説明

接触型メカニカルシール

【課題】密封する流体が高圧となっても、密封端面全体としての平面度が低下するのを抑制することのできる接触型メカニカルシールを提供する。
【解決手段】軸封部ケーシング4の内周面4aと回転軸2との間に形成される環状の空間部3に設けられ、回転軸2の回転によって相対回転する回転密封環22と静止密封環24とを備えている。回転密封環22が有する第一密封端面26と静止密封環24が有する第二密封端面27とが接触することにより流体を密封すると共に、当該流体の圧力によって静止密封環24が回転密封環22よりも歪みやすい構成である。静止密封環24の内の、第二密封端面27以外であって、周方向に連続している表面部に、集中的な歪みを生じさせ得る断面変化部37が、周方向に均等に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する一対の密封環の密封端面同士を接触させて流体を密封する接触型メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、揮発性の液体が封入されている産業用のプロセスポンプやミキサー等の回転機器に組み込まれる密封装置として、一次側と二次側との一組のメカニカルシールを備えているものがある(特許文献1参照)。これら一次側と二次側との一組によって、回転機器内部のプロセス液が気化することにより発生した気体が大気側に漏れるのを防いでいる。
特許文献1に記載のメカニカルシールは、回転軸側に取り付けられた回転密封環と、ケーシング側に取り付けられた静止密封環とを有し、回転密封環の密封端面と静止密封環の密封端面とが接触することで気体(流体)の漏れを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−83889号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のメカニカルシールでは、回転密封環は、セラミックス等の硬質材によって製造されているので、密封する流体が高圧になっても、密封端面に悪影響を及ぼすほどの歪みは生じにくい。しかし、静止密封環は、カーボン等の比較的変形しやすい材質によって製造されているので、高圧になると回転密封環よりも変形しやすい。
さらに、静止密封環は、ケーシングに固定されたリテーナにスプリングを介して軸方向に移動可能として保持されている。このために、静止密封環はケーシングやリテーナに固定されておらず、回転密封環に比べて変形しやすい構造となっている。
【0005】
このため、密封する流体の圧力が高くなると、静止密封環が変形し密封端面に大きな歪み(うねり)が生じるおそれがあり、しかもこの歪みは密封端面の周方向全体で一様でなく、局部的に大きく歪んだ部分が不連続に発生する場合がある。この場合、静止密封環の密封端面全体としての平面度や、接触する相手となる回転密封環の密封端面に対する平行度が損なわれる。
静止密封環の密封端面の平面度が損なわれると、密封端面間を適切な接触状態に維持することができず、密封機能が低下し、流体の漏れが生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、密封する流体が高圧となっても、密封端面全体としての平面度が低下するのを抑制することのできる接触型メカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の接触型メカニカルシールは、ケーシングの内周面と当該内周面と同軸にある回転軸との間に形成される環状の空間部に設けられ、当該回転軸の回転によって相対回転する第一密封環と第二密封環とを備え、前記第一密封環が有する第一密封端面と前記第二密封環が有する第二密封端面とが接触することにより前記空間部の軸方向一方側の流体を密封すると共に、当該流体の圧力によって前記第二密封環が前記第一密封環よりも歪みやすい構成である接触型メカニカルシールであって、前記第二密封環の内の、前記第二密封端面以外であって、周方向に連続している表面部に、集中的な歪みを生じさせ得る断面変化部が、周方向に均等に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、流体を密封する際に、当該流体の圧力によって第二密封環に歪みが生じると、当該第二密封環の周方向に連続している表面部に設けられている断面変化部に、集中的な歪み(集中応力)を積極的に生じさせることができ、しかも、当該断面変化部は、周方向に均等に配置されているので、集中的な歪みが生じている部分を周方向に等間隔で連続させることができる。このため、第二密封環の第二密封端面全体を、同一又はほぼ同一の凹凸歪みパターンが周方向に連続する面に矯正することができる。すなわち、第二密封端面の内の周方向の一部のみが局所的に大きく変形することを防ぐことができ、第二密封端面全体としての平面度や、相手となる第一密封端面に対する平行度が低下するのを抑制することができる。
