説明

搬送車、搬送車の制御方法及びプログラム

【課題】搬送サイクルタイムを短縮することができる搬送車、搬送車の制御方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】搬送車は、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線を検出した場合、車体に配設された複数の駆動輪の駆動を停止する。搬送車は、複数の駆動輪を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回する。搬送車は、第一誘導線に対する側方向の別と、走行方向前後の複数の位置における第一又は第二誘導線に対する車体の各位置偏差とに基づいて、駆動停止を継続する一つの駆動輪及び駆動を開始する他の駆動輪を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送車、搬送車の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷工場、生産現場、配送センタ等では、磁気テープ、光反射テープ等の誘導線に沿って移動する無人の搬送車が導入されている。搬送車は、独立して駆動される複数の駆動輪を備え、誘導線の誘導方向に駆動輪を旋回する。搬送車は、走行路から離れた位置での搬送物の積み降ろし、狭い敷地での効率的移動等のために、車体を回転させることなく、走行方向と直交する横方向に並進移動し、目標停止位置で停止する(例えば、特許文献1、2参照)。搬送車が走行方向と直交する横方向へ並進移動することは、横行と呼ばれている。搬送車は、一時停止した後、横行のために駆動輪を90°旋回させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−61970号公報
【特許文献2】特開平5−274033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、横行のために搬送車が駆動輪を横行方向に旋回させた場合、誘導線に対する車体の方位は所望の方位から偏倚することがある。搬送車は、生じた方位偏差を補正するために、移動と停止とを繰り返す必要があり、この方位偏差の補正に時間が消費されている。そのため、搬送物の搬送サイクルタイムにロスが生じ、ひいては当該ロスが生産、物流等の作業効率を低下させている。
【0005】
本願は斯かる事情に鑑みてなされたものである。その目的は、搬送サイクルタイムを短縮することができる搬送車、搬送車の制御方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る搬送車は、車体に配設された複数の駆動輪と、対応する前記駆動輪を夫々独立して駆動する複数の駆動手段と、対応する前記駆動輪を夫々独立して旋回する複数の旋回手段と、第一誘導線を検出する複数の第一検出手段と、該第一検出手段が検出する第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線を検出する複数の第二検出手段とを備え、前記車体を回転させることなく、走行方向を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に変更し、前記駆動手段が夫々対応する駆動輪を駆動することにより、第二誘導線に沿って走行する搬送車において、少なくとも一つの第二検出手段が第二誘導線を検出した場合、前記駆動手段は夫々対応する駆動輪の駆動を停止し、前記旋回手段は夫々対応する駆動輪を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回するようにしてあり、前記第一検出手段は走行方向前後の複数の位置における第一誘導線に対する前記車体の各位置偏差を検出するようにしてあり、前記第二検出手段は走行方向前後の複数の位置における第二誘導線に対する前記車体の各位置偏差を検出するようにしてあり、前記駆動手段が夫々対応する駆動輪の駆動を停止し、前記旋回手段が夫々対応する駆動輪を第二誘導線に対応する方向に旋回した場合、第一誘導線に対する側方向の別及び前記第一又は第二検出手段が夫々検出した各位置偏差に基づいて、駆動停止を継続する一つの駆動輪及び駆動を開始する他の駆動輪を決定する決定手段を備えることを特徴とする。
【0007】
本願に係る搬送車では、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線を検出した場合、車体に配設された複数の駆動輪の駆動を停止する。搬送車は、複数の駆動輪を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回する。搬送車は、第一誘導線に対する側方向の別と、走行方向前後の複数の位置における第一誘導線又は第二誘導線に対する車体の各位置偏差とに基づいて、駆動停止を継続する一つの駆動輪及び駆動を開始する他の駆動輪を決定する。
これにより、搬送車は方位補正の準備を完了する。
【0008】
本願に係る搬送車は、前記決定手段が決定した他の駆動輪に夫々対応する他の駆動手段は、第一誘導線に対する側方向の別及び前記第一又は第二検出手段が夫々検出した前記車体の各位置偏差に基づいて、該他の駆動輪各々に関する駆動速度を制御するようにしてあることを特徴とする。
【0009】
本願に係る搬送車では、第一誘導線に対する側方向の別と、走行方向前後の複数の位置における第一誘導線又は第二誘導線に対する車体の各位置偏差とに基づいて、決定した他の駆動輪各々に関する駆動速度を制御する。
これにより、方位の偏差が小さくなる方向に搬送車の車体は回転する。
【0010】
本願に係る搬送車は、前記第一又は第二検出手段が夫々検出した前記車体の各位置偏差に基づいて、第一又は第二誘導線に対する前記車体の方位偏差を算出する算出手段と、該算出手段により算出された前記車体の方位偏差が所定の閾値内であるか否かを判定する判定手段とを備え、前記他の駆動手段は、前記判定手段による判定結果に基づいて、夫々対応する他の駆動輪に関する駆動速度を制御するようにしてあることを特徴とする。
【0011】
本願に係る搬送車では、走行方向前後の複数の位置における第一誘導線又は第二誘導線に対する車体の各位置偏差に基づいて、第一誘導線又は第二誘導線に対する車体の方位偏差を算出し、算出した車体の方位偏差が所定の閾値内であるか否かを判定する。搬送車は、判定した判定結果に基づいて、駆動を開始する他の駆動輪に関する駆動速度を制御する。
これにより、方位の偏差が許容範囲内まで小さくなった場合、方位補正は終了する。また、方位偏差の大きさに応じて、搬送車は他の駆動輪に対して異なる駆動速度を設定することができる。
【0012】
本願に係る搬送車は、前記旋回手段は、前記他の駆動手段が前記判定手段による判定結果に基づいて夫々対応する他の駆動輪の駆動を停止した場合、少なくとも一つの第二検出手段が検出した第二誘導線に対する前記車体の位置偏差に基づいて、夫々対応する駆動輪を同期して同角度旋回するようにしてあることを特徴とする。
【0013】
本願に係る搬送車では、判定結果に基づいて駆動を開始する他の駆動輪の駆動を停止した場合、第二誘導線に対する車体の各位置偏差のうち少なくとも一つの位置偏差に基づいて、複数の駆動輪を同期して同角度旋回する。
これにより、方位補正終了後、搬送車は車体を回転させることなく、横行により移動する。
【0014】
本願に係る搬送車は、前記駆動輪及び駆動手段に夫々対応する前記第一検出手段を複数備え、該第一検出手段は、夫々対応する駆動輪各々の停止位置を示す各停止線を独立して検出するようにしてあり、前記駆動手段は、夫々対応する前記第一検出手段が各停止線を検出する都度、夫々対応する駆動輪の駆動を独立して停止するようにしてあることを特徴とする。
【0015】
本願に係る搬送車では、複数の駆動輪各々の停止位置を示す各停止線を独立して検出する。搬送車は、各停止線を検出する都度、夫々対応する駆動輪の駆動を停止する。
これにより、仮に方位の偏差があったとしても、目標位置で方位補正が実行される。
【0016】
本願に係る搬送車は、少なくとも一つの第二検出手段が第二誘導線を検出し、前記駆動手段が夫々対応する駆動輪の駆動を停止した場合、前記旋回手段は、前記車体を回転させることなく、走行方向を第二誘導線に対応する方向に変更するために、夫々対応する駆動輪を同期させて第二誘導線に対応する方向に旋回するようにしてあることを特徴とする。
【0017】
本願に係る搬送車では、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線を検出した場合、車体に配設された複数の駆動輪の駆動を停止する。搬送車は、車体を回転させることなく、走行方向を第二誘導線に対応する方向に変更するために、複数の駆動輪を同期させて第二誘導線に対応する方向に旋回する。
これにより、横行のために駆動輪を旋回した場合に生じる方位の偏差を低減することができる。
【0018】
