説明

振せんの治療方法

本発明は、動作時振せんまたは重度の本態性振せんを治療する方法に関する。動作時振せんとしては、本態性振せん、体位性振せん、薬物誘発振せんまたは中毒振せん、原発起立性振せん、失調症振せん、神経障害性振せん、および小脳性振せんが挙げられる。前記方法は、ゾニサミドまたは製薬上許容し得るその塩の有効量を含む医薬組成物を、対象に投与することを含む。本発明の方法は、振せん症状を軽減するのに有用である。また、本発明の化合物は、振せんを治療するために通常使用される他の治療薬と合わせて使用することもでき、したがって振せん処置の治療効果を増強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ゾニサミド(1,2−ベンズイソオキサゾール−3−メタンスルホンアミド)による、振せん、特に本態性振せんを治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
振せんは、拮抗筋の交互または不規則的同調性収縮から生じる身体の一部または複数部分の不随意性、リズム性振動運動と定義される。振せんは、最も一般的な不随意性運動の形態である。殆ど全ての個人は、一生のある時点で振せんを経験しているが、彼らのうち医療的処置を求めるのは、少数のみである。振せんは、正常な(生理学的)または病的過程から生じ得、それらの病因または現象論(すなわち、神経病理学、活性化状態、頻度、振幅)により特性化され得る。顔面領域に影響を及ぼすものを除いて、振せんは、その周囲で身体部分が動くことにより定義づけされるか、または特性化されることが多い。
【0003】
振せんは、正常な筋肉活性化が、異常な同調群発に置き換わる場合に生じる。これは、細胞膜におけるイオン性細胞電導度の変化により発生し、細胞膜にその電位の振動を生じさせる。この振動させる傾向は、正常な静止電位から離れた細胞の過分極により強調される。振せんは、主に視床リレー核および下オリーブにおいて起こると考えられている。隣接細胞の活動は、オリーブにおける電子間隙接合点により、また視床における網様核の再発性軸索突起により結合され得る。その結果、細胞の大集団は一緒に振動し、運動出力に対して強力なリズム性の影響を及ぼし得る。同様に、低閾値のカルシウムスパイク群発が、前補足運動野に達すると、補足運動野の活性化および運動喪失により硬直およびジストニアのもとになり得る。
【0004】
全ての年代の個人は、不安、疲労、怒り、カフェイン、痛み、極度の寒さおよび他のストレスの多い状況に伴って振せん(生理学的振せん)を有する。過剰かつ持続性の振せんは、本態性振せんと呼ばれる神経学的疾患を頻繁に伴う神経病理的現象である。国立神経学的疾患および発作研究所(The National Institute of Disorders and Stroke)は、米国においてほぼ一千万もの多数の人々が、本態性振せん(ET)に冒されていることを推定している。本態性振せんは、女性および男性を等しく冒している。本態性振せんはいずれの年令でも始まり得るが、20歳前では異例である。既存の本態性振せんは、必ずしも歳とともに悪化はしないが、また、より高年齢において最初に現れることが多いと考えられる。
【0005】
本態性振せんは、筋肉活性化の正常な連続パターンが、比較的同調性の神経細胞群発により置き換わる場合に生じる。これは、相反的神経支配の拮抗筋群の不随意性のリズム性振動を特徴とし、空間に固定した面に対して身体部分の動きを引き起こす。振動周波数は、3つの主要構成要素:緩慢(3Hzから5Hz)、中間(5Hzから8Hz)、または急速(9Hzから12Hz)に分けられる。振動の振幅は、細小、中等度または粗大として規定される。
【0006】
現行の振せん薬物治療は、長期的、持続的有効性を提供せず、使用の長期化に伴って合併症の危険性が高くなる。最も一般的で主要な処方治療は、ベータ−ブロッカーのプロプラノロールであり、より半減期の長いタイプのチモロールがより効力がある。運動障害専門家の多くは、また、ベンゾジアザピン(アルプラゾラム、クロナゼパム、ジアゼパム、ロラゼパム)、抗うつ剤(トラザドン、ミルタザピン)、中枢作用アルファ−アゴニスト(クロニジン)、抗アプサモジック(anti−apsamodic)(ボツリヌス毒素注射)、抗発作薬(ガバペンチン、プリミドン、フェノバルビタール)タイプの薬物治療の処方も選択する。最近、非競合的NMDAチャンネルブロッカー、MK−801が、ハルマリンの振せん作用をブロックし得ることが報告された。MK−801によるハルマリン誘発振せんの競合的遮断は、NMDA受容体に結合したカルシウムチャンネル内で生じる。多くの外科的処置が、これらの振せんに利用できるようになった。外科処置による視床領域の刺激または切除を伴うこれらの術式は、動脈瘤の危険因子および約2%から3%の死亡率を有する。したがって、振せんに係る効果的で危険性の低い療法に対する必要性があることは明らかである。
