説明

接着剤組成物

【課題】耐熱性と耐溶剤性を有し、被加工物と支持体との接着に用いられる熱可塑性仮付け接着剤組成物を提供する。
【解決手段】ポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む被加工物と支持体との接着に用いられる熱可塑性仮付け接着剤組成物。ポリエーテルエーテルケトンが式(1):


(式中、Arは炭素数6〜30のアリーレン基を示し、Tは2価の有機基を示す。)中でも式(2−1)又は式(2−2):であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤組成物に関するものである。さらに詳しくは、ICチップなどの半導体製品や光学系製品などの研削や積層などの加工をする工程において当該半導体製品と基板を固定するための接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高機能化に伴い、シリコン、有機樹脂チップの小型化、薄型化、集積化への要求が高まっている。例えばシステムインパッケージ(SiP)は搭載されるチップを小型化、集積化し、デバイスを高性能、小型化する上で非常に重要な技術である。
従来、SiP製品には、積層したチップごとのバンプ(電極)と回路基板とを、ワイヤ・ボンディング技術により配線する手法が用いられている。さらに、このような薄型化や高集積化への要求に応えるためには、ワイヤ・ボンディング技術ではなく、貫通電極を形成したチップを積層し、チップの裏面にバンプを形成する貫通電極技術も必要となる。
薄型商品へのニーズに応えるためには、チップを200μm以下にまで薄くする必要がある。
また有機樹脂層を積層し、貫通電極形成を行いパッケージとする方法がある。
これらの半導体チップの製造では、半導体ウェハー自体が肉薄で脆く、また回路パターンには凹凸があるので、研削工程やダイシング工程への搬送時に外力が加わると破損しやすい。また、貫通電極形成においては、深堀のエッチングや蒸着、CVDなどによるデポジッションプロセスなど高温プロセス、真空下での工程が必要となることがある。
【0003】
そこで、半導体ウェハーの回路パターン面を保護するとともに、半導体ウェハーの破損を防止し、貫通電極形成をするために、回路パターン面に加工用粘着フィルムを貼着した上で、研削作業が行われている。
【0004】
また、ダイシング時には、半導体ウェハー裏面側に保護シートを貼り付けて、半導体ウェハーを接着固定した状態でダイシングし、得られたチップをフィルム基材側からニードルで突き上げてピックアップし、ダイパッド上に固定させている。このような加工用粘着フィルムや保護シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の基材フィルムに接着剤組成物から形成した接着剤層が設けられたものが知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
また、加工用粘着フィルムや保護シートの代わりに窒化アルミニウム−窒化硼素気孔焼結体にラダー型シリコーンオリゴマーを含浸せしめた保護基板を用い、この保護基板と半導体ウェハーとを熱可塑性フィルムを用いて接着する構成も開示されている(特許文献4)。また保護基板として半導体ウェハーと実質的に同一の熱膨張率のアルミナ、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素等の材料を用い、また保護基板と半導体ウェハーとを接着する接着剤としてポリイミド等の熱可塑性樹脂を用い、この接着剤の適用法として、10〜100μmの厚さのフィルムとする構成と、接着剤組成物をスピンコートし、乾燥させて20μm以下のフィルムにする方法が提案されている(特許文献5)。
【0006】
また、半導体素子の多層配線化に伴って、回路が形成された半導体ウェハーの表面に接着剤組成物を用いて保護基板を接着し、半導体ウェハーの裏面を研磨し、その後、研磨面をエッチングして鏡面にし、この鏡面に裏面側回路を形成するプロセスが実施されている。この場合、裏面側回路が形成されるまでは、保護基板は接着したままになっている(特許文献6)。
またスチレン、(メタ)アクリル酸エステルを含む接着剤が公開されているが耐熱性は200℃程度までしかない(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−173993号公報
【特許文献2】特開2001−279208号公報
【特許文献3】特開2003−292931号公報
【特許文献4】特開2002−203821号公報
【特許文献5】特開2001−77304号公報
【特許文献6】特開昭61−158145号公報
【特許文献7】特開2008−63461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の上記加工用粘着フィルム等は、貫通電極の形成のように、高温プロセス及び高真空プロセスを必要とする工程に用いるには、高温環境下における接着強度の不足や、高真空環境下におけるガスの発生等による接着不良の問題や、上記高温プロセス後における剥離時に、残渣物が残存するなどの剥離不良という問題点を有している。
【0009】
例えば、貫通電極の形成では、半導体チップにバンプを形成した後、半導体チップ間を接続するとき、200℃程度まで加熱して、さらに高真空状態にするプロセスを要する。しかし、上記特許文献1及び上記特許文献2に係る保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、200℃もの高温に対する耐性が無い。また、加熱により上記接着剤層にガスが発生するため接着不良となる。
