説明

抵抗溶接制御装置

【課題】溶接トランスと二次電流検出器との間で二次電流の分流回路が発生することを判別することができる抵抗溶接制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の抵抗溶接制御装置1は、二次電流検出器21の検出値に基づいて電流フィードバック制御を行う。データベース28に二次電流と、一次電流と二次電流との基準電流比との関係が保存され、電流比算出回路32が電流比を算出する。判別回路30が二次電流検出器21の検出値と算出電流比とを入力して、データベース28から基準電流比を抽出して比較して、溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流回路が発生したことを判別する。この結果、分流回路が発生したことを判別することができるので、溶接トランス6やインバータ回路4を壊すことが無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トランスと二次電流検出器との間で分流回路が発生したことを判別することができる抵抗溶接制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接制御装置は、必要な二次電流である溶接電流に対して溶接トランスの巻数比から一次電流を算出して溶接トランスに供給する。溶接トランスは供給された一次電流を二次電流に変換し、この二次電流がスポット溶接の電極部に供給される。溶接条件として設定される巻数比は、溶接トランスの設計仕様上の巻数比を基にして、溶接トランスの鉄損等から成る無負荷損と銅損等から成る負荷損とを加味して設定される。
【0003】
しかし、これらの損失は溶接条件や溶接トランスの状態によって変化するので、一次電流が安定してフィードバックされても予め定めた二次電流が得られない場合がある。そのために通常、溶接トランスの二次側に位置する溶接電極の適当な部位に電流センサを取り付けて二次電流を検出し、この検出値が予め定めた電流値と成るように一次電流が制御される。一次電流を検出して制御するよりも二次電流を検出して制御する方が実際に流れている溶接電流をフィードバックすることができるので、定置式スポット溶接機において広く使用されている。
【0004】
そして、二次電流の検出器が故障したときには、二次電流の代わりに一次電流を検出して、この検出値が、予め定めた電流値と成る二次電流が得られるように一次電流が制御される。
【0005】
抵抗溶接制御装置の溶接トランスの二次側端子及びこれに接続された銅バーから成る下部アームは、被溶接物や治具の操作性を向上させるために、通常、むき出しと成っている。下部ンアームにトロイダルコイルから成る二次電流検出器が取り付けられて、二次電流検出器は、下部アームに沿って移動させることができる。溶接チップ間に被溶接物を設置するときに、溶接トランスの二次側端子又は下部アームに治具が接触したり、溶接中に発生したちりが治具に堆積して、溶接トランスの二次側端子又は下部アームに接触したりするときがある。この場合、接触した部分で二次電流の分流回路が形成されることになる(例えば、特許文献1参照。)。この分流回路が二次電流検出器と、その先端側の溶接チップとの間で発生するときは、二次電流検出器によってフィードバックされた検出電流は、分流回路が発生しないときと同じであるので、分流回路に流れる無効電流を二次電流検出器は検出することができない。
【0006】
一方、分流回路が二次電流検出器と、その後部側である溶接トランスの二次端子との間で発生するときは、分流回路に流れる無効電流は二次電流検出器を通過しないために、二次電流をフィードバック制御することによって、予め定めた設定電流値にこの無効電流を追加した電流値に対応した一次電流を供給することになる。例えば、設定電流値が10、000[A]のとき、分流回路が二次電流検出器と溶接トランスの二次端子との間で発生すると二次電流検出器に8、000[A]が流れて、8、000[A]とフィードバックされ、抵抗溶接制御装置は設定値の10、000[A]に対して溶接電流が少ないと判断する。そこで、8、000[A]を10、000[A]にするために、溶接電流値を25[%]上げようと制御される。このような場合、分流回路に流れる無効電流が大きくなると、溶接トランスの一次側に過電流が流れて溶接トランスやインバータ回路を壊すおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−99379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来技術の抵抗溶接制御装置は、二次電流の分流回路が二次電流検出器と溶接トランスの二次端子との間で発生するときは、予め定めた溶接電流に分流回路によって流れる無効電流を追加した電流値に対応した一次電流を供給することになる。そのために、分流回路に流れる無効電流が大きくなると、溶接トランスの一次側に過電流が流れて溶接トランスやインバータ回路を壊す不具合があった。
