説明

摩擦伝動装置

【課題】複数のローラを相互に径方向に押圧接触させて伝動するトラクション伝動装置において、伝動容量制御時の消費エネルギーを小さくし、モータの小型化を図る。
【解決手段】被動ローラと駆動ローラのうち少なくとも1個のローラを該ローラの回転軸線から偏心した軸線の周りに旋回させる旋回ローラとすることによりローラ間径方向接触圧力を加減する。ローラ間径方向押圧接触力を発生し始めてローラ間径方向押圧接触力を最大にする旋回中、該旋回ローラの旋回を助成するローラ旋回アシスト手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車両のトランスファー等に有用な摩擦伝動装置に関し、特にそのトラクション伝動容量を制御するためのアクチュエータを小型、軽量にすると共に、アクチュエータ動作エネルギーを節約し得るようになす技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動装置としては従来、例えば特許文献1に記載のように、2個のローラを相互に径方向に押圧接触させてトラクション伝動が可能なように構成したものが知られている。
この摩擦伝動装置においては、両ローラ間の径方向押圧力(トラクション伝動容量)に応じたトルクを伝達することができる。
【0003】
かかる摩擦伝動装置は、両ローラの径方向相互押圧接触部におけるトラクション伝動容量を、要求駆動力に応じたトルク容量に制御するトラクション伝動容量制御が不可欠である。
このトラクション伝動容量制御について特許文献1には、上記ローラの一方を、ローラ回転軸線から偏心した軸線の周りに旋回させることにより、他方のローラとの間の径方向押圧接触力を加減してトラクション伝動容量を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−091061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上記形式の摩擦伝動装置にあっては、一方のローラを、ローラ回転軸線から偏心した軸線の周りに旋回させて、他方のローラとの径方向押圧接触を開始させ(ローラ間径方向押圧接触力の発生を開始させ)、該一方のローラを更に同方向へ旋回させてローラ間径方向押圧接触力を最大値に向かわせることとなる。
【0006】
この間、上記一方のローラを旋回させるときの反力(ローラの旋回に必要な力、つまりトラクション伝動容量制御力)は、前記ローラ間径方向押圧接触力が0から最大値になるまでのローラ旋回中、前半のローラ旋回領域で0から漸増してピーク値に達し、後半のローラ旋回領域でピーク値から漸減して0になる。
つまりトラクション伝動容量制御力は、上記のローラ旋回中、正弦波形状の変化を呈する。
【0007】
しかしてトラクション伝動容量制御に用いるアクチュエータは、トラクション伝動容量制御力の最も大きな上記ピーク値を賄い得る出力特性をもったものであるを要する。
このため、トラクション伝動容量制御に費やされるエネルギーが多くなって、効率が悪くなるだけでなく、アクチュエータが大型化してコスト上も不利である。
【0008】
本発明は、上記したローラの旋回を助勢する手段を追加することにより、トラクション伝動容量制御力のピーク値を無くしたり、小さくすることで、トラクション伝動容量制御用のエネルギーを少なくして、エネルギー効率の悪化を回避し得ると共に、トラクション伝動容量制御アクチュエータの小型化を実現してコスト上の不利益を回避し得るようにした摩擦伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明による摩擦伝動装置は、これを以下のごとくに構成する。
先ず前提となる摩擦伝動装置を説明するに、これは、
複数のローラを相互に径方向に押圧接触させてトラクション伝動が可能なように構成され、上記ローラのうち少なくとも1個のローラを、該ローラの回転軸線から偏心した軸線の周りに旋回させることにより、該旋回ローラに係わるローラ間径方向押圧接触力を加減してトラクション伝動容量を制御可能なものである。
【0010】
本発明は、かかる摩擦伝動装置に対し、以下のようなローラ旋回アシスト手段を設けた構成に特徴づけられる。
このローラ旋回アシスト手段は、上記旋回ローラが上記ローラ間径方向押圧接触力を発生し始めて該ローラ間径方向押圧接触力を最大にする旋回中、該ローラの旋回を助勢するものである。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明による摩擦伝動装置にあっては、ローラ間径方向押圧接触力を発生し始めて該ローラ間径方向押圧接触力を最大にするローラ旋回中、該ーラの旋回を助勢するため、
この助勢分だけ、ローラの旋回に必要なトラクション伝動容量制御力を小さくすることができ、トラクション伝動容量制御力のピーク値も同様に低下させ得る。
【0012】
よって、トラクション伝動容量制御用のエネルギーを少なくして、エネルギー効率の悪化を回避し得ると共に、トラクション伝動容量制御アクチュエータの小型化を実現してコスト上の不利益を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例になる摩擦伝動装置をトランスファーとして具える四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【図2】図1における摩擦伝動装置の縦断側面図である。
【図3】図2の摩擦伝動装置で用いたベアリングサポートを示し、 (a)は、ベアリングサポートを摩擦伝動装置のハウジングと共に示す正面図、 (b)は、ベアリングサポートを単体で示す縦断側面図である。
【図4】図2の摩擦伝動装置で用いたクランクシャフトの縦断正面図である。
【図5】図2に示す摩擦伝動装置の動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が0°である時における第1ローラおよび第2ローラの離間状態を示す動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が180°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図である。
【図6】図2に示した摩擦伝動装置のクランクシャフト回転角に対する各部トルクの変化特性を示す特性線図で、 (a)は、クランクシャフト回転角に対するクランクシャフト回転反力の変化特性を示す特性線図、 (b)は、クランクシャフト回転角に対するローラ旋回アシストトルクの変化特性を示す特性線図、 (c)は、クランクシャフト回転角に対するクランクシャフト駆動トルクの変化特性を示す特性線図である。
【図7】図2に示した摩擦伝動装置内におけるローラ旋回アシスト機構の原理説明に用いた概略正面図である。
【図8】図7に示したローラ旋回アシスト機構の動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が0°の時におけるローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°の時におけるローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が135°の時におけるローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (d)は、クランクシャフト回転角が180°の時におけるローラ旋回アシスト機構の動作説明図である。
