説明

排気ガススクラバーを備える大型2サイクルディーゼルエンジン

【課題】燃料消費を悪化させずに排気ガス中のSO含有量を低減可能な排気ガススクラバーの提供。
【解決手段】排気ガススクラバーを備える大型2サイクルディーゼルエンジン1において、高塩分の水が、排気ガススクラバーにポンプで送入されて蒸気を生成し、そこを、そのSO含有量を減少させるべく排気ガスを通過させる。また、エンジンには、海水動作式掃気加湿ユニット12や海水を淡水に変える淡水生成機が設けられる。掃気加湿ユニットや淡水生成機の高塩分の廃水は、排気ガススクラバーにおいて使用される。この廃水の高塩分は、通常の海水を使用する場合に比べてスクラバーの効率性を高める。したがって、スクラバーの動作を維持するのに必要である相当なポンピング作動力が、大幅に減少可能である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスのSO含有量を減少させるための排気ガススクラバーが取り付けられる、外洋船舶の主エンジン等の大型重油式ディーゼルエンジンに関する。
【発明の背景】
【0002】
環境問題に関する一般の認識は、急速に高まりつつある。国際海洋機構(International Maritime Organization; IMO)では、海上における大気汚染という形の排出抑制に関して継続的に議論されている。世界の様々な各地における当局は、同様の措置をとっている。例として、審議中の、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency; EPA)法案が挙げられる。
【0003】
しかしながら、費用の理由により、大型2サイクルディーゼルエンジンは、一般的に、重油で運転されるが、この重油は、比較的高い硫黄含有量を有する燃料である。この結果、排気ガスのSO含有量は高くなる。排気ガスにおけるSOレベルを減少させるための既知の方法として、塩水の蒸気を生成し、そこを排気ガスが通過する排気ガススクラバーの適用が挙げられる。排気ガスにおけるSO分子は、塩水液滴中のアルカリイオンと結合する。スクラバーの効果は、スクラバーを通ってポンプで送入される水の量と、水の塩分(厳密には、アルカリ度)とに依存する。外洋船において、海水が、塩水源として最も明らかな選択である。しかしながら、最適な結果を出すには、1キログラムの排気ガス当たり、約4キログラムの海水を、排気ガススクラバーを通ってポンプで送入する必要がある。大型2サイクルディーゼルエンジンは、1時間毎に最大500.000トンの排気ガスを生成するので、これは、2.000.000トンの海水を、排気ガススクラバーを通ってポンプで送入する必要があることを意味する。このような量の海水を、船舶の上側(排気管が位置する)にある排気ガススクラバーまでポンピングするのに必要なエネルギーの量は莫大であり、特定燃料消費(specific fuel oil consumption)に顕著な悪影響を及ぼす。
【発明の開示】
【0004】
このような背景から、本発明は、大型2サイクルディーゼルエンジンにおいて、排気ガスからSOを除去するためのシステムが使用するエネルギーを少なくすることを目的とする。
【0005】
この目的は、重油を燃料とする大型2サイクルディーゼルエンジンであって、エンジンシリンダに掃気を供給する排気ガス駆動式タービンおよび前記タービンに駆動される圧縮機を有するターボ過給機と、前記圧縮機の下流に配される、海水取入口および戻り水排出口を有する海水動作式掃気加湿ユニットと、前記タービンの下流に配される、塩水取入口を有する塩水動作式排気ガス浄化スクラバーであって、排気ガスのSO含有量を減少させるべく前記排気ガスを通過させるための塩水蒸気を生成する排気ガス浄化スクラバーと、前記掃気加湿ユニットから前記排気ガス浄化スクラバーの取入口に戻り水を導く管とを備えるエンジンを提供することによって達成される。
【0006】
海水よりも高い塩分を含む、掃気加湿ユニットからの戻り水を使用することによって、排気ガス中のSOレベルの所定の減少を得るのに必要な水の量も減少する。掃気加湿ユニットからの水は、典型的には海水の2倍の塩分を有する。結果的に、排気ガス浄化スクラバーにポンプで送入するのに必要な水の量は、実質的に半分になることが可能である。
【0007】
排気ガス浄化スクラバーは、塩水再循環システムを含んでもよい。
【0008】
掃気加湿ユニットからの戻り水は、掃気加湿ユニット(12)に導入される海水の塩分を実質的に上回る塩分を有する。好ましくは、掃気加湿ユニットからの戻り水は、掃気加湿ユニットに導入される海水の塩分の少なくとも2倍の塩分を有する。