【0009】
本発明は、溶接トランスと二次電流検出器との間で二次電流の分流回路が発生することを判別することができる抵抗溶接制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接トランスと、
この溶接トランスの二次電流を検出する二次電流検出器と、
この二次電流検出器の検出値に基づいて電流フィードバック制御を行う抵抗溶接制御装置において、
前記溶接トランスの一次電流を検出する一次電流検出器と、
溶接トランスと二次電流検出器との間で分流回路が発生していないときの二次電流と基準電流比との関係が保存されたデータベースと、
前記一次電流検出器の検出値と前記二次電流検出器の検出値とから算出電流比を算出する電流比算出回路と、
前記二次電流検出器の検出値と前記算出電流比とを入力して、前記データベースから前記二次電流検出器の検出値に対応した前記基準電流比を抽出し、この抽出された基準電流比と前記算出電流比とを比較して、前記溶接トランスと前記二次電流検出器との間で分流回路が発生したことを判別する判別回路と、
を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御装置である。
【0011】
請求項2の発明は、
前記算出電流比が前記データベースから抽出された基準電流比から予め定めた基準値だけ外れているときに、前記判別回路が前記溶接トランスと前記二次電流検出器との間で分流回路が発生したと判別することを特徴とする請求項1記載の抵抗溶接制御装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抵抗溶接制御装置は、溶接トランスの二次端子と二次電流検出器との間で二次電流の分流回路が発生したことを判別して、警報を鳴らしたり、抵抗溶接制御装置を停止させたりすることができる。従って、溶接トランスの一次側に過電流が流れて溶接トランスやインバータ回路を壊すという不具合が無い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の抵抗溶接制御装置のブロック図である。
【図2】二次電流I2(A)(横軸)と基準電流比Z(I1/I2)(縦軸)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明の抵抗溶接制御装置のブロック図であり、インバータ制御方式の場合であって、溶接電流は直流と成る。同図において、抵抗溶接制御装置1は、交流電源2によって発生される商用周波数の交流電力が整流回路3によって整流される。この整流回路3から出力された直流電力がインバータ回路4に入力される。このインバータ回路4は、図示を省略した複数のスイッチング素子から成るブリッジ回路から構成されていて、入力された直流電力が高周波のスイッチング動作によってパルス状の高周波交流電力に変換される。このインバータ回路4のスイッチング動作は、インバータ駆動回路5からの制御信号によって制御される。
【0015】
インバータ回路4から出力された高周波交流電力が溶接トランス6に入力されて、抵抗溶接に適した直流溶接電力に降圧される。この溶接トランス6は、一次コイル7と二次コイル8とコア9とから成り、一次コイル7がインバータ回路4の出力側に接続され、二次コイル8の出力端子が第1整流素子10及び第2整流素子11をそれぞれ介して上部アーム12に接続されるとともに、二次コイル8のセンタータップ14が下部アーム13に接続されている。上部アーム12及び下部アーム13の先端部に第1溶接チップ15及び第2溶接チップ16がそれぞれ取り付けられている。
【0016】
インバータ回路4から出力された高周波交流電力は、溶接トランス6の一次コイル7に印加され、溶接トランス6の二次コイル8には電圧が降圧された大電流の高周波交流電力が発生する。この二次コイル8に発生した高周波交流電力が第1整流素子10及び第2整流素子11によって半周期毎に交互に整流され、上部アーム12及び下部アーム13との間に直流電力が供給される。複数枚の被溶接物17が上部アーム12及び下部アーム13によって加圧されて直流電流が流れ、溶接部がジュール熱によって冶金的に接合される。
【0017】
二次電流検出器21は溶接トランス6の二次側の電流である溶接電流を検出する。溶接電流設定器22は被溶接物17を抵抗溶接するのに適した溶接電流を設定する。電流誤差増幅回路23は二次電流検出器21の出力と溶接電流設定器22の出力とを入力して、これらの誤差を増幅してインバータ駆動回路5へ出力する。溶接時間設定器24は1回当たりの溶接時間を設定する。溶接開始回路25は溶接を開始するときにHighレベルに成る信号を出力する。起動回路26は溶接時間設定器24と溶接開始回路25とからの出力信号を入力して、溶接開始回路25の出力信号がHighレベルに成ってから溶接時間設定器24によって設定された時間だけHighレベルに成る信号を出力する。