【0010】
また、薄型の半導体ウェハーや加工樹脂デバイスは、研削などの加工やダイシングの後、上記保護基板から剥離することが必要となる。しかし、上記特許文献3に開示される保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、エポキシ樹脂組成物であり、200℃もの高温ではエポキシ樹脂が変質して、硬化するため、剥離時に残渣物が残り、剥離不良が生じるという問題点を有する。
【0011】
また上層に有機樹脂を形成する場合、スピン塗布にて形成することがあるが、上層樹脂の溶媒に侵食されない必要がある。
またこれらの工程では適宜洗浄工程が行われるため、各種洗浄液に対する耐性が必要となる。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フォトレジスト溶媒として用いられるプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルなどに対して耐性があることが必要であり、さらに洗浄などの目的でジメチルスルホキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどに対しても侵食されない必要がある。またCVDなど、半田のリフロー工程などの高温プロセスにおいてアウトガスが少ないことが挙げられる。
本願発明は上記特性を有し、かつ高温で粘度が低下し低加重の力によるスライドオフ剥離が可能であり、残渣を剥離液による除去可能な接着層を形成することが可能な接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は第1観点として、ポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む接着剤組成物、
第2観点として、ポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む被加工物と支持体との接着に用いられる熱可塑性仮付け接着剤組成物、
第3観点として、ポリエーテルエーテルケトンが式(1):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Arは炭素数6〜30のアリーレン基を示し、Tは2価の有機基を示す。)である第1観点又は第2観点に記載の接着剤組成物、
第4観点として、ポリエーテルエーテルケトンが式(2−1)又は式(2−2):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を示す。n1、n2、及びn3は0〜4の整数を示す。)である第1観点又は第2観点に記載の接着剤組成物、
第5観点として、支持体がシリコン基板、ガラス基板、樹脂基板、又はセラミックス基板である第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載の接着剤組成物、
第6観点として、ポリエーテルエーテルケトンが有機溶媒に溶解し、溶液粘度が0.001〜1000Pa・sの粘度を有するスピンコート性塗布液である第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の接着剤組成物、
第7観点として、接着剤組成物から得られる接着層であって、該接着層が150℃〜300℃の加熱により1000Pa・s以下の粘度を示し荷重下にスライド剥離可能な接着層を形成することができる第1観点乃至第6観点のいずれか一つに記載の接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン構造を有することで、真空下高温で行われるCVDなどの工程において低アウトガス性能を有し、洗浄液などの各種溶剤に対して耐性を有する。
また高い耐薬品性を有することで、有機デバイスなどの作製において本接着剤層の上層に有機溶剤に溶解した樹脂などを塗布、加工することが可能である。
さらにデバイス作製後、接着層から剥離することが可能となる。
本発明はポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む被加工物(例えば、加熱処理、加圧処理、又はリソグラフィー等を通じて加工される積層物質)と支持体との接着に用いられる熱可塑性仮付け接着剤組成物である。熱可塑性樹脂を用いたため接着後に、加熱することにより接着層の粘度低下を生じ、小さな加重を加えることで剥離させることが可能な仮付け接着剤であり、そのような接着層を形成させるための接着剤組成物である。支持体上で被加工物を加工し、その後に加熱剥離により剥離させることから仮付け用接着剤である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例2の接着剤組成物から得られた接着剤のTG−DTA測定したグラフ。
【図2】実施例2の接着剤組成物から得られた接着剤をレオメータで5℃/分の条件で弾性率及び粘度を測定したグラフ。
【符号の説明】
【0019】
図2中で(1)は弾性率の曲線を示し、その数値は左端に単位(Pa)が示される。(2)は粘度の曲線を示し、その数値は右端に単位(Pa・s)が示される。横軸は温度(℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明はポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む、被加工物(例えば、加熱処理、加圧処理、又はリソグラフィー等を通じて加工される積層物質)と支持体との接着に用いられる熱可塑性仮付け接着剤組成物に関するものである。
【0021】
