説明

故障予測診断支援システム

【課題】 熟練メンテナンス技術者の保有する故障予測診断手法に関する知見を全てのメンテナンス技術者で共有可能とし故障予測診断精度の向上を可能とする故障予測診断支援システムを提供する。
【解決手段】 各設備20からの運転データDを記憶する運転データベース3と、各設備の機種及び運転状況に応じて区分された設備グループ毎の運転データDに基づく故障予測診断ルールRの入力を受け付ける診断ルール入力部4と、受け付けた故障予測診断ルールRを、同じ設備グループの運転データDを用いて予測確度を評価する診断ルール評価部6と、所定の高確度で故障予測可能と評価された故障予測診断ルールR1を本登録する診断ルールデータベース7とを備え、運転データベース3と診断ルールデータベース7と診断ルール入力部4が所定のコンピュータ端末31からアクセス可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備メンテナンス(保全)におけるメンテナンス技術者の故障予測診断をコンピュータによるデータ処理を利用して支援する故障予測診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、設備メンテナンス(保全)における一般的な手法の特徴を分類して表示したものである。ここで、事後保全は、設備の故障停止等の有害な性能低下が発生してから修復を行う保全方法である。予防保全は、定期的な点検を通じて性能劣化を把握し、早期に復元処置を行う保全方法であり、大別して、コンディションベースド・メンテナンス(Condition Based Maintenance:CBM)とタイムベースド・メンテナンス(Time Based Maintenance:TBM)がある。改良保全は、設備の形状、材料等の改良を通じて故障を防止する保全方法である。保全予防は、設備導入時に最新技術等の導入により低コスト、高信頼性の運用を実現する保全方法である。予知保全は、遠隔監視データを利用し、設備の状態から異常を予知し、最適な保全を行う保全方法である。
【0003】
事後保全は、事象の発生により対応するため、事象が発生することを前提にした場合は、対応コストは最小限の範囲に抑えることができ、安価になるが、故障の波及効果により思わぬコスト負担が発生する場合がある。予防保全では、現場での点検や劣化診断作業費が発生する(CBM)、或いは、予防部品の交換費用が決まって発生する(TBM)ため、対応コストが事後保全に比べ高くなり、信頼性としては、多発故障に対する予防保全であるため、信頼性は十分ではない。予知保全の場合は、遠隔監視等のデータで状態把握することができるので、信頼性をより高くすることができるとともに、コストも低く抑えることが可能である。しかし、故障の予知は、まだ症状が顕著に出ていない時期での判定が必要となるため、診断が難しく、その判定基準も理論的または経験的に証明されるものに限られることが多い。一方、熟練したメンテナンス技能者の中には、豊富な経験に基づく判断(勘)により対応し、故障防止に繋がることもある。
【0004】
【非特許文献1】“設備保全の体系化に関する調査研究報告書、2章 設備保全(思想・運動)の展開”、[online]、1987年3月、社団法人日本プラントメンテナンス協会、[平成17年3月5日検索]、インターネット<URL:http://www.jipm.or.jp/giken/PDF/07/07-02.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
設備メンテナンスにおけるメンテナンス技術者の中でも、熟練したメンテナンス技術者は、豊富なメンテナンス及び故障対応の経験から、設備(機械)の特性を熟知し、その勘(経験的な知見)から故障や劣化を予見している。該設備に関わるメンテナンス技術者の技能レベル、熟練度により、未然の故障防止が実現可能である。但し、一つの設備に対する知見は、設備の機種、メーカ、運転環境等が異なる場合は、他の設備にそのまま適用できない場合がある。また、全ての設備に対して、万能且つ熟練したメンテナンス技術者を割り当てることは、更に困難である。
【0006】
設備の突発故障停止は、計画的な負荷運用を妨げる。機能的な周辺への影響が問題となることは、当然であるが、場合によっては、故障及び設備停止に起因する計画外費用の発生を招くこともある。一方、故障復旧のための修復メンテナンスの機会が増えることにより、その保守費用の思わぬ増大も招く。従前の設備メンテナンスにおいては、予防保全では、交換部品、作業費等が、交換頻度により固定され、メンテナンスコストを下げることはできない。他方、事後保全では、メンテナンスコストは最小となるが、故障発生の防止はできない。よりメンテナンスコストを最小限に抑え、効率的なメンテナンスを行う仕組みが必要である。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、熟練メンテナンス技術者の保有する故障予測診断手法に関する知見を全てのメンテナンス技術者で共有可能とし故障予測診断精度の向上を可能とする故障予測診断支援システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る故障予測診断支援システムは、設備メンテナンスにおけるメンテナンス技術者の故障予測診断をコンピュータによるデータ処理を利用して支援する故障予測診断支援システムであって、既設の各設備からの運転データを記憶する運転データベースと、前記各設備の機種及び運転状況に応じて区分された設備グループ毎の前記運転データに基づく故障予測診断ルールの入力を受け付ける診断ルール入力部と、前記診断ルール入力部が受け付けた前記故障予測診断ルールを、同じ前記設備グループの前記運転データベースに記憶された前記運転データを用いて予測確度を評価する診断ルール評価部と、前記診断ルール評価部で所定の高確度で故障予測可能と評価された前記故障予測診断ルールを本登録して記憶する診断ルールデータベースと、を備えてなり、少なくとも前記運転データベースと前記診断ルールデータベースと前記診断ルール入力部が、所定のコンピュータ端末からアクセス可能に構成されていることを第1の特徴とする。
【0009】