本願に係る搬送車の制御方法は、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線が検出された場合、搬送車が備える複数の駆動輪の駆動を停止し、該駆動輪各々を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回する搬送車の制御方法において、前記駆動輪各々を第二誘導線に対応する方向に旋回した場合、走行方向前後の複数の位置における第一又は第二誘導線に対する前記搬送車の各位置偏差を検出し、第一誘導線に対する側方向の別及び検出した各位置偏差に基づいて、複数の前記駆動輪の一部を駆動することを特徴とする。
【0019】
本願に係る搬送車の制御方法では、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線が検出された場合、搬送車が備える複数の駆動輪を停止する。その後、複数の駆動輪を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回する。走行方向前後の複数の位置における第一誘導線又は第二誘導線に対する搬送車の各位置偏差を検出する。第一誘導線に対する側方向の別と、検出した搬送車の各位置偏差とに基づいて、複数の駆動輪の一部を駆動する。
これにより、搬送車は横偏差の補正前に、方位補正を実行する。
【0020】
本願に係るプログラムは、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線の検出信号に基づいて、搬送車が備える複数の駆動輪の駆動を停止し、該駆動輪各々を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回するための信号を送信する処理をコンピュータに実行させるプログラムにおいて、走行方向前後の複数の位置における第一又は第二誘導線に対する前記搬送車の各位置偏差が与えられた場合、該各位置偏差に基づいて、第一又は第二誘導線に対する該搬送車の方位偏差を算出し、算出した方位偏差が所定の閾値内か否かを判定し、第一誘導線に対する側方向の別が与えられた場合、該側方向の別、算出した前記方位偏差及び判定した判定結果に基づいて、前記駆動輪各々に関する駆動速度を決定する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0021】
本願に係るプログラムでは、第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線の検出信号を受け付けた場合、搬送車が備える複数の駆動輪を停止し、複数の駆動輪各々を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回するための信号を送信する処理をコンピュータに実行させる。また、プログラムは以下の処理をコンピュータに実行させる。コンピュータは、走行方向前後の複数の位置における第一誘導線又は第二誘導線に対する搬送車の各位置偏差が与えられた場合、与えられた各位置偏差に基づいて、第一誘導線又は第二誘導線に対する搬送車の方位偏差を算出する。コンピュータは、算出した搬送車の方位偏差が所定の閾値内か否かを判定する。コンピュータは、第一誘導線に対する側方向の別が与えられた場合、与えられた側方向の別、算出した搬送車の方位偏差及び判定した判定結果に基づいて、複数の駆動輪各々に関する駆動速度を決定する。
これにより、搬送車は方位の偏差が許容範囲内になるまで方位補正を実行する。
【発明の効果】
【0022】
本願による開示の一観点によれば、搬送サイクルタイムを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】搬送車の構成を示す模式的平面図である。
【図2】前輪駆動部及び前輪転舵部の外観の一例を示す模式的斜視図である。
【図3】制御部の構成及び制御部に接続される搬送車1の各構成部を示すブロック図である。
【図4】前輪及び後輪を同時に旋回する動作の一例を示す説明図である。
【図5】ガイド偏差の検出例を説明する説明図である。
【図6】方位補正の一例を示す説明図である。
【図7】方位補正の一例を示す説明図である。
【図8】方位偏差量を算出する方法の一例を示す説明図である。
【図9】搬送車の横行方向並びに前輪及び後輪の駆動方向を示す説明図である。
【図10】方位補正のために前輪及び後輪に対する速度設定パターンの一例を示す説明図である。
【図11】方位補正のために前輪及び後輪に対する速度設定パターンの一例を示す説明図である。
【図12】方位補正のために前輪及び後輪に対する速度設定パターンの一例を示す説明図である。
【図13】方位補正のために前輪及び後輪に対する速度設定パターンの一例を示す説明図である。
【図14】方位補正処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図15】速度設定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図16】搬送車による横偏差補正動作の一例を示す説明図である。
【図17】搬送車の概要を示す模式的平面図である。
【図18】搬送車の概要を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例における搬送車を、実施の形態を示す図面に基づいて説明する。以下では、搬送車の例として、無人搬送車を挙げて説明する。
なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0025】
本実施の形態に係る搬送車は、誘導方式により搬送物を搬送する。搬送車の誘導方式には、磁気誘導方式、光学誘導方式、電磁誘導方式等があり、いずれの誘導方式が採用されてもよい。本実施の形態では、床面に貼設した磁気テープの誘導線が発生する磁気を搬送車に検出させて、搬送車を誘導する磁気誘導方式を例に挙げる。なお、磁気テープの代わりに、床に磁性物質を埋設してもよい。
【0026】
図1は、搬送車1の構成を示す模式的平面図である。図1の白抜矢印は、搬送車1の前方を示し、搬送車1が走行している場合には前進方向となる。図1の白抜矢印と逆方向は、後進方向である。以下では、図1の白抜矢印と略平行な方向に搬送車1が移動することを直進と呼ぶ。一方、直進する場合の方向と略直角方向に搬送車1が並進移動することを横行と呼ぶ。
【0027】
搬送車1は、矩形状の底面を有する車体2と、車体2の底面に配設された4つのキャスター3とを含む。
車体2の底面の長手方向は、直進方向と略平行である。一方、車体2の底面の短手方向は、横行方向と略同一である。以下、特に断りがない限り、左右の語を直進又は横行する搬送車1の前進方向に対して使用する。また、前後の語を直進又は横行する搬送車1の前進方向に対して使用する。
【0028】
4つのキャスター3のうち、2つのキャスター3は直進方向に前進する車体2の左側の2角に配設されている。他の2つのキャスター3は、夫々車体2における直進方向の前方端及び後方端であって、直進方向に対して車体2の中央線と右側端との略中間に配設されている。
【0029】
搬送車1は、直進ガイドセンサ(第一検出手段)4a、4b、横行ガイドセンサ(第二検出手段)5a、5b、前輪(駆動輪)6a、後輪(駆動輪)6b及び制御部7を含む。
車体2の底面における直進方向の前端及び後端であって、直進方向に対して車体2の中央線と左側端との略中間には、夫々1つずつ直進ガイドセンサ4a、4bが設けられている。直進ガイドセンサ4a、4bは、車体2の短手方向に略一定間隔を隔てて配列された複数の磁気素子からなる磁気センサアレイである。
【0030】
直進ガイドセンサ4a、4bは、各磁気素子により直進方向の誘導線(第一誘導線)10が発する磁気を検出するセンサである。また、直進ガイドセンサ4a、4bは、夫々自身の伸長方向の中心位置と誘導線10の中央線10aの位置との間の距離を、ガイド偏差として検出する。直進ガイドセンサ4a、4bは、夫々誘導線10の中央線10aが自身の中心位置に対して左側に偏倚した場合、正の符号を付したガイド偏差を制御部7に出力する。一方、直進ガイドセンサ4a、4bは、夫々誘導線10の中央線10aが自身の中心位置に対して右側に偏倚した場合、負の符号を付したガイド偏差を制御部7に出力する。
【0031】
直進方向に対して車体2の右側の前後に配置された2つのキャスター3の略中間から少し左寄りの底面には、横行ガイドセンサ5aが設けられている。直進方向に対して車体2の左側に配置された前後の2つのキャスター3の略中間であって、車体2の底面の左端には、横行ガイドセンサ5bが設けられている。横行ガイドセンサ5aの中心と横行ガイドセンサ5bの中心とを結ぶ方向は、車体2の短手方向と略同一である。
【0032】
以下では、搬送車1が横行する場合の前進方向は、搬送車1が直進方向に前進する場合の右方向とする。すなわち、図1の白抜矢印に対して略直角右方向を横行の前進方向とする。横行の後進方向は、前進方向の逆であり、図1の白抜矢印に対して略直角左方向である。
【0033】
横行ガイドセンサ5a、5bの構成と機能は、直進ガイドセンサ4a、4bと同じである。横行ガイドセンサ5a、5bは、夫々自身の伸長方向の中心位置と横行方向の誘導線(第二誘導線)20の中央線20aの位置との間の距離を、ガイド偏差として検出する。横行ガイドセンサ5a、5bは、夫々誘導線20の中央線20aが自身の中心位置に対して左側に偏倚した場合、正の符号を付したガイド偏差を制御部7に出力する。一方、横行ガイドセンサ5a、5bは、夫々誘導線20の中央線20aが自身の中心位置に対して右側に偏倚した場合、負の符号を付したガイド偏差を制御部7に出力する。
