説明

放射性廃液の処理方法および処理装置

【課題】放射性核種を伴わずに、NaNOを主成分とする放射性廃液からNaを効率的かつ連続的に分離、回収するとともに、NOを無害な窒素ガスに還元することができる放射性廃液の処理方法および処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の放射性廃液の処理方法は、放射性廃液に含まれるNaNOを部分的に還元してNaOH、NaHCOおよびNaCOのうち少なくとも1種を含む還元液とする廃液還元工程と、透過膜の両側に陽電極、陰電極を設置した電解槽の陽極室に還元液を供給して電気透析を行う電気透析工程とを有し、電気透析工程において陰極室にて透過膜を透過したNaをNaOHとして分離回収し、陽極室にて残留した放射性物質を放射性物質濃縮溶液として分離回収し、廃液還元工程におけるNaOHの生成速度と、電気透析工程におけるNaOHの回収速度を等しくすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液の処理方法および処理装置に関し、さらに詳しくは、原子力施設、特に再処理施設から排出される硝酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液の電気透析を行い、ナトリウムを選択的に除去することにより、放射性物質を分離し、回収する放射性廃液の処理方法および処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力施設、特に使用済み核燃料の再処理施設からは、主に無機塩として硝酸ナトリウム(NaNO)を多量に含む放射性廃液が発生する。この廃液中の硝酸ナトリウムからナトリウムを分離する分離除去技術の開発が進められている。
例えば、アメリカ合衆国エネルギー省(United States Department of Energy、DOE)では、Naイオン電導体膜(NASICON膜、Na Super Ionic Conductor)あるいは有機性陽イオン交換膜を用いて、硝酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液からナトリウムイオン(Na)を分離する方法が検討されており、Naイオン電導体膜あるいは有機性陽イオン交換膜が、ナトリウムイオンを水酸化ナトリウム(NaOH)として回収可能なことが実証されている。
【0003】
放射性廃液に含まれる放射性核種を、硝酸ナトリウムから分離する技術としては、廃液に多くの試薬を加えて、主要な核種毎に共沈させた後、限外ろ過膜などを介して、固形分を分離する方法が用いられている。この方法は、多くの試薬を加えるため、廃液量が増加する上に、特定の核種に関して、放射性核種がどの程度除去されたかを表す除染係数(DF)は100程度が限界であり、放射性廃液中の放射性核種の除去効率が低かった。
【0004】
一方、再処理工程から発生する硝酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液(低レベル濃縮廃液)の減容化を図る技術としては、ナトリウム選択透過膜を用いた電気透析法が挙げられる。この技術は、ナトリウムのみを放射性廃液より分離し、回収することにより、放射性廃液を減容化できる可能性があり、有機膜(Nafion(登録商標)など)、無機膜(NASICON膜)などを用いた廃液の処理試験が行われている。
ナトリウム選択透過膜を用いた電気透析法により、放射性物質を含む廃液および/または放射性物質を含まない廃液からナトリウムを回収する技術としては、非特許文献1〜4などの論文が公表され、公知の技術となっている。
【0005】
非特許文献1〜4では、NASICON膜を用いた電気透析法により、硝酸ナトリウムを含む放射性廃液(低レベル放射性濃縮廃液)、あるいは、パルプ工場などから発生するナトリウムを含む廃液から、ナトリウムを回収する技術が開示されている。
この技術では、陽極室に対象とする廃液を供給し、陰極室に水酸化ナトリウム水溶液を充填し、電解槽の陽極室と陰極室の隔膜としてNASICON膜を用いて、電気透析を行うことにより、ナトリウムイオンを陽極室から陰極室へ移動させている。
また、非特許文献1〜4では、多種の放射性核種を含む放射性廃液から、ナトリウムと同族であるセシウム137(Cs−137)を含まず、ナトリウムのみを分離し、回収することができる旨の報告がなされている。
【0006】
また、放射性廃液に含まれる硝酸イオン(NO)を還元して、分解し、無害なガスに変える技術としては、非特許文献5〜8などの論文が公表されているとともに、特許文献1、2などが開示され、公知の技術となっている。
非特許文献5〜8、および、特許文献1、2では、触媒および還元剤を使用して硝酸ナトリウム廃液中の硝酸イオンを分解するが、触媒の種類によって還元生成物の種類が異なる。触媒の種類を変えて、第一段階においてCu−Pd/AC触媒により硝酸イオン(NO)を亜硝酸イオン(NO)とし、第二段階においてCu/βアルミナ触媒により亜硝酸イオンを窒素(N)に還元する。原子力施設では、爆発性ガスの使用は好まれないため、ヒドラジン(N)やホルムアルデヒド(HCOH)などの還元剤が用いられる。
【0007】
また、放射性廃液の減容化を図る技術としては、次のような技術が開示されている。
例えば、高濃度のナトリウム塩を含む放射性廃液からナトリウムおよび酸を回収して、この廃液の減容化、並びに、ナトリウムおよび酸の再利用を図るために、陽電極と陰電極の間に、二枚のバイポーラ膜を配置し、このバイポーラ膜間の陽電極側に陰イオン交換膜、陰電極側にナトリウムイオン選択透過膜をそれぞれ配置して電気透析を行うことにより、ナトリウム塩を含む放射性廃液からナトリウムイオンを水酸化ナトリウムとして、陰イオンを酸として、それぞれに分離し、回収する放射性廃液が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、再処理施設から発生する低レベル放射性濃縮廃液の主成分である硝酸ナトリウムを、廃ガス系に負荷を与えるNOxを発生させることなく、大幅減容するとともに、分解生成物を再利用して放射性処理系のクローズド化を図るために、使用済み核燃料の再処理施設から発生する低レベル放射性濃縮廃液を、カチオン交換膜およびアニオン交換膜を有する電解セルに供給し、陰極側に水酸化ナトリウムを生成し、分離するとともに、陽極側に硝酸を生成し、分離することにより、再処理施設で再使用する低レベル放射性濃縮廃液の減容方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、硝酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを含むアルカリ性廃液中から硝酸塩と水酸化ナトリウムを別々に回収する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−74107号公報
【特許文献2】特開2003−126872号公報
【特許文献3】特開2000−321395号公報
【特許文献4】特開平4−283700号公報
【特許文献5】特開平8−066686号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.Balagopal,et al.,Selective sodium removal from aqueous waste streams with NaSICON ceramics,Separation and Purification Technology 15(1999) 231−237.
