説明

排泄物分解処理材及び排泄物分解処理方法

【課題】処理できる排泄物分解処理量を増大させ、使用期間を長くする排泄物分解処理材を提供し、またその排泄物分解処理方法を提供することである。
【解決手段】微生物を着床した木質材を用いた排泄物分解処理材において、木質材が製紙パルプ製造のチップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物であって、木質系廃棄物の嵩密度が、0.1〜0.9g/cmであることを特徴とする排泄物分解処理材及び該排泄物分解処理材を用いた排泄物分解処理方法によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を使用しないで動物の排泄物を分解処理するための排泄物分解処理材に関し、また該排泄物分解処理材を用いた排出物分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道が整備されていない地域に設置されるトイレや、介護施設等で必要となる簡易トイレでは、水を使用しないで排泄物が分解処理できる排泄物分解処理材が、排泄物を受理する槽に必要である。
【0003】
水を使用しないトイレが種々提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。排泄物分解処理材としてチップ材等の木質材を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、排泄物分解処理材として微生物が着床した落葉樹の剪定枝、落ち葉、樹皮を用いる方法がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3162025号公報
【特許文献2】特開2004−8394号公報
【特許文献3】特開2003−235759号公報
【特許文献4】特開2008−93561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の排泄物分解処理材として用いられる木質材は、粉末状のものやおが屑等の細かな木質材であった。排泄物は、木質材が微生物の発酵反応基材となって、排泄物や木質材に含まれる微生物により分解される。木質材が新しい状態のときは、個々の木質材間に形成される隙間のため空気の通りがよく、好気性発酵が進み、悪臭が伴わずに分解される。しかし、排泄物の8割以上が水分であり、粉末状のものやおが屑等の細かな木質材では吸水後の嵩が激減し、送風や攪拌を行っても空気の通りが低下する。これにより好気性発酵が進み難くなり、嫌気性発酵が勝り、アンモニア臭等の悪臭を発生させる。従って、処理できる排泄物分解処理量は少なかった。
【0006】
処理できる排泄物分解処理量が少ないために、短期間で排泄物分解処理材を入れ替える必要があった。本発明の目的は、上記実状を鑑みたものであって、排泄物分解処理量を従来に比べ増大させ、使用期間を長くする排泄物分解処理材を提供することである。また、その排泄物分解処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、微生物を着床している木質材を用いた排泄物分解処理材において、木質材が製紙パルプ製造のチップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物であって、木質系廃棄物の嵩密度が、0.1〜0.9g/cmであることを特徴とする排泄物分解処理材によって達成される。
【0008】
好ましくは、前記木質系廃棄物が、針葉樹の木質系廃棄物を30〜100質量%の範囲で含有する。
【0009】
また好ましくは、本発明の上記排泄物分解処理方法の課題は、微生物を着床している木質材を用いた排泄物分解処理材と排泄物を混合して排泄物中の有機物を分解処理する排泄物分解処理方法において、該木質材が製紙パルプ製造のチップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物であって、木質系廃棄物の嵩密度が、0.1〜0.9g/cmであることを特徴とする排泄物分解処理方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、水を使用しないでも動物の排泄物を処理することができ、排泄物分解処理量を従来に比べ増大させ、使用期間を長くする排泄物分解処理材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、製紙パルプ製造のチップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物(以下、「木質系廃棄物」と記す。)とは、木材パルプを製造する際に木材から剥皮、切断、裁断、粉砕等のチップ化工程で発生する、製紙用チップに使用することができない部位や小ささの木質材である。更には、木質系廃棄物には、屋外で山積みされるチップから製紙用チップに使用できなくなった木質材も含まれる。
【0013】
木質系廃棄物は、防菌、防バイ処理または薫蒸処理することなく微生物を着床する。微生物は、例えば、枯草菌、放線菌、糸状菌等であり、排泄物に含まれる腸内菌等も含まれる。
【0014】
本発明において、木材とは、広葉樹または針葉樹である。広葉樹は、例えばカバ、ハンノキ、ドロ、ブナ、アカシア、ユーカリ、マングローブ等である。針葉樹は、例えばモミ、ツガ、シラベ、マツ、スギ、ヒノキ等である。本発明において、木質系廃棄物として、針葉樹が30〜100質量%であることが好ましい。針葉樹は、広葉樹に比べてテルペノイド、フラボノイド等のフィトンチッドが多く含まれ、適度な芳香性と殺菌力を有している。芳香性と殺菌力によって、針葉樹を30質量%以上含有する木質系廃棄物は、悪臭や木質の腐敗を抑制することができる。よって本発明において、針葉樹を30質量%以上含有する木質系廃棄物が好ましい。
【0015】
本発明の嵩密度とは、充填物の既知質量を、充填物の間に形成される隙間も含めた体積で除した値である。すなわち、既知の充填物の質量を、充填物間の空隙容積の因子を含んだタップしない(ゆるみ)状態における充填物の体積で除した値のことである。嵩密度の値は、例えばメスシリンダーを用いて体積と質量を測定し、求めることができる。