なお、前記断面変化部としては、例えば、単一の凹部や、近接して設けられた複数の凹部からなる凹部群等とすることができる。
【0009】
また、前記接触型メカニカルシールは、前記第二密封環の径方向内方に位置し当該第二密封環の前記第一密封環側への移動をガイドする筒状のボス部を有し、前記ケーシングに固定された環状のリテーナと、前記第二密封環を前記第一密封環側へ付勢して前記第二密封端面を前記第一密封端面へ押し付ける弾性部材と、前記第二密封環と前記ボス部との間に設けられ両者間を密封するシールリングと、を更に備え、前記第二密封環は、前記第二密封端面が形成されている先部側密封環と、前記先部側密封環と別体であり前記シールリングを収容する凹溝が内周面に形成されている基部側密封環とを有し、前記基部側密封環は、熱膨張係数が前記ボス部と同等以上である材質からなるのが好ましい。
【0010】
この場合、第二密封端面が形成されている先部側密封環を、接触相手となる第一密封環の第一密封端面に接触させるために適した材質とし、基部側密封環を当該先部側密封環と別の材質とすることができる。そこで、基部側密封環を熱膨張係数がボス部と同等以上である材質とすることで、温度が上昇し、ボス部が径方向に膨張しても、基部側密封環は径方向にボス部と同等以上に膨張することができる。
仮に、第二密封環(基部側密封環)が径方向にボス部よりも膨張できない場合、第二密封環(基部側密封環)とボス部との間を密封するシールリングの径方向の締め代が大きくなって、基部側密封環を含む第二密封環が第一密封環側へ移動する際の抵抗が増え、当該第二密封環の移動が抑制され、密封端面同士の接触不良が生じて密封性能が低下するおそれがある。しかし、本発明の前記構成によれば、基部側密封環は径方向にボス部と同等以上に膨張することができるので、前記のような密封性能の低下を防ぐことが可能となる。
【0011】
また、この場合において、前記シールリングは熱膨張係数が前記基部側密封環よりも大きい材質からなり、前記凹溝と、前記ボス部に外嵌し常温状態にある前記シールリングとの間に、径方向のクリアランスが形成されているのが好ましい。
前記クリアランスによれば、高温になってシールリングが膨張し拡径しても、当該シールリングが、基部側密封環の凹溝を径方向外側に強く押すことを防ぐことができ、シールリングによって基部側密封環を含む第二密封環の移動が抑制されず、第一密封端面と第二密封端面との間における密封性能を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、密封する流体の圧力が高くなって第二密封環が歪んだとしても、第二密封端面全体としての平面度や、相手となる第一密封端面に対する平行度が低下するのを抑制することができるので、密封端面間を適切な接触状態に維持することができ、密封機能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の接触型メカニカルシールを備えた密封装置の実施の一形態を示す縦断面図である。
【図2】第二メカニカルシールの縦断面図である。
【図3】第二メカニカルシールの要部を説明する説明図である。
【図4】先部側密封環の正面図である。
【図5】他の形態の先部側密封環の正面図である。
【図6】他の形態の先部側密封環の正面図である。
【図7】密封端面の凹凸パターンの説明図であり、(a)は外周側部分、(b)は径方向中間部分、(c)は内周側部分を示している。
【図8】密封環の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の接触型メカニカルシールを備えた密封装置の実施の一形態を示す縦断面図である。この密封装置は、ポンプやミキサー等の回転機器の機内側(図1では右側)と機外側(左側)とに仕切り、機内側に存在している流体を密封するためのものである。
回転機機は、機器ケーシング1と、この機器ケーシング1の内周面と同軸に設けられた回転軸2とを備えている。そして、機器ケーシング1に、回転軸2と同軸となるようにして、密封装置が備えている軸封部ケーシング4が固定されている。