【0007】
ゾニサミドは、スルホンアミドとして分類される抗発作薬であり、他の抗発作薬とは化学的に無関係である。ゾニサミドは、1,2−ベンズイソオキサゾール−3−メタンスルホンアミドの化学構造を有し、さらに、モノグラフ番号10094でメルクインデックス(第11版、1989年)に特性化されている。ゾニサミドと関連構造は、米国特許第4,172,896号明細書に記載されており、全ての目的で全体を参照として本明細書に援用されている。それは、米国人、韓国人および日本人への使用が認可されている。ゾニサミドが、その抗発作活性を発揮する機構は未知である。抗痙攣活性は、興奮させたラットモデルにおける全身性発作の閾値の増加により、またネコの視覚皮質の電気的刺激により誘発された皮質焦点発作時間の減少により立証された。さらに、ゾニサミドは、ラットにおけるタングステン酸ゲルの皮質適用またはネコにおける皮質凍結により生じた発作間のスパイクおよび二次的全身性発作の双方を抑制した。
【0008】
ゾニサミドは、ナトリウムチャンネルおよびカルシウムチャンネルの双方における作用を通して抗てんかん作用および抗痙攣作用を生じ得る。インビトロの薬理学的研究では、ゾニサミドが、電位作動型ナトリウムチャンネルをブロックし、電位依存性、一過性の内向きカルシウム電流(T−タイプCa2+電流)を減少させ、その結果、神経細胞膜を安定化し、神経細胞過同調化を抑制することを示唆している。インビトロの結合研究では、ゾニサミドが、塩化物フラックスの変化を生じないアロステリック様式でGABA/ベンゾジアゼピン受容体イオノフォア複合体に結合することを立証している。他のインビトロ研究では、ゾニサミド(10〜30μg/mL)が、シナプス後のGABAまたはグルタメート応答(培養マウス脊髄ニューロン)もしくは[H]−GABAの神経細胞または神経膠(ラット海馬スライス)の取り込みに影響を及ぼすことなくシナプス駆動電気活性を抑制することを立証している。したがって、ゾニサミドは、GABAのシナプス活性を増強しているとは考えられない。インビボ微小透析研究では、ゾニサミドが、ドーパミン作動性およびセロトニン作動性の神経伝達を促進することを立証している。
【0009】
村田ら(Neurocsci Res.41:397ページ(2001))は、抗パーキンソン病薬に加えて50〜200mg/日のゾニサミドを投与された患者が、症状の減少を示したことを報告している。滝川ら(Rinsho ShinKeigaKa、37:1006〜9ページ(1997))は、1人の患者の皮質ミオクローヌス性振せん症状がゾニサミド、クロナゼパムおよびバルポレートによる治療後に改善されたことを報告している。平(Taira)(脳と神経(NoToShinkei)、44:16〜3ページ(1992))は、2人の患者が、ゾニサミドの投与後に静止時および体位性の手の振せんを発現したことを報告している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
視床領域に発生した発作を抑制するゾニサミドの能力に基づいて、本出願者は、ゾニサミドが振せんの治療に有効であることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、振せん治療を必要とする対象において振せんを治療する方法に関する。本法は、ゾニサミドまたは製薬上許容し得るその塩を含む医薬組成物を、振せん症状を軽減するのに有効な量で対象に投与することを含む。本発明は、哺乳動物における本態性振せん、体位性振せん、薬物誘発振せんまたは中毒振せん、原発起立性振せん、失調症振せん、神経障害性振せん、および小脳性振せんなどの動作時振せんを治療する方法を提供する。また、本発明は、重度の本態性振せんなどの静止時振せんを治療する方法を提供する。
【0012】
前記医薬組成物は、経口、局所、経直腸、注射、または移植の種々の経路を通して0.5〜10mg/kg/日の範囲で投与され得る。好ましい投与経路は、経口投与である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、体位性振せんおよび運動性振せんを含む病的振せん、特に動作時振せんを患っている対象を治療する方法を提供する。また、本発明は、重度の本態性振せんなどの静止時振せんを治療するのに有用である。本法は、振せん症状を軽減するために、ゾニサミドまたは製薬上許容し得るその塩の有効量を含む医薬組成物を、対象に投与することを含む。好ましい塩は、安定であるナトリウム、リチウム、カリウムなどのゾニサミドのアルカリ金属塩である。
【0014】