【非特許文献2】D.E.Kurath,et al.,Caustic recycle from high−salt nuclear wastes using a ceramic−membrane salt−splitting process,Separation and Purification Technology 11(1997) 185−198.
【非特許文献3】D.T.Hobbs,Radioactive Demonstration of Caustic Recovery from Low−Level Alkaline Nuclear Waste by an Electrochemical Separation Process,WSRC−TR−97−00363(1998).
【非特許文献4】Ceramatec,Inc.,Energy Efficient Process for Recycling Sodium Sulfate Utilizing Ceramic Solid Electrolyte,DOE contact No.DE−FC02−95CE41158(1999).
【非特許文献5】Y.Sakamoto,et al.,Cu−Pd Bimetallic Cluster/AC as a Novel Catalyst for the Reduction of Nitrate to Nitrite,Chemistry letters,vol.33,No.7(2004)
【非特許文献6】Y.Sakamoto,et al.,A Two−sage Catalytic Process with Cu−Pd Cluster/Active Carbon and Pd/β−Zeolite for Removalof Nitrate in Water,Chemistry letters,vol.34,No.11(2005)1510−1511
【非特許文献7】Y.Sakamoto,et al.,Selective hydrogenation of nitrate to Nitrite in water over Cu−Pd bimetallic clusters supported on active carbon,J.Mol.Cat.A,250(2006)
【非特許文献8】Yi,Wang,et.al.,Palladium−Copper/Hydrophobic Active Carbon as a Highly Active and Selective Catalyst for Hydrogenation of Nitrate in Water,Chemistry letters,vol.36,No.8(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、硝酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液(低レベル放射性濃縮廃液)を電気透析法により、ナトリウムを分離、回収した場合、陰極室には、放射性核種を含まない水酸化ナトリウムが生成し、低レベル放射性濃縮廃液をある程度、減容することができる。
しかしながら、陽極室には、放射性核種を含んだ硝酸が生成するため、減容化の観点からは、さらに硝酸を処理する必要がある。また、厚みが数mmの非常に薄いナトリウムイオン選択透過膜を介して、強アルカリと強酸の液が存在することになるため、透過膜が破損した時の化学的危険性が非常に高いという問題がある。
【0013】
また、NASICON膜を用いた電気透析法により、低レベル放射性濃縮廃液からナトリウムイオンを分離、回収した場合、時間の経過に伴って、ナトリウムイオンの分離効率の低下、および、浴電圧の上昇が見られる。これらの現象は、電気透析法によって低レベル放射性濃縮廃液の減容を実施する上では、コストの増加や器材への負荷上昇につながるため、不利である。
また、この電気透析法により、低レベル放射性濃縮廃液から放射性核種を含まない水酸化ナトリウムを分離し、回収することができるものの、硝酸の生成によって、水酸化ナトリウムの回収が効率的に進まないという問題があった。
【0014】
また、電解槽の隔膜として、カチオン交換膜を用いた場合、ナトリウムイオンのみならず放射性核種も移行してしまう。また、ナトリウムを分離し、回収することにより生成した放射性核種を含む酸から、酸を回収するために、バイポーラ膜やアニオン交換膜が用いられるが、カチオン交換膜の場合と同様に放射性核種を含まない酸を回収することができない。さらに、バイポーラ膜やアニオン交換膜は有機膜であるから、NASICON膜のような無機膜とは異なり、耐放射線性能が十分ではなかった。
【0015】
また、この電気透析法を用いた方法では、ナトリウムイオンを分離した後、硝酸イオンを分解するか、あるいは、硝酸イオンを分解した後、ナトリウムイオンを分離するため、分解処理が二段階となるので、多槽型電気透析法と比較すると、機器の数および廃液処理系内の廃液保有量が多くなるという問題があった。
【0016】
また、特許文献3〜5に開示されている技術としては、多槽型電気透析法が挙げられる。多槽型電気透析法では、硝酸イオンの分離にイオン交換膜が用いられている。しかしながら、イオン交換膜では、硝酸イオンを十分に分離できないという問題があった。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、放射性核種を伴わずに、硝酸ナトリウムを主成分とする放射性廃液からナトリウムイオンを効率的かつ連続的に分離、回収するとともに、硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することができる放射性廃液の処理方法および処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の放射性廃液の処理方法は、ナトリウム塩を含有する放射性廃液の処理方法であって、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする廃液還元工程と、ナトリウムイオンを選択的に透過する透過膜の両側に陽電極、陰電極を設置した電解槽の陽極室に、前記還元液を供給して、前記還元液の電気透析を行う電気透析工程と、を有し、前記電気透析工程にて、前記陰極室にて、前記透過膜を透過したナトリウムイオンを水酸化ナトリウムとして分離回収し、前記陽極室に残留した放射性物質を、放射性物質濃縮溶液として分離し、分離された前記水酸化ナトリウムおよび前記放射性物質濃縮溶液をそれぞれ回収し、前記廃液還元工程における水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、前記電気透析工程におけるナトリウムイオン回収速度を等しくすることを特徴とする。
