説明

抵抗溶接機の電極加圧機構

【課題】低加圧力から高加圧力まで適正な押し下げ代(即ち、縮み代、伸び代)を有して、加圧力を被溶接物に与えることができる抵抗溶接機の電極加圧機構を提供する。
【解決手段】加圧電極を弾性部材を介して押圧手段13によって固定電極に向けて加圧し、固定電極と加圧電極との間に挟まれた被溶接物に加圧力を与える抵抗溶接機の電極加圧機構10において、弾性部材はそれぞれ縮み代に対する加圧力が異なる複数種類のばね部材15、16を直列に配置したものからなり、弱加圧及び強加圧での被溶接物への押圧力に対する押し下げ代を確保した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧電極の加圧力に対して広い範囲で加圧電極の押し下げ代を確保できる抵抗溶接機(スポット溶接機、プロジェクション溶接機、シーム溶接機をいう)の電極加圧機構に関する。
【背景技術】
【0002】
固定電極(通常、下部電極)と加圧電極(通常、上部電極)との間に被溶接物(ワーク)を配置し、空圧シリンダー(電動シリンダーの場合もある)によって固定電極上にある被溶接物を加圧電極で加圧した状態で、固定電極と加圧電極との間の被溶接物に通電する抵抗溶接機においては、空圧シリンダーのみで加圧を行うと、溶接時の加圧電極の追従性が悪いので、加圧ばね(コイルばね、皿ばね)を介して被溶接物を加圧することが一般に行われている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
ところが、1台の抵抗溶接機には1種類の加圧ばねしか用いられていないので、撓みaに対する加圧力Fは、F=Ea(Eはばね定数)となって荷重に対する撓みは決まってしまい、1台の抵抗溶接機においては、適正な加圧力の範囲は大凡決まっていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−249540号公報(第2頁、図3、図4)
【特許文献2】特開2002−239746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被溶接物への加圧力は被溶接物の厚みや材料等で異なり、異なる加圧力の付与については空圧シリンダーの圧力を変えることや更に別の加圧機構を付加することで可能であるが、この場合、加圧ばねのばね定数が小さい(即ち、加圧ばねの縮み代に対する加圧力が小さい)と、大きな荷重に対して加圧ばねが撓みきってしまい、加圧ばねとして皿ばねを使用した場合には、皿ばねが割れる等の問題が発生していた。
ここで、加圧ばねのばね定数が大きいものを使用すると、低加圧では加圧力に対する縮み代(伸び代)が小さく、通電時の溶接部の微小変形に対応できず、溶接部からのスパッターが発生し易いという問題があった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、低加圧力から高加圧力まで適正な押し下げ代(即ち、縮み代、伸び代、撓み代)を有して、加圧力を被溶接物に与えることができる抵抗溶接機の電極加圧機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る抵抗溶接機の電極加圧機構は、加圧電極を弾性部材を介して押圧手段によって固定電極に向けて加圧し、前記固定電極と前記加圧電極との間に挟まれた被溶接物に加圧力を与える抵抗溶接機の電極加圧機構において、
前記弾性部材はそれぞれ縮み代に対する加圧力が異なる複数種類のばね部材を直列に配置したものからなり、弱加圧及び強加圧での前記被溶接物への押圧力に対する押し下げ代を確保している。
これによって、弱加圧の場合にはばね定数の小さいばね部材が大きく撓み、強加圧の場合は、ばね定数の小さいばね部材の変形が完了し、ばね定数の大きいばね部材が撓むことになる。
【0007】
本発明に係る抵抗溶接機の電極加圧機構において、前記押圧手段は空圧シリンダー単独、複数の空圧シリンダー、電動シリンダー、及び空圧シリンダーと電動シリンダーの組み合わせのいずれか1からなるものを使用するのが好ましい。
押圧手段として空圧シリンダーを用いる場合、圧力を変えることによって容易に押圧力を変えることができる。また、2以上の空圧シリンダーを用いて加圧力を変えるもの、空圧シリンダーと電動シリンダーを組み合わせて加圧力を変えるもの、電動シリンダーのみでその加圧力を変えるもの、いずれであっても本発明は適用される。
