説明

揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤及び分解促進方法

【課題】還元的脱ハロゲン化に必要な水素と同時に、微生物の増殖、生育に必要な窒素、リン、カリウム、硫黄等の栄養元素を長期にわたり供給し、微生物の増殖、生育を促進するための揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤及びこれを使用した分解促進方法を提供すること。
【解決手段】アミノ酸とオキシカルボン酸の縮合反応生成物、又はこの縮合反応生成物と、多価アルコールとのエステルを有効成分とする、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤及びこれを用いた分解促進方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤及び分解促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物的な汚染の修復をバイオレメディエーションといい、汚染された土壌や、地下水に含まれる汚染物質を、炭酸ガスや炭化水素、水、無機塩のような無害な物質に変換し、汚染を修復する技術である。経済的に有利で、環境に与える負荷も少ないことから汚染土壌や地下水の修復技術として近年広く利用されている。
例えば、特許文献1には、ポリ乳酸とグリセリン、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多官能アルコールとのエステルを含む組成物を、ハロゲン含有有機化合物等で汚染された帯水層、土壌等の媒体に水素供与体として加え、乳酸を経時的に放出させ、媒体中に存在する微生物の還元的活性を維持して、汚染物質を還元的に分解することが記載されている。
また特許文献2には、酵母、脂肪酸、炭水化物等を含む組成物を、ハロゲン含有有機化合物等で汚染された帯水層、土壌等の媒体に電子供与体として加え、媒体中に存在する微生物の増殖及び還元的活性を維持して、汚染物質を還元的に分解することが記載されている。
非特許文献1には、種々の分解促進剤を微生物が存在する土壌及び/又は地下水と接触させる方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特表2000−511969
【特許文献2】特開2005−185870
【非特許文献1】株式会社工業調査会「化学装置」2007年7月号、山崎裕「土壌・地下水浄化技術−VOCの分解浄化技術−」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術において、汚染物質を還元的に分解する分解促進剤のうち液状のものは、粘度が高く、特に冬季は取り扱い性が悪く、現場工事における作業性及び経済性の点で問題があった。また一方で分解促進剤が粉末の形状で供給される場合、多量の水で溶解する必要があり、また繰り返し帯水層、土壌等の媒体に添加する必要があることから、現場工事における作業性及び経済性の面で問題があった。
【0005】
また従来の技術では、微生物の成育に必要な窒素源は含まれていないか、又は水素供与体と窒素源は個別に混合されているだけであり、窒素の長期間にわたる供給という点で問題があった。
【0006】
本発明の目的は、分解促進剤の粘度を調節することにより、特別の機械を用いた注入又は既設の井戸からの注入のうち、最適な方法を選択することを可能とすることである。このことは,現場工事における作業性の改善,経済性の大幅な向上に貢献する。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、還元的脱ハロゲン化に必要な水素と同時に、微生物の増殖、生育に必要な窒素、リン、カリウム、硫黄、マグネシウムの栄養元素を長期にわたり供給し、微生物の増殖、生育を促進するための揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の分解促進剤及び分解促進方法を提供するものである。
1.アミノ酸とオキシカルボン酸の縮合反応生成物を有効成分とする、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤。
2.アミノ酸が、α−アミノ酸である上記1記載の分解促進剤。
3.オキシカルボン酸が、α−オキシカルボン酸である上記1又は2記載の分解促進剤。
4.アミノ酸1モルに対するオキシカルボン酸の使用割合が0.1〜20モルである、上記1〜3のいずれか1項記載の分解促進剤。
5.上記1〜4のいずれか1項記載の縮合反応生成物と、多価アルコールとのエステルを有効成分とする、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤。
6.多価アルコールが、以下に示す式(1)で表されるグリコール又は糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記5記載の分解促進剤。
(1)

(式中、mは0〜4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示す)
7.アミノ酸1モルに対する多価アルコールの使用割合が1〜20モルである上記5又は6記載の分解促進剤。
8.前記縮合反応生成物と、多価アルコールとのエステルが、下記の式(2)で表される上記5〜7のいずれか1項記載の分解促進剤。
(2)

