説明

揮発性有機塩素化合物の処理方法及び装置

【目的】 紫外線分解法において、十分な分解ができしかも効率的で安全な揮発性有機塩素化合物の処理方法とその装置を提供する。
【構成】 揮発性有機塩素化合物を含有する気相中に水素源を付加した後、該気相を紫外線に曝露して前記気相中の揮発性有機塩素化合物を分解することを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理方法としたものであり、該処理装置として、揮発性有機塩素化合物を含有する気相21中に水蒸気又は水素を含む気体23を付加する水素源付加装置22と、該水素源を付加された揮発性有機塩素化合物24を含む気体に紫外線25を照射する紫外線照射装置26とを有し、さらに紫外線照射後の気体27をアルカリ剤により処理する湿式中和装置28とを備えたこととしたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、揮発性有機塩素化合物の処理に係り、特に、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物を気相中で分解処理する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】揮発性有機塩素化合物による環境汚染とくに土壌汚染・地下水・上水の汚染が報告され、社会的に大きな問題となっている。汚染源としては主としてドライクリーニングや、金属工業・電子工業等の脱脂洗浄剤の漏出に起因すると言われている。水中に含まれるこれらの揮発性有機塩素化合物は空気を液中に吹き込み曝気するストリッピング方式で気相へ追い出し、これを吸着剤で無害化する方式が一般的である。また、土中に井戸を設置し、真空ポンプで井戸の内部を減圧しガス中に抽出した揮発性有機塩素化合物を吸着剤にて処理する方式も良く知られている。
【0003】前記ガスの吸着処理は比較的確実な方法であるが、対象成分濃度が低濃度のときには、吸着剤の飽和吸着量が、数%(WT)以下と小さく、使い捨て又は工場持ち帰り再生する場合には、多量の吸着剤を必要とするため、設備費・ランニングコストも高くなる点が、問題であった。使用済みの吸着剤についても廃棄物処分又は吸着剤メーカーの工場にて再生するにしても再び環境を汚染する恐れがあった。
【0004】そのため、吸着剤をその場で再生し、繰り返し使用する方法が開発された。この方法は再生用ガス又は水蒸気によって吸着成分を脱着し、続いてコンデンサー(凝縮器)によって回収し、揮発性有機塩素化合物を濃縮して廃棄処分している。これらの濃縮回収した揮発性有機塩素化合物は、産業廃棄物として処分されるにあたり、再び環境汚染を引き起こすことが懸念され、完全で安全な処理方式とは言いがたいものであった。
【0005】そこで、紫外線を用いて揮発性有機塩素化合物を分解無害化する方法が検討されている。例えば、希薄な揮発性有機塩素化合物を含有するガス(ストリッピングガスなど)に紫外線を照射する方法、ガス中の有機塩素化合物を吸着剤に吸着させた後、吸着剤を加熱空気によって再生し、再生排ガス中の揮発性有機塩素化合物に紫外線を照射して分解する方法等である。しかしながら、これら従来の紫外線分解法では、十分な分解ができないという問題点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題点を解消し、紫外線分解法においても十分な分解ができ、効率的でかつ安全な揮発性有機塩素化合物の処理方法とその装置を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明では、揮発性有機塩素化合物を含有する気相中に水素源を付加した後、該気相を紫外線に曝露して前記気相中の揮発性有機塩素化合物を分解することを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理方法としたものである。本発明において、揮発性有機塩素化合物を含有する気相としては、揮発性有機塩素化合物を含む溶液を曝気して揮発性有機塩素化合物を気相中に移行させたもの、あるいは、揮発性有機塩素化合物を含む排ガスを活性炭に吸着させ、該活性炭から水蒸気又は熱風により脱着後、凝縮液化した揮発性有機塩素化合物を含む溶液を、曝気して揮発性有機塩素化合物を気相中に移行させたもの等を用いることができる。
【0008】そして、前記処理方法において、水素源としては水蒸気又は水素を含む気体を用いることができる。また、本発明では、揮発性有機塩素化合物を含有する気相中に水蒸気又は水素を含む気体を付加する水素源付加装置と、該水素源を付加された揮発性有機塩素化合物を含む気体に紫外線を照射する紫外線照射装置とを備えたことを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理装置としたものである。さらに、本発明では、上記処理装置において、紫外線照射後の気体をアルカリ剤により処理する湿式中和装置を備えているのがよい。
【0009】上記のように、本発明は希薄なガスから濃縮・回収して液化させた揮発性有機塩素化合物、又は使用済みで廃棄処分しなければならない揮発性有機塩素化合物等に空気を吹き込み、揮発した高濃度ガスに水素源の存在下で紫外線を照射して、ガス中の揮発性有機塩素化合物を、塩化水素、二酸化炭素及び水に分解した後、さらにそのガスを苛性ソーダ等のアルカリ剤で湿式中和し、保安フィルターとしての吸着剤を通過させた後、大気へ放出させる揮発性有機塩素化合物処理方法を提供するものである。
