説明

新規ジチオジアリールスルホキシド化合物、その製造方法、およびジメルカプトジアリールスルフィドの製造方法

【課題】有機光学材料用樹脂に対して高い屈折率を与えるジメルカプトジアリールスルフィド化合物を、安全且つ安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1):


(式中、R〜R及びR1’〜R4’は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホン化合物、及び4,4‘−ジハロアリールスルホン化合物と、チオール塩化合物とを反応させることを特徴とする一般式(1)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホン化合物の製造方法、並びに一般式(1)で表されるジアリールスルホン化合物を原料とした、4,4‘−ジメルカプトアリールスルフィド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光学材料用の添加剤として有用な新規ジチオジアリールスルホン化合物、及びその製造方法に関する。また、新規ジチオジアリールスルホン化合物を原料とした、ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂よりなる光学材料は、ガラス等の無機材料として軽量であり、成形加工性などにも優れ、取り扱いが簡単であることから、近年、各種用途に広く用いられている。このような有機光学材料用の樹脂として、従来から、ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ジエチレングリコールジアリルカーボナート樹脂等が用いられている。
【0003】
これらの有機光学材料用樹脂を、例えば、眼鏡用プラスチックレンズとして用いる場合、レンズ厚を薄くするためには、高い屈折率を付与することが必要となる。また、透明な樹脂に対して屈折率分布を生じさせることによって、光伝送体として使用することも試みられている。
【0004】
このような目的で、有機光学材料用樹脂に屈折率変化を生じさせるために用いる添加剤としては、ジフェニルスルホン、4,4‘−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−4,4‘−テトラクロロジフェニルスルホン等のジフェニルスルホン誘導体、ジフェニルスルホキシドの硫黄化合物が報告されている(特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、上記添加剤は屈折率が1.6しかなく、樹脂の屈折率を高めるためには大量に樹脂に添加する必要があるので、樹脂の特性を低下させるおそれがあり、更には経済的にも好ましくない。
【0006】
有機光学樹脂に用いる添加剤として、下記一般式(A);
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R〜Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物が高屈折率で透明性に優れた樹脂を与える単量体の中間体として非常に有用であることが知られている。
【0009】
この化合物の製法としては、下記一般式(B);
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R〜Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジアリールスルフィド化合物を、クロロ硫酸と反応させることにより得られる下記一般式(C);
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R〜Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジスルホジアリールスルフィド化合物に対して、塩化チオニールを反応させることにより得られる下記一般式(D);
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R〜Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジスルホニルクロリドジアリールスルホン化合物を、金属/鉱酸還元することによる製法が知られている(特許文献3)。
【0016】
しかしながら上記の方法では、工業的に入手困難であり扱いも難しいクロロ硫酸を使用しており、工業的規模で実施するのに適当な方法とは言い難い。また、反応中に酸性ガスが発生する工程が多く、それの除害のために大量の排水が発生しており、経済的にも好ましいとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2007−304154号公報
【特許文献2】特開2008−197239号公報
【特許文献3】旧ソ連特許第499261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記の従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、有機光学材料用樹脂に対して高い屈折率を与えるジメルカプトジアリールスルフィド化合物を、安全且つ安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者らは上述の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、比較的安価なジハロジアリールスルホキシド化合物を原料として用い、経済的に有利な条件で容易に製造される特定の置換基を有する、新規ジチオジアリールスルホキシド化合物が、有機光学材料用樹脂に対して高い屈折率を与えるジメルカプトジアリールスルフィド化合物を安全、簡便、且つ安価な工程で製造するための原料として有用であること見出した。さらに該ジチオジアリールスルホキシド化合物は、1.64以上という高い屈折率を有し、有機光学材料に高屈折率を付与するための添加剤として有用である事も見出した。すなわち、本発明は下記に示される態様を含む。
【0020】
項1 下記一般式(1):
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物。
【0023】
項2 Rがメチル基である上記項1に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物。
【0024】
項3 R〜R及びR1´〜R4´が水素原子、Rがメチル基である上記項1に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物。
【0025】
項4 下記一般式(2):
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物と、下記一般式(3):MSR(式中、Mはアルカリ金属を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるチオール塩化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1):
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法。
【0030】
項5 Rがメチル基である上記項4に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法。
【0031】
項6 R〜R及びR1´〜R4´が水素原子、Rがメチル基である上記項4に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法。
【0032】
項7 下記一般式(4):
【0033】
【化8】

【0034】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法であって、
(i)上記項2に示す下記一般式(5):
【0035】
【化9】

