説明

排水機能付き鋼矢板の施工方法

【課題】排水部材や保護部材を損傷することなく、効率良く施工することができる排水機能付き鋼矢板の施工方法を提供する。
【解決手段】鋼矢板1を打設装置10にセットし、鋼矢板1の打設を開始する。排水部材2および保護部材3の先端部を取り付ける位置付近まで打設した段階で、打設装置10より下方の地上にて、鋼矢板1に取り付けた先端固定治具4に排水部材2および保護部材3の先端部を固定する。固定後、鋼矢板1の打設を再開する。その後、排水部材2および保護部材3が鋼矢板1から離れない程度に離散的に固定し、所定深度まで鋼矢板1を打設する。排水部材2は、鋼矢板1とともに所定深度まで打設した時点で切断する。保護部材3を残置する場合は排水部材2と同様に所定長さで切断し、引抜く場合は順次引抜き撤去して打設が完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矢板壁を構成する鋼矢板の表面に集水機能および排水機能を付与するための排水部材を取り付けた排水機能付き鋼矢板の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、埋立地などにおける砂地盤の液状化防止のために、矢板壁を構成する鋼矢板の表面に集水機能および排水機能を付与するための排水部材を取り付けたものが知られている。
【0003】
その施工方法として、特許文献1には、図6に示すように、鋼矢板21の打設前にあらかじめ鋼矢板21の表面に排水部材22および保護部材23を先端固定治具24、固定部材25等で取り付けておき、打設装置により地盤に圧入する方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、図7に示すように、鋼矢板打設装置10の圧入用チャック部10bの上部から排水部材32および保護部材33を差し込んで、送り出し装置12、13により送り出し、鋼矢板31と排水部材32および保護部材33を同時に圧入する方法が記載されている。また、特許文献3にも同様の施工方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−095933号公報
【特許文献2】特開平11−117284号公報
【特許文献3】特開平09−221738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、鋼矢板の打設前にあらかじめ排水部材および保護部材を取り付けておく必要があり、段取りや加工上の手間等があり、効率的でない。
【0007】
特許文献2、特許文献3の方法では、鋼矢板と排水部材および保護部材を圧入用のチャックで一緒に把持して圧入すると、把持力で排水部材や保護部材が損傷する恐れがある。また、鋼矢板だけを把持するのでは、供給される排水部材等が把持部と干渉して、鋼矢板にきちんと添わせることができない恐れがある。
【0008】
本願発明は、上述のような従来技術における課題の解決を図ったものであり、排水部材や保護部材を損傷することなく、効率良く施工することができる排水機能付き鋼矢板の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、矢板壁を構成する鋼矢板の表面に排水部材および該排水部材を保護するための保護部材を取り付けた排水機能付き鋼矢板の施工方法であって、鋼矢板を打設装置で把持して地盤中に打設するに当たり、該鋼矢板の打設前または打設途中で、鋼矢板に対し、排水部材および保護部材の先端部を、打設装置による鋼矢板の把持部と地盤面との間で固定し、その後、該鋼矢板の打設の進行に合わせて排水部材および保護部材を供給し、鋼矢板に添わせながら鋼矢板とともに打設することを特徴とするものである。
【0010】
この場合、排水部材および保護部材には、打設装置による把持力が作用しないので、損傷する恐れが回避できる。また、鋼矢板として、例えばU形鋼矢板を用いる場合でも、供給される排水部材等が把持部と干渉するという問題がない。
【0011】
排水部材や保護部材を、鋼矢板にあらかじめ取り付けておく必要がないので、段取りや加工上の手間が少なく、効率的である。
【0012】
請求項2は、請求項1に係る発明において、前記排水部材および保護部材の両方または一方は、コイル送り装置を用いて供給されることを特徴とするものである。
【0013】
例えば、立体網状構造体からなる排水部材や、柔軟性がある保護部材(例えば、比較的薄肉のパンチングメタルやエキスパンドメタル)の場合は、巻いた状態でコイル送り装置を用いて供給することで、運搬や施工のためのスペースを節約することができる。
【0014】
請求項3は、請求項1に係る発明において、前記排水部材および保護部材の両方または一方は、順次、継ぎ足しながら供給されることを特徴とするものである。
【0015】
排水部材や保護部材が巻きにくい材質の場合等は、所定の寸法のものを打設時に、順次、継ぎ足して行けばよい。
【発明の効果】
【0016】
本願発明では、排水部材および保護部材の送り機構を鋼矢板打設装置とは別に準備し、鋼矢板打設装置の下方で、鋼矢板に排水部材および保護部材を添わせて地盤に貫入し、結果的に土中で鋼矢板に隣接させるため、鋼矢板の打設方法や現場条件に左右されることなく排水機能付き鋼矢板を施工することができる。
【0017】
排水部材および保護部材部材を別々に用意して、打設しながら鋼矢板に添わせることにより、打設前の準備を極限まで省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)〜(c)は本願発明の一実施形態における施工手順を示す断面図である。
【図2】本願発明の適用対象となる排水機能付き鋼矢板の一例を示したもので(a)は平面図および正面図、(b)は排水部材の先端固定部分の断面図、(c)は先端固定治具の斜視図である。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ排水部材および保護部材を鋼矢板と一体化するための止め部材の例を示す断面図である。