上記第1の特徴の故障予測診断支援システムによれば、例えば、特定の設備グループに関わる熟練メンテナンス技術者の故障予測診断のノウハウが、該熟練メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末からのアクセスにより診断ルール入力部により故障予測診断ルールとして入力され、診断ルール評価部によりその予測確度が実際の運転データの履歴に基づいて評価される。ここで、高確度で故障予測可能と評価された故障予測診断ルールが、他のメンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末からアクセス可能に診断ルールデータベースに本登録され共有可能となるので、他のメンテナンス技術者は、自己の担当する他の設備グループに属する設備や同じ設備グループの他の部位に対して高確度で故障予測可能な故障予測診断ルールを作成する場合に、本登録された故障予測診断ルールを参考にすることができる。また、メンテナンス技術者が新たに作成した故障予測診断ルールは、診断ルール評価部により、その予測確度が容易に評価確認できるため、メンテナンス技術者は熟練メンテナンス技術者の作成した故障予測診断ルールをベースに容易に種々の故障予測診断ルールを試作して検討することができ、故障予測診断ルールの予測確度の向上を容易に図ることができる。更に、メンテナンス技術者全体の故障予測診断に係る技能が向上し、設備メンテナンスの品質向上が図れる。
【0010】
尚、上記第1の特徴の故障予測診断支援システムでは、故障予測診断ルールを設備グループ単位で構成することにより、設備単位で故障予測診断ルールを作成する場合に比べて、診断ルール評価部が利用できる運転データ量が多く、より高度な予測確度の評価が可能となる。また、故障予測精度が運転状況に依存して変化する可能性があるため、設備の機種単位で故障予測診断ルールを作成する場合に比べて、同機種内の同じ運転状況(設置環境や運転方法(連続運転/断続運転))の設備に限定されるため、正確な予測確度の評価が可能となる。結果として、予測確度の高い高信頼度の故障予測診断ルールの作成が可能となる。
【0011】
以上の結果として、設備の突発故障の兆候とその悪化の進捗度を把握することで、メンテナンス負荷も従前の予防保全を実施する場合より軽減することが可能となり、適切な時期に計画的な定期点検・メンテナンスによる必要最小限の修復措置を実施し、設備の計画外故障停止を防ぐことが期待できる。このことにより、設備の運転信頼性と従来の予防保全に依拠していたメンテナンスの低コスト化が実現できる。
【0012】
尚、本発明に係る故障予測診断支援システムにおいて、「故障」とは設備の正常な動作が損なわれる現象を意味し、設備が運転不能となる場合、運転不能とはならないが所期の運転性能を発揮しない状態となる場合等が含まれるが、その定義の広狭は対象とする設備の特性やメンテナンス範囲に応じて適宜定めることができる。また、運転データは、設備の運転状態や制御状態を表すデータに限らず、運転に関係する種々のデータが対象となり得る。
【0013】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記第1の特徴に加え、前記診断ルール入力部が受け付けた前記故障予測診断ルールの内、前記診断ルールデータベースに本登録されない前記故障予測診断ルールを仮登録して記録可能で、外部のコンピュータ端末からアクセス可能に構成されている第2診断ルールデータベースを備え、前記診断ルール評価部は、前記第2診断ルールデータベースに仮登録された前記故障予測診断ルールに対しても前記運転データを用いた予測確度の評価が可能であることを第2の特徴とする。
【0014】
上記第2の特徴の故障予測診断支援システムによれば、診断ルール評価部により予測確度が不十分と判定された故障予測診断ルールや、作成途中の故障予測診断ルール等を第2診断ルールデータベースに仮登録可能であるため、メンテナンス技術者は、自己の使用するコンピュータ端末からの操作により、診断ルールデータベースに本登録された故障予測診断ルールを参考にして、故障予測診断ルールに用いる運転データの適正化や判定基準の見直し等を繰り返して、仮登録された故障予測診断ルールの改良及び調整が可能となり、更に、改良または調整後の故障予測診断ルールを診断ルール評価部によってその予測確度の評価を行うことで、改良または調整の完成度を確認できる。
【0015】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記何れかの特徴に加え、前記故障予測診断ルールが、前記設備グループにおける前記運転データの中から選択された診断対象運転データと、前記診断対象運転データに対する必要な場合の前処理内容と、前記診断対象運転データまたは前記前処理内容に基づく前処理後の前記診断対象運転データで規定される1次元または2次元以上の判定空間における故障予測領域とで構成されることを第3の特徴とする。尚好ましくは、本第3の特徴において、前記前処理内容として汎用的な統計演算処理が含まれる。
【0016】
各設備から直接出力される運転データは、必ずしも故障予測診断の目的だけに出力されているものではなく、運転制御や管理目的のものも多いため、これらの運転データの内には、故障予測診断には不適なもの、直接監視することで故障予測診断可能なもの、或いは、何らかの前処理を施すことで初めて故障予測診断に利用可能となるもの等が含まれる。
【0017】
上記第3の特徴の故障予測診断支援システムによれば、各設備から出力される運転データを適正に用いて高確度で故障予測診断可能な故障予測診断ルールを、簡単な構成で作成できる。このため、メンテナンス技術者は、新たな故障予測診断ルールを、本登録された故障予測診断ルールを参考にする等して、診断対象運転データの選択、前処理内容の設定、故障予測領域の設定等を行うことで、高確度で故障予測可能な故障予測診断ルールを新たに作成することができる。特に、診断対象運転データに対して適正な前処理を施すことで、そのままでは、故障予測不可能であったものが、正常状態と異常状態(特に初期段階での異常状態)との差異が顕著に現れる場合があり、本登録された故障予測診断ルールを参考にする等して当該手法を繰り返し試行することで、高確度で故障予測可能な故障予測診断ルールの作成が可能となる。