【0019】
前記廃液還元工程にて、還元剤としてヒドラジンおよび/またはギ酸を用いる化学反応による処理方法を行うことが好ましい。
【0020】
前記還元剤としてヒドラジンおよび/またはギ酸を用いる化学反応による処理方法が、触媒存在下において処理される方法であることが好ましい。
【0021】
前記廃液還元工程において、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度を、前記放射性廃液への前記還元剤の供給速度により制御することが好ましい。
【0022】
前記廃液還元工程にて生成する前記還元液のpHを10以上とすることが好ましい。
【0023】
前記廃液還元工程において、前記放射性廃液への前記還元剤の供給速度を、前記電気透析工程において前記陽極室にて回収された放射性物質濃縮溶液のpH、前記放射性廃液を還元する還元装置内のpHおよび前記陽極室入口のpHのうち少なくとも1つを計測した計測値に基づいて制御することが好ましい。
【0024】
前記電気透析工程において前記陽極室にて回収された放射性物質濃縮溶液を、前記廃液還元工程に供給することが好ましい。
【0025】
前記電気透析工程において、ナトリウムイオン回収速度を、前記陽電極と前記陰電極の間に流す電流値により制御することが好ましい。
【0026】
本発明の放射性廃液の処理装置は、ナトリウム塩を含有する放射性廃液の処理装置であって、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする還元装置と、前記還元液に含まれるナトリウムイオンを選択的に透過する透過膜、前記透過膜を介して設けられた陽極室および陰極室、並びに、前記透過膜の両側にそれぞれ設置された陽電極および陰電極を有する電気透析装置と、前記陽極室にて回収され、前記陽極室から前記還元装置に供給される放射性物質濃縮溶液のpH、前記還元装置内のpHおよび前記陽極室入口のpHのうち少なくとも1つを計測するpH計測装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の放射性廃液の処理方法によれば、ナトリウム塩を含有する放射性廃液の処理方法であって、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする廃液還元工程と、ナトリウムイオンを選択的に透過する透過膜の両側に陽電極、陰電極を設置した電解槽の陽極室に、前記還元液を供給して、前記還元液の電気透析を行う電気透析工程と、を有し、前記電気透析工程にて、前記陰極室にて、前記透過膜を透過したナトリウムイオンを水酸化ナトリウムとして分離回収し、前記陽極室に残留した放射性物質を、放射性物質濃縮溶液として分離し、分離された前記水酸化ナトリウムおよび前記放射性物質濃縮溶液をそれぞれ回収し、前記廃液還元工程における水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、前記電気透析工程におけるナトリウムイオン回収速度を等しくするので、電気透析工程においてpHをアルカリ側に保持することができるから、ナトリウムイオン(Na)の分離効率を常に高効率に維持することができ、放射性廃液の連続処理が可能となる。また、放射性廃液から放射性核種をほとんど含まないナトリウムイオンを選択的に水酸化ナトリウムとして分離し、回収することができるとともに、放射性廃液から放射性核種のみを分離し、濃縮することが可能なため、放射性廃液の減容率を高くすることができる。また、廃液還元工程と電気透析工程を同時に行い、廃液還元工程と電気透析工程の間にて、還元液(放射性物質濃縮溶液を含む)を循環させるので、廃液還元工程あるいは、電気透析工程の少なくとも1ヶ所にて溶液温度調整を行うだけでよいため、エネルギー効率が向上する。また、硝酸イオンを、不活性な窒素ガスにまで還元することができるので、環境負荷をなくすことができる。さらに、中間層を設けることなく、1つの系で2つの作用(ナトリウムイオンの分離と硝酸イオンの分解)を行うので、系内における放射性廃液の保有量が少なくて済むから、放射性廃液の処理における安全性が増す。
【0028】