【0034】
なお、ガイド偏差は、制御部7により算出されてもよい。かかる場合、直進ガイドセンサ4a、4b又は横行ガイドセンサ5a、5bは、制御部7がガイド偏差を算出するための磁気分布として各磁気素子の検出値を制御部7に出力する。
上述では、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bは、磁気ガイドセンサである。しかし、搬送車1の誘導方式が光学誘導方式、電磁波誘導方式等である場合、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bが夫々光学ガイドセンサ、電磁誘導ガイドセンサ等であってもよいことは勿論である。
【0035】
図1では、誘導線10と誘導線20とは、略90°の角度で交差している。しかし、誘導線20は、誘導線10と交差せずに、誘導線10から離れた位置から横行方向に貼設されていてもよい。また、誘導線10と誘導線20とがなす角度は略90°に限らない。搬送車1が使用される現場の環境、搬送車1が使用される目的等に応じて、誘導線10と誘導線20とがなす角度は任意に選択されてよい。例えば、誘導線10と誘導線20とがなす角度は、略30°、略45°、略60°等の所定角度でもよい。
図1では、誘導線20は、誘導線10に対する側方向の両側に貼設されている。しかし、誘導線20は、誘導線10に対する側方向のいずれか一方の側のみに貼設されてもよい。
【0036】
前輪6aは、直進方向に対する車体2の前端に設置された2つのキャスター3の略中間から車体2の後方寄りの位置に設けられている。後輪6bは、直進方向に対する車体2の後端に設置された2つのキャスター3の略中間から車体2の前方寄りの位置に設けられている。前輪6aの中心と後輪6bの中心とを結ぶ方向は、車体2の長手方向と略同一である。前輪6a及び後輪6bは、共に搬送車1を走行させる駆動輪として、また搬送車1を転舵する転舵輪として機能する。
【0037】
搬送車1は、前輪駆動部(駆動手段)61a及び前輪転舵部(旋回手段)62aを含む。
図2は、前輪駆動部61a及び前輪転舵部62aの外観の一例を示す模式的斜視図である。前輪駆動部61aは、ホイールモータ61c、半円形旋回外歯ギア61d及びリング状の旋回ベース61eを含む。ホイールモータ61cは、車体2に搭載された図示しない蓄電池から電力の供給を受ける。ホイールモータ61cの回転軸の方向は、車体2の底面と略平行である。前輪6aは、ホイールモータ61cの回転軸に取り付けられている。ホイールモータ61c及び半円形旋回外歯ギア61dは、ボルトにより旋回ベース61eに締着されている。
前輪駆動部61aは、前輪6aの回転に伴うパルス列を出力するロータリエンコーダ(図示せず)を含む。
【0038】
前輪転舵部62aは、旋回モータ62c、旋回ピニオンギア62d及び固定ベース62eを含む。旋回モータ62c及び旋回ピニオンギア62dは、固定ベース62eに取り付けられている。固定ベース62eは、車体2に取り付けられる。
【0039】
旋回ベース61eは、固定ベース62eに対して旋回できるように、ベアリングにより支持されている。旋回ピニオンギア62dは、旋回モータ62cと連結されており、かつ半円形旋回外歯ギア61dと噛合している。旋回モータ62cは、車体2に搭載された図示しない蓄電池から電力の供給を受ける。旋回モータ62cの回転軸の方向は、車体2の底面に対して略直角方向である。旋回モータ62cの回転駆動は、旋回ピニオンギア62dを介して、半円形旋回外歯ギア61dに所定の減速比で伝達される。こうして、前輪駆動部61aのホイールモータ61cに取り付けられた前輪6aは、旋回モータ62cの回転により旋回する。
前輪転舵部62aは、前輪6aの旋回に伴うパルス列を出力する旋回エンコーダ(図示せず)を含む。
【0040】
制御部7は、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bが夫々出力するガイド偏差に基づいて、前輪6a及び後輪6bの各々の操舵角度をフィードバック制御する。
【0041】
図3は、制御部7の構成及び制御部7に接続される搬送車1の各構成部を示すブロック図である。
搬送車1は、後輪駆動部(駆動手段)61b及び後輪転舵部(旋回手段)62bを含む。後輪駆動部61b及び後輪転舵部62bの構成は、夫々図2に示した前輪駆動部61a及び前輪転舵部62aの構成と同じである。
【0042】
搬送車1は、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f及び後輪方向検出部62gを含む。
前輪駆動部61aが有するロータリエンコーダは、前輪6aの回転に伴うパルス列を前輪速度検出部61fに出力する。ここでのパルス列とは、微小時間である制御周期毎に検出されるパルス数のことである。前輪速度検出部61fは、受け付けたパルス列に基づいて、前輪6aの単位時間当たりの回転数と前輪6aによる車体2の走行速度(単位は、例えばmm/s)とを算出し、制御部7に出力する。また、前輪速度検出部61fは、異なるパルスの立ち上がりを比較することにより、前輪6aの回転方向を検出し、搬送車1の直進又は横行に関する前進方向又は後退方向のいずれかを制御部7に出力する。
【0043】
後輪速度検出部61gは、前輪速度検出部61fと類似の機能を有し、後輪6bによる車体2の走行速度及び走行方向を算出し、制御部7に出力する。
前輪速度検出部61f及び後輪速度検出部61gは、夫々前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bが有するロータリエンコーダから受け付けたパルス列もそのまま制御部7に出力する。
【0044】
前輪転舵部62aが有する旋回エンコーダは、前輪6aの旋回に伴うパルス列を前輪方向検出部62fに出力する。前輪方向検出部62fは、受け付けたパルス列に基づいて、前輪6aの単位時間当たりの旋回角度(単位は、例えばrad/s)と前輪6aの方向とを算出し、制御部7に出力する。
【0045】
後輪方向検出部62gは、前輪方向検出部62fと同様の機能を有し、後輪6bの単位時間当たりの旋回角度と後輪6bの方向とを算出し、制御部7に出力する。
前輪方向検出部62f及び後輪方向検出部62gは、夫々前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bが有する旋回エンコーダから受け付けたパルス列もそのまま制御部7に出力する。
【0046】
なお、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f又は後輪方向検出部62gの機能は、パルス列を受け付ける制御部7が有していてもよい。かかる場合、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f又は後輪方向検出部62gはなくてもよい。
また、前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bが有するロータリエンコーダ、並びに前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bが有する旋回エンコーダが、ポテンショメータにより代替されてもよいことは勿論である。
【0047】
制御部7は、ROM(Read Only Memory)71、CPU(Central Processing Unit)(決定手段、算出手段、判定手段)72、RAM(Random Access Memory)73及びインタフェース部74を含む。制御部7の各構成部は、バス7bを介して互いに接続されている。
【0048】
ROM71は、読み出し専用の不揮発性メモリの一種である。ROM71は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)、フラッシュメモリ、FeRAM(Ferroelectric RAM)等の不揮発性メモリにより代替されてもよい。ROM71は、CPU72が実行するプログラム711及びマップ712を記録する。マップ712は、搬送車1の走行路に関する情報である。マップ712は、走行路の状況を直線データ(始点、終点データで規定)と円弧データ(曲率半径、曲率半径の中心、始点、終点データで規定)とに分解し、さらに合成することで、経路情報としてROM71に保持されている。直線データ及び円弧データの始点と終点には、各々に対応する走行ポイント番号が設定されている。
【0049】
なお、プログラム711又はマップ712を記録したフラッシュメモリ等の半導体メモリ7mがROM71の代わりに、制御部7内に実装されていてもよい。あるいは、プログラム711又はマップ712を外部の記録手段に予め記録しておき、プログラム711又はマップ712の情報が必要になった場合に、例えば図示しない無線通信手段を介して、CPU72がROM71又はRAM73にダウンロードする形態であってもよい。
【0050】
CPU72は、搬送車1の各構成部を制御する。CPU72は、ROM71に記録されたプログラム711をRAM73に読み出し、実行する。