【0018】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記第3の特徴に加え、前記前処理内容を実行するための前処理手段を備え、前記診断ルール評価部が、前記故障予測診断ルールの予測確度を評価する際に、前記前処理手段を用いて、前記故障予測診断ルールに含まれる前記前処理内容に基づく前処理を実行することを第4の特徴とする。
【0019】
上記第4の特徴の故障予測診断支援システムによれば、前処理手段を備えることで、故障予測診断ルールに含まれる前処理内容に基づく前処理を実行することができ、例えば、診断ルール評価部は、故障予測診断ルールの予測確度を具体的に評価することが可能となり、上記第1の特徴構成を具体的に実現でき、同作用効果を具体的に発揮することができる。
【0020】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記第3または第4の特徴に加え、前記診断対象運転データに前記故障予測診断ルールを適用した場合の前記判定空間を可視化して表示するための表示データを作成するグラフ化手段を備えることを第5の特徴とする。
【0021】
上記第5の特徴の故障予測診断支援システムによれば、メンテナンス技術者は、グラフ化手段によって可視化された故障予測診断ルールの判定空間と診断対象運転データまたは前処理後の運転データとの関係を目視により容易に確認できるため、故障予測診断ルールの故障予測領域の設定や調整を、より簡易且つ正確に行うことができる。更に、故障予測領域の設定が困難な場合は、当該状況も目視により直感的に把握できるため、診断対象運転データや前処理内容の変更を検討可能となる。これにより、メンテナンス技術者の故障予測診断ルールの作成が大幅に簡易化、高効率化される。また、診断ルールデータベースに本登録された故障予測診断ルールを参考にする場合も、可視化された当該故障予測診断ルールの判定空間と診断対象運転データまたは前処理後の運転データとの関係を目視により確認できるため、その予測確度が高い理由の分析等も可能となり、具体的に参考とすべき個所の特定が容易となる。
【0022】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記第5の特徴に加え、前記故障予測診断ルールの作成を支援する診断ルール作成支援部を備え、前記診断ルール作成支援部が、前記診断対象運転データの選択を支援する運転データ選択支援手段と、前記前処理手段に含まれる前処理内容の中から前記故障予測診断ルールで使用する前処理内容を選択するための前処理内容選択支援手段と、前記グラフ化手段により可視化された前記判定空間内で前記故障予測領域の設定または変更を支援する予測領域設定支援手段と、を備えてなることを第6の特徴とする。
【0023】
上記第6の特徴の故障予測診断支援システムによれば、メンテナンス技術者の故障予測診断ルールの作成が更に簡易化、高効率化される。
【0024】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記何れかの特徴に加え、既設の前記各設備から前記運転データの入力を受け付ける運転データ入力部と、前記運転データ入力部に入力された前記運転データに対して前記診断ルールデータベースに本登録された前記故障予測診断ルールを適用して、前記各設備に対する故障予測診断を自動的に実行する自動故障診断部と、を備えることを第7の特徴とする。
【0025】
更に、本発明に係る故障予測診断支援システムは、上記第7の特徴に加え、前記自動故障診断部によって故障予測が診断された場合に、当該診断結果を担当の前記メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末或いは携帯情報端末に報知する診断結果報知部を備えることを第8の特徴とする。
【0026】
上記第7または第8の特徴の故障予測診断支援システムによれば、運転データ入力部で逐次入力された各設備からの運転データを基に、自動故障診断部が診断ルールデータベースに本登録された故障予測診断ルールに規定された方法で、当該運転データを用いて高確度の故障予測診断を自動的に実行することで、本登録された故障予測診断ルールを具体的に故障予測診断に適用して、設備の故障予測を実行でき、設備の計画外故障停止を未然に防止できる。
【0027】
特に、上記第8の特徴の故障予測診断支援システムによれば、故障予測診断結果が担当のメンテナンス技術者に対して迅速に報知されるため、該メンテナンス技術者は、適切な処置を迅速に取ることが可能となり、メンテナンス品質の向上が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る故障予測診断支援システム(以下、適宜「本発明システム」と略称する)の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
〈第1実施形態〉
図1に示すように、本発明システム1は、設備メンテナンスにおけるメンテナンス技術者の故障予測診断をコンピュータによるデータ処理を利用して支援する故障予測診断支援システムであって、運転データ入力部2、運転データベース3、診断ルール入力部4、診断ルール処理部5、診断ルール評価部6、診断ルールデータベース7、第2診断ルールデータベース8、診断ルール作成支援部9、自動故障診断部10、診断結果報知部11、及び、通信インターフェース部12を備えて構成される。また、診断ルール処理部5は、前処理手段13とグラフ化手段14を備え、診断ルール作成支援部9は、運転データ選択支援手段15、前処理内容選択支援手段16、及び、予測領域設定支援手段17を備えて構成される。
【0030】
運転データ入力部2は、既設の各設備20から運転データDの入力を受け付ける。具体的には、運転データ入力部2は、各設備20と公衆データ通信回線等の通信ネットワーク21を介してデータ送受信可能な通信機能やセキュリティ機能を備え、各設備20で収集された運転データDを定期的且つ自動的に受信し、運転データベース3に登録する。
【0031】
運転データベース3は、設備20毎に収集した運転データDを、設備単体別、機種別、及び、設置環境や運転方法等の運転状況別に検索可能に、所定の記憶装置の記憶領域へ記憶するとともに、運転データ入力部2、診断ルール処理部5、自動故障診断部10、または、通信インターフェース部12からのデータベース制御命令に従って、運転データDの入力、更新、削除、検索、閲覧等の制御を行う通常のデータベース制御機能も備える。