本発明の接着剤組成物はポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーと溶剤を含み、さらに任意成分として接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、粘着付与剤、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0022】
本発明の接着剤組成物は固形分として、0.1〜80質量%、好ましくは10〜50質量%である。固形分は接着剤組成物に対して、該接着剤組成物から溶剤を取り除いた残部の割合で示される。固形分中に占めるポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーの割合は50〜100質量%、好ましくは80〜100質量%とすることが可能である。
【0023】
本件発明に用いられるポリマーは熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0024】
本件発明に用いられるポリエーテルエーテルケトンは二つのエーテル結合とケトンを繰り返し単位構造に有する重合体(ポリマー)である。分子量は重量平均分子量として、1000〜1000000、好ましくは2000〜100000である。
【0025】
上記ポリエーテルエーテルケトンは式(1)で示されるポリマーを用いることができる。式(1)中でArは炭素数6〜30のアリーレン基である。Tは2価の有機基である。
アリーレン基は2価の芳香族環であり、芳香族環は置換されていても良いベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環等が挙げられる。これらの芳香族環の置換基はアルキル基が挙げられる。また、Tとしてはアリーレン基、アルキレン基、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
上記アルキル基としては炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、シクロプロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、シクロブチル、1−メチル−シクロプロピル、2−メチル−シクロプロピル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル、シクロペンチル、1−メチル−シクロブチル、2−メチル−シクロブチル、3−メチル−シクロブチル、1,2−ジメチル−シクロプロピル、2,3−ジメチル−シクロプロピル、1−エチル−シクロプロピル、2−エチル−シクロプロピル、n−ヘキシル、1−メチル−n−ペンチル、2−メチル−n−ペンチル、3−メチル−n−ペンチル、4−メチル−n−ペンチル、1,1−ジメチル−n−ブチル、1,2−ジメチル−n−ブチル、1,3−ジメチル−n−ブチル、2,2−ジメチル−n−ブチル、2,3−ジメチル−n−ブチル、3,3−ジメチル−n−ブチル、1−エチル−n−ブチル、2−エチル−n−ブチル、1,1,2−トリメチル−n−プロピル、1,2,2−トリメチル−n−プロピル、1−エチル−1−メチル−n−プロピル、1−エチル−2−メチル−n−プロピル、シクロヘキシル、1−メチル−シクロペンチル、2−メチル−シクロペンチル、3−メチル−シクロペンチル、1−エチル−シクロブチル、2−エチル−シクロブチル、3−エチル−シクロブチル、1,2−ジメチル−シクロブチル、1,3−ジメチル−シクロブチル、2,2−ジメチル−シクロブチル、2,3−ジメチル−シクロブチル、2,4−ジメチル−シクロブチル、3,3−ジメチル−シクロブチル、1−n−プロピル−シクロプロピル、2−n−プロピル−シクロプロピル、1−i−プロピル−シクロプロピル、2−i−プロピル−シクロプロピル、1,2,2−トリメチル−シクロプロピル、1,2,3−トリメチル−シクロプロピル、2,2,3−トリメチル−シクロプロピル、1−エチル−2−メチル−シクロプロピル、2−エチル−1−メチル−シクロプロピル、2−エチル−2−メチル−シクロプロピル及び2−エチル−3−メチル−シクロプロピル等が挙げられる。
上記アルキレン基としては炭素数1〜10のアルキレン基であり、上記アルキル基から誘導される2価の有機基が挙げられる。中でも、メチレン基、2,2−プロピレン基、2,2−ブチレン基等が挙げられる。
【0027】
上記ポリエーテルエーテルケトンは式(2−1)又は式(2−2)で示される構造を用いることができる。式(2−1)、式(2−2)においてR、R、及びRはそれぞれ上述のアルキル基を示し、それらは上述を例示することができる。n1、n2、及びn3はそれぞれ0〜4の整数である。Rは上述の炭素数1〜10のアルキレン基を示す。
ポリエーテルエーテルケトンは例えば下記の一般式(3−1)〜(3−4)で表される。
【0028】
【化3】

【0029】
上記式中、R3及びn3は上述の例示を挙げることができる。
ポリマー末端は下記の一般式で表されるようにフェニル基、アリーレンアルキレン基などの置換基でキャッピングしても良い。
【0030】
【化4】

【0031】
上記式中、R及びn3は上述の挙げることができる。また、Rは上述のアルキル基やハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)が置換された上述のアルキル基が挙げられ、n4は0〜4の整数である。
【0032】
