説明

新幹線車両用連結装置及び取外し方法

【課題】新幹線車両に車体傾斜車両用の連結装置の取付けを可能とする。
【解決手段】連結器21と緩衝器枠23に保持された緩衝器22を、継手24を介して連結ピン25で結合する。緩衝器枠23は、前端壁23aを開口23aaした前部内面を半凹球面23bbに続く円筒面23bcに形成する。継手24は、連結器21の尻部が挿し込まれる短円筒の外周面を半凹球面23bbに係合する凸球面24aとなし、短円筒の軸と直角方向に貫通孔24bを設ける。緩衝器枠23における、組立て状態の連結ピン25と同軸心位置の、組立て状態から円周方向に所定角度回動した位置に、連結ピン25の抜取り孔23dと空気抜き孔23eを対向して設ける。連結ピン25の一方端に吊りボルト26の取付け用ねじ穴25aを設ける。
【効果】新幹線車両に車体傾斜車両用の連結装置を取付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新幹線の先頭車両及び中間車両、特に新幹線の先頭車両の先頭部に設置する、車体傾斜対応の連結装置、及びメンテナンス時にこの連結装置を車両から取外す方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両同士を連結する連結装置は、図4に示すような、連結器1と、走行時の加減速時に車両相互間に発生する衝撃を吸収・緩和する緩衝器2を、直交する方向に貫通孔3a,3bを設けた継手3を介して連結ピン4で結合した構成である(特許文献1の図7,8)。この連結装置は、車両幅方向と高さ方向の偏倚を行えるものである。なお、連結器1と緩衝器2がセットされた状態を「連結装置」と呼ぶ。
【0003】
車両同士を連結するこの様な連結装置のうち、曲線路での高速走行を可能とする車体傾斜車両同士を連結する連結装置としては、例えば特許文献2で開示されたものが採用されている。
【0004】
この特許文献2で開示された連結装置は、図5に示すように、緩衝器11を保持する緩衝器枠12の前部内面を凹球面12aとし、この凹球面12aに続く上下内面を円筒面12bに形成している。そして、前記緩衝器枠12の凹球面12aに係合すべき継手13は、その外周面を凸球面13aに形成した短円筒の、軸と直角方向に連結ピン14を貫通させる貫通孔13bを設けている。
【0005】
上記構成の連結装置の組立ては、以下のようにして行う。
先ず、緩衝器枠12の開放側面12cより継手13を挿入して前方に押し込み、前記凹球面12aに凸球面13aを収める。
【0006】
次に、緩衝器11の前後に伴板15を当接して緩衝器枠12に組込み、緩衝器枠12の前方より継手13の短円筒内に連結器16の尻部16aを挿入する。
【0007】
最後に、連結ピン14を貫通孔13bに挿入して連結器16の尻部16aと緩衝器枠12を結合した後、貫通孔13bの両端に設けた座溝13cに止めねじ17にて止板18を固定し、連結ピン14が抜け出さないようにする。そうして、伴板15の前面に設けた凹球面15aと連結器16の尻部16aの凸球面16aaを当接して組立てる。
【0008】
これにより、緩衝器枠12に対して連結器16が回転及び上下左右方向の偏倚を円滑になしうるようになる。
【0009】
ところで、新在直通用新幹線の区間では、走行経路の途中まで新幹線と在来線の車両を連結して運行し、走行経路の途中で新幹線と在来線の車両を切り離して別々に運行する場合がある。このような場合、新幹線の先頭車両と在来線の車両を連結する必要がある。
【0010】
しかしながら、新幹線の先頭車両の先頭部には先頭側特有の車体部品があり、連結装置取付け位置の左右両側部には余分な空間が全くなく、上部にも余分な空間はあまりないので、新幹線の先頭車両の先頭部に車体傾斜車両の連結に使用する連結装置を組込んだ後は、メンテナンス時に連結装置を一体として取外したり、メンテナンス後に取付けたりするだけの空間が存在しない。
【0011】
従って、新幹線の先頭車両の先頭部に特許文献2で開示された前記連結装置を組込んだ状態では、メンテナンス時に、連結装置の左右両側部に位置することになる止板を固定する止めねじを取外して、連結器と緩衝器を分解して取外すことができない。メンテナンス時に、連結装置を前記組込み状態から90°回転させるとしても、上部にも余分な空間はあまりないので、前記止めねじの取外し作業は大変である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−219685号公報