【0015】
密封装置は、さらに、機内側の第一メカニカルシール10と、機外側の第二メカニカルシール20とを備えている。これらシール10,20は、軸封部ケーシング4の内周面4aと回転軸2との間に形成される環状の空間部3に設けられている。第一メカニカルシール10と第二メカニカルシール20とは、回転軸2の軸線方向に並んで設けられている。
【0016】
第一メカニカルシール10は、回転軸2に外嵌固定されたスリーブ2aの機内側に取り付けられた環状の回転側リテーナ11と、リテーナ11に周方向に回転不能に取り付けられた回転密封環12と、軸封部ケーシング4に固定された環状の静止側リテーナ13と、静止側リテーナ13に周方向に回転不能でかつ軸線方向に移動可能に取り付けられた静止密封環14と、静止密封環14を回転密封環12側へ押圧するスプリング15とを備えている。静止密封環14は、基部側密封環14aと先部側密封環14bとを有している。
そして、回転密封環12の密封端面16と、静止密封環14の密封端面17とが接触した状態となることにより、機内側となる流体領域Aと(後述する)パージガスが排出される中間領域Bとが仕切られ、流体領域Aに存在している流体を密封(一次密封)している。実施形態の第一メカニカルシール10は、接触型メカニカルシール(接触型ドライコンタクトシール)となる。
【0017】
第二メカニカルシール20は、前記スリーブ2aに取り付けられた環状の回転側リテーナ21と、リテーナ21に周方向に回転不能に取り付けられた回転密封環(第一密封環)22と、軸封部ケーシング4に固定された環状の静止側リテーナ23と、静止側リテーナ23に周方向に回転不能でかつ軸線方向に移動可能に取り付けられた静止密封環(第二密封環)24と、静止密封環24を回転密封環22側へと押圧するスプリング25とを備えている。静止密封環24は、先部側密封環24bと基部側密封環24aとを有している。
これにより、回転軸2が回転することによって、回転密封環22は、静止密封環24に対して軸線C回りに回転する。
【0018】
そして、回転密封環22に形成されている密封端面(第一密封端面)26と、基部側密封環24aに形成されている密封端面(第二密封端面)27とが接触した状態となることにより、前記中間領域Bと機外側となる大気領域Hとを仕切り、第一メカニカルシール10から漏れた流体、すなわち、中間領域Bに存在している流体を密封(二次密封)している。第二メカニカルシール20は、接触型メカニカルシール(接触型ドライコンタクトシール)となる。
【0019】
図2は、第二メカニカルシール20の縦断面図である。回転密封環22は、回転軸2にスリーブ2a及び回転側リテーナ21を介して固定されたほぼ断面方形の円環状部材である。静止密封環24に対向する軸方向の端面は、軸線Cに直交する平滑な密封端面26である。回転密封環22の径方向外方において、回転側リテーナ21の外周面と軸封部ケーシング4の内周面4aとの間には隙間が設けられていて、中間領域Bと、(後述する)静止密封環24の先部側となる機内側領域K2との間において流体の流れは自由である。
【0020】
静止側リテーナ23は、環状の部材であり、軸封部ケーシング4に固定されている円盤状の本体部23aと、本体部23aの内周側部から軸方向に延びている筒状のボス部23bと、ボス部23bよりも径方向外方で本体部23aから軸方向に延びている筒状の外筒部23cとを有している。ボス部23bは、先部側密封環24b及び基部側密封環24aを有する静止密封環24の径方向内方に位置していて、これら先部側密封環24b及び基部側密封環24aが、軸線C方向に沿って回転密封環22側へ移動可能となるようにガイドしている。
【0021】
図3は、第二メカニカルシール20の要部を説明する説明図である。前記のとおり、静止密封環24は、先部側密封環24bと基部側密封環24aとに軸方向に二分割されていて、別体である。先部側密封環24bの軸方向端面に密封端面27が形成されている。
基部側密封環24aの内周面の角部にOリング28(リングシール)を収容する凹溝29が形成され、この凹溝29の側壁29aと、この側壁29aに対向する先部側密封環24bの内周側壁29bと、当該凹溝29の底壁29cとによって、Oリング28を三方から囲む収容部が構成されている。基部側密封環24aは、Oリング28用の凹溝29部分を除いて、断面方形である。
Oリング28は、基部側密封環24aと静止側リテーナ23のボス部23bとの間、及び、基部側密封環24aと先部側密封環24bとの間を同時に密封することができる。