振せんは、身体の一部または複数部分の不随意性、リズム性振動運動と定義され、拮抗筋の交互または不規則的同調性収縮から生じる。振せんは、最も一般的な不随意性運動の形態である。振せんは、臨床的現象論に従って静止時振せんおよび動作時振せんとして分類できる。
【0015】
静止時振せんは、骨格筋が随意的に活動せず、関連身体部分が重力に抗して完全に支持される場合に存在する。静止時振せんは、パーキンソン病、または遺伝的なあごの振せん、または重度の本態性振せんにより生じ得る。
【0016】
動作時振せんは、随意筋収縮時に生じ、体位性振せんおよび運動性振せんを含む。体位性振せんは、重力に抗して位置を随意的に維持しながら存在する動作時振せんである。体位性振せんは、本態性振せんに関連することが多く、また原発起立性振せん、生理的振せんおよび生理的に増強された振せん、薬物依存または中毒振せん(アルコール関連振せんを含む)、神経障害性振せん、小脳頭部振せん(揺動)または失調症振せんとして生じ得る。
【0017】
運動性振せんは、会話、水をカップに注ぐ、または指鼻試験などの視覚または非視覚誘導動作を含む随意運動の任意の形態時に生じ得る。運動性振せんは、本態性振せん、古典的小脳振せん(たとえば、多発性硬化症、梗塞症に見られる)、失調症振せん、薬物依存または中毒振せん、または中脳損傷に関連することが多い。運動性振せんは、標的方向への動作により生じる動的振せんまたは四肢振せん、および非標的方向への動作により生じる単純な動的振せんも含む。課題特異的または位置特異的振せんは、筆記、会話または微笑など高度に特殊化された、複雑な動きの実行中に生じる運動性振せんである。等大振せんは、水平な平面に対して握りこぶしを作るか、または手首を曲げるなど、堅く固定した対象物に対して随意筋収縮時に存在する運動性振せんである。
【0018】
本発明は、本態性振せん、体位性振せん、薬物依存または中毒振せん(アルコール関連振せんを含む)、小脳振せん、原発起立性振せん、失調症振せん、および神経障害性振せんなどの動作時振せんを治療するために有用である。
【0019】
本態性振せんは、慢性の神経学的障害であり、最も一般的な動作障害である。ETの唯一の症状は振せんである。振せんを引き起こし得る他の疾患は、通常さらなる症状を伴う。ETは、手に最も頻繁に生じるようである。それはまた、頭部、声、舌、腕、足および胴にも影響を及ぼし得る。振せんは、1つ以上の身体部分(すなわち、手/頭部、頭部/声、および腕/手)に同時に生じ得る。ETを有する個人は、内部振動感を述べている。
【0020】
薬物誘発振せんおよび中毒振せん症候群は、他の医学的病態を治療するために使用されている薬理的薬剤により誘発される。このような治療薬としては、テオフィリン、バルプロエート、リチウム、三環系抗抑うつ薬、神経遮断薬、交感神経興奮薬、アンフェタミン類、ステロイド類、内分泌障害および代謝障害を治療するために使用されるある一定の薬剤、またはその他の薬剤が挙げられる。マンガン、砒素、または水銀中毒または毒作用などの中毒振せんは、歩行の乱れ、硬直性、失調症、運動失調症、構音障害、錯乱などのような他の神経障害性症状を伴って生じる。
【0021】
小脳振せん症候群は、主として5Hz未満の周波数で、(静止時振せんではなく)体位性振せんを伴う可能性のある純粋または原発性企図振せんである。体位性振せんなどの他の振せん形態は、他の小脳徴候と共存している場合のみ、小脳起源であると考えられる。
【0022】
原発起立性振せんは、立脚中の、しかし座位またはリクライニング時にはない下肢、胴、および時には上肢筋肉の体位性振せんである。大部分の患者において、起立性振せんは、歩行の際に抑制される。EMGに見られるように、起立性振せんは、主として下肢の対側性および同側性筋肉の同調運動単位活性の高周波数、13Hzから18Hzを特徴とする。
【0023】
失調症振せんとは、失調症により影響される、ある身体部分に生じる主として体位性および運動性振せんを称す。失調症は、反復性のねじれまたはもがき動作およびゆがんだ姿勢または位置を頻繁に引き起こす筋肉収縮持続を特徴とする神経性運動障害である。失調症振せんは、身体の任意の随意性筋肉に影響を及ぼし得る。体位性手の振せんは、通常失調症患者に影響を及ぼし、本態性振せんと区別できないことが多い。失調症、ゲステス拮抗筋(gestes antagoniste)でのように、影響を受けた筋肉または隣接筋肉を軽くたたくこと、またはさすることなどにより、振せん振幅現象による失調症振せんを緩和し得る。
【0024】
神経障害性振せんは、ある一定の末梢神経障害、特に異常ガンマグロブリン血症神経障害と関連している。神経障害性振せんは、主として影響を受けた四肢の運動性および体位性振せんである。
【0025】