【0008】
また、本発明に係る抵抗溶接機の電極加圧機構において、前記複数種類のばね部材として、高荷重用のばね部材と低荷重用のばね部材の少なくとも2種類が直列に連結されて用いられ、前記低荷重用のばね部材には、該低荷重用のばね部材に大荷重がかかるのを防止する負荷制限手段が設けられている。これによって、低荷重用のばね部材の割れや破損を防止できる。
なお、皿ばねを使用する場合には、同一の皿ばねを同じ向きに重ねると全体的な(即ち、ばね部材の)ばね定数(荷重/縮み代)を増大させることができるし、同一の皿ばねを向かい合わせて使用すると全体的なばね定数を小さくすることができる。従って、同一の皿ばねを組み合わせて高荷重用のばね部材と、低荷重用のばね部材を形成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る抵抗溶接機の電極加圧機構においては、弾性部材はそれぞれ縮み代に対する加圧力が異なる複数種類のばね部材を直列に配置したものからなり、弱加圧及び強加圧での被溶接物への押圧力に対する押し下げ代を確保しているので、加圧力の調整を低加圧(弱加圧)から高加圧(強加圧)まで変化させて溶接を行っても、加圧電極が溶接部に対応して動くので、溶接時の加圧不足によるスパッター等が減少し、安定した抵抗溶接が行える。
【0010】
特に、複数種類のばね部材として、高荷重用のばね部材と低荷重用のばね部材の少なくとも2種類が直列に連結されて用いられ、低荷重用ばね部材には、低荷重用ばね部材に大荷重がかかるのを防止する負荷制限手段が設けられた場合には、低荷重用ばね部材、例えば皿ばねに過度な荷重がかかって破損等するのを防止できる。
【0011】
更に、高荷重用のばね部材と低荷重用のばね部材を、それぞれ同一の皿ばねを組み合わせて形成した場合には、1種類の皿ばねで済み、しかも一種類の皿ばねであれば同一内径及び外径であるので、機器の構成が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る抵抗溶接機の電極加圧機構の主要部を示す断面図、図2は同電極加圧機構の部分拡大断面図である。
【0013】
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る抵抗溶接機(この実施の形態ではスポット溶接機)の電極加圧機構10は、図示しない溶接機本体に取付ける固定フレーム11と、固定フレーム11の上部に支持部材12を介して取付けられる空圧シリンダー(押圧手段の一例)13と、空圧シリンダー13のピストンロッド14の下方に延長された部分に直列に取付けられた高荷重用のばね部材15と低荷重用のばね部材16と、これらを収納し下部には図示しない上部電極ホルダーが取付けられる加圧部材17とを有している。この実施の形態では、高荷重用のばね部材15と低荷重用のばね部材16とで弾性部材を構成する。以下、これらについて詳しく説明する。
【0014】
空圧シリンダー13は、中央の筒体18とこの上下に固着されている上ブロック19及び下ブロック20を有し、内部にピストン21が設けられている。上ブロック19及び下ブロック20にはそれぞれエア給排口22、23が設けられ、図示しない電磁弁及び減圧弁を介してエア源に接続されている。ピストン21には長尺のピストンロッド14の上端部がねじによって固定されている。
【0015】
加圧部材17は筒状体からなって、上部にピストンロッド14のガイド24が固定され、このガイド24より下の部分のピストンロッド14は二段階に縮径して第1の縮径部25と第2の縮径部26とを有している。第1の縮径部25にはストッパー上金具27を介して高荷重用のばね部材15が装着され、第2の縮径部26には中間金具28を介してカラー29に装着された低荷重用のばね部材16が装着されている。そして、低荷重用のばね部材16の下部にはストッパー下金具30が設けられ、ストッパー下金具30の直下には座金31を介してナット32が螺着されている。このナット32によって、ピストンロッド14にストッパー上金具27、高荷重用のばね部材15、中間金具28、低荷重用のばね部材16、ストッパー下金具30及び座金31を締めつけ、高荷重用のばね部材15と低荷重用のばね部材16に予圧を与えている。
