説明

断熱防水工法

【課題】
本発明の目的とするところは、電磁誘導等の加熱時に断熱材を溶かすことなく、防水シートと固定具との溶着固化が短時間で行なえる断熱防水工法を提供することにある。
【解決手段】
上記の目的を達成する本発明は、防水下地上に断熱材を敷設し、断熱材上の所要位置に固定具を配設して、固定用ビスで断熱材を貫通して固定具を防水下地に固定せしめ、次いで固定具に防水シートを熱溶着することにより防水シートを防水下地上に固定した断熱防水工法であって、断熱材と固定具との間に、固定具裏面空間と固定具外側とを連結する通気部を有する絶縁体を設けた断熱防水工法としたことであり、上記絶縁体の通気部が溝形状であり、上記絶縁体を幾何学模様状に形成することにより通気部を設けることであり、熱溶着法が電磁誘導加熱法としたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の陸屋根や勾配屋根、或いは住宅のベランダやルーフバルコニーにおける床面の防水工事等において、断熱材を使用した断熱防水工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の断熱防水工法には、防水施工する全面に発泡ポリスチレン等の断熱材を敷設し、ドライバー等により、固定ビスで固定具を防水下地に固定し、次いで電磁誘導等の加熱により、固定具と防水シートとを熱溶着する方法がある。しかしながら、この方法では加熱により固定具が発熱するため、固定具の下部接地部分と接する断熱材が溶けて固定ビスが固定具上面より頭を出し固定具と防水シートの接合不良を起こす危険があった。この問題を解決するため、固定具下面に遮熱層を設けるシート固定具が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記提案の方法では、断熱材が溶けることは解消できるが、シート固定具本体の金属層と遮熱層の間に空間ができて、加熱時にこの空間の空気が膨張してしまい、固定ビス穴の隙間を通して防水下地方向と防水シートと固定具との溶着部に逃げようとするが、防水下地方向は固定用ビスにより締め付けられているため防水下地と断熱材との間に隙間はなく塞がれた状態である。結局、膨張した空気は徐々にではあるが防水シートを押し上げる力として作用するため防水シートとシート固定具に形成された接着層とが溶着固化するまで押えている必要があり時間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−090105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこの様な現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電磁誘導等による加熱時に断熱材を溶かすことなく、防水シートと固定具との溶着でフクレを生じることがない断熱防水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成する本発明は、防水下地上に断熱材を敷設し、断熱材上の所要位置に固定具を配設して、固定ビスで断熱材を貫通して固定具を防水下地に固定せしめ、次いで固定具に防水シートを熱溶着することにより防水シートを防水下地上に固定した断熱防水工法であって、断熱材と固定具との間に、固定具裏面空間と固定具外側とを連結する通気部を有する絶縁体を設けた防水断熱工法としたことであり(請求項1)、上記絶縁体の通気部が溝形状であり(請求項2)、上記絶縁体を幾何学模様状に形成することにより、通気部を設けることであり(請求項3)、熱溶着法が電磁誘導加熱法である断熱防水工法としたことである(請求項4)。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係わる断熱防水工法によれば、絶縁体を設けることにより、電磁誘導等による加熱時に断熱材を溶かすことない。また、固定具裏面空間と固定具外側とが通気しているため、前述したような防水シートを押し上げる力が作用せず、フクレが生じることなく圧着が短時間ですみ作業性が向上した。さらに、夏季、冬季でも固定具裏面空間と固定具外側に温度差による圧力差は生じることはなく、温度差による固定用ビスに作用する引き抜き力が生じることがなく、固定ビスによる固定具の固定力は長期に安定して保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、防水下地上に断熱材を敷設し、断熱材上の所要位置に固定具を配設して、固定ビスで断熱材を貫通して固定具を防水下地に固定せしめ、次いで固定具に防水シートを電磁誘導等の加熱で熱溶着することにより防水シートを防水下地上に固定した断熱防水工法であって、断熱材と固定具との間に、固定具裏面空間と固定具外側とを連結する通気部を有する絶縁体を設けた断熱防水工法であり、以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0008】
