説明

接着剤

【課題】植物性資源を主原料とし、接着性に優れ、かつ難燃性を付与した接着剤を提供する。
【解決手段】リグニンと硬化剤を含む接着剤であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分として前記リグニンを5〜90質量%含む、接着剤。リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである、前記の接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着剤とは、化学的、物理的またはその両方で、二つの面を接着するものである。接着剤の歴史は長く、石器時代には黒曜石から得られるアスファルトが利用されていた。また、天然物から得られる接着剤として、漆、膠、澱粉糊などが知られているが、現在ではそのほとんどが、石油由来の化学合成接着剤である。しかし、化石燃料の枯渇化、化石燃料を焼却した際に発生する二酸化炭素による地球温暖化が叫ばれるようになり、カーボンニュートラルなバイオマス材料への関心が高まっている。近年では、包装資材、家電製品の部材、自動車用部材などのプラスチックを植物由来樹脂(バイオプラスチック)に置き換える動きが活発化している。
【0003】
前記植物由来樹脂の具体例としては、ジャガイモやサトウキビやトウモロコシ等の糖質を醗酵させて得られた乳酸をモノマーとし、これを用いて化学重合を行い作製したポリ乳酸:PLA(PolyLactic Acid)や、澱粉を主成分としたエステル化澱粉、微生物が体内に生産するポリエステルである微生物産生樹脂:PHA(PolyHydoroxy Alkanoate)、醗酵法で得られる1,3−プロパンジオールと石油由来のテレフタル酸とを原料とするPTT(Poly Trimethylene Telephtalate)等が挙げられる。
また、PBS(Poly Butylene Succinate)は、現在は石油由来の原料が用いられているが、今後においては、植物由来樹脂として作製する研究が開発されており、主原料の一つであるコハク酸を植物由来で作製する技術についての開発がなされている。
【0004】
これらの植物由来原料を用いた樹脂は、電気/電子関係用部品、OA関連用部品、自動車部品、建築資材などの幅広い分野に導入されている。このような用途においては、安全上の問題から難燃性、耐熱性が要求される。難燃性、耐熱性に関してはこれまでにも、植物由来原料を用いた樹脂、特にポリ乳酸樹脂において種々の試みがなされてきた。しかし、植物由来樹脂はいずれも熱可塑性であり(非特許文献1)、耐熱性において課題がある。また、難燃性、耐熱性を向上させるために、石油系樹脂を用いる必要があり、その含有量を増やす分、環境負荷を低減化させる観点からの、化石資源使用量削減や二酸化炭素排出量削減の効果が低下してしまうという課題があった。
【0005】
植物由来の硬化性樹脂原料として、古くからリグニンが注目されてきた。国内で容易に入手できるリグニンとして、例えば、リグニンスルホン酸塩が挙げられるが、水溶性であり、有機溶媒に難溶である。そのため、硬化剤及び硬化促進剤との相溶性が悪く、均質な硬化物がほとんど得られていない。また、得られた場合でもその硬化物は水溶性であるため、屋外での使用が制限されるといった指摘がある(特許文献1参照)。
【0006】
前記リグニンは、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基を有することから、有機溶媒に可溶なリグニンを得ることで、フェノール樹脂またはポリオール樹脂への代替樹脂とすることができる。特にフェノール樹脂系接着剤における、フェノール樹脂の代替材として利用可能である。
【0007】
公知の難燃剤としては、臭素系・ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられる(特許文献2参照)。従来においても各種難燃剤が知られているが、上記の難燃剤は、有効に機能を発揮させるための添加量が多く、樹脂100質量部に対して10〜30質量部、多いものでは50質量部程度必要とする場合もある。
これらの難燃剤は、化石資源を原料として合成されているものであるから、主材料として植物由来樹脂を用いたとしても、環境負荷削減効果は低いものとなっていた。
【0008】
また、難燃剤自体の有害性も検討しなければならない。例えば、臭素系難燃剤は、焼却時に熱分解によりダイオキシン類が発生する。またリン系難燃剤は、化学物質過敏症(アレルギー)を引き起こす恐れもあり、今後において、難燃剤は、生体に無害かつ安全で、かつ少量であっても実用上充分な難燃効果が得られるものであることの要望が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平6−506967号公報
【特許文献2】特開2007−002120号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】土肥義治(編) 生分解性高分子材料、工業調査会 1990年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明においては、環境負荷低減化の観点から、植物由来の木質系材料を利用した接着剤を提供することを目的とする。特に植物由来であるリグニンを主原料とし、接着性に優れ、かつ難燃性を付与した接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の通りである。
(1)リグニンと硬化剤を含む接着剤であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分として前記リグニンを5〜90質量%含むことを特徴とする接着剤。
(2)リグニンの重量平均分子量が100〜7000である前記(1)に記載の接着剤。
(3)リグニン中の硫黄原子の含有率が2質量%以下である前記(1)又は(2)に記載の接着剤。
(4)リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の接着剤。
(5)リグニンが植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の接着剤。
(6)硬化剤がエポキシ樹脂である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤。
(7)硬化剤がアクリル樹脂である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤。
(8)硬化剤がイソシアネートである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤。
(9)硬化剤がアルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤。