本発明の放射性廃液の処理装置によれば、ナトリウム塩を含有する放射性廃液の処理装置であって、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする還元装置と、前記還元液に含まれるナトリウムイオンを選択的に透過する透過膜、前記透過膜を介して設けられた陽極室および陰極室、並びに、前記透過膜の両側にそれぞれ設置された陽電極および陰電極を有する電気透析装置と、前記陽極室にて回収され、前記陽極室から前記還元装置に供給される放射性物質濃縮溶液のpH、還元装置内のpHおよび前記陽極室入口のpHのうち少なくとも1つを計測するpH計測装置と、を備えたので、電気透析装置においてpHをアルカリ側に保持することができ、ナトリウムイオン(Na)の分離効率を常に高効率に維持することができるので、放射性廃液の連続処理が可能となる。また、放射性廃液から放射性核種をほとんど含まないナトリウムイオンを選択的に水酸化ナトリウムとして分離し、回収することができるとともに、放射性廃液から放射性核種のみを分離し、濃縮することが可能なため、放射性廃液の減容率を高くすることができる。また、廃液還元工程と電気透析工程を同時に行い、廃液還元工程と電気透析工程の間にて、還元液(放射性物質濃縮溶液を含む)を循環させるので、廃液還元工程あるいは、電気透析工程の少なくとも1ヶ所にて溶液温度調整を行うだけでよいため、エネルギー効率が向上する。また、中間層を設けることなく、1つの系で2つの作用(ナトリウムイオンの分離と硝酸イオンの分解)を行うので、系内における放射性廃液の保有量が少なくて済むから、放射性廃液の処理における安全性が増す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の放射性廃液の処理装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の試験例において、陽極室における還元液のpHを測定した結果を示したグラフである。
【図3】本発明の試験例において、ナトリウムイオンの回収量と、水酸化物イオンの生成量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の放射性廃液の処理方法および処理装置の実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0031】
図1は、本発明の放射性廃液の処理装置の一実施形態を示す概略構成図である。
この実施形態の放射性廃液の処理装置(以下、「放射性廃液処理装置」と言う。)10は、還元装置11と、電気透析装置12と、放射性廃液貯留槽17と、蒸発装置18と、復水受槽19と、濃縮液受槽20と、pH計測装置21と、循環槽22と、陰極液受槽23とから概略構成されている。
また、電気透析装置12は、透過膜13、この透過膜13を介して設けられた陽極室14および陰極室15からなる電解槽16、並びに、陽極室14内に設置された陽電極(図示略)および陰極室15内に設置された陰電極(図示略)を備えている。すなわち、陽電極と陰電極は、透過膜13の両側にそれぞれ設置されている。
【0032】
還元装置11は、放射性廃液貯留槽17から供給される放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウム(NaNO)を部分的に還元(塩転換)し、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)および炭酸ナトリウム(NaCO)のうち少なくとも1種を含む還元液とするための装置である。ここで、「部分的に還元(塩転換)」とは、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを全て還元(塩転換)して水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種とするのではなく、還元液のpHが、電気透析装置12における電気透析に適した範囲内となるように、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを適量還元することをいう。
【0033】
この還元装置11としては、還元剤を用いる化学反応による処理方法を用いた装置が挙げられる。還元剤を用いる化学反応による処理方法を用いた装置は、触媒存在下において処理する方法を用いた装置であることが好ましい。
還元剤を用いる化学反応による処理方法を用いた装置としては、例えば、硝酸ナトリウムを含む放射性廃液に、還元剤として、ヒドラジン(N)および/またはギ酸(HCOOH)を投与して、硝酸ナトリウムの還元反応(塩転換反応)を進行させる装置が挙げられる。
【0034】
還元装置11にて用いられる触媒24としては、銅(Cu)触媒、パラジウム(Pd)−銅(Cu)触媒、ニッケル(Ni)−銅(Cu)触媒などが挙げられる。
【0035】
電気透析装置12の透過膜13としては、ナトリウムイオンを選択的に透過し、セラミックスなどからなる膜が用いられ、例えば、Naイオン電導体膜(NASICON膜、Na Super Ionic Conductor)、β−アルミナなどからなるナトリウムイオン選択透過膜などが挙げられる。
電気透析装置12の陽電極としては、寸法安定電極(Dimensionally Stable Electrode、DSE)、白金めっきしたチタン電極などが用いられる。
電気透析装置12の陰電極としては、白金めっきしたチタン電極などが用いられる。
【0036】
電気透析装置12の陽極室14は、流路を介して、pH計測装置21に接続されている。
このpH計測装置21は、電気透析装置12における放射性廃液の電気透析により陽極室14にて分離され、回収されて、陽極室14から還元装置11に供給される放射性物質濃縮溶液のpHを計測するためのものである。
また、pH計測装置21としては、上記のものの他、還元装置11内のpHまたは陽極室14の入口のpHを測定するものであってもよく、電気透析工程において陽極室14にて回収された放射性物質濃縮溶液のpH、還元装置11内のpHおよび陽極室14の入口のpHのうち2ヶ所以上のpHを測定するものであってもよい。
【0037】
次に、この放射性廃液処理装置10の作用を説明するとともに、この実施形態の放射性廃液の処理方法を説明する。
【0038】
まず、還元装置11にて、放射性廃液貯留槽17に一時的に貯留されている、使用済み核燃料の再処理施設などの原子力施設から発生した放射性廃液を還元(塩転換)処理する(廃液還元工程)。
詳細には、放射性廃液は、硝酸ナトリウムを主成分とし、放射性核種を含む液であるから、この廃液還元工程における還元(塩転換)処理は、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする処理である。