RAM73は、CPU72による処理の過程で必要な作業変数、データ等を一時的に記録する。なお、RAM73は主記憶装置の一例であり、RAM73の代わりにフラッシュメモリ、メモリカード等が用いられてもよい。
【0051】
インタフェース部74は、直進ガイドセンサ4a、4bが出力する各ガイド偏差と、横行ガイドセンサ5a、5bが出力する各ガイド偏差とをCPU72に出力する。インタフェース部74は、前輪速度検出部61fが出力する前輪6aの走行速度及び走行方向、並びに後輪速度検出部61gが出力する後輪6bの走行速度及び走行方向をCPU72に出力する。インタフェース部74は、前輪方向検出部62fが算出した前輪6aの単位時間当たりの旋回角度及び方向、並びに後輪方向検出部62gが算出した後輪6bの単位時間当たりの旋回角度及び方向をCPU72に出力する。インタフェース部74は、前輪速度検出部61f、後輪速度検出部61g、前輪方向検出部62f及び後輪方向検出部62gが出力した各パルス列もそのままCPU72に出力する。
また、インタフェース部74は、CPU72から受け付けた走行速度の制御信号を前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bに出力する。インタフェース部74は、CPU72から受け付けた操舵角度の制御信号を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。
【0052】
次に、搬送車1の動作について説明する。搬送車1は、直進ガイドセンサ4a、4bが誘導線10からの磁気を検出することにより、誘導線10に沿って直進する。搬送車1は、例えば直進する走行路から離れた位置での搬送物の積み降ろしを行う場合、直進する状態から一時停止し、横行する状態に移行する。搬送車1は、目標の積み降ろし位置で停止し、搬送物の積み降ろしを行う。その後、搬送車1は逆方向に横行し、直進する走行路に戻り、直進を再開する。
以下では、直進する走行路から離れた作業位置を目標位置と呼ぶ。
【0053】
搬送車1が直進から横行に移行するために一時停止する位置は、例えば図1において、誘導線10と誘導線20とが交差する位置である。搬送車1は、横行ガイドセンサ5a、5bが誘導線20からの磁気を検出した場合、一時停止する。なお、搬送車1は、横行ガイドセンサ5a、5bのうち、少なくとも一つが誘導線20からの磁気を検出した場合、一時停止してもよい。また、搬送車1は、外部からの指示により当該一時停止をしてもよい。
【0054】
搬送車1は、直進する状態から一時停止し、横行する状態に移行するために前輪6a及び後輪6bを横行方向に略90°同時に同じ速さで旋回する。
図4は、前輪6a及び後輪6bを同時に旋回する動作の一例を示す説明図である。図4Aは旋回前、図4Bは旋回後の前輪6a及び後輪6bの状態を示している。図4Aの矢印は、前輪6a及び後輪6bの旋回方向を示している。例えば、前輪6aは反時計回りに略90°、後輪6bは時計回りに略90°旋回する。
なお、前輪6aを時計回りに略90°、後輪6bを反時計回りに略90°旋回させてもよい。また、直進方向に対する横行方向が略30°、略45°等である場合、前輪6a及び後輪6bは夫々適当な角度だけ旋回される。
【0055】
前輪6a及び後輪6bを旋回した時、誘導線10の中央線10a及び誘導線20の中央線20aが、夫々搬送車1の直進ガイドセンサ4a、4bの中心を通過する線及び横行ガイドセンサ5a、5bの中心を通過する線と略一致していることが理想である。しかし、前輪6a及び後輪6bと床面とは点ではなく面で接していること、並びに前輪6a及び後輪6bの旋回速度は完全に同期しているわけではないことから、車体2には床面に対してわずかなトルク差が生じる。また、搬送物を含む搬送車1の質量、車体2上における搬送物の質量分布、床面と前輪6a又は後輪6bとの摩擦係数のばらつき等の影響も加わり、誘導線10及び誘導線20に対する搬送車1の方位が理想的な方位から偏倚する。以下では、前輪6a及び後輪6bを旋回した後の誘導線10又は誘導線20に対する搬送車1の方位の偏差を方位偏差、その量を方位偏差量と呼ぶ。方位偏差は、時計回りの偏差であることもあるし、反時計回りの偏差であることもある。
例えば、方位偏差量は、0.1°未満である場合には許容範囲にあるが、0.5°から1.0°に達することがある。なお、許容範囲の数値は、搬送車1を用いて行われる作業の内容、性質、目的等により異なるため、特定の値に限定されない。上記の許容範囲の数値は、あくまで例示である。
【0056】
搬送車1は、横行ガイドセンサ5a、5bが誘導線20からの磁気を検出した場合に一時停止する。その際、横行ガイドセンサ5a、5bの中心位置と誘導線20の中央線20aとの位置が偏倚する場合がある。また、直進から横行に移行するために、搬送車1が前輪6a及び後輪6bを旋回させた場合、横行ガイドセンサ5a、5bの中心位置と誘導線20の中央線20aとの位置が偏倚する場合がある。すなわち、誘導線20に対する搬送車1の中心位置は、直進方向の前後に偏倚する場合がある。以下では、一時停止時又は前輪6a及び後輪6bを旋回した後の横行方向の誘導線20に対する搬送車1の偏差を横偏差、その量を横偏差量と呼ぶ。
横偏差量の許容範囲もまた、搬送車1を使用する作業の内容、性質、目的等により異なるため、特定の値に限定されない。
【0057】
このように、直進から横行に移行する搬送車1には、方位偏差及び横偏差が生じることが大なり小なり普通である。そこで、搬送車1が横行を開始し、正確な目標位置に所望の正確な姿勢で到達するためには、搬送車1は目標位置に到達するまでの間に方位偏差量及び横偏差量を許容範囲まで小さくする必要がある。以下では、方位偏差量及び横偏差量を許容範囲まで小さくすることを、夫々方位補正及び横偏差補正と呼ぶ。
【0058】
まず、横偏差補正の従来例について説明する。ここでは、図1の状態にある搬送車1が前輪6a及び後輪6bを略90°旋回させた後、直進する前進方向に対して略直角右側に横行を開始する例を扱う。
【0059】
図5は、ガイド偏差の検出例を説明する説明図である。図5の白抜矢印は、横行する搬送車1の前進方向を示す。図5は、横行ガイドセンサ5a周囲の車体2の一部を示す。横行ガイドセンサ5aは、誘導線20の中央線20aをピークとする波形に対応する分布の磁気強度を検出する。これにより横行ガイドセンサ5aは、誘導線20の中心を取得する。
横行ガイドセンサ5aは、自身の中心と誘導線20の中心との偏差をガイド偏差として、CPU72に出力する。図5の例では、誘導線20の中央線20aが横行ガイドセンサ5aの中心位置に対して右側に偏倚しているので、横行ガイドセンサ5aは負のガイド偏差をCPU72に出力する。CPU72は、横行ガイドセンサ5aから受け付けたガイド偏差を横偏差量として取得する。
【0060】
CPU72は、前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bに対して、夫々同じ回転速度で前輪6a及び後輪6bを回転させる指令を出す。CPU72は、横偏差量がゼロになるように、操舵角度を制御する制御信号を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。この時の前輪6a及び後輪6bの旋回方向及び操舵角度は同じである。CPU72から制御信号を受け付けた前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bは、受け付けた制御信号に基づいて、旋回モータ62cを回転させ、夫々前輪6a及び後輪6bを旋回させる。こうして、搬送車1は、進行方向に向う側の横行ガイドセンサ5aが検出するガイド偏差に基づいて、横行中に横偏差補正を実施する。
【0061】
図6は、方位補正の一例を示す説明図である。図6Aは方位補正前、図6Bは方位補正中、図6Cは方位補正後の搬送車1の状態を示している。図6Aの白抜矢印は、搬送車1が横行する場合の前進方向を示している。
横行を開始した搬送車1の前方にある目標位置の床には、短い磁気テープが貼設されている。以下では、この短い磁気テープは、誘導線20と略直交する方向に沿って、誘導線20から離れた位置の床面に貼設されている。以下、この磁気テープをクロステープ(停止線)11a、11bと呼ぶ。クロステープ11a、11bは対からなり、誘導線20を線対称とする床面の2カ所に貼設されている。誘導線20の上を車体2の略中心が通過する場合、クロステープ11a、11bは夫々直進ガイドセンサ4a、4bと対向するように位置決めされている。
【0062】
搬送車1は、方位が偏倚したままクロステープ11a、11bに向かって前進する(図6A)。図6A及び図6Bの前輪6a及び後輪6bに添えられた矢印は、夫々前輪6a及び後輪6b部分の移動方向を示している。左側の直進ガイドセンサ4aが左側のクロステープ11aの磁気を検出した場合、CPU72は前輪6aを停止させる(図6B)。CPU72は、右側の後輪6bの駆動を継続する。これにより、搬送車1は前輪6aと床面との接触部分を回転中心として反時計回りに回転を開始する。右側の直進ガイドセンサ4bが右側のクロステープ11bの磁気を検出した場合、CPU72は後輪6bを停止させる(図6C)。
【0063】