ゾニサミドは、独特の組合わせの薬理的作用を有する。すなわち、それは電位作動型ナトリウムチャンネルを抑制し、またT−タイプカルシウムチャンネルをブロックする。出願者らは、これらの機構が、神経細胞の安定化により振せん調整の役割を果たしていると考えている。ゾニサミドの薬物動態および薬物相互作用のプロフィルは、対象における振せんを治療するのに理想的である。ゾニサミドは、ハルマリン誘発振せんモデルにおいて神経細胞膜を安定化する能力および神経細胞膜の過同調化を抑制する能力を有する。動物におけるハルマリン誘発体位性/運動性振せんは、そのオリーブ小脳関与のため、大部分がヒト本態性振せん/生理的振せん増強と特徴を共有している。出願者らは、ゾニサミドが、視床領域における膜安定化作用により振せんの治療に有効であると考えている。
【0026】
本発明の医薬組成物は、経口、非経口、経直腸、他の全身投与経路など、中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす薬剤に関する全身投与の任意の許容様式により適用できる。任意の許容し得る投与様式は、たとえば、錠剤、座薬、丸剤、カプセル剤、散剤、液体懸濁剤などの固体、半固体、または液体剤形などを、好ましくは正確な投与量の単回投与に好適な単位剤形で、または予め決められた速度で化合物の延長化投与のために持続型または制御放出型形態において使用できる。前記組成物は、典型的には、従来の製薬用担体または賦形剤および薬物製品ゾニサミドを含み、さらに、他の医薬品、薬剤、担体などを含むことができる。投与および患者のコンプライアンスをより簡便にするために、前記組成物は、有効化合物の予め決められた標準量を単位剤形に配合することが有利である。
【0027】
投与される有効化合物量は、治療を受ける患者、病気の重症度、投与様式、処方医師の判定に依存する。しかしながら、有効投与量は一般に、一度に全てをまたは分割用量で投与できる0.5〜10mg/kg/日、好ましくは2〜10mg/kg/日の範囲である。これらの化合物の投与量は、投与経路、患者の年令および所望の治療効果程度に応じて変わり得る。
【0028】
本発明の化合物は、通常、製薬用担体と混合してそれらを含有する医薬組成物の形態で投与される。前記医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細顆粒剤、散剤、シロップ剤、座薬、注射剤などの剤形であり得る。これらの製剤は、従来法により調製できる。
【0029】
これらの製剤に有用な担体としては、製薬製剤に通常使用され、有効成分に対し不活性である有機または無機担体物質の全てが挙げられる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤および細顆粒剤の調製に好適な担体の例は、乳糖、澱粉、ショ糖、D−マンニトール、硫酸カルシウム、または微結晶セルロースなどの希釈剤;ナトリウムカルボキシメチルセルロース、修飾澱粉、またはカルシウムカルボキシメチルセルロースなどの崩壊剤;メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはポリビニルピロリドンなどの結合剤;軽無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、または硬化油などの潤滑剤などである。錠剤に形成される場合、リン酸カルシウム、カルナウバ蝋、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、ヒドロキシプロピルメチルフタレート、セルロースアセテートフタレート、二酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステルなどの従来のコーティング剤などを用いることにより従来の様式でコーティングされ得る。
【0030】
シロップ製剤に好適な担体の例は、ショ糖、グルコース、フルクトース、またはD−ソルビトールなどの甘味剤;アラビアゴム、トラガカントゴム、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、微結晶セルロース、またはビーゴム(veegum)などの懸濁剤;ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、またはポリソルベート80などの分散剤などである。シロップに形成される場合、これに従来の風味剤、芳香物質、保存剤などが場合によって添加され得る。シロップは、使用前に溶解されるか、または懸濁される乾燥シロップの形態であってもよい。
【0031】
座薬製剤に使用される基材の例は、カカオ脂、グリセリン飽和脂肪酸エステル、グリセロゼラチン、マクロゴールなどである。座薬に形成される場合、従来の表面活性剤、保存剤などが場合によっては混合され得る。
【0032】
