説明

接触面積測定装置および接触面積測定方法

【課題】新規な接触面積測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】接触面積測定装置は、試料30に接する光透過性基板31と、前記試料30と前記光透過性基板31を相対的に移動させる駆動手段38と、前記試料30とは反対側から、前記光透過性基板31に白色光を照射する照射手段と、前記試料30からの反射光と前記光透過性基板31からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段27と、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する画像解析演算手段を有する。ここで、輝度値ヒストグラム作成手段は、干渉画像の輝度値情報をRGB輝度値情報に分離し、G輝度値ヒストグラムを作成する。また、画像解析演算手段は、輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出し、前記輝度値差分ヒストグラムのうち正の値を有する領域を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な接触面積測定装置に関する。また、本発明は、新規な接触面積測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦面において、接触している2面間の真実接触部は接線力の付与により、塑性材料では真実接触部の成長が生じる。また弾性材料では、「滑り域」と「固着域」の両領域(図1参照)の占める割合が変化して最終的に全真実接触部が「滑り域」となり巨視的滑りに至ると考えられている(非特許文献1参照)。
【0003】
従来、相関法を用いた滑り接触状態(非特許文献2参照)や粒子追跡流速測定法(PTV:Particle Tracking Velocimetry)を用いた転がり−滑り接触状態(非特許文献3参照)にある接触面における固着・滑り領域を判別して可視化を試みた研究が報告されている。これらの広義の粒子画像流速測定法(PIV:Particle Image Velocimetry)を用いた方法は、片方の物体にトレーサ(追跡マーカ)をつけた接触面を何らかの方法(例えば真実接触面はコントラストが異なることを利用)で可視化し、それらの可視化連続画像のみを用意すれば、2画像間マーカ位置のずれを検出して固着・滑りの接触状態の解析・可視化を可能としていた。
あるいはまた、「滑り」の検出は、加速度センサーあるいは水晶振動子(非特許文献4参照)を取り付け、その信号変化より行っていた。
【0004】
【非特許文献1】芝宮孝・江口正夫・山本隆司:光干渉輝度値を用いた真実接触面積測定,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,(東京 2008-5)11.
【非特許文献2】劉軍・大場光太郎・加藤康司・猪岡光:相関法による接触面内局所すべりの可視化,可視化情報,15,57(1995)133-139.
【非特許文献3】岩井智明・長谷川浩樹・上田誠一・内山吉隆:ゴムの転がり滑り摩擦と接触面内滑りに関する研究,トライボロジスト,50,8(2005)620-627.
【非特許文献4】村岡茂信:水晶振動子による滑りとその方向のセンシング,計測自動制御学会論文集、36,8(2000)639-644
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(1)従来の観察方法では接触面の可視化にコントラスト法を用いているため対象材質が限定され、また真実接触領域の抽出精度の点で劣ること、(2)観察面に追跡マーカを付与しなければならないこと、(3)解析に当たり、PIVでは一辺を数〜数十ピクセルとする観察ウインドウを設定する必要があること、(4)PIVの演算量が多く高速なコンピュータを必要とすること、という欠点があった。
あるいはまた、「滑り」の検出を、加速度センサーあるいは水晶振動子を取り付け、その信号変化より行うと、その適用には取り付け場所の確保や取り付け場所による感度変化などの種々の問題があった。
【0006】
そのため、このような課題を解決する、新規な接触面積測定装置および接触面積測定方法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な接触面積測定装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な接触面積測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する画像解析演算手段を有する。
【0009】
ここで、限定されるわけではないが、輝度値ヒストグラム作成手段は、干渉画像の輝度値情報をRGB輝度値情報に分離し、G輝度値ヒストグラムを作成することが好ましい。また、限定されるわけではないが、画像解析演算手段は、輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出し、前記輝度値差分ヒストグラムのうち正の値を有する領域を決定することが好ましい。
【0010】
本発明の接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする画像解析演算手段を有する。
【0011】
ここで、限定されるわけではないが、干渉画像取得手段は、干渉画像と前記干渉画像の輝度値情報を取得することが好ましい。また、限定されるわけではないが、画像解析演算手段は、干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとし、速度ベクトルを算出することが好ましい。
【0012】
本発明の接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する方法である。
【0013】
ここで、限定されるわけではないが、輝度値ヒストグラム作成は、干渉画像の輝度値情報をRGB輝度値情報に分離し、G輝度値ヒストグラムを作成することが好ましい。また、限定されるわけではないが、輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出し、前記輝度値差分ヒストグラムのうち正の値を有する領域を決定することが好ましい。
