説明

携帯型作業機の振動吸収継手

【課題】防振効果及び耐久性を有し、メンテナンス性に優れた携帯型作業機の振動吸収継手を提供する。
【解決手段】エンジン10のクランク軸15の回転を作業機部へ伝達する携帯型作業機の振動吸収継手30であって、前記クランク軸15と連結される駆動軸23と、前記作業機部と連結される伝達軸24と、前記駆動軸23の先端側に連結される駆動軸継手部材31と、前記伝達軸24の基端側に連結される伝達軸継手部材32と、前記駆動軸継手部材31の先端側と前記伝達軸継手部材32の基端側とに外嵌して連結する捩じりコイルバネ33とを具備し、前記駆動軸継手部材31の先端側と前記伝達軸継手部材32の基端側には、それぞれ互いに所定角度α・β回転させると当接する爪部31c・32aが形成されることを特徴とする携帯型作業機の振動吸収継手30。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸の回転動力を刈刃等の作業機部へ伝達する携帯型作業機の振動吸収継手の構成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な携帯型刈払機(携帯型作業機)は、内燃機関(エンジン)を代表とする原動機を有し、遠心式クラッチにて原動機出力軸の回転運動をメインパイプに内挿された伝動軸にて原動機から、所定長さ(約1.5メートル)先にある先端部の刈刃を回転運動させて草刈作業等の作業を行う。
前記従動軸は、所定長さの軸心方向の長さを有し、従動軸の直径が、軽量化の要望に対応してできるだけ細く(直径約6〜7ミリメートル)形成した中空部材が用いられる。そのため、エンジンの回転変動や、刈刃への負荷変動により伝動軸には、ねじりが発生する。
このとき、前記原動機の回転数が刈刃の回転数よりも多い場合や前記原動機の回転数が刈刃の回転数よりも少ない場合において、前記従動軸には、前記原動機の回転方向や及び該回転方向の逆方向にねじりが発生する。そして、前記従動軸は、前記ねじり、前記ねじりからの戻り、さらに戻りからの逆ねじりが繰り返されることで、「ねじり振動」が発生する。
【0003】
一般的に、エンジンのクランク軸の一端に設けられる遠心クラッチと刈刃等の作業機部との間の伝達経路に振動吸収継手を設けることによって、ねじり振動を吸収している。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の振動吸収継手は、ワンウェイクラッチにより構成され、遠心クラッチと従動軸との間に設けられている。
このワンウェイクラッチによって刈刃等の作業機部からエンジン側へ反対方向の駆動力が伝達されないので、ねじり振動が吸収される。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の振動吸収継手は、潤滑及び冷却が困難であるため、破損し易く耐久性に劣るという不具合があった。また、原動機の回転数が刈刃の回転数よりも多くなった場合、例えば刈刃に負荷変動を受けた場合等において発生するねじり振動を吸収することができないという不具合があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の振動吸収継手は、可動スリーブと筒状連結体に設けられた係止部との間に配置された圧縮コイルばねにより構成され、遠心クラッチと従動軸との間に設けられている。
ねじりを発生させる回転運動は、圧縮コイルばねの伸縮運動に変換させることで、ねじり振動が吸収される。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の振動吸収継手は、回転運動を圧縮コイルばねの伸縮運動に変換するために金属同士に強い接触摩擦が発生する。そのため耐磨耗性・潤滑性の面で耐久性が充分ではなかった。
【0008】
さらに、特許文献3に記載の振動吸収継手は、原動機出力軸と伝動軸の間にねじりコイルばねを備え、回転変動により発生する伝動軸のねじりをねじりコイルばねに吸収させる。
【0009】
