説明

揮発性有機化合物吸着剤の製造方法及びその方法により製造される揮発性有機化合物吸着剤

【課題】活性炭やゼオライトと同等又はそれ以上のガス吸着能を有し、且つ一度吸着したVOCの脱着温度が150℃以下という、低エネルギーで再生可能な揮発性有機化合物吸着剤の製造方法を提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物吸着剤の製造方法は、
(a)ケイ酸源を含む溶液とアルミニウム源を含む溶液とを混合して筒状アルミニウムケイ酸塩の前駆体を得る工程と、
(b)前駆体を洗浄する工程と、
(c)工程(b)における洗浄後の前駆体を酸の存在下で加熱して筒状アルミニウムケイ酸塩を得る工程と、
(d)筒状アルミニウムケイ酸塩を洗浄する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物吸着剤の製造方法及びその方法により製造される揮発性有機化合物吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、企業の環境負荷低減に対する意識が高まる中で、大気汚染防止法の改正に伴い、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の排出規制が開始されたため、VOC排出の対策技術に注目が集まっている。例えば、VOC用吸着剤については、従来から活性炭、ゼオライト等が用いられている。活性炭は、大小様々な孔を有するため、VOCのサイズに関係なく、ほぼ全てのVOCを吸着できる(例えば、下記特許文献1参照)。また、ゼオライトは、耐熱温度が高く、一度吸着したVOCを、熱又は圧力により脱着及び回収して繰り返し使用することができる(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−43846号公報
【特許文献2】特許第3818508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるものは、材料の主構成元素が炭素であるため、吸着熱の蓄積により酸化して発熱する恐れがあり、このための安全対策に多くのコストが割かれることになる。
【0005】
一方、特許文献2に記載されるものは、一般的な材料の構造が、二酸化ケイ素骨格の一部をアルミニウムに置き換えたものであるため、特許文献1のような安全対策は必要としないが、一度吸着したVOCを脱着及び回収して繰り返し使用する場合に、300℃以上という高温処理又は真空近くまでの減圧処理が必要となり、再生に多くのエネルギーが必要となる問題がある。
【0006】
本発明は、活性炭やゼオライトと同等又はそれ以上のガス吸着能を有し、且つ一度吸着したVOCの脱着温度が150℃以下という、低エネルギーで再生可能な揮発性有機化合物吸着剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により、筒状の形状をしたアルミニウムケイ酸塩を得ることができること、及び得られた筒状アルミニウムケイ酸塩の筒内の内壁や、筒間の隙間を形成する筒状アルミニウムケイ酸塩の外壁を吸着サイトとして利用できるため、吸着能の高い揮発性有機化合物吸着剤を提供することができるという知見を得た。
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0008】
(1)(a)ケイ酸源を含む溶液とアルミニウム源を含む溶液とを混合して筒状アルミニウムケイ酸塩の前駆体を得る工程と、
(b)前駆体を洗浄する工程と、
(c)工程(b)における洗浄後の前駆体を酸の存在下で加熱して筒状アルミニウムケイ酸塩を得る工程と、
(d)筒状アルミニウムケイ酸塩を洗浄する工程と、
を備える揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
(2)前記工程(a)で得られる混合溶液中のSi及びAlの元素比Si/Alがモル比で0.4〜0.6である、前項(1)に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
(3)前記工程(c)における加熱温度が80〜160℃である、前項(1)又は(2)に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
(4)前記工程(c)における加熱時間が96時間以内である、前項(1)乃至(3)のいずれかに記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
(5)前記工程(d)における洗浄後の筒状アルミニウムケイ酸塩は、当該筒状アルミニウムケイ酸塩を水に分散させて濃度400mg/Lの水分散液を調製したとき、当該水分散液において塩化物イオン濃度100mg/L以下及びナトリウムイオン濃度100mg/L以下を与える、前項(1)乃至(4)のいずれかに記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
(6)前項(1)乃至(5)の何れかに記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法により製造される、揮発性有機化合物吸着剤。
