説明

放電灯安定器

【課題】汎用性に優れ、しかも放電灯ないし配線における異常放電等を適切に検知しえる放電灯安定器を提供する。
【解決手段】放電灯安定器10は、放電灯48に供給される電圧を検知する電圧検知手段50と、放電灯点灯スイッチ投入後の複数のモード期間における正常電圧領域と、前記放電灯への供給電圧を比較し、該供給電圧が各モード期間の正常電圧領域から逸脱した場合に放電灯への電力供給を停止する電力供給制御手段52と、を備え、前記電力供給制御手段は、少なくとも、放電灯の点灯スイッチ投入後、放電灯点灯検知または最大正常始動期間経過まで無負荷電圧を正常電圧領域とする始動モードと、放電灯始動検知後、異常短絡高電圧領域と始動初期異常短絡低電圧領域間を正常電圧領域とする始動初期モードと、前記始動初期モード終了後、異常短絡高電圧領域と安定点灯期異常短絡低電圧領域間を正常電圧領域とする安定点灯期モードと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電灯安定器、特にその異常検出機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
放電灯はその始動時に放電開始すなわち放電灯電極間の絶縁破壊を行うパルス状高電圧を発生し、また放電灯点灯後には放電灯電極間電圧(ランプ電圧)の急激な低下に伴う過剰電流の導通を抑制するため、放電灯安定器が用いられる。
一方、最近は放電灯のチラツキなどを防止するため、高周波点灯、矩形波点灯が汎用され、これらの点灯方式を実現するため半導体素子を用いてブリッジ回路を形成し所望の高周波、矩形波を得る電子式放電灯安定器が汎用される。
【0003】
しかしながら、前述のように放電灯の始動に当たっては高電圧パルスを要し、この高電圧により電極間以外の部分でも短絡を生じる場合があり、また放電灯が点灯してしまえば、そのランプ電圧は短絡電圧に近似するため、放電灯外球内であって電極間以外の部分で放電を生じた場合、あるいは配線において短絡を生じた場合にも、放電灯安定器は点灯電力を供給し続け、回路(管灯回路上の部品 ランプを含む)の破損等を生じる場合がある。このため、放電灯の点灯不能、あるいは異常放電、短絡の検知を適切に行い、点灯電力の供給を停止する機構が各種考えられてきた(特許文献1)。
【0004】
これらの機構は、放電灯点灯時のランプ電圧ないし電流波形を計測し、その歪みから点灯状態を判別するものであるが、ランプ電圧ないし電流波形は放電灯の特性により変化するため、特定の放電灯に対しては特定の安定器を用いる必要を生じ、汎用性にかけるものであった。
【特許文献1】特開2005−158365
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は汎用性に優れ、しかも放電灯ないし配線における異常放電等を適切に検知しえる放電灯安定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明にかかる放電灯安定器は、
前記放電灯に供給される電圧を検知する電圧検知手段と、
放電灯点灯スイッチ投入後の複数のモード期間における正常電圧領域と、前記放電灯への供給電圧を比較し、該供給電圧が各モード期間の正常電圧領域から逸脱した場合に放電灯への電力供給を停止する電力供給制御手段と、を備え、
前記電力供給制御手段は、少なくとも、
放電灯の点灯スイッチ投入後、放電灯点灯検知または最大正常始動期間経過まで無負荷電圧を正常動作領域とする始動モードと、
放電灯始動検知後、異常短絡高電圧領域(150V以上無負荷電圧以下)と始動初期異常短絡低電圧領域(10V以下)間を正常電圧領域とする始動初期モードと、
前記始動初期モード終了後、異常短絡高電圧領域と安定点灯期異常短絡低電圧領域(30V以下)間を正常電圧領域とする安定点灯期モードと、
を有することを特徴とする。
【0007】
また、前記安定器において、始動モードの無負荷電圧は200V以上であり、また最大正常始動期間は10分間以上、40分間以下であることが好適である。
また、前記安定器において、始動初期モードの異常短絡高電圧領域は120V以上、始動初期異常短絡低電圧領域は15V以下であり、始動初期モード期間は放電灯点灯検知後3〜10分間であることが好適である。
