新規タンニン及びこれを有効成分とするリパーゼ阻害剤
【課題】リパーゼ阻害作用を有する抗肥満剤の提供。
【解決手段】カワラケツメイ地上部乾燥物をエタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、残渣をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex LH−20カラム)に供し得られる新規タンニン(フラバン−カテキン−フラバンの3量体)。
【解決手段】カワラケツメイ地上部乾燥物をエタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、残渣をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex LH−20カラム)に供し得られる新規タンニン(フラバン−カテキン−フラバンの3量体)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規タンニン及びこれを有効成分とするリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の生活様式の欧米化に伴い、高脂肪食の摂取量が年々増加している。平成19年国民健康・栄養調査によると、エネルギー摂取量の平均値の年次推移は、男女ともに減少傾向であるが、脂肪エネルギー比率が25%以上の者の割合は、男女ともに増加傾向にある。また、脂質異常症が疑われる人の割合は、50歳以上で50〜60%に認められるとの報告がある(厚生労働省平成19年国民健康・栄養調査報告 2010年、68ページ、223ページ)。
【0003】
肥満は現代社会における最も重大な疾患の一つであるが、その主な要因は脂肪の過剰摂取による。また、脂肪の過剰摂取は、肥満のみならず、糖尿病、動脈硬化、高血圧等の生活習慣病の原因となっている。この肥満に対する治療薬として、「マジンドール(MAZINDOL)」が食欲抑制薬として国内で唯一承認されているが、主な副作用として、口渇感、便秘、悪心、嘔吐、睡眠障害、胃部不快感、発疹、そう痒感などが報告されている。(臨床評価、1985、13(2)、p.419〜459;臨床評価、1985、13(2)、p.461〜515)。また、海外では、リパーゼ阻害活性により腸管からの脂肪吸収抑制を持つ「ゼニカル(XENICAL)」(アメリカROCHE社の登録商標 )が肥満改善薬として市販されているが、やはり、脂肪便、排便回数の増加、軟便、下痢、腹痛などの副作用が報告されている。(The
Lancet,1998,352,p.67−172)。
【0004】
一方、肥満を予防するために他の方法として、食事制限により摂取カロリーを減らすことが有効であることが知られている。しかし、この手段においては厳密な栄養指導と管理が必要とされ、日常生活において実行することは困難である。従って、安全、且つ健康的に食事由来の脂肪の体内吸収を抑制することができれば、肥満及びそれに関連する疾患の治療、あるいは健康増進のための現実的で有用な方策となる。
【0005】
このような背景のもと、安全で、且つヒトに対する有効性が証明されている特定保健用食品の開発が注目されている。これまでに、食後の血清中性脂肪値の上昇を抑える特定保健用食品として、膵リパーゼの阻害により脂肪吸収を抑制するグロビン蛋白分解物(J.Nutr.1988,128,p.56−60;日本臨床・食糧学会誌、1999、52(2)、p.71〜77;健康・栄養食品研究、2002、5(3)、p.131〜144)、トリアシルグリセロールとは異なる消化吸収特性を有するジアシルグリセロール(J.Am.Coll.Nutr.2000,19(6),p.789−796;Clin.Chim.Acta.2001,11(2),p.109−117)、及び、魚油より精製されたエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが発売されている。
【0006】
また、リパーゼの阻害に関して、いくつかのポリフェノールが活性を有することが知られている。例えば、植物樹皮由来のタンニン(特公昭60−11912)、緑茶中の主要な成分エピガロカテキンガレート及びエピカテキンガレートを配合した脂質吸収抑制食品(特開平3−228664)、ピーマン、シメジ、かぼちゃ、まいたけ、ひじき、緑茶、ウーロン茶などの水抽出物からなるリパーゼ阻害剤(特開平3−219872)、フラボノール類(特開平7−61927)、ヒドロキシ安息香酸類(没食子酸)(特開平1−102022)、トリテルペン類化合物及びその誘導体(特開平9−40689)、タマリンドのプロシアニジンを有効成分とする抗肥満剤(特開平9−291039)などが報告されており、また、ブドウ種子抽出物のリパーゼ阻害作用(Nutrition,2003, Vol.19.(10),p.876−879)、サラシア由来ポリフェノールによるリパーゼ阻害作用とラットの抗肥満作用(J.Nutr.,2002,132,p.1819−1824)、ウーロン茶抽出物によるマウスの抗肥満作用(Int.J.Obes.,1999,23,p.98−105)なども知られている。
