説明

接着剤組成物

【課題】高いせん断接着強さ、剥離接着強さ及び衝撃接着強さを有するとともに、特に接着強さの耐冷熱サイクル性に優れた接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)2−シアノアクリレート、(b)熱可塑性ウレタンエラストマー及び(c)ヒュームドシリカを含有する接着剤組成物であって、
上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、上記(b)熱可塑性ウレタンエラストマーは2〜30質量部であり、上記(c)ヒュームドシリカは1〜20質量部であることを特徴とする接着剤組成物。前記熱可塑性ウレタンエラストマーは、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールを構成単位に有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、2−シアノアクリレートを含有し、高いせん断接着強さ、剥離接着強さ及び衝撃接着強さを有するとともに、特に接着強さの耐冷熱サイクル性に優れた接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2−シアノアクリレートを含有する接着剤組成物は、主成分である2−シアノアクリレートが有する特異なアニオン重合性により、被着体表面に付着する僅かな水分等の微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、所謂、瞬間接着剤として、工業用、医療用、家庭用等の広範な分野において用いられている。しかし、この接着剤組成物は、その硬化物が硬く脆いため、優れたせん断接着強さを有する反面、剥離接着強さ及び衝撃接着強さが低く、特に異種の被着体間での耐冷熱サイクル性に劣るという問題点を有する。従来、このような問題点を改良するため、種々のエラストマー及び添加剤等を配合する改質方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参考。)。また、接着剤組成物にシリカを配合することも知られている(例えば、特許文献3、4参考。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−290484号公報
【特許文献2】特開平6−57214号公報
【特許文献3】特開平8−53651号公報
【特許文献4】特開2000−44892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1、2に記載された改質方法では、特に異種の被着体間での耐冷熱サイクル性を十分に向上させることができないことがある。また、上記の特許文献3、4では、シリカを配合する目的は接着剤にチクソトロピー性を付与することであり、耐冷熱サイクル性等の接着強さの耐久性については何ら言及されていない。
【0005】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、2−シアノアクリレートを含有し、高いせん断接着強さ、剥離接着強さ及び衝撃接着強さを有するとともに、特に接着強さの耐冷熱サイクル性に優れた接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.(a)2−シアノアクリレート、(b)熱可塑性ウレタンエラストマー及び(c)ヒュームドシリカを含有する接着剤組成物であって、
上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、上記(b)熱可塑性ウレタンエラストマーは2〜30質量部であり、上記(c)ヒュームドシリカは1〜20質量部であることを特徴とする接着剤組成物。
2.上記熱可塑性ウレタンエラストマーが、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールを構成単位に有する上記1.に記載の接着剤組成物。
3.上記熱可塑性ウレタンエラストマーの重量平均分子量が、50000〜500000である上記1.又は2.に記載の接着剤組成物。
4.可塑剤を含有し、上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、該可塑剤は3〜50質量部である上記1.〜3.のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着剤組成物は、2−シアノアクリレートと、熱可塑性ウレタンエラストマーと、ヒュームドシリカとを、所定の質量割合で含有しているため、2−シアノアクリレートを含有する接着剤が本来有する高いせん断接着強さを有するとともに、従来、必ずしも良好ではなかった剥離接着強さ、衝撃接着強さも十分であり、特に優れた耐冷熱サイクル性を有する。
熱可塑性ウレタンエラストマーが、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールを構成単位に有する場合は、2−シアノアクリレートに容易に溶解することができる。
また、熱可塑性ウレタンエラストマーの重量平均分子量が50000〜500000である場合は、熱可塑性ウレタンエラストマーが2−シアノアクリレートに容易に溶解し、かつ、耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率がより高い接着剤組成物とすることができる。
さらに、可塑剤を含有し、(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、可塑剤が3〜50質量部である場合は、硬化物が柔軟になり、耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率をより向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の接着剤組成物について詳しく説明する。