【0039】
還元(塩転換)処理は、還元剤を用いる化学反応による処理方法である。さらに、還元剤を用いる化学反応による処理方法は、触媒存在下において処理する方法であることが好ましい。
還元剤を用いる化学反応としては、硝酸ナトリウムを含む放射性廃液に、ヒドラジン(N)および/またはギ酸(HCOOH)を投与することによる還元反応が用いられることが好ましい。
さらに、還元剤を用いる化学反応による処理方法であって、触媒存在下において処理する方法としては、例えば、パラジウム−銅触媒が共存する中で硝酸ナトリウムを含む廃液に還元剤を投与し、硝酸イオンを窒素に還元させる反応が挙げられる。
【0040】
廃液還元工程において、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度(単位時間当たりの水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成量)、すなわち、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムの還元速度(単位時間当たりの硝酸イオンの還元量)を、放射性廃液への還元剤の供給速度(単位時間当たりの還元剤の供給量)により制御することが好ましい。
廃液還元工程において、放射性廃液への還元剤の供給速度は特に限定されないが、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムの量に応じて、この工程において生成される還元液のpHが、電気透析装置12における電気透析に適した範囲内となるように適宜調整される。
【0041】
例えば、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムの量(体積モル濃度)が1mol/L以上、12mol/L以下で、ほぼ一定に保たれている場合、放射性廃液への還元剤の供給速度を、目標とする電気透析工程におけるナトリウムイオン回収速度の0.5〜4倍の範囲内に設定することが好ましく、より好ましくは、1〜3倍の範囲である。
このようにすれば、廃液還元工程において生成される還元液のpHが、電気透析装置12における電気透析に適した範囲内となる。
なお、ナトリウムイオン回収速度は、処理の対象となる放射性廃液の容量(規模)に応じて設定するので、放射性廃液への還元剤の供給速度は、そのナトリウムイオン回収速度に応じて、適宜調整される。
【0042】
また、廃液還元工程において、放射性廃液への還元剤の供給速度を、電気透析工程において陽極室14にて回収された放射性物質濃縮溶液のpH、還元装置11内のpHおよび陽極室14の入口のpHのうち少なくとも1つを計測した計測値に基づいて制御することが好ましい。
このようにすれば、廃液還元工程において生成される還元液のpHが、電気透析装置12における電気透析に適した範囲内となるように適宜調整される。
【0043】
また、廃液還元工程にて生成する還元液のpHを10以上とすることが好ましく、より好ましくは11以上である。
廃液還元工程にて生成する還元液、すなわち、電気透析装置12における電気透析工程に供給される還元液のpHが上記の範囲内であれば、電気透析工程において、ナトリウムイオン(Na)の分離を常に高効率に維持することができるので、放射性廃液の処理を連続的に行うことができる。還元液のpHが10未満では、陽極室14の陽電極と、陰極室15の陰電極との間に印加する電圧が上昇するため、透過膜13の抵抗が大きくなるので、ナトリウムイオンが透過膜13を透過し難くなり、ナトリウムイオン(Na)の分離効率が低下し、放射性廃液の処理を連続的に行えなくなるおそれがある。また、このように陽極室14の陽電極と、陰極室15の陰電極との間に印加する電圧が上昇すると、消費電力が増加するので、放射性廃液処理のプロセスとしての価値が下がる。
【0044】
次いで、硝酸ナトリウムの還元(塩転換)処理が施され、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を高濃度に含有する還元液を、電気透析装置12の陽極室14へ送り込む。
ここで、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を高濃度に含有する還元液とは、具体的に、水酸化ナトリウムを1mol/L以上含有し、好ましくは水酸化ナトリウムを1mol/L以上、35mol/L以下含有する液、または、炭酸水素ナトリウムを1mol/L以上含有し、好ましくは炭酸水素ナトリウムを1mol/L以上、3mol/L以下含有する液、または、炭酸ナトリウムを0.5mol/L以上含有し、好ましくは炭酸ナトリウムを0.5mol/L以上、4mol/L以下含有する液である。
【0045】
一方、電気透析装置12の陰極室15には、あらかじめ低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給しておく。あらかじめ陰極室15に供給しておく水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、効率よく電気透析の行える濃度範囲とし、具体的には、0.0001mol/L以上、5mol/L以下とすることが好ましい。
【0046】
次いで、電気透析装置12にて、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含有する還元液の電気透析を行う。
電気透析を行う際の電気透析装置12の電解槽16(陽極室14および陰極室15)の温度は、還元液に含まれるナトリウム塩の種類や濃度に応じて適宜設定されるが、室温(20℃)以上、100℃以下とすることが好ましい。
【0047】