【0018】
一次電流検出器27は溶接トランス6の一次側の電流を検出する。データベース28には、溶接トランス6の二次端子と二次電流検出器21との間で二次電流の分流回路が発生していない場合であって、例えば図2に示す二次電流I2と、一次電流I1及び二次電流I2の比率である電流比I2/I1との関係が保存されている。この電流比を基準電流比Z(I2/I1)とする。図2は、二次電流I2(横軸)と基準電流比Z(I2/I1)(縦軸)との関係を示す図である。図2は巻数比(一次電圧/二次電圧)が50のときを示し、二次電流I2が高い範囲では、励磁電流が大きく成るので二次電流I2が減少している。データベース28には、種々の巻数比に対応した二次電流I2と基準電流比Z(I2/I1)との関係が保存されている。
【0019】
電流比算出回路32は、一次電流検出器27の検出値と二次電流検出器21の検出値とを入力して電流比=(二次電流検出器21の検出値/一次電流検出器27の検出値)を算出する。この算出された電流比を算出電流比P(I2/I1)とする。判別回路30はデータベース28から二次電流検出器21の検出値に対応した基準電流比Z(I2/I1)を抽出する。そして、判別回路30はP(I2/I1)算出電流比と基準電流比Z(I2/I1)とを比較して、算出電流比P(I2/I1)が基準電流比Z(I2/I1)から外れているときに、溶接トランス6の二次端子と二次電流検出器21との間で分流回路が発生したと判別する。
【0020】
出力回路31は判別回路30から出力された異常信号が入力されたときに、警報を鳴らしたり、抵抗溶接制御装置1を停止させたりする。基準値設定器29は、算出電流比P(I2/I1)が基準電流比Z(I2/I1)から外れる割合を示す裕度を設定する。溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流回路が発生しても、例えば、ナゲットの品質に影響を与えず、溶接トランス6やインバータ回路4に損傷を与えないと判断されて溶接を継続させたいときには、基準値設定器29によって基準電流比Z(I2/I1)からの裕度を例えば7%と設定することができる。そして、判別回路30は、算出電流比P(I2/I1)が基準電流比Z(I2/I1)に裕度を考慮した電流比を超えたときに分流回路が発生したと判別して異常信号を出力する。
【0021】
以下、動作を説明する。まず、溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流回路が発生していない場合を説明する。抵抗溶接制御装置1において、例えば溶接トランス6の巻数比(一次電圧/二次電圧)が50で、二次電流である溶接電流が溶接電流設定器22によって10、000[A]と設定されている。溶接中に、二次電流I2がフィードバック制御されているので、二次電流検出器21は10、000[A]を検出する。このとき、一次電流検出器27によって一次電流I1が、例えば200[A]と検出される。電流比算出回路32は検出された一次電流I1=200[A]と、検出された二次電流I2=10、000[A]とが入力されて、算出電流比P(I2/I1)が10、000/200=50と算出される。判別回路30は検出された二次電流I2=10,000[A]と、算出電流比P(I2/I1)=50が入力される。
【0022】
判別回路30は、データベース28に保存されている二次電流I2と基準電流比Z(I2/I1)との関係から、検出された二次電流I2=10,000[A]に対応した基準電流比基準電流比Z(I2/I1)である50を抽出し、この基準電流比Z(I2/I1)の50と算出電流比P(I2/I1)の50とを比較して、これらが一致していることから、溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流回路が発生していないと判別する。
【0023】
次に、溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流回路が発生した場合を説明する。例えば溶接トランス6の巻数比(一次電圧/二次電圧)が50で、二次電流である溶接電流が溶接電流設定器22によって10、000[A]と設定されている。溶接中に、二次電流I2がフィードバック制御されているので、二次電流検出器21は10、000[A]を検出する。このとき溶接トランス6の一次側には、二次電流に分流回路に流れる無効電流が足された電流が溶接トランス6の巻数比によって変換された一次電流が流れる。一次電流検出器27によって一次電流I1が、例えば220[A]と検出される。電流比算出回路32に検出された一次電流I1=220[A]と、検出された二次電流I2=10,000[A]とが入力されて、算出電流比P(I2/I1)は10,000/220=45.5と算出される。判別回路30に検出された二次電流I2=10,000[A]と算出電流比P(I2/I1)=45.5が入力される。このとき基準値設定器29によって例えば裕度が7%と設定されているとする。
