説明

摺動試験装置

【課題】簡易な装置構成で、被試験片の大きさ、形状等の使用条件の制約を受け難く、被試験片へ所定の荷重を負荷することのできる摺動試験装置を提供すること。
【解決手段】胴部31と、この胴部31の対向する側面から側方へ突出する腕部32とが設けられた評価用錘3と、対向する側壁部21を備えるとともに少なくとも前記側壁部21間の下面が開放されたガイド部2とを有し、ガイド部2は、対向する側壁部21に、評価用錘3の腕部32が上下動自在な状態で挿通保持可能なスリット部5を備えるとともに、ガイド部2は、被試験片4が載置された載置面に往復摺動可能に当接され、評価用錘3は、腕部32がこのスリット部5に挿通されてガイド部2の内部に保持されるとともに、胴部31が被試験片4の表面と当接可能とされ、ガイド部2の往復摺動に伴って、評価用錘3は、被試験片4の表面と当接状態で往復摺動可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、金属製品、ゴム製品、プラスチック製品、塗装やメッキ加工が施された製品等の表面の耐摩耗性を評価するための摺動試験装置が知られている(例えば、特許文献1−3)。
【0003】
また、その他、繊維構造物の毛抜けを評価するための摺動試験装置も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭49−39712号公報
【特許文献2】特開昭54−145584号公報
【特許文献3】特開平3−118442号公報
【特許文献4】特開平11−51837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1−3の摺動試験装置はいずれも、被試験片を載置する載置台の上に、被試験片へ負荷する荷重を制御するための荷重装置が設けられている。このため、装置の構成が複雑かつ大がかりであるとともに、摺動試験が可能な被試験片は、載置台の上に載置できる大きさのものに制約されるという問題があった。さらに、特許文献1−3の摺動試験装置は、被試験片の裏面が平らでない場合には、載置台の上に載置した被試験片の表面に対して、垂直方向に所定の荷重を負荷するのが難しいという問題があった。
【0006】
一方、特許文献4の摺動試験装置は、比較的簡易な装置構成であるため、操作性には利点があり、被試験片の制約は少ないとも考えられる。しかしながら、特許文献4の摺動試験装置は、押さえ荷重を手で操作するため、設定された荷重より小さな荷重あるいは大きな荷重で摺動する恐れがある。したがって、特許文献4の摺動試験装置の場合、設定された荷重で被試験片の耐摩耗性を正確に評価することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、簡易な装置構成で、被試験片の大きさ、形状等の使用条件の制約を受け難く、被試験片へ所定の荷重を負荷することのできる摺動試験装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の摺動試験装置は、被試験片の表面を水平方向に往復摺動する摺動試験装置であって、胴部と、この胴部の対向する側面から側方へ突出する腕部とが設けられた評価用錘と、対向する側壁部を備えるとともに少なくとも前記側壁部間の下面が開放されたガイド部とを有し、ガイド部は、対向する側壁部に、評価用錘の腕部が上下動自在な状態で挿通保持可能なスリット部を備えるとともに、被試験片が載置された載置面に往復摺動可能に当接され、評価用錘は、腕部が前記スリット部に挿通されてガイド部の内部に保持されるとともに、胴部が被試験片の表面と当接可能とされ、ガイド部の往復摺動に伴って、評価用錘は、被試験片の表面と当接状態で往復摺動可能とされていることを特徴とする。
【0009】
この摺動試験装置では、ガイド部の内側面と評価用錘との間に空隙が形成されていることが好ましい。
【0010】
この摺動試験装置では、ガイド部のスリット部は、下端から上方へ開口した形状であることがより好ましい。
【0011】
この摺動試験装置では、評価用錘の腕部は、先端部にスリット部の幅より幅広な頭部が設けられていることがさらに好ましい。
【0012】
この摺動試験装置では、ガイド部の対向する側壁部は、透明であることがさらに好ましい。
【0013】