【0032】
診断ルール入力部4は、通信インターフェース部12とLANやイントラネット等のコンピュータネットワーク30を介して、メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末31とデータ送受信可能に接続し、各メンテナンス技術者(特に熟練メンテナンス技術者)からの各設備20の機種及び運転状況に応じて区分された設備グループ毎の運転データDに基づく故障予測診断ルールRの入力を受け付ける。受け付けた故障予測診断ルールRは、診断ルール評価部6での予測確度評価候補R0として、一旦、第2診断ルールデータベース8に仮登録される。
【0033】
本実施形態では、故障予測診断ルールRは、設備20の機種及び運転状況の区別と、設備20の運転データDの内の故障予測診断に用いる診断対象運転データD0を規定する診断対象運転データポインタDp、診断対象運転データD0に対して使用する前処理内容P(前処理がない場合もある)、診断対象運転データD0または前処理内容Pによる前処理後の診断対象運転データD1で規定される1次元または2次元以上の判定空間における故障予測領域を指定する閾値と大小関係等の故障予測領域データTで構成され、診断ルール入力部4はこれらの入力を受け付ける。また、設備20の運転状況としては、設置環境(屋外屋内の区別、気象環境、電磁環境等)、運転方法(24時間連続運転、毎日発停、週末に運転停止、等の区別)が想定される。
【0034】
診断ルール処理部5は、前処理手段13とグラフ化手段14を備え、前処理手段13が、故障予測診断ルールRで規定される前処理内容Pに対応した前処理を、故障予測診断ルールRの診断対象運転データポインタDpで規定される診断対象運転データD0に対し実行して診断対象運転データD1を生成する。但し、前処理内容Pの設定がない場合は、前処理手段13は何もせずに、診断対象運転データD0がそのまま診断対象運転データD1として使用される。前処理内容Pの一例として、一般的な統計演算処理が含まれる。具体的には、例えば、1時間毎に測定された或る診断対象運転データD0に対する1時間毎の24時間分の移動平均を診断対象運転データD1とする前処理等が含まれる。
【0035】
また、グラフ化手段14は、診断対象運転データD0に故障予測診断ルールRを適用した場合の判定空間を可視化して表示するための表示データを作成する。故障予測診断ルールRに前処理内容Pの設定がある場合には、当該前処理を実行した診断対象運転データD1で規定される判定空間を、前処理内容Pの設定がない場合には、診断対象運転データD0で規定される判定空間を可視化し、その空間に指定された期間の診断対象運転データD0または診断対象運転データD1をプロットする。診断対象運転データD0が単一データの場合には、判定空間が1次元となるため、横軸に時間軸を、縦軸に診断対象運転データD0またはD1を取り、診断対象運転データD0またはD1のトレンドグラフを作成する。診断対象運転データD0が2種類のデータの場合には、一方を縦軸に、他方を横軸に取った診断対象運転データD0またはD1の散布図を作成する。トレンドグラフの一例を図2に、散布図の一例を図3に示す。
【0036】
診断ルール評価部6は、診断ルール入力部4が受け付けて第2診断ルールデータベース8に仮登録された予測確度評価候補の故障予測診断ルールR0を、運転データベース3に記憶された同じ設備グループの運転データDを用いて予測確度を評価する。具体的には、第2診断ルールデータベース8から故障予測診断ルールR0の構成(設備20の機種及び運転状況、診断対象運転データポインタDp、前処理内容P、及び、故障予測領域データT)を読み出し、運転データベース3にアクセスして機種及び運転状況が同じ設備グループに属する設備(例えば、数10台或いは数100台分)の診断対象運転データD0の所定期間分(例えば、過去3年分)の履歴データを取得し、その履歴データに対して前処理手段13を用いて前処理内容Pに応じた前処理を実行して、診断対象運転データD1を生成する。次に、前処理手段13により生成された診断対象運転データD1(複数台分の時系列データ)の夫々が、故障予測領域データTで規定される故障予測領域に含まれるかを各別に判定し、その後に実際に故障(故障防止のための修理等を含む)が発生したかの履歴をチェックする。以上の処理を網羅的に実行して、故障予測判定をして故障が起こらない誤検出のケースと、故障予測判定ができずに故障が起こる不検出のケースの各頻度を算出する。例えば、誤検出の年間1台当たりの平均頻度Neが所定回数以下で、故障発生回数に対する不検出の頻度の割合(不検出率)が所定割合以下(例えば0〜5%以下、故障の影響度に応じて変化する)の場合に、当該故障予測診断ルールR0の予測確度を高確度であると判定する。診断ルール評価部6は、高確度で故障予測可能であると評価した故障予測診断ルールR0を実際に運用可能な故障予測診断ルールR1として、診断ルールデータベース7に本登録して記憶する。また、診断ルール評価部6は、高確度で故障予測不可能であると評価した故障予測診断ルールR0を、再調整が必要な故障予測診断ルールR2として、第2診断ルールデータベース8に仮登録して記憶する。
【0037】
診断ルールデータベース7は、診断ルール評価部6で所定の高確度で故障予測可能と評価された故障予測診断ルールR1を、機種グループ別に検索可能に、所定の記憶装置の記憶領域へ本登録して記憶するとともに、診断ルール処理部5、診断ルール評価部6、自動故障診断部10、または、通信インターフェース部12からのデータベース制御命令に従って、故障予測診断ルールR1の入力、更新、削除、検索、閲覧等の制御を行う通常のデータベース制御機能も備える。
【0038】
第2診断ルールデータベース8、診断ルール評価部6で所定の高確度で故障予測不可能と評価された故障予測診断ルールR2、診断ルール評価部6の評価候補で評価前の故障予測診断ルールR0、及び、作成途中の故障予測診断ルールR3等を、メンテナンス技術者別、設備単体別、機種別、及び、運転状況別に検索可能に、所定の記憶装置の記憶領域へ記憶するとともに、診断ルール入力部4、診断ルール処理部5、診断ルール評価部6、診断ルール作成支援部9、または、通信インターフェース部12からのデータベース制御命令に従って、故障予測診断ルールR0,R2,R3の入力、更新、削除、検索、閲覧等の制御を行う通常のデータベース制御機能も備える。