本発明の接着剤組成物は、(a)2−シアノアクリレート、(b)熱可塑性ウレタンエラストマー、及び(c)ヒュームドシリカを含有し、(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、上記(b)熱可塑性ウレタンエラストマーは2〜30質量部であり、上記(c)ヒュームドシリカは1〜20質量部である。
【0009】
上記「(a)2−シアノアクリレート」としては、この種の接着剤組成物に一般に使用される2−シアノアクリレートを特に限定されることなく用いることができる。この2−シアノアクリレートとしては、2−シアノアクリル酸のメチル、エチル、クロロエチル、n−プロピル、i−プロピル、アリル、プロパギル、n−ブチル、i−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、テトラヒドロフルフリル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、2−オクチル、n−ノニル、オキソノニル、n−デシル、n−ドデシル、メトキシエチル、エトキシエチル、メトキシブチル、エトキシプロピル、エトキシイソプロピル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、ブトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシイソプロピル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、プロポキシプロピル、ブトキシメチル、ブトキシエチル、ブトキシプロピル、ブトキシイソプロピル、ブトキシブチル、2,2,2−トリフルオロエチル及びヘキサフルオロイソプロピル等のエステルが挙げられる。これらの中でも、耐冷熱サイクル性の観点から、アルコキシアルキルエステルが好ましい。また、これらの2−シアノアクリレートは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合、組み合わせは特に限定されないが、例えば、エチル−2−シアノアクリレートとエトキシエチル−2−シアノアクリレートとの組み合わせ、イソブチル−2−シアノアクリレートとエトキシエチル−2−シアノアクリレートとの組み合わせ等が挙げられる。
【0010】
上記「熱可塑性ウレタンエラストマー」(以下「ウレタンエラストマー」ともいう。)は、1分子中に2個以上のヒドロキシル基を有するポリオール(以下単に「ポリオール」という。)と、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(以下単に「イソシアネート化合物」という。)、及び必要に応じて短鎖グリコールを反応させて得られるものであり、ゴム弾性を有し、シアノアクリレートに溶解し、かつ、シアノアクリレートの硬化性、安定性を損なわないものであれば特に限定はしない。
【0011】
ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール及びラジカル重合性単量体から製造されたポリマーポリオール等が挙げられる。これらの中でも、2−シアノアクリレートへの溶解性の点から、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0012】
ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸と多価アルコールとのランダム共縮重合物である。ここで、多価カルボン酸としては、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するものであれば種々のものが使用できる。具体的には、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコ酸二酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、グルタル酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、マロン酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、1,4−テレフタル酸、1,3−テレフタル酸、ダイマー酸及びパラオキシ安息香酸等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸が好ましく、より好ましくは、アジピン酸及びセバシン酸である。多価カルボン酸は、必要に応じて2種以上を併用することができる。
多価アルコールとしては、分子内に2個以上のヒドロキシル基を有するものであれば種々のものが使用できる。具体的には、ブチルエチルプロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマー酸ジオール及び2−メチル−1,8−オクタンジオール等が挙げられる。多価アルコールは、必要に応じて2種以上を併用することができる。
ポリエステルポリオールの製造方法としては、一般的なエステル化反応に従えば良く、触媒の存在下に、多価カルボン酸と多価アルコールを攪拌下に加熱する方法等が挙げられる。前記触媒としては、エステル化反応で通常使用される触媒が使用でき、塩基触媒、酸触媒及び金属アルコキシド等が挙げられる。塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の金属水酸化物、並びにトリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン及びトリフェニルアミン等のアミン類等が挙げられる。酸触媒としては、硫酸及びパラトルエンスルホン酸等が挙げられる。金属アルコキシドとしては、チタン、錫又はジルコニウムのアルコキサイドが好ましい。これら金属アルコキシドの具体例としては、テトラブチルチタネート等のテトラアルキルチタネート;ジブチルスズオキサイド及びモノブチルスズオキサイド等の錫のアルコキサイド;並びにジルコニウムテトラブトキサイド及びジルコニウムイソプロポキサイド等のジルコニウムのアルコキサイド等が挙げられる。
【0013】
