属、Odonthalia(ノコギリヒバ)属、Phycodrys(カシワバコノハノリ)属、Platysiphonia(ヒゲウスバ)属、Platythamnion(イトシノブ)属、Pleonosporium(クスダマ)属、Plumariella(イソシノブ)属、Polysiphonia(イトグサ)属、Pterosiphonia(ハネグサ)属、Ptilota(クシベニヒバ)属、Reinboldiella(チリモミジ)属、Rhodomela(フジマツモ)属、Schizoseris(ベニヤハズ)属、Sorella(ウスベニ)属、Spermathamnion(ヒビダマ)属、Spyridia(ウブゲグサ)属、Symphyocladia(イソムラサキ)属、Tolypiocladia(イトクズグサ)属、Vidalia(カエリナミ)属、Vanvoorstia(カラゴロ)属、Yamadaphycus(コノハノリモドキ)属、Asparagopsis(カギケノリ)属、Bonnemaisonia(カギノリ)属、Delisea(タマイタダキ)属、Ptilonia(ヒロハタマイタダキ)属、Pachymeniopsis(フダラク)属、Peysonnelia(イワノカワ)属、Pikea(ミチガエソウ)属、Polyopes(マタボウ)属、Prionitis(キントキ)属、Schimmelmannia(ナガオバネ)属、Tichocarpus(カレキグサ)属等が挙げられる。中でも、産業上利用される紅藻類で生産量が多く安定しているPorphyra属、Gelidiella 属、Palmaria属、Gloiopeltis属、Chondrus属、Eucheuma属、Gigartina属、Gracilaris属、Meristotheca属、Porphyridium属、Campylaephora属がより好ましい。さらには、安定生産が可能なPorphyra属、Chondrus属、Eucheuma属、Porphyridium属がより好ましい。
【0047】
MAA又はその塩は、資源量の豊富さおよび資源の有効活用の観点から、R1及びR2のうち一方が−CH2COOHであるのに対して他方が−CH(COOH)CH(OH)CH3である構造式(II)の化合物(Porphyra−334とも呼ばれる)、或いは、R1及びR2のうち一方が−CH2COOHであるのに対して他方が−CH(COOH)CH2OHである構造式(II)の化合物(Shinorineとも呼ばれる)が好ましい。
【0048】
MAA又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒を調製するための溶媒の種類は、特に限定されないが、コストの面から、水、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、或いは、それらの混合溶媒又は緩衝液が望ましい。
【0049】
pH調整のための手段は、特に限定されず、アルカリを用いても、緩衝液を用いてもどちらでも構わない。使用するアルカリは、アルカリ水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、アルカリイオン交換樹脂によるプロトン交換、脱塩等の手段によりpHを調整しても構わない。緩衝液を用いる場合の塩濃度は、特に限定されないが、110mMを超える濃度で抽出する場合には、加熱工程の前までに、透析装置や逆浸透膜分離装置等を用いて塩濃度を110mM以下、より好ましくは80mM以下に低減させることが望ましい。したがって、工程の簡略化の観点から、緩衝液の塩濃度は110mM以下、より好ましくは80mM以下であることが望ましい。
【0050】
前期加熱工程により得られた産物をさらに精製してもよい。精製方法としては、例えば、電気透析等による脱塩、限外ろ過膜等による分子量分画、サイズ排除クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、合成吸着樹脂による精製、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー等を用いることができる。なかでも、陰イオン交換クロマトグラフィー、合成吸着樹脂法、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィーが純度の点では好ましい。精製効率を上げる観点から、複数の精製方法を併用しても構わない。
【0051】
陰イオンクロマトグラフィーによる精製の場合、強塩基性の担体を用いると溶出に高濃度の塩が必要となる。したがって、塩の使用量の低減という観点から、クロマトグラフィーにもちいる担体は弱塩基性のものが好ましい。
【0052】
合成吸着樹脂法による精製の場合、MACを吸着担体に保持させるために、平衡化液、洗浄液を酸性にするのが好ましい。また、逆相分配クロマトグラフィーによる精製の場合、分離度を挙げるために、移動相を酸性にするのが好ましい。酸性にするための酸としては、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸等が用いられるが、トリフルオロ酢酸等の強酸を用いた場合、分取後にMACが長期間強酸環境下に曝されることから、通常、分取後迅速に溶媒除去の操作を行わねばならない。したがって、MACの安定性の観点から、使用する酸は酢酸およびギ酸が好ましい。移動相への酸の添加濃度は、0.01〜0.1vol%の範囲内が好ましい。また溶離液(移動相)はメタノール、エタノールあるいはアセトニトリルと水の混液が好適に用いられる。
【0053】
MAA又はその塩の純度は、特に限定されず、精製物であってもよいし、粗分画又は粗精製物であってもよい。MAA又はその塩の粗分画を得るための粗分画法としては、選択的溶媒抽出、限外ろ過膜による分子量分画等が挙げられる。MAA又はその塩の精製物又は粗精製物を得るための精製方法としては、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等、特に好ましくは順相分配クロマトグラフィーならびに陰イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。
【0054】
MAC又はその塩は、後述の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス抽出方法により得られる藻類エキス、好ましくは紅藻エキス、より好ましくはノリエキス中に多量に含まれている。そこで、本発明は、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー等の精製方法により該藻類エキスからMAC又はその塩を精製する工程を包含する、MAC又はその塩の製造方法も提供する。
【0055】
藻類エキス抽出方法
本発明はまた、MAC又はその塩を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法を提供する。この製造方法は、少なくとも以下の工程を包含する。
工程A:水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液と藻類とを75℃以下で混合する工程、
工程B:混合物のpHを6.5以上に調整する工程、
工程C:加熱する工程、
工程D:固液分離する工程、
工程E:溶媒可溶性成分を分子量に基づき分画し、例えば、分子量約20万以下、好ましくは約10万以下、より好ましくは約5万以下の分子を含む画分を得る工程。
【0056】
ここで、工程の順番は、
製造方法1:工程A→工程B→工程C→工程D→工程E
製造方法2:工程A→工程D→工程E→工程B→工程C
製造方法3:工程A→工程D→工程B→工程C→工程E
のいずれの方法も採用できる(ここで、工程Aで得られる混合物のpHが6.5以上である場合には、工程Bを省略してもよい)。
【0057】
また、工程Eの前に工程Cが実施される場合、すなわち低分子成分を分画する工程の前に加熱を行う場合には(上記製造方法1および3)、工程Bそのものを省略することができる。具体的に、MAAからMACへの効率的な変換を促すためには、溶媒のpHを6.5以上に調整することが肝要であるが、藻類由来の高分子成分がMAAと共存している場合には、例外的にpHの調整は不要である。このとき、加熱時のpHは、通常5.5から6.5の間である。この理由としては、工程Eによって除去される高分子成分のある特定の因子が、MACの効率的生成に何らかの役割を果たしているためであると推察される。
【0058】
工程Cにおける加熱温度の下限は、加熱する混合物、抽出物、分画物のpHにより異なり、前述の式(A)及び式(B)で規定される。
【0059】
加熱時間は特に規定されないが、5秒以上10時間以下の範囲が好ましい。加熱時間は加熱方法、所望の収量等に応じて異なり、例えば、連続式熱交換器を用いた加熱を行う場合には、加熱温度は5秒以上30分以下が好ましい。また、加熱釜等を用いてバッチ加熱する際には、効率よいMACの生成を促すため、5分以上の加熱が好ましい。ただし、製造方法1および3において緩衝液やアルカリを用いず且つ工程Bを省略した場合には、120℃〜150℃で30分以上の加熱を行なうことが望ましい。省エネルギーおよびMACの変質防止の観点から、加熱時間の上限は、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0060】
該製造方法は、必要に応じて、電気透析装置や逆浸透膜装置等によって分子量200以下の塩を除去する工程(工程F)をさらに包含してもよい。ここで、工程Fは、工程Dの後であれば順番は問わない。
【0061】
水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液としては、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示すエキスを抽出できる限りにおいて特に限定されず、たとえば、水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、含水メタノール、含水エタノール、含水プロパノール、含水アセトン、含水アセトニトリル等が挙げられる。好ましい使用溶媒は、水、含水メタノール、含水エタノールおよびそれらの緩衝液混合液である。含水メタノールおよび含水エタノールの有機溶媒濃度は、例えば80%(v/v)以下、好ましくは2〜60%(v/v)、より好ましくは2〜50%(v/v)である。有機溶媒濃度が80%(v/v)より高くてもMAC、及びMACの出発物質であるMAAの抽出率は変わらないが、有機溶媒濃度が80%(v/v)以下であればクロロフィル等のきょう雑の色素成分が抽出されにくい。pH調整のためのアルカリの種類は特に限定されない。
【0062】
水に緩衝液を加えた際の最終の塩濃度は、特に限定されないが、110mM以上になる場合は、加熱工程の前に、脱塩処理して110mM以下に調整するのが好ましい。
【0063】
抽出原料は、MAA又はその塩が含まれている限り特に限定されないが、好ましくは前述の藻類、より好ましくは前述の紅藻類、例えば、Porphyra属、Gelidiella 属、Palmaria属、Gloiopeltis属、Chondrus属、Eucheuma属、Gigartina属、Gracilaris属、Meristotheca属、Porphyridium属、Campylaephora属等であり、特に好ましくはPorphyra属である。原料の安定確保の観点から、Porphyra属藻類の中でもPorphyra yezoeinsis、Porphyra tenera、Porphyra haitanensisが好ましい。
【0064】
本発明は、これらの製造方法により得られた、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す藻類エキスも提供する。
【0065】
本発明の藻類エキスは、MAC又はその塩を例えば0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上含有する。
【0066】
また、本発明の抽出方法により得られた藻類エキスのMAC又はその塩とMAA又はその塩の存在比は、例えばMAC又はその塩:MAA又はその塩=10〜100程度:90〜0程度、好ましくは30〜100程度:70〜0程度、より好ましくは50〜100程度:50〜0程度である。
【0067】
酸化防止剤
本発明のMAC又はその塩は、強い抗酸化作用を示すことから、酸化防止剤の有効成分として有用である。
【0068】
本発明は、MAC又はその塩を含有する酸化防止剤も提供する。
【0069】
本発明の酸化防止剤は、高い品質(色彩、風味、香り、つや等)及び安全性が求められる分野、長期保存が求められる分野、酸化や過酸化によりラジカル種を発生し得る脂肪酸や油脂を用いる分野等で好適に使用することができる。例えば、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物、飼料組成物、ペットフード等の分野で好適に使用することができる。
【0070】
本発明の酸化防止剤におけるMAC又はその塩の含量は、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等に含有されたときの最終的なMAC又はその塩の含量が重要であるため特に限定されないが、通常、3〜100%程度、好ましくは10〜100%程度である。食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等に添加される酸化防止剤におけるMAC又はその塩の含量は、後述する。酸化防止剤におけるMAC又はその塩の含量が、100重量%であってもよい。