(7)BET比表面積が200m/g以上である、前項(6)に記載の揮発性有機化合物吸着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により製造された筒状アルミニウムケイ酸塩は、筒状アルミニウムケイ酸塩の筒内の内壁や、筒間の隙間(空間)を形成する筒状アルミニウムケイ酸塩の外壁を吸着サイトとして利用できるため、吸着能の高い揮発性有機化合物吸着剤を提供することができる。また、本発明の方法により製造された筒状アルミニウムケイ酸塩は、筒同士が繊維構造を構成する傾向を有しているため、吸着サイトに柔軟性(フレキシビリティ)があり、多種多様なVOCを吸着可能である。更に、本発明の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法において、筒状アルミニウムケイ酸塩を加熱合成した後に洗浄工程を有することにより、合成過程で生じた共存イオンが除去されることで有効な吸着サイトが増加するため、比表面積が増大し、可逆吸着能(物理吸着能)を大幅に向上できる。
そのため、本発明の方法で得られた揮発性有機化合物吸着剤は、活性炭やゼオライトと同等又はそれ以上のガス吸着能を有し、且つ一度吸着したVOCの脱着温度が150℃以下(好ましくは110℃以下)という、低エネルギーで再生可能な吸着剤材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る揮発性有機化合物吸着剤を模式的に示す図面である。
【図2】実施例1で得られた試料Aのメタノール吸脱着等温線を示す図面である。
【図3】実施例2で得られた試料Bのメタノール吸脱着等温線を示す図面である。
【図4】比較例1で得られた試料Cのメタノール吸脱着等温線を示す図面である。
【図5】比較例2で得られた試料Dのメタノール吸脱着等温線を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の方法により製造された揮発性有機化合物吸着剤10は、筒状アルミニウムケイ酸塩から構成されており、図1に示すように、筒状体10a同士により繊維構造が形成される傾向があり、筒状体10aの筒内の内壁20や、筒状体10a間の隙間30を形成する筒状体10aの外壁(外周面)を吸着サイトとして利用できる。筒状体10aの筒部長さ方向の長さは、例えば1nm〜10μmである。筒状体10aは、例えば円筒状を呈しており、外径は例えば1.5〜3.0nmであり、内径は例えば0.7〜1.4nmである。
【0012】
本発明の揮発性有機化合物吸着剤10の製造方法は、前駆体形成工程と、第1洗浄工程と、合成工程と、第2洗浄工程とを備えることを特徴としている。
以下、本実施形態に係る揮発性有機化合物吸着剤10の製造方法について説明する。
【0013】
(前駆体形成工程)
前駆体形成工程では、ケイ酸源を含むケイ酸溶液と、アルミニウム源を含むアルミニウム溶液とを混合して筒状アルミニウムケイ酸塩の前駆体を含む混合溶液を得る。
【0014】
<ケイ酸源及びアルミニウム源>
筒状アルミニウムケイ酸塩を合成する際、原料には、ケイ酸源及びアルミニウム源が必要となる。ケイ酸源は、溶媒和した際にケイ酸イオンが生じればよく、例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、アルミニウム源は、溶媒和した際にアルミニウムイオンが生じればよく、例えば、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミニウムs−ブトキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱合成時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0016】
<混合比と溶液の濃度>
これらの原料をそれぞれ溶媒に分散させて原料溶液(ケイ酸溶液、アルミニウム溶液)を調製した後、原料溶液を互いに混合して混合溶液を得る。混合溶液中のSi及びAlの元素比Si/Alは、任意の値となるように調整し得るが、モル比で0.4〜0.6であることが好ましい。元素比Si/Alを0.4〜0.6とすることで、筒状アルミニウムケイ酸塩が合成され易くなり、この値を外れるに従い、筒状アルミニウムケイ酸塩に代わり、非晶質アルミニウムケイ酸塩の生成割合が増す傾向がある。また、原料溶液の混合の際には、アルミニウム溶液に対してケイ酸溶液を徐々に加えることが好ましく、このようにすることで、所望する筒状アルミニウムケイ酸塩の作製阻害要因となる、ケイ酸の重合を抑えることができる。
【0017】
ケイ酸溶液の濃度は、特に制限されるものではないが、1〜1000mmol/Lであることが好ましく、50〜500mmol/Lであることがより好ましい。ケイ酸溶液の濃度が1mmol/L未満であると、作製できる筒状アルミニウムケイ酸塩の量が微量となる傾向があり、ケイ酸溶液の濃度が1000mmol/Lを超えると、作製できる筒状アルミニウムケイ酸塩の量がケイ酸溶液の濃度に見合うほど増えない傾向がある。
【0018】
アルミニウム溶液の濃度は、特に制限されるものではないが、100〜1000mmol/Lであることが好ましい。アルミニウム溶液の濃度が100mmol/L未満であると、作製できる筒状アルミニウムケイ酸塩の量が微量となる傾向があり、アルミニウム溶液の濃度が1000mmol/Lを超えると、作製できる筒状アルミニウムケイ酸塩の量がアルミニウム溶液の濃度に見合うほど増えない傾向がある。
【0019】
(第1洗浄工程:前駆体の洗浄)
ケイ酸溶液とアルミニウム溶液とを混合して前駆体を含む混合溶液を得た後、前駆体を洗浄するための第1洗浄工程を行う。第1洗浄工程では、混合溶液中から共存イオンを除去して混合溶液中の共存イオン濃度を低下させる。第1洗浄工程を行うことで、合成工程において所望の形状を有する筒状アルミニウムケイ酸塩を形成し易くなる。