【0036】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物を、還元剤を用いて還元する第一工程、
(ii)第一工程によって得られる下記一般式(6):
【0037】
【化10】

【0038】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物に、ハロゲン化剤を用いてハロゲン化する第二工程、
(iii)第二工程によって得られる下記一般式(7):
【0039】
【化11】

【0040】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、mおよびnは1〜3の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物を加水分解する第三工程を含有する、4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【0041】
項8 R〜R及びR1´〜R4´が水素原子である上記項7に記載のジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【0042】
項9 上記項7に記載のハロゲン化剤が塩素、塩化スルフリル、五塩化リン、三塩化リン、次亜塩素酸及び臭素からなる群より選ばれる少なくとも一種である4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0043】
本発明により、有機光学材料に高屈折率を付与するための添加剤として有用なジチオジアリールスルホキシド化合物、及びジメルカプトジアリールスルフィド化合物を提供することが可能となる。さらにこれらの化合物を簡便に、かつ安価な工程で製造する方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔4,4‘−ジジオジアリールスルホキシド化合物〕
本発明の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は下記一般式(1);
【0045】
【化12】

【0046】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される、文献未載の新規化合物である。
【0047】
該4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、後述するように4,4‘−ジメルカプトジアリール化合物を製造する際の原料として用いることが可能である。
【0048】
該4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、1.64以上という高い屈折率を有する物質であり、例えば有機光学材料に高屈折率を付与するための添加剤として使用して、比較的少ない添加量であっても、該樹脂に高い屈折率を付与することができる。このため、該化合物を光学材料用樹脂に添加することによって、該樹脂の物性等に大きな影響を及ぼすことなく、高屈折率を有する光学材料を得ることができる。
【0049】
〜R及びR1´〜R4´で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0050】
〜R及びR1´〜R4´で表されるハロゲン原子の具体例として、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、特に、塩素原子が好ましい。
【0051】
で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、R〜R及びR1´〜R4´として示されるアルキル基と同様であり、特に、メチル基が好ましい。
【0052】
上述の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物のうち、好ましい化合物の具体例としては、R〜R及びR1´〜R4´が全て水素原子であって、Rがメチル基である、4,4−ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシドである。
【0053】
本発明の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、添加剤として有用に用いることが可能である。具体的には、種々の高分子化合物に対して、上述の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物を添加剤として加えることにより、高い屈折率特性を付与することができる。添加剤として用いる際、高分子化合物は重合化する前に添加しても、重合化する前のモノマーの段階で添加しても良い。ここで、添加剤として用いる際の使用量は、高い屈折率を付与する対象となる高分子化合物の物性、付与すべき屈折率の程度等を考慮して、適宜設定することが可能であるが、高分子化合物100重量部に対して、通常10〜300重量部程度の量を使用することができ、好ましくは25〜150重量部程度である。
【0054】
〔4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法〕
下記一般式(1):
【0055】
【化13】

【0056】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される、4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、例えば下記一般式(2):
【0057】
【化14】