【0014】
本発明の接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする方法である。
【0015】
ここで、限定されるわけではないが、干渉画像の取得は、干渉画像と前記干渉画像の輝度値情報を取得することが好ましい。また、限定されるわけではないが、干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとし、速度ベクトルを算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0017】
本発明の接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する画像解析演算手段を有するので、新規な接触面積測定装置を提供することができる。
【0018】
本発明の接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする画像解析演算手段を有するので、新規な接触面積測定装置を提供することができる。
【0019】
本発明の接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する方法であるので、新規な接触面積測定方法を提供することができる。
【0020】
本発明の接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする方法であるので、新規な接触面積測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、接触面積測定装置および接触面積測定方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0022】
接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する画像解析演算手段を有するものである。
【0023】
接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する方法である。
【0024】
接触面積測定装置の干渉画像取得手段においては、干渉画像と前記干渉画像の輝度値情報を取得する。試料の材質・表面性状に依存しない白色偏光干渉法を使用して接触部の可視化画像の取得を行う。試料を光透過性基板に押し付けた際に界面に生じる微小なすきまを実体顕微鏡と白色偏光干渉法によって可視化して、その接触部周辺に生じる干渉縞画像をビデオカメラにて取得する。このとき、白色光の持つ低可干渉性のために、真実接触部とは無関係な高次の暗部干渉縞の強度(輝度)が低下するので、真実接触部のみを取り出しやすい。
光透過性基板としては、ガラス、サファイヤ、またはポリカーボネイトなどを採用することができる。
【0025】
接触面積測定装置の輝度値ヒストグラム作成手段においては、干渉画像の輝度値情報をRGB輝度値情報に分離し、G輝度値ヒストグラムを作成する。カラービデオカメラを使用する場合、画像処理ソフトによって、取得画像に対してRGB輝度値情報への分離を行い、その後、その内のG画像輝度値情報に対し輝度値ヒストグラム作成を行う。これは、G要素が最も感度が高いためである。
なお、G輝度値ヒストグラムばかりでなく、R輝度値ヒストグラムまたはB輝度値ヒストグラムを用いても、本発明の目的を達成することができる。
【0026】
接触面積測定装置の画像解析演算手段においては、輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出し、前記輝度値差分ヒストグラムのうち正の値を有する領域を決定する。静止状態(接線力係数φ=0)画像を基準として任意(φ=任意)との間で輝度値ヒストグラム差分を順次演算して、輝度値差分ヒストグラムが正領域から負領域への変化点を決定する。その正の値を有する領域を真実接触部中の固着域の減少分と決定する。
【0027】
接触面積測定装置は、試料に接する光透過性基板と、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする画像解析演算手段を有するものである。
【0028】
接触面積測定方法は、試料に光透過性基板を接触させ、前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする方法である。
【0029】
接触面積測定装置の干渉画像取得手段は、上述のとおりである。
【0030】
接触面積測定装置の画像解析演算手段においては、干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとし、速度ベクトルを算出する。
【0031】
接触面積測定装置および接触面積測定方法は、つぎの技術分野に適用することができる。ブレーキやクラッチなどの摩擦材の材料開発や性能評価、およびタイヤ・靴底等の接触・摩擦保持改善に直接関わる試作・技術開発データを必要とする分野である。また、コピー機に代表される事務機などの摩擦を利用した紙搬送システムやフリクションドライブ、超音波モータなどの摩擦駆動システムの信頼性・機能改善・性能向上に関わるデータを必要とする分野である。また、ロボットハンドの把持部制御のためのデータ供給、あるいはヒトの指肢部機能障害発生後の機能改善リハリビなどに使用する「滑りそうか否か」という触覚情報判断の呈示装置へのデータ供給を必要とする分野である。
【0032】
接触面積測定装置および接触面積測定方法について、具体的な例を説明する。
【0033】
本例で用いた実験装置の概要について説明する。本例で用いる実験装置の概略を図2に示す。本装置は往復動摩擦試験部と可視化システム部に大別できる。往復動摩擦試験部の駆動部分は、変位拡大機構を組込むことにより、大変位仕様(変位±400μm)へ変更可能である。ファンクションジェネレータ35で生成した加振電圧波形は、アクチュエータドライバ36を介し圧電アクチュエータ38に入力され、それを伸縮させる。変位拡大機構37は、ガラス板保持部に連結されており、ガラス板31は水平方向に往復動を行う。ガラス板31の変位振幅は変位計により、接触面に負荷した垂直力および接線力は平行板ばねに貼付したひずみゲージにより測定され、AD変換後コンピュータ39に記録される。これと同時に、実体顕微鏡28を用いた可視化システム部では、3CCDカラービデオカメラ27による動画の記録を行う。