【0039】
診断ルール作成支援部9は、運転データ選択支援手段15、前処理内容選択支援手段16、及び、予測領域設定支援手段17を備え、メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末31からの通信インターフェース部12及び診断ルール入力部4を介した本システム1へのアクセスに対して、通信インターフェース部12及び診断ルール入力部4と協働して、メンテナンス技術者による故障予測診断ルールRの作成を支援する。具体的には、上記アクセスに対して、通信インターフェース部12は、Webブラウザで処理可能なWeb形式のインターフェース画面データをコンピュータ端末31に出力する。コンピュータ端末31では、通信インターフェース部12から送信されたインターフェース画面データを内蔵のWebブラウザで処理して表示画面上に表示することで、必要な処理操作の選択を逐次表示されるメニュー画面等から選択できる。初期画面から故障予測診断ルールの新規作成が選択されると、診断ルール作成支援部9が起動され、メニュー画面上から運転データ選択支援手段15、前処理内容選択支援手段16、及び、予測領域設定支援手段17の使用が可能となる。コンピュータ端末31上で、新規作成用の入力画面から設備グループを指定すると、例えば、運転データ選択ボタンを選択(マウス等の入力デバイスによるクリック操作等)すると、運転データ選択支援手段15は、予め登録された運転データ種別から、指定された設備グループに関連する運転データ種別をリスト表示し、具体的には、当該リスト表示データを通信インターフェース部12がインターフェース画面データとしてコンピュータ端末31に送信し、コンピュータ端末31が当該リスト表示データをWebブラウザにより表示画面上に表示し、コンピュータ端末31上で、そのリスト表示中から1または複数の診断対象運転データD0を選択することで、診断対象運転データポインタDpを設定する。次に、前処理内容選択支援手段16は、選択された診断対象運転データD0に対して実行可能な前処理内容をリスト表示し(具体的な処理内容の説明は省略)、コンピュータ端末31上で、そのリスト表示中から1または複数の前処理内容Pを選択する。次に、予測領域設定支援手段17が、運転データベース3にアクセスして、インターフェース画面で指定された設備グループの運転データDの内の別途指定された所定期間分の選択された診断対象運転データD0を取得するとともに、診断ルール処理部5を起動する。ここで、前処理内容Pが設定されている場合は、前処理手段13により取得した診断対象運転データD0を診断対象運転データD1に変換し、グラフ化手段14により診断対象運転データD1で規定される判定空間をトレンドグラフまたは散布図とする可視化データを作成する。通信インターフェース部12が可視化データをコンピュータ端末31へ送信し、コンピュータ端末31が当該可視化データをWebブラウザにより表示画面上にトレンドグラフまたは散布図として表示する。ここで、表示されたトレンドグラフまたは散布図には、診断対象運転データD0または診断対象運転データD1がプロットされているため、これを参考にして、メンテナンス技術者は、故障予測領域を設定することができる。具体的には、表示されたトレンドグラフまたは散布図上に、例えば、故障予測領域を設定するためのボタンが表示されており、当該ボタンをクリックすると、デフォールトの故障予測領域の境界線が表示され、当該境界線が、マウス等の入力操作によりトレンドグラフまたは散布図上で移動可能に構成されている。例えば、図2に示すようなトレンドグラフが表示されている場合は、横軸に平行な直線(図中、Aと表示されている)が表示され、これを上下に移動して境界線が固定され、故障予測領域が境界線の上下何れの側かを別途指定することにより、故障予測領域データTが設定される。また、図3に示すような散布図が表示されている場合は、例えば、デフォールトの故障予測領域がポリゴンデータ(図中、Bと表示されている)で表示され、当該ポリゴンデータの頂点の個数の増減、位置の移動を行い、ポリゴンデータが固定され、故障予測領域がポリゴンデータの内外何れの側かを別途指定することにより、故障予測領域データTが設定される。以上の要領で、診断ルール作成支援部9によってメンテナンス技術者による故障予測診断ルールRの作成が支援され、故障予測診断ルールRの設備グループの指定、診断対象運転データポインタDpの設定、前処理内容Pの選択、及び、故障予測領域データTの設定が行われると、当該故障予測診断ルールRが、作成途中の故障予測診断ルールR3として第2診断ルールデータベース8に記憶される。ここで、作成途中とは、故障予測診断ルールR3が、診断ルール評価部6での評価が未了で、設備グループ、診断対象運転データポインタDpの設定、前処理内容Pの選択、及び、故障予測領域データTの設定に調整・変更の必要または余地があることを意味する。また、当該調整・変更は、上記新規作成の場合と同じ要領で実行される。
【0040】
自動故障診断部10は、運転データ入力部2に新規に入力された運転データDに対して診断ルールデータベース7に本登録された故障予測診断ルールR1を適用して、各設備20に対する故障予測診断を自動的に実行する。具体的には、自動故障診断部10は、運転データ入力部2から運転データDの新規入力の通知を受けると、診断ルールデータベース7を検索して新規に入力された運転データDとその設備に関連する1または複数の故障予測診断ルールR1を取得する。自動故障診断部10は、取得した故障予測診断ルールR1毎に、故障予測診断を自動的に実行する。先ず、故障予測診断ルールR1の診断対象運転データポインタDpで規定される診断対象運転データD0を新規に入力された運転データDから取得し、故障予測診断ルールR1で規定される前処理内容Pに応じた前処理を、診断ルール処理部5を用いて実行して診断対象運転データD1を作成する。前処理内容Pが設定されていない場合は、診断対象運転データD0を診断対象運転データD1とする。次に、診断対象運転データD1で規定される判定空間内の座標点が故障予測診断ルールR1の故障予測領域データTで規定される故障予測領域内に存在するかを判定し、故障予測領域内に存在する場合は、故障発生の確率が高いとして故障予測判定を行う。