【0071】
本書において、酸化防止剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等におけるMAC又はその塩の含量は、特に言及しない限り、酸化防止剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物等における固形のMAC又はその塩の合計量(重量%)で表される。
【0072】
一酸化窒素産生抑制剤
本発明のMAC又はその塩は、一酸化窒素産生抑制作用を示すことから、一酸化窒素産生抑制剤の有効成分として有用である。
【0073】
本発明は、MAC又はその塩を含有する一酸化窒素産生抑制剤も提供する。
【0074】
本発明のMAC又はその塩は一酸化窒素消去作用も有し得る。
【0075】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤は、例えば、食品組成物、医薬組成物、化粧料、飼料組成物、ペットフード等の分野で好適に使用することができる。
【0076】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤におけるMAC又はその塩の含量は、食品組成物、医薬組成物、化粧料等に含有されたときの最終的なMAC又はその塩の含量が重要であるため特に限定されないが、通常、3〜100%程度、好ましくは10〜100%程度である。一酸化窒素産生抑制剤におけるMAC又はその塩の含量が、100重量%であってもよい。
【0077】
食品組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有する食品組成物、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す紅藻エキスを含有する食品組成物を提供する。食品組成物には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる食品組成物が含まれる。
【0078】
本発明の食品組成物には、必要に応じて、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。かかる添加物については、本書においてそれらの全体が援用される「指定品目 食品添加物便覧 1999年版」岸 眞之輔 編集、平成11年12月10日発行、又は、「新訂版=よくわかる 暮しのなかの食品添加物」日本食品添加物協会編集、1996年12月20日発行」に記載される添加物を用いることができる。
【0079】
食品組成物としては、例えば、ハム・ソーセージ等の食肉加工品、たらこ・サーモン等の水産物加工品、バター・チーズ・ヨーグルト等の乳加工品、うどん・そば・中華そば・スパゲッティ・インスタントラーメン等の麺類、豆腐・豆乳・大豆粉・醤油・豆菓子・分離大豆タンパク質などの大豆加工品、農産物加工品、ジャム・プルーンエキス・ピューレ等の果実加工品、調味料、発泡酒・ワイン・ビール等の酒、清涼飲料水・炭酸飲料水・コーヒー・紅茶等の飲料、漬物、パン、菓子、氷菓、惣菜、レトルト、米製品等が好適に例示される。
【0080】
食品組成物におけるMAC又はその塩の含量は、食品組成物の種類、形態、油脂含量、加工状態、設定される消費又は賞味期限、所望の効果、食品組成物の保存形態、共存する成分等によって異なるため限定されないが、例えば、0.00001〜80重量%、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.0001〜30重量%である。
【0081】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の食品組成物は、食品組成物自体の酸化防止の目的でMAC又はその塩を含有する食品組成物である。この場合の食品組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00001〜5重量%、より好ましくは0.00001〜3重量%である。
【0082】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の食品組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化物、脂質の過酸化物等が一因となって引き起こされる疾患又は症状(例えば、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害、腎障害等)を改善及び/又は予防し得る機能性食品組成物である。機能性食品組成物としては、例えば、粉末、錠剤、顆粒、タブレット、チュアブルタブレット、カプセル、ソフトカプセル、トローチ、飴、キャンディー、ガム、ゼリー、グミ、ビスケット、クッキー、飲料等の食品組成物が好適に例示される。この場合、食品組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.001〜80重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%である。
【0083】
本発明の藻類エキスを含む食品組成物における藻類エキスの含量は、上記の食品組成物におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0084】
本発明の紅藻エキスを含む食品組成物は、活性酸素、フリーラジカル、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる食品組成物自体の品質劣化を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができる。本発明の食品組成物は、機能性食品組成物として、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化物、脂質の過酸化物等が一因となって引き起こされる前述の疾患又は症状を改善及び/又は予防し得る。
【0085】
ペットフード及び又は飼料用組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有するペットフード及び/又は飼料用組成物、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す紅藻エキスを含有するペットフード及び/又は飼料用組成物も提供する。
【0086】
本発明のペットフード及び/又は飼料用組成物には、必要に応じて、穀物類、豆類、イモ類、野菜、果物、肉及び魚介、油脂、糠又は粕、糖類、色素等の動物の生命維持に必要な栄養源が配合される。
【0087】
ペットフード及び/又は飼料用組成物におけるMAC又はその塩の含量は、動物の種類や年齢等に応じて異なるので特に限定されないが、前述の食品組成物と同様の含量を用いることができる。本発明のペットフード及び/又は飼料用組成物は、前述の食品組成物と同様の効果を発揮し得る。
【0088】
医薬組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有する医薬組成物、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す紅藻エキスを含有する医薬組成物も提供する。
【0089】
本発明の医薬組成物には、必要に応じて、薬学的に許容される担体、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味剤、矯臭剤、安定剤等の通常の医薬組成物に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。これらの添加剤については、例えば、本書においてその全体が援用される「医薬品添加物事典2000」日本医薬品添加剤協会 編集、2000年4月28日発行に記載の添加剤を用いることができる。
【0090】
医薬組成物の投与形態及び製剤形態は、特に限定されない。投与形態としては、経口投与、筋肉内投与、静脈内投与、経腸投与、直腸内投与、皮下投与等が挙げられる。製剤形態としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、トローチ剤、座剤、散剤、パウダー等の固形又は半固形剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、ローション剤、エアゾール剤、浸剤、煎剤等の液剤等が挙げられる。
【0091】
医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量は、使用目的、製剤形態、組成、設定される使用期限、共存する成分等によって異なるため限定されないが、例えば、0.00001〜100重量%、好ましくは0.00001〜90重量%、より好ましくは0.0001〜90重量%である。
【0092】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、医薬組成物自体の酸化防止の目的でMAC又はその塩を含有する医薬組成物である。この場合の医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.00001〜20重量%、好ましくは0.0001〜15重量%、より好ましくは0.0001〜10重量%である。
【0093】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳・神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害、腎障害等)の治療及び/又は予防の有効成分としてMAC又はその塩を含有する医薬組成物である。この場合の医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.01〜100重量%、好ましくは0.01〜90重量%、より好ましくは0.1〜90重量%である。
【0094】
本発明の紅藻エキスを含む医薬組成物における紅藻エキスの含量は、上記の医薬組成物におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0095】
本発明の医薬組成物は、活性酸素、フリーラジカル、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる医薬組成物の品質劣化(例えば、有効成分の効能、形態等における変化)を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができる。また、MAC又はその塩を有効成分として含有する本発明の医薬組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化物、脂質の過酸化物等が関与する上記疾患又は症状の治療及び/又は予防に有効である。
【0096】
化粧料
本発明は、MAC又はその塩を含有する化粧料(ヘアケア化粧料も含む)、並びに、抗酸化作用又は一酸化窒素産生抑制作用を示す藻類エキスを含有する化粧料も提供する。本発明の化粧料には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧料が含まれる。
【0097】
本発明の化粧料には、必須成分であるMAC又はその塩に加え、必要に応じて、粉末、顔料、油脂類、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、増粘剤、洗浄剤、賦形剤、乳化剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、アミノ酸、香料等の通常の化粧料に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。これらの添加剤については、本書においてその全体が援用される特開平9−87133公報、特開平3−264510公報等の公報を参照することができる。
【0098】
本発明の化粧料の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系等のような剤型であり得る。皮膚への安全性の点からpH4〜8程度に調整されることが好ましい。
【0099】
本発明の化粧料の用途も任意であり、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等のフェーシャル化粧料、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアムース、ヘアスプレー等の頭髪又は整髪化粧料、ファンデーション、口紅、グロス、アイシャドー、アイブロー、チーク、マスカラ等のメーキャップ化粧料、ボディーローション、ボディークリーム等のボディー化粧料 、クレンジングフォーム、洗顔料、ハンドソープ、ボディーソープ等の洗浄料、香水、デオドラント剤等の芳香化粧、マニキュア、ベースコート、トップコート、除光液等のネイル化粧料、入浴剤等に用いることができる。
【0100】
本発明の化粧料におけるMAC又はその塩の含量は、化粧料の使用目的、剤型、組成、設定される使用期限、設定される保存状態、共存する成分等によって異なるため特に限定されないが、例えば、0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜50重量%、より好ましくは0.0001〜30重量%である。