【0009】
また、上記目的は、重油を燃料とする大型2サイクルディーゼルエンジンであって、エンジンシリンダに掃気を供給する排気ガス駆動式タービンおよび前記タービンに駆動される圧縮機を有するターボ過給機と、前記エンジンの廃熱で駆動する淡水生成機であって、海水取入口、生成された淡水の供水口および高塩分廃水の排水口を有する淡水生成機と、前記タービンの下流に配され、塩水取入口を備える塩水動作式排気ガス浄化スクラバーであって、前記排気ガスのSO含有量を減少させるべく前記排気ガスを通過させるための塩水蒸気を生成する排気ガス浄化スクラバーと、前記淡水生成機から前記排気ガス浄化スクラバーの前記取入口に廃水を導く管とを備えるエンジンを提供することによって達成される。
【0010】
前記排気ガス浄化スクラバーは塩水再循環システムを含んでもよい。
【0011】
前記淡水生成機からの廃水は、空気淡水生成機へ導入される海水の塩分を実質的に上回る塩分を有する。好ましくは、淡水生成機からの廃水は、空気淡水生成機へ導入される海水の塩分の少なくとも2倍の塩分を有する。
【0012】
また、上記目的は、大型2サイクルディーゼルエンジンの排気ガススクラバーを動作するための方法であって、エンジンの掃気加湿ユニットの廃水または淡水生成機の廃水を前記排気ガススクラバーに使用することを含む方法を提供することによって達成される。
【0013】
本発明に従うエンジンおよび方法に関するさらなる目的、特徴、利点、および特性は、詳細な説明より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本説明の以下の詳細部分において、図面に示される例示的実施形態を参照して、本発明についてより詳細に説明する。
【図1】本発明の第1の実施形態に従う内燃エンジンの吸入システムおよび排出システムの図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に従う内燃エンジンの吸入システムおよび排出システムの図である。
【好適な実施形態の詳細な説明】
【0015】
以下の詳細説明において、本発明を好適な実施例を用いて説明する。図1は、その吸気システムおよび排気システムを備えるクロスヘッド型大型ターボ過給型2サイクルディーゼルエンジン1を表す図である。エンジン1は、給気受け2および排気ガス受け3を有する。燃焼室に属する排気弁が4で示されている。エンジン1は、例えば、外洋船舶の主エンジンや発電所の発電器を作動するための固定エンジンとして使用され得る。エンジンの全出力は、例えば、5,000kWから110,000kWの範囲である。エンジン1は重油で運転されるため、加熱重油タンクおよび加熱重油管(図示せず)を含む重油システムが設けられている。また、燃料噴射システムのこれらの加熱要素は、重油が大気温度で極度に粘性が高いため、エンジン停止中にも加熱される。さらに、重油システム(図示せず)には、エンジン停止中に重油システムの構成要素から重油を流し続ける再循環システムが設けられる。再循環を行うことは、それ自体専用の加熱手段を持たない重油システムの構成要素を、エンジン停止中においても確実に温めることを可能とし、また、重油システムの脱気にも役立っている。
【0016】
掃気は、掃気受け2から個々のシリンダの掃気ポート(図示せず)へと進む。排気弁4が開けられると、排気ガスが第1の排気管を通って排気受け3に流入し、さらに進んで、第1の排気管5からターボ過給機6のタービン7へと流入し、そこから排気ガスは、第2の排気管20を通って流出する。軸8によって、タービン7は、吸気口10を介して供給される圧縮機9を駆動する。圧縮機9は、給気受け2に通じる給気管11に加圧給気を供給する。
【0017】
管11における吸気は、給気(掃気)(これは約200°Cで圧縮機から放出されるのだが)を加湿するため、また掃気の温度を36°Cから80°Cのレベルに低下させるために、加湿ユニット12を通過する。加湿ユニット12は、本実施形態において、スクラバー(scrubber)であり、このスクラバーにおいて、大量の水が注入および蒸発される。注入される水は、例えば、エンジン1の(水)冷却システム(図示せず)からの廃熱で海水を加熱することによって、比較的温められていることが好ましい。あるいは、事前に温められない水を使用してもよいが、結果として生じる絶対含水量レベルは、温かい海水が掃気加湿ユニット12に供給される時よりも若干低くなる。
【0018】