注射剤に形成される場合、化合物のアルカリ金属塩を、注射剤用蒸留水に溶解し、これに、従来の溶解剤、緩衝剤またはpH調節剤、保存剤および好適な物質を場合によっては添加してもよい。前記注射剤は、使用前に溶解される乾燥固体製剤であってもよい。
【0033】
これらの医薬組成物は、通例、有効成分としてゾニサミドを、組成物の全重量を基準にして0.5重量%以上、好ましくは10重量%〜70重量%の量で含有する。これらの組成物は、他の治療的に有効な化合物を場合によっては含有できる。
【0034】
固体成分では、従来の非毒性担体を使用でき、それには、マンニトール、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルカム、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウム、および他の物質などが挙げられる。上記に定義された有効化合物は、たとえば担体として、ポリアルキレングリコール類、たとえばプロピレングリコールを用いて座薬として製剤化され得る。液体製薬上投与し得る組成物は、上記に定義された有効化合物および、たとえば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどの担体中に場合によっては、製薬用アジュバントを溶解するか、分散するなどにより調製することによって液剤または懸濁剤を形成し得る。所望ならば、投与される医薬組成物は、少量の非毒性補助pH緩衝剤、例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミンなどを含有することもできる。このような剤形を調製する実際の方法は、公知であり、または当業者に明らかであろう:例えば、レミントンの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)、マック(Mack)出版社、ペンシルバニア州イーストン、第15版、1975年を参照されたい。投与される組成物または製剤は、治療を受ける対象の症状を軽減するのに有効な量で有効化合物量を含有する。
【0035】
0.25%から95%の範囲で有効成分を含有し、非毒性担体から作製されたバランスを有する剤形または組成物を調製し得る。経口投与に関して、製薬上許容し得る非毒性組成物は、通常使用される賦形剤の組み込みにより形成され、有効成分を1〜95%、好ましくは5〜50%含有する。
【0036】
非経口投与は一般に、静脈内、皮下、筋肉内、または腹腔内のいずれであろうと注射を特徴とする。注射液は、液体溶液、懸濁剤、または乳化剤としていずれも従来の形態で調製できる。好適な賦形剤としては、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。さらに、前記医薬組成物は、湿潤剤または乳化剤、例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミンなどの補助pH緩衝剤など、少量の非毒性物質を含有することもできる。好ましい注射液は、ゾニサミドナトリウムを含んでなる滅菌溶液である。
【0037】
このような非経口組成物に含まれた有効化合物の割合は、その特異性ならびに化合物の活性および対象の必要性に大いに依存する。しかしながら、溶液中の有効成分の割合は、一般に0.1%〜10%、好ましくは0.2%〜2%である。
【0038】
他の投与様式もまた、本発明に従って実施できる。
【0039】
遅延放出に関して、本発明の化合物は、生体適合性ポリマー類から形成されたミクロカプセルにおいて、もしくは当業界に公知の方法に従ってリポソーム担体システムなどの医薬組成物で製剤化できる。
【0040】
有効剤の連続放出に関して、米国特許第5,320,840号明細書に記載されているように、化合物は、ポリアクチドまたは両親媒性ブロックコポリマーから誘導された生分解性ヒドロゲルなどの水溶性ポリマーに共有結合できる。米国特許第5,024,841号明細書に記載されているように、コラーゲンベースのマトリックス移植材料もまた、治療剤の持続送達に有用である。
【0041】
本発明の方法は、振せんを治療するために通常使用される他の治療剤と共に使用でき、したがって治療剤および付属治療の効果を増強する。他の治療剤としては、β−ブロッカーのプロパノロール、チモロール、ベンゾジアザピン(アルプラゾラム、クロナゼパム、ジアゼパム、ロラゼパム)、抗うつ剤(トラザドン、ミルタザピン)、中枢作用α−拮抗薬(クロニジン)、抗アプサモジック(anti−apsamodic)(ボツリヌス毒素注射)、抗発作薬(ガバペンチン、プリミドン、フェノバルビタール)および非競合的NMDAチャンネルブロッカー(MK−801)が挙げられる。他の治療としては、外科手術処置が挙げられる。
【0042】