【0007】
一方、マメ科の植物であるカワラケツメイ(Cassia mimosoides L.var. nomame Makino)は、その全草が生薬として、利尿、整腸、健胃などの目的で利用されており、また茶の代用としても飲用されている。また、本植物の抽出物は、膵リパーゼの阻害作用が高いことが示されている。
【0008】
そして、カワケツメイから抽出したフラボノイド類及び該成分を有効成分とするリパーゼ阻害剤につき、過去の特許文献を遡及検索したところ、フラボン単量体及びタンニンに関する下記の特許文献1、2及び3に開示された発明が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−61927号公報
【特許文献2】特開平7−61981号公報
【特許文献3】特開平8−259557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1記載の発明は、カワラケツメイに含まれるリパーゼ阻害剤の有効成分として新規フラボノイド(フラボン単量体)を、前記特許文献2記載の発明では2つの新規タンニン(フラバン−カテキン2量体)を、前記特許文献3記載の発明では新規タンニン(フラバン4量体)をそれぞれ明らかにしている。しかしながら、これらの新規成分以外にもリパーゼ阻害活性をもつ成分が存在することが予想されるが、同定されていないという課題があった。
【0011】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであって、カワラケツメイ地上部乾燥物をエタノールで抽出した抽出エキスから生成された新規タンニン及びこれを有効成分とするリパーゼ阻害剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、カワラケツメイ抽出エキスから酵素阻害活性の高い成分について研究、開発及び種々テストの結果、
式
【化1】
で表される新規タンニン(フラバン−カテキン−フラバンの3量体)が有効であることを確認した。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る新規タンニンは、体内酵素タンパク質と結合することによってその活性化を低下させる性質を有し、代謝調節剤として有用である。また、種々の酵素作用を抑制し、食品などの酵素作用に起因する劣化を防止するのに利用することができる。
【0014】
本発明に係る新規タンニンは、飲用にも供されるカワラケツメイから採取したもので、安全性が高い。
【0015】
本発明に係る新規タンニンは、カワラケツメイからエタノールによる抽出、分取カラムクロマトグラフィーなどの通常の分離方法により単離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カワラケツメイのエタノール抽出物の作成手順を示す図である。
【図2】エタノール抽出物からのリパーゼ阻害試験結果を示す図である。
【図3】Fr28−35およびFr43−70のHPLCクロマトグラム(ゲルろ過カラム)である。
【図4】成分1および成分2のHPLCクロマトグラム(ODSカラム)である。
【図5】成分1の1H−NMRスペクトルである。
【図6】成分1のH−H COSYスペクトルである。
【図7】成分1の化学構造式である。
【図8】成分2のLC/MSスペクトルである。
【図9】成分2のLC/MS/MSスペクトルである。
【図10】成分2の化学構造式である。
【図11】成分1および成分2の濃度とリパーゼ阻害活性の関係を示す図である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0018】
[カワラケツメイからの抽出と分画]
本物質はカワラケツメイ等から、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー等、公知の方法により分離、採取することが可能である。具体的には、図1に示すように、カワラケツメイ地上部乾燥物からエタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、室温下で減圧乾燥した。次に、図2に示すように、エタノール抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex LH−20カラム)に供し、一段目は100%エタノールで溶出し、続いて二段目を70%エタノールで溶出し、分画した。このときの2つの画分(Fr28−35及びFr43−70)のHPLCクロマトグラムを図3に示す。