(10)硬化剤が多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤。
(11)硬化剤が不飽和基を含む多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の接着剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、化石資源使用量の削減、及び二酸化炭素の排出量の低減効果が得られ、環境負荷低減化に好適な接着剤が提供できた。
【0014】
本発明によれば、リグニンと硬化剤を主原料としたことにより、前記効果に加え、これまでの有機物から成る化学合成接着剤、リグニンと熱可塑剤から得られる接着剤と比べ、接着性に優れ、難燃性を有する接着剤を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、上記本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、リグニンと硬化剤を含む接着剤であって、当該リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分としてリグニンを5〜90質量%含む接着剤である。不揮発分としてリグニンを、好ましくは30〜80質量%、また、さらに40〜80質量%含むことが好ましい。90質量%を超えると接着剤の被膜の強度が劣化するおそれがある。また、5質量%未満では、化石資源使用量の削減効果、難燃性効果が得られないおそれがある。
【0016】
リグニンの重量平均分子量は、ポリスチレン換算値において、100〜7000が好ましく、さらに200〜5000が好ましく、500〜4000であることが特に好ましい。リグニンの重量平均分子量が7000を超えると有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。重量平均分子量が100未満であるとリグニンの構造を活かした接着剤を得ることができないおそれがある。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算した値を使用した。
【0017】
リグニンの基本骨格は一般的にヒドロキシフェニルプロパン単位を基本単位とする架橋構造の高分子である。樹木は親水性の線状高分子の多糖類(セルロースとヘミセルロース)と疎水性の架橋構造リグニンの相互侵入網目(IPN)構造を形成している。リグニンは樹木の約25質量%を占め、不規則かつ極めて複雑なポリフェノールの化学構造をしている。フェノール類は燃焼の際、黒鉛を形成し易いため難燃性に優れ、抗菌作用を有することが知られている。本発明は植物から得られたこの複雑な構造をそのまま活かし、接着剤の樹脂原料とすることで、難燃性、強度を有する接着剤を提供するものである。
【0018】
リグニンの原料に特に制限は無い。スギ、マツ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ等の広葉樹、タケ、イネワラ、バガス等が使用される。樹木からリグニンを分離し取り出す方法としては、クラフト法、硫酸法、爆砕法などが挙げられる。現在多量に製造されているリグニンの多くは、紙やバイオエタノールの原料であるセルロース製造時に残渣として得られる。入手可能なリグニンとしては、主に硫酸法により副生するリグニンスルホン酸塩があげられる。他にもアルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、ソルボリシスリグニン、糸状菌処理木材、ジオキサンリグニン及びミルドウッドリグニン、爆砕リグニンなどがある。本発明に用いるリグニンは取り出す方法によらず、上記記載のリグニンを用いることができる。
【0019】
取りだした際、リグニン以外の例えばセルロースやヘミセルロースのような成分が、含まれていても良い。また、これらのリグニンをアセチル化、メチル化、ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、硫化ナトリウムや硫化水素との反応等によって作製されたリグニン誘導体も含む。
【0020】
主原料とするリグニンを取得する方法として、水を用いた分離技術を用いた方法が好ましい。使用するリグニンが、水のみを用いた処理方法により、セルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンであることが好ましい。また、リグニンを取得する方法としては、水蒸気爆砕法がより好ましい。水蒸気爆砕法は高温高圧の水蒸気による加水分解と、圧力を瞬時に開放することによる物理的破砕効果により、植物を短時間に破砕するものである。
水蒸気爆砕の条件は特に限定しないが、通常、原料を水蒸気爆砕装置用の耐圧容器に入れ、3〜4MPaの水蒸気を圧入し、1〜15分間放置した後、瞬時に圧力を開放することにより爆砕する。なお、前記有機溶媒可溶リグニンは、水蒸気爆砕リグニンとも表す。また、原料としては、リグニンが抽出できれば特に限定しないが、例えば、スギ、竹、稲わら、麦わら、ひのき、アカシア、ヤナギ、ポプラ、バガス、とうもろこし、サトウキビ、米穀、ユーカリ、エリアンサスなどが挙げられる。
この方法は硫酸法、クラフト法など他の分離方法と比較し、硫酸、亜硫酸塩等を用いることなく、水のみを使用するので、クリーンな分離方法である。この方法では、リグニン中に硫黄原子を含まないリグニン、又は、硫黄原子の含有率が少ないリグニンが得られる。通常、リグニン中の硫黄原子の含有率は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。硫黄原子の含有量が増大すると親水性のスルホン酸基が増加するため、有機溶媒への溶解性が低下する。本発明者らは、さらに、爆砕物から有機溶媒でリグニンを抽出することにより、リグニンの分子量を制御し得ることを見出した。
【0021】
本発明で用いるリグニンの抽出に用いる有機溶媒は、1種又は2種以上複数の混合のアルコール溶媒、アルコールと水を混合した含水アルコール溶媒、そのほかの有機溶媒または、水と混合した含水有機溶媒を使用することができる。水にはイオン交換水を使用することが好ましい。水との混合溶媒の含水率は0質量%〜70質量%が好ましい。リグニンは水への溶解度が低いため、水のみを溶媒とするとリグニンを抽出することが困難である。また、用いる溶媒を選択することにより、得られるリグニンの重量平均分子量を制御することが可能である。
【0022】
本発明の接着剤としては、通常、リグニンと、少なくとも1種の硬化剤と、有機溶媒を含む。本発明の接着剤は、例えば、接着時に硬化剤を加えることにより常温(25℃)または加熱により硬化が進行し、接着が可能となる。前記接着剤に含まれる有機溶媒、あるいは、リグニンの抽出に用いられる有機溶媒としてはアルコール、トルエン、ベンゼン、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどがあり、これらは二種類以上、混合して用いることができる。