【0016】
ストッパー上金具27はピストンロッド14の段部に装着され、高荷重用のばね部材15の上端を押圧し、ストッパー下金具30は低荷重用のばね部材16の下端を載せてその荷重を荷重受け金具34を介して段部が形成された加圧部材17に荷重を伝えている。
中間金具28は、図2に詳細を示すように、その上端には高荷重用のばね部材15が載置され、その上側中央にはピストンロッド14の第1の縮径部25が嵌入する拡径穴部36を有している。第1の縮径部25と第2の縮径部26の境界(即ち、段部)から拡径穴部36の底まで距離をaとすると、この空間部36aが高荷重用のばね部材15の縮み代(即ち、押し下げ代、撓み代)となる。
【0017】
また、中間金具28の外側上部及び下部にはブッシュ37、38が装着され、筒状体からなる加圧部材17の内側を円滑に上下できるようになっている。中間金具28の下側に低荷重用のばね部材16の上端部が嵌入する円形窪み39が形成され、低荷重用のばね部材16の上端部が嵌入している。ピストンロッド14の第2の縮径部26には、低荷重用のばね部材16に嵌入するカラー29が装着され、低荷重用のばね部材16のガイドをすると共に、中間金具28の円形窪み39との間に距離bの空間部40を有し、この空間部40が低荷重用のばね部材16の縮み代(即ち、押し下げ代)となり、それ以上の荷重がかかって低荷重用のばね部材16が縮むと、中間金具28がカラー29の上端に当接して、低荷重用のばね部材16にそれ以上の荷重がかからないようになっている。このカラー29と中間金具28を有して、低荷重用のばね部材16に大荷重がかかるのを防止する負荷制限手段が形成されている。
【0018】
前記した高荷重用のばね部材15及び低荷重用のばね部材16は、それぞれ同一の皿ばね41が積層されて形成されている。高荷重用のばね部材15においては、同一方向を向いた4枚ずつの皿ばね41が交互に向かい合って10段、低荷重用のばね部材16においては、同一方向を向いた2枚ずつの皿ばね41が交互に向かってあって12段設けられている。ここで、一般的に、皿ばね一枚のばね定数(撓みに対する荷重)をKとすると、同一方向にn枚重ねた場合には、重ねた皿ばねの群のばね定数はnKとなり、このような皿ばねの群を向かい合わせてm段重ねた場合のばね部材Sのばね定数はnK/mとなる。ばね部材Sに荷重Fがかかった場合の撓みtは、mF/nKとなり、同一方向に重ねる枚数が増えると荷重に対する撓みが小さくなり、交互に向かい合わせる皿ばねの群の数が増えると荷重に対する撓みは大きくなる。また、皿ばね1枚当たりの許容押し下げ代をhとすると、ばね部材Sの許容最大加圧力GはnhKとなる。従って、この実施の形態においては、以上のことと皿ばね41のばね定数を考慮して、高荷重用のばね部材15と低荷重用のばね部材16の皿ばね41の枚数及び配列を選定している。
【0019】
この実施の形態においては、高荷重用のばね部材15においてはn=4、m=10、低荷重用のばね部材16においては、n=2、m=12としているので、ばね定数の比は(高荷重用のばね部材)/(低荷重用のばね部材)=2.4となる。許容最大加圧力の比は(高荷重用のばね部材)/(低荷重用のばね部材)=2となり、空圧シリンダー13による荷重をかけると、低荷重用のばね部材16が許容限度になるので、前記した負荷制限手段を作動させて、低荷重用のばね部材16にそれ以上の荷重がかからないようにし、この後、高荷重用のばね部材15の押圧力で加圧部材17を押圧することになる。
【0020】
従って、この実施の形態においては、空圧シリンダー13を作動させてピストン21を下げると、加圧部材17の下降と共に、上部電極ホルダー及びこれに取付けられている加圧電極が下がり、加圧電極がワークを挟んで固定電極に当接する。ここで、空圧シリンダー13の加圧力が比較的小さい場合には、高荷重用のばね部材15と低荷重用のばね部材16が同時に縮み、弾性的にワークの溶接部が加圧される。ここで、加圧電極と固定電極との間に通電を行うと、溶接部が溶けて溶接されるがこの場合、溶接部からの反力が小さくなるので、加圧電極はこれに円滑に追従し、溶接部の急加熱膨張等に起因するスパッターリングを極力防止できる。
【0021】