図6では、誘導線20に対してわずかに時計回りに方位が偏倚した搬送車1を反時計回りに回転する例を示した。搬送車1が誘導線20に対してわずかに反時計回りに方位が偏倚している場合、CPU72は搬送車1を時計回りに回転させる。かかる場合、CPU72は、後輪6bを停止し、前輪6aの駆動を継続する。
【0064】
図6Cの状態において、方位偏差量が許容範囲内に減少していることは稀である。そこで、搬送車1は、クロステープ11a、11bを利用した方位補正を複数回繰り返す。
図7は、方位補正の一例を示す説明図である。白抜矢印は、搬送車1の前進方向を示す。図7では、クロステーブ11a、11bが目標位置の床面部分の他に、目標位置から所定距離だけ手前の床面部分にも貼設されている。搬送車1は目標位置に対して手前側のクロステープ11a、11bを利用して1回目の方位補正を実行した後、再び前輪6a及び後輪6bを駆動し、前進を再開する。搬送車1は、目標位置のクロステープ11a、11bを利用して2回目の方位補正を実行する。
図7では、方位補正を2回実行する例を示した。しかし、クロステープ11a、11bを異なる床面の位置に夫々3本以上貼設することにより、方位補正は3回以上実行されてもよい。
また、搬送車1は、1回目の方位補正を実行した後、後方に移動し、1回目で利用したクロステープ11a、11bと同じクロステープ11a、11bを利用して、2回目の方位補正を実行してもよい。更に、搬送車1は、再び後方に移動し、3回以上の方位補正を実行してもよい。
【0065】
従来の方位補正は複数回実行され、そのたびに搬送車は移動と停止とを繰り返す。そのため、搬送サイクルタイムは長くなる。また、従来の方位補正は、走行路と目標位置との間の横行距離を十分とることができない環境では、実行できない。
また、横偏差量は、方位が偏倚した状態で進行方向前側の横行ガイドセンサが検出するガイド偏差に等しいとされる。そのため、搬送車の進行方向前側部分における横偏差量は、搬送車の中心又は進行方向後側部分における横偏差量とは異なる。従って、従来例は横偏差補正の信頼性も低い。
【0066】
次に、新たな方位補正及び横偏差補正の方法を開示する。本実施の形態に係る搬送車1は、方位補正を実行した後に横偏差補正を実行する。
搬送車1は、直進から横行に移行するために一時停止し、前輪6a及び後輪6bを旋回させた後に、横行方向前後の横行ガイドセンサ5a、5bの両者を用いて、方位偏差量を算出する。搬送車1は、算出した方位偏差量に基づいて、方位補正を実行する。
【0067】
搬送車1は、方位補正終了後に横行方向前側の横行ガイドセンサ5a又は横行ガイドセンサ5bを用いて横偏差量を検出する。搬送車1は、検出した横偏差量に比例する操舵角度を決定する。搬送車1は、前輪6a及び後輪6bの向きが常に同じ方向になるように、前輪6a及び後輪6bを同期して旋回し、前輪6a及び後輪6bを同速度で駆動する。これにより、前輪6a及び後輪6bの操舵角度は、搬送車1が横行を開始する時は大きいが、次第に横偏差量が減少し、搬送車1がクロステープ11a、11bに近づくにつれて、徐々に小さくなる。直進ガイドセンサ4a、4bがクロステープ11a、11bの磁気を検出し、搬送車1が停止する時又はその前に、横偏差補正は完了する。つまり、搬送車1は、横行方向前側の横行ガイドセンサ5a又は横行ガイドセンサ5bが検出したガイド偏差を用いて前輪6a及び後輪6bを制御する。
【0068】
図8は、方位偏差量を算出する方法の一例を示す説明図である。図8では、理解を助けるために、横行ガイドセンサ5a、5bは誇張して大きく描かれている。
S1及びS2は、夫々横行ガイドセンサ5a、5bが検出する誘導線20の中央線20aと、横行ガイドセンサ5a、5bの中心とのガイド偏差である。
αはS1−S2である。βは横行ガイドセンサ5aと横行ガイドセンサ5bとの間の距離である。
θは、横行ガイドセンサ5a及び横行ガイドセンサ5bを結ぶ線分と、誘導線20の中央線20aとがなす角であり、方位偏差量に該当する。θは、tan-1(α/β)で表現される。
なお、ここではθを方位偏差量としたが、90°−θを方位偏差量として定義してもよいことは勿論である。また、αを方位偏差量と捉えてもよい。
【0069】
βは正の実数であり、α及びθは正、ゼロ又は負の値をとり得る実数である。CPU72は、横行方向と、α又はθの符号とにより、前輪6a及び後輪6bのうち、方位補正の時に停止する駆動輪を決定する。ここでの横行方向とは、横行に関する前進又は後進の方向である。また、CPU72は、横行方向とα又はθの値とにより、方位補正の時に駆動する前輪6aの速度V1又は後輪6bの速度V2を夫々前輪6a又は後輪6bの回転方向も含めて決定する。
【0070】
方位補正時に、前輪6aと後輪6bとのうち、どちらか一方の速度はゼロに設定され、他方の車輪は駆動される。
駆動する他方の車輪の速度は、例えば6m/分である。また、駆動する他方の車輪の速度は算出した方位偏差量の値に対応して異なる速度に設定されてもよい。例えば、駆動する他方の車輪の速度は、θ>3°である場合12m/分、θ≦3°である場合6m/分である。あるいは、駆動する他方の車輪の速度は、α又はθ、あるいはα及びθの関数であってもよい。その関数は、例えばγ×θ×α、γ×sinθ、γ×cosθ等である。ここで、γは定数である。
【0071】
方位補正のために、駆動する他の車輪の速度はなるべく速い方が搬送サイクルタイムの短縮に資する。しかし、方位補正が終了し、前輪駆動部61a又は後輪駆動部61bが夫々駆動している前輪6a又は後輪6bを停止させる場合、メカニカルな応答時間が必要となる。そのため、方位補正終了時に前輪6a又は後輪6bをより正確な位置で停止させるためには、駆動する他の車輪の速度は遅い方がよい。
そこで、方位偏差量が大きい場合、駆動する他方の車輪の速度を速くし、方位偏差量が小さい場合、駆動する他方の車輪の速度を遅くすることにより、搬送サイクルタイムの短縮及びより正確な方位補正を実現することができる。
【0072】
図1の状態にある搬送車1が前輪6a及び後輪6bを略90°旋回させた後、横行を開始する方向には、直進する前進方向に対して略直角右方向と略直角左方向との2通りがある。方位補正のために搬送車1を回転させる回転方向は、2通りの横行方向夫々について、時計回りと反時計回りの2通りがある。従って、駆動する他方の車輪の速度を一定値(例えば、6m/分)に設定した場合であっても、方位補正のために行われる前輪6aの速度V1及び後輪6bの速度V2の設定の組合せは、全部で4通りになる。
以下に、方位補正のために行われる前輪6aの速度V1及び後輪6bの速度V2の設定を説明する準備として、搬送車1の横行方向並びに前輪6a及び後輪6bの駆動方向を改めて定義する。
【0073】
図9は、搬送車1の横行方向並びに前輪6a及び後輪6bの駆動方向を示す説明図である。図9には、ガイド偏差S1及びS2の符号が合わせて示されている。図9における前輪6a及び後輪6bの駆動方向は、前輪6a及び後輪6bが含まれる車体2部分の移動方向である。搬送車1が方位補正のために回転する場合、前輪6a及び後輪6bの駆動方向は、前輪6a及び後輪6bが含まれる車体2部分が回転運動をするときの接線方向である。
【0074】
以下では、進行方向に対して前輪6aが左、後輪6bが右に配置する横行方向を前進とする。他方、進行方向に対して前輪6aが右、後輪6bが左に配置する横行方向を後進とする。別の言葉で表現した場合、車体2の底面内部に設置された横行ガイドセンサ5aが横行ガイドセンサ5bに対して進行方向の前側になる横行方向が、前進である。他方、車体2の底面端に設置された横行ガイドセンサ5bが横行ガイドセンサ5aに対して進行方向の前側になる横行方向が、後進である。
【0075】
搬送車1が前進する場合の前輪6a及び後輪6bの駆動方向は、正である。他方、搬送車1が後進する場合の前輪6a及び後輪6bの駆動方向は、負である。また、駆動方向が正である前輪6a及び後輪6bの回転を正回転、駆動方向が負である前輪6a及び後輪6bの回転を負回転とする。
【0076】
図10、図11、図12及び図13は、方位補正のために前輪6a及び後輪6bに対する速度設定パターンの一例を示す説明図である。図10、図11、図12及び図13の白抜矢印は横行による進行方向を示している。図10及び図12は、搬送車1が反時計回りに回転して方位補正を行い、横行のため夫々前進又は後進するパターンを示している。図11及び図13は、搬送車1が時計回りに回転して方位補正を行い、横行のために夫々前進又は後進するパターンを示している。図10、図11、図12及び図13における各パターンは、横行が前進か後進か、ガイド偏差S1、S2の差α(S1−S2)の符号が正か負かということに基づいて、決定される。
【0077】
図10は、搬送車1が前進により横行する場合の方位補正を示している。図10Aの例はS1が+、S2が−、αが+である場合であり、図10Bの例はS1が−、S2が−、αが+である場合である。図10のように、横行が前進かつαが+である場合、前輪6aの速度V1はゼロ、後輪6bの速度V2は+に設定される。搬送車1は、前輪6aと床面との接触面を中心に反時計回りに回転する。
【0078】