目標の応答を果たすレベルに到達するために、高用量が幾つかの治療剤に関して必要とされるが、高用量は、用量関連副作用をより大きな頻度で伴うことが多くなる。したがって、本発明の医薬組成物と、振せんを治療するために通常使用される治療薬との併用使用は、他の薬剤を相対的に低用量にさせて、このような薬剤の長期投与に伴う副作用の頻度をより低くする。したがって、本発明の化合物の他の利点は、振せんを治療するために使用される他の薬剤の副作用を軽減することである。これらの副作用としては、耐容性、依存性、便秘、呼吸抑制、鎮静、および消化器系副作用を挙げることができる。
【0043】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明のあくまでも例示を目的としており、限定されるものと解釈してはならない。
【実施例】
【0044】
実施例1〜4の試験目的は、確立されたハルマリン誘発振せんのげっ歯類モデルにおける本態性振せんに対するゾニサミドの潜在的な有効性を評価することである。振せんの動物モデルは、実験的神経病学広く用いられている。というのは、それらは、ヒト振せん障害の病態生理学および新規治療剤の開発を理解するための不可欠な要件だからである(ウィルムス(Wilms)ら、Mov.Disord.、14:557〜71ページ(1999))。
【0045】
実施例1
げっ歯類モデルにおいてゾニサミドを評価するための材料と方法
試験動物
凡そ200〜250グラム体重の成体スプラウジ−ドーリーメスラット(ハルランスプラウジ−ドーリー社、カリフォルニア州(Harlan Sprauge Dawley Inc,CA))を本実験に用いる。標準的な研究室条件下で水および市販のげっ歯類用食餌を動物に自由に取らせる。室温は、20〜23℃に維持し、照明は、12/12時間明暗サイクルにする。
【0046】
実験のデザインに基づいて、全60匹の動物を本実験に用いる(表1、2)。
【0047】
薬物調製
全ての溶液は、実験トライアルの各日に新鮮に調製する。ゾニサミドに関する用量調製操作は、実験依頼者により提供される。
【0048】
振せん誘発剤(Tremorigenic agent)
ハルマリン(シグマ(Sigma))は、実験的振せん誘発剤に最も広く用いられ、げっ歯類モデルにおける膨大な研究が、本試剤を用いて公表されている。複数の研究では、オリーブ小脳−延髄脊髄経路が、ヒトにおける本態性振せんに類似しているハルマリン誘発振せんを媒介することを示唆している。ハルマリン誘発振せんの重症度は、用量依存性であり、有効な用量範囲は、腹腔に送達される10mg/kg〜50mg/kgである(バイアリー(Biary)ら、Pharmacology、Biochemistry & Behavior、65:117ページ、(2000);クロス(Cross)ら、Psychopharmacology、111:96〜98ページ(1993))。
【0049】
ハルマリン溶液は、生理食塩水中、本剤を溶解することにより調製される。長期持続8〜12Hz振せんを生じさせるために、予備的パイロット試験により、ハルマリンを投与する(腹腔内または皮下)好ましい方法を決定する。
【0050】
実験用治療剤
ゾニサミド(ナトリウム塩)は、エランファーマシューティカルズ(Elan Pharmaceuticals)により提供される。ゾニサミドによる研究は、ラットにおける20mg/kgの経口投与が、抗痙攣モデルにおいて有効であったことが以前に確立されている(ミスノ(Misuno)ら、Nihon Shinkei Seishin YaKurigaKu Zasshi、17:17〜23ページ(1997))。ハルマリンモデルにおける試験に選択された用量は、一口当たり20mg/kgと50mg/kg(経口、口による)である。ゾニサミドナトリウムを滅菌水に溶解して、20mg/mlの投与液を生成した。20mg/kgと50mg/kgの用量は、経口胃管法により送達される。
【0051】
陽性コントロール剤
一般的な臨床実践において、プロプラノロールは、ETにおいて有効性が証明されており、第1ライン療法として確立されている(コーラー(Koller)ら、Neurology、54:530〜38ページ(2000))。
【0052】
塩酸プロプラノロールを水に溶解して、20mg/kgと50mg/kgの投与製剤を生成する。動物モデルにおけるプロプラノロールの使用に関する公表データに基づいて、プロプラノロールを、経口胃管法を経て20mg/kgと50mg/kgで投与する(スエマル(Suemaru)ら、Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol.、355:571〜5ページ(1997);ウィシャート(Wishart)およびハーバーガー(Herberger)、Pharmacol.Biochem Behav.、11:625〜9ページ(1979))。