【0019】
更に、図2に示すように、リパーゼ阻害活性を示した2つの画分(Fr28−35及びFr43−70)を分取HPLC(Unison UK−C18 カラム)に供し、0.05%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリル混液(90:10)から(20:80)までのグラディエントで溶出し、成分1及び成分2を得た。このときのHPLCクロマトグラムを図4に示す。なお、これらの収量は、0.7%及び0.6%であった。
【0020】
[成分1の化学構造解析]
前記方法で採取した成分1は、そのHPLCクロマトグラムから少なくとも2成分から成る混合物であった。この成分1について、1H−NMR及びH−HCOSY測定を行った。それぞれのスペクトルを図3及び4に示す。更に、成分1についてLC/MS測定を行ったところ、含まれる成分全ての分子量は546であったことから、これは異性体であると考えられた。これらのデータ解析と併せて、カワラケツメイの成分研究に関する文献調査を行い、得られた文献データと成分1の1H−NMR実測値を比較した。その比較結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
前記比較の結果、成分1は、図5に示す構造を有する既知物質のタンニンで、2成分(1−1、1−2)の混合物と考えられた。参考文献(特開平7−61981号公報及びT.HATANO, A.YAMASHITA, T.HASIMOTO, H.ITO, N.KUBO, M.YOSHIYAMA,S.SHIMURA, Y.ITOH, T.OKUDA and T.YOSHIDA, Phytochemistry, Vol.46,No.5,p.893−900,1997)
【0023】
[成分2の化学構造解析]
前記方法で採取した成分2は、そのHPLCクロマトグラムから少なくとも2〜3成分からなる混合物であった。この成分2について、LC/MS分析を行ったところ、含まれる成分全ての分子量は802であったことから、これらは異性体であると考えられた(図6)。また、LC/MS/MS測定を行い、図7に示すデータが得られた。データ解析と併せて類似成分のLC/MS/MSに関する論文(参考文献 A.I.CALDERSON,B.J.WRIGHT,W.J.HURST AND R.B.BREEMAN, J.Agric.Food Chem., Vol.57, p.5693−5699, 2009)を調査した結果、成分2は、図8に示す構造を有する新規タンニン(フラバン−カテキン−フラバンの3量体)であると考えられた。
【0024】
[成分1、2リパーゼ阻害活性の測定]
リパーゼ活性の測定は、基質に蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4−UMO)を使用し、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロン
の蛍光を測定することにより実施した。測定にあたり、緩衝液は150mM NaCl,1.36mMCaCl2を含む13mM Tris−HCl(pH8.0)を用いた。基質である4−UMO(シグマ製)は、0.1MのDMSO溶液として調整したものを、前記緩衝液を用いて1000倍に希釈したものを酵素測定に供した。またリパーゼは、ブタ膵リパーゼ(コスモバイオ製)を、前記緩衝液を用いて400U/ml溶液として調製したものを酵素測定に供した。試料は、実施例で得た成分1及び2をDMSOで各濃度の溶液に調製し、更に、前記緩衝液で25倍希釈したものを試料溶液とした。
【0025】
酵素反応は、25℃条件下において、96穴マイクロプレートに50μLの4−UMO緩衝溶液、25μLの試料溶液(及び試料溶解溶媒)を添加し混合した後に、25μLのリパーゼ緩衝液を添加することにより開始した。30分間反応させた後に、100μLの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)を添加して反応を停止させ、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長360nm、蛍光波長465nm)を蛍光プレートリーダーで測定した。なお、酵素反応は全てn=2で行った。
【0026】
成分1および成分2の濃度とリパーゼ阻害活性の関係を図9に、このときのIC50(μg/ml)を表2に示す。このように成分1と比較して、成分2はリパーゼ阻害活性が12.5倍高いことが判明した。
【0027】