図11は、搬送車1が前進により横行する場合の方位補正を示している。図11Aの例はS1が−、S2が+、αが−である場合であり、図11Bの例はS1が+、S2が+、αが−である場合である。図11のように、横行が前進かつαが−である場合、前輪6aの速度V1は+、後輪6bの速度V2はゼロに設定される。搬送車1は、後輪6bと床面との接触面を中心に時計回りに回転する。
【0079】
図10及び図11に示すように、搬送車1が前進により横行する場合、より短時間で目標位置に到達するために、駆動する側の車輪の速度は+に設定される。あるいは、駆動する側の車輪は正回転に設定される。
【0080】
図12は、搬送車1が後進により横行する場合の方位補正を示している。図12Aの例はS1が+、S2が−、αが+である場合であり、図12Bの例はS1が−、S2が−、αが+である場合である。図12のように、横行が後進かつαが+である場合、前輪6aの速度V1は−、後輪6bの速度V2はゼロに設定される。搬送車1は、前輪6aと床面との接触面を中心に反時計回りに回転する。
【0081】
図13は、搬送車1が後進により横行する場合の方位補正を示している。図13Aの例はS1が−、S2が+、αが−である場合であり、図13Bの例はS1が+、S2が+、αが−である場合である。図13のように、横行が後進かつαが−である場合、前輪6aの速度V1はゼロ、後輪6bの速度V2は−に設定される。搬送車1は、前輪6aと床面との接触面を中心に時計回りに回転する。
【0082】
図12及び図13に示すように、搬送車1が後進により横行する場合、より短時間で目標位置に到達するために、駆動する側の車輪の速度は−に設定される。あるいは、駆動する側の車輪は負回転に設定される。
【0083】
搬送車1は、予め定められた走行路の位置で一時停止し、前輪6a及び後輪6bを略90°旋回させた後、方位補正を開始する。すなわち、前輪6a及び後輪6bのうち、いずれか一方の停止状態を継続し、他方を駆動させる。搬送車1は、横行ガイドセンサ5a、5bが検出するガイド偏差S1及びS2の差であるα又は方位偏差量θを算出し、算出したα又はθが許容範囲にあるか否かを判定し、判定結果に基づいて、方位補正を終了する。
【0084】
図14は、方位補正処理の手順の一例を示すフローチャートである。
CPU72は、方位補正完了フラグを初期化する(ステップS101)。方位補正完了フラグは、方位補正が完了したか否かを判定するためのフラグであり、例えば方位補正が未完了である場合には0を格納し、方位補正が完了した場合には1を格納する。CPU72は、方位補正完了フラグを初期化する場合、方位補正完了フラグに0を格納する。
【0085】
CPU72は、搬送車1を横行させるか否か判定する(ステップS102)。CPU72は、搬送車1を横行させないと判定した場合(ステップS102:NO)、処理を終了する。CPU72は、搬送車1を横行させると判定した場合(ステップS102:YES)、方位補正が完了したか否か判定する(ステップS103)。ステップS103において、CPU72は、方位補正完了フラグに1が格納されている場合、方位補正が完了したと判定する。
【0086】
CPU72は、方位補正が完了していないと判定した場合(ステップS103:NO)、速度設定処理を実行し(ステップS104)、ステップS103に処理を戻す。CPU72は、方位補正が完了したと判定した場合(ステップS103:YES)、方位補正完了フラグを初期化し(ステップS105)、処理を終了する。
【0087】
図15は、速度設定処理の手順の一例を示すフローチャートである。速度設定処理は、図14のステップS104の処理に該当する。速度設定処理は、前輪6a及び後輪6bの速度V1、V2に速度を設定する処理である。速度設定処理により設定された前輪6a及び後輪6bの速度V1、V2は、CPU72から前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bに設定され、前輪6a又は後輪6bは停止又は駆動される。
【0088】
CPU72は、αの絶対値が許容範囲内か否か判定する(ステップS201)。ここでの許容範囲とは、例えばαの絶対値が1mm以下の場合である。なお、ステップS201において、CPU72は、θの絶対値が許容範囲内か否かを判定してもよい。かかる場合の許容範囲とは、例えばθの絶対値が0.1°以下である場合である。
【0089】
CPU72は、αの絶対値が許容範囲内でないと判定した場合(ステップS201:NO)、横行が前進か否か判定する(ステップS202)。ここで、横行が前進か否かというのは、進行する搬送車1が停止し、誘導線10に基づく進行方向右側に横行を開始するのか、又は進行方向左側に横行を開始するのかということである。あるいは、横行が前進か否かというのは、直進方向の誘導線10に対する側方向の別のうち、いずれの側に搬送車1が横行を開始するかということである。図9に示したように、進行方向に対して前輪6aが左、後輪6bが右に配置する横行方向が前進であり、逆の横行方向が後進である。
なお、通常、許容範囲より大きい方位偏差量が生じている場合が普通であるため、速度設定処理の開始時には、ステップS201からステップS202に処理が移行される。
【0090】
CPU72は、横行が前進であると判定した場合(ステップS202:YES)、αが正か否か判定する(ステップS203)。CPU72は、横行が前進でないと判定した場合(ステップS202:NO)、すなわち横行が後進である場合、αが正か否か判定する(ステップS204)。
【0091】
CPU72は、αが正であると判定した場合(ステップS203:YES)、V1にゼロ、V2に正の速度を設定し(ステップS205)、図14のステップS103に処理を戻す。CPU72は、αが正でないと判定した場合(ステップS203:NO)、V1に正の速度、V2にゼロを設定し(ステップS206)、図14のステップS103に処理を戻す。
【0092】
CPU72は、αが正であると判定した場合(ステップS204:YES)、V1に負の速度、V2にゼロを設定し(ステップS207)、図14のステップS103に処理を戻す。CPU72は、αが正でないと判定した場合(ステップS204:NO)、V1にゼロ、V2に負の速度を設定し(ステップS208)、図14のステップS103に処理を戻す。
ステップS205からステップS208の処理により、方位偏差量αは次第に小さくなる。
【0093】
CPU72は、αの絶対値が許容範囲内にあると判定した場合(ステップS201:YES)、ステップS205乃至ステップ208で正又は負の速度を設定したV1又はV2の速度を減速する(ステップS209)。CPU72は、ステップS209で減速したV1又はV2がゼロか否か判定する(ステップS210)。
【0094】
CPU72は、ステップS209で減速したV1又はV2がゼロでないと判定した場合(ステップS210:NO)、図14のステップS103に処理を戻す。CPU72は、ステップS209で減速したV1又はV2がゼロであると判定した場合(ステップS210:YES)、方位補正完了フラグに1を代入して(ステップS211)、図14のステップS103に処理を戻す。
【0095】
なお、駆動する他方の車輪の速度の絶対値をα又はθの大小によって更に細かく設定する場合、例えばステップS205の後に、α又はθの絶対値の大きさに応じて異なる速度をV1又はV2に設定する処理を追加してもよい。同様に、ステップS206、ステップS207及びステップS208の後にも、α又はθの絶対値の大きさに応じて異なる速度をV1又はV2に設定する処理を追加してもよい。
【0096】
方位補正が終了した場合、方位偏差量は許容範囲内にある。つまり、搬送車1の車体2の長手方向及び短手方向は、夫々誘導線10及び誘導線20に対して略平行である。
方位補正終了後、搬送車1は横行及び横偏差補正を開始する。横行中、前輪6a及び後輪6bの操舵角度と駆動速度とは常にCPU72により同期が図られる。すなわち、搬送車1の横行は、いわゆるパラレル走行である。CPU72は、横偏差量が大きいほど、前輪6a及び後輪6bの操舵角度に大きな値を設定する。横行及び横偏差補正が進行するにつれて横偏差量は連続的に小さくなるため、設定される前輪6a及び後輪6bの操舵角度も連続的に小さくなる。搬送車1が目標位置のクロステープ11a、11bに接近し、直進ガイドセンサ4a、4bが夫々クロステープ11a、11bの磁気を検出した時、CPU72は前輪6a及び後輪6bを独立して停止する。本実施の形態に係る前輪6a及び後輪6bの停止は略同時であり、この時横偏差量は許容範囲内に収束し、前輪6a及び後輪6bの向きは共に誘導線20が伸びる方向と略平行である。
【0097】
図16は、搬送車1による横偏差補正動作の一例を示す説明図である。図16における横行は、搬送車1が前進する場合を例に扱っている。図16では、説明の理解を助けるために、横行ガイドセンサ5a、5bの大きさを誇張して大きく描いている。図16の鎖線は、横行ガイドセンサ5a、5bの中心を通過する線分と、前輪6a及び後輪6bの中心を通過する線分とを示している。前輪6a及び後輪6bに添えられた矢印は、夫々前輪6a及び後輪6bの転舵方向を示している。前輪6a及び後輪6bに重ねて描かれた一点鎖線は、横行ガイドセンサ5a、5bの中心を通過する線分又は誘導線20と平行な方向を示している。時間経過にともない、搬送車1は図16Aから図16Eまでの順に横偏差量を減少させていく。