好適な実施形態において、加湿ユニットはスクラバー12であり、このスクラバー12によって、相対湿度がほぼ100%であり、かつ温度が約70°Cである空気が、加湿ユニットの出口を出る。この吸気(掃気)の絶対湿度は、従来のエンジンのインタークーラーを出る掃気よりも約5倍高い。ゆえに、掃気に含まれ、かつ排気ガスに含まれるエネルギー量は、従来のエンジン(非加湿掃気式のエンジン)よりも大幅に高い。したがって、高負荷レベルにおいて、排気ガスから抽出して利用することが可能なエネルギーが多く存在する。掃気中の絶対含水量が高いことによって、ピーク時および平均の燃焼温度を低くすることが可能となり、結果として燃焼中のNOx生成量が減少する。
【0019】
加湿された給気は、電気モータ17駆動式の補助ブロア16によって給気受け2へと導かれる。補助ブロア16は、給気の流れを低負荷状態または部分負荷状態に加圧する。より高い負荷状態では、ターボ過給機の圧縮機9が十分な圧縮掃気を供給し、補助ブロア16は逆止め弁15によってバイパスされる。
【0020】
タービン7上流の排気管5には可制御弁19が設けられる。可制御弁を通って、排気ガスの一部(約10%)がタービン7をバイパスする。制御弁19は、コントローラ50に接続される。コントローラ50は、可制御弁19の動作を制御することにより、排気ガスの一定量がパワータービン31へと分岐される。可制御弁19を通って逃げていくエネルギーは、パワータービン31において比較的効率的に回復するため、全体の燃料効率をより高くすることが可能になる。
【0021】
ある実施形態において、パワータービン31は発電機32を駆動する。したがって、排気ガス流における余剰エネルギーは、電力、つまり高いエクセルギーを有するエネルギーに変換される。
【0022】
本実施形態においてスクラバーである掃気加湿ユニット12には、管21およびポンプ22によって高圧の海水が供給される。掃気加湿ユニット12は、比較的高圧を有し高塩分の廃水を生成する。この廃水は、掃気加湿ユニット12の出口を介して掃気加湿ユニット12を出て管23に向かう。管23は、高塩分の廃水を、排気ガス浄化スクラバー24の入口に導く。
【0023】
排気ガス浄化スクラバー24は、第2の排気管20に配置され、排気ガスが排気ガス浄化スクラバー24を通過するようにされる。排気ガス浄化スクラバー24は、ポンプ28を備える塩水再循環回路27を有する。
【0024】
再循環回路27は、再循環回路27に導入される高塩分の水の量を制御するための弁25と、再循環回路27から排出される使用済み塩水の量を制御するための弁29とを有する。弁25および弁29は、コントローラ50に連結され、これらの弁は、再循環回路27に供給される高塩分の水の量と、再循環回路27から排出されて配管26へと導かれる廃水の量とを調節する。掃気加湿ユニット12からの高塩分の廃水は、比較的高圧を維持しているため、さらにポンプを必要とせずに再循環回路27へと導くこと可能である。
【0025】
排気ガス中のSOは、スクラバー24に蒸気として注入される高塩分の水中のアルカリイオンと反応する。高塩分の水に吸収されるSOは、廃管26を介して取り除かれる。
【0026】
図2は本発明の別の実施形態を示す。この第2の実施形態に従うエンジンは、掃気加湿ユニットを備えていないこと以外は、図1に関連して記載された実施形態と本質的に同一である。代わりに、高塩分の廃水は、淡水生成機43から得られる。淡水生成機43には、管42およびポンプ40を介して海水が供給される。海水は、淡水生成機43の入口へと導かれ、エンジン1からの真空熱および廃熱によって、淡水生成機43において蒸発および再凝固される。このようにして得られた淡水は、淡水生成機43の出口に連結される管44を介して、淡水タンク(図示せず)に導かれる。淡水生成機43の別の出口は、管23を介して排気ガス浄化スクラバー24に連結される。本実施形態において、排気ガス浄化スクラバー24の動作は、図1に関して記載される実施形態における排気ガス浄化の動作と同一である。
【0027】
本発明は、多数の利点を有する。異なる実施形態または実装によって、以下の利点のうちの1つ以上がもたらされ得る。これは、包括的なリストではなく、また、本明細書に記載されないその他の利点も存在し得ることに留意されたい。本発明の一利点として、大型2サイクルディーゼルエンジンの排気ガスのSO含有量を減少させるために、塩水を排気ガス浄化スクラバーにポンプで送入するのに必要なエネルギー量が大幅に減少可能になることが挙げられる。
【0028】