図1に、本発明の1実施形態を示す。本発明に使用する固定具Aは、上面に防水シートBを固定する熱溶着層を積層一体化して構成される。固定具Aの材質としては、特に限定されないがステンレス板や、亜鉛・アルミニウム・マグネシウムメッキまたは亜鉛メッキ等の防錆処理が施された鋼板など、多湿状態においても錆びにくい鋼板が好適に使用される。
【0009】
また、固定具Aは、従来のこの種固定具に使用されていた鋼板と同様の厚み、形状、大きさに形成される。例えば、厚みは0.6〜1mm程度で、形状は正方形または長方形をした矩形状のプレート状や、円形または楕円形状のディスク状など任意であり、大きさは1辺または外径が50〜100mm程度に形成される。加工性、施工時の作業性を考慮すると直径60〜90mmの円形形状のディスクタイプが好適に使用できる。以下、ディスクタイプの固定具を中心に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
固定具Aの上面に積層一体化される熱溶着層(図では省略している)は、加熱により防水シートBに熱溶着できるものであればよく、熱可塑性樹脂、ホットメルト接着剤等がある。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、EEA(エチレンエチルアクリレート)等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、ホットメルト接着剤としては、ポリエステル系、ポリアミド系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系のホットメルト接着剤等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂、ホットメルト接着剤等を、塗布コーティング法やシートラミネート法など公知の方法で固定具Aの上面に0.01〜1.0mmの厚みに積層一体化することにより、熱溶着層が形成できる。この際、固定具Aの防錆処理として、裏面にも上記熱可塑性樹脂、ホットメルト接着剤等を積層一体化しても良い。
【0011】
熱溶着の加熱方法としては、熱風加熱、高周波誘電加熱、電磁誘導加熱などがあるが、仕上り外観、施工性を考慮すると、電磁誘導加熱が好ましい。
【0012】
固定具Aの外周縁には全周にわたって立上げリブA1が形成され、中心部分には固定具Aを防水下地C上に固定する固定ビスDを貫挿通させるためのビス取付け穴と、その周囲に固定ビスDの頭部を固定具Aの上面から突出しないように納めるためのビス頭固定用座繰り部が形成され、更に、ビス頭固定用座繰り部を取り囲むようにして補強用リブA2が凹設される。
【0013】
本発明に使用する防水シートBには、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂等のものを挙げることができ、施工性、耐久性を考慮すると塩化ビニル系樹脂が好ましい。防水シートの厚みは、特に限定されるものではないが、通常は0.5〜5.0mmであり、施工性を考慮すると1.0〜4.0mmが好ましく、更に好ましくは1.5〜2.5mmである。
【0014】
補強用リブA2は固定具Aの強度を高めるために形成するものであるが、補強用リブA2の上面には防水シートBが溶着されないので、当該補強用リブA2が固定具A上面に占める面積を防水シートBとの溶着強度を保持し得る範囲にとどめる必要がある。
【0015】
本発明に使用する断熱材Eとしては、一般的には合成樹脂製の発泡体が使用され、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、ポリウレタン系、フェノール樹脂系、尿素樹脂系等の発泡体が挙げられ、コスト面を考慮すると、ポリスチレン系、ポリエチレン系が好ましい。