【図4】排水部材および保護部材をコイル送り装置を用いて供給する場合の施工の様子を示す断面図である。
【図5】前記排水部材および保護部材を、順次、継ぎ足しながら供給する場合の施工の様子を示す断面図である。
【図6】従来例における排水機能付き鋼矢板の分解斜視図である。
【図7】他の従来例における排水機能付き鋼矢板の施工方法を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図2は、本願発明の適用対象となる排水機能付き鋼矢板の一例を示したもので、この例では鋼矢板1としてのU形鋼矢板の内側に例えば立体網状構造体などからなる排水部材2と、その排水部材2を保護するための例えば孔あき鋼板あるいはエキスパンドメタル、金網などからなる板状の保護部材3を取り付けている。
【0020】
排水部材2および保護部材3は、その先端(下端)を図に示すような先端固定治具4により鋼矢板に取り付け、この例では長手方向き数箇所を例えば図3(a)に示すような止め部材で止め付けている。図2(b)、(c)中、符号4aは排水部材の先端部に取り付けたフック2aを係止して固定する排水部材固定材を示す。
【0021】
図3(a)、(b)はそれぞれ排水部材2および保護部材3を鋼矢板1(この例はU形鋼矢板の場合)と一体化するための止め部材5、6の例を示したものである。
【0022】
図3(a)は、鋼矢板1のフランジ部に内向きに設けた鋼片などからなる一対の突起状の止め部材5で止め付けている場合、図3(b)は鋼矢板1の両フランジ部を貫通する丸鋼などからなる止め部材6で止め付けている場合である。
【0023】
止め部材は排水部材および保護部材と固定されている必要はなく、排水部材および保護部材が鋼矢板と一体化される機構であればいかなる材料、形状、取り付け方法でもよく、コスト的に有利なもので形成することができる。
【0024】
このような排水機能付き鋼矢板を液状化の恐れがある地盤に打設される鋼矢板壁等に用いることで、地震時の過剰間隙水圧を排水部材2を通じて逸散させることで、液状化を抑制することができる。また、排水機能付き鋼矢板は集水のために用いることもできる。
【0025】
図1は本願発明の一実施形態における施工手順を示したもので、以下の手順で施工を行うことができる。
【0026】
なお、図1(a)〜(c)はそれぞれ鋼矢板壁を正面から見た図の右端に側面から見た図を加えたものである。打設装置10については、既に打設された鋼矢板1の上端に固定するための固定用チャック部10aと、これから打設する鋼矢板を把持するための圧入用チャック部10bと、駆動装置部10cを簡略化して示しており、例えば従来例としての図7と同様の機構のものを用いることができる。
【0027】
(1) 図1(a)に示すように、鋼矢板1を打設装置10にセットし、鋼矢板1の打設を開始する。
【0028】
(2) 図1(b)に示すように、排水部材2および保護部材3の先端部を取り付ける位置付近まで打設した段階で、打設装置10より下方の地上にて、鋼矢板1に取り付けた先端固定治具4に排水部材2および保護部材3の先端部を固定する。固定後、鋼矢板1の打設(圧入)を再開する(排水部材2および保護部材3はコイル送り装置から供給)。
【0029】
(3) その後、打設を進めながら、鋼矢板1への溶接による鋼片の取り付けやあらかじめ鋼矢板1に施していた貫通孔(必要な場合は打設途中での貫通孔の開孔もあり得る)への丸鋼の差し込みといった手段により、排水部材2および保護部材3が鋼矢板1から離れない程度に止め部材5、6を取り付けて、離散的に排水部材2および保護部材3を鋼矢板1に固定し(図2(a)参照。止め部材は必要なければ不要。)、所定深度まで鋼矢板1を打設する。
【0030】
(4) 図1(c)に示すように、排水部材2は、鋼矢板1とともに所定深度まで打設した時点で切断する(切断部A)。
【0031】
(5) 保護部材3を残置する場合は排水部材2と同様に所定長さで切断し、引抜く場合は順次引抜き撤去して打設が完了する。
【0032】
排水部材2および保護部材3の供給方法として、図4は排水部材2および保護部材3をコイル送り装置を用いて供給する場合の施工の様子を示し、図5は排水部材2および保護部材3を、順次、継ぎ足しながら供給する場合(符号Bが継ぎ足し部を示す)の施工の様子を示している。
【符号の説明】
【0033】
1…鋼矢板、2…排水部材、2a…フック、3…保護部材、4…先端固定治具、4a…排水部材固定材、5…止め部材、6…止め部材、
10…打設装置、10a…固定用チャック部、10b…圧入用チャック部、10c…駆動装置部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
矢板壁を構成する鋼矢板の表面に排水部材および該排水部材を保護するための保護部材を取り付けた排水機能付き鋼矢板の施工方法であって、鋼矢板を打設装置で把持して地盤中に打設するに当たり、該鋼矢板の打設前または打設途中で、鋼矢板に対し、排水部材および保護部材の先端部を、打設装置による鋼矢板の把持部と地盤面との間で固定し、その後、該鋼矢板の打設の進行に合わせて排水部材および保護部材を供給し、鋼矢板に添わせながら鋼矢板とともに打設することを特徴とする排水機能付き鋼矢板の施工方法。
【請求項2】
前記排水部材および保護部材の両方または一方は、コイル送り装置を用いて供給されることを特徴とする請求項1記載の排水機能付き鋼矢板の施工方法。
【請求項3】
前記排水部材および保護部材の両方または一方は、順次、継ぎ足しながら供給されることを特徴とする請求項1記載の排水機能付き鋼矢板の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256592(P2011−256592A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131725(P2010−131725)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】