【0101】
本発明の好ましい実施形態において、化粧料は、化粧料自体の酸化防止の目的でMAC又はその塩を含有する化粧料である。この場合の化粧料におけるMAC又はその塩の含量は、例えば、0.000001〜10重量%、好ましくは0.00001〜5重量%、より好ましくは0.0001〜3重量%である。
【0102】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の化粧料は、皮膚の老化(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、皮膚の色素沈着、日焼け防止等の治療及び/又は予防の有効成分としてMAC又はその塩を含有する化粧料である。この場合の化粧料におけるMAC又はその塩の含量は、0.0001〜50重量%、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%である。
【0103】
本発明の藻類エキスを含む化粧料における藻類エキスの含量は、上記の化粧料におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0104】
本発明の化粧品は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる化粧品の品質劣化(例えば、香り、色彩、形態、効果等における変化)を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができるとともに、MAC又はその塩の抗酸化作用により、皮膚の老化予防又は美白効果を奏する。
【0105】
油脂組成物
本発明は、MAC又はその塩を含有する油脂組成物、並びに、並びに、抗酸化作用を示す藻類エキスを含有する油脂組成物も提供する。本発明の油脂組成物には、油脂を主成分とする複数の成分からなる組成物はもちろんのこと、(MAC又はその塩以外の成分が)全て油脂である組成物も含まれる。
【0106】
油脂組成物としては、ペンキ、ワックス、ニス等の塗料、クリーニング液等の洗浄料、食用油脂等が例示できるが、これらに限定されない。
【0107】
油脂組成物における油脂含量は、特に限定されないが、例えば約1〜100重量%、好ましくは約2〜100重量%、より好ましくは3〜100重量%である。
【0108】
本発明の油脂組成物には、必須成分であるMAC又はその塩に加え、必要に応じて、顔料、光沢剤、界面活性剤、分散剤、増粘剤、増量剤、結合剤、緩衝剤、保存剤、安定剤、溶解補助剤、防腐剤等の通常の油脂組成物又は油脂製品に用いられる成分を本発明の効果を損わない範囲で適当に配合することができる。本発明の油脂組成物の形態は任意であり、液体、半液体(ゾル、ペーストを含む)、半固体(ゲルを含む)、固体、水−油脂二層体、水−油脂−粉末三層体等のような形態であり得る。
【0109】
油脂組成物におけるMAC又はその塩の含量は、使用目的、形態、組成、設定される使用期限、設定される保存状態、共存する成分等によって異なるため特に限定されないが、例えば、0.00001〜10重量%、好ましくは0.00001〜5重量%、より好ましくは0.00001〜3重量%である。本発明の藻類エキスを含む油脂組成物における藻類エキスの含量は、上記の油脂組成物におけるMAC又はその塩の含量を満足するような範囲であることが望ましい。
【0110】
本発明の油脂組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる油脂組成物の品質劣化(例えば、色彩、形態、つや、におい、安全性等における変化)を防ぎ、品質及び安全性を長期間保つことができる。
【0111】
なお、本発明の食品組成物、医薬組成物及び化粧料に関し、酸化ストレスと各疾患又は各症状との関係については、例えば、以下の文献(これらは、本書においてその全体が援用される)を参照することができる:発癌については、「Toyokuni, Pathol. Internat., 49(1999) 91-102」、「Kitano ,Nat. Rev. Cancer., 4(3)(2004) 227-35」、「Feinberg et al., Nat. Rev. Genet., 7 (2006) 21-33」、老化については、「松尾ら, 老化と酸化ストレス., 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2001, 172-176.」、神経変性疾患(アルツハイマー病・パーキンソン病)については、「Tabner et al., Free Radic. Biol. Med., 32 (2002) 1076-1083」、「Jenner, Ann. Neurol., 53(Suppl 3) (2003) S26-36」、動脈硬化性疾患については、「Cynshi et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(1998) 10123-10128」、炎症性腸疾患については、「内藤, 炎症性腸疾患と酸化ストレス., 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線 ver 2(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2006, 286-290」、慢性腎不全については、「中尾, 慢性腎不全と酸化ストレス., 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線 ver 2(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2006, 322-325.」、皮膚疾患・老化については、「Podda et al., Clin. Exp. Dermatol., 26 (2001) 578-582」「河野ら, 皮膚と活性酸素―酸化ストレスからの防御―, 炎症・再生, 20 (2000) 119-129」「金, 皮膚の抗老化最前線, エヌ・ティー・エス, 2006, 358-378.」「Lin et al., J. Invest. Dermatol., 125 (2005) 826-832」「尾藤ら, 臨床皮膚科, 59 (2005) 152-154.」、糖尿病関連疾患については、「Koba et al., J. Am. Soc. Nephrol., 14 (2003) S250-S253」、肺疾患については、「Rahman et al., Eur. J. Pharmacol., 533 (2006) 222-239」、気管支喘息については、「Ohrui et al., Tohoku J. Exp. Med., 199 (2003) 193-196」、網膜疾患については、「Blanks et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 33 (1992) 2814-2821.」、白内障については、「中西, 白内障と酸化ストレス, 酸化ストレス‐フリーラジカル医学生物学の最前線 ver 2(吉川敏一編), 医歯薬出版, 2006, 411-413」、を参照することができる。
【発明の効果】
【0112】
本発明により、活性酸素の消去能、脂質の過酸化防止効果及びを示す新規抗酸化化合物及びその製造方法が提供された。本発明の抗酸化化合物の抗酸化作用は、合成抗酸化剤として多用されるブチルヒドロキシルトルエン(BHT)の抗酸化作用よりも顕著に高いものであった。また、本発明の抗酸化化合物は、藻類等の天然素材から製造できる化合物であることから、安全性が高いと考えられる。本発明により、該抗酸化化合物を含有する酸化防止剤、食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物が提供された。
【0113】
さらに、本発明により、抗酸化作用を示す藻類エキス及びその製造方法、該藻類エキスを含有する食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物も提供された。
【0114】
また、本発明の抗酸化化合物は、一酸化窒素産生抑制作用も有しているので、一酸化窒素産生抑制化合物、一酸化窒素産生抑制作用を示す藻類エキス及びその製造方法、並びに該藻類エキスを含有する食品組成物、医薬組成物、化粧料も提供された。本発明の抗酸化化合物の一酸化窒素産生抑制作用は、同じ抗酸化作用をもつクロロゲン酸と比較しても顕著なものであった。
【0115】
本発明の酸化防止剤は、高い品質及び安全性が求められる各種組成物の酸化劣化を効果的に抑制することができる。
【0116】
本発明の食品組成物、医薬組成物、化粧料、油脂組成物は、活性酸素、不飽和脂肪酸の酸化、脂質の過酸化等によってもたらされる製品の酸化劣化による品質低下を起こすことなく、品質及び安全性を長期間保つことができる。本発明の食品組成物又は医薬組成物は、動脈硬化性疾患、癌・腫瘍性疾患、細胞障害、糖尿病、脳神経疾患(脳梗塞・認知症・パーキンソン病)、皮膚の老化・色素沈着(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、白内障・網膜疾患、消化器・粘膜疾患、肺・気管支障害、腎障害等の疾患又は症状を改善及び/又は予防するという優れた効果を奏する。本発明の化粧料は、皮膚の老化(しわ、しみ、そばかす、くすみ、たるみ)、皮膚の色素沈着、日焼け防止等の治療及び/又は予防するという優れた効果を奏する。
【0117】
本発明の抗酸化化合物の原料として下等ノリ、色落ちノリ等の廃棄ノリを用いる場合には、廃棄物利用の観点からも有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0118】
以下に実施例を示すが、この実施例は、本発明を何ら限定するものではない。また、本発明者らは、本発明が理論により拘束されることを望まない。
【実施例1】
【0119】
1.1 マイコスポリン様アミノ酸の粗分画
アマノリ属スサビノリ(Porphyra yezoensis)の乾燥物1gを細切し、50mMリン酸緩衝液(pH6.8)50mLに懸濁させ、1時間撹拌した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得た。これを分画分子量3,000Daの限外ろ過膜付遠心式フィルター(ザルトリウス社製Vivaspin 20)でろ過し、スサビノリ低分子抽出液を得た。これを、以下に示す条件で高速液体クロマトグラフ−エレクトロスプレーイオン化−イオントラップ型質量分析(HPLC−ESI−ITMS)に供した:カラム,Unison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属,インタクト株式会社製);移動相,A液(アセトニトリル:水=5:95(v/v),0.05%トリフルオロ酢酸),B液(アセトニトリル:水=95:5(v/v),0.04%トリフルオロ酢酸),0→3分(A100%保持),3→15分(B0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm),ESI−ITMS(Scan range,100−500m/z;Porality,positive;Capillary voltage,4000V;End plate offset voltage,500V;Nebulizer,45psi;Dry gas,8L/min;Dry temperature,350℃);注入量,3μL;HPLC,HP1100 Series(Agilent Technologies製)+Esquire HCT Ultra(Brucker Daltonics);カラム温度,25℃。
【0120】
HPLCにおけるクロマトグラムを図1に示す。保持時間2.24分ならびに2.88分の位置に、マイコスポリン様アミノ酸(以下、MAAと定義する)を特徴づける吸収極大約334nmのピークが認められた。各々のITMSならびにITMS/MSスペクトルを測定した結果を図2に示す。過去の文献値から、保持時間2.24分のピークはShinorine(化1, プレカーサイオン[M+H]+,m/z333;プロダクトイオン,m/z186,230,274,300)、保持時間2.88分のピークはPorphyra 334(化2,プレカーサイオン[M+H]+,m/z347;プロダクトイオン,m/z303)と同定された。(引用文献;Electrospray ionization tandem mass spectrometric and electron impact mass spectrometric charactarization of mycosporine−like amino acids. K. Whitehead et al.,Rapid Comun. Mass Spectrom.2003;17:2133−2138,Fragmentation of mycosporine−like amino acids by hydrogen/deuterium exchange and electrospray ionization tandem mass spectrometry. K. H. M. Cardozo et al.,Rapid Commun. Mass Spectrom.2006;20:253−258.)