しかし、特許文献3に記載の振動吸収継手は、ねじりコイルばねが負荷の大きさで制限無くねじられてしまう。また、駆動軸の回転数が従動軸の回転数よりも多くなった場合、例えば高速運転時からの立ち木の切り込みによる急激な刈刃のロック時等に負荷変動を受けた場合等において、ねじりコイルばねのねじり変形が大きいために、弾性変形限界を超える変形や破損を起こしやすく耐久性に問題があった。
【特許文献1】特許第3954824号公報
【特許文献2】特開2007−61031号公報
【特許文献3】特開2005−168339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、防振効果及び耐久性を有し、メンテナンス性に優れた携帯型作業機の振動吸収継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
即ち、請求項1においては、エンジンのクランク軸の回転を作業機部へ伝達する携帯型作業機の振動吸収継手であって、前記クランク軸と連結される駆動軸と、前記作業機部と連結される伝達軸と、前記駆動軸の先端側に連結される駆動軸継手部材と、前記伝達軸の基端側に連結される伝達軸継手部材と、前記駆動軸継手部材の先端側と前記伝達軸継手部材の基端側とに外嵌して連結する捩じりコイルバネと、を具備し、前記駆動軸継手部材の先端側と前記伝達軸継手部材の基端側には、それぞれ互いに所定角度回転させると当接する爪部が形成されるものである。
【0013】
請求項2においては、前記駆動軸継手部材の先端側と前記伝達軸継手部材の基端側のいずれか一方の爪部よりも軸心方向外側に中実部を形成し、他方の爪部よりも軸心方向内側に前記中実部を挿入可能とする中空部を形成したものである。
【0014】
請求項3においては、前記捩じりコイルバネの両端の係止部の内周径は、軸心方向中央部の内周径よりも小さく構成するとともに、前記駆動軸継手部材の爪部と前記伝達軸継手部材の爪部との外径を前記係止部の内周径よりも大きく構成したものである。
【0015】
請求項4においては、前記捩じりコイルバネの内周と、該捩じりコイルバネを外嵌する前記駆動軸継手部材と前記伝達軸継手部材の外周との間には隙間を有するとともに、前記捩じりコイルバネの両端は軸心方向に延出する係合部を形成し、前記駆動軸継手部材の爪部よりも基部側と前記伝達軸継手部材の爪部よりも先端側にそれぞれフランジを形成し、該フランジに前記捩じりコイルバネの係合部を挿入可能な挿入孔を形成したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1に記載の携帯型作業機の振動吸収継手によれば、駆動軸継手部材と伝達軸継手部材の組み合わせのみで、所定角度以上(過度)のねじりを爪部で規制することが可能となる。また、捩じりコイルバネの巻き広がり及び巻き締まりの規制角度を爪部の形状を変えることにより任意に設定することができ、原動機の出力・用途・目的に合わせてねじり規制角度を柔軟に対応させることが可能となる。加え、捩じりコイルバネは、巻き締まりの負荷方向へは強い耐久性と疲労強度を示すが巻き広げの負荷方向への疲労強度は弱いので、より好適な耐久性を確保しつつ、ねじり振動を効果的に吸収する。更に、ねじり角度を規制するための専用の部品を具備しないため、組立も容易で経済的にもメンテナンス性にも優れる。
【0018】
請求項2に記載の携帯型作業機の振動吸収継手によれば、防振効果及び耐久性を有しながら、特別な位置決めを設けずとも駆動軸継手部材と伝達軸継手部材簡単に結合でき、軸心の位置決めが容易にでき軸心がずれることを防止でき、組み付けまたは修理等のメンテナンス性に優れる。
【0019】
請求項3に記載の携帯型作業機の振動吸収継手によれば、防振効果及び耐久性を有するとともに、それぞれの部品が分散しづらい。また、ユニットを分解する際に、捩じりコイルバネと両継手部材は、特別な道具を必要としないで適度な引張り、圧縮荷重で分解及び再組立が可能であるので、各部品単位で容易に交換できメンテナンス性に優れる。更に、最小限の部品構成であることからコスト・経済的にも優れる。
【0020】