基部側密封環24aは、隙間を有してボス部23bに外嵌していて、スプリング25を介して回転側リテーナ21(図2参照)の本体部23aに取り付けられている。
【0022】
先部側密封環24bは、ほぼ断面方形である本体部30と、本体部30の外周部から径方向外方へと伸びている円環部31とを有している。先部側密封環24bの内の、回転密封環22に対向する軸方向の端面は、軸線Cに直交する平滑な密封端面27である。先部側密封環24bの径方向外方において、円環部31の外周面と外筒部23cの内周面との間には隙間(絞り部35)が設けられていて、静止密封環24の基部側となる機外側領域K1と、先部側となる機内側領域K2との間において流体の流れは自由である。
【0023】
先部側密封環24bの円環部31には、後に説明する凹部37が周方向に複数形成されていて、静止側リテーナ23から軸方向に延びているピン32(図1参照)が、この凹部37に嵌ることで、先部側密封環24bは周方向に回転不能となる。
基部側密封環24a及び先部側密封環24bは、静止側リテーナ23のボス部23bと外筒部23cとの間に設けられていて、径方向の移動が制限され、また、周方向に回転不能であるが、軸線方向には移動可能となっている。
【0024】
前記スプリング25は、周方向で等間隔に複数設けられている。スプリング25は、取り付けられた状態で圧縮されていて、先部側密封環24bの密封端面27を回転密封環22の密封端面26へ押し付けるように、静止密封環24を回転密封環22側へ付勢している。すなわち、スプリング25は基部側密封環24aを軸線方向に押し、基部側密封環24aはOリング28を介して先部側密封環24bを軸線方向に押し、先部側密封環24bは回転密封環22へ押圧される。このため、先部側密封環24bの密封端面27と、回転密封環22の密封端面26とが面接触し、中間領域Bと繋がっている領域K2の流体が大気領域H側へ漏れることを防止している。
【0025】
第二メカニカルシール20が有するさらなる漏れ防止機能について説明する。
図2において、軸封部ケーシング4には、図外のパージガス供給手段が接続され、また、先部側密封環24bの背部側となる機外側領域K1にパージガスを供給する供給路4bが形成されている。パージガス供給手段からパージガスが供給路4bを通じて機外側領域K1に供給される。さらに、基部側密封環24の機内側領域K2からパージガス供給手段側へとパージガスを排出する排出路4cが形成されている。なお、パージガスは流体領域A及び大気領域Hに漏洩しても支障のないガスが使用され、例えば、窒素ガスとすることができる。
機外側領域K1に供給されたパージガスは前記絞り部35を通過して機内側領域K2へと流れるが、この絞り部35を通過することで圧力損失が発生し、機内側領域K2におけるパージガスの圧力は、機外側領域K1におけるパージガスの圧力よりも小さくなる。
【0026】
先部側密封環24bの密封端面27には環状凹溝33が形成されていて、さらに、環状凹溝33と機外側領域K1とを連通する連通路34が形成されている。連通路34は、周方向に所定の間隔(等間隔)で複数本形成されている。このため、環状凹溝33にはパージガスが侵入することができる。
先部側密封環24bの密封端面27と、回転密封環22の密封端面26との面接触により密封状態が確保されていることから、環状凹溝33からのパージガスの漏れはほとんど発生しない。このため、機外側領域K1と環状凹溝33との内圧はほとんど同じとなる。この結果、環状凹溝33の内圧を、機内側領域K2の内圧よりも大きく保つことができ、機内側領域K2(中間領域B)に存在している気体と、パージガスとの混合ガスが、環状凹溝33内に、すなわち、第二メカニカルシール20のシール面間(密封端面26,27間)に侵入して、大気領域H側へ漏れるのを防止することができる。また、パージガスを環状凹溝33に供給することで、摺接する密封端面26,27を当該パージガスによって冷却することができる。
【0027】
先部側密封環24bは回転密封環22よりも軟質である材料で製造されている。例えば、先部側密封環24bはカーボン製(油含浸カーボン)である。回転密封環22は硬質材製であり、硬質材としては、例えば、WC、SiC等のセラミックスや超硬合金等がある。したがって、密封する流体の圧力によって、静止密封環24の先部側密封環24bは、回転密封環22よりも歪みやすい構成となっている。
【0028】