1.2 MAA粗分画液の加熱処理
1.1で得られたMAA粗分画液1mLをねじ口バイアルに入れて密封し、ヒートブロックで120℃、1時間加熱した。
【0121】
1.3 抗酸化活性の評価
須田の方法(食品機能研究法,光琳,pp218−220,2000)に準じてMAA粗分画液ならびに加熱処理液の1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去能を測定した。各サンプルをメタノール(MeOH)で22〜25倍希釈した。これらを50μLのMES緩衝液を予め入れておいた96穴マイクロプレートに50μLづつ添加し、シェーカにて混合した。さらに、DPPH−メタノール溶液(80μg/mL)を100μL添加し、シェーカにて混合した。静置30分後(20℃)における520nmの吸光度を、マイクロプレートリーダ(Molecular device社製Spectramax‐M5)にて測定した。同時に、Troloxを用いて検量線を作成し、DPPHラジカル消去活性をTrolox当量で算出した。その結果、図3に示すように、両方のサンプルにおいて濃度依存的なDPPHラジカル消去活性が認められたが、特に加熱処理液において、加熱前の液に比して高い抗酸化性が認められた。
【実施例2】
【0122】
2.1 HPLCによる抗酸化因子の特定
1.1で得られたMAA粗分画液及びその加熱処理品を逆相分配クロマトグラフィーに供した。検出器出口よりフラクションコレクターを用いて分取し、DPPHラジカル消去活性を測定した。クロマトグラフィーの条件を以下に示す:カラム,Cadenza C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属,インタクト株式会社製);移動相,A液(アセトニトリル:水=5:95(v/v),0.05vol%トリフルオロ酢酸),B液(アセトニトリル:水=95:5(v/v),0.04%トリフルオロ酢酸),0→15分(B:0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm),ESI−ITMS(Scan range,100−500m/z;Porality,positive;Capillary voltage,4000V;End plate offset voltage,500V;Nebulizer,45psi;Dry gas,8L/min;Dry temperature,350℃)注入量,3il;装置,HP1100 Series(Agilent Technologies製)+Esquire HCT Ultra(Brucker Daltonics);カラム温度, 25℃。その結果、図4に示すように、加熱処理品において、保持時間8.1分の画分におけるDPPHラジカル消去活性が認められた。活性に対応するピークは波長226nmを吸収極大とする紫外線吸収性の化合物であった。また、HPLC−ESI−ITMSによる質量分析(ポジティブモード)により、活性ピークにおいて[M+H]+と考えられるm/z329が検出された(図5)。この活性ピークのMS/MSスペクトルおよびMS3スペクトルを図5に示した。プレカーサイオンm/z329をトラップして得られる主要なプロダクトイオンはm/z279、プロダクトイオンm/z279をさらにトラップして得られる主要なプロダクトイオンはm/z233,205,187であった。加熱前の液においても本活性ピークは認められたが、ピーク面積は加熱後に比べて顕著に少なかった。以後、この活性ピークで表現される化合物をMAA−derived Antioxidative Compound(MAC)と呼ぶことにする。
【0123】
2.2 TLC−DPPHによる抗酸化因子の特定
実施例1における加熱処理液50μLを薄層クロマトグラフィー(TLC)用シリカゲルプレート(100x100mm)にスポットし、展開溶媒(ブタノール/酢酸/水=2/1/1(v/v/v))で2回展開し、ドライヤーで十分乾燥させた。このプレートを0.4%DPPH−エタノール溶液に10秒間浸し、速やかに乾燥させた。乾燥30分の時点でスキャナに取り込み、濃色の背景に白く浮かび上がる抗酸化画分を可視化させた。その結果、図6に示すように、強いDPPHラジカル消去活性を示す複数のバンドが確認された。これらのバンドの内最も明るいものを掻き取り、HPLCに供したところ、2.1におけるMACと同じ保持時間の位置にピークが検出されたことから、TLC−DPPHにより可視化される抗酸化活性バンドは、MACより構成される成分であると推察された。
【実施例3】
【0124】
実施例2で示された抗酸化性因子MACの精製方法を検討した。カラムとしてDEAE−Toyopearlpak 650S(Tosoh製、22mmx200mm)を用い、H20を出発溶媒として0.5M NH4HCO3によるグラジエント溶出(溶離液A,H2O;溶離液B,0.5M NH4HCO3;B:0%→50%(0−90min);流速,3mL/min)を行った。実施例1における加熱処理液500μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMAC含有画分を特定した。その結果、保持時間67.2−76.8分の画分にMACの存在が認められた(図7)。本画分を凍結乾燥し、MACを高純度で含有する精製物を得た。
【実施例4】
【0125】
MACの精製法をさらに検討した。カラムとしてWakosil−II 5C18HG Prep(20.0mm x250mm,和光純薬工業株式会社製)を用いた。移動相に酢酸(AcOH)を含有した水/アセトニトリル(AcN)混合溶媒を用いた(移動相A:AcN:H2O=5:95(v/v),0.05%AcOH;移動相B,AcN:H2O=95:5(v/v),0.04%AcOH;B0%→80%(0→48min)、流速:3mL/min;検出,200−600nm)。実施例1における加熱処理液500μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMAC含有画分を特定した。その結果、保持時間33.5‐36.5分のピークにMACを示す分子量関連イオンm/z329が認められた(図8)。本画分を繰り返し分取後減圧濃縮し、MACを高純度で含有する精製物を得た。次に、移動相に蟻酸をAcOHと同様の濃度で添加して、同様の操作でクロマトグラフィーを行ったところ、酢酸とほぼ同一の保持時間にMACが溶出され、これを分取して減圧濃縮することで、MACを高純度で含有する精製物を得た。
【実施例5】
【0126】
MACの精製法をさらに検討した。吸着担体として合成吸着樹脂HP−20(三菱化学株式会社製)を用いた。アセトンで洗浄したHP−20をディスポーザブルカラムに充填し(5mL)、5倍量のMeOH:H2O=5:95(v/v),0.01%AcOHで平衡化した。実施例1の加熱処理液500μLをカラムに添加し、3倍量のMeOH:H2O=5:95(v/v),0.01vol%AcOHで洗浄した。次に、10vol%濃度から10vol%おきにメタノール濃度を上げた含水MeOH(AcOH非含有、カラム容量の3倍量)で段階的に担体吸着成分を溶出させ、各々の画分をHPLC解析に供してMAC含有画分を特定した。その結果、10−50vol%MeOHで溶出される画分にMACの存在が認められた(図9)。MACの溶出が認められた画分を減圧濃縮し、MACを高純度で含有する精製物を得た。
【比較例1】
【0127】
酸洗浄した強塩基性陰イオン交換樹脂(Dowex 1 x8,Cl form、室町ケミカル製)をディスポーザブルカラムに充填し(5mL)、5倍量の純水で平衡化した。実施例1の加熱処理液500μLをカラムに添加し、3倍量の純水で洗浄した。次に、0.2Mおきに塩濃度を上げたNH4HCO3水溶液(0−1.0M)で段階的に吸着成分を溶出させ、各々の画分をHPLC解析に供した。しかしながら、1.0Mまで塩濃度を上げてもMACのカラムからの溶出は認められなかった。このことから、MAC強塩基性の陰イオン交換樹脂に強く吸着し、溶出させるためにはイオン強度の高い塩を使用する必要があった。
【比較例2】
【0128】
カラムとしてUnison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属)を用い、酢酸の濃度を変えた水/AcN混合溶媒を用いてグラジエント分析を行った。分析条件:移動相,0→3分(A100%保持),3→15分(B0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm)。移動相に含まれるAcOH濃度を0,0.01,0.04,0.1vol%に設定した。実施例1における加熱処理液3μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMACの溶出位置を比較した。その結果、酢酸無添加の移動相の場合、MACのピークがブロードになり、良好な分離が得られなかった(図10)。
【比較例3】
【0129】
カラムとしてUnison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属)を用い、蟻酸の濃度を変えた水/AcN混合溶媒を用いてグラジエント分析を行った。分析条件:移動相,0→3分(A100%保持),3→15分(B0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,フォトダイオードアレイ(200−600nm)。移動相に含まれる蟻酸濃度を0,0.01,0.04,0.1vol%に設定した。実施例1における加熱処理液3μLをカラムにインジェクション後、検出器出口より溶離液を分取し、HPLC解析によりMACの溶出位置を比較した。その結果、蟻酸無添加の移動相の場合、MACのピークがブロードになり、良好な分離が得られなかった(図11)。(比較例2)および(比較例3)より、MACをカラムへ吸着させ、分離において高い分離能を得るためには、移動相への酸の添加が望ましいことを示している。
【比較例4】
【0130】
カラムとしてUnison UK C−18(2.0x150mm,ガードカラム付属)を用い、移動相にトリフルオロ酢酸(TFA)を含有した水/AcN混合溶媒を用いた(移動相A:AcN:H2O=5:95(v/v),0.05vol%TFA;移動相B,AcN:H2O=95:5(v/v),0.04%vol TFA;B0%→100%(0→60min)、流速:1mL/min)。実施例1における加熱処理液3μLをカラムにインジェクションし、ESI−ITMS解析によりMAC由来ピークを特定した。その結果、酢酸、蟻酸とほぼ同位置のピークにMACを示す分子量関連イオンm/z329が認められた。本画分を繰り返し分取後3日間冷蔵し、減圧濃縮して再度水に溶解させたところ溶液が黄色く着色し、このものを再度HPLC解析しても、同様の保持時間にMACを示すピークは認められなかった。これは、分取後より脱溶媒までの過程において、強酸酸性下に曝されることにより、MACの構造が失われるためであると判断された。
【比較例5】
【0131】
アセトンで洗浄したHP−20をディスポーザブルカラムに充填し(5mL)、5倍量のメタノール:H2O=5:95(v/v)で平衡化した。実施例1の加熱処理液500μLをカラムに添加し、3倍量のメタノール:H2O=5:95(v/v)で洗浄した。素通り画分およびメタノール洗浄画分に、添加したMACのほとんどの量が回収され(図9)、カラムへの吸着はなかった。
【実施例6】
【0132】
6.1 性状
実施例4における精製物の乾燥物における性状は黄褐色粉末状である。
【0133】
6.2 MSnスペクトル
実施例4における精製物を2.4mg/mLになるように純水に溶解させ、ESI−ITMSn分析に供した。結果を以下に記す。
MS(正イオン):[M+H]+,m/z329;[M+Na]+,m/z351
MS2:m/z299,279(プレカーサイオン,m/z329)