ポリカーボネートポリオールは、カーボネート結合を有し、かつ、2個以上のヒドロキシル基を有するポリオールであれば、特に限定されないが、アルキレン基、アルキル基、芳香族系炭化水素基、シクロパラフィン系炭化水素基等を有する炭酸エステルと、アルキレン基、アルキル基、芳香族系炭化水素基、シクロパラフィン系炭化水素基等を有するポリオールとの反応生成物を用いることができる。
炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ポリオールは、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシブチレンジオール、ポリカプロラクトンジオール、トリメチルヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げ
られる。
これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、分子量又は組成の異なる2種以上を併用してもよい。
【0014】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール;エチレングリコール、プロパンジオール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン及びジペンタエリスリトール等のアルキレングリコールの、エチレンオキシド変性物、プロピレンオキシド変性物、ブチレンオキシド変性物及びテトラヒドロフラン変性物;エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、プロピレングリコールとテトラヒドロフランの共重合体、エチレングリコールとテトラヒドロフランの共重合体;ポリイソプレングリコール、水添ポリイソプレングリコール、ポリブタジエングリコール及び水添ポリブタジエングリコール等の炭化水素系ポリオール;並びにポリテトラメチレンヘキサグリセリルエーテル(ヘキサグリセリンのテトラヒドロフラン変性物)等が挙げられる。
【0015】
ラジカル重合性単量体から製造されたポリマーポリオールとしては、エチレン性不飽和基及びヒドロキシル基を有する単量体を必須成分とする重合体が挙げられる。より具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとこれ以外の(メタ)アクリレート等のラジカル重合性単量体を重合したもの等が挙げられる。
ポリマーポリオールの製造方法としては、ラジカル重合性単量体を溶液重合や高温連続重合法により製造する方法等が挙げられる。
【0016】
イソシアネート化合物としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−キシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル2,6−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族イソシアネートを使用することができる。これらの中で、2−シアノアクリレートへの溶解性と配合液の安定性の観点から、芳香族イソシアネートが好ましい。イソシアネート化合物は、必要に応じて2種以上を併用することができる。
【0017】
ウレタンエラストマーの製造は常法に従えば良い。例えば、ポリオールとイソシアネート化合物を、触媒の存在下に加熱する方法等が挙げられる。
触媒としては、一般的なウレタン化反応で使用される触媒が使用でき、例えば金属化合物及びアミン等が挙げられる。金属化合物としては、ラウリン酸ジブチルスズ及びジオクチル酸スズ等のスズ系触媒;ジオクチル酸鉛等の鉛系触媒;K−KAT XC−4025、K−KAT XC−6212(KING INDUSTRIES,INC製)等のジルコニウム系触媒;K−KAT XC−5217(KING INDUSTRIES,INC製)等のアルミニウム系触媒;並びにテトラ2−エチルヘキシルチタネート等のチタネート系触媒が挙げられる。アミンとしては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン及びトリエチレンジアミン等が挙げられる。
また、ウレタンエラストマー製造の際には、反応中のゲル化を防止する目的で、必要に応じてハイドロキノン等の一般的なラジカル重合禁止剤を用いることもできる。
【0018】
上記方法で製造したウレタンエラストマーの種類によっては、その中に含まれる触媒、安定剤、離型剤、滑剤、抗酸化剤、ワックス類、アルカリ物質等の不純物により、2−シアノアクリレートを不安定にする場合がある。その場合は、あらかじめウレタンエラストマーを塩酸、硫酸、有機酸、カルボン酸無水物溶液等で洗浄し、水洗後乾燥する処理を施すことにより、不純物の影響を排除することができる。
【0019】
熱可塑性ウレタンエラストマーの平均分子量も特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)が50000〜500000であればよく、より好ましくは70000〜300000であり、さらに好ましくは100000〜200000である。ウレタンエラストマーの重量平均分子量が50000〜500000、特に70000〜300000であれば、ウレタンエラストマーが2−シアノアクリレートに容易に溶解し、特に耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率が高い接着剤組成物とすることができる。また、ウレタンエラストマーの数平均分子量(Mn)は、50000〜300000、特に60000〜200000であることが好ましく、Mw/Mnは1.00〜10.0、特に1.00〜8.0であることが好ましい。
なお、本発明における平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」ともいう。)で測定した値である。GPC測定の際には、テトラヒドロフランを移動相として、ポリスチレンゲルカラムを使用し、分子量の値はポリスチレン換算値で求めた。
【0020】