【0041】
診断結果報知部11は、自動故障診断部10によって故障予測判定がなされた場合に、当該故障予測判定結果を、故障予測された設備20を担当するメンテナンス技術者及びその他関係者の使用する各コンピュータ端末31と各携帯情報端末32に報知する。具体的には、診断結果報知部11は、当該故障予測判定結果と故障予測された設備20と故障予測診断に用いた故障予測診断ルールR1を含む診断結果メールデータMを作成し、通信インターフェース部12のメールサーバ内に格納するとともに、該メールサーバが、診断結果メールデータMを、携帯電話等の無線データ通信回線33を介して、担当するメンテナンス技術者等の使用する電子メール機能付き携帯電話32(携帯情報端末の一種)に送信する。各コンピュータ端末31には、メール送受信用の汎用ソフトウェアが内蔵されており、当該汎用ソフトウェアにより、定期的に通信インターフェース部12のメールサーバにアクセスすることにより、診断結果メールデータMが当該アクセス時に、コンピュータ端末31に送信される。
【0042】
通信インターフェース部12は、Webサーバ機能と電子メールサーバ機能を兼ね備える。Webサーバ機能は、本発明システム1の運転データベース3、診断ルール入力部4、診断ルールデータベース7、第2診断ルールデータベース8、及び、診断ルール作成支援部9と、メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末31との間のデータ送受信を賄う。例えば、コンピュータ端末31からの診断ルールデータベース7に本登録された故障予測診断ルールR1の検索を行いその判定空間の可視化画面を閲覧するためのアクセスに対して、通信インターフェース部12は、当該検索用のWeb形式の入力画面データをコンピュータ端末31に送信する。メンテナンス技術者が、コンピュータ端末31の表示画面上に表示された当該検索用の入力画面から設備グループを入力すると、通信インターフェース部12が、受信した当該設備グループに関連した故障予測診断ルールR1を、診断ルールデータベース7を検索して取得し、その一覧データを作成してコンピュータ端末31に送信する。メンテナンス技術者が、コンピュータ端末31の表示画面上に表示された当該一覧データから閲覧したい故障予測診断ルールR1を選択すると、通信インターフェース部12は、選択された故障予測診断ルールR1に対して、診断ルール処理部5による前処理と可視化処理を実行して可視化データを作成する。このとき使用する診断対象運転データD0は、例えば、診断ルール評価部6が使用した範囲のものを使用する。通信インターフェース部12が可視化データをコンピュータ端末31へ送信し、コンピュータ端末31が当該可視化データをWebブラウザにより表示画面上にトレンドグラフまたは散布図として表示する。コンピュータ端末31上で表示された可視化データには、判定空間上に診断対象運転データD0またはD1及び故障予測領域がプロットされており、メンテナンス技術者は、当該可視化データに基づいて、所定の高確度で故障予測可能と評価された故障予測診断ルールR1についての分析を行うことができ、新たに作成する故障予測診断ルールRの参考とすることが可能となる。Webサーバ機能の他の一例として、例えば、診断結果報知部11により診断結果メールデータMを受信したメンテナンス技術者が、当該故障予測された設備の運転データDを更に詳細に分析するために、運転データベース3にアクセスして、運転データDの検索を行う場合が想定される。電子メールサーバ機能については、診断結果報知部11の説明において上述した通りである。
【0043】
尚、本発明システム1は、一般的なコンピュータのハードウェア及びソフトウェアを用いて構成され、運転データ入力部2、診断ルール入力部4、診断ルール処理部5、診断ルール評価部6、診断ルール作成支援部9、自動故障診断部10、診断結果報知部11、及び、通信インターフェース部12は、夫々の処理用のアプリケーションプログラムを当該コンピュータ上で実行することにより実現される。尚、各部のアプリケーションプログラムは、必ずしも同じコンピュータのハードウェア上で実行される必要はない。また、運転データベース3、診断ルールデータベース7、及び、第2診断ルールデータベース8では、夫々の記憶対象データが当該コンピュータの記憶装置の所定の記憶領域に記憶されるが、必ずしも夫々のデータベースの記憶領域が同じ記憶装置上に形成されなくても構わない。
【0044】
次に、本発明システム1を用いて故障予測診断ルールRを作成して本登録する手順について、図4を参照して説明する。尚、各部での具体的な処理手順や動作は既に説明しているので、重複する説明は割愛する。
【0045】
熟練メンテナンス技術者が故障予測診断ルールRを作成した場合は、診断ルール入力部4が、通信インターフェース部12を介して、コンピュータ端末31から故障予測診断ルールRの入力を受け付けて、予測確度評価候補R0として、一旦、第2診断ルールデータベース8に仮登録する(ステップ#1)。
【0046】
次に、診断ルール評価部6が、仮登録された故障予測診断ルールR0を、運転データベース3に記憶された同じ設備グループの運転データDを用いて予測確度を評価する(ステップ#2)。
【0047】
次に、ステップ#2での予測確度の評価結果が、所定の高確度で故障予測可能な場合は、当該評価結果の故障予測診断ルールR0を、実際に運用可能な故障予測診断ルールR1として、機種グループ別に検索可能に、所定の記憶装置の記憶領域へ本登録して記憶する(ステップ#3)。
【0048】
逆に、ステップ#2での予測確度の評価結果が、所定の高確度で故障予測不可能な場合は、当該評価結果の故障予測診断ルールR0を、再調整が必要な故障予測診断ルールR2として、第2診断ルールデータベース8に仮登録して記憶する(ステップ#4)。
【0049】
次に、第2診断ルールデータベース8に仮登録された故障予測診断ルールR2に対し、作成者のメンテナンス技術者が、診断ルール作成支援部9を利用して故障予測診断ルールR2を構成する診断対象運転データポインタDp、前処理内容P、故障予測領域データTの見直しや調整を行い、必要に応じて実機での試験等での確認を行い、故障予測診断ルールR2の修正を行う(ステップ#5)。