この還元液の電気透析により、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を起源とするイオン(ナトリウムイオン(Na)、水酸化物イオン(OH))のうち、ナトリウムイオン(Na)のみが選択的に透過膜13を透過し、陽極室14から陰極室15の水酸化ナトリウム水溶液中へ移動する。
【0048】
一方、陽極室14にて、還元液に含まれる水酸化ナトリウムは、電気透析中において、ナトリウムイオンの分離、回収の進行に伴って、水酸化物イオン(OH)が水として回収される。この時、陽極室14において、下記の式(1)に示す水酸化物イオンに関する化学反応が進行する。
4OH→2HO+O↑+4e (1)
また、還元液に含まれる炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムは、電気透析中において、ナトリウムイオンの分離、回収の進行に伴って、陽極室14内の放射性廃液のpHが一時的に低下するため、それぞれ炭酸水素イオン(HCO)または炭酸イオン(CO)が二酸化炭素として陽極室14から排出され、結果として水として回収される。この時、陽極室14において、下記の式(2)に示す炭酸水素イオンに関する化学反応が進行する。
2HCO+2OH→2HO+2CO↑+O↑+4e (2)
また、陽極室14において、下記の式(3)、(4)に示す炭酸イオンに関する化学反応が進行する。
CO+HO→HCO+OH (3)
2HCO+2OH→2HO+2CO↑+O↑+4e (4)
【0049】
また、電気透析工程において、水酸化ナトリウムの回収速度を、陽極室14の陽電極と、陰極室15の陰電極との間に流す電流値により制御することが好ましい。
このようにすれば、電気透析工程において、ナトリウムイオン(Na)の分離を常に高効率に維持することができる。
例えば、印加する電流密度としては、25mA/cm以上、200mA/cm以下とすることが好ましく、より好ましくは50mA/cm以上、100mA/cm以下である。
【0050】
また、陽極室14にて、電気透析中において、ナトリウムイオンの分離、回収の進行に伴って、陽極室14内の還元液のpHが低下するため、pHが所定の範囲(10以上)でなくなった還元液は放射性物質濃縮溶液として分離され、回収されて、流路を通って還元装置11に戻される。これに伴って、上述のように、pHが10以上に調整された還元液が、還元装置11から陽極室14に供給されて、陽極室14内の還元液のpHは10以上に保たれる。
なお、放射性物質濃縮溶液には、透過膜13を透過しない放射性物質が残留するため、この放射性物質は放射性物質濃縮溶液とともに、還元装置11に戻される。
【0051】
また、陽極室14から還元装置11に戻される放射性物質濃縮溶液については、上述のように、pH計測装置21によりpHが計測される。そして、そのpHの計測値に基づいて、還元装置11内に戻された放射性物質濃縮溶液と、還元装置11内の還元液との混合液のpHが10以上になるように、還元剤を加えて還元反応を進行させる。
【0052】
本発明の放射性廃液の処理方法では、上述の廃液還元工程における水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、上述の電気透析工程における水酸化ナトリウムの回収速度を等しくする。すなわち、廃液還元工程において、還元液中のナトリウムイオンの生成速度と、電気透析工程においてナトリウムイオンが透過膜13を透過して、陽極室14から陰極室15へ移動する速度(移動速度)とを等しくすることにより、電気透析工程において、ナトリウムイオン(Na)の分離を常に高効率に維持することができる。
【0053】
次いで、透過膜13を透過し、陽極室14から陰極室15へ移動したナトリウムイオンにより、陰極室15中の水酸化ナトリウム水溶液の濃度が次第に高くなり、その濃度が所定濃度に達したら、水酸化ナトリウム水溶液を循環槽22へ送り込む。
【0054】
次いで、循環槽22にて、一部の水酸化ナトリウム水溶液が回収され、陰極液受槽23に送られて、別途再利用される。
一方、循環槽22に残された水酸化ナトリウム水溶液は、所定濃度に希釈され、再び陰極室15へ送り込まれ、電気透析装置12における放射性廃液の電気透析に用いられる。
【0055】
また、還元装置11と電気透析装置12の間で循環させている還元液(放射性物質濃縮溶液を含む)を濃縮する場合、還元装置11から電気透析装置12へ供給される還元液の一部を抜き出して、蒸発装置18へ送り込む。
【0056】
次いで、蒸発装置18にて、陽極室14から送られてきた溶液を蒸留し、この溶液から放射性核種を分離し、回収する。
そして、この分離、回収された放射性核種は、濃縮液受槽20へ送り込まれ、再び還元装置11に送り込まれる。
【0057】
また、この蒸留工程によって生成した水は、復水受槽19に貯留され、別途再利用される。
【0058】
この実施形態の放射性廃液処理装置10およびこれを用いた放射性廃液の処理方法によれば、還元装置11における廃液還元工程において、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とし、電気透析装置12における電気透析工程において、陰極室15にて、透過膜13を透過したナトリウムイオンを水酸化ナトリウムとして分離し、陽極室14に残留した放射性物質を、放射性物質濃縮溶液として分離し、分離された前記水酸化ナトリウムおよび前記放射性物質濃縮溶液をそれぞれ回収し、廃液還元工程における水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、電気透析工程におけるナトリウムイオン回収速度を等しくするので、還元液中のナトリウムイオン濃度がほぼ一定に保たれ、電気透析装置12においてpHをアルカリ側(pH10以上)に保持することができる。したがって、電気透析工程において、ナトリウムイオン(Na)の分離効率を常に高効率に維持することができるので、放射性廃液の連続処理が可能となる。