説明

改竄防止用紙

【課題】 印刷物の表面に印刷された内容を改竄する目的で各種の有機溶剤を使用して印刷インキを除去しようとした際に容易に改竄の痕跡を視認でき、さらに色の経時変化が少なく安定性の高い改竄防止用紙を提供する。
【解決手段】 2層以上の紙層で構成され、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有する紙層(1)と水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)を具備しており、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)が該改竄防止用紙の少なくとも一方の面の最外紙層である改竄防止用紙とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改竄防止用紙に関する。詳しくは、悪意を持った者が有機溶剤を用いて改竄を試みた場合であっても、その痕跡を容易に視認することのできる改竄防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣や株券、小切手、商品券等の有価証券類やパスポート等の身分証明書、各種入場券、高価商品の封印ラベル、ブランド品の保護ラベル、個人情報保護用のラベル等は、不正に使用されないように各種の改竄防止対策が施されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の蛍光染料粒子を用紙中に含ませた偽造防止用紙が提案されており、これに対して有機溶剤で改竄を試みると染料が溶出し蛍光色を呈することで改竄を確認することができる。しかしながらこの場合、改竄の痕跡を視認するためには紫外線を照射することのできるブラックライトなどの特殊な光源を使用する必要があった。
【0004】
そこで、自然光や通常の照明下で、特殊な機器を用いずに容易に視認できる改竄防止手段を施すことが提案されている。特許文献2は、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含む塗工層を設けた偽造防止用シート状物が開示されており、これは有機溶剤の滴下による改竄の痕跡を可視光下で視認できる。しかしながら、有機溶剤可溶性の染料および/または顔料と、基材や塗工層のバインダーに使用されている合成樹脂などの有機化合物との相溶性により当該染料や顔料の一部が塗工層へ経時的に溶け出す現象、いわゆるブリードアウトを引き起こし、シートの色が変化してしまうという問題があった。また、当該染料や顔料が基材のみに存在し塗工層に含有されていない場合であっても、基材に含まれる染料や顔料が塗工層と直に接する箇所では加熱や光によって発色が生じることがあった。さらには、基材がフィルムや合成紙の場合は、ブリードアウトが基材にも及んでいた。加えて、有価証券類やラベル等に使用するために、当該偽造防止用シート状物に印刷がなされたり接着剤や粘着剤が施されたりする必要があるが、その際に印刷のインキ成分や粘着剤成分によって染料や顔料のブリードアウトが生じる問題もあった。このように改竄の有無にかかわらずブリードアウトや加熱による発色によってシートの色が変化するので、改竄の有無を明確に判断できないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−129596号公報
【特許文献2】特開2008−31594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
印刷物の印刷内容を改竄する目的で各種の有機溶剤が使用された際に、その改竄の痕跡を容易に視認できる改竄防止用紙であって、印刷や粘着剤などが付与されても染料および/または顔料のブリードアウトによる紙の色の経時変化が少ない改竄防止用紙を提供することを本発明の課題とする。また、ブリードアウトが生じてもそれによる変色の影響を受けない改竄防止用紙を検討する。さらに、塗工層を設けた場合であっても熱や光による発色が生じない安定性の高い改竄防止用紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、2層以上の紙層で構成される改竄防止用紙において、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有する紙層(1)と、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)と、を具備しており、該改竄防止用紙の少なくとも一方の面の最外紙層が前記水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)であることを特徴とする改竄防止用紙である。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、3層以上の紙層で構成される改竄防止用紙であって、該改竄防止用紙の両面の最外紙層が前記水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)であることを特徴とする請求項1に記載の改竄防止用紙である。
