説明

推進工事における坑口の止水推進構造

【課題】本発明は、掘削カッターの坑口の通過後に掘進機本体および埋設管を滑動自在な状態で支持することが可能な推進工事における坑口の止水推進構造を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、発進立坑1に開設された坑口に取り付けられる止水坑口部10に設けられる止水ゴム12を通して到達坑口に向けて掘進機6とこれに順次連結される埋設管を推進して地中に布設する推進工事において、前記止水坑口部10に前記掘進機6を挿入した状態で該止水坑口部10の後端に、前記掘進機の胴体外周を取り囲むような枠体17が取り付けられるとともに、前記掘進機6と前記枠体17との間の空洞部18に硬化材(生コンクリート)20が充填されることにより支持部21が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工事における坑口の止水推進構造に関する。詳しくは発進立坑に開口された坑口からの地下水などの流入を阻止しながら、掘進機や埋設管を推進する坑口の止水推進構造に係るものである。
【背景技術】
【0002】
下水道管などを地中に敷設する推進工事における一般的な坑口の止水推進構造は、図3(イ)(ロ)にそれぞれ示すように、発進立坑101内の側壁102に掘進機本体110の外径よりも大きな坑口103が開口され、該坑口103の発進立坑101内側へ円筒形状の坑口外殻104が取り付けられる。そして前記円筒形状の坑口外殻104の坑口フランジ105に沿って止水ゴム106が押え板107によって前記坑口外殻104内周に沿って取り付けられる。このようにして止水ゴム106が取り付けられた坑口103内に掘進機や埋設管を推進させるものであり、前記止水ゴム106が、地山崩壊等による坑口からの土砂や地下水が坑内に流出するのを防止する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−276288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら高滞水層の砂礫、玉石地盤等を初期掘進する場合は、掘削カッターに大きな負荷がかかり、立坑に残っている掘進機本体が上下,左右に振れる動きをする。この掘進機本体の振れは主に坑口の押え板で受けるが押え板と掘進機本体とのクリアランスは掘進機の種類にもよるが、最低でも2〜3cmほどが必要となる。
【0005】
したがって、掘削カッターに大きな負荷がかかると掘進機本体はどこかの押え板と接し、接点の反対側は4〜6cmのクリアランスが生じることになり、このクリアランスが約4cmを超えると止水ゴムが立坑内へ捲れて地下水、土砂の噴出が発生して、掘進機は計画線上から大きく逸脱する。
【0006】
このようなことから図4(イ)(ロ)にそれぞれ示すように、ボルト穴を長穴109とした櫛形調整板108を押え板107に重合せ、掘削カッターの坑口の通過後、前記櫛形調整板108を掘進機本体110に近寄せてクリアランスを調整する機構のものがあるが、玉石の多い砂礫層等では、掘進機本体に連続的な振れを生じてボルト締めをしている櫛形調整板108の締結が緩み、徐々に櫛形調整板108が外周方向へ移動してクリアランスが元に戻る場合が多い。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであって、掘削カッターの坑口の通過後に掘進機本体および埋設管を滑動自在な状態で支持することが可能な推進工事における坑口の止水推進構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る推進工事における坑口の止水推進構造は、発進立坑に開設された坑口に取り付けられる止水坑口部に設けられる止水ゴムを通して到達坑口に向けて掘進機とこれに順次連結される埋設管を推進して地中に布設する推進工事において、前記止水坑口部に前記掘進機を挿入した状態で該止水坑口部の後端に、前記掘進機の胴体外周を取り囲むような枠体が取り付けられるとともに、前記掘進機と前記枠体との間の空洞部に硬化材が充填されることにより支持部が形成される。
【0009】
ここで、前記止水坑口部の後方に枠体と硬化材とか一体となった支持部が形成されることにより、坑口による掘進機の拘束性と坑口と掘進機外周面との水密性を高めた止水推進構造となる。
【0010】
また、枠体内に充填される硬化材と掘進機外周面との間に、該硬化材に固着される緩衝帯を前記掘進機外周面に巻回することにより、掘進機の振れによる衝撃を緩和して、掘進機の計装機器や坑口の破損を防ぐことができる。
【0011】
また、前記緩衝帯と前記掘進機外周面との間に滑材を介在させることにより、掘進機と緩衝帯との摩擦を低減することができる。
【0012】