なお、本発明において、リグニンの含有量は、有機溶媒を含む接着剤に対し、通常、5〜90質量%であり、好ましくは10〜80質量%である。
【0023】
アルコールにはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクノヘキサノールなどのモノオール系とエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリエタノールアミンなどのポリオールが挙げられる。また、さらに好ましくは、天然物質から得られるアルコールであることが、環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、天然物質から得たメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、グリセリン、ヒドロキシメチルフルフラールなどが挙げられる。
【0024】
本発明の接着剤に用いる有機溶媒は、有機溶媒として利用範囲に特に制限は無いが、前記リグニンを抽出可能な有機溶媒、または混合物が使用できる。本発明の接着剤は、例えば、被着体に塗布後、硬化反応によって接着する。硬化を促進するため加熱、高温で焼付けをして、硬化時間を短縮しても良い。
【0025】
本発明で用いる硬化剤としてアルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物が挙げられる。アルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロラール、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドを生成する化合物としてはヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。特にヘキサメチレンテトラミンが好ましい。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することもできる。また、硬化性、耐熱性の面からヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0026】
本発明で用いる硬化剤として多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族多価カルボン酸や、トリメリット酸、ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸無水物の具体例としては、例えば、マロン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、スベリン酸無水物、アゼライン酸無水物、エチルナジック酸無水物、アルケニルコハク酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物等の脂肪族多価カルボン酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0027】
本発明で用いる硬化剤としてエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂にはビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシがある。また、さらに天然由来物質から得られたエポキシ樹脂であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸エステル類、エポキシ化アマニ油、ダイマー酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0028】
本発明で用いる硬化剤としてイソシアネートが挙げられる。イソシアネートには、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートおよび芳香族系イソシアネートの他、それらの変性体が挙げられる。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いる硬化剤としてアクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂としてはアクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルから選ばれる一つ以上のモノマーを単独または共重合したものが使用できる。
【0030】
本発明の接着剤には硬化促進剤を含んでも良い。硬化促進剤としては、シクロアミジン化合物、キノン化合物、三級アミン類、有機ホスフィン類、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類などが挙げられる。
【0031】
本発明の接着剤においては、必要に応じて各種添加剤成分、反応触媒、可塑剤(鉱油、シリコンオイル等)、滑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、無機充填材、有機充填材、リグニン抽出後固形分(セルロースなど)などをポリマー成分の重合時やポリマー成形体の成形加工時に配合することもできる。また、他の公知の難燃剤と併用しても良い。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
(リグニンの抽出)
リグニン抽出原料としては、竹を使用した。適当な大きさにカットした竹材を水蒸気爆砕装置の2Lの耐圧容器に入れ、3.5MPaの水蒸気を圧入し、4分間保持した。その後バルブを急速に開放することで爆砕処理物を得た。洗浄液のpHが6以上になるまで得られた爆砕処理物を水により洗浄して水溶性成分を除去した。その後、真空乾燥機で残存水分を除去した。得られた乾燥体100gに抽出溶媒(アセトン)1000mlを加え、3時間攪拌した後、ろ過により繊維物質を取り除いた。得られた濾液から抽出溶媒(アセトン)を除去し、リグニンを得た。得られたリグニンは常温(25℃)で茶褐色の粉末であった。
【0034】
(リグニンの分析)
溶媒溶解性としては、前記リグニン1gを、有機溶媒10mlに加えて評価した。常温(25℃)で容易に溶解した場合は○、50〜70℃で溶解した場合は△、加熱しても溶解しなかった場合を×として、評価した。溶媒群1としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、溶媒群2としてメタノール、エタノール、メチルエチルケトンとして溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも○、溶媒群2ではいずれも△の判定であった。