【0009】
本発明の請求項3に係る発明は、前記最外紙層である水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)の表面に、塗工層を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の改竄防止用紙である。
【0010】
本発明の請求項4に係る発明は、ISO白色度(JIS P−8148:2001年)が80%以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載の改竄防止用紙である。
【0011】
以下、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有する紙層(1)を「紙層(1)」、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)を「紙層(2)」と呼ぶ。
【発明の効果】
【0012】
本発明による改竄防止用紙によれば、例えば、悪意を持った者が本発明を使用した有価証券等の表示内容を改竄する目的で各種の有機溶剤を使用して印刷箇所の印刷インキ成分を除去した場合、当該有機溶剤が紙に浸透して紙層(1)に含まれる染料や顔料が溶出して発色するため、第三者が容易に改竄の痕跡を視認できる。さらに、当該改竄防止用紙の最外紙層が紙層(2)であるため、最外紙層の表面に印刷が施される際に、印刷インキ成分が紙層(1)に到達しないため染料や顔料の溶出が生じない。また、本発明が紙層(2)の表面に塗工層を設けた構成にすることで、紙層(1)に含まれる染料や顔料が直接塗工層と接しないため塗工層に溶出せず発色を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明における請求項1に記載の改竄防止用紙について、その一例の断面図を示した模式図である。
【図2】図2は、本発明における請求項2に記載の改竄防止用紙について、その一例の断面図を示した模式図である。
【図3】図3は、本発明の改竄防止用紙を抄造するための装置の一例である円網抄紙機を説明した模式図である。
【図4】図4は、本発明の請求項3に記載の改竄防止用紙について、その一例の断面図を示した模式図である。
【図5】図5は、本発明を小切手に利用した場合の使用例を示した模式図である。
【図6】図6は、本発明を封印ラベルに利用した場合の使用例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を用いる。一般に、改竄防止用紙は油溶性のインキを使用した印刷を施したり、住所、氏名、金額などの可変情報を油溶性のインキを使用したボールペン等の油性ペン等で記載したりすることから、悪意を持った者がこれらの印刷情報や可変情報を改竄するために有機溶剤を用いることが多い。そこで、用紙の中に水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を用いることで、有機溶剤を用いて改竄された際に、改竄箇所が発色するので、容易に改竄の痕跡を視認できることができる。一方、水溶性の染料や顔料を用いると、当該改竄の痕跡を視認することが困難であるばかりか、用紙の製造過程等において染料や顔料が水中に溶解してしまうため適さない。
【0015】
本発明で使用する水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料とは、水に不溶性であり、かつ有機溶剤に可溶性の染料であればどのようなものでも使用できる。例えば、アゾ系、アミノケトン系、クマリン系、オキサゾール系、ピラリゾン系、アントラキノン系といった各種染料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この種の染料としては染料メーカーから販売されているが、実例を商品名で挙げると「Oil Red 5B」(オリエント化学工業(株)製造)、「Yellowfluor 10GN」(ランクセス(株)製造)、「Kayaset Flavine FN」(日本化薬(株)製造)、「Leucopher EF 2N」(クラリアントジャパン(株)製造)、「TBO」(住友精化(株)製造)、「Kayaset Red SF−R」(日本化薬(株)製造)、「VALIFAST BLUE 1605」(オリエント化学工業(株)製造)、「Oil Green BG」(オリエント化学工業(株)製造)、「VALIFAST RED 2303」(オリエント化学工業(株)製造)、「Oil Blue BOS」(オリエント化学工業(株)製造)、「SPILON RED GEH Special」(保土谷化学工業(株)製造)、「MACROLEX VIOLET 3R」(ランクセス(株)製造)、「MACROLEX Red 5B FG」(ランクセス(株)製造)、「MACROLEX