MS3:m/z233,215,205,187(プレカーサイオン,m/z279)
MS4:m/z187(プレカーサイオン,m/z233)
MS(負イオン):[M−H]−,m/z327
MS2:m/z283(プレカーサイオン,m/z327)
MS3:m/z239,224,207(プレカーサイオン,m/z283)
【0134】
6.3 精密質量測定
実施例4における精製物を12μg/mLになるように50%AcNに溶解させ、エレクトロスプレーイオン化−飛行時間型質量分析(ESI−TOF)に供した。質量分析の結果は以下のとおりである。
質量分析:329.1348[M+H]+(計算値329.1348:C14H20N2O7)
【0135】
6.4 紫外吸収スペクトル
3.1で得られた精製品を純水に溶解させ、紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果、この化合物の吸収極大は226nmであった(図12)。
【0136】
6.5 構成アミノ酸
3.1で得られた製製品を窒素雰囲気下6N塩酸で加水分解し(110℃、20時間)、加水分解物を中和後、内部標準としてα―アミノ酪酸を等量添加し、フェニルイソチオシアネート(PITC)で処理した。これを、HPLCに供し(カラム,Super ODS(2.0 x 150mm,Tosoh製);移動相,A液(Acetonitrile:Water=3:97(v/v),0.05%酢酸ナトリウム含有,B液(Acetonitrile:Water=60:40),0→3分(A:100%保持),3→15分(B:0%→50%直線グラジエント);流速,0.2mL/min;検出,紫外検出(254nm),注入量,3μL;カラム温度,40℃)、構成アミノ酸について調査した。PTC誘導体化したMAC−塩酸加水分解物のHPLCクロマトグラムを図13−1に示す。主要な構成アミノ酸として、GlycineおよびThreonineが検出された。
【0137】
6.6 核磁気共鳴(NMR)スペクトル
精製物の核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR,13C−NMR)を以下に示す。
(スペクトルデータ)
核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR,400MHz,D2O)
δ=6.17(1H,s),6.11(1H,s),δ=4.45(2H,s),δ=4.16,4.14,4.12,4.11,4.09(1H,m,J=6.3MHz),δ=3.80(3H,s),δ=3.74(2H,s),δ=3.72(1H,d,J=6.8MHz),δ=1.92(2H,s)δ=1.30,1.29(3H,d,J=6.4MHz)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR,100MHz,D2O)
δ=184.0(C),182.4(C),δ=181.8(C),δ=143.8(C),δ=143.7(C),δ=140.4(C),δ=136.1(C)δ=71.3(CH),δ=68.3(CH2),δ=66.9(CH),δ=61.7(CH3),δ=50.3(CH2),δ=25.9(CH2),δ=22.1(CH3)
6.7 構造決定
MACにおける重水(D2O)中でのHD交換挙動を調べた。MACの水溶液を乾固させ、MACの濃度が1mg/mLになるように重水を添加し、溶解後直ちにESI-IT-MSを測定し、その後経時的に測定した。主要な[M+H]+であるm/z 329は、重水置換直後にm/z 336にまで増加後、徐々に変化し、19時間後にはm/z 338にまで増大して、その後の変化は認められなかった(図13−2)。m/zの経時的変化より、MAC中には、短期間で置換される6個の易動性水素と、徐々に置換される2個の水素が存在していることが明らかになった。このことは、MACにおいて、不飽和二重結合の位置変化を伴う互変異性体の存在を強く示唆するものであった。
【0138】
6.8 構造決定
以上の結果より、MACの構造を構造式(III)のように決定した。また、プロトン性溶媒中における構造を構造式(III−I)、(III−II)及び(III−III)のように決定した。
【0139】
【化8】
【0140】
ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示している。
【実施例7】
【0141】
7.1 MAAの加熱によるMACの生成
実施例6で決定されたMACの推定構造から、本抗酸化性因子は、ノリをはじめとする藻類に普遍的に含まれるMAAの一種Porphyra 334を前駆物質とする可能性が考えられた。そこで、ノリ中のMAAを高度精製し、これを加熱することによる抗酸化因子の生成状況を調べた。Porphyra 334は、下記構造式で表される:
【0142】
【化9】
【0143】
7.2 MAAの精製
スサビノリ粉末品50gに50%(v/v)メタノールを1L添加し、4℃で24時間撹拌した。この懸濁液を遠心分離(20,000xG,20min)し、上清を回収後、沈殿物に再度50%メタノール1Lを加え、常温で30分撹拌した。懸濁液を遠心し、上清を1回目の抽出液と合わせて粗抽出液とした。粗抽出液を分画分子量5,000の限外ろ過膜(Millipore Pellicon 2 MINI)でろ過し、MAAを含む透過液を得た。これを減圧下乾固させ、純水25mLに溶解させた。精密ろ過フィルター(0.45μm)を用いて不溶物をろ過し、電気透析装置(旭化成)により脱塩した。脱塩物を再度ろ過し、50mLに定容し、MAA粗抽出品として−40℃で保存した。
【0144】
MAA粗抽出品を分取HPLCに供し、波長330nm付近に吸収極大を有するピークを分取した(図14)。HPLCの条件を以下に記す:カラム,PA−1(22 x 200mm,ダイオネクス製);流速,2mL/min;溶離液,A液(水),B液(100mM NH4HCO3),B:0→15%(0→40分);注入,500μL(8回繰り返し分取);検出,280nm;カラム温度,常温。分取物は、減圧乾固した後に窒素雰囲気下で再度乾固させ、純水を添加した後に真空凍結乾燥して乾燥物とした。分画物1および2の重量はそれぞれ、0.710gおよび0.247gであった。また、ESI−ITMSn解析の結果から、分画物1はPorphyra 334、分画物2はShinorineと同定された。Shinorineは、下記構造式で表される:
【0145】
【化10】
【0146】
7.3 MAAの加熱
7.2で得られたPorphyra 334およびShinorineを0.1mg/mLの濃度になるようにリン酸緩衝液(20mM,pH8.0)に溶解させ、ねじ口バイアルに入れて密封し、120℃で30分加熱した。加熱前後のサンプルをLC−ESI−IT−MSn解析に供し、クロマトグラムおよび得られるピークのマススペクトルを比較した。その結果、加熱によりPorphyra 334のピーク(保持時間;2.9分)は減少し、代わりに保持時間12.5分の位置にピークが新たに出現した(図15)。このピークの[M+H]+は m/z329で、これはPorphyra 334における[M+H]+であるm/z347に対して18Da低い値であった。
【0147】
Shinorineのピーク(保持時間2.2分)も同様に減少(図16)し、保持時間11.2分の位置に新たなピークが出現した。本化合物のプレカーサイオンは[M+H]+と考えられるm/z315であった。これは、Shinorineにおける[M+H]+であるm/z333に対して18Da低い値であった。本化合物のMS/MSスペクトル(プレカーサイオン:m/z315)を図16に示した。主要なプロダクトイオンはm/z265で、これはMACのプレカーサイオンm/z329より得られるプロダクトイオンm/z 279に対して14Daだけ低い値で、両社のプレカーサイオンの質量差[329−315=14Da]と同一であった。DPPHラジカル消去活性を加熱前後で比較したところ、Porphyra 334とShinorineの両者において、加熱後における活性の顕著な上昇が認められた(図17)。
【0148】
以上の結果から考えて、MACは、MAAの一種であるPorphyra 334が加熱により構造変化を受けて生成したものであることが実証された。また、Shinorineも、同様に加熱により抗酸化活性の高いMACと類縁の化合物に変化することが明らかとなった。以後、構造式(III)、構造式(III−I)、(III−II)及び(III−III)で表されるPorphyra 334由来のMACをMAC−P334、構造式(IV)、構造式(IV−I)、構造式(IV−II)及び構造式(IV−III)で表されるShinorine由来のMACをMAC−SHIと称する。なお、構造式(IV−I)、構造式(IV−II)及び構造式(IV−III)は、MAC−SHIのプロトン性溶媒中における構造である。
【0149】
【化11】
【0150】
以上の結果から、MACの基本構造は構造式(I)で表される構造で、Porphyra 334やShinorineなどのMAAを所定条件下で加熱することにより、脱水によるC−C単結合の不飽和化を経て生成されると考えられた。また、プロトン性溶媒中では、構造式(I−I)、構造式(I−II)又は構造式(I−III)で表される構造をとっている可能性が示唆された。
【0151】
図18に、MAAからMACへの変換様式について記す。
【実施例8】
【0152】
MACにおける抗酸化活性本体の解析
MACにおける抗酸化活性本体を明らかにする目的で、MAC−P334およびMAC−SHIの精製品における抗酸化活性を比較した。分取は、実施例1における加熱処理物を、実施例3の方法で陰イオン交換クロマトグラフィーに供し、得られるMAC含有ピークをさらに、逆相クロマトグラフィーに供することにより行った。分取物は一旦減圧乾固した後、再度50%メタノールに溶解させて窒素雰囲気下で乾固させ、残存の揮発性化合物を除去した。乾固物を精秤し、30mMの濃度になるよう水に溶解させた。これらのDPPHラジカル消去活性を測定した。測定方法は実施例1のとおりである。
【0153】
ラジカル消去活性に及ぼすMACの濃度依存的効果を図19に示す。これより求められるMAC−P334およびMAC−SHIのIC50値(50%抑制濃度)はそれぞれ53μMおよび54μMとなり、両者の活性にはほとんど差が認められなかった。また、この値はトコフェロール誘導体であるトロロックスの24μMには劣るものの、BHTの161μMに比べ高い数値であった。比較としてPorphyra 334やShinorineの活性も測定したが、これらの化合物のDPPHラジカル活性はほとんど認められなかった。したがって、MACの抗酸化活性は、結合するアミノ酸の種類によらず、その活性本体はMAC共通の骨格であると考えられた。
【実施例9】
【0154】
MAC生成に及ぼすpHおよび温度の影響
MACの効率よい生成のための加熱条件について検討した。スサビノリの乾燥物1gを細切し、純水50mLに懸濁させ、1時間撹拌した。懸濁液を遠心分離(20,000 xG,20分)して上清を得た。これを分画分子量3,000Daの限外ろ過膜付遠心式フィルター(ザルトリウス社製Vivaspin 20)でろ過し、MAA粗分画液を得た。ねじ口バイアルに、MAA粗分画液0.1mLおよび純水0.8mLを加え、さらに、pHの異なる0.2Mリン酸緩衝液(pH6.0,6.25,6.5,6.75,7.0,7.5,8.0)、0.2Mリン酸緩衝液−リン酸溶液(pH2.0,3.0,4.0,5.0)あるいは0.2Mリン酸緩衝液−NaOH溶液(pH9.0,10.0,11.0)を0.1mL加えて総量を1.0mLとした。これを密封し、ヒートブロックを用いて75,80,90,100,120℃で1時間加熱した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定し、最も効率の高かった条件におけるMAC−P334生成量を100として、生成率をパーセントで表した。生成率が最大条件の50%以上となる条件を良好な生成条件と定義し、以下の方法で、各種処理温度において、生成率50%となるpHを求めた:横軸にpH、縦軸にMAC−P334の生成率をプロットしたグラフを作成し、グラフより各温度における生成効率が50%となるpHを求めた。プロットしたグラフを図20に示す。また、各種温度における、生成効率50%を満たすpHを図21に示す。図19より、生成効率50%を満たすためのpHの下限は、pH6.5であることがわかる。また、図21より、あるpHにおける生成効率50%を満たす下限温度は、以下の一次回帰式で近似されることが見出された。