【0098】
図16Aは、方位補正が終了し、搬送車1が直進方向に偏倚した状態を示している。CPU72は、横行ガイドセンサ5aからガイド偏差S1を受け付ける。CPU72は、ガイド偏差S1を横偏差量として取得し、取得したS1に基づいて前輪6a及び後輪6bの操舵角度を決定する。なお、CPU72は、進行方向に向かって車体2の後側に設置された横行ガイドセンサ5bが検出するガイド偏差S2を横偏差量として取得してもよい。あるいは、CPU72は、横行ガイドセンサ5a、5bが検出したガイド偏差S1、S2の平均値を横偏差量として取得してもよい。
【0099】
CPU72は、決定した操舵角度で前輪6a及び後輪6bを旋回する指示を前輪転舵部62a及び後輪転舵部62bに出力する。また、CPU72は、前輪6a及び後輪6bを同じ速度で駆動する指示を夫々前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bに出力する。その結果、搬送車1は横偏差量が減少する方向に横行を開始する(図16B)。ここで、CPU72は、前輪6a及び後輪6bを同期して制御する。
【0100】
搬送車1が横行を開始した場合、横行ガイドセンサ5aはより小さなガイド偏差S1を検出することになる。横行ガイドセンサ5aは、検出した新たなガイド偏差S1をCPU72に出力する。CPU72は、受け付けた新たなガイド偏差S1を新たな横偏差量として取得し、取得したS1に基づいて前輪6a及び後輪6bの新たな操舵角度を決定する。この操舵角度は前ステージよりも小さな値になる。搬送車1は、より小さな操舵角度でパラレル走行しながら、徐々にクロステープ11a、11bに接近する(図16C)。
【0101】
搬送車1がクロステープ11a、11bに接近した時、横偏差量は更に小さな値になり、前輪6a及び後輪6bの操舵角度も更に小さくなっている(図16D)。
【0102】
直進ガイドセンサ4a、4bは略同時に夫々クロステープ11a、11bからの磁気を検出し、所定の信号をCPU72に出力する。CPU72は、直進ガイドセンサ4a、4bから所定の信号を受け付け、前輪6a及び6bを独立して停止させる指示を前輪駆動部61a及び後輪駆動部61bに出力する。その結果、搬送車1は横偏差補正完了と同時に目標位置で停止する(図16E)。なお、横偏差補正は、搬送車1が目標位置で停止する手前の地点を通過する時に終了していてもよい。
【0103】
搬送車1によれば、目標位置手前で方位補正のために、クロステープ11a、11bを利用した停止及び再移動を行わないため、搬送サイクルタイムを短縮することができる。搬送タイムサイクルの短縮により、延いては生産、物流活動等の作業サイクルタイムの短縮を図ることができる。また、搬送サイクルタイムの短縮により、工場等で稼働する全搬送車1の数を減らすことが可能となるため、コストダウンを実現することができる。また、搬送車1によれば、直進走行の走行路から目標位置までの距離を十分確保できない環境であっても、方位補正及び横偏差補正が可能である。
【0104】
従来の搬送車は、横偏差補正の後に方位補正をする。この横偏差補正の横偏差量は進行方向前側の磁気センサで検出した横偏差量である。方位が偏倚した状態の搬送車と横行方向の誘導線との偏差である横偏差量は、搬送車の横行方向の部分によって異なる。そのため、検出した進行方向前側の横偏差量をパラレル走行により許容範囲内になるまで補正しても、進行方向前側以外の部分における横偏差量は許容範囲より小さくなるとは限らない。横偏差補正の後に行われる方位補正により当該横偏差量を小さくするためには、方位補正を行うための搬送車の回転中心を、進行方向前側の磁気センサの中心にする必要がある。しかし、実際には、方位補正を行うための搬送車の回転中心は、2つの駆動輪のいずれか1つになる。従って、従来の搬送車による横偏差補正は、十分とはいえない。
一方、本実施の形態に係る搬送車1の場合、方位補正の後に横偏差補正を行う。方位補正を施した搬送車1の場合、搬送車1に係る横行方向のどの部分も誘導線20との偏差は同じである。その後のパラレル走行による横行は、回転を伴わない並進運動である。従って、横行時の横偏差補正により、搬送車1の横偏差量は、搬送車1のどの部分についても許容範囲内になる。
【0105】
方位偏差量を算出するために、搬送車1は2つの横行ガイドセンサ5a、5bを利用した。しかし、方位偏差量を算出するために、搬送車1は2つの直進ガイドセンサ4a、4bを利用してもよい。
かかる場合、図8において、S1及びS2を夫々直進ガイドセンサ4a、4bが検出する誘導線10の中央線10aと、直進ガイドセンサ4a、4bの中心とのガイド偏差とする。αはS1−S2である。βは直進ガイドセンサ4aと直進ガイドセンサ4bとの間の距離である。θは、直進ガイドセンサ4a及び直進ガイドセンサ4bを結ぶ線分と、誘導線10の中央線10aとがなす角であり、方位偏差量に該当する。θは、tan-1(α/β)で表現される。
あるいは、方位偏差量は、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bの中から任意の2つ、3つ又は全4つのガイドセンサが夫々対応する誘導線の中央線と、各ガイドセンサの中心とのガイド偏差に基づいて、算出されてもよい。搬送車1における各ガイドセンサの幾何学的位置関係は予め分かっているので(図1参照)、異なる位置に設置された少なくとも2つのガイドセンサから方位偏差量の算出が可能である。
任意の3つ又は全4つのガイドセンサから方位偏差量を求める場合、任意の3つ又は全4つのガイドセンサ夫々から、選択された2つのガイドセンサについて考えられる全ての組合せに対応する各方位偏差量を平均したものをα又はθとする。より多くのガイドセンサを利用して方位偏差量を算出する方が、方位偏差量の誤差を小さくすることができる。
上述により求めたα又はθにより、搬送車1の方位補正を実施する。
【0106】
横偏差量は、方位補正終了後に横行ガイドセンサ5a、5b及び誘導路20を用いて算出された。しかし、横偏差量は、方位補正前に横行ガイドセンサ5a、5bにより算出されてもよい。図8におけるS1、S2及びθから、搬送車1が誘導線20に対して誘導線20の直交方向へどれだけ偏倚しているか、すなわち横偏差量が算出可能である。
また、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bの中から、1つの横行ガイドセンサ5a又は5bを含む2つのガイドセンサにより、方位偏差量及び横偏差量の算出が可能である。任意の2つのガイドセンサにより方位偏差量を算出できることは、既に上で述べた。1つの横行ガイドセンサ5a又は5bと横行方向の誘導線20の中央線20aとがなすガイド偏差が分かれば、方位偏差量が算出済みである場合、1つの横行ガイドセンサ5a又は5bと誘導線20の中央線20aとがなす横偏差量を算出することができる。搬送車1における各ガイドセンサの幾何学的位置関係は予め分かっているので(図1参照)、1つの横行ガイドセンサ5a又は5b以外のガイドセンサと誘導線20の中央線20aとがなす横偏差量も算出することができる。
更に、横偏差量は、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bの中から選択された次のガイドセンサから算出されてもよい。すなわち、1つの横行ガイドセンサ5a又は5bと、当該1つの横行ガイドセンサ5a又は5bを除いた任意の2つ又は全3つのガイドセンサとから、算出されてもよい。1つの横行ガイドセンサ5a又は5bを含む3つ又は全4つのガイドセンサから横偏差量を求める場合、1つの横行ガイドセンサ5a又は5bを含む3つ又は全4つのガイドセンサ夫々から、1つの横行ガイドセンサ5a又は5bを含んで選択された2つのガイドセンサについて考えられる全ての組合せに対応する各横偏差量を平均したものを横偏差量とする。より多くのガイドセンサを利用して横偏差量を算出する方が、横偏差量の誤差を小さくすることができる。
以上より、直進ガイドセンサ4a、4b及び横行ガイドセンサ5a、5bの中から、少なくとも1つの横行ガイドセンサ5a又は5bを含む2つ、3つ又は全4つのガイドセンサにより、横偏差量の算出が方位補正前に可能である。
上述により求めた横偏差量により、搬送車1の横偏差補正を実施する。
【0107】
搬送車1における駆動及び旋回する車輪の数は前輪6a及び後輪6bの2つである。しかし、駆動及び旋回する車輪の数は3つ以上であってもよい。
図17は、搬送車8の概要を示す模式的平面図である。搬送車8は、駆動及び旋回する車輪を3つ有している。前輪6a及び後輪6bは夫々車体2の直進方向の前後に配置され、中輪6cは前輪6a及び後輪6bの中間位置に配置されている。方位補正を行う場合、搬送車8は、前輪6a、後輪6b又は中輪6cのいずれか1つを停止した状態で、他の車輪を駆動する。
なお、方位補正を行う場合、搬送車8は、前輪6a及び中輪6c、あるいは後輪6b及び中輪6cを停止し、他の車輪を駆動してもよい。
【0108】