Green 5B」(ランクセス(株)製造)、「MACROLEX Blue RR」(ランクセス(株)製造)、「Kayalon Polyester Navy Blue TKN−SF 200」(日本化薬(株)製造)、「Kayafect Blue T」(日本化薬(株)製造)、「Kayaset Blue 814」(日本化薬(株)製造)、「SPILON BLUE 2BNH」(保土谷化学工業(株)製造)、「SPIRON GREEN 3GNH Special」(保土谷化学工業(株)製造)等であるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に、アゾ系染料、アミノケトン系染料、クマリン系染料、アントラキノン系染料を用いると、可視光下での発色が有色で鮮やかとなるので好ましい。
【0016】
本発明で使用する水不溶性かつ有機溶剤可溶性の顔料とは、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペルリン系、ピランスロン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、チオインジゴ系、キノフタロン系、金属系、ピグメント系、カーボン系、酸化硫黄系、亜酸化銅系、硫酸塩系、炭酸塩系、ケイ酸塩系、クロム酸塩系、アルミン酸塩系、フェロシアン系等の有機顔料または無機顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。実例を商品名で挙げると、「TB−200 Red GY」、「TB−500 Orange R」、「TB−520BLUE 2B」、「TB−510 Green B」、「セイカファーストカーミン1476T−7」、「A120 レッド」、「430 ブリリアントボルドー 10B」、「モノアゾレーキ10G」、「セイカファーストレッド 116」、「セイカファーストエロー 1983−10G」(いずれも大日精化工業(株)製造)等があるが、これらに限定されるものではない。特に、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料を用いると、可視光下での発色が有色で鮮やかとなるので好ましい。
【0017】
本発明で使用する水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料は、1種類だけ使用しても良いが2種類以上を混合して用いることが好ましい。特に、溶解度パラメーターが異なる2種類以上の有機溶剤に溶解可能となるような異なる染料および/または顔料を選択して混合使用することで、種々の有機溶剤を用いた改竄に幅広く対応できるようになるので好ましい。
【0018】
改竄に用いられる種々の有機溶剤は、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アニリン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、クレゾール、アセトニトリル、ベンゼン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、オクタン等の各種有機溶剤やこれらの混合物、石油中間留分であるナフサ、あるいは油脂類などが考えられる。これらの有機溶剤は溶解度パラメーターの違いから、溶出させることのできる染料や顔料の種類が異なる。そのため、前述のように2種類以上の水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を混合して本発明に含ませることにより、溶解性の異なる複数の有機溶剤に対しても発色性を示すことが可能となり、該染料や該顔料を単独で使用した場合に比べて、改竄防止効果が得られやすい。
【0019】
溶解度パラメーターとはsp値とも呼ばれている値で、ポリマーや染料、顔料等と溶媒との溶解性を決める一つの因子である。一般に、極性をもつポリマーや染料、顔料等は極性溶媒に溶けやすく、非極性溶媒には溶けにくい傾向がある。一方、非極性のポリマーや染料、顔料等は逆の傾向になる。この親和性の強さを判断する因子が溶解度パラメーターでありδで示される。溶媒のモル蒸発熱をΔH、モル体積をVとしたときにδ=(ΔH/V)1/2で定義される。
【0020】
本発明の改竄防止用紙は、2層以上の紙層で構成される。その製造方法は特に限定はないが、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機など公知の抄紙機を適宜組み合わせて利用することができる。図3は、製造方法の一例として円網抄紙機の3層構造について説明した模式図である。円網抄紙機はバット30にシリンダー状のワイヤー31が挿入された構造を特徴とする。希釈された紙の原料パルプはバット30に送り込まれ、シリンダー状のワイヤー31の回転にともない、紙料が網の表面に張り付いて湿紙となる。ワイヤー31に張り付いた湿紙は毛布32に転写される。図3のように、複数のシリンダーを直列に並べることによって2層以上の層構造をもつ紙を抄造する事が可能である。