【0050】
次に、診断ルール評価部6が、修正後の故障予測診断ルールR2に対し、再度、運転データベース3に記憶された同じ設備グループの運転データDを用いて予測確度を評価する(ステップ#2)。
【0051】
ステップ#3で本登録された故障予測診断ルールR1は、自動故障診断部10による実際の故障予測に運用されるとともに(ステップ#6)、同一機種の他の設備グループに水平展開できないかの判定を行う(ステップ#7)。具体的には、診断ルール評価部6が、或る設備グループの故障予測診断ルールR1に対して、運転データベース3に記憶された同一機種の他の設備グループの運転データDを用いて予測確度を評価する。
【0052】
ステップ#7での予測確度の評価結果が、所定の高確度で故障予測可能な場合は、当該評価結果の故障予測診断ルールR1を、他の設備グループにおいても運用可能な故障予測診断ルールR1として、機種グループ別に検索可能に、所定の記憶装置の記憶領域へ本登録して記憶する(ステップ#8)。
【0053】
ステップ#7での予測確度の評価結果が、所定の高確度で故障予測不可能な場合は、当該評価結果の故障予測診断ルールR1を、他の設備グループにおいて再調整が必要な故障予測診断ルールR2として、第2診断ルールデータベース8に仮登録して記憶する(ステップ#9)。以降は、ステップ#5を経てステップ#2に戻る。
【0054】
次に、一般のメンテナンス技術者が診断ルール作成支援部9を利用して故障予測診断ルールRの作成を開始した場合は(ステップ#10)、作成途中の故障予測診断ルールR3として第2診断ルールデータベース8に仮登録して記憶する(ステップ#4)。以降は、ステップ#5を経てステップ#2に進む。
【0055】
尚、上記手順のステップ#2での予測確度の評価は、診断ルール評価部6が演算処理により自動的に判定しても構わないが、診断ルール評価部6が所定の基準に基づいて仮判定した後に、本発明システム1の運用担当者やメンテナンス技術者が、グラフ化手段14を用いて判定対象の故障予測診断ルールR0を可視化して所定のコンピュータ端末の表示画面上に出力表示して、当該可視化された故障予測診断ルールR0に基づいて、上記運用担当者やメンテナンス技術者が、本登録すべきか否かの最終判断を行うようにしても構わない。
【0056】
次に、本発明システム1を用いて故障予測診断ルールRを作成して本登録することの効果について、具体例を基に説明する。
【0057】
図2に示すトレンドグラフは、設備がガスタービン型コジェネレーションシステムで、監視対象が空気電磁弁の空気漏れである場合の故障予測診断ルールRであり、診断対象運転データD0が1時間毎の空気圧縮機の発停回数で、前処理内容Pが1時間毎の24時間分の移動平均の演算処理で、故障予測領域が、前処理後の診断対象運転データD1が0.3以上(D1>0.3)となっている。図2に示すトレンドグラフは、本発明システム1を用いて作成されたものであり、トレンドグラフの縦軸は前処理後の診断対象運転データD1で、横軸は時間である。図2に示すように、予知点で診断対象運転データD1が0.3以上となり、その6日後に実際に故障が発生しているのを予測できている。
【0058】
これに対し、同じ設備の同じ監視対象に対して、前処理を施さない従来の故障予測診断ルールR’の場合は、図5に示すようなトレンドグラフとなる。図5に示すトレンドグラフの縦軸は診断対象運転データD0で、横軸は時間である。図5に示すように、1時間毎の空気圧縮機の発停回数を監視しているだけでは、故障を予測できないことが分かる。これに対し、診断対象運転データD0に対して移動平均という前処理を施すことにより、正常状態と異常状態の差異が顕著となり、故障予測が可能となっている。
【0059】
次に、本発明システムの別実施形態について説明する。
【0060】
上記実施形態において例示したトレンドグラフや散布図は一例であり、本発明システム1で対象とする故障予測診断ルールRの内容(診断対象運転データD0、前処理内容P、故障予測領域データT等)を限定するものではない。
【0061】
また、上記実施形態では、故障予測診断ルールRの前処理内容Pとして移動平均(統計処理の一種)を例示したが、前処理内容Pは移動平均以外にも、他の統計処理やその他の演算処理の中から適宜選択可能である。例えば、前処理内容Pとして、診断対象運転データD0に対する或るデータ範囲でフィルタリング処理、イベントメッセージ間での発生時間間隔抽出処理、複数の診断対象運転データD0に対する数値演算処理、診断対象運転データD0の間引き処理等が想定される。
【0062】
また、上記実施形態では、図2及び図3において、故障予測診断ルールRの診断対象運転データD0として、1時間毎の空気圧縮機の発停回数、発電電力、ガスタービンの吸気温度を例示したが、診断対象運転データD0はこれらに限らず、時刻、遠隔監視による運転データ、周辺環境データ、現場点検時の採取データ、機械の制御変数、警報メッセージ、警報メッセージの発生時間等、設備の運転に関係する各種データが想定される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る故障予測診断支援システムは、設備メンテナンスに利用可能であり、特に、メンテナンス技術者による故障予測診断ルールの作成支援、及び、故障予測診断の自動化に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る故障予測診断支援システムの一実施形態における概略の構成を模式的に示すブロック図
【図2】本発明に係る故障予測診断支援システムのグラフ化手段により故障予測診断ルールの判定空間を可視化したトレンドグラフの一例を示す図
【図3】本発明に係る故障予測診断支援システムのグラフ化手段により故障予測診断ルールの判定空間を可視化した散布図の一例を示す図
【図4】本発明に係る故障予測診断支援システムを用いて故障予測診断ルールを作成して本登録する手順を示すフローチャート
【図5】従来の故障予測診断ルールの判定空間を可視化したトレンドグラフの一例を示す図
【図6】設備メンテナンスにおける一般的な手法の特徴を分類して表示した図
【符号の説明】
【0065】
1: 本発明に係る故障予測診断支援システム