この摺動試験装置では、評価用錘は、被試験片の表面との当接面に評価用材料を取付可能とされていることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の摺動試験装置によれば、簡易な装置構成で、被試験片の大きさ、形状等の使用条件の制約を受け難く、被試験片へ所定の荷重を負荷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の摺動試験装置の一実施形態を例示した分解斜視図である。
【図2】(A)は、本発明の摺動試験装置を例示した上面図であり、(B)は、本発明の摺動試験装置を例示した正面図である。
【図3】本発明の摺動試験装置に、評価用材料を取り付けた状態を例示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の摺動試験装置の一実施形態を例示した分解斜視図である。
【0017】
摺動試験装置1は、ガイド部2と評価用錘3とを有している。
【0018】
ガイド部2は、対向する側壁部21を有している。具体的には、略並行に配置されて対向する横方向に長尺な側壁部21Aと、この長尺な側壁部21Aの両端部の各々に当接配置されて対向する横方向に短尺な側壁部21Bを有している。したがって、側壁部21(長尺な側壁部21A、短尺な側壁部21B)間の上面および下面は開放されている。
【0019】
長尺な側壁部21Aは、短尺な側壁部21Bよりも垂直方向長さがやや短く設計されている。このため、長尺な側壁部21Aの下端部21A1は、短尺な側壁部21Bの下端部21B1よりも一段上に位置している。したがって、ガイド部2は、短尺な側壁部21Bの下端部21B1が、被試験片4が載置された載置面に往復摺動可能に当接する。一方、長尺な側壁部21Aの下端部21A1は、被試験片4が載置された載置面とは当接しないように設計されている。
【0020】
また、長尺な側壁部21Aの各々には、中央部近傍に、下端部21A1から上方へ向かって開口した形状のスリット部5が配設されている。スリット部5は、後述する評価用錘3の腕部32が上下動自在な状態で挿通保持可能とされている。
【0021】
ガイド部2全体の大きさは、評価者が手で保持可能な大きさに設計することができる。また、ガイド部2は、手で保持した場合にも変形しない剛性を有する材料であることが好ましい。さらに、ガイド部2は、少なくとも長尺な側壁部21Aが透明であることが好ましく、これによって、評価用錘3を被試験片4の評価しようとする位置に合わせて載置することができる。具体的には、ガイド部2の側壁部21(長尺な側壁部21A、短尺な側壁部21B)の材料として、アクリル板等の透明プラスチックを例示することができる。
【0022】
評価用錘3は、略直方体形状の胴部31と、胴部31のうち、対向する一対の側面31Aの各々に、側方へ突出する腕部32が設けられている。さらに、胴部31の上面端部には、腕部32の突出方向と平行な突条部33が2つ設けられている。胴部31の底面は平面状であり、所定の重量が均一に負荷されるように設計されている。
【0023】
評価用錘3の腕部32は、先端に、腕部32より幅広な頭部32Aを有している。具体的には、例えば、評価用錘3の両側面31Aに開口部を設け、この開口部に螺子を適宜位置まで螺入することで、評価用錘3の胴部31に、頭部32Aを有する腕部32を設けることができる。腕部32は、胴部31の両側面31Aにおいて、腕部32の突出方向が同一直線状となるように設けられている。
【0024】
評価用錘3の材料としては、例えば、各種金属等を例示することができる。評価用錘3は、重量および被試験片4との当接面積(底面の面積)が規定されているものとすることで、評価条件を明確化することができる。
【0025】
図2(A)は、本発明の摺動試験装置を例示した上面図であり、図2(B)は、本発明の摺動試験装置を例示した正面図である。
【0026】
評価用錘3は、腕部32がガイド部2のスリット部5に挿通されてガイド部2の内部に保持されて、胴部31が被試験片4の表面と当接可能とされる。この場合、胴部31の底面が被試験片4の表面と当接する。
【0027】
ガイド部2の内部に評価用錘3を保持する場合には、例えば、図1の矢印に例示したように、評価用錘3の腕部32がガイド部2のスリット部5に入り込むようにガイド部2を上から嵌め込むことで、摺動試験装置1を被試験片4の表面に自由に載置することができる。
【0028】
