説明

新規フラボバクテリア属細菌および新規シュードモナス属細菌ならびにそれを含有する飼料

【課題】本発明は、動物の飼育に際し、病原性微生物および病原性ウイルスによる疾病を予防する素材を提供すること、ならびに、動物の飼育環境を改善する素材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、フラボバクテリア属またはシュードモナス属に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌に関する。本発明はまたこの細菌の培養物、菌体またはそれらの処理物を含有する飼料、飼料添加剤、飼育環境浄化剤、病原性微生物の増殖抑制剤、病原性ウイルスの増殖抑制剤、有機物の分解剤、動物の成長促進剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規フラボバクテリア属細菌および新規シュードモナス属細菌、ならびに、魚類の養殖及び家畜の飼育に際して疾病を防除し、飼育環境の向上を図るための飼料、飼料添加剤または飼育環境浄化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類の養殖及び家畜の飼育においては、病原性微生物または病原性ウイルスの増殖による疾病の発生により甚大な損害が発生することがある。これらの疾病防除には、抗生物質や抗菌性の薬剤が多用されているが、抗生物質はウイルス抑制能に乏しく、また薬剤耐性細菌の出現等の理由により、これらの薬剤の効果が期待できない事態が起きている。また、飼料に添加された抗生物質等の効果は一時的であり、魚類の養殖及び家畜の飼育において、特に持続的に疫病防除作用を発揮する方法が求められている。
【0003】
一方、養殖底土には、残存した配合飼料や魚類の糞が沈降し蓄積して、有毒ガス(硫化水素等)の生産や赤潮発生の原因となっており、それらの現象により魚類の成長不良、病原性細菌または病原性ウイルスによる感染、大量斃死などが引き起こされる。また、家畜の飼育においても飼育環境の浄化、すなわち、飼育環境中での病原性微生物または病原性ウイルスの侵入及び家畜の糞尿の悪臭の軽減が課題となっている。
【0004】
上記の養殖及び家畜の飼育において、細菌等の微生物が有する抗菌性を利用して病原性微生物またはウイルスを防除すると同時にその微生物が有する有機物を分解する能力を利用して飼育環境を浄化することができれば、抗生物質等を添加する従来技術と比較して、より持続的且つ多面的な作用が期待できる。
【0005】
これまでに、魚類の養殖及び家畜の飼育においてフラボバクテリア属細菌を用いて病原性微生物または病原性ウイルスの増殖を抑制する技術は開示されていない。
【0006】
更に、フラボバクテリア属の細菌は炭化水素類を分解すること(特許文献4参照)、排水処理における難分解性化合物の低減に役立つこと(特許文献5参照)は開示されているが、養殖底土の改善及び家畜の飼育環境の浄化に関しては知見を見いだすことができない。
【0007】
また、これまでに、魚類の養殖及び家畜の飼育においてシュードモナス属細菌を添加して免疫力を増強する方法、赤潮を防除する方法、抗生物質の製造方法(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7参照)は開示されているが、動物の飼育過程で利用して病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する技術は開示されていない。
【0008】
更に、シュードモナス属の細菌は有機物の分解能が強く、環状脂肪族炭化水素類を分解すること(特許文献8参照)、排水処理における脱窒に役立つこと(特許文献9参照)、家畜等の排泄物の処理を行う方法は開示されているが(特許文献10参照)、養殖底土の改善及び家畜の飼育環境の浄化に関しては知見を見いだすことができない。
【0009】
【特許文献1】特開平6−80号公報
【特許文献2】特開平10−165983号公報
【特許文献3】特開2005−58137号公報
【特許文献4】特開平05−112416号公報
【特許文献5】特開平05−112417号公報
【特許文献6】特公平06−67948号公報
【特許文献7】特開平06−92815号公報
【特許文献8】特開2004−33045号公報
【特許文献9】特開2001−259686号公報
【特許文献10】特開2003−95771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、動物(家畜、ペット、家禽、魚類等)の飼育に際し、病原性微生物および病原性ウイルスによる疾病を予防する素材を提供することである。
【0011】
本発明が解決しようとする課題はまた、動物(家畜、ペット、家禽、魚類等)の飼育環境を改善する(具体的には、魚類の養殖水槽や養殖水域の底土に蓄積した有機物や、家畜の飼育環境に蓄積する有機物を分解する)素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、自然界、魚類の養殖環境、家畜の飼育環境から多数の細菌を分離し、病原性細菌(ビブリオ・アンギララム及びエドワジェラ・タルダ)の増殖を抑制する細菌の検索を行った。
【0013】
次に、病原性細菌の増殖を抑える細菌の培養液の上清に関して、病原性ウイルス(伝染性造血器壊死症ウイルス、インフルエンザウイルス)の増殖を抑える細菌の検索を行った。
【0014】
上記の広範な検索の結果、病原性細菌と病原性ウイルスに対して強い抑制作用を持つ菌株として分離番号BC−07株およびBC−08株を得た。
【0015】