請求項4に記載の携帯型作業機の振動吸収継手によれば、駆動軸継手部材と伝達軸継手部材に捩じりコイルバネを軸心方向に嵌挿、引き抜きさせることで容易に組み付けることが可能であり、組立時にそれぞれの部品が分散することがない。携帯型作業機本体に振動吸収継手を組み付ける場合において、特別な位置決めを設けずとも簡単に結合でき、防振効果及び耐久性を有するとともに、組み付け時のみでなく修理等のメンテナンス時の取り扱いが容易に行うことが可能である。
また、ユニットを分解する際に、捩じりコイルバネと両継手部材は、特別な道具を必要としないで、各部品単位で容易に交換することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0022】
以下では、図1を参照して、本発明に係る携帯型作業機の振動吸収継手を具備する携帯型作業機の一実施形態である携帯型刈払機1の概略構成について説明する。
なお、説明の都合上、携帯型作業機は、携帯型刈払機1として説明を行うが、本発明はこれに限るものではない。また、エンジン側が基端側、作業機部側が先端側として説明を行う。
【0023】
携帯型刈払機1は、主としてエンジン10と、動力伝達機構20と、作業機部(不図示)とを具備する。
【0024】
エンジン10は、主としてシリンダ11と、ピストン12と、コンロッド13と、クランクケース14と、クランク軸15とを具備する。
シリンダ11とクランクケース14は、エンジン10の主たる構造体であり、ピストン12は、シリンダ11内を上下摺動するもので、シリンダ11内に収納される。コンロッド13は、ピストン12とクランク軸15とを連結させるためのもので、一端部がピストン12に枢支され、他端部がクランク軸15に枢支される。クランク軸15は、クランクケース14に回転自在に支持されて、ピストン12の上下摺動を回転運動に変換させるためのもので、一端がクランクケース14より突出されて動力伝達機構20を介して刈刃等の作業機部(不図示)へ前記回転運動を伝達させる。
【0025】
動力伝達機構20は、主として遠心クラッチ21と、クラッチドラム22と、駆動軸23と、振動吸収継手30と、伝達軸24とを具備する。
遠心クラッチ21の一端部(図1における右側)は、クランク軸15と連結される。遠心クラッチ21の外周部に配設されたクラッチシュー21aは、エンジン10が作動されていない状態ではバネにより軸心側に付勢され、クランク軸15の回転による遠心力によって、クラッチシュー21aは外周に配置されたクラッチドラム22の基端部の内面に押し付けられ、動力が伝達される構成とされている。クラッチドラム22の先端部は、駆動軸23の基端と一体的に構成される。駆動軸23の先端部は、振動吸収継手30を介して、伝達軸24と連結される。
【0026】
図6に示すように、駆動軸23は、筒状に形成され、その内周に軸心方向に平行な溝を複数施したスプライン雌歯23aが形成される。なお、該スプライン雌歯23aは、後述する振動吸収継手30の基端側に形成したスプライン雄歯31aを挿入して連動連結するためのものである。
【0027】
また、伝達軸24の基端部は、振動吸収継手30と連結される。伝達軸24の先端部は、刈刃等の作業機部(不図示)と連結される。なお、伝達軸24の基端部の外周には、軸心方向に平行な突起(溝)を複数施したスプライン雄歯24aが形成される。該スプライン雄歯24aは、後述する振動吸収継手30の先端部のスプライン雌歯32dに挿入して連動連結するためのものである。
【0028】
次に、図1から図5を参照して、本発明に係る振動吸収継手の実施の一形態である振動吸収継手30について説明する。
【0029】
振動吸収継手30は、伝達軸24にねじり振動が発生する状態において、そのねじり振動を吸収するとともに、エンジン10から動力伝達機構20に伝達される回転運動を伝達軸24に伝達させるためのものである。
図2から図4に示すように、振動吸収継手30は、駆動軸継手部材31と、伝達軸継手部材32と、捩じりコイルバネ33とにより構成される。また、図1に示すように、振動吸収継手30は、駆動軸23と伝達軸24との間に設けられる。但し、振動吸収継手30は、伝達軸24の中途部に配設されてもよく、限定するものではない。
【0030】