【表2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規タンニン及びこれを有効成分とするリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の生活様式の欧米化に伴い、高脂肪食の摂取量が年々増加している。平成19年国民健康・栄養調査によると、エネルギー摂取量の平均値の年次推移は、男女ともに減少傾向であるが、脂肪エネルギー比率が25%以上の者の割合は、男女ともに増加傾向にある。また、脂質異常症が疑われる人の割合は、50歳以上で50〜60%に認められるとの報告がある(厚生労働省平成19年国民健康・栄養調査報告 2010年、68ページ、223ページ)。
【0003】
肥満は現代社会における最も重大な疾患の一つであるが、その主な要因は脂肪の過剰摂取による。また、脂肪の過剰摂取は、肥満のみならず、糖尿病、動脈硬化、高血圧等の生活習慣病の原因となっている。この肥満に対する治療薬として、「マジンドール(MAZINDOL)」が食欲抑制薬として国内で唯一承認されているが、主な副作用として、口渇感、便秘、悪心、嘔吐、睡眠障害、胃部不快感、発疹、そう痒感などが報告されている。(臨床評価、1985、13(2)、p.419〜459;臨床評価、1985、13(2)、p.461〜515)。また、海外では、リパーゼ阻害活性により腸管からの脂肪吸収抑制を持つ「ゼニカル(XENICAL)」(アメリカROCHE社の登録商標 )が肥満改善薬として市販されているが、やはり、脂肪便、排便回数の増加、軟便、下痢、腹痛などの副作用が報告されている。(The
Lancet,1998,352,p.67−172)。
【0004】
一方、肥満を予防するために他の方法として、食事制限により摂取カロリーを減らすことが有効であることが知られている。しかし、この手段においては厳密な栄養指導と管理が必要とされ、日常生活において実行することは困難である。従って、安全、且つ健康的に食事由来の脂肪の体内吸収を抑制することができれば、肥満及びそれに関連する疾患の治療、あるいは健康増進のための現実的で有用な方策となる。
【0005】
このような背景のもと、安全で、且つヒトに対する有効性が証明されている特定保健用食品の開発が注目されている。これまでに、食後の血清中性脂肪値の上昇を抑える特定保健用食品として、膵リパーゼの阻害により脂肪吸収を抑制するグロビン蛋白分解物(J.Nutr.1988,128,p.56−60;日本臨床・食糧学会誌、1999、52(2)、p.71〜77;健康・栄養食品研究、2002、5(3)、p.131〜144)、トリアシルグリセロールとは異なる消化吸収特性を有するジアシルグリセロール(J.Am.Coll.Nutr.2000,19(6),p.789−796;Clin.Chim.Acta.2001,11(2),p.109−117)、及び、魚油より精製されたエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが発売されている。
【0006】
また、リパーゼの阻害に関して、いくつかのポリフェノールが活性を有することが知られている。例えば、植物樹皮由来のタンニン(特公昭60−11912)、緑茶中の主要な成分エピガロカテキンガレート及びエピカテキンガレートを配合した脂質吸収抑制食品(特開平3−228664)、ピーマン、シメジ、かぼちゃ、まいたけ、ひじき、緑茶、ウーロン茶などの水抽出物からなるリパーゼ阻害剤(特開平3−219872)、フラボノール類(特開平7−61927)、ヒドロキシ安息香酸類(没食子酸)(特開平1−102022)、トリテルペン類化合物及びその誘導体(特開平9−40689)、タマリンドのプロシアニジンを有効成分とする抗肥満剤(特開平9−291039)などが報告されており、また、ブドウ種子抽出物のリパーゼ阻害作用(Nutrition,2003, Vol.19.(10),p.876−879)、サラシア由来ポリフェノールによるリパーゼ阻害作用とラットの抗肥満作用(J.Nutr.,2002,132,p.1819−1824)、ウーロン茶抽出物によるマウスの抗肥満作用(Int.J.Obes.,1999,23,p.98−105)なども知られている。
【0007】
一方、マメ科の植物であるカワラケツメイ(Cassia mimosoides L.var. nomame Makino)は、その全草が生薬として、利尿、整腸、健胃などの目的で利用されており、また茶の代用としても飲用されている。また、本植物の抽出物は、膵リパーゼの阻害作用が高いことが示されている。
【0008】
そして、カワケツメイから抽出したフラボノイド類及び該成分を有効成分とするリパーゼ阻害剤につき、過去の特許文献を遡及検索したところ、フラボン単量体及びタンニンに関する下記の特許文献1、2及び3に開示された発明が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−61927号公報
【特許文献2】特開平7−61981号公報