(式中、mは0〜4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示す。
Rは同一でも異なっていても良く、水素原子又は前記縮合反応生成物残基を示す。但しRがすべて水素であることはない。)
9.アミノ酸とオキシカルボン酸との縮合反応、及び/又はその縮合反応生成物と多価アルコールとのエステル化反応の触媒が、リン酸及び硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜8のいずれか1項記載の分解促進剤。
10.25℃における粘度が、200〜5000mPa・sである、上記1〜9のいずれか1項記載の分解促進剤。
11.揮発性有機ハロゲン化合物を含む土壌及び/又は地下水に、微生物の存在下、上記1〜10のいずれか1項記載の分解促進剤を接触させることにより、該揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進する方法。
12.揮発性有機ハロゲン化合物が、有機塩素系化合物である上記11記載の方法。
13.有機塩素系化合物が四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ビニルクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記11又は12記載の方法。
14.微生物がClostridium属細菌、Dehalobacter属細菌、Dehalococcoides属細菌、Dehalospirilum属細菌、Desulfobacterium属細菌、Desulfomonas属細菌、Desulfomonile属細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記11〜13のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の縮合反応生成物及び/又はエステルより緩やかに放出されたオキシ酸、例えば乳酸は、嫌気性微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進する水素供与体として機能する。また同時に放出されるアミノ酸も、その種類を選択することによって水素供与体として機能する。揮発性有機ハロゲン化合物は、水素を電子供与体とし、揮発性有機ハロゲン化合物を電子受容体とする脱ハロゲン化呼吸により分解が促進される。
【0010】
本発明の縮合反応生成物及び/又はエステルは重合度を適切に選択することにより、及び/又は、オキシカルボン酸及び/又はアミノ酸及び/又は多価アルコールを適切に選択することにより粘度を自由に調整することが可能である。このことにより,分解促進剤を土壌中へ注入する際に、特別の機械を使用することなく重力による注入が可能となり、特別の機械を用いた注入又は既設の井戸からの注入のうち、最適な方法を選択することが可能となる。このことは現場工事における作業性及び経済性の大幅な向上に貢献する。
また本発明の縮合反応生成物及び/又はエステルは目的に合わせて、重合度及び粘度を適切に選択することにより,速効性又は遅効性の分解促進剤とすることができる。
【0011】
また本発明によれば、微生物の増殖、生育に必要な栄養元素である窒素、リン、カリウム、硫黄、マグネシウムを供給し、微生物の増殖、生育を促進するための揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、アミノ酸とオキシカルボン酸の縮合反応生成物及び/又は前記縮合反応生成物と多価アルコールのエステルを有効成分とする、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤及びこれを使用した揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進する方法を提供するものである。
本発明の分解促進剤の有効成分である縮合反応生成物及び/又はエステル(以下、「本発明の生成物」ともいう)の原料として使用するアミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等が挙げられるが、取り扱い性、経済性の点からグリシン、アラニンが好ましい。
【0013】
本発明の生成物の原料として使用するオキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸等が挙げられるが、取り扱い性、経済性の点から乳酸が好ましい。
本発明の生成物の原料として使用する多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられるが、天然由来の物質であることと経済性の点から、グリセリンが好ましい。
また、本発明で使用される多価アルコールの好ましい例としては、以下に示す式(1)で表されるグリコール又は糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種があげられる。
(1)