【0020】
第1洗浄工程は、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオン以外のアニオン(例えば塩化物イオン、硝酸イオン)及びカチオン(例えばナトリウムイオン)を除去できればよく、特に制限されるものではないが、例えば、遠心分離を用いる方法、透析膜を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法等が挙げられる。
【0021】
第1洗浄工程では、混合溶液にアルカリを加えてpHを5〜8に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残った前駆体を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、アンモニアが好ましい。
【0022】
溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱合成時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0023】
洗浄工程の処理回数は、共存イオンの残存量によって設定すればよいが、1〜6回が好ましく、6回程度の洗浄を繰り返すと、共存イオンの残存量が筒状アルミニウムケイ酸塩の合成に影響しない程少なくなる。第1洗浄工程では、例えば、共存イオンの残存量を洗浄工程前の1/10以下にすることが好ましい。
【0024】
pH調整する際のpH測定は、一般的なガラス電極を用いたpHメータによって測定できる。具体的には、例えば、株式会社堀場製作所製の商品名:Model(F−51)を使用することができる。フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)と、中性リン酸塩pH標準液(pH:6.86)と、ホウ酸塩pH標準液(pH:9.18)とをpH標準液として用い、pHメータを3点校正した後、pHメータの電極を対象溶液中に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することでpHが得られる。このとき、標準緩衝液と対象溶液中の液温は、例えば、共に25℃とすることができる。
【0025】
(合成工程)
合成工程では、第1洗浄工程における洗浄後の前駆体を含む溶液に酸を加えた後、前駆体を酸の存在下で加熱して筒状アルミニウムケイ酸塩を得る。合成工程で得られる筒状アルミニウムケイ酸塩は、製造対象である筒状アルミニウムケイ酸塩の吸着サイトが共存イオンによって塞がれた状態である。
【0026】
第1洗浄工程後、得られた前駆体に溶媒を加え、任意の量に希釈する。希釈倍率は、特に制限されるものではないが、前駆体の全質量に対して100倍以下であることが好ましい。この倍率が100倍を超えると、必要量の筒状アルミニウムケイ酸塩を得るために多くの加熱合成を繰り返す必要があり、実用性が徐々に薄れる傾向がある。尚、希釈は省略してもよい。
【0027】
溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱合成時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0028】
希釈後溶液に酸を加え、pHを2〜5に調整し、前駆体を分散状態とする。その後、この溶液を加熱することで、筒状アルミニウムケイ酸塩を含む合成溶液が得られる。
【0029】
加熱温度は、特に制限されるものではないが、80〜160℃であることが好ましい。加熱温度が160℃を超えると、ベーマイトの析出量が多くなる傾向がある。加熱温度が80℃未満であると、筒状アルミニウムケイ酸塩の合成速度が緩やかになり、時間に見合う程の効果が期待できない傾向がある。加熱時間は、特に制限されるものではないが、96時間(4日)以内であることが好ましい。加熱時間が96時間を超えると、筒状アルミニウムケイ酸塩の筒部長さ方向の成長が緩やかになり、時間に見合う程の効果が期待できない傾向がある。
【0030】
前述した前駆体に加える酸は、特に制限されるものではないが、具体的には、塩酸、過塩素酸及び硝酸等を用いることができ、加熱合成時における溶液中の共存イオン種の低減を考慮すれば、使用したアルミニウム源に含まれるアニオンと同様のアニオンを含む酸を用いることが好ましい。
【0031】
(第2洗浄工程:筒状アルミニウムケイ酸塩の洗浄)
合成溶液の溶媒を除去して得た固形分は、筒状アルミニウムケイ酸塩の吸着サイト(筒状体10aの筒内の内壁20、及び筒状体10a間の隙間30を形成する筒状体10aの外壁)を共存イオンが塞いでいる状態であるため、期待する程の吸着能は得られない。そのため、揮発性有機化合物吸着剤10を得るためには、筒状アルミニウムケイ酸塩を洗浄することで吸着サイトを塞いでいる共存イオンを除去する必要がある。加熱合成後の第2洗浄工程は、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオン以外のアニオン及びカチオンを除去できればよく、加熱合成前の第1洗浄工程と同様の操作であっても、異なる操作であってもよい。
【0032】
加熱合成後の第2洗浄工程では、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残った筒状アルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、アンモニアが好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0033】