駆動軸継手部材31は、駆動軸23の回転運動を捩じりコイルバネ33と伝達軸継手部材32とを介して、伝達軸24に伝達させるためのものである。
図1から図4のいずれかに示すように、駆動軸継手部材31の基端側には、その外周にスプライン雄歯31aが形成される。スプライン雄歯31aは、駆動軸23に形成されるスプライン雌歯23aに嵌合される。
【0031】
また、駆動軸継手部材31の軸心方向中途部には、円板状のフランジ31bが形成される。該フランジ31bの側面には、後述する捩じりコイルバネ33の一端を挿入して連結可能となるように、軸心方向に平行な挿入孔31eが貫通して開孔される。フランジ31bより先端側には、順にバネ外嵌部31fと爪部31cと中実部31dが設けられる。つまり、フランジ31bと中実部31dとの間には、爪部31cとバネ外嵌部31fを有する。該爪部31cは軸の一部が切欠かれ、その断面が略半月状に形成される。爪部31cのさらに先端側(軸心方向外側)には、中実部31dが形成される。中実部31dの外周は、後述する伝達軸継手部材32の中空部32bと略同径(図5の(a)参照)で、該中空部32bに嵌入可能な円柱状に形成される。該中実部31dが中空部32bに挿入されることにより軸心を一致させて回転変動が生じないようにしている。なお、バネ外嵌部31fの直径は爪部31cの直径よりも小さく、中実部31dの直径は爪部31cの直径(後述する外径φc)よりも小さく、さらにバネ外嵌部31fの直径よりも小さく構成されている。
【0032】
伝達軸継手部材32は、前記駆動軸継手部材31の回転運動を伝達軸24に伝達させるためのものである。
図2及び図3に示すように、伝達軸継手部材32は、筒状に形成され中空部32bを有する。該伝達軸継手部材32の軸心方向中途部には、円板状のフランジ32cが形成される。該フランジ32cの基端側にはバネ外嵌部32f、さらに基端側に爪部32aが形成される。つまり、伝達軸継手部材32の基端部は、前記中空部32bを切欠き、その断面は円弧状として爪部32aが形成される。なお、爪部32aの外周側の曲率半径(後述する外径φc)は、前記駆動軸継手部材31の爪部31cの半径(後述する外径φc)と略一致させ、バネ外嵌部32fの外径は前記駆動軸継手部材31のバネ外嵌部31fの直径と略一致させて形成している。
【0033】
また、前記中空部32bに駆動軸継手部材31の中実部31dが挿入された際に、該爪部32aの軸心方向の長さは、爪部31cの軸心方向の長さと略同じとなるように形成される。加えて、図5の(a)に示すように、捩じりコイルバネ33を取り付けてエンジンが駆動されていない中立の状態において、爪部32aと爪部31cとの間には、所定角度α・βの隙間が形成され、それぞれ互いに所定角度αもしくは所定角度β回転させると当接するよう構成される。また、図5の(b)に示すように、中空部32bは、中実部31dに、それぞれ軸心方向及び周方向に摺動可能に嵌合される。
【0034】
図2及び図3に示すように、前記フランジ32cには、後述する捩じりコイルバネ33の他端を挿入して連結可能となるように、軸心方向に平行な挿入孔32eが貫通して開孔される。伝達軸継手部材32の先端部は、その内周に軸心方向に平行な溝を複数施したスプライン雌歯32dが形成される。スプライン雌歯32dは、伝達軸24に形成されるスプライン雄歯24aを嵌合して連動連結される。
これにより、伝達軸継手部材32は、スプライン雌歯32dとスプライン雄歯24aが互いに歯合して、伝達軸24に回転運動を伝達させる。
【0035】
捩じりコイルバネ33は、伝達軸24に発生するねじり振動を吸収して、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32とを連結させるためのものである。
捩じりコイルバネ33は、金属製の圧縮コイルスプリング等によって構成される。
捩じりコイルバネ33は、回転運動の回転方向と逆の巻き方向を有し、両端部に係止部33a・33aが形成される。