また、図3に示しているように、先部側密封環24bの断面形状(軸線Cを通過する平面上における断面形状)は、当該断面の図心を通過する対称軸を有していない形状である。つまり、先部側密封環24bの断面形状は複雑であり部分的に大きく変化している形状である。これに対して、回転密封環22は断面形状がほぼ方形である。
したがって、静止密封環24の先部側密封環24bは、回転密封環22よりも複雑な形態で歪みやすい構成、すなわち、断面の図心回りに回転を伴うような歪みが生じやすい構成となっている。
【0029】
このため、流体の圧力が高くなると、先部側密封環24bは、回転密封環22と比べて、その圧力によって生じる圧縮力により最大歪みが大きくなり、また、局部的に大きな歪みが周方向で不連続に発生するおそれがある。このように、局部的に大きな歪みが不連続に発生すると、先部側密封環24bの密封端面27における平面度や、回転密封環22の密封端面26に対する平行度が損なわれ、密封性能に悪影響を与えるおそれがある。
そこで、本発明では、先部側密封環24bの内の、密封端面27以外であって、周方向に連続している表面部に、流体による圧力が作用した際に集中的な歪みを生じさせる断面変化部37が、周方向に均等に(等間隔で)配置されている。
【0030】
図4は、先部側密封環24bの正面図である。この実施形態では、断面変化部37は凹部37aであり、特に、円環部31の外周面31aから内周側に向かって切り欠いて形成した凹部37aである。この凹部37aでは、当該凹部37aと周方向で隣接する部分(凹部37aが形成されていない部分)と比べて断面形状が大きく変化しているため、先部側密封環24bの変形に伴って、集中的な歪み(集中応力)が生じる。凹部37aは周方向に等間隔で配置されていて、図4では8箇所に形成されている。また、この実施形態では、凹部37aが形成されている表面部(外周面31a)は、漏れを防止する流体が接する受圧部分(流体の圧力が作用する部分)となる。
【0031】
凹部37a(断面変化部37)の形状、数及び配置は、流体の圧力によって密封端面27に生じる歪みを制御することで、同一又はほぼ同一の凹凸パターンが周方向に連続するうねり波形をなすように、設定されている。
すなわち、先部側密封環24bを軸線C回りで複数の分割部分Sに等分したと仮定すると(周方向にN等分したと仮定すると)、各分割部分Sに形成される凹部37aと、これに隣接する分割部分Sに形成される凹部37aとを、数、形状及び配置が同一の形態となるように形成する。これにより、周方向で等間隔に、凹部37aによる切り欠き効果によって応力集中が生じて、凹部37aの形成部分に集中的な歪みを積極的に生じさせ、図7(a)に示しているように、各分割部分Sの密封端面部分に形成される歪みの凹凸パターン(凹凸パターン部分40a)と、これに隣接する分割部分Sの密封端面部分に形成される歪みの凹凸パターン(凹凸パターン部分40a)とが同一又はほぼ同一となる。なお、図7は密封端面26,27の凹凸パターンの説明図であり、(a)は外周側部分、(b)は径方向中間部分、(c)は内周側部分を示している(図7では説明のために密封端面26,27同士を離して記載している)。
【0032】
分割部分Sの数(等分数)N、つまり密封端面27の全周にわたって形成される凹凸パターンの数(連続数)は、当該凹部37aを形成することによって先部側密封環24bの強度が密封機能に悪影響を与えない範囲において可及的に多くなるように設定するのが好ましい。なお、図4の形態では、N=8としているが、図5に示しているように、N=16等とすることもできる。
【0033】
また、図8(a)に示しているように、密封端面26,27を、適切な接触状態とするために、各分割部分Sに形成する凹部37a(断面変化部37)の数、形状及び配置は、制御すべき歪み(凹部37aを形成しない場合において密封端面27に生じる歪み)の程度や、先部側密封環24bの断面形状等の条件に応じて設定される。
さらに、各凹凸パターンにおける凹凸形態は、凹部37aの位置や形状との関係で、先部側密封環24bの半径方向位置によって異なることになるが、凹部37aの数、形状及び配置を、各凹凸パターンの半径方向における歪み量が少なくとも密封端面27の内周側と外周側とで同一又はほぼ同一となるように設定するのが好ましい。
すなわち図7により説明すると、図7(a)に示している密封端面27の外周側における凹凸パターン部分40aの歪み量f1と、図7(c)に示している内周側における凹凸パターン部分40cの歪み量f3とが同一となるように、さらには、図7(b)に示しているように径方向中間部分における凹凸パターン部分40bの歪み量f2も、同一となるように、凹部37a(断面変化部37)の数、形状及び配置を、設定するのが好ましい。