【0010】照射する紫外線は短波長のものが有効である。水銀ランプを使用する場合、水銀の共鳴線である波長253.7nmと184.9nmを比較すると184.9nmの方が効果的である。そのため、光源はこの波長を効率的に発生する低圧水銀ランプで、しかもこの波長を透過する材質(合成石英)で構成されたものを用いるべきである。なお、トリクロロエチレン(TCE)及びテトラクロロエチレン分解の化学反応式は以下に示す通りであると考えられる。
【0011】
トリクロロエチレン C2 HCl3 +2O2 +H2 → 2CO2 +3HCl C2 HCl3 + 3/2O2 +H2 O → 2CO2 +3HClテトラクロロエチレンC2 Cl4 +2O2 +2H2 → 2CO2 +4HClC2 Cl4 +O2 +2H2 O → 2CO2 +4HClこのように有機塩素化合物は分解され、水素との反応により有機塩素化合物中の塩素は塩化水素として固定される。なお、照射する気相中の揮発性有機塩素化合物濃度は、TCEの場合、100ppmから50000ppm程度が有効である。
【0012】また、揮発性有機塩素化合物の紫外線による安定的な分解には当該物質濃度、特にその中の塩素原子の量に応じて上記反応式に示されるように水素源が必要である。その水素源を供給して必要量を確保する点が本発明の要旨である。例えばTCE1molの分解には水素原子が2mol必要であり、それは水分子では1molに相当する。大気中の水蒸気は天候に応じて変動する。気温10℃、相対湿度30%のとき、水蒸気濃度は900ppmである。この濃度の水蒸気で分解できるトリクロロエチレン濃度は最高900ppmである。そのため、高濃度のTCEを安定して分解するためには水素の供給源となる物質を安定して供給する必要がある。水素の供給源としては水蒸気及び水素ガスなどがある。
【0013】
【作用】本発明の作用について、本発明の一例を示す図1R>1を参照しながら説明する。図1において、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物を含有する原水1は、ストリッピング装置2に導かれて上方から充填物3に散布され、下方から送風機4によって吹き込まれるストリッピングガス(空気など5)により水中の揮発性有機塩素化合物が除去され、処理水6となって流出する。一方、ストリッピング装置2から排気される排ガス7中には、水中から追い出された揮発性有機塩素化合物が含まれており、この排ガス7を吸着剤8を充填した吸着装置9に導入して吸着剤8に接触させることにより、排ガス7中の有機塩素化合物は吸着剤8に吸着され、無害化された処理ガス10となって排出される。吸着の条件は常温常圧で良い。
【0014】このような吸着条件において、吸着剤8は吸着の進行によって吸着能を失うが、破過に達する以前に排ガスの通気停止あるいは予備吸着装置への切り換えを行ない、吸着剤8の吸着成分の脱着、再生を行なえば良い。脱着、再生は、例えば吸着剤層にボイラー11で発生させた水蒸気12をさらにヒーター13で加熱した後供給し、吸着剤層を通過させ、吸着剤8に吸着された揮発性有機塩素化合物を脱着する。脱着には水蒸気の他空気等の高温気体を用いることができる。排出される揮発性有機塩素化合物を含有する蒸気14はコンデンサー15に導かれて凝縮回収される。凝縮回収された液は分離槽16に導かれて、揮発性有機塩素化合物液17と水18に分離され、水18は原水1に混合し再度ストリッピング等処理される。一方、揮発性有機塩素化合物17は廃液タンク19に導かれる。
【0015】廃液タンク19中の揮発性有機塩素化合物液17にコンプレッサー等の空気源20から発生させた空気の一部を通過させ、揮発性有機塩素化合物を高濃度に含有するガス21を発生させる。そのガスに水素源付加装置、即ち加湿槽22によって水素源である水蒸気を含む加湿された空気23を混合させ、一定の濃度・風量となるように調整する。
【0016】続いて、この揮発性有機塩素化合物及び水蒸気を含有するガス24を、低圧紫外線ランプ25を内蔵したUVリアクタ26の中に一定時間流し、紫外線によってガス中の有機塩素化合物を分解する。紫外線への曝露時間は、紫外線ランプの強度とガス流量によって適宜選定する。分解によって発生した塩化水素を含むガス27は中和槽28に導かれて中和無害化され、最後に活性炭を充填した保安フィルター29を通って無害化された処理ガス30として大気へ放出される。中和槽はスクラバ方式であっても良い。
【0017】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1図1に示す装置を用いて、本発明に従って下記条件により揮発性有機塩素化合物を処理した。
【0018】処理条件(ストリッピング装置2)
方式 :テラレット充填塔(5m充填)
通気量(空気)/通水量 :30通水速度 :60m/h水質原水中トリクロロエチレン :0.3〜0.6mg/リットル処理水中トリクロロエチレン :<0.03mg/リットル
【0019】(吸着装置8)
方式 :繊維状活性炭吸着(水蒸気再生)
吸着剤通気SV :5000リットル/h再生水蒸気流量 :30kg/h入口(排ガス)トリクロロエチレン:2〜4ppm出口(処理ガス)トリクロロエチレン:<0.33ppm再生頻度 :8時間毎再生時間 :30分
【0020】
(UVリアクタ26)
紫外線ランプ :低圧水銀ランプ(110w)
原ガス流量 :0.5〜3.8リットル/min紫外線照射時間 :1〜8minUVリアクタ容積 :3.8リットル原ガストリクロロエチレン濃度:18500ppm原ガス水蒸気濃度 :25000ppm処理ガストリクロロエチレン濃度:0.5ppm以下