【0021】
本発明の改竄防止用紙は、紙層(1)と紙層(2)とを具備する。例えば、2層の紙層で構成される場合は、一方の紙層が紙層(1)であり、残りの一方の紙層が紙層(2)である。この構成例を図1に示す。紙層(1)を具備する理由としては、前述のように有機溶剤による改竄の痕跡を視認可能とするためであり、有機溶剤が紙に浸透して紙層(1)に含まれる染料や顔料に達すると、当該染料や顔料が溶出して発色する効果が得られる。
【0022】
本発明の改竄防止用紙の用途として前記のように油溶性のインキを使用した印刷が施されることが多い。あるいは、ラベル用途として利用される場合に接着剤層や粘着剤層が塗布されることもある。このような油溶性のインキや接着剤成分が紙層(1)の表面に直接施されると、紙層(1)に含まれる染料や顔料と直接触れてブリードアウトの原因になる。例えば、オフセット印刷方式では酸化重合型の乾性油などを主体としたインキを使用することが多く、そのビヒクルとしてロジン変性フェノール、石油系樹脂、アルキド樹脂などの合成樹脂、亜麻仁油、きり油、大豆油、合成乾性油などの乾性油、その他溶剤や助剤等が使用されており、これらインキ成分がブリードアウトの原因となる。そこで、本発明では、紙層(2)が少なくとも用紙の一方の面の最外紙層であることを要する。紙層(2)が最外紙層である側の表面に印刷や接着剤層を施すことにより、ビヒクルのようなインキ成分や接着剤成分が紙層(1)に含まれる染料や顔料に直接触れることを防止することができる。特に速乾性を有するビヒクルの場合は、紙層(2)に浸透しても紙層(1)に到達する前に溶媒が蒸発するので好ましい。本発明が3層以上の紙層で構成される場合は、その両面の最外紙層が紙層(2)となることが好ましい。この場合、本発明の両面に印刷と接着剤層をそれぞれ設けることなどが可能となる。図2に、本発明の3層の紙層構成であって紙の両面の最外紙層が、紙層(2)である構成を例示する。なお、「最外紙層」とは、例えば図1や図2のような断面図で見た場合に最上層となる紙層および最下層となる紙層を指す。
【0023】
紙層(1)および紙層(2)を設ける方法としては、例えば図3において、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含むパルプ原料と水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含まないパルプ原料とをそれぞれ準備する。そして、前者のパルプ原料を中央のバット33にのみ付与し、後者のパルプ原料をバット33以外のバット34に付与することで、中間の紙層に紙層(1)を、両面の最外紙層に紙層(2)を含有する図2のような改竄防止用紙を抄造することができる。
【0024】
紙層(1)および紙層(2)の原料繊維としては、製紙用として一般的に用いられている木材パルプ、例えば針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の単独もしくは混合物を用いることができる。また、必要に応じて麻、竹、藁、ケナフ、三椏、楮、木綿等の非木材パルプやカチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、ミクロフィブリル化パルプ、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の再生繊維、半合成繊維、合成繊維を原料繊維に適宜混合して用いることができる。前記木材パルプの含有量は各紙層あたり30質量%以上が好ましい。
【0025】
前記原料繊維には、必要に応じて種々の製紙用内添薬品を使用できる。内添薬品としては、サイズ剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、填料、濾水歩留り向上剤、耐水化剤、定着剤、消泡剤、スライムコントロール剤等を挙げることができる。ただし、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料と相溶性を示す有機化合物は紙層に極力含まないことが望ましく、例えば紙層全体に対して当該有機化合物は3%未満であるとよい。当該有機化合物としては、天然樹脂、合成樹脂、天然ゴム、合成ゴム、蛋白質、糖類、油脂類、ウレタン、アルカロイド、タンニン、その他天然高分子化合物、その他合成高分子化合物等が例示される。これら有機化合物を紙層に含む場合、紙層(1)に含まれる該染料や該顔料が接触することで溶出してブリードアウトを引き起こす可能性がある。
【0026】
本発明の坪量は、特に限定されるものではないが、例えば、30〜250g/mとすることができ、60〜100g/mが好ましい。
【0027】
また、本発明の性能を損なわない範囲で、抄紙工程中あるいは抄紙工程後に、カレンダー処理、スーパーカレンダー処理、ソフトニップカレンダー処理等の加工を行ってもよい。
【0028】