BC−07株またはBC−08株の培養物を飼料に添加して魚類に与えることによって魚病の抑制効果と飼育水槽底土の全有機物の低減を確認した。更に、菌株BC−07またはBC−08の培養物を飼料に添加して家畜に与えることによって疾病の抑制効果を確認した。また菌株BC−07はフラボバクテリア属に属する新規株であることが確認された。菌株BC−08はシュードモナス属に属する新規株であることが確認された。こうして本発明は完成された。
【0016】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1)フラボバクテリア属またはシュードモナス属に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌。
(2)フラボバクテリア・エスピーBC−07(受託番号FERM P−20738)またはその変異株である(1)記載の細菌。
(3)シュードモナス・コレンシス (Pseudomonas koreensis) に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する(1)記載の細菌。
(4)シュードモナス・コレンシスBC−08(受託番号FERM P−21120)またはその変異株である(3)記載の細菌。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する飼料。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する飼料添加剤。
(7)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する動物の飼育環境の浄化剤。
(8)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する病原性微生物の増殖抑制剤。
(9)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する病原性ウイルスの増殖抑制剤。
(10)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する有機物の分解剤。
(11)(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する動物の成長促進剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、動物の飼育に際し病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制することによって、動物の疾病を予防できる素材が提供される。更に、本発明により、動物の飼育環境における有機物の分解を促進し、動物の飼育環境を浄化する素材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
本発明に用いることができる微生物は、フラボバクテリア属に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌であれば特に限定されないが、具体的にはフラボバクテリア・エスピーBC−07またはその変異株が好ましい。フラボバクテリア・エスピーBC−07は、受託番号FERM P−20738として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2005年12月21日付で寄託されている。本微生物は当初シュードモナス属に属すると分類されたため、本出願人は識別のための表示として「シュードモナス・エスピーBC−07」を付し上記寄託機関に寄託した。しかしながらその後の研究により本微生物はフラボバクテリア属に分類することがより適切であると判明した。本明細書中で「フラボバクテリア・エスピーBC−07」と称する微生物は、本願の基礎出願(特願2006−17542号)における「シュードモナス・エスピーBC−07」と称する微生物と同一である。本発明にはまた、フラボバクテリア属に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌であって、16SrRNAの塩基配列が配列番号1の塩基配列を含む細菌を用いてもよい。
【0020】
フラボバクテリア・エスピーBC−07は実施例1に記載した菌学的性質を有し、フラボバクテリア属に分類されるが、既存の種とは一致しない。通常、フラボバクテリア属以外の細菌およびフラボバクテリア属の他の菌株のほとんどが抗病性を持たないかまたは抗病性が低い。本発明者らは、驚くべきことに、フラボバクテリア・エスピーBC−07が、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を強力に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明にはまた、フラボバクテリア・エスピーBC−07が有する病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力が維持されている限り、フラボバクテリア・エスピーBC−07が変異誘発処理された変異株を用いることができる。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」なる語は、その広義において、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。
【0021】