発泡体の発泡倍率は、5〜50倍のものが使用でき、強度と断熱性を考慮すると10〜40倍が好ましく、更に好ましくは15〜30倍である。
【0016】
断熱材Eの厚みは、通常10〜50mmのものが使用され、断熱材を複数枚重ねる場合も含めて10〜100mm厚に調整して使用する。防水下地Cと断熱材Eの固定性及び断熱性を考慮すると20〜60mmが好ましく、更に好ましくは30〜50mmである。
【0017】
本発明に使用する絶縁体Fは、固定具Aと断熱材Eとを絶縁し、固定具裏面空間A3と固定具外側とを連結する通気部F1を有するシート状の部材である。絶縁体Fの材質としては、熱伝導度の低いものであれば良く、合成樹脂、ゴム、紙、木材、不織布、フェルト等単独又はこれらを複合して使用できる。
【0018】
絶縁体Fは、固定具裏面空間A3と固定具外側とを連結する通気部F1を有している必要があり、通気部F1は1箇所とは限らず複数個所設けてもよい。通気部F1は、図2の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)のように溝で形成する方法、絶縁体F自体を図3の(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)のような星型、花形様等の幾何学模様形状にして通気部を形成する方法などがある。また、図2、3中の点線は固定具の接地部A4の位置を示している。
通気部としての溝は、直線状、曲線状のどちらでも良く、0.5〜10mmの巾で切り欠くことにより形成できる。また、通気部としての溝は、絶縁体の固定ビス穴等の内部打ち抜き部から外周縁まで連続して設けても良く、上記内部打ち抜き部からではなく図2(イ)のように途中から外周縁まで設けても良い。
固定ビスで締め付けるときの絶縁体の変形性、固定具との位置合せ性を考慮すると、形状としては、幾何学模様形状が好ましい。
【0019】
絶縁体Fの厚みは0.5〜3mmが好ましく、1〜2mmがより好ましい。0.5mmより薄いと断熱性の効果が小さくなり、3mmより厚いと防水シート仕上げ面の段差が目立つようになる。
【0020】
固定具は補強用リブを有しているため固定具上側と防水シートの間には、空間が存在し固定具の加熱により膨張する傾向がある。固定具の固定ビス穴と固定ビスの隙間から徐々に固定具の裏面空間に通気して抜けるが、固定具の加熱が急激な電磁誘導加熱ではこの影響で防水シートが多少膨らむ傾向が見られる。これを解消するために図4に示す頭部ミゾに切り欠き部(ドライバー用のミゾ部の下部をネジ径と同等位残るように端から中心に向かって切り欠く)を有する固定ビスを使用して、固定具上面と固定具裏面の空間を確実に通気することが好ましい。また、頭部ミゾに切り欠き部を有する固定ビスを使用する替わりにキクワッシャー等を介して固定ビスを下地に固定して通気性を確保してもよい。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
コンクリートの防水下地上に、910mm(縦)×910mm(横)×35mm(厚さ)の発泡ポリスチレン系断熱材を連続して敷設する。次いで、その上面の所要位置に、図3(ホ)に示す星型で1辺の長さ(X−X)が100mmで厚さが1.5mmで固定ビス穴の径が6mmの厚紙製絶縁体と、直径が85mmで厚さが0.6mmで上面にポリエステル系のホットメルト系接着剤を積層した円形の固定具とを順次配設し、固定具、絶縁体、断熱材とを図4に示すような頭部に切り欠き部を有する固定ビス(長さ:90mm、ネジ径:5.8mm)で防水下地に固定した。続いて、最上面に2.0mmの塩化ビニル製防水シートを敷設し、塩化ビニル製防水シートの上から電磁誘導加熱(800W、6秒)を行い熱溶着させた。
【0023】
<実施例2>
頭部ミゾに切り欠き部を有する固定ビス(長さ:90mm、ネジ径:5.8mm)の替わりに頭部ミゾに切り欠き部がない通常の固定ビス(長さ:90mm、ネジ径:5.8mm)を使用すること以外は実施例1と同様に操作し施工した。
【0024】
<実施例3>
上記実施例1の厚紙製絶縁体の替わりに、図3(チ)に示す花柄様で外径が95mmで半円形の切り欠部の直径が20mmで厚さが1.0mmで固定ビス穴の径が6mmの硬質塩化ビニル製絶縁体を使用すること以外は実施例1と同様に操作し施工した。
【0025】
<実施例4>