係止部33a・33aは、駆動軸継手部材31及び伝達軸継手部材32と、捩じりコイルバネ33とを連結させるための部位である。係止部33a・33aは、それぞれ端部をその外周から軸心方向と平行に突出させて係合部33b・33bが形成され、該係合部33b・33bが前記挿入孔31e・32eにそれぞれ挿入される。よって、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32が捩じりコイルバネ33によって連結されて振動吸収継手30は構成される。
【0036】
捩じりコイルバネ33は、巻き締まりの方向に対して強い耐久性と疲労強度を示し、巻き広げの方向に対して疲労強度が弱い。そのため、携帯型刈払機1が駆動されていない場合、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32とがなす規制角度α・β(図5の(a)参照)は、逆回転側の規制角度βよりも正転側の規制角度αの角度を大きくする(α>β)ことが望ましい。但し限定するものではない。
また、規制角度α・βを形状を変えることによって任意に設定し、エンジン10の出力・用途・目的に合わせて、前記捩じりコイルバネ33の巻き広がり及び巻き締まりのねじり規制角度を柔軟に対応させることが可能となる。
【0037】
図6に示すように、前記捩じりコイルバネ33の両端の係止部33a・33aの内周径φaは、軸心方向中央部の内周径φbよりも小さく構成される。また、駆動軸継手部材31の爪部31cと伝達軸継手部材32の爪部32aとがなす外径φcは、前記係止部33aの内周径φaよりも大きく構成される。また、捩じりコイルバネ33の内周径φbと、該捩じりコイルバネ33を外嵌する駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32の外周(爪部31cと爪部32aの係合部分)との間には、隙間を有するよう構成される。つまり、捩じりコイルバネ33の両端の係止部33a・33aの内周径φaに、爪部31c・爪部32aが軸心方向に当接され、捩じりコイルバネ33と駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32とを容易に分離せぬよう規制される。
【0038】
以上のような構成とすると、エンジン10を作動させて、駆動軸23が回転させると、駆動軸継手部材31から捩じりコイルバネ33を介して伝達軸継手部材32に動力が伝えられる。このとき、爪部32aと爪部31cとの間の隙間(正転側規制角度α)が若干小さくなっている。そして、駆動軸23の回転数が従動軸42の回転数よりも多くなった場合、例えば刈刃に負荷を受けた場合等には、捩じりコイルバネ33は巻き締まり、負荷や振動等を吸収して変動が小さくなるようにする。そしてさらに回転数の差が大きくなると、駆動軸継手部材31が伝達軸継手部材32に対して相対的に所定角度α回ることとなり、爪部32aと爪部31cが当接して、噛み合った状態となり、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32が一体的に回転することとなる。なおこのとき、捩じりコイルバネ33は爪部32aと爪部31cが密着するように締め付けることになるので、互いに偏心することがなく振動が発生することを防止できる。
つまり、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32とが、直接回転力を伝達することにより、捩じりコイルバネ33には、過度なねじりが生じることなく、耐久性を向上し、振動ねじれを効率よく吸収する。
【0039】
またその逆に、駆動軸23の回転数が従動軸42の回転数よりも少なくなった場合、例えばエンジン10が急減速した場合等において、駆動軸継手部材31は伝達軸継手部材32よりも回転数が減少して捩じりコイルバネ33は巻き広げとなり、その変動を吸収する。そして更に回転数差が大きくなると、所定角度βだけ相対的に回転した位置で爪部32aと爪部31cが当接して、噛み合った状態となり、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32が一体的に回転することとなる。