評価用錘3の胴部31は、ガイド部2の側壁部21(長尺な側壁部21A、短尺な側壁部21B)の内部に収納可能な大きさに設計されている。具体的には、図2(A)に例示したように、腕部32が設けられている胴部31の側面31A間の長さLは、ガイド部2の長尺な側壁部21A間の距離Mよりも小さく設計されている。そして、2本の腕部32を含む評価用錘3の長さNは、ガイド部2の長尺な側壁部21A間の距離Mよりも長くなるように設計されている。このため、評価用錘3の腕部32は、ガイド部2のスリット部5に入り込んで保持されることになる。
【0029】
そして、図2(B)に例示したように、摺動試験装置1は、評価用錘3の腕部32がガイド部2のスリット部5に入り込んだ状態では、スリット部5の下端51は評価用錘3の腕部32よりも下方に位置し、スリット部5の上端52は、評価用錘3の腕部32よりも上方に位置する。したがって、評価用錘3の腕部32がガイド部2のスリット部5に挿通された状態では、評価用錘3の腕部32と、ガイド部2のスリット部5の上端52との間には空間が形成されている。また、ガイド部2のスリット部5の幅は、評価用錘3の腕部32の幅よりもやや大きく設計されている。さらに、評価用錘3の腕部32の先端の頭部32Aは、スリット部5の幅より大きく設計されているとともに、ガイド部2の長尺な側壁部21Aの外面に近接している。
【0030】
このように評価用錘3の腕部32とガイド部2のスリット部5が設計されているため、評価用錘3の腕部32は、スリット部5内で非固定状態であり上下動が自在となっている。
【0031】
そして、評価用錘3がガイド部2の内部に保持された状態で、例えば、ガイド部2の長尺な側壁部21Aを手で保持して、長尺方向へ水平に往復摺動させる。このとき、水や洗剤等を適宜供給して摺動させることができる。これによって、評価用錘3は、ガイド部2のスリット部5を介して水平方向に力を受け、被試験片4の表面と当接状態で往復摺動する。このとき、評価用錘3の腕部32は、上下動可能な状態でガイド部2のスリット部5に挿通保持されているため、ガイド部2は、評価用錘3の垂直方向の力に影響を及ぼさない。このため、評価用錘3は、被試験片4の表面に設定された荷重を負荷しながら往復摺動する。したがって、摺動試験装置1は、設定された荷重での被試験片4の耐摩耗性、耐洗浄性、汚れの落ち易さ、洗浄液の性能等を正確に評価することができる。
【0032】
さらに、ガイド部2を往復摺動に伴って、例えば、摺動方向と直行する方向(腕部32の突出方向)に力が加わったような場合には、腕部32の先端の頭部32Aが長尺な側壁部21Aの外面と接触する。したがって、摺動方向と直行する方向への評価用錘3の動きが抑制され、より正確に耐摩耗性を評価することができる。
【0033】
また、長尺な側壁部21Aの下端部21A1は、被試験片4が載置された載置面とは当接しないように設計されているため、確実に評価用錘3による被試験片4の耐摩耗性等を評価することができる。
【0034】
摺動試験装置1は、特別な荷重装置や、被試験片4の載置台などを有していないため、試験場所や試験可能な被試験片4の制約が少ない。例えば、従来の摺動試験装置1では、被試験片4が大きい場合や被試験片4の裏面が平らでない場合には、試験が困難であった。これに対し、この摺動試験装置1は、例えば、被試験片4が大きい場合にも、被試験片4の表面に摺動試験装置1を載置することで耐磨耗性を評価することができる。また、被試験片4の裏面が平らでない場合にも、被試験片4の表面を水平に保持すれば、被試験片4の表面に摺動試験装置1を載置することで耐磨耗性を評価することができる。
【0035】
なお、ガイド部2を往復摺動させる範囲は特に限定されないが、摺動時に、ガイド部2の短尺な側壁部21Bが被試験片4と接触しない範囲で行うことができる。ガイド部2の短尺な側壁部21Bの内側面と評価用錘3との間には空隙が形成されているため、この範囲(図2(B)の矢印の範囲)でガイド部2を往復摺動させることで、評価用錘3による被試験片4の耐摩耗性を正確に評価することができる。
【0036】
図3は、本発明の摺動試験装置に、評価用材料を取り付けた状態を例示した正面図である。
【0037】
評価用錘3には、評価用材料6を取り付けることができる。評価用材料6は、布、スポンジ、紙やすり等を例示することができる。この場合、例えば図3に例示したように、腕部32の設けられていない評価用錘3の両側面と底面を一枚の評価用材料6で覆う。そして、胴部31の上面に設けた突条部33において、評価用材料6の両上端を、例えばクリップ7等で挟み込むことで評価用材料6を着脱自在に取り付けることができる。この場合、胴部31の底面が、被試験片4の表面と接触可能な当接面に相当する。