【図9】本発明の第2実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構を示す動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が0°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が135°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (d)は、クランクシャフト回転角が180°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図である。
【図10】本発明の第3実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構を示す概略正面図である。
【図11】図10に示すローラ旋回アシスト機構を具えた第3実施例になる摩擦伝動装置のクランクシャフト回転角に対する各部トルクの変化特性を示す特性線図で、 (a)は、クランクシャフト回転角に対するクランクシャフト回転反力の変化特性を示す特性線図、 (b)は、クランクシャフト回転角に対するローラ旋回アシストトルクの変化特性を示す特性線図、 (c)は、クランクシャフト回転角に対するクランクシャフト駆動トルクの変化特性を示す特性線図である。
【図12】本発明の第4実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構を、クランクシャフト回転角が0°である時の状態で示し、 (a)は、当該ローラ旋回アシスト機構の縦断側面図、 (b)は、当該ローラ旋回アシスト機構の縦断正面図である。
【図13】図12に示す本発明の第4実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構を、クランクシャフト回転角が90°である時の状態で示し、 (a)は、当該ローラ旋回アシスト機構の縦断側面図、 (b)は、当該ローラ旋回アシスト機構の縦断正面図である。
【図14】図12,13に示したローラ旋回アシスト機構の動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が0°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が135°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図、 (d)は、クランクシャフト回転角が180°の時における当該ローラ旋回アシスト機構の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる摩擦伝動装置1をトランスファーとして具える四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【0015】
図1の四輪駆動車両は、エンジン2からの回転を変速機3による変速後、リヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5を経て左右後輪6L,6Rに伝達される後輪駆動車をベース車両とし、
これら左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を、摩擦伝動装置1により、フロントプロペラシャフト7およびフロントファイナルドライブユニット8を経て左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ伝達することにより、四輪駆動走行が可能となるようにした車両である。
【0016】
摩擦伝動装置1は、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配して出力することにより、左右後輪(主駆動輪)6L,6Rおよび左右前輪(従駆動輪)9L,9R間の駆動力配分比を決定するもので、本実施例においては、この摩擦伝動装置1を図2に示すように構成する。
【0017】
図2において、11はハウジングを示し、このハウジング11内に入力軸12および出力軸13を相互に平行に配して横架する。
入力軸12は、その両端におけるボールベアリング14,15によりハウジング11に対し軸線O1の周りで自由に回転し得るよう支持する。
【0018】
入力軸12は更に、ローラベアリング18,19を介しベアリングサポート23,25に対しても回転自在に支持する。
このためベアリングサポート23,25にはそれぞれ、図3(a),(b)に示すごとくローラベアリング18,19が嵌合するための開口23a,25aを設ける。
これらベアリングサポート23,25はそれぞれ、入出力軸12,13の共通な回転支持板であり、図2に示すごとくハウジング11の対応する内側面11b,11cに接触させてハウジング11内に配置するが、これらハウジング内側面11b,11cに対し固着させないこととする。
【0019】
入力軸12の両端をそれぞれ図2に示すごとく、シールリング27,28による液密封止下でハウジング11から突出させ、
該入力軸12の図中左端を変速機3(図1参照)の出力軸に結合し、図中右端をリヤプロペラシャフト4(図1参照)を介してリヤファイナルドライブユニット5に結合する。
【0020】
入力軸12の軸線方向中程には、第1ローラ31を同心に一体成形して設け、
出力軸13の軸線方向中程には、第2ローラ32を同心に一体成形して設け、これら第1ローラ31および第2ローラ32を共通な軸直角面内に配置する。
【0021】
出力軸13は、以下のような構成によりハウジング11に対し間接的に回転自在に支持する。
つまり、出力軸13の軸線方向中程に一体成形した第2ローラ32の軸線方向両側に配置して、出力軸13の両端部に中空のクランクシャフト51L,51Rを遊嵌する。
これらクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra(半径をRiで図示した)と、出力軸13の両端部外周との間に軸受52L,52Rを介在させることにより、出力軸13をクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra内において、これら中心孔51La,51Raの中心軸線O2の周りに自由に回転し得るよう支持する。
【0022】
クランクシャフト51L,51Rには図4に明示するごとく、中心孔51La,51Ra(中心軸線O2)に対し偏心した外周部51Lb,51Rb(半径をRoで図示した)を設定し、これら偏心外周部51Lb,51Rbの中心軸線O3は中心孔51La,51Raの軸線O2(第2ロータ32の回転軸線)から、両者間の偏心分εだけオフセットしている。
クランクシャフト51L,51Rの偏心外周部51Lb,51Rbはそれぞれ図2に示すごとく、軸受53L,53Rを介して対応する側におけるベアリングサポート23,25内に回転自在に支持する。
このためベアリングサポート23,25にはそれぞれ、図3(a),(b)に示すごとく軸受53L,53Rが嵌合するための開口23b,25bを設ける。
【0023】
ベアリングサポート23,25は、前記した通り入出力軸12,13の共通な回転支持板であるが、これら入出力軸12,13がそれぞれ第1ローラ31および第2ローラ32を一体に有することから、第1ローラ31および第2ローラ32の共通な回転支持板でもある。
そしてベアリングサポート23,25は、図2,3に示すように、入力軸12を挟んで出力軸13から遠い側におけるハウジング11の内壁11aに接触せず、且つ、図3に示すように、出力軸13を挟んで入力軸12から遠い側におけるハウジング11の内壁11dにも接触しない大きさとする。
【0024】
ベアリングサポート23,25は更に、図3に示すように、入力軸12(第1ローラ31)の軸線O1周りにおける揺動を防止するための突起23c,25cおよび23d,25dを設け、これら突起23c,25cおよび23d,25dを、対応するハウジング内側面11e,11fに設けたガイド溝11g,11hの底面に当接させる。