【0058】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物と、下記一般式(3):MSR(式中、Mはアルカリ金属を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるチオール塩化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0059】
原料として用いる上記の一般式(2)の4,4‘−ジハロジスルホキシド化合物は、公知の化合物であり、比較的安価に入手することができる。一般式(2)において、Xにて示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、特に、塩素原子であることが好ましい。
【0060】
〜R及びR1´〜R4´で表される各基の具体例は、上述した一般式(1)と同様である。特に、経済的な観念から、R〜R及びR1´〜R4´の全てが、水素原子であることが好ましい。
【0061】
上記の一般式(3)のチオール塩化合物において、Mで表されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等を挙げることができる。Rで表される炭素数1〜4のアルキル基は、上述した一般式(1)におけるRで表される基と同様である。
【0062】
一般式(3)のチオール塩化合物の具体例としては、ナトリウムメタンチオラート、カリウム−1−プロパンチオラート、ナトリウム−2−プロパンチオラート、リチウム−sec−ブチルチオラート、ナトリウム−tert−ブチルチオラート、ナトリウム−2−ベンゾチアゾリルチオラート、カリウム−2−チアゾリルチオラート、ナトリウム−3−イソチアゾリルチオラート等が挙げられる。経済的な観点からナトリウムメタンチオラート、ナトリウム−2−ベンゾチアゾリルチオラートが好ましい。
【0063】
一般式(3)のチオール塩化合物の使用量は、一般式(2)の4,4’−ジハロジアリールスルホキシド化合物1モルに対して、2〜6モル程度とすることが好ましく、2〜3モル程度とすることがより好ましい。
一般式(2)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物と、一般式(3)で表されるチオール塩化合物との反応は、例えば、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒中で行うか、或いは、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類等の有機溶媒と水との二相系溶媒中で行うことが好ましい。特に、経済的な観点から、N−メチルピロリドンを単独で用いるか、或いは、トルエンと水との二相系溶媒を用いることが好ましい。
【0064】
反応溶媒の使用量は、極性溶媒を用いる場合には、一般式(2)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物100重量部に対して10〜5000重量部程度とすることが好ましく、100〜1000重量部程度とすることがより好ましい。
【0065】
二相系溶媒を用いる場合には、一般式(2)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物100重量部に対して、有機溶媒、水ともに10〜5000重量部程度とすることが好ましく、100〜1000重量部程度とすることがより好ましい。
【0066】
二相系溶媒中で反応を行う場合は、相間移動触媒を用いることが好ましい。相間移動触媒としては、例えば、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミドおよびトリオクチルメチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩;ヘキサドデシルトリエチルホスホニウムブロミド、ヘキサドデシルトリブチルホスホニウムクロリドおよびテトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド等の4級ホスホニウム塩等が挙げられ、収率向上および経済性の観点から、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミドが好ましい。
【0067】
相間移動触媒の使用量は、一般式(2)の4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物100重量部に対して、0.1〜100重量部程度とすることが好ましく、0.1〜10重量部程度とすることがより好ましい。
反応温度は、30〜150℃程度とすることが好ましく、60〜150℃程度とすることがより好ましい。反応時間は、通常、1〜30時間程度である。
【0068】
具体的な反応方法については、特に限定はなく、上記した溶媒中において、必要に応じて触媒を加えて、一般式(2)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物と、一般式(3)で表されるチオール塩化合物とを均一に混合すればよい。各成分の添加順序については特に限定はなく、任意の方法を採用できる。
【0069】
上記した方法によれば、目的とする下記一般式(1):
【0070】
【化15】

【0071】
(式中、R〜R及びR1’〜R4’は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物を得ることができる。
【0072】
かくして得られる4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、必要に応じて水洗、分液して取得できる。また、溶媒留去後、再結晶することにより純度を高めて単離することができる。
【0073】
上述した通り、4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、4,4‘−ジメルカプトジアリール化合物を製造する際の原料として用いることが可能である。その製造方法について、下記に詳述する。
【0074】
〔4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物〕
上述した本発明の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物は、下記一般式(4):
【0075】
【化16】

【0076】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造における原料とすることができる。
【0077】
上記の4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法は、
(i)下記一般式(5):
【0078】
【化17】

【0079】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物を、還元剤を用いて還元する第一工程、
(ii)第一工程によって得られる下記一般式(6):
【0080】
【化18】

【0081】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物に、ハロゲン化剤を用いてハロゲン化する第二工程、
(iii)第二工程によって得られる下記一般式(7):
【0082】
【化19】

【0083】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、mおよびnは1〜3の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物を加水分解する第三工程によって製造することが出来る。
【0084】
第1工程について
第1工程は、下記一般式(5):
【0085】
【化20】

【0086】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)に表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物を、還元剤を用いて還元反応を行う工程である。ここで、スルホキシド基がスルフィド基に還元され、4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物が得られる。
【0087】
〜R及びR1´〜R4´で表される各基の具体例は、上述した一般式(1)と同様である。特に、経済的な観念から、R〜R及びR1´〜R4´の全てが、水素原子であることが好ましい。
【0088】
4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物の具体例としては、4,4’−ジメチルチオジフェニルスルホキシド、4,4’−ジメチルチオ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジメチルチオ−2,2’−ジエチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジメチルチオ−1,1’−ジ−n−プロピルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジメチルチオ−3,3’−ジクロロジフェニルスルホキシド等が挙げられ、特に、4,4’−ジメチルチオジフェニルスルホキシドが好ましい。
【0089】
上述の還元剤は、特に限定されるものではなく、例えば水素化ホウ素ナトリウム、亜鉛粉、ジハロカルベン等を挙げることができる。これらの中でも、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、亜鉛粉がより好ましい。
【0090】
還元剤の使用量としては、4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物1モルに対して、通常1〜50モル程度とすることができ、好ましく1〜10モル程度である。
【0091】
還元剤として亜鉛粉を用いる場合には、酸の存在下で反応させることが好ましい。用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸;酢酸、シュウ酸、安息香酸等の有機カルボン酸;又はメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸等が挙げられ、特に、塩酸が好ましい。
【0092】
上述の酸の使用量としては、特に限定はされないが、収率を向上および経済性の観点から、通常は亜鉛粉1モルに対して、1〜10モル程度であることが好ましい。
【0093】
還元反応時の溶媒としては、当該反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えばベンゼン、トルエン、クロロベンゼン等が挙げられる。
【0094】
上述の溶媒の使用量としては、特に限定はされないが、通常は4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物100重量部に対して、通常100〜10000重量部程度とすることができる。
【0095】
還元反応の温度は、通常30〜90℃程度とすることができ、反応時間は、通常1〜30時間とすることができる。
【0096】
かくして得られる4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物は必要に応じて水洗、分取して取得でき、再結晶することにより純度を高めて単離することもできる。
【0097】
第2工程について
第2工程は下記一般式(6):
【0098】
【化21】