つまり、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32とが、直接回転力を伝達することにより、捩じりコイルバネ33には、過度な逆ねじりが生じることなく、耐久性を向上し、逆振動ねじれを吸収する。
【0040】
以上の如く、本実施形態に係る携帯型刈払機1の振動吸収継手30は、エンジン10のクランク軸15の回転を作業機部へ伝達する携帯型刈払機1の振動吸収継手30であって、前記クランク軸15と連結される駆動軸23と、前記作業機部と連結される伝達軸24と、前記駆動軸23の先端側に連結される駆動軸継手部材31と、前記伝達軸24の基端側に連結される伝達軸継手部材32と、前記駆動軸継手部材31の先端側と前記伝達軸継手部材32の基端側とに外嵌して連結する捩じりコイルバネ33とを具備し、前記駆動軸継手部材31の先端側と前記伝達軸継手部材32の基端側には、それぞれ互いに所定角度α・β回転させると当接する爪部31c・32aが形成される。
【0041】
このように構成することにより、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32の組み合わせのみで、所定角度α・β以上(過度)のねじりを爪部31c・32aで規制することが可能となる。また、捩じりコイルバネ33の巻き広がり及び巻き締まりの規制角度α・βを爪部31c・32aの形状を変えることにより任意に設定することができ、エンジン10の出力・用途・目的に合わせてねじり規制角度α・βを柔軟に対応させることが可能となる。加え、捩じりコイルバネ33は、巻き締まりの負荷方向へは強い耐久性と疲労強度を示すが巻き広げの負荷方向への疲労強度は弱いので、より好適な耐久性を確保しつつ、ねじり振動を効果的に吸収する。更に、ねじり角度を規制するための専用の部品を具備しないため、組立も容易で経済的にもメンテナンス性にも優れる。
【0042】
本実施形態に係る携帯型刈払機1の振動吸収継手30は、駆動軸継手部材31の先端側と前記伝達軸継手部材32の基端側のいずれか一方の爪部31c・32aよりも軸心方向外側に中実部31dを形成し、他方の爪部31c・32aよりも軸心方向内側に前記中実部31dを挿入可能とする中空部32bを形成した。
【0043】
このように構成することにより、防振効果及び耐久性を有しながら、特別な位置決めを設けずとも駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32簡単に結合でき、軸心の位置決めが容易にでき軸心がずれることを防止でき、組み付けまたは修理等のメンテナンス性に優れる。
【0044】
本実施形態に係る携帯型刈払機1の振動吸収継手30は、前記捩じりコイルバネ33の両端の係止部33a・33aの内周径φaは、軸心方向中央部の内周径φbよりも小さく構成するとともに、前記駆動軸継手部材31の爪部31cと前記伝達軸継手部材32の爪部32aとの外径φcを前記係止部33a・33aの内周径φaよりも大きく構成した。
【0045】
このように構成することにより、防振効果及び耐久性を有するとともに、それぞれの部品が分散しづらい。また、ユニットを分解する際に、捩じりコイルバネ33と両継手部材31・32は、特別な道具を必要としないで適度な引張り、圧縮荷重で分解及び再組立が可能であるので、各部品単位で容易に交換できメンテナンス性に優れる。更に、最小限の部品構成であることからコスト・経済的にも優れる。
【0046】
本実施形態に係る携帯型刈払機1の振動吸収継手30は、前記捩じりコイルバネ33の内周と、該捩じりコイルバネ33を外嵌する前記駆動軸継手部材31と前記伝達軸継手部材32の外周との間には隙間を有するとともに、前記捩じりコイルバネ33の両端は軸心方向に延出する係合部33b・33bを形成し、前記駆動軸継手部材31の爪部31cよりも基部側と前記伝達軸継手部材32の爪部32aよりも先端側にそれぞれフランジ31b・32cを形成し、該フランジ31b・32cに前記捩じりコイルバネの係合部33b・33bを挿入可能な挿入孔31e・32eを形成した。
【0047】