ガイド溝11g,11hは図3(a)に示すごとく、ベアリングサポート23,25に設けた開口23b,25bの接線方向に細長い形状とし、これにより同方向における突起23c,25cの変位を拘束しないようにする。
【0025】
前記のごとくにしてベアリングサポート23,25に回転自在に支持したクランクシャフト51L,51Rはそれぞれ、図2に示すように第2ローラ32と共に、スラストベアリング54L,54Rで、ベアリングサポート23,25間に軸線方向位置決めする。
【0026】
図2に示すように、クランクシャフト51L,51Rの相互に向き合う隣接端にそれぞれ、偏心外周部51Lb,51Rbと同心のリングギヤ51Lc,51Rcを一体に設け、これらリングギヤ51Lc,51Rcをそれぞれ同仕様のものとする。
リングギヤ51Lc,51Rcには、共通なクランクシャフト駆動ピニオン55を噛合させ、この噛合に当たっては、クランクシャフト51L,51Rを両者の偏心外周部51Lb,51Rbが円周方向において相互に整列する回転位置にした同期状態で、クランクシャフト駆動ピニオン55をリングギヤ51Lc,51Rcに噛合させる。
【0027】
クランクシャフト駆動ピニオン55はピニオンシャフト56に結合し、ピニオンシャフト56の両端を軸受56a,56bによりハウジング11に回転自在に支持する。
図2の右側におけるピニオンシャフト56の右端を、液密封止してハウジング11の外に露出させ、
該ピニオンシャフト56の露出端面には、ハウジング11に取着して設けたローラ間押し付け力制御モータ45の出力軸45aをセレーション嵌合などにより駆動結合する。
【0028】
よって、ローラ間押し付け力制御モータ45によりピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御するとき、出力軸13および第2ローラ32の回転軸線O2が図4に破線で示す軌跡円γに沿って旋回する。
図4の軌跡円γに沿った回転軸線O2(第2ローラ32)の旋回により、第2ローラ32が図5(a)〜(c)に示すごとく第1ローラ31に対し径方向へ接近する。
【0029】
しかして本実施例では、図5(a)に示すように、第2ローラ回転軸線O2がクランクシャフト回転軸線O3の直下に位置し、第1ローラ31および第2ローラ32の軸間距離L1が最大となる、クランクシャフト51L,51Rの回転角θ=0°の下死点でのローラ軸間距離L1を、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも大きくし、この関係を、クランクシャフト回転角θが図5(b)に示すごとく90°になって、第2ローラ32が第1ローラ31に接触し始めるまで維持するよう構成する。
これにより当該クランクシャフト回転角範囲θ=0°〜90°においては、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に径方向へ押し付けられることがなく、ローラ31,32間でトラクション伝動が行われないトラクション伝動容量=0の状態を得ることとする。
【0030】
クランクシャフト回転角θが図5(b)に示すごとく90°になるとき、第2ローラ32が第1ローラ31に接触し始め、これらローラ31,32間の径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量)に応じたトラクション伝動容量で左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力伝達が行われる。
そして、クランクシャフト回転角θが90°から増大するにつれ、ローラ軸間距離L1が、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも更に小さくなる結果、第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押圧力(トラクション伝動容量)が大きくなり、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力分配が多くなる。
【0031】
図5(c)に示すごとく第2ローラ回転軸線O2がクランクシャフト回転軸線O3の直上に位置し、第1ローラ31および第2ローラ32の軸間距離L1が最小となる、クランクシャフト回転角θ=180°の上死点で、第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押圧力(トラクション伝動容量)が最大となり、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力分配を最大にすることができる。
よって、クランクシャフト回転角θ=90°〜180°がトラクション伝動容量制御を行う使用領域で、この領域においてクランクシャフト回転角θを制御することにより、トラクション伝動容量を0と最大値との間で任意に制御することができる。
【0032】
クランクシャフト51Lおよび出力軸13をそれぞれ図2の左側においてハウジング11から突出させ、該突出部においてハウジング11およびクランクシャフト51L間にシールリング57を介在させると共に、クランクシャフト51L および出力軸13間にシールリング58を介在させ、
これらシールリング57,58により、ハウジング11から突出するクランクシャフト51Lおよび出力軸13の突出部をそれぞれ液密封止する。
【0033】
なおシールリング55,56の介在に際しては、これらシールリング55,56を位置させるクランクシャフト51Lの端部においてその内径と外径の中心を、出力軸13の支持位置と同様に偏心させ、
クランクシャフト51Lの上記端部外径とハウジング11との間にシールリング55を介在させ、クランクシャフト51Lの上記端部内径と出力軸13との間にシールリング56を介在させる。
かかるシール構造によれば、出力軸13および第2ローラ32の上記旋回によりその回転軸線O2が旋回変位するにもかかわらず、出力軸13をハウジング11から突出する箇所において良好にシールし続けることができる。
【0034】
<駆動力配分作用>
上記した図1〜5に示す実施例の駆動力配分を以下に説明する。
変速機3(図1参照)から摩擦伝動装置1の入力軸12に達したトルクは、一方でこの入力軸12からそのままリヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5(ともに図1参照)を順次経て左右後輪6L,6R(主駆動輪)に伝達され、これら左右後輪6L,6Rの駆動に供される。
【0035】
他方で本実施例の摩擦伝動装置1は、ローラ間押し付け力制御モータ45によりピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御し、ローラ軸間距離L1を第1ローラ31および第2ローラ32の半径の和値よりも小さくすることにより、ローラ31,32を径方向に相互に押圧接触させている場合、
これらローラ31,32が径方向相互押圧力に応じたトラクション伝動容量を持つことから、このトルク容量に応じて、左右後輪6L,6R(主駆動輪)へのトルクの一部を、第1ローラ31から第2ローラ32を経て出力軸13に向かわせることができる。
【0036】
なお、この伝動中における第1ローラ31および第2ローラ32間の径方向押圧反力は、これらに共通な回転支持板であるベアリングサポート23,25で受け止められるため、ハウジング11に伝達されることがない。
従ってハウジング11を、第1ローラ31および第2ローラ32間の径方向押圧反力に抗し得るほど高強度に造る必要がなくて、重量的およびコスト的に不利になるのを回避することができる。
【0037】