【0099】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物に、ハロゲン化剤を用いてハロゲン化反応を行う工程である。ここで、それぞれのアリール基の4位に付く硫黄原子に直結したメチル基がハロゲン化され、4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物が得られる。
【0100】
〜R及びR1´〜R4´で表される各基の具体例は、上述した一般式(1)と同様である。特に、経済的な観念から、R〜R及びR1´〜R4´の全てが、水素原子であることが好ましい。
【0101】
4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物の具体例としては、例えば4,4‘−ジメチルチオジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメチルチオ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメチルチオ−2,2’−ジエチルジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメチルチオ−1,1’−ジ−n−プロピルジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメチルチオ−3,3’−ジ−クロロジフェニルスルフィド等があげられ、特に、4,4‘−ジメチルチオジフェニルスルフィドが好ましい。
【0102】
ハロゲン化剤は特には限定されず、塩素、塩化スルフリル、五塩化リン、三塩化リン、次亜塩素酸、臭素等が挙げられるが、経済性な観点から塩素が好ましい。
【0103】
ハロゲン化剤の使用割合としては、通常は4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物1モルに対して、2.0〜12.0モル程度とすることができ、好ましくは2.0〜4.0モル程度である。
【0104】
ハロゲン化反応時に用いられる反応溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類と水との二層系溶媒等が挙げられる。経済的な観点から二層系溶媒がより好ましく、中でもトルエンと水との二層系溶媒がさらに好ましい。
【0105】
上述の反応溶媒が、極性溶媒の場合の使用量は、4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物100重量部に対して通常、10〜5000重量部程度とすることができ、好ましくは100〜1000重量部程度である。
【0106】
上述の反応溶媒が二相系溶媒の場合の使用量は、4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物100重量部に対して、有機溶媒、水ともに通常は10〜5000重量部程度とすることができ、好ましくは100〜1000重量部程度である。
【0107】
ハロゲン化反応の温度は、通常30〜120℃程度とすることができ、好ましくは40〜70℃程度である。反応時間としては、通常は1〜30時間程度である。
【0108】
かくして得られる、4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物は、必要に応じて水洗、分液して取得でき、溶媒留去後に再結晶することにより純度を高めて単離することができる。
【0109】
第3工程について
第3工程は下記一般式(7):
【0110】
【化22】

【0111】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、mおよびnは1〜3の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物を水の存在下にて加水分解反応を行う工程である。ここで、第2工程にてハロゲン化された末端のハロゲン化メチル基が加水分解されることによって、末端にチオール基を形成し、4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物が得られる。
【0112】
加水分解反応時に使用する水については、4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物1モルに対して、通常は2.0〜200モル程度とすることができ、好ましくは10〜50モル程度であることがより好ましい。
【0113】
加水分解反応時の溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶媒又は塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類と水との二層系溶媒が挙げられ、上記の極性溶媒と炭化水素類の混合溶媒での反応も可能である。中でも、経済的な観点からトルエンと水との二層系溶媒が好ましい。
【0114】
加水分解反応の温度は、通常30〜150℃程度とすることができ、好ましくは70〜120℃程度である。反応時間としては、通常1〜30時間程度である。
かくして得られる4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物は、必要に応じて水洗、分液して取得できる。また、溶媒留去後、再結晶することにより純度を高めて単離することができる。
【0115】
上述した3つの工程を経ることによって、下記一般式(4):
【0116】
【化23】