また、前記安定器において、安定点灯期異常短絡低電圧領域は50V以下であることが好適である。
【0008】
また、前記安定器において、いずれのモードにおいても、前記無負荷電圧は、最大正常始動期間経過まで正常動作領域とすることが好適である。
また、前記安定器において、電圧検知手段は、インバータ回路前段の直流電圧を検知することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明にかかる放電灯安定器は、放電灯始動スイッチ投入後の各種ステップに応じて異常放電等を生じた際の電圧値の異常範囲を設定したので、ランプ電流ないし電圧の波形変化を検知する場合と比較し、高い汎用性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる放電灯安定器10の概略構成が示されている。
本実施形態にかかる放電灯安定器10は、商用交流電源12の交流電流を整流し直流化する整流回路14と、該整流回路14の出力する低電圧直流電流を十分に昇圧し、出力直流電圧を一定に制御するとともに、入力電流の高調波成分を低減するアクティブフィルタ回路16と、パルス幅変調により電流制御を行うPWM降圧回路18と、該PWM降圧回路18の出力する直流点灯電力をフルブリッジ回路により矩形波交流電力とするインバータ回路20とを備える。
【0011】
そして、アクティブフィルタ回路16は、昇圧トランス22、チョッパ用スイッチング素子24及びそのドライバー26を備え、前記ドライバー26によるスイッチング素子24の作動制御により電圧制御を行う。
また、PWM降圧回路18は、平均電流をパルス幅変調により制御するスイッチング素子28と、その変調電流を平滑化するチョークコイル30及びコンデンサ32とを備え、前記スイッチング素子28はドライバー34により作動制御される。
また、インバータ回路20はブリッジ接続されたスイッチング素子36,38,40,42と、該スイッチング素子36〜42のオン/オフを制御するドライバー44とを備え、高周波矩形波点灯電力を出力する。
そして、インバータ回路20の出力はLC振動型スタータ回路46を介してランプ48に供給される。
【0012】
本実施形態において、電圧検知手段50はインバータ回路20の前段、すなわちPWM降圧回路18の出力する直流電力の電圧を検知している。
そして、制御手段52は、前記各ドライバー26,34,44に対し指示を与え、接続されるランプ48に最適な電流値、電圧値及び矩形波周波数を設定する。
本発明において特徴的なことは、前記制御手段52が、複数のモード期間ごとの正常電圧領域を有し、その領域から逸脱した場合に異常と判定し、放電灯への電力供給を停止することである。
すなわち、本実施形態においては、図2に示すように4モードを有している。
【0013】
[始動モード]
まず、放電灯電源投入後の最初のモードが始動モードであり、放電灯点灯検知まで無負荷電圧を正常動作領域とする。この無負荷電圧は一般的な放電灯を基準とした場合、通常200V以上であり、本実施形態においては240Vに設定されている。そして、この240Vの矩形波がスタータ回路46を介してランプ48に始動電圧として供給される。この際、スタータ回路46は、ランプ48に直列接続されたコイル54と、ランプ48に並列接続されたコンデンサ56によるLC振動によりパルス状高電圧を重畳する。このパルス状高電圧は2.5〜5.0kVであるが、無負荷電圧としては把握していない。
【0014】
そして、本実施形態において、各モード期間を通じて無負荷電圧は、異常電圧とはしていない。これはランプの立ち消えなどにより、どのモードにあってもランプの再始動が必要となる場合があるためであるが、ランプ不良により始動ないし再始動が不可となった場合に高圧の無負荷電圧及びパルス状高電圧が印加され続けることは、回路への負担のみならず、安全性にも悪影響を与えるおそれがある。このため、最大正常始動期間、すなわちランプの初期始動時ないし再始動時に要する始動期間を設定し、これを超えてランプ点灯が検出されない場合にはランプに障害が発生したと判定し、無負荷電圧のランプ48への供給を停止する。なお、最大正常始動期間は、再始動時に要する時間を考慮すると10分間以上40分間以下であり、この期間、ランプ点灯が検出されない場合には、点灯不能と判定し始動動作を停止する。また、瞬時のみランプが点灯し、再消灯を繰り返す場合もあり、瞬時ランプ点灯で最大正常始動期間のカウントをリセットすると、事実上点灯不能のランプに対し、長時間にわたり無負荷電圧が印加され続けるおそれがある。このため、本実施形態においては3〜20秒間継続して正常点灯が検出されつづけた場合にのみ、最大正常始動期間のカウントをリセットすることとしている。