第2洗浄工程の処理回数は、共存イオンの残存量によって設定すればよいが、1〜6回が好ましく、6回程度の洗浄を繰り返すと、筒状アルミニウムケイ酸塩における共存イオンの残存量が充分に低減される。
【0034】
第2洗浄工程後の溶液については、残存する共存イオンの中でも、特に筒状アルミニウムケイ酸塩の吸着能に影響を与える塩化物イオン及びナトリウムイオンの濃度が低減されていることが好ましい。すなわち、第2洗浄工程における洗浄後の筒状アルミニウムケイ酸塩は、当該筒状アルミニウムケイ酸塩を水に分散させて濃度400mg/Lの水分散液を調製したとき、当該水分散液において塩化物イオン濃度100mg/L以下及びナトリウムイオン濃度100mg/L以下を与えることが好ましい。塩化物イオン濃度100mg/L以下且つナトリウムイオン濃度100mg/L以下であると、吸着能を更に向上させることができる。塩化物イオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。ナトリウムイオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、洗浄工程の処理回数やpH調整に使用するアルカリの種類により調整することができる。
【0035】
尚、ここで述べる「第2洗浄工程後の溶液」とは、第2洗浄工程を終了した後に、第2洗浄工程を行う前の容積に、溶媒を用いて容積を戻した溶液を意味する。用いる溶媒は、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、筒状アルミニウムケイ酸塩における共存イオンの残存量の低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0036】
また、ゼオライトと同等もしくはそれ以上の吸着能を得るためには、筒状アルミニウムケイ酸塩の比表面積(BET比表面積)は、200m/g以上であることが好ましい。筒状アルミニウムケイ酸塩の比表面積は、第2洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残った筒状アルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0037】
<揮発性有機化合物吸着剤>
本実施形態に係る揮発性有機化合物吸着剤は、筒状アルミニウムケイ酸塩から構成されるものであり、揮発性有機化合物に対する吸着剤として有用である。より具体的には、通気性を有するハニカム形状基材又は多孔質基材に筒状アルミニウムケイ酸塩をコーティングしてフィルタとして使用すること、粒状又は球状基材の表面にアルミニウムケイ酸塩をコーティングしてこの基材を容器中に充填して使用すること、アルミニウムケイ酸塩そのものを成形して使用すること等により、筒状アルミニウムケイ酸塩を揮発性有機化合物吸着剤として用いることができる。尚、前述した基材は、特に限定されるものではなく、金属、セラミック、合成樹脂硬化物、木材等の天然素材等を用いることができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
濃度:0.18mol/Lの塩化アルミニウム水溶液(500mL)に、濃度:0.074mol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液(500mL)を加え、30分間攪拌した。この溶液に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下速度2mL/分で93mL加え、pH=7に調整した。
【0040】
pH調整した溶液を10分間攪拌後、回転速度:3,000回転/分で、10分間の遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み溶液を排出し、ゲル状沈殿物として残った筒状アルミニウムケイ酸塩前駆体を純水に再分散させ、遠心分離前の容積に戻した。このような遠心分離による洗浄工程を3回行った。
【0041】
洗浄後、得られた筒状アルミニウムケイ酸塩前駆体に純水を加え、容積を12Lとした。
【0042】
溶液に、濃度:1mol/Lの塩酸を60mL加えてpH=4に調整し、30分間攪拌して透明溶液を得た。次に、この透明溶液を乾燥器に入れ、98℃で96時間(4日間)加熱し、筒状アルミニウムケイ酸塩の合成溶液を得た。
【0043】
合成溶液に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60mL添加し、pH=9に調整した。筒状アルミニウムケイ酸塩を凝集させ、遠心分離でこの凝集体を沈殿させることで、上澄み液を排出した。これに純水を添加して遠心分離前の容積に戻すという洗浄を3回行った。
【0044】
洗浄後の溶液を溶液A(筒状アルミニウムケイ酸塩濃度400mg/L)とした。また、溶液Aを60℃で3日間乾燥して得られた粉末を試料Aとした。
【0045】
(評価)
評価は、溶液Aの塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度、そして試料AのBET比表面積及びVOCガス吸脱着能によって行った。
【0046】
塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、イオンクロマトグラフィーにて分析した。評価装置には、ダイオネクス社製:DX−320(商品名)及びDX−100(商品名)をそれぞれ用いた。