本発明に用いられる被加工物としては例えば、シリコン、酸化シリコン、ガラス、窒化シリコンなどの無機材料、アルミニウム、銅などの金属材料、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリヒドロキシスチレン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂などの樹脂材料等が用いられる。
【0033】
また、本発明に用いられる支持体としては例えば、シリコン基板、ガラス基板、樹脂基板、及びセラミック基板を例示することができる。
本願発明に用いるポリエーテルエーテルケトンは、スピン塗布するため、有機溶剤に溶解するようにR〜Rに置換基を有することが好ましい。特にRに置換基を有することが好ましい。
【0034】
接着剤組成物は、スピン塗布するために有機溶剤を用いて溶解させることができる。ポリエーテルエーテルケトンが有機溶剤に溶解し、溶液粘度が0.001〜1000Pa・sの粘度を示す範囲でスピンコート性を示す塗布液とすることができる。
【0035】
上記有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサノンを主成分とすることが好ましい。その他メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテル等の多価アルコール類及びその誘導体;ジオキサン等の環式エーテル類;及び乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本実施の形態に係る接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲で、さらに、混和性のある添加剤、例えば接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、粘着付与剤、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤、界面活性剤などの慣用されているものを添加することができる。
【0036】
粘着付与剤は、弾性率、粘性制御、表面状態制御のために添加される。かかる粘着付与剤の種類は、粘性を考慮して定めることが好ましいが、具体的に、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族・芳香族共重合系石油樹脂、脂環族系水添石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水素化テルペン樹脂、ロジン系樹脂、水添ロジン系樹脂、不均化ロジン系樹脂、二量化ロジン系樹脂、エステル化ロジン系樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。粘着付与剤は接着剤組成物の主成分ポリエーテルエーテルケトン100重量部に対して0〜100重量部の割合で含有することができる。この理由は、かかる粘着付与剤の添加量が100重量部を越えると、有機溶剤耐性および耐熱性が不十分になることがあるためである。
したがって、かかる粘着付与剤の添加量を0〜100重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0〜20重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、これらの粘着付与剤のうち、特に、脂肪族系石油樹脂や、芳香族系石油樹脂を使用することが好ましい。この理由は、かかる粘着付与剤を使用することにより、少量の添加で、高温における接着剤の粘度を低下させ剥離を容易にするためである。またかかる粘着付与剤は、コストが安く経済的なためである。
【0037】
本発明では、支持体上に本発明の接着性組成物をスピンコートで塗布し50〜300℃で焼成し接着層を形成する工程、その接着層の上に被加工物を塗布し50〜300℃で焼成し被加工物の積層物質を形成する工程、被加工物を加工する工程、被加工物層上に上基板(例えば有機基板)を被覆する工程、この積層体に50〜400℃、又は150〜300℃で1分〜100時間の熱処理を行う工程、接着剤層をスライド剥離させる工程を含み、被加工体を得ることができる。
【0038】
上記方法では被加工物層に、更に被加工物の積層物質を塗布し50〜400℃、又は50〜300℃で焼成し被加工物層を形成し、被加工物層を加工し、複数層の被加工物層を積層することができる。また、スライド剥離するときの接着剤層の粘度は1000Pa・s以下が好ましく、通常、10〜1000Pa・sの粘度で容易に剥離し支持体より分離することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明に係る接着剤組成物の特性を確認した実施例について説明する。
接着剤組成物の主成分であるポリエーテルエーテルケトンは各種ヒドロキノンと4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを炭酸カリウム存在下ジメチルスルホキシドなどの高沸点溶媒中で加熱することにより合成した。
【0040】
(合成例1)
ポリエーテルエーテルケトン合成の一例として、撹拌装置、還流器、温度計、滴下槽の付いたフラスコ中に、tert−ブチルヒドロキノン(24.9g(150mmol))と4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(32.4g(148.5mmol))、炭酸カリウム(22.8g(165mmol))、ジメチルスルホキシド(247.8g)を仕込み、窒素置換した後加熱し、溶剤の温度を130℃まで上昇させ4時間撹拌した。その後フルオロベンゼン(2.4g(15mmol))をジメチルスルホキシド(41.3g)に溶解させたサンプルを滴下し、滴下終了後さらに2時間、溶剤の温度130℃にて撹拌した。合成されたポリエーテルエーテルケトンは、水中に投入され、沈殿物を水およびイソプロピルアルコール、メタノールで洗浄後、真空乾燥にて残留溶媒を除去して本発明に用いられるポリエーテルエーテルケトン(式(4−1))が得られた。