【0034】
実験装置の各部位について詳細な説明を行う。
本例では、白色偏光干渉法を用いて真実接触部の可視化を行う。白色干渉法を用いた測定システムについて説明する。測定システムは、本体である標準的な実体顕微鏡と同軸光ファイバ照明装置から構成されている。測定原理は以下のとおりである。
【0035】
ハロゲンランプからの白色光は、光ファイバからなるライトガイドによって偏光子に導入される。その光は直線偏光となってビームスプリッタに入射する。ここで光は2分される。一方の光は試料を照射する方向に向かう。もう一方の光は検光子の方向に向かう。検光子は偏光子に対して位相を角度90°ずらしてあるため、光は検光子を通過することが出来ない。試料に向かう光は、レンズを通過した後、1/4波長板によって円偏光に変換される。ガラス板下面で一部は反射し、また、もう一方の光も試料面で反射する。これらのガラス板下面および試料面での反射光がガラス板下面で干渉を生じる。その干渉光は1/4波長板で直線偏光に戻され、ビームスプリッタを通過して、検光子に入射する。この干渉光は、先の偏光子を出た白色光に対し位相が角度90°ずれているために検光子を通過できる。こうして、干渉光はレンズを通過した後、カラーイメージセンサーによって検出され、比較的コントラストのある画像が得られる。 本装置ではカラーイメージセンサーとして、3CCDカラービデオカメラ(Victor KY-F550)を使用した。
【0036】
本装置の駆動部について説明する。本装置の駆動部は圧電アクチュエータ、アクチュエータドライバ、ファンクションジェネレータより構成されている。ファンクションジェネレータ(Hewlett Packard 社製 HP33120A)で波形、周波数、振幅を設定し、アクチュエータドライバでバイアス電圧とゲインを調整する。この圧電アクチュエータ(日本電装社製 PH22100)は積層型のもので、発生力が大きく応答性に優れ、圧電セラミックスを用いているので電磁ノイズが発生しない等の特徴がある。
【0037】
変位拡大機構について説明する。変位拡大機構は、図3に示すように、8箇所のばね節点を持ったリンク機構となっている。圧電アクチュエータ38を中心部に設置すると、その伸縮はリンク機構により、90°対向した向きへ変換される。その時の伸縮の倍率は、節点同士の距離の比で決定される。本機構の場合には、5mm:50mmであり、10倍の拡大仕様となっている。圧電アクチュエータ38の伸縮が、変位拡大機構37を介し、X軸ステージ29のスライダに案内されてガラス板31へ伝達される。
【0038】
垂直力負荷機構について説明する。垂直力負荷機構は、ガラス板と試験片の間に垂直力を負荷するものである。おもりを吊るすことで試験片を鉛直方向に変位させ、接触部に作用する垂直力を適宜調節する機構になっている。
【0039】
荷重測定部について説明する。本試験機の測定系では、ガラス板と試験片間の接触部に負荷した垂直力と、相対運動時に生じた接線力を測定する。垂直力の測定は垂直力測定用ゲージにて行う。接線力は接線力測定用ゲージにて行う。垂直力測定用ゲージおよび接線力測定用ゲージの出力は直流増幅器で増幅され、A/D変換ボードを介してコンピュータに取り込んでいる。
【0040】
変位測定について説明する。ガラス板の変位は変位計により測定した。変位計は、差動トランス式変位計を用いた。変位計の出力は、A/D変換ボードを介してパソコンに取り込まれる。
【0041】
データ記録部について説明する。本試験機の画像取得には、デジタルビデオカメラ(Victor社製 KY-F550、720×480画素、256階調、シャッター速度:1/60秒)を使用した。
【0042】
画像処理部について説明する。取得した画像の解析にソフトウェアを使用した。
本例では、真実接触部の解析を、干渉画像の輝度ヒストグラムに着目して行う。取得した画像から、輝度ヒストグラムを作成するにはソフトウェアMATLABを使用した。画像(640×480,720×480)は、RGB(赤緑青)の3要素の輝度データを各8ビット(256階調)ずつ所有している。各要素の画素数をカウントし、輝度ヒストグラムを作成する。
【0043】
ソフトウェアOriginでは、グラフ解析機能を使用し、ソフトウェアMATLABを用いて得られたヒストグラムの解析を行った。後に述べる正規分布フィッティングは、ソフトウェアOriginを使用したマルカート法による最適化処理を用いた。
【0044】
試験片について説明する。本例では接触する二平面の真実接触部を、平面と球体との間に生じる点接触で簡易化して実現している。簡易化を行うことによりつぎの利点が挙げられる。すなわち、接触部を明確に限定して可視化でき、また試験片の物性値と形状から、ヘルツの接触理論の援用が可能となり、また基礎実験としての実験装置の信頼性を確かめることができる。
【0045】
上部試験片について説明する。上部試験片には平面で且つ透明体である必要があるため、ガラス板を用いた。材質は合成石英である。外径はφ30mm、厚さは3.0mm、面精度は20nm、ヤング率は72 GPa、ポアソン比は0.16である。
【0046】
上部試験片は、ガラス板に限定されるものではない。このほか上部試験片としては、サファイヤ板あるいは光学的に透明なポリカーボネイト板やアクリル板などを採用することができる。
【0047】
下部試験片について説明する。下部試験片には実用的な表面の想定と摩擦状況下において、その弾性率の低さゆえ、より顕著な接触面挙動の変化観察を期待して薄ゴム試験片を用いた。この薄ゴム試験片は半径5mmの鋼製半球上に、厚さ0.5mmの天然ゴム薄板を引っ張りながら接着させたものである。
【0048】
下部試験片は、薄ゴム試験片に限定されるものではない。このほか下部試験片としては、中実ゴム試験片や湿式ペーパ系摩擦材などを採用することができる。
【0049】
取得画像の前処理について説明する。撮影した画像の輝度情報には、光干渉による接触面とその近傍の情報とともに、照明照度の不均一さやガラス面のキズなど、接触面の解析には必要でない情報も含まれている。
【0050】