【特許文献2】特公昭44−16937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、新幹線の先頭車両の先頭部には、連結装置を一体として取付けたり、取り外したりするだけの空間が存在しないので、車体傾斜車両の連結に使用する連結装置を取付けることができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の新幹線車両用連結装置は、
新幹線の先頭車両の先頭部に、車体傾斜車両の連結に使用する連結装置を取付けることを可能とするために、
連結器と、緩衝器枠に保持された緩衝器と、これら連結器と緩衝器枠に保持された緩衝器を連結ピンで結合する継手を備え、
前記緩衝器枠は、前端壁を逆截頭円錐状に開口した前部内面を半凹球面となすと共に、この半凹球面に続く内面を円筒面に形成する一方、
前記継手は、緩衝器枠の前記開口から挿入した連結器の尻部が挿し込まれる短円筒の外周面を前記緩衝器枠の半凹球面に係合する凸球面となすと共に、短円筒の軸と直角方向に貫通孔を設けた構成で、
緩衝器枠における、前記開口から挿入した連結器の尻部が挿し込まれた継手の貫通孔に連結ピンを挿入した組立て状態の前記連結ピンと同軸心位置の、組立て状態から円周方向に所定角度回動した位置に、前記連結ピンの抜取り孔を設けたことを最も主要な特徴としている。
【0015】
上記構成の本発明の連結装置では、連結ピンの取外しに際しては、連結ピンの一方端に吊りボルトの取付け用ねじ穴を設けたり、前記連結ピンの抜取り孔と対向した位置に空気抜き孔を設けることが望ましい。
【0016】
上記構成の本発明の連結装置では、
緩衝器枠に設けた抜取り孔と連結ピンが同軸の位置になるまで連結器を回動させ、
その後、例えば連結ピンのねじ穴に吊りボルトをねじ込んだ後、継手から連結ピンを引抜き、連結器を緩衝器枠から離反する方向に引抜けば、連結装置は、連結器と、緩衝器・継手を保持した緩衝器枠に分離できるので、メンテナンス時、例えば新幹線先頭車両の先頭部から連結装置を取外すことができる。
【0017】
メンテナンス終了後に、連結装置を新幹線先頭車両の先頭部に取付ける場合は、前記と逆の操作を行えばよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、先頭側特有の車体部品があって連結装置を一体として取付けたり、取外したりするだけの空間が存在しない新幹線先頭車両の先頭部にも、車体傾斜車両用の連結装置を取付けることができる。また、メンテナンス時には、連結ピンの取付け、取外しを容易に、狭いスペースで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】新幹線先頭車両の先頭部に取付ける本発明の連結装置の図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図2】図1における連結器と緩衝器を保持した緩衝器枠に組込まれた継手との結合部を拡大して示した図である。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の連結装置の取外し方法を順を追って説明する図である。
【図4】非車体傾斜車両の連結に使用する連結装置の図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図5】車体傾斜車両の連結に使用する連結装置の結合部の図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明では、新幹線先頭車両の先頭部にも、車体傾斜車両用の連結装置の取付けを可能にするという目的を、緩衝器枠における、組立て状態の連結ピンと同軸心位置の、組立て状態から円周方向に所定角度回動した位置に、連結ピンの抜取り孔を設けることによって実現した。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図3を用いて説明する。
図1は新幹線先頭車両の先頭部に取付ける本発明の連結装置の図、図2は図1における連結器と緩衝器を保持した緩衝器枠に組込まれた継手との結合部を拡大して示した図である。
【0022】