【0035】
リグニン中の硫黄原子の含有率は燃焼分解−イオンクロマトグラフ法により定量した。装置は株式会社三菱化学アナリテック製自動試料燃焼装置(AQF−100)及び日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフ(ICS−1600)を用いた上記リグニン中の硫黄原子の含有率は0.2質量%であった。さらに示差屈折計を備えたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてリグニンの分子量を測定した。多分散度の小さいポリスチレンを標準試料として用い、移動相をテトラヒドロフランとして使用し、カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−A120SとGL−A170Sとを直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は2400であった。
【0036】
上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量は無水酢酸−ピリジン法により水酸基価、電位差滴定法により酸価を測定し求めた。アセトン抽出竹由来リグニンの水酸基当量は140g/eq.であった。
リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を以下の方法で決定した。リグニン2gのアセチル化処理を行い、未反応のアセチル化剤を留去し、乾燥させたものを、重クロロホルムに溶解させ、1H−NMR(BRUKER社製、V400M、プロトン基本周波数400.13MHz)により測定した。アセチル基由来のプロトンの積分比(フェノール性水酸基に結合したアセチル基由来:2.2〜3.0ppm、アルコール性水酸基に結合したアセチル基由来:1.5〜2.2ppm)からモル比を決定したところ、P/A比は2.2/1.0であった。
【0037】
(接着剤の作製例)
硬化剤として、ヘキサメチレンジイソシアネート(和光純薬工業株式会社製)0.9g、前記リグニン5g、ジラウリン酸ジブチルすず(IV)(和光純薬工業株式会社製)0.06gを、MEK(メチルエチルケトン)5gに溶解し、リグニンを46質量%含む接着剤を作製した。なお、接着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は84質量%であった。これを木材に塗布し、さらに塗布した木材面に接着剤未塗布の木材を張り合わせた。張り合わせた木材を100℃、1時間加熱したところ2つの木材が接着していることを確認した。
【0038】
(曲げ接着強度)
JIS K6856 A法に準じて木材に対する接着強度を評価した。幅25mm、長さ100mm、厚み16mmの木材2枚の端部12.5mmを重ね合わせ、ここを接着部とし、上記接着剤にて、100℃、1時間加熱(硬化)し、接着した。接着した試験片を支点間距離38mmの支持台に接着部の中心が支持台の中心となるように載せ、マイクロフォース精密試験機(インストロン社製、インストロン5548型)を用い、試験片中心部に10mm/分で荷重を加えた。荷重を加えて破断した際の最大荷重を調べ、以下の式を用いて曲げ接着強さを調べた。
(式)S=P/A
=曲げ接着強さ(MPa)
P=最大荷重(N)
A=試験片の実測した重ね合わせの部分の面積(mm
その結果、上記接着剤の曲げ接着強さは、2MPaであった。
【0039】
〔実施例2〕
(リグニンの抽出及び分析)
抽出溶媒としてメタノールを用いた以外は実施例1と同様にリグニンを得た。実施例1と同様に元素分析及び分子量測定をした結果、それぞれリグニン中の硫黄原子の含有率0.1質量%、重量平均分子量は1900であった。
実施例1と同様に溶媒溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも○、溶媒群2ではいずれも○の判定であった。リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を実施例1と同様の方法で実施した。
実施例2で得られたリグニンのP/A比は1.6/1.0であった。実施例1と同様に上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量を測定した結果、水酸基当量は120g/eq.であった。
【0040】
(実施例3)
(接着剤の作製)
硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを6g、実施例2記載のリグニン40gをメチルエチルケトン20gに溶解し、リグニンを61質量%含む接着剤を作製した。なお、接着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は87質量%であった。木材表面に塗布し、木材を張り合わせた後、150℃、1時間で加熱したところ、木材同士の接着を確認した。
【0041】
(曲げ接着強度)
接着剤の加熱(硬化)条件を150℃、1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、曲げ接着強さを調べた。その結果、上記接着剤の曲げ接着強さは、2MPaであった。
【0042】
(実施例4)
(接着剤の作製)
実施例1記載のリグニン30gと、硬化剤として無水フタル酸(和光純薬工業株式会社製)10gをアセトン30gに溶解し、リグニンを43質量%含む、接着剤を得た。なお、接着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は75質量%であった。木材表面に塗布し、木材を張り合わせた後150℃、1時間で加熱したところ、木材同士の接着を確認した。
【0043】
(曲げ接着強度)
接着剤の加熱(硬化)条件を150℃、1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、曲げ接着強さを調べた。その結果、上記接着剤の曲げ接着強さは、1MPaであった。
【0044】
(実施例5)
(接着剤の作製)
実施例2記載のリグニン36gと、硬化剤として無水マレイン酸20gとジアリルフタレート1gをアセトン50gに溶解し、リグニンを34質量%含む、接着剤を得た。なお、接着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は63質量%であった。木材表面に塗布し、木材を張り合わせた後、150℃、1時間で加熱したところ、木材同士の接着を確認した。
【0045】
(曲げ接着強度)
接着剤の加熱(硬化)条件を150℃、1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、曲げ接着強さを調べた。その結果、上記接着剤の曲げ接着強さは、1MPaであった。