その後トルクは、出力軸13の図2中左端から、フロントプロペラシャフト7(図1参照)およびフロントファイナルドライブユニット8(図1参照)を経て左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ伝達され、これら左右前輪9L,9Rの駆動に供される。
かくして車両は、左右後輪6L,6R(主駆動輪)および左右前輪9L,9R(従駆動輪)の全てを駆動しての四輪駆動走行が可能である。
【0038】
<トラクション伝動容量制御>
上記の四輪駆動走行に際し、クランクシャフト51L,51Rの回転角θが図5(b)に示すごとく90°であって、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に摩擦接触し始めるとき、これらローラ31,32間における径方向押圧力に対応したトラクション伝動容量で左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力伝達が開始される。
【0039】
そして、クランクシャフト51L,51Rを図5(b)に示すθ=90°の回転位置から、図5(c)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の上死点に向け回転させてクランクシャフト回転角θを増大させると、
ローラ軸間距離L1が更に減少して第1ローラ31および第2ローラ32の相互オーバーラップ量が増大する結果、第1ローラ31および第2ローラ32は径方向相互押圧力を増大され、これらローラ31,32間のトラクション伝動容量を増大させ、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの駆動力配分を増やすことができる。
【0040】
クランクシャフト51L,51Rが図5(c)の上死点位置(θ=180°)に達すると、第1ローラ31および第2ローラ32は相互に、最大のオーバーラップ量に対応した径方向最大押圧力で径方向へ押し付けられて、これらの間のトラクション伝動容量を最大にすることができる。
【0041】
以上の説明から明らかなように、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=90°の回転位置から、クランクシャフト回転角θ=180°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの増大につれ、ローラ間トラクション伝動容量を0から最大値まで連続変化させることができ、
逆に、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=180°の回転位置から、θ=90°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの低下につれ、ローラ間トラクション伝動容量を最大値から0まで連続変化させることができ、
ローラ間トラクション伝動容量をクランクシャフト51L,51Rの回転操作により自在に制御し得る。
【0042】
<ローラ間押し付け力制御モータの駆動エネルギー節約対策>
図6(a)は、クランクシャフト回転角θに対するクランクシャフト51L,51Rの回転反力変化特性を例示する。
トラクション伝動容量制御を行うクランクシャフト回転角θの使用領域(θ=90°〜180°)について考察するに、
この使用領域(θ=90°〜180°)では、クランクシャフト回転角θを90°から180°に増大させて第2ローラ32を図5(b)の位置から軸線O3の周りで同図(c)の位置に旋回させる間(ローラ間径方向押圧力が0から最大値になるまでのローラ旋回中)、第2ローラ32の旋回反力(トラクション伝動容量制御力)によってクランクシャフト51L,51Rには以下のようなクランクシャフト回転反力、つまり図6(a)に示すごとく前半のローラ旋回領域(θ=90°〜135°)で0°から漸増してピーク値に達し、後半のローラ旋回領域(θ=135°〜180°)でピーク値から漸減して0°になるクランクシャフト回転反力が作用する。
つまりクランクシャフト回転反力(トラクション伝動容量制御力)は、上記のローラ旋回中、正弦波形状の変化を呈する。
【0043】
しかしてトラクション伝動容量制御に用いるアクチュエータであるローラ間押し付け力制御モータ45は、クランクシャフト回転反力(トラクション伝動容量制御力)の最も大きな上記ピーク値を賄い得る出力特性をもったものである必要がある。
このため、トラクション伝動容量制御に費やされるエネルギーが多くなって、効率が悪くなるだけでなく、ローラ間押し付け力制御モータ45が大型化してコスト上も不利である。
【0044】
本実施例は、このような問題を解消するため図2,7に示すごとく、以下のような構成のローラ旋回アシスト機構(ローラ旋回アシスト手段)を摩擦伝動装置1に付加する。
【0045】
つまり、クランクシャフト51Lから遠いクランクシャフト51Rの外端面に、これと共に回転するローラ旋回アシストディスク61を取着して設ける。
このローラ旋回アシストディスク61にはピン62を軸線方向に突出させて設け、このピン62を、本発明における特定オフセット部分として機能すべくローラ旋回中心O3からオフセットさせて配置する。
そして、クランクシャフト51Rが図7に示すクランクシャフト回転角θ=0°の位置から、同図において時計方向へθ=180°の位置まで回転する間、ピン62の径方向変位に応動して平行移動する中間メンバ63を設ける。
【0046】
中間メンバ63の両端と、ハウジング11との間にそれぞれ、中間メンバ63の上記平行移動に伴って直線的に弾性変形される線状弾性体としてのコイルバネ64,65を介在させ、これらコイルバネ64,65はローラ旋回中心O3の両側に位置するよう配置する。
そしてコイルバネ64,65はそれぞれ、オクランクシャフト51Rが図7に示すクランクシャフト回転角θ=0°の位置であるとき、弾性変形されていない自由状態となっており、
クランクシャフト51Rが図7において時計方向へ回転することでクランクシャフト回転角θが0°から90°へと増大する間、コイルバネ64,65はそれぞれ等しく圧縮され、
クランクシャフト回転角θが90°から180°へ更に増大する間、コイルバネ64,65はそれぞれ等しく伸張されて、図7の自由状態に戻るものとする。
【0047】
上記したローラ旋回アシスト機構の作用を、図8(a)〜(d)に基づき以下に詳述する。
図8(a)は、図7と同じく、クランクシャフト回転角θが0°の時の状態を示し、コイルバネ64,65が弾性変形していない自由状態であるため、コイルバネ64,65のバネ反力が0であり、このバネ反力が中間メンバ63およびピン62を介してクランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3周りに作用するトルク(ローラ旋回アシストトルク)も0である。
【0048】
図8(a)に示すクランクシャフト回転角θ=0°の状態から、図8(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の状態にする間、ピン62はその変位によって中間メンバ63を、図8(a)の位置から図8(b)の位置へと平行移動させる。
これにより中間メンバ63は、その両端におけるコイルバネ64,65を等しく直線的に圧縮させ、両者のバネ反力が0から漸増する。
【0049】
当該コイルバネ64,65のバネ反力は、中間メンバ63およびピン62を介して、ピン62と、クランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3との間のアーム長に作用し、クランクシャフト51Rをその中心(ローラ旋回中心)O3周りに回転させようとするローラ旋回アシストトルクを生じさせ、このローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=0°〜90°領域に示すような正弦波形状に変化する。