21は通常の密着連結器(以下、単に連結器という。)で、連結器本体21aの先端部に連結用の頭部21bを有し、反対側の尻部に継手24との結合部21cを形成している。この結合部21cには連結ピン25が貫通する貫通孔21caが設けられている。
【0023】
22は車両の加減速時の加速度を吸収して衝撃力の発生を防止する緩衝器(例えば積層ゴム)で、緩衝器枠23に保持されている。
【0024】
緩衝器枠23は、前端壁23aを逆截頭円錐状に開口23aaした前部内面に、枠23bを挿入すると共に、この挿入した枠23bに続いて、両側面を開放した緩衝器22の保持部23cを形成している。
【0025】
前記枠23bは、前記開口23aaと連通すべく前面が開口23baすると共に、その内面は前面側から半凹球面23bb及び円筒面23bcを形成した構成である。
【0026】
24は前記連結器21と緩衝器枠23に保持された緩衝器22を連結ピン25で結合する継手である。この継手24は、緩衝器枠23の開口23aaから挿入した連結器21の結合部21cが挿し込まれる短円筒の外周面を緩衝器枠23の半凹球面23bbに係合する凸球面24aとなしている。そして、短円筒の軸と直角方向に、前記貫通孔21caと連続する貫通孔24bを設けている。
【0027】
本発明例では、上記構成に加え、緩衝器枠23と連結ピン25に、さらに以下の構成を追加している。
【0028】
緩衝器枠23の開口23aaから挿入した連結器21の結合部21cが挿し込まれた継手24の貫通孔24bと、前記結合部21cの貫通孔21caを連通させて連結ピン25を挿入した組立て状態において、前記連結ピン25と同軸心位置の、緩衝器枠23の円周方向に例えば90°回動した位置に、連結ピン25の抜取り孔23d,23bdと空気抜き孔23e,23beを対向配置している。
【0029】
一方、連結ピン25の一方端には吊りボルト26の取付け用ねじ穴25aを設け、他方端はテーパ加工を施している。
【0030】
なお、図1中の27は前記枠23bの半凹球面23bbとで継手24を保持する半凹球面27aを前端面に形成したすり板、28a,28bは緩衝器22を緩衝器枠23に組み込むために、緩衝器22の前後に当接配置される伴板を示す。
【0031】
上記構成を追加した本発明の連結装置では、以下の順序にて車両に取付ける。
先ず、緩衝器枠23の前部内面に枠23bを挿入配置する。この状態で、緩衝器枠23の保持部23cの開放部分より、短円筒の軸中心と開口23aaの軸中心、及び貫通孔24bと抜取り孔23bd,23dの円周方向位置が合致するように継手24を挿入する。
【0032】
その後、前記枠23b側に押出して半凹球面23bb部に収めた継手24の後方から、緩衝器枠23の保持部23cの開放部分よりすり板27を挿入し、前記半凹球面23bbとすり板27の半凹球面27aとで継手24を保持する。この状態では、貫通孔24bと抜取り孔23bd,23dは、円周方向位置だけでなく継手24の軸方向位置も一致している。
【0033】
次に、緩衝器22の前後に伴板28a,28bを当接して保持部23cの開放部分より緩衝器枠23に組込み、緩衝器枠23の後端面からねじ込んだボルト29で緩衝器22を締付けて保持する。
【0034】
上記のように継手24及び緩衝器22を保持した状態の緩衝器枠23を、鉄道車両に設置して、ボルト29を取外す。
【0035】
その後、連結器21の尻部に形成した結合部21cを、鉄道車両に設置した緩衝器枠23の開口23aaより挿入し、結合部21cの貫通孔21caと継手24の貫通孔24bが一致するまで、継手24の短円筒に挿し込む。
【0036】
最後に、ねじ穴25aに吊りボルト26をねじ込んだ連結ピン25を、抜取り孔23bd,23dから挿入し、緩衝器22を保持した緩衝器枠23に継手24を介して連結器21を結合する。結合後は、吊りボルト26を取外した後連結器21を90°回転させ、必要に応じて、抜取り孔23d及び空気抜き孔23eに例えばゴム栓30a,30bをする。
【0037】
次に、メンテナンス時に、前記連結装置を車両から取外す際には以下のように行う。
先ず、図3(a)の状態において、抜取り孔23d及び空気抜き孔23eからゴム栓30a,30bをとる。
【0038】
次に、図3(b)に示すように、抜取り孔23bd,23dと連結ピン25が同軸の位置になるまで、ゴム栓30aをとった抜取り孔23dから確認しながら連結器21を回動させた後、連結ピン25のねじ穴25aに吊りボルト26をねじ込み、継手24から連結ピン25を引抜く。