評価用材料6を取り付けた状態で、摺動試験装置1を摺動させることで、評価用材料6による被試験片4の耐磨耗性等を評価することができる。この場合にも、摺動試験装置1は、設定された評価用錘3の荷重で摺動するため、正確な評価が可能である。
【0038】
なお、本発明の摺動試験装置は、以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、図1、図2を用いて説明した短尺な側壁部は、スリット部を有する側壁部同士を所定の間隔で支持することができればよく様々な形態が可能である。したがって、例えば、側壁部は、全体外周形状が正方形や円形に形成されてもよい。
【0039】
ガイド部のスリット部の大きさ、形状も適宜設計することができ、例えば、上端から下方に向かって開口した形状とすることもできる。
【0040】
また、評価用錘(胴部、腕部、突条部)の形状、大きさも、特に限定されず、評価の目的、設定する荷重に応じて、形状、重さの異なる評価用錘を適宜使用することができる。さらに、評価用錘の腕部の形状も様々に設計することができ、腕部の数も、評価用錘の大きさ、重量等に応じて2以上設けることができる。腕部を複数設ける場合、ガイド部のスリット部も腕部の数に対応させることができる。評価用錘の突条部は、必ずしも必要ではなく、評価用材料の取り付けも様々な方法が可能である。例えば、輪ゴムや紐、磁石などを使用して取り付ける方法を例示することができる。
【0041】
さらに、摺動試験方法として、例えば、摺動試験装置(評価用錘)が被試験片の表面に当接した状態で被試験片を摺動させて、耐磨耗性などを評価することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 摺動試験装置
2 ガイド部
21 側壁部
3 評価用錘
31 胴部
32 腕部
32A 頭部
4 被試験片
5 スリット部
6 評価用材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験片の表面を水平方向に往復摺動する摺動試験装置であって、
胴部と、この胴部の対向する側面から側方へ突出する腕部とが設けられた評価用錘と、
対向する側壁部を備えるとともに少なくとも前記側壁部間の下面が開放されたガイド部とを有し、
ガイド部は、対向する側壁部に、評価用錘の腕部が上下動自在な状態で挿通保持可能なスリット部を備えるとともに、被試験片が載置された載置面に往復摺動可能に当接され、
評価用錘は、腕部が前記スリット部に挿通されてガイド部の内部に保持されるとともに、胴部が被試験片の表面と当接可能とされ、
ガイド部の往復摺動に伴って、評価用錘は、被試験片の表面と当接状態で往復摺動可能とされていることを特徴とする摺動試験装置。
【請求項2】
摺動試験装置は、ガイド部の内側面と評価用錘との間に空隙が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の摺動試験装置。
【請求項3】
ガイド部のスリット部は、下端から上方へ開口した形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動試験装置。
【請求項4】
評価用錘の腕部は、先端部にスリット部の幅より幅広な頭部が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の摺動試験装置。
【請求項5】
ガイド部の対向する側壁部は、透明であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の摺動試験装置。
【請求項6】
評価用錘は、被試験片の表面と接触可能な胴部の当接面に評価用材料を取付可能とされていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の摺動試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−47602(P2012−47602A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190081(P2010−190081)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)