【0155】
(pH6.5−7.6のとき)
T(℃)=−25.256PH+288.02(R2=0.9981)
(pH7.6以上のとき)
T(℃)=−6.2966PH+139.33(R2=0.9976)
ここで、Tは生成効率50%を満たす下限温度、PHは処理液のpHである。
【実施例10】
【0156】
MAC生成に及ぼす加熱時間の影響−1
ねじ口バイアルに、実施例9と同一のMAA粗分画液0.1mLおよび純水0.8mLを加え、さらに、0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)、を0.1mL加えて総量を1.0mLとした。これを密封し、ヒートブロックを用いて120℃で5−1200分間加熱した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定した。この結果、図22に示すように、MAC−P334の生成量は、長期間の加熱により低下する傾向が認められ、過熱によるMACの分解が生じている可能性が示唆された。生成効率50%を満たす時間は、5分から600分の範囲であった。
【比較例6】
【0157】
MAC生成に及ぼす加熱時間の影響−2
添加する緩衝液のpHを6.0に変更して、実施例と同様の試験を行った。この結果、図23に示すように、MAC−P334の生成量は、測定した全加熱時間において生成効率50%を超えなかった。
【実施例11】
【0158】
MAC生成に及ぼす塩濃度の影響
ねじ口バイアルに、実施例9と同一のMAA粗分画液0.1mLを加え、さらに、系中の緩衝液濃度が0.2−160mMになるように0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)および純水を加え、総量を1.0mLとした。これを密封し、ヒートブロックを用いて120℃で1時間加熱した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定した。この結果、図24に示すように、MAC−P334の生成量は、緩衝液濃度5−20mMを最大として、濃度の上昇とともに低下する傾向にあった。生成効率50%を満たす塩濃度は、0.2mMから110mMの範囲であった。
【実施例12】
【0159】
150℃加熱によるMAC生成
実施例9と同一のMAA粗分画液10mLに純水80mLおよび0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)10mLを加え、総量を100mLとした。これを、150℃に設定したオイルバスに浸漬したステンレス製熱交換コイル(内容積2mL)に通液し、150℃処理液を調製した。加熱時間は通液速度を変えることで設定した。HPLCにより加熱処理液に含まれるMAC−P334の含量を測定した。この結果、図25に示すように、MAC−P334の生成量は、加熱時間3分以上では激減した。以上の結果は、加熱温度が高い場合には、至適加熱時間はより短時間側にシフトすることを示している。
【実施例13】
【0160】
藻類エキスの調製
スサビノリ(板海苔下級品、有明海産,2003年2月製)50gに純水1Lを投入後、オートクレーブを用いて120℃で2時間加熱した。減圧濾過により加熱品を固液分離し、抽出液を限外ろ過膜(分画分子量5,000、Millipore Pellicon 2 MINI)でろ過し、透過液を得た。冷却後凍結乾燥し、藻類エキス粉末約5gを得た。
【実施例14】
【0161】
DPPHラジカル消去活性
実施例13の藻類エキスを純水に溶かして水溶液を調製し、DPPHラジカル消去活性を実施例1に従って測定した。その結果、藻類エキスに濃度依存的なDPPHラジカル消去活性が認められた(図26)。
【実施例15】
【0162】
β−カロテン退色防止活性
また、以下の方法に従って藻類エキス水溶液のβ−カロテン退色防止活性を測定した:リノール酸溶液(0.1g/mL CHCl3)300μL、β−カロテン溶液(1mg/mL CHCl3)500μL、Tween 40溶液(0.2g/mL CHCl3)800μLを混合し、窒素ガスを吹き付けて乾固させ、20mMリン酸緩衝液(pH6.8)60mLを加えてエマルジョン溶液とした。多段階希釈した藻類エキス水溶液20μLにエマルジョン溶液180μLを加え、50℃で30分静置し、β−カロテン溶液の退色を470nmの吸光度を測定することで求めた。退色率を以下の式で求め、BHTの退色防止活性と比較した:退色率(%)=サンプルの吸光度変化(0分−30分)/サンプル無添加品の吸光度変化(0分−30分)×100。その結果、藻類エキスは濃度依存的にβ−カロテンの退色を防止した(図27)。
【実施例16】
【0163】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLのリン酸緩衝液(20mM、pH6.0,7.0,8.0)および20mMリン酸緩衝液−NaOH溶液(pH9.0,10.0,11.0)を加えて100℃で1時間加熱した。加熱後の懸濁液をし、実施例13と同様の操作で透過液を得た。透過液のMAC−P334相対含量をHPLCにて測定した。また、DPPHラジカル消去活性を測定し、トロロックス当量で算出した。その結果、図28に示すように、pH7.0以上の加熱処理品において顕著な抗酸化能の上昇とMAC含量の上昇が認められ、実施例9におけるMAC生成挙動と同様の挙動を示すことが明らかとなった。
【実施例17】
【0164】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて50〜120℃で1時間加熱した。100℃以上の温度においてはオートクレーブを用いた。加熱後の懸濁液を遠心分離(20,000 xG,20分)して上清を得た。この上清を遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液のMAC−P334相対含量をHPLCにて測定した。また、DPPHラジカル消去活性を測定し、トロロックス当量で算出した。その結果、図29に示すように、120℃抽出においてのみ、顕著な抗酸化能の上昇とMAC含量の上昇が認められた。
【実施例18】
【0165】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて120℃で15,30,60分間加熱した。加熱に際してはオートクレーブを用いた。加熱後急冷し、実施例16と同様の操作で透過液を得た。透過液のMAC−P334相対含量およびDPPHラジカル消去活性を測定した。その結果、図30に示すように、加熱時間30分以降において、MAC含量の上昇が認められた。この結果は、加熱媒体として純水を用いる際には、MAC含量の上昇を促すために120℃‐30分以上の加熱時間が望ましいことを示唆していた。
【実施例19】
【0166】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて120℃で2時間加熱した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得た。この上清を遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液のMAC−P334含量を測定した。
【実施例20】
【0167】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、リン酸緩衝液(50mM,pH7.0)を加えて120℃で2時間加熱した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得た。この上清を遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液のMAC−P334含量を測定した。
【実施例21】
【0168】
スサビノリ2gをねじ口瓶に入れ、50mLの純水を加えて4℃で一晩撹拌した。懸濁液を遠心分離(20,000xG,20分)して上清を得、これを遠心式限外ろ過フィルター(Ultrafree−0.5,5−kDa−cutoff membrane,ミリポア社)でろ過し、低分子の透過液を回収した。透過液を遠心濃縮して一旦乾固させ、リン酸緩衝液(50mM,pH7.0)を濃縮した液量分だけ加えて十分に撹拌し、固形分を溶解させた。これを120℃で2時間加熱し、加熱処理液のMAC−P334含量を測定した。
【比較例7】
【0169】
実施例21の透過液をそのまま120℃で2時間加熱し、加熱処理液のMAC−P334含量を測定した。
【実施例22】
【0170】
実施例19−21ならびに比較例6におけるMAC−P334相対含量を図31に示す。スサビノリから低温で純水抽出した透過液をそのまま120℃―2時間加熱したもの(比較例6)についてはMACの含量が低かった一方、この透過液をリン酸緩衝液で置換し、120℃―2時間加熱したもの(実施例21)については良好なMAC−P334生成率ならびにDPPHラジカル消去活性を示した。また、分子量分画を行う前に加熱したものについては、抽出溶媒として純水を用いたもの(実施例19)、リン酸緩衝液を用いたもの(実施例20)のどちらも良好なMAC生成率を示した。
【実施例23】
【0171】
産地および収穫時期の異なる8種類のスサビノリ(板海苔下級品,有明海産,2003年2月製)5kgに純水50kgを投入後、密閉釜中で120oCにて約3時間加熱した。純水35kgの加水による冷却後固液分離を行い、熱水可溶性抽出液を得た。抽出液をセラミックフィルタ(1M4−2P型,株式会社ノリタケカンパニーリミテド,名古屋)を用いて限外濾過し、透過液を得た。透過液を噴霧乾燥装置(LB−8型,大川原化工機株式会社,横浜)にて乾燥し、藻類エキス粉末約500gを得た。この藻類エキスに含まれるP334ならびにMAC−P334含量(粉末重量あたりの重量%)をHPLCにより測定した。表1に示すように、MACを高含量で含む藻類エキスが大量調製可能であった。
【0172】
【表1】
【実施例24】
【0173】
24.1 好中球と活性酸素
生体内の基礎免疫機構を担う白血球の主成分、好中球は種々の化学物質により活性化され、多様な細胞機能を発現する。血管内に存在する好中球は、細菌由来のペプチドによる刺激を受けて、スーパーオキサイドアニオンラジカル(活性酸素)を放出して殺菌する。通常、過剰に産生された活性酸素は、SODに代表されるような酵素によって活性酸素を過酸化水素に分解し、さらにカタラーゼによって水と酸素に分解し無毒化しているが、加齢にともないこれらの酵素の生産量は減少することが明らかとなっており、分解できなかった活性酸素は、それ自身反応性があるため、それが細胞への障害となり、ガンや生活習慣病など様々な疾患に関与していると言われている。従って、上記のようなラジカルを消去することが出来る藻類エキスが持つ抗酸化作用により、過剰に存在する活性酸素を消去することが期待できる。そこで、好中球が産生する活性酸素の消去能を評価した。
24.2 ヒト好中球の調製
健常人の静脈抹消血(全血)をヘパリン処理し、さらに3%デキストラン生理食塩水を抹消血と1:1の割合で添加した。赤血球が沈殿したので上清を採取した。さらに、上清を4℃で、1000rpm、10分間遠心し、未沈降の赤血球は水を加え溶血させた。次いで、Ficoll溶液(ファルマシア製)存在下、4℃‐1500rpmで15分間遠心することにより、上層から、リンパ球、単球、好中球の順に分かれた。チューブの底の好中球を採取した。