【0021】
(中和槽28)
中和剤 :1規定苛性ソーダ溶液(保安フィルター29)
充填剤 :粒状活性炭SV :1000(リットル/hr)
【0022】上記の様にトリクロロエチレンは紫外線照射によってほぼ100%分解されていることが分かった。このとき原ガス中には十分量の水蒸気が含まれていた。また、UVリアクタ処理ガス中の炭酸ガス及び一酸化炭素濃度を分析した結果を図2に示す。滞留時間8分では一酸化炭素はほゞ消失し、炭酸ガス濃度は37500ppmとなった。この結果から、原ガスのトリクロロエチレン中に含まれる炭素がほぼ100%炭酸ガスに酸化分解されていることがわかった。
【0023】実施例2実施例1と同様の操作によって揮発性有機塩素化合物を吸着剤に吸着、脱着し、凝縮させた液に空気を吹き込んでガス化させ、UVリアクタによって処理した。ただし、トリクロロエチレン濃度を約5000ppmとなるように設定した。
処理条件
【0024】
(UVリアクタ26)
紫外線ランプ :低圧水銀ランプ(110w)
原ガス流量 :1.0〜7.6リットル/min紫外線照射時間 :0.5〜4minUVリアクタ容積 :3.8リットル原ガストリクロロエチレン濃度:4900ppm原ガス水蒸気濃度 :30,000ppm処理ガストリクロロエチレン濃度:0.5ppm以下
【0025】(中和槽28)
中和剤 :1規定苛性ソーダ溶液(保安フィルター29)
充填剤 :粒状活性炭SV :1000リットル/hr
【0026】上記の様にトリクロロエチレンは紫外線照射によってほぼ100%分解されていることが分かった。この時、原ガス中には十分量の水蒸気が含まれていた。また、UVリアクタ出口ガス中の炭酸ガス及び一酸化炭素濃度を分析した結果を図3に示す。滞留時間4分では一酸化炭素はほゞ消失し、炭酸ガス濃度は10100ppmとなった。この結果から、原ガスのトリクロロエチレン中に含まれる炭素がほぼ100%炭酸ガスに酸化分解されていることがわかった。
【0027】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、揮発性有機塩素化合物を効果的に無害化し、環境汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理方法に用いる装置の一例を示す工程図。
【図2】UVリアクタ出口ガス中のCO2 とCOのガス濃度を示すグラフ。
【図3】UVリアクタ出口ガス中のCO2 とCOのガス濃度を示すグラフ。
【符号の説明】
1:原水、2:ストリッピング装置、3:充填物、4:送風機、5:曝気気体、6:処理水、7:排気ガス、8:吸着剤、9:吸着装置、10:吸着処理ガス、11:ボイラー、12:水蒸気、13:ヒーター、14:脱着蒸気、15:コンデンサー、16:分離槽、17:揮発性有機塩素化合物液、18:水、19:廃液タンク、20:コンプレッサー、21:揮発性有機塩素化合物高濃度含有ガス、22:加湿槽、23:加湿空気、24:被処理ガス、25:低圧紫外線ランプ、26:UVリアクタ、27:塩化水素を含む分解ガス、28:中和槽、29:保安フィルター、30:無害化された処理ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】 揮発性有機塩素化合物を含有する気相中に水素源を付加した後、該気相を紫外線に曝露して前記気相中の揮発性有機塩素化合物を分解することを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理方法。
【請求項2】 揮発性有機塩素化合物を含む溶液を曝気して揮発性有機塩素化合物を気相中に移行させ、該気相に水素源を付加した後、紫外線に曝露して前記気相中の揮発性有機塩素化合物を分解することを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理方法。
【請求項3】 揮発性有機塩素化合物を含む排ガスを活性炭に吸着させ、該活性炭から水蒸気又は熱風により脱着後、凝縮液化した揮発性有機塩素化合物を含む溶液を、曝気して揮発性有機塩素化合物を気相中に移行させ、該気相に水素源を付加した後、紫外線に曝露して前記気相中の揮発性有機塩素化合物を分解することを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理方法。
【請求項4】 前記水素源が、水蒸気又は水素を含む気体であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の揮発性有機塩素化合物の処理方法。
【請求項5】 揮発性有機塩素化合物を含有する気相中に水蒸気又は水素を含む気体を付加する水素源付加装置と、該水素源を付加された揮発性有機塩素化合物を含む気体に紫外線を照射する紫外線照射装置とを備えたことを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理装置。
【請求項6】 揮発性有機塩素化合物を含有する気相中に水蒸気又は水素を含む気体を付加する水素源付加装置と、該水素源を付加された揮発性有機塩素化合物を含む気体に紫外線を照射する紫外線照射装置と、紫外線照射後の気体をアルカリ剤により処理する湿式中和装置とを備えたことを特徴とする揮発性有機塩素化合物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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