【0034】
このような設定は、軸線Cを中心とした第一仮想円に沿って凹部37aを周方向で均等に配置する場合において、この第一仮想円の半径を所定の値に設定することで実現することができる。
さらには、一つの分割部分Sに、複数の断面変化部37を設けても良く、例えば、図5に示しているように、軸線Cを中心とした第一仮想円R1に沿って凹部(切り欠き)37aを周方向で等間隔に配置し、かつ、この第一仮想線R1と異なる直径を有する第二仮想線R2に沿って別の凹部(穴)37bを更に周方向で等間隔に配置してもよい。なお、この場合において、第一仮想円R1に沿う凹部37aと、第二仮想円R2に沿う凹部37bとは図5のように位相が同じであってもよいが、異なっていてもよい。
そして、図5に示しているように、各分割部分Sには、形状を異にする複数種類の断面変化部37が形成されていてもよい。
【0035】
このように、凹部37aの数、形状及び配置を、各凹凸パターンの半径方向における歪み量が少なくとも密封端面27の内周側と外周側とで同一又はほぼ同一となるように、設定することで、図8(a)に示しているように、密封端面26,27を適切な接触状態とすることができる。
なお、図8(b)に示しているように、静止密封環24の密封端面27の外周側と内周側とで歪みが一様ではなく、異なることで、密封端面27が、回転密封環22の密封端面26に対して外開き状態で歪んだ場合、密封端面27の内周側端部が、相手の密封端面26に偏って強く接触する。また、図8(c)に示しているように、静止密封環24の密封端面27が内開き状態に歪んだ場合、密封端面27の外周側端部が、相手の密封端面26に偏って強く接触する。この結果、カーボンで構成された静止密封環24が、短期間のうちに損傷することもあり、長期にわたって良好でかつ安定した密封機能を発揮できなくなる場合がある。
しかし、前記のように凹部37aの数、形状及び配置を設定すれば、凹凸パターンを制御することができ、このような問題点を解消することができる。
【0036】
断面変化部37の具体例としては、切り欠きからなる凹部の他に、貫通穴、ザグリ穴(非貫通穴)からなる凹部とすることができる。
各分割部分Sに複数の断面変化部37が形成される場合、当該断面変化部37は、凹部のみ、ザグリ穴のみ、凹部とザグリ穴との双方であってもよい。
また、断面変化部37は、漏れを防止する流体が接しない非受圧部分に形成されていてもよい。例えば、先部側密封環24bの内周面に形成されていてもよい。
さらに、図7に示しているように、断面変化部37を、図5のような単一の凹部37aからなる構成とする他に、近接して設けられた複数の凹部37cからなる凹部群とすることができる。このように、凹部群とする場合、当該凹部群に含まれる凹部37cの形状がそれぞれ異なっていてもよい(図示せず)。
【0037】
また、図1において、静止側リテーナ23に対して先部側密封環24bを周方向に回転不能とするために、当該静止側リテーナ23から軸方向に延びているピン32が設けられている。そこで、このピン32を、断面変化部37としての前記凹部37aに係合させればよい(図4参照)。すなわち、凹部37aの少なくとも一部は、ピン32による先部側密封環24bの回り止め用の係合部も兼ねている。
なお、先部側密封環24bの回り止め用の係合部を、断面変化部37としての凹部37aとは別として設けてもよい。この場合、当該係合部の数よりも、断面変化部37としての凹部37aの数を多くするのがよい。これは係合部が先部側密封環24bの歪みに影響を与えることがあり、この場合、当該歪みを前記のように断面変化部37によって制御するためには、係合部の数よりも多い数の断面変化部37が必要となると考えられるためである。
【0038】
以上の実施形態による第二メカニカルシール20によれば、流体を密封する際に、当該流体の圧力によって先部側密封環24bに歪みが生じると、例えば図4において、先部側密封環24bの外周面31aに設けられている断面変化部37(凹部37a)に、集中的な歪み(集中応力)を積極的に生じさせることができ、しかも、この断面変化部37は、周方向に均等に配置されているので、集中的な歪みが生じている部分を周方向に等間隔で連続させることができる。