また、放射性廃液から放射性核種をほとんど含まないナトリウムイオンを選択的に水酸化ナトリウムとして分離し、回収することができるとともに、放射性廃液から放射性核種のみを分離し、濃縮することが可能なため、放射性廃液の減容率を高くすることができる。具体的には、放射性廃液を、その処理前の原液の1/1000〜1/10程度以下に減容化することができる。減容化することにより、廃棄体の種類および総数を減らすことが可能となる。また、分離されたナトリウムの取り扱いが容易となる。また、従来の電気透析法を用いた放射性廃液の処理方法よりも減容率が高く、かつ、電解槽に設けられた透過膜の寿命も長くなるので、処理費用および最終処分用地を大幅に削減することができる。また、還元装置11における廃液還元工程と電気透析装置12における電気透析工程を同時に行い、還元装置11と電気透析装置12の間にて、還元液(放射性物質濃縮溶液を含む)を循環させるので、還元装置11における廃液還元工程あるいは、電気透析装置12における電気透析工程の少なくとも1ヶ所にて溶液温度調整を行うだけでよいため、エネルギー効率が向上する。また、硝酸イオンを、不活性な窒素ガスにまで還元することができるので、環境負荷をなくすことができる。さらに、中間層を設けることなく、1つの系で2つの作用(ナトリウムイオンの分離と硝酸イオンの分解)を行うので、系内における放射性廃液の保有量が少なくて済むから、放射性廃液の処理における安全性が増す。
また、放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを塩転換処理してナトリウム塩を生成し、このナトリウム塩を含む放射性廃液の電気透析を行うので、放射性核種を含む酸(硝酸)などが発生せず、濃縮された放射性廃液の処理を簡素化することができる。さらに、硝酸ナトリウムを塩転換処理してナトリウム塩を生成することにより、硝酸イオンに起因する環境負荷をなくすことができる。
【0059】
以下、試験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0060】
図1に示す放射性廃液処理装置と同様の装置を用いて、触媒法により硝酸ナトリウムを主成分として含む溶液(以下、「反応溶液」と言う。)を還元処理し、その反応溶液に含まれる硝酸ナトリウムに起因する硝酸イオン(NO)分解を行い、硝酸ナトリウム(NaNO)を水酸化ナトリウム(NaOH)に変換しながら、透析法により生成した水酸化ナトリウムを回収する連続処理を行った。
Pd−Cu触媒を充填した還元装置の触媒槽に、ヒドラジン(N・HO)を、供給速度7g/h(0.15mol/h)で供給し、上記の反応溶液に含まれる硝酸イオンを部分的に還元して、還元液としながら、ポンプを使用して、この還元液を抜き出して、電気透析装置の陽極室に供給するとともに、陽極室から還元装置の触媒槽に戻す操作を繰り返して、還元液(反応溶液を含む)を循環させた。
【0061】
ここで、反応溶液に含まれる硝酸ナトリウムの量(体積モル濃度)を2mol/L、水酸化ナトリウムの量(体積モル濃度)を0.01mol/Lとした。
また、陽極室内における還元液の温度を65℃に制御した。
【0062】
また、陽極室内における還元液に含まれる硝酸ナトリウムの量(体積モル濃度)を2mol/L、水酸化ナトリウムの量(体積モル濃度)を0.01mol/Lとした。
【0063】
ここで、陰極室内における還元液に含まれる水酸化ナトリウムの量(体積モル濃度)を0.2mol/Lとした。また、陰極室内における還元液の温度を65℃に制御した。
【0064】
電気透析装置による電気透析において、陽極室の陽電極と陰極室の陰電極との間に流す電流値を3A、電流密度を70mA/cmとした。
また、透過膜に対する還元液の供給圧力を0.01MPaとした。
【0065】
電気透析開始から1時間毎に、陽極室および陰極室から採取した試料についてpHおよび、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン(NH)、硝酸イオン(NO)、亜硝酸イオン(NO)の濃度を測定した。
【0066】
以上の試験結果を検証する。
図2は、陽極室における還元液のpHを測定した結果を示したグラフである。
図2に示したグラフの結果から、試験開始から5時間後にpHの僅かな減少が見られるが、これは、ヒドラジンの供給量が経時的に減少したためであると考えられる。そこで、これ以降、ヒドラジンの供給量を増加させて、その供給量を一定に制御することにより、還元液のpHを一定に保ちながら、硝酸イオンの分解とナトリウムイオンの回収を行えることが確認された。
【0067】
また、図3は、ナトリウムイオンの回収量と、水酸化物イオンの生成量を示したグラフである。
水酸化物イオンの生成量は、下記の反応式(5)に基づいて、測定により得られた硝酸イオンの減少量から求めた。
4NaNO+5N→7N+4NaOH+8HO (5)
【0068】
図3に示したグラフにおけるナトリウムイオン物質量の変化の傾きから、ナトリウムイオンの回収速度0.076mol/hが得られた。一方、図3に示したグラフにおける水酸化物イオン物質量の変化の傾きから、水酸化物イオンの生成速度0.074mol/hが得られた。
このように、ナトリウムイオンの回収速度と水酸化物イオンの生成速度がほぼ等しいことが確認された。したがって、還元液のpHがほぼ一定のまま反応溶液を処理できたのは、電気透析による水酸化ナトリウムの回収速度と、触媒法による水酸化ナトリウムの生成速度がほぼ等しいことによるのが、実験的に示された。
その結果、水酸化ナトリウムの回収速度、あるいは、水酸化ナトリウムの生成速度を制御する、すなわち、ヒドラジンの供給速度、あるいは、陽電極と陰電極の間に流す電流値を制御することにより、pHを制御しながら、反応溶液を処理することが可能であることが確認された。
【0069】