【特許文献3】特開平8−259557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1記載の発明は、カワラケツメイに含まれるリパーゼ阻害剤の有効成分として新規フラボノイド(フラボン単量体)を、前記特許文献2記載の発明では2つの新規タンニン(フラバン−カテキン2量体)を、前記特許文献3記載の発明では新規タンニン(フラバン4量体)をそれぞれ明らかにしている。しかしながら、これらの新規成分以外にもリパーゼ阻害活性をもつ成分が存在することが予想されるが、同定されていないという課題があった。
【0011】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであって、カワラケツメイ地上部乾燥物をエタノールで抽出した抽出エキスから生成された新規タンニン及びこれを有効成分とするリパーゼ阻害剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、カワラケツメイ抽出エキスから酵素阻害活性の高い成分について研究、開発及び種々テストの結果、
式
【化1】
で表される新規タンニン(フラバン−カテキン−フラバンの3量体)が有効であることを確認した。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る新規タンニンは、体内酵素タンパク質と結合することによってその活性化を低下させる性質を有し、代謝調節剤として有用である。また、種々の酵素作用を抑制し、食品などの酵素作用に起因する劣化を防止するのに利用することができる。
【0014】
本発明に係る新規タンニンは、飲用にも供されるカワラケツメイから採取したもので、安全性が高い。
【0015】
本発明に係る新規タンニンは、カワラケツメイからエタノールによる抽出、分取カラムクロマトグラフィーなどの通常の分離方法により単離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カワラケツメイのエタノール抽出物の作成手順を示す図である。
【図2】エタノール抽出物からのリパーゼ阻害試験結果を示す図である。
【図3】Fr28−35およびFr43−70のHPLCクロマトグラム(ゲルろ過カラム)である。
【図4】成分1および成分2のHPLCクロマトグラム(ODSカラム)である。
【図5】成分1の1H−NMRスペクトルである。
【図6】成分1のH−H COSYスペクトルである。
【図7】成分1の化学構造式である。
【図8】成分2のLC/MSスペクトルである。
【図9】成分2のLC/MS/MSスペクトルである。
【図10】成分2の化学構造式である。
【図11】成分1および成分2の濃度とリパーゼ阻害活性の関係を示す図である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0018】
[カワラケツメイからの抽出と分画]
本物質はカワラケツメイ等から、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー等、公知の方法により分離、採取することが可能である。具体的には、図1に示すように、カワラケツメイ地上部乾燥物からエタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、室温下で減圧乾燥した。次に、図2に示すように、エタノール抽出物をゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex LH−20カラム)に供し、一段目は100%エタノールで溶出し、続いて二段目を70%エタノールで溶出し、分画した。このときの2つの画分(Fr28−35及びFr43−70)のHPLCクロマトグラムを図3に示す。
【0019】
更に、図2に示すように、リパーゼ阻害活性を示した2つの画分(Fr28−35及びFr43−70)を分取HPLC(Unison UK−C18 カラム)に供し、0.05%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリル混液(90:10)から(20:80)までのグラディエントで溶出し、成分1及び成分2を得た。このときのHPLCクロマトグラムを図4に示す。なお、これらの収量は、0.7%及び0.6%であった。
【0020】
[成分1の化学構造解析]
前記方法で採取した成分1は、そのHPLCクロマトグラムから少なくとも2成分から成る混合物であった。この成分1について、1H−NMR及びH−HCOSY測定を行った。それぞれのスペクトルを図3及び4に示す。更に、成分1についてLC/MS測定を行ったところ、含まれる成分全ての分子量は546であったことから、これは異性体であると考えられた。これらのデータ解析と併せて、カワラケツメイの成分研究に関する文献調査を行い、得られた文献データと成分1の1H−NMR実測値を比較した。その比較結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