上記実施例1の厚紙製絶縁体の替わりに、図2(ロ)に示すドーナツ状で外径が95mmで内径が80mmで切り欠部の巾が5mmで厚さが2mmの加硫SBRゴム製絶縁体を使用すること以外は実施例1と同様に操作し施工した。
【0026】
<比較例1>
絶縁体を使用しないこと以外は実施例1と同様に操作し施工した。
【0027】
<比較例2>
上記実施例1の厚紙製絶縁体の替わりに、外径が95mmで固定ビス穴の径が6mmで厚さが1.5mmで切り欠部等の通気部がない円盤状厚紙製絶縁体を使用すること以外は実施例1と同様に操作し施工した。
【0028】
<比較例3>
上記実施例1の厚紙製絶縁体の替わりに、外径が95mmで固定ビス穴の径が6mmで厚さが2mmで切り欠部等の通気部がない円盤状加硫SBRゴム製絶縁体を使用すること以外は実施例1と同様に操作し施工した。
【0029】
それぞれの実施例、比較例について、断熱材の非溶融性と、防水シートと固定具との溶着性を以下の評価方法及び評価基準で評価し、評価結果を表1に示す。
「断熱材の非溶融性」
それぞれの施工体から防水シートをカッター等で切り取り、固定具を取り外し、断熱材を目視で観察した。
○:断熱材の熱による損傷がない。
×:断熱材の熱による損傷がある。
[防水シートと固定具の溶着性]
それぞれの施工体について、その溶着面の浮き具合を目視で観察し、さらに防水シートの溶着部分をカッター等で切り裂いて溶着程度を確認し、以下の基準で評価した。
○:浮きがなく溶着している。
△:多少の浮きが見られるが溶着している。
×:浮きがみられ、溶着不充分である。
【0030】
【表1】

【0031】
固定具裏面空間と固定具外側とを連結する通気部を設けた絶縁体を使用している実施例1〜3は、「断熱材の非溶融性」及び「防水シートと固定具の溶着性」ともに優れていることが分かる。比較例1は、絶縁体がないため、断熱材が溶けてしまい、固定具と防水シートとの溶着性も悪くなる。比較例2、3では、断熱材は溶けないが、固定具裏面空間と固定具外側が通気していないため、10秒の圧着では十分な溶着ができないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の断熱防水工法は、固定具裏面空間を固定具外側と連結する通気部を有する絶縁体を設けることにより、電磁誘導加熱時に断熱材を溶かすことなく、防水シートと固定具との溶着固化が短時間で行なえるため、断熱防水工事等に広範に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係わる施工例を示す断面図。
【図2】本発明に係わる絶縁体の各種形状を示す上面図。
【図3】本発明に係わる絶縁体の他の各種形状を示す上面図。
【図4】頭部ミゾに切り欠き部を有する固定ビス詳細図。
【符号の説明】
【0034】
A:固定具
A1:固定具の立上げリブ
A2:固定具の補強用リブ
A3:固定具の裏面空間
A4:固定具の接地部
B:防水シート
C:防水下地
D:固定ビス
D1:頭部ミゾ切り欠き部
E:断熱材
F:絶縁体
F1:絶縁体の通気部
F2:絶縁体の固定ビス用穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水下地上に断熱材を敷設し、断熱材上の所要位置に固定具を配設して、固定ビスで断熱材を貫通して固定具を防水下地に固定せしめ、次いで固定具に防水シートを熱溶着することにより防水シートを防水下地上に固定した防水断熱工法であって、断熱材と固定具との間に、固定具裏面空間と固定具外側とを連結する通気部を有する絶縁体を設けたことを特徴とする断熱防水工法。
【請求項2】
上記絶縁体の通気部が溝形状であることを特徴とする請求項1に記載の断熱防水工法。
【請求項3】
上記絶縁体を幾何学模様状に形成することにより、通気部を設けることを特徴とする請求項1に記載の断熱防水工法。
【請求項4】
熱溶着法が電磁誘導加熱法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱防水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−285860(P2008−285860A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130737(P2007−130737)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)