そこで、画像解析の前処理として照明照度の不均一さを補正する「背景補正処理」を行った。下部試験片を鉛直下向きに変位させ、ガラス板と下部試験片を接触させずに、30〜40μm程度の空間をつくる。この距離は干渉縞が生じない十分離れた距離であり、これによりガラス下面からの反射光のみを捉えた画像を得ることができる。つぎに、同倍率にて撮影した真実接触部の画像を作成する。この2枚の画像の輝度を、それぞれのピクセル毎に差を取ることにより、照度の不均一さを相殺する。また、以上の演算によって輝度の値を負にしないために、輝度125を加算し、その結果撮影画像の背景部分の最頻値が輝度約125となるようにした。この背景補正処理により、照度の不均一さが解消された。
【0051】
なお、本例では低可干渉性を有する白色光干渉を用いているが、輝度解析のためには単一要素の輝度を用いる。RGB各要素内のどの要素が解析に適当であるか検討を行った。 R、G、B要素それぞれについて背景補正を施した後、輝度ヒストグラムを作成した結果、G要素が他に比べ、分布幅が狭く最も高感度である。したがって、以後、G要素の輝度を用いて解析を行った。
【0052】
滑り出し過程のデータ取得について説明する。静止状態から接線力を与え巨視的な滑りへ遷移する様子、すなわち滑り出し過程に着目した実験を行った。実験は無潤滑、垂直荷重2.5Nの下で行った。
【0053】
滑り出し過程の時間線図および接線力係数φ、速度V−変位X線図を図4,5に示す。三角波状の電圧を印加し、変位約400μmにわたり記録したものである。速度は変位の計測データから多項式適合法による19点平滑化微分演算[5]を行い、時々刻々のガラス板駆動速度Vを求めた。AD変換速度は33.3サンプル/秒とした。
【0054】
図4は、横軸に測定開始からの計測時間、縦軸に接線力係数φとガラス板変位X(1/10に縮小して表示)および速度Vを示したグラフである。φは接線力を垂直力で除した値である。本図を見ると、計測時間約1秒付近からガラス板の駆動が始まり、X,φ,Vが変化を開始して約14秒付近(Xが380μm)でガラス変位方向が逆転し、X,φ,Vの向きが右下がりへと転換している。本例では、この約1秒から14秒までの区間である「滑り出し過程」に着目して検討を行った。三角波状の電圧を印加しているにもかかわらず、ガラス板の駆動速度は一定ではない。これは圧電アクチュエータの伸縮過程における非線形ヒステリシス現象によるためである。
【0055】
図5は、図4で示した接線力係数φ、ガラス板変位X、速度Vのデータから、時間項を消去し横軸を変位Xで示した線図である。ガラス板が横軸の原点からプラス方向へ変位するに伴い、φとVが増加し、向きが逆転するまでの過程を示す。静止状態から固着域と滑り域が混在する微小滑り発生区間を経て、巨視的な滑り状態へと移行している。φ−X線図上に示した弾性変形線(Ke=0.021N/μm)は、初期20μm区間の勾配で、この線上では弾性変位Xeは生じているが、接触界面での相対変位(以下、微小滑り変位と呼称)Xrはゼロの状態を示す。したがって、全体の変位がXの時、微小滑り変位はXrで代表され、このXrが滑り出し過程の挙動を本質的に代表する[6]。図中の微小滑り速度VrはこのXrの速度を速度Vと同様の方法を用いて計算したものである。測定される変位Xは、圧電アクチュエータによって駆動されるガラス板変位なので、ガラス板とゴム試験片の間に滑りがない(固着状態)状態では、接線力(つまり接線力係数)と変位の関係はせん断時の線形のばねと同一となる。この状態が初期20μm区間にみられた。したがって、弾性変位Xeのみが直線的に増大するが、微小滑り変位Xrはゼロの状態を維持している。接触面ではばね要素と滑り要素が直列に接続されていると考えると、接線力の増大により滑りが生じてくると、全体の変位Xには微小滑り変位Xrが加算されることになる。この微小滑り変位Xrを時間微分すれば微小滑り速度Vrが求まる。Xrの発生が少ない領域では、VとVrの差は大きい。図4にもこのVrを示した。図4,5のφデータ、Xデータでは明瞭ではないが、V、Vrの速度データを詳細に見るとφ=0.55,X=180μmにおいて急激に増加していることが指摘できる。このφ点を静摩擦係数μ=0.55点とみなせるか否かについては、後述する輝度ヒストグラムやPIV処理の結果等も含めて再び検討する。
【0056】
輝度値の解析に用いる代表的なG(緑)画素真実接触部干渉画像を図6に示す。明らかにφの増大と共に網目状の黒い部分がやや疎らになり、真実接触部が変化していく様子がわかる。
【0057】
滑り出し過程における輝度データの統計的解析について説明する。
【0058】
解析には、背景補正したG画素干渉縞輝度データを用いた。これは画像解析時の照明輝度の不均一さの影響を避けるため、干渉縞が生じていない参照像を取得し、その画像との差分をとり背景補正したものである。G画素を用いたのは、感度と分解能(短波長程良い)との兼ね合いからである。画像解析の方法については、既報[1]で報告したが、画像取得、RGB分離、G画素の背景補正、輝度データ取得、および輝度ヒストグラム作成の工程によって、基礎データを取得した。
【0059】
輝度ヒストグラムについて説明する。滑り出し過程を代表する、10水準の接線力係数φにおける輝度ヒストグラムの結果を図7に示す。これは真実接触部の情報にかかわる低輝度側の分布のみを拡大したものである。まず、全体的に分布は輝度43〜47にピークを持ち、その左端低輝度側は度数(画素数)0へと急激に減少している。この部分は既報[1]で述べたように真実接触部を反映する領域Iの分布である。一方、右端は一定の度数値への収束傾向にあるが、これも粗面ではその巨視的にみた接触域において、数十nmのすきまを有する領域IIが無数存在することを反映[1]するものである。
【0060】
次に、接線力係数φの増大に伴うピーク位置の度数および輝度値に着目する。度数は、φ=0からφ=0.50への変化によって大幅に減少しているが、φ=0.55〜0.62の間での変化は小さい。それに対応し、輝度値もφ=0〜0.5の区間では輝度43〜44であるのに対し、φ=0.55〜0.62の区間では輝度46〜47と高輝度側、つまり接触面間のすきまが増大する方向へ2〜3輝度増加している。このような変化は、ピークの度数減少および高輝度側へのシフトに伴い、ピークの形状が急峻からなだらかな状態への変化をもたらしている。接線力付与に伴う輝度ヒストグラムの変化は、固着域と滑り域が混在している真実接触部での接触状態(すきま)の変化を反映した結果と考えられる。