また、陽電極と陰電極の間に流した電流値から得られる回収速度0.082mol/hを比較して、この試験における電流効率が93%であることが分かった。
【0070】
これらの試験の結果、触媒法による水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、電気透析によるナトリウムイオンの回収速度とを等しくすることにより、還元液のpHを一定に保ちながら、連続的に反応溶液を処理することが可能であることが確認された。
これにより、触媒法による水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、電気透析によるナトリウムイオンの回収速度をあらかじめ設定することにより、処理中の還元液のpHを任意に設定できる。また、処理中の還元液のpHの調整は、ヒドラジンの供給速度(すなわち、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度)、あるいは、陽電極と陰電極の間に流す電流値(すなわち、ナトリウムイオンの回収速度)を制御することにより可能となる。
【符号の説明】
【0071】
10・・・放射性廃液処理装置、11・・・還元装置、12・・・電気透析装置、13・・・透過膜、14・・・陽極室、15・・・陰極室、16…電解槽、17・・・放射性廃液貯留槽、18・・・蒸発装置、19・・・復水受槽、20・・・濃縮液受槽、21・・・pH計測装置、22・・・循環槽、23・・・陰極液受槽、24・・・触媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム塩を含有する放射性廃液の処理方法であって、
放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする廃液還元工程と、
ナトリウムイオンを選択的に透過する透過膜の両側に陽電極、陰電極を設置した電解槽の陽極室に、前記還元液を供給して、前記還元液の電気透析を行う電気透析工程と、を有し、
前記電気透析工程にて、前記陰極室にて、前記透過膜を透過したナトリウムイオンを水酸化ナトリウムとして分離回収し、前記陽極室に残留した放射性物質を、放射性物質濃縮溶液として分離し、分離された前記水酸化ナトリウムおよび前記放射性物質濃縮溶液をそれぞれ回収し、
前記廃液還元工程における水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度と、前記電気透析工程におけるナトリウムイオン回収速度を等しくすることを特徴とする放射性廃液の処理方法。
【請求項2】
前記廃液還元工程にて、還元剤としてヒドラジンおよび/またはギ酸を用いる化学反応による処理方法を行うことを特徴とする請求項1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項3】
前記還元剤としてヒドラジンおよび/またはギ酸を用いる化学反応による処理方法が、触媒存在下において処理される方法であることを特徴とする請求項2に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項4】
前記廃液還元工程において、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種の生成速度を、前記放射性廃液への前記還元剤の供給速度により制御することを特徴とする請求項2または3に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項5】
前記廃液還元工程にて生成する前記還元液のpHを10以上とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項6】
前記廃液還元工程において、前記放射性廃液への前記還元剤の供給速度を、前記電気透析工程において前記陽極室にて回収された放射性物質濃縮溶液のpH、前記放射性廃液を還元する還元装置内のpHおよび前記陽極室入口のpHのうち少なくとも1つを計測した計測値に基づいて制御することを特徴とする請求項5に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項7】
前記電気透析工程において前記陽極室にて回収された放射性物質濃縮溶液を、前記廃液還元工程に供給することを特徴とする1ないし6のいずれか1項に記載に放射性廃液の処理方法。
【請求項8】
前記電気透析工程において、ナトリウムイオン回収速度を、前記陽電極と前記陰電極の間に流す電流値により制御することを特徴とする請求項1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項9】
ナトリウム塩を含有する放射性廃液の処理装置であって、
放射性廃液に含まれる硝酸ナトリウムを部分的に還元して、前記放射性廃液を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む還元液とする還元装置と、
前記還元液に含まれるナトリウムイオンを選択的に透過する透過膜、前記透過膜を介して設けられた陽極室および陰極室、並びに、前記透過膜の両側にそれぞれ設置された陽電極および陰電極を有する電気透析装置と、
前記陽極室にて回収され、前記陽極室から前記還元装置に供給される放射性物質濃縮溶液のpH、前記還元装置内のpHおよび前記陽極室入口のpHのうち少なくとも1つを計測するpH計測装置と、を備えたことを特徴とする放射性廃液の処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243392(P2010−243392A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93878(P2009−93878)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】