なお図8(b)に示すθ=90°のとき、コイルバネ64,65の圧縮量(バネ反力)が最大になるが、このとき、バネ反力が図8(b)に示すごとくクランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3に向かうことから、上記のアーム長が0となって、ローラ旋回アシストトルクも図6(b)に示すように0となる。
【0050】
図8(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の状態から、図8(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の状態にする間、ピン62はその変位によって中間メンバ63を、図8(b)の位置から図8(c)の位置へと戻り方向へ平行移動させる。
これにより中間メンバ63は、その両端におけるコイルバネ64,65の圧縮量を等しく減じ、両者のバネ反力を最大値から漸減させる。
【0051】
ところでピン62の上記変位中、コイルバネ64,65のバネ反力が作用する、ピン62と、クランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3との間のアーム長は、図8(b)および図8(c)の比較から明らかなように、これら図の左方向へ増大するため、コイルバネ64,65のバネ反力がクランクシャフト51Rをその中心(ローラ旋回中心)O3周りに回転させようとするローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=90°〜135°領域に示すような正弦波形状に漸増する。
【0052】
図8(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の状態から、図8(d)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の状態にする間、ピン62はその変位によって中間メンバ63を、図8(c)の位置から図8(d)の位置へと更に戻り方向へ平行移動させ、図8(a)に示すクランクシャフト回転角θ=0°のときと同じ位置に復帰させる。
これにより中間メンバ63は、その両端におけるコイルバネ64,65の圧縮量を更に減じて、遂には0となし、両者のバネ反力を0まで更に漸減させる。
【0053】
以上のことから、当該コイルバネ64,65のバネ反力が、ピン62と、クランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3との間のアーム長に作用して生じさせる、クランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=135°〜180°領域に示すような正弦波形状をもって漸減する。
【0054】
ところでクランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、図8(a)のθ=0°から図8(b)のθ=90°までの間、上記のアーム長がローラ旋回中心O3から図8の右側に発生するため、第2ローラ32の旋回方向と逆方向のものであるのに対し、
図8(b)のθ=90°から図8(d)のθ=180°までの間は、上記のアーム長がローラ旋回中心O3から図8の左側に発生するため、クランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、第2ローラ32の旋回方向と同方向のものとなり、ローラ間押し付け力制御モータ45が第1ローラ32に対する第2ローラ32の押し付け力(トラクション伝動容量)を増大させている間、これを助勢するよう機能する。
【0055】
一方、トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク、つまりローラ間押し付け力制御モータ45の駆動電流は、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力と、図6(b)に示すローラ旋回アシストトルクとの和値であり、図6(c)に示すごときものとなる。
ところで、トラクション伝動容量制御を行うべきクランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域では、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力の正弦波形と、図6(b)に示すローラ旋回アシストトルクの正弦波形とが逆向きであることから、
トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク(ローラ間押し付け力制御モータ45のモータ駆動電流)を、使用領域(θ=90°〜180°)において図6(c)に示すごとく略0にすることができる。
【0056】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例になる摩擦伝動装置によれば、クランクシャフト回転角θ=90°によりローラ間径方向押圧接触力を発生し始めて、クランクシャフト回転角θ=180°によりローラ間径方向押圧接触力を最大にする第2ローラ32の旋回中、つまりトラクション伝動容量制御を行うべきクランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域で、クランクシャフト51L,51Rによる第2ローラ32の旋回を図6(b)のローラ旋回アシストトルクにより助勢するため、
この助勢分だけ、第2ローラ32の旋回に必要なトラクション伝動容量制御力、つまりクランクシャフト駆動トルク(モータ45の駆動電流)を図6(c)に示すようにクランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域で小さくすることができる。
【0057】
よって、トラクション伝動容量制御用のモータ駆動エネルギーを少なくして、エネルギー効率の悪化を回避し得ると共に、トラクション伝動容量制御を司るモータ45の小型化を実現してコスト上の不利益を回避することができる。
【0058】
また本実施例においては特に、クランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域で、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力の正弦波形に対し、ローラ旋回アシストトルクが図6(b)に示すごとく真逆の正弦波形となるよう構成したため、
トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク(ローラ間押し付け力制御モータ45のモータ駆動電流)を、使用領域(θ=90°〜180°)において図6(c)に示すごとく略0にして、ピーク値が存在しないようにすることができ、上記の効果を一層顕著なものにし得る。
【0059】
<第2実施例>
図9は、本発明の第2実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構(ローラ旋回アシスト手段)を示し、本実施例においても、第1実施例におけると同様なローラ旋回アシストディスク61をクランクシャフト51Rの外端面に取着する。
而して、このローラ旋回アシストディスク61に突設するピン62は、ローラ旋回中心O3からオフセットさせるも、第1実施例における場合よりも90°だけ位相を進めて配置する。
そして、当該ピン62とハウジング11との間に、直線的に弾性変形される線状弾性体としてのコイルバネ66を介在させる。
【0060】
このコイルバネ66は、クランクシャフト51R(ローラ旋回アシストディスク61)が図9(a)に示すクランクシャフト回転角θ=0°の位置にあるとき、弾性変形されていない自由状態となっているものとする。