本発明では、紙の片面または両面の最外紙層である紙層(2)の表面に塗工層を設けることができる。この例を図4に示す。なお、紙の両面の最外紙層が紙層(2)の場合は、その両面に塗工層を設けてもよく、片面だけに塗工層を設けてもよい。塗工層を設けることにより、様々な機能を紙に付与することが可能である。例えば、カオリンや炭酸カルシウム等の顔料とバインダーを混合した塗工層を設けることにより、オフセット印刷適性や不透明度、白色度等を向上させることができる。あるいは、インクジェット受容層、感熱層、昇華熱転写層など種々の印刷やメディアに対応した塗工層を設けることもできる。本発明では紙層(2)の表面に塗工層を設けるため、塗工層中のバインダーと紙層(1)の染料または顔料とが直に接触しない。よって、例えば塗工層が熱などで溶出しても該染料や該顔料の発色を防ぐことができる。
【0029】
前記塗工層に用いられる顔料は、一般に製紙用で使用される填料を配合しても良い。填料としては、クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン、タルク、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、サチンホワイト、合成非晶質シリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライト等の填料が単独、もしくは必要に応じて2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記塗工層に含まれるバインダーとしては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性ビニル樹脂、デンプン、酸化デンプン、変性デンプン等の澱粉あるいは澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カゼイン、大豆タンパク、ゼラチン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体、SBR、MBR、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、無水マレイン酸樹脂、アクリル酸エステル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、架橋ポリメタクリル酸メチル等を単独、もしくは組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、前記塗工層を形成するための塗料には、本発明の性能を損なわない範囲で一般的な製紙用加工薬品を使用することができる。例えば、消泡剤、抑泡剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、分散剤、耐水化剤、防腐剤、染料、顔料等の助剤が必要に応じて使用できる。
【0032】
塗工層の塗工方法としては、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、カーテンコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーターなどの一般の塗工方法や各種印刷方式での付与が利用できる。当該塗工層は紙の単位面積当たりの乾燥重量に換算して、0.05〜40g/m設けることが好ましい。
【0033】
本発明では、JIS P−8148(2001年)に規定されるISO白色度が80%以上であることが好ましい。例えば、図1のように片側の最外紙層が紙層(2)であり、もう一方の側が紙層(1)である改竄防止用紙がラベルとして使用される場合、紙層(2)の表面には印刷が施され、反対側の紙層(1)の表面には粘着剤が施される。この場合、紙層(1)の染料や顔料が粘着剤層へ溶出して発色する可能性があり、ISO白色度が80%未満の場合には、当該発色が紙層(2)側からも視認される可能性があるが、80%以上であれば当該発色が視認される可能性は飛躍的に低下する。このように、何らかの理由で一方の面に染料や顔料の発色が生じた場合でも、ISO白色度が80%以上であれば反対面から見た際に発色の影響を受けることがないため、改竄の痕跡を容易に確認することができる。当該ISO白色度は、最外紙層が紙層(2)である側の面から測定する。本発明の両面の最外紙層がともに紙層(2)である場合は、少なくとも一方の値がISO白色度の上記範囲に含まれるとよい。ISO白色度を上記範囲とする手段としては、特に限定はないが、例えば紙層の原料繊維としてISO白色度の高い晒パルプを用いたり、その配合比率を適宜調整するとよい。さらには白色度の高い原料繊維を多く含む紙層の数や坪量を高くするとよい。また、前記内添薬品や前記塗工層に蛍光染料や填料等を用いることでもISO白色度を向上させることができる。
【0034】
本発明の改竄防止用紙においては、最外紙層が紙層(2)である側の面を、ラベル等のおもて面のように一般に視認される側の面として使用することが好ましい。これにより、視認される側の面は色の変化が認められないので改竄防止用紙として好適に使用できる。