【0015】
また、本発明において、無負荷状態での矩形波供給は、間欠的に行っている。このため、例えばランプ始動に時間がかかる場合にも、過度のパルス状高電圧が回路に負荷をかけることを防止することができる。
【0016】
[点灯検出モード]
本実施形態において、放電灯の点灯検出はランプ電圧の急激な低下により検出している。すなわち、ランプ48の点灯により、ランプ電極間は短絡電圧となり、20V以下、本実施形態においては10V以下に低下する。この電圧の急激な低下を検知し、ランプ点灯を判定する。なお、ランプ点灯は、電圧変化によらず、例えばランプ電流の急激な増加、あるいはランプ点灯に伴う光検知などによって検出しても良い。この点灯検出モードは点灯検知より10〜60秒程度、本実施形態においては30秒に設定している。この間は、事実上の異常検知は行われていない。
【0017】
[始動初期モード]
本発明においてランプの点灯が検出された後は、始動初期モードと安定点灯期モードに分けて管理している。
すなわち、ランプ点灯直後は、前述したようにランプ電圧が極めて低いが、点灯検出モードの数十秒を経過すると、ランプ電圧は徐々に上昇を始め、正常点灯時には5〜20V以上、本実施形態においては10V以上、通常は15V以上に達する。しかしながら、放電灯が外球内放電を起こした場合には150V以上の電圧値が検出される場合が多く、安定器とランプの間の配線が短絡した場合には数V程度の検出電圧が継続される。
【0018】
そこで、本発明では、始動初期モードにおいて、検出電圧が10V以下、本実施形態においてはさらに安全を見込み15V以下(始動初期異常短絡低電圧領域)、ないし150V以上、好ましくはさらに安全を見込み120V以上であって無負荷電圧以下(異常短絡高電圧領域)の場合には、異常点灯ないし異常短絡と判断し、点灯電力の供給を停止する。これらの電圧異常は30秒以上の継続により点灯異常と判断しており、30秒以下で無負荷検出(ランプ消灯)或いは正常点灯(10V以上、好ましくは30V以上、150V以下)が10秒間継続することによりリセットする。
なお、この始動初期モードは点灯後3〜10分間、好ましくは5分間程度が好ましい。
【0019】
[安定点灯期モード]
始動初期モードが終了すると、次に安定点灯期モードに移行する。
この安定点灯期モードでは、ランプ電圧の上昇も緩やかとなり、30V以上、本実施形態では50V以上に達してこの電圧が維持される。
一方、外球内放電或いは配線の短絡などでも、その状況により20〜30V程度の低電圧で生じている場合が確認されており、これらもランプ異常として判定する必要がある。
【0020】
そこで安定点灯期モードにおいては、本実施形態では30V以下、好ましくはさらに安全を見込み50V以下の電圧(安定点灯期異常短絡低電圧領域)にあっても異常点灯と判断し、異常判定の精度を向上させている。
なお、この安定点灯期モードにおいても、異常電圧検出が10秒以上で異常と判定し、無負荷検出あるいは正常点灯が10秒以上でこれらの異常電圧検出のカウントをリセットする。
【0021】
本実施形態にかかる放電灯安定器は以上のように構成され、正常点灯されたランプ電圧が刻々と変化するという特殊性に配慮しつつ、異常点灯、外球内放電などの異常放電、配線等における短絡、断線に対しても適切な検出と点灯電力遮断を行うことができる。
そして、本実施形態においては、矩形波の波形の歪みなどを検出するのではなく、検出電圧の変化に基づき異常を判定しているため、同等の規格のランプであれば、個々のランプの特性相違などで正常ないし異常の判定が行われてしまうことはなく、汎用性が高いという利点がある。