図17において、前輪6a、後輪6b又は中輪6cのうち、いずれか1つを停止する場合、搬送車8がより短時間で目標位置に到達できるようにするため、CPU72は最も進行方向側に位置する駆動輪を停止する駆動輪に選択する。具体的な最も進行方向側に位置する駆動輪は、前輪6a又は後輪6bである。CPU72は、方位補正に伴う搬送車8の回転中心を停止する駆動輪と床面との接触面とし、他の駆動輪の速度を当該回転中心からの距離に比例した大きさと目標位置に近づく方向とに設定する。
搬送車8における前輪6a、後輪6b及び中輪6cの位置関係はあらかじめ分かっているので、他の駆動輪における回転中心からの距離も既知である。従って、横行方向が前進と後進とのいずれかということ及びα(S1−S2)あるいはθが判明すれば、方位補正は可能である。
【0109】
図18は、搬送車9の概要を示す模式的平面図である。搬送車9は、駆動及び旋回する車輪を4つ有している。前輪6a及び後輪6bは夫々車体2の直進方向の前後に配置され、右輪6d及び左輪6eは夫々車体2の横行方向の前後に設置されている。方位補正を行う場合、搬送車9は、前輪6a又は後輪6bのいずれかを停止した状態で、他の車輪を駆動する。あるいは、方位補正を行う場合、搬送車9は、右輪6d又は左輪6eのいずれかを停止した状態で、他の車輪を駆動してもよい。
また、方位補正を行う場合、搬送車9は、3つの車輪(例えば、前輪6a、右輪6d、左輪6e)を停止し、他の1つの車輪を駆動してもよい。更に、方位補正を行う場合、搬送車9は、2つの車輪(例えば、前輪6a及び右輪6dあるいは前輪6a及び左輪6e)を停止し、他の2つの車輪を駆動してもよい。
【0110】
図18において、前輪6a、後輪6b、右輪6d又は左輪6eのうち、いずれか1つを停止する場合、搬送車9がより短時間で目標位置に到達できるようにするため、CPU72は最も進行方向側に位置する駆動輪を停止する駆動輪に選択する。具体的な最も進行方向側に位置する駆動輪は、方位偏差が所定角より大きい場合、前輪6a又は後輪6bである。具体的な最も進行方向側に位置する駆動輪は、方位偏差が所定角より小さい場合、右輪6d又は左輪6eである。CPU72は、方位補正に伴う搬送車9の回転中心を停止する駆動輪と床面との接触面とし、他の駆動輪の速度を当該回転中心からの距離に比例した大きさと目標位置に近づく方向とに設定する。
搬送車9における前輪6a、後輪6b、右輪6d及び左輪6eの位置関係はあらかじめ分かっているので、他の駆動輪における回転中心からの距離も既知である。従って、横行方向が前進と後進とのいずれかということ及びα(S1−S2)あるいはθが判明すれば、方位補正は可能である。
【0111】
図17及び図18の例では駆動及び旋回する車輪の数は5つ未満であるが、駆動及び旋回する車輪の数が5つ以上である場合であっても、本実施の形態に係る方位補正及び横偏差補正は可能である。かかる場合、方位補正を行う場合、複数の車輪のうち、少なくとも1つを停止し、他の車輪を駆動する。
【符号の説明】
【0112】
1 搬送車
2 車体
4a、4b 直進ガイドセンサ(第一検出手段)
5a、5b 横行ガイドセンサ(第二検出手段)
6a 前輪(駆動輪)
6b 後輪(駆動輪)
61a 前輪駆動部(駆動手段)
61b 後輪駆動部(駆動手段)
62a 前輪転舵部(旋回手段)
62b 後輪転舵部(旋回手段)
7 制御部
72 CPU(決定手段、算出手段、判定手段)
10 誘導線(第一誘導線)
20 誘導線(第二誘導線)
11a、11b クロステープ(停止線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に配設された複数の駆動輪と、
対応する前記駆動輪を夫々独立して駆動する複数の駆動手段と、
対応する前記駆動輪を夫々独立して旋回する複数の旋回手段と、
第一誘導線を検出する複数の第一検出手段と、
該第一検出手段が検出する第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線を検出する複数の第二検出手段と
を備え、
前記車体を回転させることなく、走行方向を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に変更し、前記駆動手段が夫々対応する駆動輪を駆動することにより、第二誘導線に沿って走行する搬送車において、
少なくとも一つの第二検出手段が第二誘導線を検出した場合、前記駆動手段は夫々対応する駆動輪の駆動を停止し、前記旋回手段は夫々対応する駆動輪を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回するようにしてあり、
前記第一検出手段は走行方向前後の複数の位置における第一誘導線に対する前記車体の各位置偏差を検出するようにしてあり、
前記第二検出手段は走行方向前後の複数の位置における第二誘導線に対する前記車体の各位置偏差を検出するようにしてあり、
前記駆動手段が夫々対応する駆動輪の駆動を停止し、前記旋回手段が夫々対応する駆動輪を第二誘導線に対応する方向に旋回した場合、第一誘導線に対する側方向の別及び前記第一又は第二検出手段が夫々検出した各位置偏差に基づいて、駆動停止を継続する一つの駆動輪及び駆動を開始する他の駆動輪を決定する決定手段を備える
ことを特徴とする搬送車。
【請求項2】
前記決定手段が決定した他の駆動輪に夫々対応する他の駆動手段は、第一誘導線に対する側方向の別及び前記第一又は第二検出手段が夫々検出した前記車体の各位置偏差に基づいて、該他の駆動輪各々に関する駆動速度を制御するようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送車。
【請求項3】
前記第一又は第二検出手段が夫々検出した前記車体の各位置偏差に基づいて、第一又は第二誘導線に対する前記車体の方位偏差を算出する算出手段と、
該算出手段により算出された前記車体の方位偏差が所定の閾値内であるか否かを判定する判定手段と
を備え、
前記他の駆動手段は、前記判定手段による判定結果に基づいて、夫々対応する他の駆動輪に関する駆動速度を制御するようにしてある
ことを特徴とする請求項2に記載の搬送車。
【請求項4】
前記旋回手段は、前記他の駆動手段が前記判定手段による判定結果に基づいて夫々対応する他の駆動輪の駆動を停止した場合、少なくとも一つの第二検出手段が検出した第二誘導線に対する前記車体の位置偏差に基づいて、夫々対応する駆動輪を同期して同角度旋回するようにしてある
ことを特徴とする請求項3に記載の搬送車。
【請求項5】
前記駆動輪及び駆動手段に夫々対応する前記第一検出手段を複数備え、
該第一検出手段は、夫々対応する駆動輪各々の停止位置を示す各停止線を独立して検出するようにしてあり、
前記駆動手段は、夫々対応する前記第一検出手段が各停止線を検出する都度、夫々対応する駆動輪の駆動を独立して停止するようにしてある
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の搬送車。
【請求項6】
少なくとも一つの第二検出手段が第二誘導線を検出し、前記駆動手段が夫々対応する駆動輪の駆動を停止した場合、前記旋回手段は、前記車体を回転させることなく、走行方向を第二誘導線に対応する方向に変更するために、夫々対応する駆動輪を同期させて第二誘導線に対応する方向に旋回するようにしてある
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の搬送車。
【請求項7】
第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線が検出された場合、搬送車が備える複数の駆動輪の駆動を停止し、
該駆動輪各々を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回する搬送車の制御方法において、
前記駆動輪各々を第二誘導線に対応する方向に旋回した場合、走行方向前後の複数の位置における第一又は第二誘導線に対する前記搬送車の各位置偏差を検出し、
第一誘導線に対する側方向の別及び検出した各位置偏差に基づいて、複数の前記駆動輪の一部を駆動する
ことを特徴とする搬送車の制御方法。
【請求項8】
第一誘導線に対応する方向と異なる方向に対応する第二誘導線の検出信号に基づいて、搬送車が備える複数の駆動輪の駆動を停止し、
該駆動輪各々を第一誘導線に対応する方向から第二誘導線に対応する方向に旋回するための信号を送信する処理をコンピュータに実行させるプログラムにおいて、
走行方向前後の複数の位置における第一又は第二誘導線に対する前記搬送車の各位置偏差が与えられた場合、該各位置偏差に基づいて、第一又は第二誘導線に対する該搬送車の方位偏差を算出し、
算出した方位偏差が所定の閾値内か否かを判定し、
第一誘導線に対する側方向の別が与えられた場合、該側方向の別、算出した前記方位偏差及び判定した判定結果に基づいて、前記駆動輪各々に関する駆動速度を決定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−58040(P2013−58040A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195336(P2011−195336)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】