【0016】
本発明において、木質系廃棄物の嵩密度は0.1〜0.9g/cmの範囲である。本発明にかかる嵩密度の木質系廃棄物は、排泄物と混合しても嵩の変化がなく、安定して処理ができる。この範囲より小さい場合は、排泄物の水分により嵩が急激に低下し、好気性発酵ができず、良好に排泄物を処理できない。逆にこの範囲より大きい場合は、排泄物分解処理材として木質系廃棄物の比表面積が不足し、微生物と排泄物とが良好に好気性発酵することができず、排泄物を良好に処理することができない。
【0017】
木質系廃棄物の嵩密度は、木質系廃棄物の大きさと形状を粉砕や選別することにより調整することが可能である。大きさが0.5〜2mm角である木質系廃棄物を全木質系廃棄物中の50〜60質量%含有することによって達成できる。しかし、木材自身の密度によって依存するため、この限りではない。
【0018】
本発明において、木質系廃棄物の形状については特に限定されない。例えば、球形、柱状、中空状、顆粒状、塊状、粉状またはその他の形状とすることができる。また各種形状の木質系廃棄物を組み合わせても良い。木質系廃棄物は、(1)吸湿しやすいので排泄物の飛散を抑える、(2)成分には長い繊維質が多く、密着性も高いので、排泄物に密着しやすい、(3)自然由来の物質で無害であるという特性を有している。
【0019】
本発明において、木質系廃棄物以外に排泄物分解処理材には、無機粉体を含有させることができる。無機粉体を含有させることで排泄物中の水分を吸収することができ、より好気性発酵の維持に作用する。例えば、無機粉体としては、シリカ、タルク、酸化チタン、カオリン、珪藻土、ゼオライト等を挙げることができる。これらは複数の種類を組み合わせても良い。
【0020】
本発明の別の態様として、微生物を着床している木質材を用いた排泄物分解処理材と排泄物を混合して排泄物中の有機物を分解処理する排泄物分解処理方法であって、木質材が製紙パルプ製造チップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物であり、木質系廃棄物の嵩密度が0.1〜0.9g/cmである排泄物分解処理方法である。
【0021】
本発明の排泄物分解処理方法によって、排泄物分解処理材の使用期間が長くでき、排泄物分解処理材の交換頻度を低下することができる。
【0022】
本発明の排泄物分解処理材及び排泄物分解処理方法は、当然のことながら人だけでなく、豚、牛、鶏、犬、猫等の家畜、ペット等にも利用でき、幅広い場所で使用可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を示す。
【0024】
(木質系廃棄物の調製)
LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)及びNBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)の各々製紙パルプ製造のチップ化工程で発生した木質系廃棄物を回収した。それぞれ木質系廃棄物を粉砕し、大きさをメッシュ分別し、平均0.5mm角、平均1mm角、平均2mm角、及び平均4mm角の広葉樹木質系廃棄物及び針葉樹木質系廃棄物を得た。
【0025】
(実施例1〜9及び比較例1〜4の調製)
得られた木質系廃棄物を混合し、表1に示す嵩密度及び針葉樹含有率(質量%)の排泄物分解処理材を調製した。
【0026】
(処理材の評価)
各辺100mmである立方体に排泄物分解処理材を充填し、マウスの排泄物2gを3回/日添加し、攪拌した。添加の翌朝に5人の評価者が排泄物分解処理材の臭いを嗅ぎ、処理できた状態を発生する悪臭により、3名以上の多数でもって下記の3段階で評価した。実用上問題ない評価は、2、3である。
3:悪臭がなく、良好に処理が進行している。
2:気にならない程度の臭気であり、処理は進行している。
1:悪臭が認められ、排泄物の処理ができていない。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかなように、本発明に係わる排泄物分解処理材は処理量が増加した。針葉樹が30質量%以上であるとより好ましいことがわかる。本発明に係わる排泄物分解処理材に該当しない比較例では、このような効果は得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
排泄物分解処理材は、水が使用できなくなった自然災害等の被災地における応急トイレにも有効である。また製紙パルプ製造で発生する木質系廃棄物を排泄物分解処理材として有効活用することができ、更に使用済の排泄物分解処理材は、可燃燃料や堆肥等の有機質資材となりうるものであり、多方面にわたり有効利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を着床した木質材を用いた排泄物分解処理材において、該木質材が製紙パルプ製造のチップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物であって、木質系廃棄物の嵩密度が、0.1〜0.9g/cmであることを特徴とする排泄物分解処理材。
【請求項2】
前記木質系廃棄物が、針葉樹の木質系廃棄物を30〜100質量%の範囲で含有する請求項1に記載の排泄物分解処理材。
【請求項3】
微生物を着床している木質材を用いた排泄物分解処理材と排泄物を混合して排泄物中の有機物を分解処理する排泄物分解処理方法において、該木質材が製紙パルプ製造のチップ化工程で発生する樹木または樹皮を含有する木質系廃棄物であって、木質系廃棄物の嵩密度が、0.1〜0.9g/cmであることを特徴とする排泄物分解処理方法。

【公開番号】特開2013−75258(P2013−75258A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216373(P2011−216373)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】