(式中、mは0〜4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示す)
【0014】
アミノ酸とオキシカルボン酸を反応させる際の触媒としては、通常、縮合反応に用いられる触媒が使用できるが、微生物にリン、硫黄を供給できるという点からリン酸、硫酸が特に好ましい。また、次のエステル化反応を行う場合に、そのまま触媒として使用できる点からも、リン酸、硫酸が特に好ましい。
アミノ酸とオキシカルボン酸のモル比は、アミノ酸1モルに対して、オキシカルボン酸が、好ましくは0.1〜20モルであり、より好ましくは1〜10モルである。
縮合反応の触媒の添加量は、原料アミノ酸に対して、好ましくは0.05〜5mol%程度,より好ましくは0.1〜0.5mol%程度で良い。
縮合反応を常圧、無溶媒で行った場合、縮合反応の反応温度は好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは130℃であり、反応時間は好ましくは5〜15時間、さらに好ましくは5〜10時間である。もちろん縮合反応には適宜各種有機溶媒を用いても良いし、減圧しても良い。
【0015】
前記の反応により得られる縮合反応生成物と多価アルコールを反応させる際の触媒としては、通常、エステル化反応に用いられる触媒が使用できるが、微生物にリン、硫黄を供給できるという点からリン酸、硫酸が特に好ましい。
また、縮合反応に使用される触媒を、そのままエステル化反応の触媒としてもよい。
多価アルコールの量は、アミノ酸1モルに対して、好ましくは1〜20モルであり、より好ましくは1〜10モルである。
【0016】
エステル化反応の触媒の添加量は、原料アミノ酸に対して、好ましくは0.05〜5mol%程度,より好ましくは0.1〜0.5mol%程度で良い。
エステル化反応を常圧、無溶媒で行った場合、エステル化反応の反応温度は好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは130℃であり、反応時間は好ましくは1〜10時間、さらに好ましくは1〜5時間である。もちろん、エステル化反応には適宜各種有機溶媒を用いても良いし、減圧しても良い。
【0017】
反応終了後、塩基性化合物(アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩等、好ましくは、炭酸カリウム、水酸化カリウム等のカリウム含有化合物)を加えて反応液を中和し、さらに約100℃で1時間程度攪拌した後、室温まで冷却すると、粘性液状の本発明の縮合反応生成物又はエステルが得られる。
【0018】
こうして得られた本発明の縮合反応生成物の重量平均分子量は、好ましくは140〜1600,さらに好ましくは140〜900である。
この明細書において、特に明記しない限り、「重量平均分子量」はGPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を表す。
また本発明の縮合反応生成物を有効成分とする嫌気性微生物による分解促進剤の粘度は、好ましくは25℃において200〜5000、さらに好ましくは300〜3000、最も好ましくは300〜2000mPa・sである。
本発明において粘度測定は、E型粘度計、B型粘度計等、いずれの粘度計を使用してもよいが、その操作性から、好ましくはB型粘度計での測定である。
この明細書において、特に明記しない限り、「粘度」は25℃においてB型粘度計により測定した粘度を表す。
【0019】
また、本発明のエステルは、好ましくは、下記式(2)で表される。
(2)