このため先部側密封環24bの密封端面27を、同一又はほぼ同一の凹凸歪みパターンが周方向に連続する面に矯正することができる。すなわち、密封端面27の内の周方向の一部のみが局所的に大きく変形することを防ぎ、密封端面27全体としての平面度や、相手となる回転密封環22の密封端面26に対する平行度が低下するのを抑制することができる。
【0039】
特に、先部側密封環24bの断面が図3に示しているような形状であり、外周面側から流体の圧力が作用する場合、先部側密封環24bは径方向に圧縮され、凹部37aが形成されていない場合では、図8(c)に示しているような形態で先部側密封環24bは変形する。なお、この場合、回転密封環22の密封端面26では外径部に接触痕が見られる。
しかし、先部側密封環24bの外周側部分(円環部31)に、断面変化部37として凹部37aのような欠損部を設けることで、当該欠損部で集中応力(集中圧縮応力)が発生する他に、先部側密封環24bは当該欠損部において周方向に弾性変形し易くなることから、作用するはずの周方向の圧縮応力が開放され、先部側密封環24bの外周側部分の歪み(軸線方向の変形)が小さくなると考えられる。このため、図8(a)に示しているように、密封端面26,27は、適切な接触状態が得られる。
【0040】
さらに、断面変化部37によって、先部側密封環24bに集中的な歪み(集中応力)を積極的に生じさせることで、先部側密封環24b全体に生じる歪みを、密封端面27全体に分散させ、断面変化部37を形成しない場合に比べて、最大歪み量を大幅に小さくすることが可能となる。
この結果、回転密封環22に比して軟質である先部側密封環24bの密封端面27が、局部的に大きく変形し、しかもその変形が周方向で不連続となることで、平滑度(平面度)、相手となる密封端面26との平行度、同心度が損なわれるのを抑制することができ、高圧条件下においても、密封機能を長期にわたって良好かつ安定して発揮させることができる。
【0041】
また、図3において、静止密封環24は、基部側密封環24aと先部側密封環24bとに分割され別体となっていることから、先部側密封環24bを、密封端面27を構成するために適した材質(カーボン製)とすることができ、先部側密封環24bをこのような材質(カーボン製)に選定しても、基部側密封環24aを先部側密封環24bと別の材質とすることができる。そこで、基部側密封環24aを、熱膨張係数(線膨張係数)が静止側リテーナ23のボス部23bと同等以上である材質とすることができる。具体的には、静止側リテーナ23(ボス部23b)は、ステンレス鋼製であることから、基部側密封環24aも同じステンレス鋼製としている。
【0042】
このように、基部側密封環24aをボス部23bと同じステンレス鋼製とすることで、高温の使用環境で温度が上昇し、ボス部23bが径方向に膨張しても、基部側密封環24aは径方向にボス部23bと同等に膨張することができる。
仮に、基部側密封環24aが径方向にボス部23bよりも膨張できない場合、基部側密封環24aとボス部23bとの間を密封するOリング28の径方向の締め代が大きくなって、基部側密封環24aが軸線方向に移動する際の抵抗が増える。このため、基部側密封環24aを含む静止密封環24の移動(回転密封環22に対する追従)が抑制され、密封端面26,27同士の接触不良によって密封性能が低下するおそれがある。
しかし、本発明の前記構成によれば、基部側密封環24aは径方向にボス部23bと同等に膨張することができるので、前記のような密封性能の低下を防ぐことが可能となる。
【0043】
さらに、Oリング28はゴム製であるため、当該Oリング28は熱膨張係数が基部側密封環24aよりも大きい。このため、高温の環境では、ボス部23b及び先部側密封環24bは径方向に同様に膨張すると共に、Oリング28は径方向にさらに大きく膨張する。
この場合、Oリング28と基部側密封環24aとの間の締め代が大きくなることが考えられる。しかし、これを防止するために、図3に示しているように、基部側密封環24bの内周面に形成されている凹溝29の径方向外側の壁(底壁)29cと、ボス部23bに外嵌していて常温状態にあるOリング28との間に、径方向のクリアランスeが形成されている。すなわち、凹溝29の底壁29cの直径Dは、ボス部23bに外嵌していて常温状態にあるOリング28の外径dよりも大きくなる(D>d)ように、凹溝29は設定されている。
このクリアランスeによれば、高温になってOリング28が膨張し拡径しても、当該Oリング28が凹溝29を径方向外側に強く押すのを防ぐことができ、Oリング28によって基部側密封環24aを含む静止密封環24の軸方向の移動が抑制されず、密封端面26,27間における密封性能を維持することが可能となる。