【0039】
最後に、図3(c)に示すように、連結器21を緩衝器枠23から離反する方向に引抜き、連結器21と、緩衝器22・継手24を保持した緩衝器枠23に分離し、車両から取外す。
【0040】
本発明の連結装置では、連結器21と、緩衝器22・継手24を保持した緩衝器枠23に分離できるので、先頭側特有の車体部品があって連結装置を一体として取付けたり、取外したりできない先頭車両の先頭部にも、設置することができる。
【0041】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0042】
例えば上記の例では、緩衝器枠23の前部内面に設ける凹球面及び円筒面は、凹球面23bb及び円筒面23bcを内面に形成した枠23bを挿入することで形成したものを示したが、緩衝器枠23の前部内面に凹球面及び円筒面を直接に形成したものでも良い。
【0043】
また、上記の例では、吊りボルト26の取付け用ねじ穴25aを設けたものを示したが、ねじ穴に替えて穴のみを設け、この穴に硬質ゴムを挿入して硬質ゴムに取付けた取っ手を持って連結ピン25を引抜くものでも良い。
【0044】
また、空気抜き孔23eを設けている方が連結ピン25の引き抜きを容易に行うことができるが、空気抜き孔23eは必ず設けなければならないことはない。
また、本発明の新幹線車両用連結装置は、主には新幹線の先頭車両の先頭部への適用を考えたものであるが、新幹線の中間車両の連結部に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
21 連結器
21c 結合部
21ca 貫通孔
22 緩衝器
23 緩衝器枠
23a 前端壁
23aa 開口
23b 枠
23ba 開口
23bb 半凹球面
23bc 円筒面
23c 保持部
23d 抜取り孔
23e 空気抜き孔
24 継手
24a 凸球面
24b 貫通孔
25 連結ピン
25a ねじ穴
26 吊りボルト
27 すり板
27a 半凹球面
28a、28b 伴板
29 ボルト
30a、30b ゴム栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新幹線車両に設置する連結装置であって、
連結器と、緩衝器枠に保持された緩衝器と、これら連結器と緩衝器枠に保持された緩衝器を連結ピンで結合する継手を備え、
前記緩衝器枠は、前端壁を逆截頭円錐状に開口した前部内面を半凹球面となすと共に、この半凹球面に続く内面を円筒面に形成する一方、
前記継手は、緩衝器枠の前記開口から挿入した連結器の尻部が挿し込まれる短円筒の外周面を前記緩衝器枠の半凹球面に係合する凸球面となすと共に、短円筒の軸と直角方向に貫通孔を設けた構成で、
緩衝器枠における、前記開口から挿入した連結器の尻部が挿し込まれた継手の貫通孔に連結ピンを挿入した組立て状態の前記連結ピンと同軸心位置の、組立て状態から円周方向に所定角度回動した位置に、前記連結ピンの抜取り孔を設けたことを特徴とする新幹線車両用連結装置。
【請求項2】
連結ピンの一方端には吊りボルトの取付け用ねじ穴を設けたことを特徴とする請求項1に記載の新幹線車両用連結装置。
【請求項3】
前記連結ピンの抜取り孔と対向した位置に空気抜き孔を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の新幹線車両用連結装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の連結装置を新幹線車両から取外す方法であって、
緩衝器枠に設けた抜取り孔と連結ピンが同軸の位置になるまで連結器を回動させ、
その後、連結ピンのねじ穴に吊りボルトをねじ込んだ後、継手から連結ピンを引抜き、連結器を緩衝器枠から離反する方向に引抜いて、連結器と、緩衝器・継手を保持した緩衝器枠に分離した後、新幹線車両から取外すことを特徴とする新幹線車両用連結装置の取外し方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−66721(P2012−66721A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213867(P2010−213867)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】