24.3 好中球が産生する活性酸素消去能の評価
24.2で調製した好中球の生理リン酸食塩水溶液(1.0x106cells/mL)の溶液970μLに100mMのCaCl2(塩化カルシウム、終濃度1mM)、5mMのD−Glc(グルコース)、チトクロムCをそれぞれ10μLづつ加え、全量で1000μLとした。この細胞浮遊液をセルに加え、37℃で5分間インキュベートした。次いで、実施例20の藻類エキスを終濃度0.2mg/mLとなるようにセルに加え1分間インキュベートし、藻類エキスそれ自身が好中球に対して刺激剤として作用していないことを確認後、走化性ペプチドfMLPをその濃度が最終的に10−7Mになるように加えた(図32左)。活性酸素によって還元されたチトクロムCを二波長分光光度計(540−550nm)を用いて測定することで、活性酸素の量を算出した。また、活性酸素消去能は、10−7MのfMLPによって好中球が産生する活性酸素量を100%とした相対活性で表し(図32右)、藻類エキス添加時における活性酸素量を算出することで、活性酸素消去能を評価した。
24.4 藻類エキスの活性酸素消去能
藻類エキスの感作時間を詳細に検討した結果、およそ1分間で活性酸素を消去することが確かめられた(図33)。そこで感作時間を1分に調整し、藻類エキスの活性酸素消去活性における濃度依存的効果を測定した結果、終濃度0.2mg/mLで活性酸素量をおよそ50%以下に低減させることが確かめられた(図34)。このことは、藻類エキスが、好中球が産生する活性酸素を消去し、体内における酸化ストレスの緩和に役立つことを示唆していた。
【実施例25】
【0174】
25.1 MACの一酸化窒素消去能
96穴マイクロプレート(Nunc社製)に各種濃度に希釈したMAC 10μLおよびBuffer 80μLを加え、一酸化窒素発生試薬であるNOC-7[1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-メチル-3-アミノプロピル)-3-メチル-1-トリアゼン]を10μL加える事で反応開始とした。20分後、Greiss試薬を共に50 μLずつ加え、10分後A540を測定した(一酸化窒素C-7の半減期(t=20 min)を考慮し、反応時間は20分とした。)。
【0175】
図35に示す様に、MACは一酸化窒素放出抑制活性を有し、その抑制量は濃度依存的であった。MAC 0.1 mg/mL の濃度でおよそ半分の一酸化窒素の量が消去された。0.5 mg/mL以上のMAC量の添加は一酸化窒素抑制量にほとんど変化は見られなかった。
25.2 MACの一酸化窒素産生抑制
次に、実際の単球による一酸化窒素産生に対する抑制効果を検討した。実施24に従い、鶏の単球を単離した。96穴マイクロプレート(Nunc社製)に各種濃度に希釈したMACを加えた後、サルモネラ死菌刺激により単球を刺激させ、22時間後 Greiss試薬により発色させ評価した。
【0176】
その結果、図36に示すように、MACは鶏単球から産生される一酸化窒素を濃度依存的に抑制し、単球から放出される一酸化窒素に関してもその抑制効果があることが確かめられた。
【比較例8】
【0177】
抗酸化作用と一酸化窒素消去活性の関係を検討するために、既知の抗酸化化合物として知られる、クロロゲン酸を用いて同様に一酸化窒素消去試験を行なった。図37に示す様にクロロゲン酸は一酸化窒素放出抑制活性を有し、その抑制量は濃度依存的であったが、MACと比べとても弱いものであった。MACと同じ0.1 mg/mLの濃度において、クロロゲン酸添加前後の一酸化窒素発生量の相違は、無添加時で一酸化窒素発生量191μM、クロロゲン酸添加時で一酸化窒素発生量172μMであった(一酸化窒素産生抑制率換算で10.5%)。
【0178】
以上の結果より、MACは同じ抗酸化作用をもつクロロゲン酸と比較してもおよそ5倍も高い一酸化窒素抑制効果を示す化合物である事が明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】スサビノリ由来マイコスポリン様アミノ酸粗分画液の逆相HPLCによる分析
【図2】スサビノリ由来マイコスポリン様アミノ酸のITMSおよびITMS/MSスペクトル
【図3】スサビノリ由来マイコスポリン様アミノ酸粗分画液のDPPHラジカル消去活性―加熱処理前後の比較
【図4】MAA粗分画―加熱処理液における逆相HPLCおよび分画物のDPPHラジカル消去活性
【図5】MAA粗分画―加熱処理液由来DPPHラジカル消去活性成分のITMSおよびITMSnスペクトル
【図6】TLC−DPPH法によるDPPHラジカル消去活性成分の可視化
【図7】MAA粗分画―加熱処理液由来DPPHラジカル消去活性成分の弱塩基性陰イオン交換樹脂による分取
【図8】逆相分配クロマトグラフィーによるMACの精製
【図9】合成吸着樹脂へのMACの吸着試験
【図10】逆相分配クロマトグラフィーにおけるMACの溶出に及ぼす移動相中の酢酸含量の影響
【図11】逆相分配クロマトグラフィーにおけるMACの溶出に及ぼす移動相中の蟻酸含量の影響
【図12】MACの紫外吸収スペクトル
【図13−1】MACを構成するアミノ酸
【図13−2】MACにおける重水中でのプロトン-重水素交換挙動
【図14】分取HPLCによるMAA粗分画品からのMAAの精製
【図15】分画物1(Porphyra 334)およびその加熱処理物の逆相HPLCならびにMS, MS/MSスペクトル
【図16】分画物1(Shinorine)およびその加熱処理物の逆相HPLCならびにMS, MS/MSスペクトル
【図17】MAAのDPPHラジカル消去活性―加熱処理前後の比較
【図18】加熱によるMAAからMACへの変換様式
【図19】MACのDPPHラジカル消去活性
【図20】MAC生成率に及ぼすpH及び温度の影響
【図21】MAC−P334における生成効率50%を満たすために必要なpH
【図22】MAC生成率に及ぼす加熱温度の影響−pH8.0の場合
【図23】MAC生成率に及ぼす加熱温度の影響−pH6.0の場合
【図24】MAC生成率に及ぼす塩温度の影響
【図25】加熱温度150℃におけるMAC生成率に及ぼす加熱時間の影響
【図26】藻類エキスのDPPHラジカル消去活性
【図27】藻類エキスのβ−カロテン退色防止活性
【図28】藻類エキスのMAC含量ならびに抗酸化活性に及ぼす加熱時のpHの影響
【図29】藻類エキスのMAC含量ならびに抗酸化活性に及ぼす加熱温度の影響―純水を用いた場合
【図30】藻類エキスのMAC含量に及ぼす加熱時間の影響―純水を用いた場合
【図31】高分子成分の共存によるMAC含量の上昇
【図32】藻類エキス添加後のfMLP刺激による活性酸素量(左)、fMLP刺激による活性酸素量(右)。
【図33】藻類エキスの活性酸素消去能に及ぼす感作時間の影響
【図34】藻類エキスの活性酸素消去能における濃度依存的効果
【図35】MACの一酸化窒素消去能における濃度依存的効果
【図36】鶏単球由来一酸化窒素の産生抑制におけるMACの濃度依存的効果
【図37】クロロゲン酸の一酸化窒素消去能
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(I)で表される化合物又はその塩:
【化1】
ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される。
【請求項2】
下記構造式(I−I)、(I−II)又は(I−III)の構造で表される、化合物又はその塩(R1及びR2は、請求項1の通りである):
【化2】
ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示す。
【請求項3】
R1及びR2の少なくとも一方がカルボキシメチル基である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
R1及びR2の一方がカルボキシメチル基であるとき、他方の官能基が1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基及び1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、酸化防止剤及び/又はラジカル消去剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、一酸化窒素産生抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する食品組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、化粧料。
【請求項10】
皮膚の老化防止又は美白のための、請求項8の化粧料。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、油脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
【請求項13】
下記の構造式(II)
【化3】
(ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される)で表される化合物又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物又はその塩の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒をpH6.5以上にて、以下の式(A)又は(B)で規定される下限温度で加熱する工程を包含する、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法:
(pH6.5〜7.6のとき)
T (℃) = −26PH + 289 式(A)
(pH7.6以上のとき)
T (℃) = −6.3PH + 139 式(B)
ここで、Tは下限温度、PHは処理液のpHである。
【請求項14】
逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1種の精製方法により、前記加熱工程により得られた産物から請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程をさらに包含する、請求項13の製造方法。
【請求項15】
以下の工程A〜Eを包含し、該工程の順番が以下の製造方法1〜3のいずれかで規定される、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法:
工程A:水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液と藻類とを75℃以下で混合する工程
工程B:混合物のpHを6.5以上に調整する工程
工程C:加熱する工程
工程D:固液分離する工程
工程E:溶媒可溶性成分を分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程
製造方法1:工程A→工程B→工程C→工程D→工程E
製造方法2:工程A→工程D→工程E→工程B→工程C
製造方法3:工程A→工程D→工程B→工程C→工程E
(ここで、工程Aで得られる混合物のpHが6.5以上である場合には、工程Bを省略してもよい)。
【請求項16】
前記工程Cの加熱温度の下限が、請求項13に記載の式で表される、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
藻類と水とを混合する工程、
120℃以上150℃以下で30分以上の加熱を行う工程、次いで、
分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程、
を包含する、請求項1又は2に記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法。