熱可塑性ウレタンエラストマーのガラス転移温度(Tg)は、−50〜−10℃であることが好ましく、より好ましくは、−40〜−15℃である。ウレタンエラストマーのTgが前記範囲であれば、剥離接着強さ、衝撃接着強さ及び耐冷熱衝撃性に優れた接着剤組成物とすることができる。本発明のTgは、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。
【0021】
接着剤組成物におけるウレタンエラストマーの含有量は、2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、2〜30質量部である。このウレタンエラストマーの好ましい含有量は、2−シアノアクリレートの種類、ウレタンエラストマー種類、並びにヒュームドシリカの種類及び含有量等にもよるが、3〜25質量部、特に5〜20質量部であることが好ましい。ウレタンエラストマーの含有量が2〜30質量部であれば、十分なせん断接着強さ等を有し、かつ、優れた耐冷熱サイクル性を併せて有する接着剤組成物とすることができる。
【0022】
上記「ヒュームドシリカ」は、四塩化ケイ素を原料とし、高温の炎中において気相状態での酸化により生成する超微粉(一次粒子が500nm以下、特に1〜200nm)の無水シリカであり、親水性の高い親水性シリカと、疎水性の高い疎水性シリカとがある。このヒュームドシリカとしては、いずれも用いることができるが、2−シアノアクリレート、ウレタンエラストマーへの分散性がよいため疎水性シリカが好ましい。
【0023】
親水性シリカとしては市販の各種の製品を用いることができ、例えば、アエロジル50、130、200、300及び380(以上、商品名であり、日本アエロジル社製である。)等が挙げられる。これらの親水性シリカの比表面積は、それぞれ50±15m2/g、130±25m2/g、200±25m2/g、300±30m2/g、380±30m2/gである。また、市販の親水性シリカとしては、レオロシールQS−10、QS−20、QS−30及びQS−40(以上、商品名であり、トクヤマ社製である。)等を用いることができる。これらの親水性シリカの比表面積は、それぞれ140±20m2/g、220±20m2/g、300±30m2/g、380±30m2/gである。この他、CABOT社製等の市販の親水性シリカを用いることもできる。
【0024】
更に、疎水性シリカとしては、親水性シリカと、親水性シリカの表面に存在するヒドロキシル基と反応し、疎水基を形成し得る化合物、又は親水性シリカの表面に吸着され、表面に疎水性の層を形成し得る化合物とを、溶媒の存在下又は不存在下に接触させ、好ましくは加熱し、親水性シリカの表面を処理することにより生成する製品を用いることができる。
【0025】
親水性シリカを表面処理して疎水化するのに用いる化合物としては、n−オクチルトリアルコキシシラン等の疎水基を有するアルキル、アリール、アラルキル系の各種のシランカップリング剤、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル、ステアリルアルコール等の高級アルコール、及びステアリン酸等の高級脂肪酸などが挙げられる。疎水性シリカとしては、いずれの化合物を用いて疎水化された製品を用いてもよい。
【0026】
市販の疎水性シリカとしては、例えば、シリコーンオイルで表面処理され、疎水化されたアエロジルRY200、R202、ジメチルシリル化剤で表面処理され、疎水化されたアエロジルR974、R972、R976、n−オクチルトリメトキシシランで表面処理され、疎水化されたアエロジルR805、トリメチルシリル化剤で表面処理され、疎水化されたアエロジルR811、R812(以上、商品名であり、日本アエロジル社製である。)等が挙げられる。これらの疎水性シリカの比表面積は、それぞれ100±20m2/g、100±20m2/g、170±20m2/g、110±20m2/g、250±25m2/g、150±20m2/g、150±20m2/g、260±20m2/gである。
【0027】
接着剤組成物におけるヒュームドシリカの含有量は、2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、1〜20質量部である。このヒュームドシリカの好ましい含有量は、2−シアノアクリレートの種類、ウレタンエラストマーの種類及び割合、並びにヒュームドシリカの種類等にもよるが、2〜15質量部、特に3〜10質量部であることが好ましい。ヒュームドシリカの含有量が1〜20質量部であれば、高いせん断接着強さ等を有し、かつ、優れた耐冷熱サイクル性を併せて有する接着剤組成物とすることができる。
尚、ヒュームドシリカの含有量の増加とともに接着剤組成物の粘度が高くなる傾向にあるため、この含有量は、接着剤組成物の調製及び接着剤組成物の被着体への塗布等における作業性などを考慮して設定する必要がある。
【0028】
接着剤組成物には、可塑剤を含有させることができる。この可塑剤としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ジメチルアジピン酸、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソトリデシル、フタル酸ジペンタデシル、テレフタル酸ジオクチル、イソフタル酸ジイソノニル、ジメチルフタル酸、トルイル酸デシル、ショウノウ酸ビス(2−エチルヘキシル)、2−エチルヘキシルシクロヘキシルカルボキシレート、フマル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル、カプロン酸トリグリセライド、安息香酸2−エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等が挙げられる。これらの中では、2−シアノアクリレートとの相溶性が良く、かつ可塑化効率の高いという点から、安息香酸2−エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル類、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、フタル酸ジメチルが好ましい。これらの可塑剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、可塑剤の含有量は特に限定されないが、2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、3〜50質量部、特に10〜45質量部、更に20〜40質量部であることが好ましい。可塑剤の含有量が3〜50質量部であれば、硬化物が柔軟になり、特に耐冷熱サイクル試験後の接着強さの保持率を向上させることができる。