【0022】
なお、本実施形態においては、ランプ電圧はインバータ回路前段の直流電圧より検出しており、矩形波の極性に影響されずに安定した電圧検出を行うことができる。
さらに、本実施形態において、図3に示すように矩形波の極性切り替りの前後を避け、ランプ電圧検出を行っている。すなわち、フルブリッジ前段であっても、特にスタータ回路46のLC振動の影響はノイズとして帰還する。このノイズのランプ電圧検出に与える影響を防止するため、LC振動が事実上停止している期間に検出を行うのである。
また、本実施形態において、矩形波の一周期の正極性、負極性のそれぞれの電圧値を測定し、その差分の絶対値が一定領域に入るかどうかにより、半波放電の検出を行うことも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態にかかる放電灯安定器の概略構成の説明図である。
【図2】図1に示した放電灯安定器の電力供給制御手段の説明図である。
【図3】図1に示した放電灯安定器に用いられている電圧検出手段の電圧検出状態の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10 放電灯安定器
20 インバータ回路
46 スタータ回路
48 ランプ
50 電圧検知手段
52 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を矩形波交流電力とするインバータ回路と、
前記インバータ回路の出力する矩形波電力に対し、パルス状高電圧を重畳し、放電灯の始動を行うスタータ回路と、を備えた放電灯安定器において、
前記放電灯に供給される電圧を検知する電圧検知手段と、
放電灯点灯スイッチ投入後の複数のモード期間における正常電圧領域と、前記放電灯への供給電圧を比較し、該供給電圧が各モード期間の正常電圧領域から逸脱した場合に放電灯への電力供給を停止する電力供給制御手段と、を備え、
前記電力供給制御手段は、少なくとも、
放電灯の点灯スイッチ投入後、放電灯点灯検知または最大正常始動期間経過まで無負荷電圧を正常動作領域とする始動モードと、
放電灯始動検知後、異常短絡高電圧領域(150V以上無負荷電圧以下)と始動初期異常短絡低電圧領域(10V以下)間を正常電圧領域とする始動初期モードと、
前記始動初期モード終了後、異常短絡高電圧領域と安定点灯期異常短絡低電圧領域(30V以下)間を正常電圧領域とする安定点灯期モードと、
を有することを特徴とする放電灯安定器。
【請求項2】
請求項1記載の放電灯安定器において、始動モードの無負荷電圧は200V以上であり、また最大正常始動期間は10分間以上、40分間以下であることを特徴とする放電灯安定器。
【請求項3】
請求項1または2記載の放電灯安定器において、始動初期モードの異常短絡高電圧領域は120V以上、始動初期異常短絡低電圧領域は15V以下であり、始動初期モード期間は放電灯点灯検知後3〜10分間であることを特徴とする放電灯安定器。
【請求項4】
請求項1〜3記載の放電灯安定器において、安定点灯期異常短絡低電圧領域は50V以下であることを特徴とする放電灯安定器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の放電灯安定器において、いずれのモードにおいても、前記無負荷電圧は、最大正常始動期間経過まで正常動作領域とすることを特徴とする放電灯安定器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の放電灯安定器において、電圧検知手段は、インバータ回路前段の直流電圧を検知することを特徴とする放電灯安定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−289588(P2009−289588A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141012(P2008−141012)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000126274)株式会社アイ・ライティング・システム (56)
【Fターム(参考)】