【0035】
図5は、本発明を小切手に使用した例を示した模式図である。金額記入欄52に記載した数字を改竄しようとして有機溶剤を滴下した際、紙に含有されている水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料が溶け出し、円状に発色51が生じる様子を示している。このように改竄を容易に視認することができる。
【0036】
図6は、本発明を封印ラベルに使用した例を示した模式図である。封筒60を閉じた後、本発明の改竄防止用紙を用いて作成された封印ラベル61が貼り付けられている。封印ラベル61に使用している粘着剤を有機溶剤ではがし、封筒の中の書類を改竄して封印ラベルを再度貼り直すということを試みた場合、紙が含有している水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料が溶け出して発色62が生じる。このことにより封印を開封した痕跡が残るため、ラベルを剥がして内部の資料を改竄し、ラベルをもとのように貼りなおすという偽造や変造が不可能となる。
【0037】
本発明を商品券や小切手などの有価証券の偽造防止手段として使用する場合は、溶剤による発色性を阻害しない範囲において、偽造防止の効果を高める手段を併用することができる。例えば、各種の透かし、ケミカルリアクション(酸やアルカリの薬品に反応して発色する等の化学反応を用いた偽造防止技術)、セキュリティスレッドの貼合や抄き入れ、細片やその他粒子の混抄、着色繊維、蛍光繊維、磁気繊維の混抄といった偽造防止手段を併用することで偽造防止効果を高めることができる。
【実施例】
【0038】
[紙料の調製]
針葉樹晒クラフトパルプ50質量部、広葉樹晒クラフトパルプ50質量部をフリーネス350mlC.S.F.に叩解し、これにカオリン10質量部、ポリアクリルアミド系紙力増強剤(商品名「紙力剤DA4112」、星光PMC(株)製)0.3質量部、ロジン系サイズ剤(商品名「サイズパインN771」、荒川化学工業(株)製)1.0質量部、硫酸バンドを適量加え、紙料を調製した。これを紙料2とする。紙料2に平均粒径が4μmの水不溶性かつ有機溶剤可溶性のアントラキノン系染料(商品名「MACROLEX Red Violet R」ランクセス(株)製造)をパルプ固形分に対し0.005質量部、平均粒径が3μmの水不溶性かつ有機溶剤可溶性のピラリゾン系染料(商品名「Kayaset Flavine FN」日本化薬(株)製造)をパルプ固形分に対し0.005質量部添加した。これを紙料1とする。
【0039】
[実施例1]
表層と裏層の2層からなる改竄防止用紙を例示する。円網抄紙機を利用して、表層に紙料2、裏層に紙料1を適用し、それぞれ45g/mとなるように抄き合わせて、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0040】
[実施例2]
表層と中間層と裏層の3層からなる改竄防止用紙を例示する。円網抄紙機を利用して、表層と裏層に紙料2、中間層に紙料1を適用し、それぞれ30g/mとなるように抄き合わせて、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0041】
[実施例3]
カオリン70質量部、炭酸カルシウム30質量部、バインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合ラテックス(商品名「スマーテックスSN−322」日本エイアンドエル(株)製造)20質量部を主体とする水性塗料(固形分濃度35質量%)を常法に従い調製した。これをエアナイフコーターを用いて実施例1で得られた改竄防止用紙の表層の表面に10g/m塗工し、坪量が100g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0042】
[実施例4]
表層と裏層の2層からなる改竄防止用紙について、円網抄紙機を利用して、表層に紙料2、裏層に紙料1を適用し、表層が60g/m、裏層が30g/mとなるように抄き合わせて、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0043】
[比較例1]
1層のみからなる改竄防止用紙を例示する。円網抄紙機を利用して、紙料1を適用し、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0044】
[比較例2]
表層と裏層の2層からなる改竄防止用紙を例示する。円網抄紙機を利用して、表層と裏層にそれぞれ紙料1を適用し、それぞれ45g/mとなるように抄き合わせて、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0045】
[比較例3]
表層と中間層と裏層の3層からなる改竄防止用紙を例示する。円網抄紙機を利用して、表層と裏層に紙料1、中間層に紙料2を適用し、それぞれ30g/mとなるように抄き合わせて、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0046】