そして、クランクシャフト51R(ローラ旋回アシストディスク61)が、図9(a)に示すクランクシャフト回転角θ=0°の位置から、図9(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の位置に回転する間、コイルバネ66は伸張されて最大長さになるものとする。
【0061】
クランクシャフト51R(ローラ旋回アシストディスク61)が、図9(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の位置から、図9(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の位置に回転する間、コイルバネ66は伸張量を漸減され、
クランクシャフト51R(ローラ旋回アシストディスク61)が、図9(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の位置から、図9(d)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の位置に回転する間、コイルバネ66は伸張量を更に漸減されて、遂には0になるものとする。
【0062】
<第2実施例の作用・効果>
上記したローラ旋回アシスト機構の作用および効果を、図9(a)〜(d)に基づき以下に詳述する。
図9(a)は、クランクシャフト回転角θが0°の時の状態を示し、コイルバネ66が弾性変形していない自由状態であるため、コイルバネ66のバネ反力が0であり、このバネ反力がピン62を介してクランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3周りに作用するトルク(ローラ旋回アシストトルク)も0である。
【0063】
図9(a)に示すクランクシャフト回転角θ=0°の状態から、図9(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の状態にする間、ピン62はその変位によってコイルバネ66を伸張方向に弾性変形させ、そのバネ反力を0から漸増させる。
【0064】
当該コイルバネ66のバネ反力は、ピン62を介して、ピン62と、クランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3との間のアーム長に作用し、クランクシャフト51Rをその中心(ローラ旋回中心)O3周りに回転させようとするローラ旋回アシストトルクを生じさせ、このローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=0°〜90°領域に示すような正弦波形状に変化する。
なお図9(b)に示すθ=90°のとき、コイルバネ66の伸張量(バネ反力)が最大になるが、このとき、バネ反力が図9(b)に示すごとくクランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3に向かうことから、上記のアーム長が0となって、ローラ旋回アシストトルクも図6(b)に示すように0となる。
【0065】
図9(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の状態から、図9(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の状態にする間、ピン62はその変位によってコイルバネ66の伸張量を減じられ、そのバネ反力を最大値から漸減される。
【0066】
ところでピン62の上記変位中、コイルバネ66のバネ反力が作用する、ピン62と、クランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3との間のアーム長は、図9(b)および図9(c)の比較から明らかなように、これら図の上方向へ増大するため、コイルバネ66のバネ反力がクランクシャフト51Rをその中心(ローラ旋回中心)O3周りに回転させようとするローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=90°〜135°領域に示すような正弦波形状に漸増する。
【0067】
図9(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の状態から、図9(d)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の状態にする間、ピン62はその変位によってコイルバネ66の伸張量を更に減じて、遂には0となし(コイルバネ66を当初の弾性変形されない自由状態に復帰させ)、そのバネ反力を0まで更に漸減させる。
【0068】
これにより、当該コイルバネ66のバネ反力が、ピン62と、クランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3との間のアーム長に作用して生じさせる、クランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=135°〜180°領域に示すような正弦波形状をもって漸減する。
【0069】
ところでクランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、図9(a)のθ=0°から図9(b)のθ=90°までの間、上記のアーム長がローラ旋回中心O3から図9の下側に発生するため、第2ローラ32の旋回方向と逆方向のものであるのに対し、
図9(b)のθ=90°から図9(d)のθ=180°までの間は、上記のアーム長がローラ旋回中心O3から図9の上側に発生するため、クランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、第2ローラ32の旋回方向と同方向のものとなり、ローラ間押し付け力制御モータ45が第1ローラ32に対する第2ローラ32の押し付け力(トラクション伝動容量)を増大させている間、これを助勢するよう機能する。
【0070】
一方、トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク、つまりローラ間押し付け力制御モータ45の駆動電流は、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力と、図6(b)に示すローラ旋回アシストトルクとの和値であり、図6(c)に示すごときものとなる。
ところで、トラクション伝動容量制御を行うべきクランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域では、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力の正弦波形と、図6(b)に示すローラ旋回アシストトルクの正弦波形とが逆向きであって、トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク(ローラ間押し付け力制御モータ45のモータ駆動電流)を、この使用領域(θ=90°〜180°)において図6(c)に示すごとく略0にすることができ、第2実施例でも前記した第1実施例と同様な効果を奏し得る。
【0071】
第2実施例では更に、1個の引っ張りバネ形式のコイルバネ66のみで第1実施例と同様な効果が達成されるようにしたため、線状弾性体が1個のみでよいと共に、第1実施例における中間メンバ63を必要とせず、コスト上大いに有利であるという効果をも奏し得る。
【0072】
<第3実施例>
図10は、本発明の第3実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構(ローラ旋回アシスト手段)を示す。