(式中、mは0〜4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示す。
Rは同一でも異なっていても良く、水素原子又は前記縮合反応生成物残基を示す。但しRがすべて水素であることはない。)
こうして得られた本発明のエステルの重量平均分子量は、好ましくは220〜4700、さらに好ましくは220〜2500である。また本発明のエステルを有効成分とする嫌気性微生物による分解促進剤の粘度は、好ましくは25℃において200〜5000、さらに好ましくは300〜3000、最も好ましくは300〜2000mPa・sである。
分解促進剤の粘度が5000mmPa・sよりも大きいと、特に冬季、現場における操作性が悪くなる。一方、粘度が200mPa・sより小さいと、汚染源に留まりにくくなり、例えば土壌等の場合、雨水等により流されてしまう恐れがあり、さらには、水素供与体の放出速度が速くなり過ぎて、有効利用されない場合があり、結果としてハロゲンを分解するのに必要な量が多くなる場合がある。
【0020】
本発明の縮合反応生成物及び/またはエステルはそのまま分解促進剤として使用しても良いし、さらに他の添加剤、例えば、微生物の栄養源となる硫安、尿素、アンモニウム塩、硫黄化合物、リン化合物、塩化カリウム等のカリウム化合物、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、酵母エキス、あるいはペプトン等を適正量添加しても良い。
【0021】
本発明の分解促進剤は、揮発性有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水、その他の試料と接触させることにより、該揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進する。本発明の対象となる揮発性有機ハロゲン化合物は、好ましくは、有機塩素系化合物であり、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ビニルクロライド、等が挙げられる。
例えば、テトラクロロエチレンは微生物により、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、モノクロロエチレン(ビニルクロライド)、エチレンに順次分解される。
【0022】
本発明の分解促進剤は、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進するものであり、微生物の存在が必須となる。微生物としては、嫌気性微生物、例えば、Clostridium属、Dehalobacter属、Dehalococcoides属、Dehalospirilum属、Desulfobacterium属、Desulfomonas属、Desulfomonile属等の微生物が挙げられる。
本発明の分解促進剤を使用する場合、揮発性有機ハロゲン化合物を含む試料中の嫌気性微生物、例えば、Dehalococcoides属細菌の存在量を予め測定することが望ましい。Dehalococcoides属細菌の定量にはリアルタイムPCR法等の公知の方法が利用できる(例えば、非特許文献1参照)。
【0023】
本発明の分解促進剤を微生物が存在する土壌及び/又は地下水と接触させる方法は、非特許文献1に詳細に記載されている種々の方法を利用することができる。
【0024】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本実施例により本発明はなんら制限を受けるものではない。
【0025】
実施例1 アラニン−乳酸縮合反応生成物(アラニン/乳酸=2/8)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、アラニン50.0g(0.56mol)、85%乳酸237.9g(2.24mol)、85%リン酸0.162g(0.0014mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。反応中、反応生成物のアミン価および高速液体クロマトグラフィーによる原料ピークの消失を測定して反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.193g(0.0014mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のアラニン−乳酸縮合反応生成物を得た。この縮合反応生成物の物性を表1に示す。粘度はB型粘度計で測定したものである。
【0026】
実施例2 エステル(グリシン/乳酸/グリセリン=2/8/5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、グリシン15.0g(0.2mol)、85%乳酸84.8g(0.8mol)、85%リン酸0.058g(0.0005mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。反応中、縮合反応生成物のアミン価および高速液体クロマトグラフィーによる原料ピークの消失により、反応の進行を確認した。次に、グリセリン46.1g(0.5mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。反応中、エステルの酸価を測定し、エステル化反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.07g(0.0005mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−グリシン)グリセリンエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0027】
実施例3 エステル(アラニン/乳酸/グリセリン=2/8/5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、アラニン17.8g(0.2mol)、85%乳酸84.8g(0.8mol)、85%リン酸0.058g(0.0005mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、グリセリン46.1g(0.5mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.07g(0.0005mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−アラニン)グリセリンエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0028】
実施例4 エステル(グリシン/乳酸/グリセリン=1/9/10)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、グリシン8.3g(0.11mol)、85%乳酸104.9g(1.0mol)、96%硫酸0.04g(0.0004mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、グリセリン101.3g(1.1mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.054g(0.0004mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−グリシン)グリセリンエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0029】
実施例5 エステル(グリシン/乳酸/グリセリン=1/9/5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、グリシン7.5g(0.1mol)、85%乳酸95.4g(0.9mol)、85%リン酸0.058g(0.0005mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、グリセリン46.1g(0.5mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.07g(0.0005mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−グリシン)グリセリンエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0030】
実施例6 エステル(グリシン/乳酸/グリセリン=4/6/5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、グリシン30g(0.4mol)、85%乳酸63.6g(0.6mol)、85%リン酸0.058g(0.0005mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、グリセリン46.1g(0.5mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.07g(0.0005mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−グリシン)グリセリンエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0031】
実施例7 エステル(グリシン/乳酸/グリセリン=2/8/2.5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、グリシン15g(0.2mol)、85%乳酸84.8g(0.8mol)、85%リン酸0.058g(0.0005mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、グリセリン23.0g(0.25mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.07g(0.0005mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−グリシン)グリセリンエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0032】
実施例8 エステル(グリシン/乳酸/エチレングリコール=2/8/5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた500ml丸底フラスコに、グリシン15g(0.2mol)、85%乳酸84.8g(0.8mol)、85%リン酸0.058g(0.0005mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、エチレングリコール31.0g(0.5mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.07g(0.0005mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−グリシン)エチレングリコールエステルを得た。このエステルの物性を表1に示す。
【0033】
実施例9 エステル(アラニン/乳酸/グリセリン=2/8/5)の合成
機械的攪拌機、温度計を備えた1000ml丸底フラスコに、アラニン99.1g(1.11mol)、85%乳酸472g(4.45mol)、85%リン酸0.288g(0.0025mol)、96%硫酸0.029g(0.00028mol)を加え、外部加熱により約130℃に保ちながら、常圧で9時間攪拌した。次に、グリセリン255.6g(2.78mol)を加え、130℃に保ちながら、常圧で4時間攪拌した。縮合およびエステル化反応中は、実施例2と同様に反応の進行を確認した。その後、炭酸カリウム0.384g(0.0028mol)を加え、100℃に保ちながら常圧で1時間攪拌した。その後,7%塩化マグネシウム水溶液0.6g(0.00044mol)を加えた。室温まで冷却し、褐色の粘性液状のポリ(乳酸−アラニン)グリセリンエステルを得た。
【0034】
実施例10
実施例1で合成したアラニン−乳酸縮合反応生成物(アラニン/乳酸=2/8)、実施例9で合成したエステルの温度−粘度曲線を図1に示す。
また、比較品として市販水素供与剤(ポリ乳酸グリセリンエステル、重量平均分子量382)の温度−粘度曲線を図1に示す。
この温度−粘度曲線の粘度はE型粘度計で測定したものである。
本発明の縮合反応生成物及びエステルは市販水素供与剤と比較して低温においても粘度の上昇が少ない。従って、低温時、特に冬季における取り扱い性に優れ、現場工事における作業性及び経済性の点で極めて優れていることがわかる。
【0035】
実施例11(還元的脱塩素化反応の促進効果確認試験)
実施例1で合成した縮合反応生成物による還元的脱塩素化反応の促進効果を確認するために以下の試験を行った。有機塩素化合物により汚染された地下水を汚染地域から採取し、これに実施例1の縮合反応生成物を1000mg/Lとなるように添加し、100mLガラス瓶に満注し、恒温槽内で20℃に保持した。この地下水中のトリクロロエチレン(TCE)濃度は5mg/L、シス−1,2−ジクロロエチレン(cDCE)濃度は0.8mg/Lであった。また、この地下水中にはDehalococcoides属細菌が5.57×104copies/100mL確認された。所定時間毎にガラス瓶を回収し、分析試料とした。各分析試料中のトリクロロエチレン(TCE)及びシス−ジクロロエチレン(cDCE)の濃度をヘッドスペース法により測定した。n=2とし、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
実施例2〜9で合成したエステルについても、還元的脱塩素化反応の促進効果を確認するために同様の実験を行った。結果を表2に示す。
【0036】
比較例1
実施例11において、実施例1の縮合反応生成物及び実施例2〜9のエステルを添加しなかった他は同様に試験を行った。結果を表2に示す。
本発明の生成物を使用すると14日後にはトリクロロエチレン(TCE)がほぼすべてシス−ジクロロエチレン(cDCE)に変換され、cDCEの量も経時的に分解減少してゆくことがわかる。
【0037】
【表1】