前記比較の結果、成分1は、図5に示す構造を有する既知物質のタンニンで、2成分(1−1、1−2)の混合物と考えられた。参考文献(特開平7−61981号公報及びT.HATANO, A.YAMASHITA, T.HASIMOTO, H.ITO, N.KUBO, M.YOSHIYAMA,S.SHIMURA, Y.ITOH, T.OKUDA and T.YOSHIDA, Phytochemistry, Vol.46,No.5,p.893−900,1997)
【0023】
[成分2の化学構造解析]
前記方法で採取した成分2は、そのHPLCクロマトグラムから少なくとも2〜3成分からなる混合物であった。この成分2について、LC/MS分析を行ったところ、含まれる成分全ての分子量は802であったことから、これらは異性体であると考えられた(図6)。また、LC/MS/MS測定を行い、図7に示すデータが得られた。データ解析と併せて類似成分のLC/MS/MSに関する論文(参考文献 A.I.CALDERSON,B.J.WRIGHT,W.J.HURST AND R.B.BREEMAN, J.Agric.Food Chem., Vol.57, p.5693−5699, 2009)を調査した結果、成分2は、図8に示す構造を有する新規タンニン(フラバン−カテキン−フラバンの3量体)であると考えられた。
【0024】
[成分1、2リパーゼ阻害活性の測定]
リパーゼ活性の測定は、基質に蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4−UMO)を使用し、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロン
の蛍光を測定することにより実施した。測定にあたり、緩衝液は150mM NaCl,1.36mMCaCl2を含む13mM Tris−HCl(pH8.0)を用いた。基質である4−UMO(シグマ製)は、0.1MのDMSO溶液として調整したものを、前記緩衝液を用いて1000倍に希釈したものを酵素測定に供した。またリパーゼは、ブタ膵リパーゼ(コスモバイオ製)を、前記緩衝液を用いて400U/ml溶液として調製したものを酵素測定に供した。試料は、実施例で得た成分1及び2をDMSOで各濃度の溶液に調製し、更に、前記緩衝液で25倍希釈したものを試料溶液とした。
【0025】
酵素反応は、25℃条件下において、96穴マイクロプレートに50μLの4−UMO緩衝溶液、25μLの試料溶液(及び試料溶解溶媒)を添加し混合した後に、25μLのリパーゼ緩衝液を添加することにより開始した。30分間反応させた後に、100μLの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)を添加して反応を停止させ、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長360nm、蛍光波長465nm)を蛍光プレートリーダーで測定した。なお、酵素反応は全てn=2で行った。
【0026】
成分1および成分2の濃度とリパーゼ阻害活性の関係を図9に、このときのIC50(μg/ml)を表2に示す。このように成分1と比較して、成分2はリパーゼ阻害活性が12.5倍高いことが判明した。
【0027】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化2】
で表される新規タンニン。
【請求項2】
式
【化3】
で表される新規タンニンを有効成分とするリパーゼ阻害剤。
【請求項1】
式
【化2】
で表される新規タンニン。
【請求項2】
式
【化3】
で表される新規タンニンを有効成分とするリパーゼ阻害剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−240928(P2012−240928A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109510(P2011−109510)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(592001300)ミナト製薬株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(592001300)ミナト製薬株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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