【0046】
(実施例6)
(接着剤の作製)
エポキシ樹脂との相溶性を評価した。実施例1記載のリグニン4g、アセトン3g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C、東都化成株式会社製)3gを混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、分離せず、析出物がないことを目視で確認した。
実施例1記載のリグニン28gと硬化剤として前記ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ21gをアセトン21gに均一になるまで溶解し、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN(四国化成工業株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)0.2gを加え、リグニンを40質量%含む接着剤を得た。なお、接着剤の不揮発分において、リグニンの含有量は57質量%であった。木材表面に塗布し、木材を張り合わせ室温(25℃)で1日放置(24時間)したところ、木材同士の接着を確認した。
【0047】
(難燃性評価)
難燃性の評価は、UL耐炎試験規格(UL94)に準じて行った。試験片として上記接着剤を乾燥後、破砕して粉末を作製し、厚さ3mm、長さ130mm、幅13mmの型に充填し、180℃、2時間で加圧加熱成形させたものを使用した。水平燃焼試験にてHBレベル以上を難燃性ありとした。評価の結果、燃焼速度は16mm/分であり、HBレベルを満たしていた。
【0048】
(曲げ接着強度)
接着剤の硬化条件を25℃、24時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、曲げ接着強さを調べた。その結果、上記接着剤の曲げ接着強さは、3MPaであった。
【0049】
(比較例1)
(接着剤の作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(バニレックスN、日本製紙株式会社製)を用い、接着剤の作製を試みた。元素分析法によって測定された上記リグニンスルホン酸塩中の硫黄原子の含有率は3質量%であった。重量平均分子量を株式会社島津製作所製高速液体クロマトグラフィー(C−R4A)により測定し、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算して求めた。移動相をDMF+LiBr(0.06mol/L)+リン酸(0.06mol/L)として使用し、カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−S300MDT−5を2つ直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は11000であった。
実施例1と同様に有機溶媒への溶解性を評価した。溶媒としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンを用いて溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
【0050】
実施例6と同様にエポキシ樹脂との相溶性を評価した。前記リグニンスルホン酸1g、シクロヘキサノン1g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C)1gを混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、接着剤を作製できなかった。
【0051】
(比較例2)
(接着剤の作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(サンエキスP321、日本製紙株式会社製)を用いた以外は比較例1と同様に接着剤の作製を試みた。比較例1と同様に有機溶媒への溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
エポキシ樹脂との相溶性を評価した結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、接着剤を作製できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと硬化剤を含む接着剤であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分として前記リグニンを5〜90質量%含むことを特徴とする接着剤。
【請求項2】
リグニンの重量平均分子量が100〜7000である請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
リグニン中の硫黄原子の含有率が2質量%以下である請求項1又は2に記載の接着剤。
【請求項4】
リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤。
【請求項5】
リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンである請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤。
【請求項6】
硬化剤がエポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項7】
硬化剤がアクリル樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項8】
硬化剤がイソシアネートである請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項9】
硬化剤がアルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項10】
硬化剤が多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項11】
硬化剤が不飽和基を含む多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物から1つないし2つ以上選択されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。

【公開番号】特開2011−219718(P2011−219718A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173536(P2010−173536)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】