※EG:エチレングリコール
粘度計:B型粘度計
【0038】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1、実施例9及び市販水素供与剤(ポリ乳酸グリセリンエステル、重量平均分子量382)の温度−粘度曲線を示す。粘度はE型粘度計により測定したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸とオキシカルボン酸の縮合反応生成物を有効成分とする、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤。
【請求項2】
アミノ酸が、α−アミノ酸である請求項1記載の分解促進剤。
【請求項3】
オキシカルボン酸が、α−オキシカルボン酸である請求項1又は2記載の分解促進剤。
【請求項4】
アミノ酸1モルに対するオキシカルボン酸の使用割合が0.1〜20モルである、請求項1〜3のいずれか1項記載の分解促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の縮合反応生成物と、多価アルコールとのエステルを有効成分とする、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解促進剤。
【請求項6】
多価アルコールが、以下に示す式(1)で表されるグリコール又は糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5記載の分解促進剤。
(1)

(式中、mは0〜4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示す)
【請求項7】
アミノ酸1モルに対する多価アルコールの使用割合が1〜20モルである請求項5又は6記載の分解促進剤。
【請求項8】
前記縮合反応生成物と、多価アルコールとのエステルが、下記の式(2)で表される請求項5〜7のいずれか1項記載の分解促進剤。
(2)

(式中、mは0〜4の整数を示し、Xは水素原子又はメチル基を示す。
Rは同一でも異なっていても良く、水素原子又は前記縮合反応生成物残基を示す。但しRがすべて水素であることはない。)
【請求項9】
アミノ酸とオキシカルボン酸との縮合反応、及び/又はその縮合反応生成物と多価アルコールとのエステル化反応の触媒が、リン酸及び硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜8のいずれか1項記載の分解促進剤。
【請求項10】
25℃における粘度が、200〜5000mPa・sである、請求項1〜9のいずれか1項記載の分解促進剤。
【請求項11】
揮発性有機ハロゲン化合物を含む土壌及び/又は地下水に、微生物の存在下、請求項1〜10のいずれか1項記載の分解促進剤を接触させることにより、該揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進する方法。
【請求項12】
揮発性有機ハロゲン化合物が、有機塩素系化合物である請求項11記載の方法。
【請求項13】
有機塩素系化合物が四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ビニルクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
微生物がClostridium属細菌、Dehalobacter属細菌、Dehalococcoides属細菌、Dehalospirilum属細菌、Desulfobacterium属細菌、Desulfomonas属細菌、Desulfomonile属細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項11〜13のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−104962(P2010−104962A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281989(P2008−281989)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(300065121)ADEKA総合設備株式会社 (4)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】