【0047】
BET比表面積は、窒素吸着能から解析した。評価装置には、Quantachrome Instruments社製:Nova2000eI(商品名)を用いた。BET比表面積を測定する際には、後述する試料の前処理を行った後、評価温度を−196℃とし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満としている。
【0048】
VOCガス吸脱着能評価には、日本ベル株式会社製:BELSORP−18(商品名)を用いた。VOCガス吸脱着能評価をする際は、後述する試料の前処理を行った後、評価温度を20℃とし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満としている。
【0049】
ここで、BET比表面積及びVOCガス吸脱着能の評価に当たり、試料表面及び構造中に吸着している水分が、ガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、加熱による水分除去の前処理が必要となる。
本実施例では、0.05gの試料Aを投入した測定用セルに、真空ポンプで脱気及び加熱を自動制御で行い、試料Aを前処理した。この処理の詳細条件は、10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却するという設定とした。
【0050】
(実施例1の評価結果)
評価の結果、溶液Aの塩化物イオン濃度は2.1mg/L、ナトリウムイオン濃度は2.3mg/Lであった。また、試料AのBET比表面積は323m/gであった。
【0051】
試料AのVOCガス吸脱着能評価に当たりVOCガスとしてn−ヘキサン、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトンを使用した。これらの中で、メタノール吸脱着能の評価結果を図2に示す。図2について、横軸は、飽和蒸気圧p0に対する平衡圧力pである相対圧[p/p0]を示し、縦軸は、試料質量当たりのガス吸着量を標準状態(0℃、1気圧)の体積に換算して求めた吸着量[cm(STP)/g]を示す。
【0052】
ここで、各VOCガスの相対圧が1に最も近いときの吸着量を全吸着量とすると、試料Aの全吸着量は、n−ヘキサン:33.8cm(STP)/g、ジエチルエーテル:50.5cm(STP)/g、メタノール:122.0cm(STP)/g、エタノール:115.8cm(STP)/g、n−プロパノール:60.9cm(STP)/g、n−ブタノール:50.9cm(STP)/g、アセトン:70.3cm(STP)/g、メチルエチルケトン:58.9cm(STP)/gとなった。
【0053】
また、メタノールについては、吸脱着能を自動制御で5回連続測定した(図2参照)。繰返し吸脱着評価について、初回吸脱着能測定と2〜5回目吸脱着能測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−22%であった。これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが22%存在するということを示している。
【0054】
尚、吸脱着能の連続試験では、同一試料を用いているが、試験が終了する毎に、20℃にて1時間脱気し、それから次の試験を行うようにした。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同様の操作で調製した筒状アルミニウムケイ酸塩の合成溶液に、水酸化ナトリウムの代わりとして、28質量%アンモニア水溶液を12mL添加し、pH=9に調整した。筒状アルミニウムケイ酸塩を凝集させ、遠心分離でこの凝集体を沈殿させることで、上澄み液を排出した。これに純水を添加して遠心分離前の容積に戻すという洗浄を3回行った。
【0056】
洗浄後の溶液を溶液B(筒状アルミニウムケイ酸塩濃度400mg/L)とした。また、溶液Bを60℃で3日間乾燥して得られた粉末を試料Bとした。
【0057】
(評価)
評価は、溶液Bの塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度、そして試料BのBET比表面積及びVOCガス吸脱着能によって行った。評価装置及び測定条件は実施例1と同様とした。
【0058】
(実施例2の評価結果)
評価の結果、溶液Bの塩化物イオン濃度は、1.7mg/L、ナトリウムイオン濃度は、0.1mg/L以下であった。また、試料BのBET比表面積は、388m/gであった。
【0059】
試料BのVOCガス吸脱着能評価に当たりVOCガスとしてメタノールを使用した。評価結果を図3に示す。
【0060】
ここで、メタノールガスの相対圧が1に最も近いときの吸着量を全吸着量とすると、試料Bの全メタノール吸着量は、126.7cm(STP)/gとなった。
【0061】
また、メタノールの吸脱着能を自動制御で5回連続測定した(図3参照)。繰返し吸脱着評価について、初回吸脱着着能測定と2〜5回目吸脱着能測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−20%であった。これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが、20%存在するということを示している。
【0062】
(比較例1)