本実施例においては、クランクシャフト51L,51Rを回転位置制御して第2ローラ32の旋回位置(トラクション伝動容量)を制御するローラ旋回操作系を成すピニオンシャフト56(図2参照)と、ハウジング11との間に、螺旋状弾性体としての螺旋バネ67を設ける。
【0073】
この螺旋バネ67は、クランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域で、図11(a)に示すクランクシャフト回転反力の正弦波形に対し、図11(b)に示すリニヤ特性のローラ旋回アシストトルクを発生させるプリロードを持つよう、回転方向に弾性変形させた状態で、ピニオンシャフト56およびハウジング11間に設けることとする。
【0074】
<第3実施例の効果>
かくして本実施例においては、トラクション伝動容量制御を行うべきクランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域で、図11(a)に示すクランクシャフト回転反力の正弦波形と、図11(b)に示すローラ旋回アシストトルクのリニヤ特性との和値である、トラクション伝動容量制御中のピニオンシャフト駆動トルク(ローラ間押し付け力制御モータ45のモータ駆動電流)を、図11(c)に示すごとくピーク値が極小さなものにすることができる。
従って本実施例においても、前記した第1,2実施例と同様、トラクション伝動容量制御用のモータ駆動エネルギーを少なくして、エネルギー効率の悪化を回避し得ると共に、トラクション伝動容量制御を司るモータ45の小型化を実現してコスト上の不利益を回避することができる。
【0075】
本実施例においては更に、ローラ旋回操作系を成すピニオンシャフト56のような既存の回転部品とハウジング11との間に螺旋バネ67を介挿して追加するだけで上記の効果が達成されるようにしたため、第1実施例や第2実施例よりも少ない部品の追加のみで同様な効果が得られて、コスト的に大いに有利である。
【0076】
<第4実施例>
図12および図13はそれぞれ、本発明の第2実施例になる摩擦伝動装置のローラ旋回アシスト機構(ローラ旋回アシスト手段)を、クランクシャフト回転角θが0°の場合と、90°の場合とにつき示し、
本実施例においても図12(a)および図13(a)に示すように、第1実施例および第2実施例におけると同様なローラ旋回アシストディスク61をクランクシャフト51Rの外端面に取着する。
【0077】
そして、当該ローラ旋回アシストディスク61の外周に偏心カム68を嵌着し、この偏心カム68は図12(b)および図13(b)に示すごとく、その中心O4を、第2ローラ32(出力軸13)の旋回中心O3に対し、第2ローラ回転軸線Oと位相が第2ローラ旋回方向遅れ側に90°ずれた位置へ偏心させる(半径をRcで示す)。
また図14(a)〜(d)に示すごとく、偏心カム68との共働により、前記各実施例と同様に第2ローラ32の旋回を助勢するためのローラ旋回アシストトルクを生起させるカム反力受け69を設ける。
【0078】
このカム反力受け69は上記の目的のため、偏心カム68の外周カム面と向かい合った円弧状の外周面69aを具え、クランクシャフト回転角θが90°となる図14(b)の状態で、偏心カム68の外周カム面に最も近い円弧状外周面69aの箇所が、偏心カム68の中心O4と第2ローラ旋回軸線O3とを結ぶ延長線上に位置するよう取着する。
【0079】
なおカム反力受け69は、かかる要件を満足するものであれば、固定物であっても回転体であってもよく、いずれにしても当該構成および配置により、クランクシャフト回転角θが90°となる図14(b)の状態で、同図に矢印により示すごとく偏心カム68の中心O4に向かうカム反力を第2ローラ旋回軸線O3に指向させることができる。
【0080】
またカム反力受け69は、クランクシャフト回転角θが0°となる図14(a)の状態で、偏心カム68の外周カム面に最も近い円弧状外周面69aの箇所が、偏心カム68の外周カム面に接触し始めるよう、円弧状外周面69aを形成する。
【0081】
<第4実施例の作用・効果>
上記したローラ旋回アシスト機構の作用および効果を、図14(a)〜(d)に基づき以下に詳述する。
図14(a)は、図12と同じくクランクシャフト回転角θが0°の時の状態を示し、偏心カム68の外周カム面がカム反力受け69の円弧状外周面69aに接触し始めたところであり、カム反力受け69から偏心カム68の中心O4に向かうカム反力は0である。
従って、このカム反力が偏心カム68の中心O4および第2ローラ旋回軸線O3間のアーム長に作用して、クランクシャフト51Rに付与するローラ旋回アシストトルクも0である。
【0082】
図14(a)に示すクランクシャフト回転角θ=0°の状態から、図14(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の状態(図13と同じ状態)にする間、偏心カム68の外周カム面がカム反力受け69の円弧状外周面69aに接触する力が漸増し、カム反力受け69から偏心カム68の中心O4に向かうカム反力が0から漸増する。
【0083】
当該カム反力は、偏心カム68の中心O4および第2ローラ旋回軸線O3間のアーム長に作用して、クランクシャフト51Rをその中心(ローラ旋回中心)O3周りに回転させようとするローラ旋回アシストトルクを生じさせ、このローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=0°〜90°領域に示すような正弦波形状に変化する。
なお図14(b)に示すθ=90°のとき、偏心カム68の外周カム面と、カム反力受け69の円弧状外周面69aとの間の接触力(偏心カム68の中心O4に向かうカム反力)が最大になるが、このとき、カム反力が図14(b)に矢印で示すごとくクランクシャフト51Rの中心(ローラ旋回中心)O3に向かうことから、上記のアーム長が0となって、ローラ旋回アシストトルクも図6(b)に示すように0となる。
【0084】
図14(b)に示すクランクシャフト回転角θ=90°の状態から、図14(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の状態にする間、これに伴って回転する偏心カム68の外周カム面とカム反力受け69の円弧状外周面69aとの間の接触力が最大値から漸減し、カム反力受け69から偏心カム68の中心O4に向かうカム反力も最大値から漸減する。
【0085】
ところで偏心カム68の上記回転中、カム反力が作用する偏心カム68の中心O4と、ローラ旋回中心O3との間のアーム長が、図14(b)および図14(c)の比較から明らかなように、これら図の左方向へ増大するため、カム反力がクランクシャフト51Rをその中心(ローラ旋回中心)O3周りに回転させようとするローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=90°〜135°領域に示すような正弦波形状に漸増する。
【0086】
図14(c)に示すクランクシャフト回転角θ=135°の状態から、図14(d)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の状態にする間、これに伴って回転する偏心カム68の外周カム面とカム反力受け69の円弧状外周面69aとの間の接触力が更に漸減して、遂には0となり、カム反力受け69から偏心カム68の中心O4に向かうカム反力も0まで更に漸減される。
【0087】
これにより当該カム反力が、偏心カム68の中心O4と、ローラ旋回中心O3との間のアーム長に作用して生じさせる、クランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、図6(b)のθ=135°〜180°領域に示すような正弦波形状をもって漸減する。
【0088】
ところでクランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、図14(a)のθ=0°から図14(b)のθ=90°までの間、上記のアーム長がローラ旋回中心O3から図14の右側に発生するため、第2ローラ32の旋回方向と逆方向のものであるのに対し、
図14(b)のθ=90°から図14(d)のθ=180°までの間は、上記のアーム長がローラ旋回中心O3から図14の左側に発生するため、クランクシャフト51Rへのローラ旋回アシストトルクは、第2ローラ32の旋回方向と同方向のものとなり、ローラ間押し付け力制御モータ45が第1ローラ32に対する第2ローラ32の押し付け力(トラクション伝動容量)を増大させている間、これを助勢するよう機能する。
【0089】
一方、トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク、つまりローラ間押し付け力制御モータ45の駆動電流は、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力と、図6(b)に示すローラ旋回アシストトルクとの和値であり、図6(c)に示すごときものとなる。
ところで、トラクション伝動容量制御を行うべきクランクシャフト回転角θ=90°〜180°の使用領域では、図6(a)に示すクランクシャフト回転反力の正弦波形と、図6(b)に示すローラ旋回アシストトルクの正弦波形とが逆向きであって、トラクション伝動容量制御中のクランクシャフト駆動トルク(ローラ間押し付け力制御モータ45のモータ駆動電流)を、この使用領域(θ=90°〜180°)において図6(c)に示すごとく略0にすることができ、第1実施例および第2実施例と同様な作用および効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0090】
1 摩擦伝動装置
2 エンジン
3 変速機
4 リヤプロペラシャフト
5 リヤファイナルドライブユニット
6L,6R 左右後輪(主駆動輪)
7 フロントプロペラシャフト
8 フロントファイナルドライブユニット
9L,9R 左右前輪(従駆動輪)
11 ハウジング
12 入力軸
13 出力軸
18,19 ローラベアリング
23,25 ベアリングサポート
31 第1ローラ
32 第2ローラ(旋回ローラ)
45 ローラ間押し付け力制御モータ
51L,51R クランクシャフト
51Lc,51Rc リングギヤ
55 クランクシャフト駆動ピニオン
56 ピニオンシャフト
61 ローラ旋回アシストディスク(ローラ旋回アシスト手段)
62 ピン(ローラ旋回アシスト手段)
63 中間メンバ(ローラ旋回アシスト手段)
64 コイルバネ(線状弾性体:ローラ旋回アシスト手段)
65 コイルバネ(線状弾性体:ローラ旋回アシスト手段)
66 コイルバネ(線状弾性体:ローラ旋回アシスト手段)
67 螺旋バネ(螺旋状弾性体:ローラ旋回アシスト手段)
68 偏心カム(ローラ旋回アシスト手段)
69 カム反力受け(ローラ旋回アシスト手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のローラを相互に径方向に押圧接触させてトラクション伝動が可能なように構成され、前記ローラのうち少なくとも1個のローラを、該ローラの回転軸線から偏心した軸線の周りに旋回させることにより、該旋回ローラに係わるローラ間径方向押圧接触力を加減してトラクション伝動容量を制御可能な摩擦伝動装置において、
前記旋回ローラが前記ローラ間径方向押圧接触力を発生し始めて該ローラ間径方向押圧接触力を最大にする旋回中、該ローラの旋回を助勢するローラ旋回アシスト手段を設けたことを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項2】
請求項1に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記旋回ローラが前記ローラ間径方向押圧接触力を発生し始めた時、該ローラの旋回を助勢するローラ旋回アシスト力を立ち上げ、前記旋回ローラが前記ローラ間径方向押圧接触力を最大にするまでの旋回中、該ローラ旋回アシスト力を漸増させた後漸減させるものであることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項3】
請求項2に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記旋回ローラが前記ローラ間径方向押圧接触力を最大にするまでの旋回中、該旋回につれて前記ローラ旋回アシスト力を正弦波形状に変化させるものであることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記旋回ローラの旋回に伴って、該ローラの旋回中心から外れた特定オフセット部分により直線的に弾性変形される線状弾性体であり、
該線状弾性体が、前記ローラ間径方向押圧接触力を発生し始める前記ローラ旋回位置で弾性変形されるものの、該弾性変形の反力が前記ローラ旋回中心に向かって旋回ローラに前記ローラ旋回アシスト力を付与することがなく、前記ローラ間径方向押圧接触力を最大にするまでのローラ旋回中、前記反力の指向方向がローラ旋回中心からずれて前記ローラ旋回アシスト力を漸増、漸減させるよう前記特定オフセット部分の位置を決定したことを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項5】
請求項4に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記線状弾性体を一対一組として、前記ローラ旋回中心の両側に略平行に配置して具えると共に、ローラ旋回中前記特定オフセット部分により平行移動される中間メンバを具え、前記線状弾性体の一端間を前記中間メンバにより橋絡すると共に、前記線状弾性体の他端をそれぞれ固定したものであることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項6】
請求項4に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記線状弾性体を前記特定オフセット部分および固定部間に設けて構成され、前記旋回ローラの旋回に伴って該線状弾性体が伸張方向に弾性変形されるものであることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項7】
請求項1に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記旋回ローラの旋回を司るローラ旋回操作系と固定部との間に、該ローラ旋回操作系の回転方向に弾性変形させて設けた螺旋状弾性体であり、該螺旋状弾性体の弾性変形反力により前記ローラ旋回を助勢するものであることを特徴とする摩擦伝動装置。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された摩擦伝動装置において、
前記ローラ旋回アシスト手段は、前記旋回ローラの旋回中心に対し、前記ローラ回転軸線と位相がローラ旋回方向遅れ側に90°ずれた位置へ偏心させて、前記ローラ旋回用の回転体に結合した偏心カムと、該偏心カムとの共働により前記ローラの旋回を助勢するためのローラ旋回アシスト力を生起させるカム反力受けとから成るものであることを特徴とする摩擦伝動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−251610(P2012−251610A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125351(P2011−125351)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】