【0044】
以上の実施形態による第二メカニカルシール20によれば、密封する流体が高温(例えば170℃)高圧(例えば4MPa)となる環境下において、当該流体の圧力及び温度変化によって先部側密封環24bが歪んだとしても、その密封端面27全体としての平面度や、相手となる密封端面26に対する平行度が低下するのを抑制することができる。このため、密封端面26,27間を適切な接触状態に維持することができ、密封機能を維持することが可能となり、流体の漏れを長期にわたって防止することができる。
また、密封端面26,27同士は、適切な接触状態(図8(a)の状態)となって、偏った接触状態(図8(b)(c)の状態)とならないことから、密封端面26,27において、異常摩耗の発生、異常発熱の発生を防止することができる。
【0045】
また、図1において、流体領域Aは高圧であり、第二メカニカルシール20は、第一メカニカルシール10から漏れた流体を補助的に密封する必要があることから、第一メカニカルシール10と同等の密封性能を有している。そこで、第二メカニカルシール20の前記各構成を、第一メカニカルシール10に適用することができる。
また、本発明の接触型メカニカルシールは、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。例えば、接触型メカニカルシール(密封装置)は、ポンプやミキサー等以外に、コンプレッサ、ブロワ等の回転機器に適用することができ、さらには、電子や医療分野における回転機器にも適用することができる。また、第一メカニカルシール10は、密封端面同士が非接触となる非接触型であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
2 回転軸
3 空間部
4 軸封部ケーシング
4a 内周面
22 回転密封環(第一密封環)
23 静止側リテーナ
23b ボス部
24 静止密封環(第二密封環)
24a 基部側密封環(基部側密封環)
24b 先部側密封環(先部側密封環)
25 スプリング(弾性部材)
26 密封端面(第一密封端面)
27 密封端面(第二密封端面)
28 Oリング(シールリング)
29 凹溝
37 断面変化部
e クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの内周面と当該内周面と同軸にある回転軸との間に形成される環状の空間部に設けられ、当該回転軸の回転によって相対回転する第一密封環と第二密封環とを備え、前記第一密封環が有する第一密封端面と前記第二密封環が有する第二密封端面とが接触することにより前記空間部の軸方向一方側の流体を密封すると共に、当該流体の圧力によって前記第二密封環が前記第一密封環よりも歪みやすい構成である接触型メカニカルシールであって、
前記第二密封環の内の、前記第二密封端面以外であって、周方向に連続している表面部に、集中的な歪みを生じさせ得る断面変化部が、周方向に均等に配置されていることを特徴とする接触型メカニカルシール。
【請求項2】
前記第二密封環の径方向内方に位置し当該第二密封環の前記第一密封環側への移動をガイドする筒状のボス部を有し、前記ケーシングに固定された環状のリテーナと、
前記第二密封環を前記第一密封環側へ付勢して前記第二密封端面を前記第一密封端面へ押し付ける弾性部材と、
前記第二密封環と前記ボス部との間に設けられ両者間を密封するシールリングと、
を更に備え、
前記第二密封環は、前記第二密封端面が形成されている先部側密封環と、前記先部側密封環と別体であり前記シールリングを収容する凹溝が内周面に形成されている基部側密封環とを有し、
前記基部側密封環は、熱膨張係数が前記ボス部と同等以上である材質からなる請求項1に記載の接触型メカニカルシール。
【請求項3】
前記シールリングは熱膨張係数が前記基部側密封環よりも大きい材質からなり、
前記凹溝と、前記ボス部に外嵌し常温状態にある前記シールリングとの間に、径方向のクリアランスが形成されている請求項2に記載の接触型メカニカルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−209937(P2010−209937A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53753(P2009−53753)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】