【0061】
正規分布へのフィッティングと真実接触部について説明する。滑り出し過程における接触状態の統計的解析の検討を以下に試みる。ピークの低輝度側分布は、既報[1]で示した真実接触部を意味する正規分布形状の領域Iの形成が推測された。接線力変化によっても、領域Iは次の式(1)
【0062】
【数1】

【0063】
で示される正規確率分布P(I)を維持しつつ、その形が変化するものとみられる。ここで、I:輝度値、Im:輝度の平均値、σ:標準偏差である。そこで、「固着域」と「滑り域」がそれぞれ明らかに100%を占める接線力係数φ=0とφ=0.62における輝度ヒストグラムを例にとり、それらのヒストグラム分布が正規分布を示す領域Iおよび残差の2領域に分別できることを図8に示す。既報[1]と同様に、対象とするヒストグラムを最適化手法(グラフ解析ソフトのOrigin8,マルカート法を使用)を用いてフィッティングを行った。最適化した正規分布フィッティング結果は低輝度側のマーカに沿う実線で示し、高輝度側のマーカに沿う破線は残差を表わす。これをみると、ピーク左側の分布は、いずれのφ値でも正規分布に良く当てはまり、また残差は同一の形状を保っている。
【0064】
そこで、各φ値で算出された残差のヒストグラムを図9に示す。この残差は、真実接触部近傍の非接触部である領域IIを含む分布[1]で、その最大度数(画素数)および形状はほぼ一定を維持し、全体がφの増加と共に右側にシフトしている。これはフィッティングが良好に行われていることを示し、輝度情報に基づく統計的な接触面の状態解析の可能性を示すものである。
【0065】
さて、図10,11に滑り出し過程の進行に対し、フィッティングした正規分布(領域I)の累積度数および正規分布パラメータ(平均輝度Im,標準偏差σ)の変化を示す。領域Iの度数は、φ=0〜0.3の過程では微増あるいは水平で、その後φ=0.5までは減少傾向をたどる。それ以降は不安定で振動的だがほぼ一定値で推移し、多少の増減はあるが最終的に収束すると思われる。接線力の付与により、一旦は減少を始めた領域I度数がφ=0.51を超えた点で減少が止まり、挙動が変化したのは、巨視的な滑りへの移行過程に推移したことを示唆する。平均輝度Imは徐々に増加しつつも、領域I度数変化点と同じφ=0.51で急激に上昇し、その後も増加を続ける。σもほとんど一定であったものが、φ=0.51で急激に上昇し、φ=0.54で一端、極小点に減少後、また上昇に転じている。先の図4,5に示した滑り出し過程の速度Vはφ=0.55を変曲点として増大していた。接線力係数、変位の測定値には明確な変化が現れていない程、この変化は微小であったが、ここに示した接触界面での統計的な解析結果は明確な変化が生じていることを示している。つまり、φ=μ=0.55とみなせる。
【0066】
真実接触部と輝度ヒストグラム特性値について説明する。滑り出し過程の進行に伴う輝度ヒストグラム変化の特徴は、ヒストグラムの最大傾き(輝度当たりの度数変化)や最大度数(画素数)値といった変化にも現れる。その結果を図12に示し、領域Iの累積度数の変化も併記した。これら3つの特性値は、接線力係数φ=0.3以後、φ=0.5までは一貫して減少している。これ以降、(1)傾きは振動的振る舞いを示しつつ減少するが、φ=0.55で減少傾向が収まる、(2)最大度数値はさらに減少が続くが、φ=0.55で変曲点を持ち、その減少傾向が緩やかになる。これらの傾きおよび最大度数の変化は、ほぼ同一の傾向を示し、また累積度数の変化傾向との対応関係もみられる。
【0067】
真実接触面積と界面に働く実せん断応力について説明する。滑り出し過程の変位増加に伴う真実接触面積の変化を図13に示す。真実接触面積は上述した領域Iの累積度数より換算した。静止状態から動摩擦状態へと遷移する過程において、真実接触面積は小さくなり、ある値まで減少すると巨視的なすべり状態へ移行し、その後の面積変化は小さい。
【0068】
滑り出し過程を理解するには、接触界面に働く実平均せん断応力を知ることも一つの方法である。界面の実平均せん断応力を次の式(2)
【0069】
【数2】

【0070】
で算出した結果を図14に示す。横軸にガラス板変位Xをとり、縦軸に算出した実平均せん断応力の値を示す。図14をみると、はじめの変位150μmの区間では、せん断応力がほぼ線形的に増加している。その後の変位220μm(φ=0.5〜0.58)までの区間ではほぼ一定値を示し、その後さらに増加している。この図は、材料試験における応力-ひずみ線図に匹敵するトライボロジー現象の基本線図と捉えることも可能であろう(本実験ではせん断ひずみは未測定であるが、表面粗さの値を考慮すれば近似的に概算可能である)。これによって静摩擦から動摩擦への摩擦遷移を一貫した界面せん断破断過程として捉えられる[6]。
【0071】
PIV解析による可視化について説明する。
【0072】
取得干渉画像暗部の一部には、微小なすきまの非接触部も反映されているため、正確には真実接触部そのものを可視化している訳ではない。そこで、上述と同一のデータ(干渉画像)を用いて、真実接触点を追跡マーカとしたPIV法(粒子画像流速測定法)による解析を行えば、真実接触部かどうか、また、その点が固着か滑りかの判別が可能と考えた。
【0073】
解析方法と結果について説明する。解析には専用ソフトウェアであるFlowPIVを用いた。これは本来、画像の輝度情報(粒子位置)を利用して流れのベクトルを測定する手法であるが、真実接触点を粒子と考え、その粒子の移動(固着か滑りかに基づく)に着目する点では同様である[3,4]。解析時の設定を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
設定項目について説明する。今回は、各φ値の干渉画像と、その10フレーム後(0.33秒後)の画像との間でPIV処理をおこなった。結果は速度のベクトルで出力され、その長さと頻度を得ることができる。格子間隔として、ベクトルを計測する点の縦横の間隔を設定する。また、追跡サイズとして、計測点がどこに移動したのか探す範囲を画素で指定する。計測点を中心に追跡サイズ内の点をすべて検索する。また、基準サイズとして、濃度むらパターンを比較する画素のサイズを指定する。計測点を中心にこのサイズ内の画像を比較して追跡を行う。