【0041】
(合成例2)
ポリエーテルエーテルケトン合成の一例として、撹拌装置、還流器、温度計、滴下槽の付いたフラスコ中に、ビスフェノールA(22.8g(100mmol))と4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(21.6g(99mmol))、炭酸カリウム(15.2g(110mmol))、ジメチルスルホキシド(183.8g)を仕込み、窒素置換した後加熱し、溶剤の温度を130℃まで上昇させ6時間撹拌した。その後フルオロベンゼン(1.6g(10mmol))をジメチルスルホキシド(30.6g)に溶解させたサンプルを滴下し、滴下終了後さらに2時間、溶剤の温度130℃にて撹拌した。合成されたポリエーテルエーテルケトンは、イソプロピルアルコールと水の混合溶媒に投入され、沈殿物を水およびイソプロピルアルコールで洗浄後、真空乾燥にて残留溶媒を除去して本発明に用いられるポリエーテルエーテルケトン(式(4−3))が得られた。
【0042】
(比較合成例1)
比較例1のポリメタクリル酸ブチルは撹拌装置、還流器、温度計、滴下槽の付いたフラスコ中に、メタクリル酸ブチル(28.4g(200mmol))、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(58.8g)、ドデカンチオール(0.14g)、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(0.85g)を仕込み窒素置換した後加熱し、溶剤の温度を80℃まで上昇させ15時間撹拌した。室温まで冷却後ヒドロキノン(0.02g)を加え撹拌し反応を終了させた。得られたポリメタクリル酸ブチルはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加え、濃度を調整した。
【0043】
合成により得られた各種ポリエーテルエーテルケトンは単独およびエステル化ロジン系樹脂(荒川化学工業株式会社、商品名パインクリスタルKE-100)を下記実施例のような組成にてシクロヘキサノン中に溶解し調製した。
【0044】
実施例1
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−1)、Rはt−ブチル基、n3=1、n4=0、重量平均分子量7800)を固形分として20質量%含有する接着剤組成物を得た。
【0045】
実施例2
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−1)、Rはt−ブチル基、n3=1、R4はトリフルオロメチル基、n4=1、重量平均分子量9500)を固形分として20質量%含有する接着剤組成物を得た。
【0046】
実施例3
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−1)、Rはt−ブチル基、n3=1、R4はトリフルオロメチル基、n4=1、重量平均分子量9500)を固形分として19質量%と、KE100を固形分として1質量%を含有する接着剤組成物を得た。
【0047】
実施例4
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−1)、Rはt−ブチル基、n3=1、Rはトリフルオロメチル基、n4=1、重量平均分子量9500)を固形分として16質量%と、KE100を固形分として4質量%を含有する接着剤組成物を得た。
【0048】
実施例5
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−1)、Rはt−ブチル基とメチル基の組み合わせであり、その割合はモル比で5/5、n3=1、n4=0、重量平均分子量17400)を固形分として20質量%を含有する接着剤組成物を得た。
【0049】
実施例6
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−1)、Rはt−ブチル基とメチル基の組み合わせであり、その割合はモル比で5/5、n3=1、n4=0、重量平均分子量17400)を固形分として19質量%と、KE100を固形分として1質量%を含有する接着剤組成物を得た。
【0050】
実施例7
シクロヘキサノン中に、ポリエーテルエーテルケトン(式(4−3)、n3=0、Rはトリフルオロメチル基、n4=1、重量平均分子量11300)を固形分として20質量%含有する接着剤組成物を得た。
比較例1
合成により得られたポリメタクリル酸ブチル(重量平均分子量14500)溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加え、固形分として20質量%を含有する接着剤組成物を得た。
【0051】
実施例1〜7、比較例1で得られた接着剤組成物を塗布条件1500rpm、30秒間でシリコンウェハー上にスピン塗布し、100℃および205℃でそれぞれ2分間ずつのベークを行い、形成した膜について評価を行った。
また耐熱性については、塗布膜をシリコンウェハーより剥離し、TG−DTA(セイコーインスツル株式会社製、TG/DTA320)にて10℃/分で昇温し5質量%の減量を生ずる温度から評価した。
【0052】
〔表1〕
表1
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膜厚(μm) 5質量%重量減温度