【0029】
本発明の接着剤組成物には、上記の必須成分及び可塑剤の他に、従来、2−シアノアクリレートを含有する接着剤組成物に配合して用いられているアニオン重合促進剤、安定剤、増粘剤、着色剤、香料、溶剤、強度向上剤等を、目的等に応じて、接着剤組成物の硬化性及び接着強さ等を損なわない範囲で適量配合することができる。
【0030】
アニオン重合促進剤としては、ポリアルキレンオキサイド類、クラウンエーテル類、シラクラウンエーテル類、カリックスアレン類、シクロデキストリン類及びピロガロール系環状化合物類が挙げられる。ポリアルキレンオキサイド類とは、ポリアルキレンオキサイド及びその誘導体であって、例えば、特公昭60−37836号、特公平1−43790号、特開昭63−128088号、特開平3−167279号、米国特許第4386193号、米国特許第4424327号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、(1)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンオキサイド、(2)ポリエチレングリコールモノアルキルエステル、ポリエチレングリコールジアルキルエステル、ポリプロピレングリコールジアルキルエステル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル等のポリアルキレンオキサイドの誘導体が挙げられる。
クラウンエーテルとしては、例えば、特公昭55−2236号、特開平3−167279号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ベンゾ−12−クラウン−4、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5、ジベンゾ−24−クラウン−8、ジベンゾ−30−クラウン−10、トリベンゾ−18−クラウン−6、asym−ジベンゾ−22−クラウン−6、ジベンゾ−14−クラウン−4、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、シクロヘキシル−12−クラウン−4、1,2−デカリル−15−クラウン−5、1,2−ナフト−15−クラウン−5、3,4,5−ナフチル−16−クラウン−5、1,2−メチルベンゾ−18−クラウン−6、1,2−tert−ブチル−18−クラウン−6、1,2−ビニルベンゾ−15−クラウン−5および1,2−ベンゾ−1,4−ベンゾ−5−オキシゲン−20−クラウン−7等が挙げられる。
シラクラウンエーテルとしては、例えば、特開昭60−168775等で開示されているものが挙げられる。具体的には、ジメチルシラ−11−クラウン−4、ジメチルシラ−14−クラウン−5、ジメチルシラ−17−クラウン−6等を挙げることができる。
カリックスアレン誘導体としては、例えば、特開昭60−179482号、特開昭62−235379号、特開昭63−88152号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、5,11,17,23,29,35−ヘキサ−tert−butyl−37,38,39,40,41,42−ヘキサヒドロオキシカリックス〔6〕アレン、37,38,39,40,41,42−ヘキサヒドロオキシカリックス〔6〕アレン、37,38,39,40,41,42−ヘキサ−(2−オキソ−2−エトキシ)−エトキシカリックス〔6〕アレン、25,26,27,28−テトラ−(2−オキソ−2−エトキシ)−エトキシカリックス〔4〕アレン等が挙げられる。
シクロデキストリン類としては、例えば、公表平5−505835号で開示されているものが挙げられる。具体的には、α−、β−又はγ−シクロデキストリンを挙げることができる。
ピロガロール系環状化合物としては、特願平10−375121号で開示されている化合物が挙げられる。具体的には、3,4,5,10,11,12,17,18,19,24,25,26−ドデカエトキシカルボメトキシ−C−1、C−8、C−15、C−22−テトラメチル[14]−メタシクロファンが挙げられる。これらのアニオン重合促進剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
更に、安定剤としては、(1)二酸化イオウ、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、三弗化ホウ素ジエチルエーテル、HBF4、トリアルキルボレート及びスルトン化合物等のアニオン重合禁止剤、(2)ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール及びピロガロール等のラジカル重合禁止剤などが挙げられる。また、増粘剤としては、ポリメチルメタクリレート、アクリルゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリアルキル−α−シアノアクリレート及びエチレン−酢ビ共重合体等が挙げられる。これらの安定剤及び増粘剤は、それぞれ1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する
[1]接着剤組成物の製造
実施例1
エトキシエチル−2−シアノアクリレートに、二酸化硫黄を40ppm、18−クラウン−6を100ppm、ハイドロキノンを1000ppm(エトキシエチル−2−シアノアクリレートを100質量部とする。)配合し、これに更に表1に記載の、ウレタンエラストマー(DIC社製、商品名「パンデックス T5205」、ポリエステルポリオールを構成単位に有するウレタンエラストマー、Tg:−30〜−25℃)、及びヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル R974)を、表1に記載の含有量(エトキシエチル−2−シアノアクリレートを100質量部としたときの「質量部」である。)となるように配合し、温度20〜40℃で15分間攪拌して、混合して接着剤組成物を製造した。