【請求項18】
請求項15〜17に記載の製造方法により得られた、抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項19】
請求項14に記載の精製方法により、請求項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスから請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程を包含する、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を0.1重量%以上含有する、請求項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項21】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩と請求項12に記載の構造式(II)の化合物又はその塩との存在比が、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩:構造式(II)の化合物又はその塩=10〜100:90〜0である、請求項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項22】
藻類が紅藻である、請求項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項23】
紅藻がPorphyra属であることを特徴とする、請求項22に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項24】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、食品組成物。
【請求項25】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、医薬組成物。
【請求項26】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、化粧料。
【請求項27】
皮膚の老化防止又は美白のための、請求項26の化粧料。
【請求項28】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性藻類エキスを含む、油脂組成物。
【請求項29】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
【請求項1】
下記構造式(I)で表される化合物又はその塩:
【化1】
ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される。
【請求項2】
下記構造式(I−I)、(I−II)又は(I−III)の構造で表される、化合物又はその塩(R1及びR2は、請求項1の通りである):
【化2】
ここで、点線で示した結合は共鳴状態の結合を示す。
【請求項3】
R1及びR2の少なくとも一方がカルボキシメチル基である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
R1及びR2の一方がカルボキシメチル基であるとき、他方の官能基が1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基及び1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、酸化防止剤及び/又はラジカル消去剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、一酸化窒素産生抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する食品組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、化粧料。
【請求項10】
皮膚の老化防止又は美白のための、請求項8の化粧料。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、油脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を含有する、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
【請求項13】
下記の構造式(II)
【化3】
(ここで、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシプロピル基(−CH(COOH)CH(OH)CH3)、1−カルボキシ−2−ヒドロキシエチル基、(−CH(COOH)CH2OH)、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基(−CH(COOH)CH2(CH3)CH3)、1,3−ジカルボキシプロピル基(−CH(COOH)CH2CH2COOH)、2−ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、E/Z 1−カルボキシ−1−プロペニル基(−C(COOH)=CHCH3)、カルボキシメチル基(−CH2COOH)、1−プロペニル基(−CH=CHCH3)、1−カルボキシエチル基(−CH(COOH)CH3)、4−アミノ−1−カルボキシ−4−オキソブチル基(−CH(COOH)CH2CH2CONH2)、1−ヒドロキシメチル−2−ヒドロキシエチル基(−CH(CH2OH)CH2OH)からなる群より選択される)で表される化合物又はその塩を含有する溶液、並びに/或いは、該化合物又はその塩の供給源を含有する溶液、懸濁液及び/又は溶媒をpH6.5以上にて、以下の式(A)又は(B)で規定される下限温度で加熱する工程を包含する、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法:
(pH6.5〜7.6のとき)
T (℃) = −26PH + 289 式(A)
(pH7.6以上のとき)
T (℃) = −6.3PH + 139 式(B)
ここで、Tは下限温度、PHは処理液のpHである。
【請求項14】
逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1種の精製方法により、前記加熱工程により得られた産物から請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程をさらに包含する、請求項13の製造方法。
【請求項15】
以下の工程A〜Eを包含し、該工程の順番が以下の製造方法1〜3のいずれかで規定される、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法:
工程A:水、緩衝液、或いは、水及び/又は緩衝液と有機溶媒の混液と藻類とを75℃以下で混合する工程
工程B:混合物のpHを6.5以上に調整する工程
工程C:加熱する工程
工程D:固液分離する工程
工程E:溶媒可溶性成分を分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程
製造方法1:工程A→工程B→工程C→工程D→工程E
製造方法2:工程A→工程D→工程E→工程B→工程C
製造方法3:工程A→工程D→工程B→工程C→工程E
(ここで、工程Aで得られる混合物のpHが6.5以上である場合には、工程Bを省略してもよい)。
【請求項16】
前記工程Cの加熱温度の下限が、請求項13に記載の式で表される、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
藻類と水とを混合する工程、
120℃以上150℃以下で30分以上の加熱を行う工程、次いで、
分子量に基づき分画し、分子量約20万以下の分子を含む画分を得る工程、
を包含する、請求項1又は2に記載の化合物を含む抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスの製造方法。
【請求項18】
請求項15〜17に記載の製造方法により得られた、抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項19】
請求項14に記載の精製方法により、請求項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスから請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を精製する工程を包含する、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩を0.1重量%以上含有する、請求項18に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項21】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩と請求項12に記載の構造式(II)の化合物又はその塩との存在比が、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩:構造式(II)の化合物又はその塩=10〜100:90〜0である、請求項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項22】
藻類が紅藻である、請求項18又は20に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項23】
紅藻がPorphyra属であることを特徴とする、請求項22に記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキス。
【請求項24】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、食品組成物。
【請求項25】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、医薬組成物。
【請求項26】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、化粧料。
【請求項27】
皮膚の老化防止又は美白のための、請求項26の化粧料。
【請求項28】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性藻類エキスを含む、油脂組成物。
【請求項29】
請求項18、20〜23のいずれかに記載の抗酸化性又は一酸化窒素産生抑制藻類エキスを含む、ペットフード及び/又は飼料用組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【公開番号】特開2008−247901(P2008−247901A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58811(P2008−58811)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(590003722)佐賀県 (38)
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【出願人】(000003171)株式会社戸上電機製作所 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(590003722)佐賀県 (38)
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【出願人】(000003171)株式会社戸上電機製作所 (29)
【Fターム(参考)】
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