このように構成することにより、駆動軸継手部材31と伝達軸継手部材32に捩じりコイルバネ33を軸心方向に嵌挿、引き抜きさせることで容易に組み付けることが可能であり、組立時にそれぞれの部品が分散することがない。携帯型刈払機1本体に振動吸収継手30を組み付ける場合において、特別な位置決めを設けずとも簡単に結合でき、防振効果及び耐久性を有するとともに、組み付け時のみでなく修理等のメンテナンス時の取り扱いが容易に行うことが可能である。また、ユニットを分解する際に、捩じりコイルバネ33と両継手部材31・32は、特別な道具を必要としないで、各部品単位で容易に交換することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例に係る携帯型刈払機の全体的な構成を示した概略断面図。
【図2】同じく振動吸収継手の構成部品を示した分解斜視図。
【図3】図2の状態を反転させた振動吸収継手の構成部品を示した分解斜視図。
【図4】同じく振動吸収継手を示した側面図。
【図5】(a)図4におけるA−A線断面図、(b)図4におけるB−B線断面図。
【図6】本発明の一実施例に係る携帯型刈払機の振動吸収継手の構成を示した概略断面図。
【符号の説明】
【0049】
1 携帯型刈払機
10 エンジン
15 クランク軸
23 駆動軸
24 伝達軸
30 振動吸収継手
31 駆動軸継手部材
31b フランジ
31c 爪部
31d 中実部
31e 挿入孔
32 伝達軸継手部材
32a 爪部
32b 中空部
32c フランジ
33 コイルバネ
33a 係止部
33b 係合部
α 所定角度、規制角度
β 所定角度、規制角度
φa 内周径
φb 内周径
φc 外径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸の回転を作業機部へ伝達する携帯型作業機の振動吸収継手であって、
前記クランク軸と連結される駆動軸と、
前記作業機部と連結される伝達軸と、
前記駆動軸の先端側に連結される駆動軸継手部材と、
前記伝達軸の基端側に連結される伝達軸継手部材と、
前記駆動軸継手部材の先端側と前記伝達軸継手部材の基端側とに外嵌して連結する捩じりコイルバネと、を具備し、
前記駆動軸継手部材の先端側と前記伝達軸継手部材の基端側には、それぞれ互いに所定角度回転させると当接する爪部が形成されることを特徴とする携帯型作業機の振動吸収継手。
【請求項2】
前記駆動軸継手部材の先端側と前記伝達軸継手部材の基端側のいずれか一方の爪部よりも軸心方向外側に中実部を形成し、他方の爪部よりも軸心方向内側に前記中実部を挿入可能とする中空部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の携帯型作業機の振動吸収継手。
【請求項3】
前記捩じりコイルバネの両端の係止部の内周径は、軸心方向中央部の内周径よりも小さく構成するとともに、
前記駆動軸継手部材の爪部と前記伝達軸継手部材の爪部との外径を前記係止部の内周径よりも大きく構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の携帯型作業機の振動吸収継手。
【請求項4】
前記捩じりコイルバネの内周と、該捩じりコイルバネを外嵌する前記駆動軸継手部材と前記伝達軸継手部材の外周との間には隙間を有するとともに、
前記捩じりコイルバネの両端は軸心方向に延出する係合部を形成し、前記駆動軸継手部材の爪部よりも基部側と前記伝達軸継手部材の爪部よりも先端側にそれぞれフランジを形成し、該フランジに前記捩じりコイルバネの係合部を挿入可能な挿入孔を形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の携帯型作業機の振動吸収継手。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−148397(P2010−148397A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328358(P2008−328358)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000198330)株式会社IHIシバウラ (74)
【Fターム(参考)】