【0053】
実施例2
ハルマリン誘発パイロット試験
持続化ハルマリン振せんは、ゾンシサミド(zonsisamide)の効果を明確に見るために必要とされる。ハルマリンの皮下注射により、一般に薬物に対する持続的応答が得られ、ゾニサミド試験に好適である。このパイロット試験では、持続化8〜12Hz振せんを生じ、理想的には少なくとも3時間持続するハルマリンの有効な用量/送達が判定される。5匹の動物に、ハルマリンの10mg/kg腹腔内、または10mg/kg皮下で投与する(表1を参照)。成功した用量/送達は、以下の評価基準に基づいて判定される。各ハルマリン投与群につき全試験動物の80%以上が、少なくとも3時間8〜12Hzで振せん活動を有する。
【0054】
全動物は、表1に記載されたとおり治療される。
【0055】
【表1】

【0056】
ハルマリンパイロット試験プロトコル:
1)10分間振せん用ケージにラットを入れる。
2)20分間活動を記録する。(ベースライン)
3)ハルマリン(10mg/kg)腹腔内または皮下に注入する。
4)2分間待つ。
5)振せん用ケージにラットを入れ、ハルマリンの効果を得るために10分間待つ。
6)6時間振せんを記録する。
【0057】
実施例3
誘発振せんに対するハルマリンの効果
6匹のメススプラウジ−ドーリーラットを、腹腔内生理食塩水で処置し、ベースライン記録のため30分間振せんモニタリング用ケージに入れた。次いで、振せんを誘発するために、10mg/kgハルマリンを動物の腹腔内に注入した。ハルマリン誘発振せんを記録すると、ハルマリン注入15後に開始し、2.5時間続いた。
【0058】
ケージ床に連結された変換器は、フーリエ変換およびスペクトル解析により処理された動きを記録した。8〜12Hz(振せんが生じる範囲)における動きを、記録された動き(0〜15Hz)の完全スペクトルと比較した。この結果は、ラットにおける振せん誘発に対するハルマリンの効果が2時間超安定であったことを示している。
【0059】
実施例4
ゾニサミド試験
本実験において、ハルマリン誘発振せんげっ歯類モデルにて振せんを軽減するゾニサミドの有効性を評価する。ゾニサミドの有効性を、先行の抗振せん治療剤、プロプラノロール(陽性コントロール)ならびに媒体、滅菌水(陰性コントロール)と比較する。全動物を10mg/kgハルマリンで処置して振せん誘発挙動を得る。全治療剤を、経口胃管栄養法を経て投与する。
【0060】
治療剤により引き起こされた振せんの軽減を分析するために、コンバルス(Convuls)−1感圧性変換器システムを用いる。コンバルス−1は、実験小動物において痙攣活動または振せん活動を客観的に定量化するようにデザインされている。無拘束動物を、感知プラットフォーム上にあるチャンバ内に入れる。プラットフォームは、動きの垂直成分を電気信号に変換するロードセンサーに接続されている。この装置は、経時的にインパルスを蓄積する。インパルスカウントは、感知プラットフォームに加えられた力の各グラム−秒(980ダイン)に対して生じる。コンバルス−1は、プラットフォーム上で出された力の変化のみに対応する。プラットフォームおよび動物の重量により出された静止力は、記録されない。しかしながら、動物の体重、プラットフォームおよび追加のケージング重量の組合わせは、観察可能な最大の力を制限する。コンバルス−1は、最大2kg範囲の感知力を有する。静電成分により及ぼされた力の付加が、最大4ポンドから差し引かれ、全システムの使用可能な感知範囲を得られる。コンバルス−1は、グラム−秒および100ミリグラム−秒の2つの感知範囲を備えている。出力は、デジタルで記録し、変換データウェアA/Dおよびソフトウェアを用いて周波数および電力の変化を分析した。
【0061】
データは、1分ビンにて分析される。各ビンに関して、0〜15Hzの全電力および8〜12Hzでの全電力が算出される。次に、データをエクセル(Excel)に変換し、8〜12Hz/0〜15Hzの電力比を算出する。対照ラットにおいて、この比は、15〜30%である。ハルマリン処置ラットにおいて、この比は、典型的に60〜80%である。この比は、最終結果の割合である。通常20分以上のデータを各条件に対して採取し、分ごとの変動のため適切な比率を得た。
【0062】
全動物は、表2に記載されように治療される。
【0063】
【表2】

【0064】
実験の最後に動物は、ハロタンおよび断頭により殺処理する。
【0065】
ゾニサミド試験プロトコル:
1)4〜8時間ラットを絶食させる。
2)10分間振せん用ケージに入れる。
3)20分間振せん活動を記録する。(ベースライン)
4)10mg/kgハルマリンを注入する。
5)2分待つ。
6)振せん用ケージに入れ、ハルマリンの効果を得るために10分間待つ。
7)振せんを20分記録する。