また、前記止水坑口部の外壁面に土圧計、送泥口および排泥口からなる加泥圧機構を設けることにより、高濃度の泥水を所要圧力で止水坑口部内と掘進機との空隙内に加圧充満させて土砂の崩壊を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の推進工事における坑口の止水推進構造では、掘進機の初期掘進時に生ずる大きな振れを、枠体と硬化材とか一体となった支持部によって掘進機の外周面を密接状に支持することにより、坑口の損壊や土砂崩壊や掘進機の計画線形逸脱を防止することができる。
【0014】
また、緩衝帯によって掘進機の振れによる衝撃を緩和して、掘進機の計装機器や坑口の破損を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参酌しながら説明し、本発明の理解に供する。
図1に、本発明を適用した坑口の止水推進構造における推進工事の概要を示す説明図、図2(イ)、(ロ)に、本発明を適用した坑口の止水推進構造の一例を示す説明図である。
【0016】
ここで示す推進工事における発進立坑1では、発進立坑1内の壁面に対して支圧壁2を配置し、該支圧壁2に連接する状態で底面に発進架台3が載置される。そして該発進架台3上に、その基端が前記支圧壁2に支持される状態で元押ジャッキ4が設置される。
【0017】
次に、前記元押ジャッキ4の対向壁面には止水坑口5が開口され、該元押ジャッキ4によって掘進機本体6の基端が押し出され、該掘進機本体6先端の掘削カッター7が前記止水坑口5内を通過して地山A内を掘進する。
【0018】
このようにして前記掘進機本体6の基端を元押ジャッキ4によって押し出し、その後端に埋設管を継ぎ足しながら到達立坑Bまで該掘進機本体6を前進させて埋設管の敷設を行うものである。
【0019】
そこで図2(イ)(ロ)でそれぞれ示すように、発進立坑1内の壁面(山留材)8に掘進機本体6の先端に設けられる掘削カッター7が挿入可能な内径を有する止水坑口部10を溶接によって取り付ける。
【0020】
そして前記止水坑口部10内から壁面8を切断し、撤去することにより地山が露出した状態の開口穴9が形成されることになる。このような止水坑口部10の基端開口縁にはフランジ部11が周設される。
【0021】
また、前記止水坑口部10には、排泥バルブ30が設けられた排泥口31および送泥バルブ32が設けられた送泥口33が取り付けられ、更に、土圧計34が設けられる。
【0022】
このフランジ部11には、リング形状の止水ゴム12が押え板13によって挟んだ状態でボルト・ナットなどの締結部材14より固着される。そこで止水ゴム12は、その内径が掘進機本体6の外径よりも小さな内径とすることにより止水ゴム12の内周縁が折れ曲がった状態で前記掘進機本体6の外周面を密接する。
【0023】
このようにして、前記掘進機本体6を発進架台3に据付け、元押ジャッキ4によって止水坑口部10内より該掘進機本体6先端の掘削カッター7が地山Aに達するまで押し込むものである。
【0024】
ここで、掘進機本体6の外表面にグリースオイルなどのゲル状の滑材15を塗布する。そして外表面が凹凸状に形成される緩衝帯16が前記掘進機本体6に巻着され、その先端側が前記止水坑口部10の止水ゴム12位置となるように調整されるものである。
【0025】
そして前記緩衝体16上面に沿って鋼製の枠体17が周設される。この枠体17は、一端が前記止水坑口部10のフランジ部11の外周縁に沿って溶接などによって一体的に固着され、その他端が前記緩衝帯16後端上に接するように直角状に折り曲げられるものである。
【0026】
したがって、前記緩衝帯16上に沿って空洞部18が形成されることになり、前記枠体17の上面に前記空洞部18と連通状の注入口19を設け、この注入口19より流動性の高い生コンクリート20を前記空洞部18内に打設して、前記枠体17と緩衝帯16とを一体化する。
【0027】
すなわち、前記生コンクリート20が硬化する場合には、前記緩衝帯16の上面の凹凸によって前記生コンクリート20との接着が強固なものとなり、前記鋼製の枠体17と生コンクリート20および前記緩衝帯16が一体化した環形状の支持部21が形成されることになる。
【0028】
なお、本実施例では硬化材として生コンクリートを使用するものであるが、必ずしも生コンクリートである必要性はなく、例えば硬化樹脂材などの素材であっても良く、更に硬化した場合に摩擦係数が小さく、かつ弾力性を有する素材であれば本実施例で詳述したグリースオイルなどの滑材や弾性ゴムなどの緩衝帯を実施する必要性はなくなるものである。
【0029】
この支持部21により前記掘進機本体6の周壁面が支持部21の緩衝帯16に支持されながら前進することになり、前記掘進機本体6の後端に順次連結される埋設管(図示せず。)の周壁面に滑材を塗布することにより振動等により振れることなく保持することが可能となる。
【0030】
なお、本実施例では止水坑口部が円筒形状である場合について詳述するものであるが、掘進機は必ずしも円筒形状ではなく、他に矩形、またはいびつな円形状のものもある。
したがって、止水坑口部の坑口形状も前記掘進機の形状に合せることとなるが、前記掘進機の胴体外周を取り囲むように枠体を取り付けることにより、該枠体内に注入される硬化材は前記掘進機の胴体外周に密接状となり水密性を高めた止水推進構造となる。