[比較例4]
実施例3と同じ水性塗料をエアナイフコーターを用いて比較例2で得られた改竄防止用紙の表層に10g/m塗工し、坪量が100g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0047】
[比較例5]
表層と裏層の2層からなる改竄防止用紙を例示する。円網抄紙機を利用して、表層と裏層にそれぞれ紙料2を適用し、それぞれ45g/mとなるように抄き合わせて、坪量90g/mの改竄防止用紙サンプルを得た。
【0048】
[溶剤発色性評価試験]
実施例および比較例で得られた改竄防止用紙サンプル(30cm×30cm)の両面にトルエンおよびイソプロピルアルコールをそれぞれ1滴ずつ5箇所に滴下し、これら有機溶剤が蒸発した後に滴下した箇所を可視光下で目視観察した。評価基準は下記のとおりとして、〇を合格とした。なお、評価に用いる可視光は自然光下、白熱電球による照明下のどちらでも同一の結果が得られることを確認した。
○:いずれの有機溶剤でも発色が認められる
×:発色が全く認められない
【0049】
[ブリードアウト評価試験]
ロジン変性フェノール樹脂(商品名「F−7305」大日本インキ化学工業(株)製造)34.5部、大豆油15部、亜麻仁油10部、アルキッド樹脂30部、トール油脂肪酸エステル10部及びアルミニウムキレート0.5部の合計100部を190℃で1時間加熱してワニスを調製した。オフセットインキ成分として当該ワニスを実施例と比較例の改竄防止用紙サンプルの表層または塗工層の表面(比較例1は任意の表面)に印刷適性試験機(商品名「PM−902PT」(株)エスエムテー製)を利用してオフセット印刷(印刷速度2.0m/秒)を行った。これを23℃・相対湿度50%の環境下で7日間放置した後、ブリードアウトの発生を目視評価した。評価基準は下記のとおりとして、○を合格とした。
○:ブリードアウトが生じていない。
×;ブリードアウトが生じており、それによるサンプルの色変化が認められる。
【0050】
[加熱発色性評価試験]
加熱による発色の有無を評価するために、実施例と比較例の改竄防止用紙サンプルを、120℃に加熱したオーブンに入れて10分間加熱したのち25℃まで自然冷却し、サンプルの両面を目視観察した。評価基準は下記のとおりとして、○を合格とした。
○:発色が全く生じていない。
×;明らかに発色が生じている。
【0051】
[ラベル適性評価試験]
アクリル系粘着剤(商品名「オリバインBPW6111」東洋インキ製造(株)製)を、改竄防止用紙サンプルの裏層の表面(比較例1は任意の表面)にドクターブレード法にて乾燥重量に換算して15g/mとなるように塗工し、加熱乾燥させることにより粘着剤層を形成した。乾燥後、表層(比較例1は塗工面の反対側の面)からサンプルを観察し、ブリードアウトによる紙面の変色を目視評価した。評価基準は下記のとおり3段階で評価し、△以上を合格とした。
○:変色が確認されない。
△:わずかな変色が認められる。
×:明確に変色が認められる。
【0052】
[ISO白色度]
ISO白色度は、JIS P−8148:2001年に従って、紙層(2)を最外紙層とする側の面または塗工層の面が上に向くようにして測定した。なお、実施例2および比較例1〜3については、任意の面が上に向くようにして測定した。
【0053】
評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜4および比較例1〜5の結果から明らかなように、実施例および比較例で得られた改竄防止用紙サンプルの表面に各種有機溶剤を滴下すると、紙層(1)を有するサンプルはすべて良好に発色することが確認された。一方、紙層(1)を有していない比較例5は発色が認められなかった。なお、有機溶剤と同様に、実施例および比較例のサンプルにそれぞれ水を滴下したが、すべての実施例および比較例において発色は認められなかった。また、比較例5の表層に実施例3と同じ水性塗料を同様に塗工して、溶剤発色性評価試験を行ったところ、滴下した有機溶剤に対して何らの発色も確認されなかった。
【0056】
ブリードアウト評価試験の結果、実施例1、2、4のように紙層(2)の表面に印刷インキ成分であるワニスを印刷したサンプルではブリードアウトが生じないことが確認された。一方、比較例1〜3のように紙層(1)の表面にワニスが印刷されたサンプルは全てブリードアウトが生じ、それによるサンプルの変色が認められた。なお、実施例2と比較例3のサンプルの表層と裏層の両表面にそれぞれワニスを同様に印刷した場合、実施例2は両面でブリードアウトが生じなかったが、比較例3のサンプルは両面ともブリードアウトによる変色が認められた。
【0057】
加熱発色性評価試験の結果において、実施例3のサンプルは発色が見られなかったが、比較例4のサンプルでは塗工面に赤の斑点が発生した。比較例4のサンプルは、紙層(1)が塗工層と接するため、紙層(1)の表面付近に存在する染料が加熱によって溶け出した塗工層のバインダーによって発色したものと推測される。