2: 運転データ入力部
3: 運転データベース
4: 診断ルール入力部
5: 診断ルール処理部
6: 診断ルール評価部
7: 診断ルールデータベース
8: 第2診断ルールデータベース
9: 診断ルール作成支援部
10: 自動故障診断部
11: 診断結果報知部
12: 通信インターフェース部
13: 前処理手段
14: グラフ化手段
15: 運転データ選択支援手段
16: 前処理内容選択支援手段
17: 予測領域設定支援手段
20: 設備
21: 通信ネットワーク
30: コンピュータネットワーク
31: メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末
32: 携帯電話(携帯情報端末)
33: 無線データ通信回線
D: 運転データ
D0: 診断対象運転データ
D1: 前処理後の診断対象運転データ
Dp: 診断対象運転データポインタ
M: 診断結果メールデータ
P: 前処理内容
R: 故障予測診断ルール
R0: 予測確度評価候補の故障予測診断ルール
R1: 高確度で故障予測可能と評価された故障予測診断ルール
R2: 高確度で故障予測不可能と評価された故障予測診断ルール
R3: 作成途中の故障予測診断ルール
T: 故障予測領域データ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備メンテナンスにおけるメンテナンス技術者の故障予測診断をコンピュータによるデータ処理を利用して支援する故障予測診断支援システムであって、
既設の各設備からの運転データを記憶する運転データベースと、
前記各設備の機種及び運転状況に応じて区分された設備グループ毎の前記運転データに基づく故障予測診断ルールの入力を受け付ける診断ルール入力部と、
前記診断ルール入力部が受け付けた前記故障予測診断ルールを、同じ前記設備グループの前記運転データベースに記憶された前記運転データを用いて予測確度を評価する診断ルール評価部と、
前記診断ルール評価部で所定の高確度で故障予測可能と評価された前記故障予測診断ルールを本登録して記憶する診断ルールデータベースと、を備えてなり、
少なくとも前記運転データベースと前記診断ルールデータベースと前記診断ルール入力部が、所定のコンピュータ端末からアクセス可能に構成されていることを特徴とする故障予測診断支援システム。
【請求項2】
前記診断ルール入力部が受け付けた前記故障予測診断ルールの内、前記診断ルールデータベースに本登録されない前記故障予測診断ルールを仮登録して記録可能で、外部のコンピュータ端末からアクセス可能に構成されている第2診断ルールデータベースを備え、
前記診断ルール評価部は、前記第2診断ルールデータベースに仮登録された前記故障予測診断ルールに対しても前記運転データを用いた予測確度の評価が可能であることを特徴とする請求項1に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項3】
前記故障予測診断ルールが、前記設備グループにおける前記運転データの中から選択された診断対象運転データと、前記診断対象運転データに対する必要な場合の前処理内容と、前記診断対象運転データまたは前記前処理内容に基づく前処理後の前記診断対象運転データで規定される1次元または2次元以上の判定空間における故障予測領域とで構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項4】
前記前処理内容を実行するための前処理手段を備え、
前記診断ルール評価部が、前記故障予測診断ルールの予測確度を評価する際に、前記前処理手段を用いて、前記故障予測診断ルールに含まれる前記前処理内容に基づく前処理を実行することを特徴とする請求項3に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項5】
前記診断対象運転データに前記故障予測診断ルールを適用した場合の前記判定空間を可視化して表示するための表示データを作成するグラフ化手段を備えることを特徴とする請求項3または4に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項6】
前記故障予測診断ルールの作成を支援する診断ルール作成支援部を備え、
前記診断ルール作成支援部が、
前記診断対象運転データの選択を支援する運転データ選択支援手段と、
前記前処理手段に含まれる前処理内容の中から前記故障予測診断ルールで使用する前処理内容を選択するための前処理内容選択支援手段と、
前記グラフ化手段により可視化された前記判定空間内で前記故障予測領域の設定または変更を支援する予測領域設定支援手段と、
を備えてなることを特徴とする請求項5に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項7】
前記前処理内容として汎用的な統計演算処理が含まれることを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項8】
既設の前記各設備から前記運転データの入力を受け付ける運転データ入力部と、
前記運転データ入力部に入力された前記運転データに対して前記診断ルールデータベースに本登録された前記故障予測診断ルールを適用して、前記各設備に対する故障予測診断を自動的に実行する自動故障診断部と、
を備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の故障予測診断支援システム。
【請求項9】
前記自動故障診断部によって故障予測が診断された場合に、当該診断結果を担当の前記メンテナンス技術者の使用するコンピュータ端末或いは携帯情報端末に報知する診断結果報知部を備えることを特徴とする請求項8に記載の故障予測診断支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−277185(P2006−277185A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93777(P2005−93777)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(501246488)株式会社コージェネテクノサービス (10)
【Fターム(参考)】