【0076】
本試験機において、摩擦下にある接触面を見た場合を考える。球体試験片とガラス面の接触部に、接線力を与えたとき、固着域と滑り域が生じたとする。このとき、顕微鏡から接触面を見た場合には、固着域は、ガラスと密着しているため、ガラスに引かれて移動している。一方、滑り域は、ガラス板と動摩擦状態にあるため、その場にとどまり、移動はしない。したがって、本試験機にてPIV解析をした場合、固着域ではガラス板の速度に応じたベクトルが生じ、滑り域ではベクトルが生じないということになる。
【0077】
図15にPIV解析によって追跡マーカ点の速度ベクトルを求め、その結果を横軸に速度、縦軸にその速度ベクトルの出現頻度を示すヒストグラムとして示す。前述したように、本実験のガラス板駆動速度は一定ではない。固着域にある速度ベクトルはガラス板駆動速度と同一の値になるため、その速度で出現頻度が最大になるはずである。事実、測定された各φ値における速度ヒストグラムのピーク点速度は±0.5μm/s以内の誤差で図4,5に示したガラス板駆動速度(矢印)に等しく、φ値の増大と共に右にシフトしながら、その頻度も低下する。φ=0.58でピークが消失しているのは、巨視的な滑り状態となり、固着域が消失したためである。また、速度ベクトル度数が幅をもって分布している理由を以下で検討する。
【0078】
固着域の判別について説明する。図15におけるピーク点をもつ駆動速度近傍の分布は、追跡点が固着状態のまま変化しない状態にあり、追跡点の移動距離そのものより速度が算出された結果である。本例ではφ値を低速度側にある時のガラス板駆動速度点で定義しているので、測定されるベクトル速度は、ガラス板速度Vより最大1μm/s程度増加する。さらに、これに計測上のばらつきが加算されたと考えられる。
【0079】
ピーク点より低速度側の分布では、追跡点である真実接触点はある確率で滑りを生じている。追跡点が固着状態から滑り状態に変化した場合に、滑りの発生により移動距離は減少する。この追跡点のベクトル速度はこの減少した移動距離に基づき算出されるが、φ値を定義した出発点では固着状態にあった。したがって、測定した速度ベクトルが固着域にあると判断する下限のベクトル速度には、上述のことが確率的に反映された微小滑り速度Vrが適当とした。
【0080】
図16はPIV処理の結果得られた速度ベクトルの濃淡表示によるマッピング図である。表示バーは、わかりやすさを優先して全体を4階調の濃淡として濃い方が高速、淡い方が低速の表示になっている。凡例にある通り、図中の最も濃い階調の分布が、そのφ値における微小滑り速度Vr(上述したようにガラス板駆動速度Vより若干低速度側にあり、固着域のしきい値に相当)以上の領域、すなわち固着域である。それ以外の領域は、滑り域と推測できる。このように、固着域と滑り域が混在した環状滑り[3]状態を本装置により再現・可視化できた。
【0081】
「固着域」に関する統計的解析について説明する。
【0082】
PIVを用いれば局所的な固着域をマッピングできた。したがって固着域の占める割合の概略的推移の検討も可能であるが、ここでは、より簡便なその固着域占有率の統計的算出方法について検討する。
【0083】
輝度差分ヒストグラムについて説明する。接線力係数φ=0を基準として、任意のφ値との間でヒストグラム差分を求めれば、滑り出し過程における真実接触部の輝度情報変化を統計的に明らかにできると考えた。この輝度差分ヒストグラム算出の説明を、明らかに巨視的滑り状態にあるφ=0.62の場合を例にとり図17に示す。度数(画素数)差ゼロの水平軸を横切るゼロクロス点(輝度49)によって、輝度42を中心と正規分布に近い正領域と、輝度49より高輝度側で緩やかに一定値に漸近する負領域に明確に区分された。この差分ヒストグラムの正領域は接線力増加に伴って失われた固着域の画素数を、負領域の絶対値は増加した滑り域の画素数をそれぞれ意味している。
【0084】
図18に滑り出し過程の代表的な接線力係数における差分ヒストグラムを示す。巨視的滑り開始以後と思われるφ=0.55〜0.62では、正領域の分布には中心値を輝度42とした正規分布性がある。一方、巨視的すべり開始以前のφ=0.3〜0.5では、輝度42中心とした正規分布性は弱く、ゼロクロス点の輝度も49より左に移動している。このように、滑り出し過程の進行と共に、差分ヒストグラムの正領域の大きさは増加し、平均値点も移動する。その正規分布性は、接触する2面が静摩擦状態なのか、動摩擦状態なのかという、接触の状態変化との相関が考えられる。
【0085】
そこで、正領域分布の統計的な特徴を示す(1)平均値、(2)標準偏差σ、(3)ゆがみ度s、(4)とがり度kの各特性値を求め、その結果を図19に示す。正規分布に近い分布であれば、(1)平均値はその対称性から分布の中央値、(3)ゆがみ度はゼロ、(4)とがり度は3の値が期待できる。(3)ゆがみ度については、ここで検討する分布の算出方法に由来する負領域が存在するので、ややプラス側になると考えられる。さて、(1),(2),(3)の傾向はほぼ同一で、φ=0.55で極小を示す。(2)標準偏差を例にとれば、正規分布性と巨視的滑り開始の関連を充分に指摘できる。(4)とがり度はφ=0.55ではなく、φ=0.58〜0.61で3よりわずかに小さく極小となっているが、上述の分布算出方法のためである。
【0086】
固着域占有率について説明する。滑り出し過程の静止状態から動摩擦状態に至る間に、真実接触部における「固着域」の占める割合は1から0になる。その中間において「固着域」と「滑り域」が混在する微小滑り発生域となる。平滑面のヘルツ接触における理論的関係[3]を図20に示す。ここで、P:垂直荷重、T:接線力、p:ヘルツ接触圧力分布、K:試験片の材質等で決まる定数である。
【0087】
このような真実接触部の接触状態の変化を図21に示す解析結果より検討する。横軸には接線力係数φと静摩擦係数μとの比φ/μをとり、縦軸は以下に定義する固着域占有率である。
【0088】
「固着域占有率」算出の一つ目は、差分ヒストグラムを用いて次の式(3)で算出した「固着域占有率1」によるものである。
【0089】
【数3】

【0090】