【0031】
本発明の止水推進坑口の構造では、図2(イ)に示すように、止水坑口部10内と掘進機本体6との空隙に高濃度泥水を送泥口33より所要圧力になるように注入する。
【0032】
次に、掘削カッター7と元押ジャッキ4を作動させて掘削作業を行う。この場合には、止水坑口部10に設けられる土圧計34を監視しながら所要圧力を保持するために送泥バルブ32と排泥バルブ30の操作を行うものである。
【0033】
そこで前記掘進機本体6が地山Aに収まるまでの初期工程は、到達立坑までの全掘進工程の中で土砂崩壊や掘進機の計画線形逸脱が最も多い工程となる。
このように掘進機本体6の初期掘進時に生ずる大きな振れは、止水坑口部10のフランジ部11に連結される鋼製の枠体17、生コンクリート20および緩衝帯16が一体となった支持部21により前記掘進機本体6の周壁面が支持されることで防護することが可能となる。
【0034】
また、前記緩衝帯16は掘進機本体6の振れによる衝撃を緩和して、掘進機本体6の計装機器や坑口の破損を防ぐことができる。更に、グリースオイル等の滑材は、掘進機本体6と緩衝帯16との摩擦を低減する。
【0035】
また、掘進機本体6の振れと衝撃は山留材近辺の地山を乱すことになるので、高濃度の泥水を所要圧力で加圧充満させて土砂の崩壊を防止する。したがって、土圧計34が所要圧力より下がったときは、送泥バルブ32を開にして高濃度泥水を注入し、前記土圧計34が所要圧力より上がったときは、送泥バルブ32を閉にするとともに排泥バルブ30を開にして高濃度泥水を排出して止水坑口部10内と掘進機本体6との空隙内の圧力を調整する。
【0036】
なお、排泥バルブ30は開にすると地山A側の圧力と立坑内の自然差圧で泥水が排出される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用した坑口の止水推進構造における推進工事の概要を示す説明図である。
【図2】本発明を適用した坑口の止水推進構造の一例を示す説明図である。
【図3】従来の坑口の止水推進構造の一例を示す説明図である。
【図4】従来の坑口の止水推進構造の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 発進立坑
2 支圧壁
3 発進架台
4 元押ジャッキ
5 止水坑口
6 掘進機本体
7 掘削カッター
8 壁面
9 開口穴
10 止水坑口部
11 フランジ部
12 止水ゴム
13 押え板
14 締結部材
15 滑材
16 緩衝帯
17 枠体
18 空洞部
19 注入口
20 生コンクリート
21 支持部
30 排泥バルブ
31 排泥口
32 送泥バルブ
33 送泥口
34 土圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発進立坑に開設された坑口に取り付けられる止水坑口部に設けられる止水ゴムを通して到達坑口に向けて掘進機とこれに順次連結される埋設管を推進して地中に布設する推進工事において、
前記止水坑口部に前記掘進機を挿入した状態で該止水坑口部の後端に、前記掘進機の胴体外周を取り囲むような枠体が取り付けられるとともに、前記掘進機と前記枠体との間の空洞部に硬化材が充填されることにより支持部が形成される
ことを特徴とする推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項2】
前記枠体内に充填される硬化材と掘進機外周面との間に、該硬化材に固着される緩衝帯を前記掘進機外周面に巻回する
ことを特徴とする請求項1記載の推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項3】
前記緩衝帯と前記掘進機外周面との間に滑材を介在させる
ことを特徴とする請求項2記載の推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項4】
前記硬化材が生コンクリートである
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の推進工事における坑口の止水推進構造。
【請求項5】
前記止水坑口部の外壁面に土圧計、送泥口および排泥口からなる加泥圧機構を設ける
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の推進工事における坑口の止水推進構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−57283(P2008−57283A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238440(P2006−238440)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000100942)アイレック技建株式会社 (45)
【出願人】(599093373)宏正工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】