【0033】
実施例2〜10及び比較例1〜4
エトキシエチル−2−シアノアクリレートに、表1に記載のウレタンエラストマー[DIC社製,商品名「パンデックス T5205、T5275N」、ポリエステルポリオールを構成単位に有するウレタンエラストマー、Tg:−30〜−25℃](実施例2〜6,8〜10および比較例1〜2)、[住友バイエルウレタン社製,商品名「デスモコール400」、ポリエステルポリオールを構成単位に有するウレタンエラストマー](実施例7)、ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル RY200、R974、200)(実施例2〜10及び比較例3)、及び可塑剤[アセチルクエン酸トリブチル(キシダ化学社製、試薬)、表1では「ATBC」と表記する。](実施例8、10及び比較例3)、[ジプロピレングリコールジベンゾエート(ADEKA社製、商品名「アデカサイザーPN−6120」、表1では「PN−6120」と表記する。](実施例9)を、表1に記載の含有量となるように配合した他は、実施例1と同様にして接着剤組成物を製造した。
【0034】
【表1】

【0035】
上記のウレタンエラストマー、DIC社製の商品名「パンデックス」シリーズ、及び住友バイエルウレタン社製の商品名「デスモコール400」の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は表2のとおりである。また、日本アエロジル社製の商品名「アエロジル」シリーズのヒュームドシリカの表面処理の有無及び表面処理剤並びに親水性、疎水性の指標となるSiOH残存量は表3のとおりである。
更に、平均分子量は、GPC(ウォーターズ社製、型式「アライアンス2695型」)により、[カラム:東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」2本+東ソー社製「TSKgel SuperHZ−2500」2本連結、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、分子量の値はポリスチレン換算値である。]の条件で測定した値である。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
[2]耐冷熱サイクル性の評価
アルミニウム板とABS樹脂製の試験片とを、実施例1〜10及び比較例1〜4の接着剤組成物を用いて接着させ、23℃で3日間静置して養生させた後、JIS K 6850に準じて引張せん断接着強さを測定し(これを初期強度とする。)、次いで、冷熱衝撃試験機を用いて、−40℃で1時間保持し、その後、80℃で1時間保持する冷熱サイクルを1サイクルとして10サイクル後の引張せん断接着強さを上記と同様にして測定し(これを試験後強度とする。)、下記のようにして保持率を算出した。結果は表4のとおりである。
保持率(%)=(試験後強度/初期強度)×100
【0039】
【表4】

【0040】
表4の結果によれば、ウレタンエラストマーの含有量、ヒュームドシリカの種類と含有量、及び可塑剤の含有の有無と含有量が互いに係わり合って初期強度、保持率に影響を及ぼしているようであるが、実施例1〜10の接着剤組成物では、冷熱サイクル後の引張せん断接着強さの保持率は37%以上(37〜59%)であり、十分な耐冷熱サイクル性を有していることが分かる。一方、比較例1〜4の接着剤組成物では、保持率は14%以下であり、ウレタンエラストマーとヒュームドシリカを共に配合しなければ、保持率が大きく低下していることが分かる。
【0041】
実施例11〜14
エトキシエチル−2−シアノアクリレートに代えて、表5に記載された2−シアノアクリレートを用いた他は、実施例8と同様にして接着剤組成物を製造し、同様にして耐冷熱サイクル性を評価した。結果を表5に併記する。
【0042】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、2−シアノアクリレートを含有し、所謂、瞬間接着剤として一般家庭用、医療分野等の他、各種産業界などの広範な製品、技術分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2−シアノアクリレート、(b)熱可塑性ウレタンエラストマー及び(c)ヒュームドシリカを含有する接着剤組成物であって、
上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、上記(b)熱可塑性ウレタンエラストマーは2〜30質量部であり、上記(c)ヒュームドシリカは1〜20質量部であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記熱可塑性ウレタンエラストマーが、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールを構成単位に有することを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記熱可塑性ウレタンエラストマーの重量平均分子量が、50000〜500000である請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
可塑剤を含有し、上記(a)2−シアノアクリレートを100質量部とした場合に、該可塑剤は3〜50質量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2011−57733(P2011−57733A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205402(P2009−205402)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】