差分ヒストグラムの正領域の画素数は、その接線力係数φ時でφ=0時と比較し失った固着域画素数である。静摩擦係数μ時で最終的に失う固着域画素数との比をとれば、そのφ時点で失う固着域画素数の消失率が求まる。この消失率を1から差し引けば、固着域の残存率となる。これをμ=0.55で巨視的滑りが開始したと考え、図中に「Ratio 1」という名称でプロットした。この場合、μ=0.55で全真実接触部は滑り域にあるので、この時の差分ヒストグラムの正領域画素数は領域I(真実接触部に相当)画素数に等しいはずである。しかし、実際のそれらの比(μ=0.55時の正領域画素数/μ=0.55時の領域I画素数)は21200/31700=0.669であり、1ではない。一方、μ=0.62とした場合、この比は30100/30000=1.00となり1に等しい。そこで、算出の二つ目として、次の式(4)で算出した「固着域占有率2」を求めた。
【0091】
【数4】

【0092】
しかし、占有率1と占有率2を比較しても、おおむね占有率2のφ/μ=0.58/0.62=0.94以上を除けば、両者の変化は重なり、滑り出し過程の特徴の概略が簡易に差分ヒストグラムのみで算出可能な占有率1で表現できることが分かった。
【0093】
「固着域占有率」の算出の三つ目は、PIV解析によって、次の式(5)で算出した「固着域占有率PIV」(μ=0.55)である。
【0094】
【数5】

【0095】
これは、図15に示した計測速度ベクトルのヒストグラムにおいて、各φ値における速度Vrをしきい値として、それよりも高速度側のベクトル数の総和を固着域と考えたものである。φ/μ=1付近での若干のベクトル数総和の残存を除けば、データで示した範囲内で、「固着域占有率1」、「固着域占有率2」、「固着域占有率PIV」の各固着域占有率は、おおよそ一致している。
【0096】
さらに、同図には平滑ゴム面を対象とした加藤らの相関法の実験結果[2]、およびMindlinの理論値[3]も示した。本実験結果は、低φ/μ値で加藤らのPIVの結果より、全域でMindlinの理論値より大きい値を示している。この違いが生じた原因を以下に検討する。
【0097】
固着域占有率と微小滑り変位について説明する。図22は固着域占有率を、滑り出し過程を正規化した変位X/Xslip(Xslip:μにおける変位)に対してプロットしたものである。Mindlinの理論値[3]は-1の傾きを持つ直線で表される。上述した「固着域占有率1」の結果を無修正の変位Xを用いて示したのが「Ratio1」としたプロットである。一方、同じ「固着域占有率1」に対して、図5で示した弾性変形線分を差し引いた微小滑り変位Xrを用いてプロットしたのが「Modified-Ratio1」である。低φ/μ(低正規化変位)側の値が修正され、ほぼMindlinの理論値に一致して直線的に減少する。同様に、「固着域占有率2」と「固着域占有率PIV」に対しても、無修正の変位Xを用いてプロットしたのが「Ratio2」と「PIV」である。これらに対し上記と同様な修正を加えてプロットしたのが、「Modified-Ratio2」と「Modified-PIV」である。これらの場合もMindlinの理論値にほぼ一致して直線的に減少するように修正された。ただし、「Ratio2」、「Modified-Ratio2」とも、正規化変位を求めるに当たり、Xslipの値はφ (=μ)=0.60となる点より求めた。これは巨視的滑りが発生している領域では、わずかなφの違いでもXslipの値は大幅に変化するので、X/Xslip値の結果に大きな影響を及ぼす。今回、φ=0.60におけるXslip値が最適であった。
【0098】
滑り出し過程の挙動は接触界面での微小滑り変位Xrが重要であることを示している。同様に、先の「固着域占有率PIV」でも固着域の抽出に、速度のしきい値として微小滑り速度Vr[7]を使用すべきことを示唆している。図21で示した本実験結果がMindlinの理論値を上回った要因として、本例で用いた試験片が弾性率の異なる平面-球面接触であることに加え、球面がゴム粗面であることも影響を及ぼしていると考えられる。加藤らも実験結果のMindlin解からの偏り[4]もゴム試験片使用によるものと考察している。差分ヒストグラムによる「固着域占有率」の算出は、接触面の輝度情報の変化のみに依存し簡便で、また個々の真実接触点の移動を統計的に算出するので測定時のノイズに対するロバステ性が高い利点がある。
【0099】
以上まとめると、無潤滑下の粗面ゴム半球−ガラス面間の接触部を白色干渉法によって可視化し、その干渉画像輝度情報を用いて滑り出し過程にある真実接触部の接触状態の解析を行い、以下の結果を得た。
(1)干渉画像輝度ヒストグラムの最も低輝度側の分布領域に対し正規分布をフィッティングさせ、抽出した領域を真実接触部と考えた。この真実接触部は接線力負荷の増大と共に減少し、巨視的滑りの発生によりほぼ一定となった。
(2)輝度ヒストグラムや抽出した正規分布の形状を示す特性値は、「静止状態」から「微小滑り発生状態」および「巨視的滑り発生状態」への接触状態の推移と対応関係にあった。
(3)接線力を真実接触面積で除した実せん断応力は、ガラス板変位の増大と共に微小滑り発生状態では直線的に増大し、巨視的滑り発生状態では、ほぼ一定となった。
(4)φ=0を基準とした輝度差分ヒストグラムを用いれば、接線力負荷(微小滑りの発生)の増大と共に減少する真実接触部内の固着域占有率の統計的算出が可能となった。
(5)真実接触点を追跡マーカとしたPIV解析を行い、速度ベクトルに基づく真実接触部内の「固着域・滑り域」分布の可視化に成功した。この結果より求めた固着域占有率は、差分ヒストグラムを用いた結果とほぼ一致した。
(6)差分ヒストグラムより求めた固着域占有率は、「接触界面における相対変位(微小滑り)」の増大と共に直線的に1から0に減少し、Mindlinの理論解と一致する傾向を示した。
【0100】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0101】
参考文献
[1] 芝宮孝・江口正夫・山本隆司:光干渉輝度値を用いた真実接触面積測定,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,(東京 2008-5)11.