【0058】
ラベル適性評価試験において、実施例1と実施例4を比較すると、いずれも裏層を観察すると紙層(1)に含まれる染料の発色が見られた。しかし、当該発色を表層側から観察すると、実施例1では当該発色がわずかに認められたが、ISO白色度が高い実施例4では確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の改竄防止用紙は、下記に示すような効果を有する。
(1)パスポート、トラベラーズチェック、小切手、手形、身分証明書などでは油性インキを使用して氏名、金額などの可変情報を記載する事が多く、また、身分証明書などは写真を保護するシートが貼られていることが多い。本発明によれば、溶剤を用いて油溶性インキを使用した可変情報を改竄したり、溶剤を使用して保護シートを剥離させ、写真の貼り替えを試みた際の痕跡が、特別な器具を使用することなく可視光下で視認できることから、本発明の改竄防止用紙はこのような偽造防止用途に好適に使用することができる。
(2)また、溶剤や市販のラベル剥がしを使用して不正が行われた痕跡を容易に視認できるという特徴を活かして、ブランド品の証明、電子機器の封印(クレジットカードリーダーなど内部仕様の不正な書き換えを防ぐ目的)といったブランドプロテクトラベル用途にも好適に使用できる。
(3)本発明で使用する染料および/または顔料は、改竄に使用されると予測される有機溶剤に応じて適宜選択することができる。また、溶解度パラメーターの異なる2種類以上の染料および/または顔料を同時に使用することで、種々の溶剤に幅広く対応できる。さらに、その溶解性の違いから、改竄の痕跡の形状が円状、斑点状など一定とならないため、より高い改竄防止効果が得られる。
(4)さらに、本発明の改竄防止用紙に塗工層や粘着剤層の形成などの加工を行った場合、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有する層が、合成樹脂等の有機化合物を含有する塗工層や粘着剤層とは離れているため、経時による染料および/または顔料のブリードアウトや加熱による発色が起こらない、保存安定性の高い改竄防止用紙を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有する紙層
2 水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層
10 紙層が2層で構成される本発明の例
20 紙層が3層で構成される本発明の例
30 円網抄紙機のバット
31 シリンダー状のワイヤー
32 毛布
33 円網抄紙機の中央のバット
34 円網抄紙機のバット
40 塗工層を設けた本発明の例
41 塗工層
50 小切手
51 改竄された際の、染料および/または顔料の発色
52 金額記入欄
60 封筒
61 封印ラベル
62 改竄された際の、染料および/または顔料の発色


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の紙層で構成される改竄防止用紙において、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有する紙層(1)と、水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)と、を具備しており、該改竄防止用紙の少なくとも一方の面の最外紙層が前記水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)であることを特徴とする改竄防止用紙。
【請求項2】
3層以上の紙層で構成される改竄防止用紙であって、該改竄防止用紙の両面の最外紙層が前記水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)であることを特徴とする請求項1に記載の改竄防止用紙。
【請求項3】
前記最外紙層である水不溶性かつ有機溶剤可溶性の染料および/または顔料を含有しない紙層(2)の表面に、塗工層を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の改竄防止用紙。
【請求項4】
ISO白色度(JIS P−8148:2001年)が80%以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載の改竄防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−149107(P2011−149107A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8916(P2010−8916)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(507369811)特種東海製紙株式会社 (11)
【Fターム(参考)】