請求項において使用される用語の「備える」は、その他の要素またはステップを除外しない。請求項における単数形の用語は、複数形を除外しない。
【0029】
請求項において使用される引用符号は、範囲を限定するものとして解釈されないものとする。
【0030】
前述の明細書において、特別に重要であると考えられる本発明の特徴に留意するよう試みたが、本明細書において参照および/または図示されたいかなる特許可能な特徴または特徴の組み合わせに関しても、それに関して特に強調されたか否かに関わらず、本出願人は保護を主張することを理解されたい。さらに、当業者は、本開示を考慮して、本発明の装置に関する修正および/または改善を加えてもよいが、以下の請求項に記載されるような本発明の範囲および思想の範囲内にあることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油を燃料とする大型2サイクルディーゼルエンジン(1)であって、
エンジンシリンダに掃気を供給する排気ガス駆動式タービン(7)および前記タービン(7)に駆動される圧縮機(9)を有するターボ過給機(6)と、
前記圧縮機(9)の下流に配される、海水取入口および戻り水排出口を有する海水動作式掃気加湿ユニット(12)と、
前記タービン(7)の下流に配される、塩水取入口を有する塩水動作式排気ガス浄化スクラバー(24)であって、排気ガスのSO含有量を減少させるべく前記排気ガスを通過させるための塩水蒸気を生成する排気ガス浄化スクラバー(24)と、
前記掃気加湿ユニット(12)から前記排気ガス浄化スクラバー(24)の前記取入口に戻り水を導く管(23)と、
を備える、エンジン。
【請求項2】
前記排気ガス浄化スクラバー(24)が塩水再循環システム(27、28)を備える、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記掃気加湿ユニット(12)からの戻り水が、前記掃気加湿ユニット(12)に導入される海水を実質的に上回る塩分を有する、請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
前記掃気加湿ユニット(12)からの戻り水が、前記掃気加湿ユニット(12)に導入される海水の少なくとも2倍の塩分を有する、請求項1に記載のエンジン。
【請求項5】
重油を燃料とする大型2サイクルディーゼルエンジン(1)であって、
エンジンシリンダに掃気を供給する排気ガス駆動式タービン(7)および前記タービン(7)に駆動される圧縮機(9)を有するターボ過給機(6)と、
前記エンジン(1)の廃熱で駆動する淡水生成機(43)であって、海水取入口、生成された淡水の供水口および高塩分廃水の排水口を有する淡水生成機(43)と、
前記タービン(7)の下流に配され、塩水取入口を備える塩水動作式排気ガス浄化スクラバー(24)であって、前記排気ガスのSO含有量を減少させるべく前記排気ガスを通過させるための塩水蒸気を生成する排気ガス浄化スクラバー(24)と、
前記淡水生成機(44)から前記排気ガス浄化スクラバー(24)の前記取入口に廃水を導く管(23)と、
を備える、エンジン。
【請求項6】
前記排気ガス浄化スクラバー(24)が塩水再循環システム(27、28)を備える、請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】
前記淡水生成機(44)の廃水が、前記空気淡水生成機(44)に導入される海水を実質的に上回る塩分を有する、請求項5に記載のエンジン。
【請求項8】
前記淡水生成機(44)の廃水が、前記淡水生成機(44)に導入される海水の少なくとも2倍の塩分を有する、請求項5に記載のエンジン。
【請求項9】
大型2サイクルディーゼルエンジン(1)の排気ガススクラバー(24)の作動方法であって、前記エンジンの掃気加湿ユニット(12)の廃水または淡水生成機(43)の廃水を、前記排気ガススクラバー(23)に使用することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−242536(P2010−242536A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−89638(P2009−89638)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(597061332)エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド (98)
【Fターム(参考)】