[2] 劉軍・大場光太郎・加藤康司・猪岡光:相関法による接触面内局所すべりの可視化,可視化情報,15,57(1995)133-139.
[3] Mindlin, R. D: Compliance of Elastic Bodies in Contact, J. Applied Mechanics,16,(1949)259.
[4] 加藤康司:ゴムの摩擦駆動におけるマイクロスリップ,トライボロジスト,42,5(1997)369-374.
[5] 南茂夫編:科学計測のための波形データ処理,CQ出版社(1986)181.
[6] 日本トライボロジー学会編:摩擦摩耗試験とその活用,養賢堂(2007)120.
[7] 日本トライボロジー学会編:トライボロジーハンドブック,養賢堂(2001)15.
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】真実接触部と固着域を示す図である。
【図2】実験装置の概略図である。
【図3】変位拡大機構と試験片の概略図である。
【図4】滑り出し過程の時間線図である。
【図5】滑り出し過程の接線力係数φ、速度V−変位X線図である。
【図6】真実接触部の干渉画像である。
【図7】種々の接線力係数φにおける輝度ヒストグラムの結果を示す図である(W=2.5N)。
【図8】ヒストグラム分布が正規分布を示す領域Iと残差に分別できることを示す図である。
【図9】残差のヒストグラムを示す図である。
【図10】フィッティングした正規分布の累積度数を示す図である。
【図11】フィッティングした正規分布の正規分布パラメータを示す図である。
【図12】ヒストグラムの最大傾き、最大度数等を示す図である。
【図13】変位増加に伴う真実接触面積と接線力係数の変化を示す図である。
【図14】接触界面の実平均せん断応力を示す図である。
【図15】PIV解析結果を示す図である。
【図16】PIV処理の結果得られた速度ベクトルのマッピング図である。
【図17】(a)輝度ヒストグラムと、(b)輝度差分ヒストグラムを示す図である。
【図18】接線力係数に対する輝度差分ヒストグラムを示す図である。
【図19】正規分布の統計的な特徴を示す図である。
【図20】平滑面のヘルツ接触における理論的関係を示す図である。
【図21】真実接触部の接触状態の変化を示す図である。
【図22】固着域占有率を、正規化した変位に対してプロットした図である。
【符号の説明】
【0103】
21‥‥垂直荷重、22‥‥接線力、23‥‥真実接触部、24‥‥非接触部、25‥‥固着部、26‥‥滑り部、27‥‥カメラ、28‥‥実体顕微鏡、29‥‥X軸ステージ、30‥‥薄ゴム試験片、31‥‥ガラス板、32‥‥おもり、33‥‥ひずみゲージ、34‥‥アンプ、35‥‥ファンクションジェネレータ、36‥‥アクチュエータドライバ、37‥‥変位拡大機構、38‥‥圧電アクチュエータ、39‥‥コンピュータ、42‥‥可動台、43‥‥固定台、44‥‥ばね節点、45‥‥観察用孔、46‥‥上部フレーム、47‥‥鋼製半球、48‥‥ゴム薄板、49‥‥基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に接する光透過性基板と、
前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、
前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、
前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、
前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成する輝度値ヒストグラム作成手段と、
前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する画像解析演算手段を有する
接触面積測定装置。
【請求項2】
輝度値ヒストグラム作成手段は、干渉画像の輝度値情報をRGB輝度値情報に分離し、G輝度値ヒストグラムを作成する
請求項1記載の接触面積測定装置。
【請求項3】
画像解析演算手段は、輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出し、前記輝度値差分ヒストグラムのうち正の値を有する領域を決定する
請求項1記載の接触面積測定装置。
【請求項4】
試料に接する光透過性基板と、
前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させる駆動手段と、
前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射する照射手段と、
前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得する干渉画像取得手段と、
前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする画像解析演算手段を有する
接触面積測定装置。
【請求項5】
干渉画像取得手段は、干渉画像と前記干渉画像の輝度値情報を取得する
請求項4記載の接触面積測定装置。
【請求項6】
画像解析演算手段は、干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとし、速度ベクトルを算出する
請求項4記載の接触面積測定装置。
【請求項7】
試料に光透過性基板を接触させ、
前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、
前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、
前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、
前記干渉画像の輝度値情報から輝度値ヒストグラムを作成し、
前記輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出する
接触面積測定方法。
【請求項8】
輝度値ヒストグラム作成は、干渉画像の輝度値情報をRGB輝度値情報に分離し、G輝度値ヒストグラムを作成する
請求項7記載の接触面積測定方法。
【請求項9】
輝度値ヒストグラムから輝度値差分ヒストグラムを算出し、前記輝度値差分ヒストグラムのうち正の値を有する領域を決定する
請求項7記載の接触面積測定方法。
【請求項10】
試料に光透過性基板を接触させ、
前記試料と前記光透過性基板を相対的に移動させ、
前記試料とは反対側から、前記光透過性基板に白色光を照射し、
前記試料からの反射光と前記光透過性基板からの反射光とから生じる干渉画像を取得し、
前記干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとする
接触面積測定方法。
【請求項11】
干渉画像の取得は、干渉画像と前記干渉画像の輝度値情報を取得する
請求項10記載の接触面積測定方法。
【請求項12】
干渉画像の輝度値情報を追跡マーカとし、速度ベクトルを算出する
請求項10記載の接触面積測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2010−38614(P2010−38614A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199469(P2008−199469)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】