【0117】
(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物を製造することができる。
【0118】
4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の具体例としては、例えば4,4‘−ジメルカプトジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメルカプト−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメルカプト−2,2’−ジエチルジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメルカプト−1,1’−ジ−n−プロピルジフェニルスルフィド、4,4‘−ジメルカプト−3,3’−ジクロロジフェニルスルフィド等が挙げられ、特に、4,4‘−ジメルカプトジフェニルスルフィドが好ましい。
【実施例】
【0119】
下記に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0120】
実施例1
4,4’−ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシドの製造
攪拌機、温度計、冷却管およびガス導入管を備えた内容積100mlのフラスコに、4,4‘−ジクロロジフェニルスルホキシド15.0g(55mmol)、トルエン25.0gおよび50重量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド水溶液1.0gを加え、昇温し、液温を60℃に保ちながら、32重量%ナトリウムメタンチオラート水溶液25.5g(116mmol)を滴下し、その後、液温を90℃に昇温し、攪拌しながら20時間反応させた。反応終了後、液温を25℃に冷却し、分液して油層を分離した。油層にメタノール20.0gを滴下し、濾過することにより、4,4‘−ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシド11.3gを得た。4,4‘−ジクロロジフェニルスルホキシドに対する収率は70%であった。
H NMR d 2.47(s, 6H)、 7.27(d, J=8.8Hz, 4H)、 7.51(d, J=8.4Hz, 4H) ;
元素分析(C14H14OS3として) ;
計算値 : C 57.11 ; H 4.79 ; O 5.43 ; S 32.67
実測値 : C 57.05 ; H 4.71 ; O 5.48 ; S 32.76
屈折率 ; 1.673
製造した4,4‘−ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシドは、上記のような特性を有する化合物であることが判明した。
【0121】
実施例2
4,4‘−ジメチルカプトジフェニルスルフィドの製造
実施例1にて製造した、4,4‘−ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシド14.7g(50mmol)に、トルエン30.0gおよび35重量%塩酸10.4g(100mmol)を加え、昇温し、液温を60℃に保ちながら、亜鉛粉4.9g(75mmol)を分割添加し、その後、液温を60℃に保ちながら、攪拌しながら5時間反応させた。反応終了後、液温を25℃に冷却し、亜鉛残渣を濾過した後、濾液を分液して油層を分離した。その後、油層からトルエンを留去することにより、4,4‘−ジ(メチルチオ)フェニルスルフィド9.7gを得た。4,4‘−ジ(メチルチオ)フェニルスルホキシドに対する収率は70%であった。
【0122】
攪拌機、温度計、冷却管およびガス導入管を備えた内容積100mlのフラスコに、得られた4,4‘−ジメチルチオフェニルスルフィド7.5g(27mmol)およびトルエン50.0gを加え、昇温し、液温を75℃に保ちながら、塩素ガス4.8g(68mmol)を吹き込み、攪拌しながら1時間反応させ、系内でビス(4−クロロメチルスルファニルフェニル)スルフィドが生成した。その後、水20.0gを加え、攪拌しながら液温を110℃に昇温し、12時間反応させた。反応終了後、冷却し、析出した結晶を濾過することにより、4, 4’−ジメルカプトジフェニルスルフィド6.1gを得た。4,4‘−ジメチルチオフェニルスルフィドに対する収率は90%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物。
【請求項2】
前記Rがメチル基である請求項1に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物。
【請求項3】
前記R〜R及びR1´〜R4´がいずれも水素原子であり、Rがメチル基である請求項1に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物。
【請求項4】
下記一般式(2):
【化2】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジハロジアリールスルホキシド化合物と、下記一般式(3):MSR(式中、Mはアルカリ金属を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるチオール塩化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1):
【化3】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ。水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法。
【請求項5】
がメチル基である請求項4に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法。
【請求項6】
〜R及びR1´〜R4´が水素原子、Rがメチル基である請求項4に記載の4,4‘−ジチオジアリールスルホキシド化合物の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(4):
【化4】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法であって、
(i)請求項2に示す下記一般式(5);
【化5】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルホキシド化合物を、還元剤を用いて還元する第一工程、
(ii)第一工程によって得られる下記一般式(6);
【化6】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジメチルチオジアリールスルフィド化合物に、ハロゲン化剤を用いてハロゲン化する第二工程、
(iii)第二工程によって得られる下記一般式(7);
【化7】

(式中、R〜R及びR1´〜R4´は水素原子、同一又は異なって、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、mおよびnは1〜3の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4,4‘−ジハロメチルジアリールスルフィド化合物を、加水分解する第三工程を含有する4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【請求項8】
〜R及びR1´〜R4´が水素原子である請求項7に記載の4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のハロゲン化剤が塩素、塩化スルフリル、五塩化リン、三塩化リン、次亜塩素酸及び臭素からなる群より選ばれる少なくとも一種である4,4‘−ジメルカプトジアリールスルフィド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−207793(P2011−207793A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75639(P2010−75639)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】