実施例1と同様にして、筒状アルミニウムケイ酸塩前駆体を含有する溶液を98℃で4日間加熱し、筒状アルミニウムケイ酸塩の合成溶液を得た後に、洗浄工程を行わなかったものを溶液C(筒状アルミニウムケイ酸塩濃度400mg/L)とし、この溶液Cを、60℃で3日間乾燥して得られた粉末を、試料Cとした。
【0063】
溶液C及び試料Cの評価は、合成溶液の塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度、そして試料CのBET比表面積及びVOCガス吸脱着能によって行った。評価装置及び測定条件は実施例1と同様とした。
【0064】
評価の結果、合成溶液の塩化物イオン濃度は170mg/L、ナトリウムイオン濃度は0.6mg/Lであった。また、試料CのBET比表面積は1m/g以下であった。
【0065】
試料CのVOCガス吸脱着能評価に当たりVOCガスとしてメタノールを使用した。評価結果を図4に示す。図4について、横軸は飽和蒸気圧p0に対する平衡圧力pである相対圧[p/p0]を示し、縦軸は、試料質量当たりのガス吸着量を標準状態(0℃、1気圧)の体積に換算して求めた吸着量[cm(STP)/g]を示す。
【0066】
ここで、メタノールガスの相対圧が1に最も近いときの吸着量を全吸着量とすると、試料Cの全メタノール吸着量は3.7cm(STP)/gとなった。
【0067】
また、メタノールの吸脱着能を自動制御で5回連続測定した(図4参照)。繰返し吸脱着評価について、初回吸脱着着能測定と2〜5回目吸脱着能測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−18%であった。これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが18%存在するということを示している。
【0068】
(比較例2)
市販品のゼオライト(和光純薬工業株式会社製、商品名:モレキュラーシーブス13X)を試料Dとした。
【0069】
試料Dの評価は、VOCガス吸脱着能によって行った。評価装置及び測定条件は実施例1と同様とした。試料DのVOCガス吸脱着能評価に当たりVOCガスとしてn−ヘキサン、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトンを使用した。これらの中で、メタノール吸脱着能の評価結果を図5に示す。
【0070】
ここで、各VOCガスの相対圧が1に最も近いときの吸着量を全吸着量とすると、試料Dの全吸着量はn−ヘキサン:38.5cm(STP)/g、ジエチルエーテル:52.1cm(STP)/g、メタノール:120.0cm(STP)/g、エタノール:104.2cm(STP)/g、n−プロパノール:64.1cm(STP)/g、n−ブタノール:50.3cm(STP)/g、アセトン:72.1cm(STP)/g、メチルエチルケトン:72.7cm(STP)/gとなった。
【0071】
また、メタノールの吸脱着能を自動制御で5回連続測定した(図5参照)。繰返し吸脱着評価について、初回吸脱着着能測定と2〜5回目吸脱着能測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−62%であった。これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが62%存在するということを示している。
【符号の説明】
【0072】
10…揮発性有機化合物吸着剤
10a…筒状体
20…内壁
30…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケイ酸源を含む溶液とアルミニウム源を含む溶液とを混合して筒状アルミニウムケイ酸塩の前駆体を得る工程と、
(b)前記前駆体を洗浄する工程と、
(c)前記工程(b)における洗浄後の前記前駆体を酸の存在下で加熱して筒状アルミニウムケイ酸塩を得る工程と、
(d)前記筒状アルミニウムケイ酸塩を洗浄する工程と、
を備える揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)で得られる混合溶液中のSi及びAlの元素比Si/Alがモル比で0.4〜0.6である、請求項1に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)における加熱温度が80〜160℃である、請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)における加熱時間が96時間以内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項5】
前記工程(d)における洗浄後の前記筒状アルミニウムケイ酸塩は、当該筒状アルミニウムケイ酸塩を水に分散させて濃度400mg/Lの水分散液を調製したとき、当該水分散液において塩化物イオン濃度100mg/L以下及びナトリウムイオン濃度100mg/L以下を与える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法により製造される、揮発性有機化合物吸着剤。
【請求項7】
BET比表面積が200m/g以上である、請求項6に記載の揮発性有機化合物吸着剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−148241(P2012−148241A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9188(P2011−9188)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】