8)試験品(ゾニサミド、プロプラノロールまたは水)を、経口胃管栄養法を経て投与する。
9)2分待つ。
10)10分間振せん用ケージに戻す。
11)4〜6時間記録する。
【0066】
統計解析
データは、反復手段ANOVAに続いてフィッシャーのLSDにより解析される。
【0067】
実施例5
ゾニサミドを、神経内科クリニックの外来患者の治療に用い、以下の成績を得た。治療で経験された副作用は、GI不調、傾眠および皮膚発疹であった。腎石および脱水症状(発汗の欠如)は、処置を受けた患者において経験されなかった。難治性の本態性振せんに関して、10人の患者(46才から82才の年令範囲)は、ピリミドンまたはプロプラノロール療法に対して不忍容性または不成功が確認された。これらの患者に対するゾニサミドの投与量は、1日1回最大100mgから200mgであった。副作用のため早期に中止しない限り、試験用量を、少なくとも12週間続けた。他の治療に応答しなかった10人の患者のうち、4人の患者は、50%超の振せん軽減によって応答し、より良好な生活の質を報告した。他のカテゴリ、すなわち混合振せん(非本態性、外傷または多発性硬化症による二次性)において2人の患者中2人が応答し;多発性梗塞関連(2回以上の軽い発作)振せんにおいて2人の患者中1人が応答し;およびパーキンソン様振せんにおいて4人の患者中2人が応答した。
【0068】
本発明に係るいずれの当業者も、本発明を作製し、使用することができるように、本発明およびその作製ならびに使用の様式および方法を、ここに完全、明瞭、正確かつ妥当な用語で記載した。前述のものは、本発明の好ましい実施形態を記載していること、および、変更が、請求項に記載された本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解されたい。発明とみなされる主題を特に指摘し、明確に請求するために、請求項が本明細書を規定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における動作時振せんを治療する方法であって、
このような治療を必要とする対象に、ゾニサミドまたは製薬上許容し得るその塩を含む医薬組成物を、振せんを治療するのに有効な量で投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記動作時振せんは、体位性振せんである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動作時振せんは、本態性振せん、薬物誘発振せんまたは中毒振せん、小脳性振せん、原発起立性振せん、失調症振せんまたは神経障害性振せんである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記動作時振せんは、本態性振せんである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
対象における静止状態での重度の本態性振せんを治療する方法であって、
このような治療を必要とする対象に、ゾニサミドを含む医薬組成物を、振せんを治療するのに有効な量で投与することを含む、方法。
【請求項6】
前記ゾニサミドの有効量が、約0.5〜10mg/kg/日の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記医薬組成物は、前記対象に経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬組成物は、前記対象に非経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物は、ゾニサミドナトリウムを含む滅菌溶液である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、または筋肉内投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物は、振せんを治療するために通常使用される他の治療薬または処置と併用して投与される、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2006−507251(P2006−507251A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−536552(P2004−536552)
【出願日】平成15年9月15日(2003.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2003/029044
【国際公開番号】WO2004/024096
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】