【0024】
判別回路30は、データベース28に保存されている二次電流I2と基準電流比Z(I2/I1)との関係から検出された二次電流I2=10,000[A]に対応した基準電流比Z(I2/I1)の50を抽出し、算出電流比P(I2/I1)の45.5と基準電流比Z(I2/I1)の50とを比較し、ずれ量={算出電流比P(I2/I1)−基準電流比Z(I2/I1)}/基準電流比Z(I2/I1)×100=(45.5−50)/50×100=9[%]を演算する。このずれ量が基準値設定器29によって設定された裕度7%を超えているので、溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流が発生したと判別する。そして、判別回路30は異常信号を出力して、出力回路31は、この異常信号が入力されたときに、警報を鳴らしたり、抵抗溶接制御装置1を停止させたりする。
【0025】
この結果、本発明の抵抗溶接制御装置1は、溶接トランス6と二次電流検出器21との間で分流回路が発生したことを判別して、警報を鳴らしたり、抵抗溶接制御装置1を停止させたりすることができる。従って、溶接トランス6の一次側に過電流が流れて溶接トランス6やインバータ回路4を壊す不具合が無い。
【0026】
さらに、溶接トランス6やインバータ回路4に損傷を与えないと判断されて溶接を継続させたいときには、基準電流比Z(I2/I1)からの裕度を設定することができる。この場合、判別回路30は、算出電流比P(I2/I1)が基準電流比Z(I2/I1)に裕度を考慮した電流比を超えたときに分流回路が発生したと判別して異常信号を出力して、警報を鳴らしたり、抵抗溶接制御装置1を停止させたりすることができる。
【0027】
上述した本発明の抵抗溶接制御装置1は、溶接トランス6の二次電流を検出してフィードバック制御を行う場合について説明したが、溶接トランス6の一次電流を検出してフィードバック制御を行う場合も動作及び効果は同様であるので説明を省略する。
【符号の説明】
【0028】
1 抵抗溶接制御装置
2 交流電源
3 整流回路
4 インバータ回路
5 インバータ駆動回路
6 溶接トランス
7 一次コイル
8 二次コイル
9 コア
10 第1整流素子
11 第2整流素子
12 上部アーム
13 下部アーム
14 センタータップ
15 第1溶接チップ
16 第2溶接チップ
17 被溶接物
21 二次電流検出器
22 溶接電流設定器
23 電流誤差増幅回路
24 溶接時間設定器
25 溶接開始回路
26 起動回路
27 一次電流検出器
28 データベース
29 基準値設定器
30 判別回路
31 出力回路
32 電流比算出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トランスと、
この溶接トランスの二次電流を検出する二次電流検出器と、
この二次電流検出器の検出値に基づいて電流フィードバック制御を行う抵抗溶接制御装置において、
前記溶接トランスの一次電流を検出する一次電流検出器と、
溶接トランスと二次電流検出器との間で分流回路が発生していないときの二次電流と基準電流比との関係が保存されたデータベースと、
前記一次電流検出器の検出値と前記二次電流検出器の検出値とから算出電流比を算出する電流比算出回路と、
前記二次電流検出器の検出値と前記算出電流比とを入力して、前記データベースから前記二次電流検出器の検出値に対応した前記基準電流比を抽出し、この抽出された基準電流比と前記算出電流比とを比較して、前記溶接トランスと前記二次電流検出器との間で分流回路が発生したことを判別する判別回路と、
を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御装置。
【請求項2】
前記算出電流比が前記データベースから抽出された基準電流比から予め定めた基準値だけ外れているときに、前記判別回路が前記溶接トランスと前記二次電流検出器との間で分流回路が発生したと判別することを特徴とする請求項1記載の抵抗溶接制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−143766(P2012−143766A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2125(P2011−2125)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)