次に、ワークの材質、厚み又は電極の直径が異なる等で高い加圧力を必要とする場合には、空圧シリンダー13のエア圧を増してピストン21を高圧力で押し下げると、低荷重用のばね部材16はその許容最大加圧力を超え、中間金具28がカラー29の上端に当接し、高荷重用のばね部材15のみの撓みでワークに加圧力を加える。適当な加圧力がワークにかかった状態で、加圧電極と固定電極間に適正な電流を流すと溶接部が軟化し溶接が開始されるがこの場合も、高荷重用のばね部材15の伸びによって加圧電極は弾力的に溶接部に追従するので、良好な溶接が可能となる。
なお、図1において42は上部電極ホルダーの取付け座を、43は取付け用ねじ孔を示す。
【0022】
前記実施の形態においては、ばね部材は、高荷重用のばね部材と低荷重用のばね部材の2種類であったが、更に中荷重用のばね部材を直列に設ける場合も本発明は適用される。
前記実施の形態においては、加圧部材の押圧手段として、一段の空圧シリンダーを用いたが、押圧手段として、空圧シリンダーを複数段にして、その押圧力を段階的に増加させることができるもの、電動シリンダー、及び空圧シリンダーと電動シリンダーの組み合わたものを使用する場合も本発明は適用される。
また、前記実施の形態においては、スポット溶接機に本発明を適用した例を説明したが、シーム溶接機、プロジェクション溶接機であっても本発明は適用される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る抵抗溶接機の電極加圧機構の主要部を示す断面図である。
【図2】同電極加圧機構の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10:抵抗溶接機の電極加圧機構、11:固定フレーム、12:支持部材、13:空圧シリンダー、14:ピストンロッド、15、16:ばね部材、17:加圧部材、18:筒体、19:上ブロック、20:下ブロック、21:ピストン、22、23:エア給排口、24:ガイド、25:第1の縮径部、26:第2の縮径部、27:ストッパー上金具、28:中間金具、29:カラー、30:ストッパー下金具、31:座金、32:ナット、34:荷重受け金具、36:拡径穴部、36a:空間部、37、38:ブッシュ、39:円形窪み、40:空間部、41:皿ばね、42:上部電極ホルダーの取付け座、43:取付け用ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧電極を弾性部材を介して押圧手段によって固定電極に向けて加圧し、前記固定電極と前記加圧電極との間に挟まれた被溶接物に加圧力を与える抵抗溶接機の電極加圧機構において、
前記弾性部材はそれぞれ縮み代に対する加圧力が異なる複数種類のばね部材を直列に配置したものからなり、弱加圧及び強加圧での前記被溶接物への押圧力に対する押し下げ代を確保したことを特徴とする抵抗溶接機の電極加圧機構。
【請求項2】
請求項1記載の抵抗溶接機の電極加圧機構において、前記押圧手段は空圧シリンダー単独、複数の空圧シリンダー、電動シリンダー、及び空圧シリンダーと電動シリンダーの組み合わせのいずれか1からなることを特徴とする抵抗溶接機の電極加圧機構。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の抵抗溶接機の電極加圧機構において、前記ばね部材として、高荷重用のばね部材と低荷重用のばね部材の少なくとも2種類が直列に連結されて用いられ、前記低荷重用のばね部材には、該低荷重用のばね部材に大荷重がかかるのを防止する負荷制限手段が設けられていることを特徴とする抵抗溶接機の電極加圧機構。
【請求項4】
請求項3記載の抵抗溶接機の電極加圧機構において、前記高荷重用のばね部材と前記低荷重用のばね部材は、それぞれ同一の皿ばねを組み合わせて形成されていることを特徴とする抵抗溶接機の電極加圧機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−260747(P2007−260747A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91759(P2006−91759)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000110594)ナストーア株式会社 (9)
【Fターム(参考)】