実施例1 1.7μm 442℃
実施例2 1.8μm 448℃
実施例3 1.5μm 402℃
実施例4 1.2μm 371℃
実施例5 2.5μm 462℃
実施例6 2.4μm 446℃
実施例7 1.9μm 482℃
比較例1 1.0μm 268℃
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【0053】
実施例の各接着剤組成物は5質量%重量減温度がいずれも350℃以上であり、良好な耐熱性を示した。
【0054】
また、実施例5の接着剤組成物から得られた接着剤のTG−DTA測定したグラフを図1に添付した。
(有機溶剤耐性試験)
実施例1〜7、及び比較例1で得られた各接着剤組成物を塗布条件1500rpm、30秒間でシリコンウェハー上にスピン塗布し、100℃および205℃でそれぞれ2分間の焼成を行った。その後、上記基板を、DMSO(ジメチルスルホキシド)、IPA(イソプロピルアルコール)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、EL(乳酸エチル)を樹脂塗布ウェハー上に液盛し60秒放置したあと、スピンコーターを3000rpmの高速回転にてスピンドライし、205℃ベークで溶剤を飛ばし、前後の膜厚を調査した。試験結果は基板上の残膜率(%)で示し、数値が高いほど溶解性が低い。
【0055】
〔表2〕
表2
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DMSO IPA PGME EL
実施例1 100 100 88 97
実施例2 100 100 97 99
実施例3 96 100 88 93
実施例4 100 100 87 91
実施例5 100 99 100 100
実施例6 99 99 99 98
実施例7 98 100 100 100
比較例1 99 1 3 1
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【0056】
実施例の各接着剤組成物から得られた接着剤は各種有機溶剤に対して高い耐性を示した。
弾性率および粘度の測定においてはレオメータ(Reologica InstrumentsA.B.製、VISCOANALYSER)にて5℃/分の条件にて測定した。
実施例2の接着剤組成物から得られた接着剤をレオメータで5℃/分の条件で弾性率及び粘度の測定を行った。その結果を図2に示した。図2中で(1)は弾性率の曲線を示し、その数値は左端に単位が示される。(2)は粘度の曲線を示し、その数値は右端に単位が示される。また、図2からスライド剥離の条件である1000Pa・s以下の粘度値を示す温度範囲は210℃前後である。実施例2においては240℃で100Pa.sの粘度値となり容易に剥離できる粘度まで低下した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
ポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む被加工物と支持体との間に用いられる接着剤組成物である。被加工物層を加工し、その被加工物層上に上基板(例えば有機基板)を被覆し接着し、この積層体全体を加熱処理(例えば200〜250℃)して該接着剤層の粘度低下を生じさせスライド剥離させることにより、基板上に加工された被加工物層が得られる。本件発明はこのように基板上に積層された被加工物層を得る目的で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む接着剤組成物。
【請求項2】
ポリエーテルエーテルケトン構造を有するポリマーを含む被加工物と支持体との接着に用いられる熱可塑性仮付け接着剤組成物。
【請求項3】
ポリエーテルエーテルケトンが式(1):
【化1】


(式中、Arは炭素数6〜30のアリーレン基を示し、Tは2価の有機基を示す。)である請求項1又は請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
ポリエーテルエーテルケトンが式(2−1)又は式(2−2):
【化2】


(式中、R、R、及びRはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキレン基を示す。n1、n2、及びn3は0〜4の整数を示す。)である請求項1又は請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
支持体がシリコン基板、ガラス基板、樹脂基板、又はセラミックス基板である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
ポリエーテルエーテルケトンが有機溶媒に溶解し、溶液粘度が0.001〜1000Pa・sの粘度を有するスピンコート性塗布液である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
接着剤組成物から得られる接着層であって、該接着層が150℃〜300℃の加熱により1000Pa・s以下の粘度を示し荷重下にスライド剥離可能な接着層を形成することができる請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−280781(P2010−280781A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133991(P2009−133991)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】