BC−07株の培養には、一般的な細菌用の培地を適用することができ、特に組成を限定するものではない。例えば、ペプトン10g、酵母エキス2g、クエン酸鉄0.033g、リン酸一カリウム0.167g、硫酸マグネシウム0.167g、塩化カルシウム0.034g、水道水1000ml、pH7.0の培地を作製し、121℃、15分間の加熱滅菌を行って使用することができる。また、上記液体培地のほかに固体培地によっても培養が可能であり、米ぬか、魚粉、配合飼料などに少量の水分を加えた培地を用いて良好に培養することができる。
【0022】
BC−07を培養するときの培養容器は、一般的な微生物の培養に用いられる装置を用いることができ、特に方法を限定するものではない。例えば、小規模の培養では試験管、フラスコ、シャーレなどを用いることができ、大規模の培養にはジャーファメンター、通気攪拌できるタンク、固体培養装置などを使用することができる。
【0023】
本発明に用いることができる他の微生物は、シュードモナス属(なかでもシュードモナス・コレンシス)に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌であれば特に限定されないが、具体的にはシュードモナス・コレンシスBC−08またはその変異株が好ましい。シュードモナス・コレンシスBC−08は、受託番号FERM P−21120として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2006年12月1日付で寄託されている。本発明にはまた、シュードモナス属に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌であって、16SrRNAの塩基配列が配列番号2の塩基配列を含む細菌を用いてもよい。
【0024】
シュードモナス・コレンシスBC−08は実施例4に記載した菌学的性質を有し、シュードモナス属コレンシス種に分類されるが、既存の株と完全には一致しない。通常、シュードモナス属以外の細菌およびコレンシス種を含むシュードモナス属の他の菌株のほとんどが抗病性を持たないか又は抗病性が低い。本発明者らは、驚くべきことに、シュードモナス・コレンシスBC−08が、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を強力に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明にはまた、シュードモナス・コレンシスBC−08が有する病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力が維持されている限り、シュードモナス・コレンシスBC−08が変異誘発処理された変異株を用いることができる。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」なる語は、その広義において、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。
【0025】
BC−08株の培養には、一般的な細菌用の培地を適用することができ、特に組成を限定するものではない。例えば、ペプトン2g、酵母エキス0.5g、肉エキス0.2g、クエン酸鉄0.033g、リン酸一カリウム0.167g、硫酸マグネシウム0.167g、塩化カルシウム0.2g、酢酸ナトリウム0.2g、水道水1000ml、pH7.2〜7.4の培地を作製し、121℃、15分間の加熱滅菌を行って使用することができる。また、上記液体培地のほかに固体培地によっても培養が可能であり、米ぬか、魚粉、配合飼料などに少量の水分を加えた培地を用いて良好に培養することができる。
【0026】
BC−08を培養するときの培養容器は、一般的な微生物の培養に用いられる装置を用いることができ、特に方法を限定するものではない。例えば、小規模の培養では試験管、フラスコ、シャーレなどを用いることができ、大規模の培養にはジャーファメンター、通気攪拌できるタンク、固体培養装置などを使用することができる。
【0027】
以下の説明は特に断りのない限りフラボバクテリア属細菌およびシュードモナス属細菌のどちらにも当てはまる。
【0028】
本発明の細菌は培養物、菌体、培養物または菌体の処理物として本発明の目的に使用できる。ここで「培養物」とは固体または液体培地中で細菌を培養して生じる、菌体の分離を行っていない培養物(液体培地の場合は培養液)である。「菌体」とは培養後に前記培養物から菌体を遠心分離や膜分離の手法により単離(高濃度化を含む概念)して得られたものである。培養物または菌体の「処理物」とは、培養物または菌体を常法により処理したもの全てを包含する概念であり、例えば、培養物または菌体の希釈物、濃縮物、乾燥物、凍結物や、培養液の上清や、培養液の上清の希釈物、濃縮物、乾燥物、凍結物を指す。
【0029】
本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物として特に好ましい実施形態について以下に説明する。
【0030】
本発明の目的には、培養を終了した菌体培養液を菌を含む培養液そのままの状態で使用できる。保存温度5℃以下で2〜3週間程度の期間有効に保管できるため、低温輸送、冷蔵庫保管することによって魚類や家畜の飼育に際して有効に利用することができる。
【0031】
培養を終了した菌体培養液を小分けして凍結して保管するのもまた、長期保存の観点から有効である。菌の活力維持の観点から、凍結前に、グリセロール、脱脂粉乳、糖類などの保護剤を加えるのが好ましく、保護剤の添加濃度は1〜60%(保護剤の重量/培養液の容積)の範囲であり、より好ましくは5〜30%(保護剤の重量/培養液の容積)の範囲である。凍結した培養液は、そのまま−20℃以下で保管することによって6月以上の保管が可能であり、長期にわたって魚類や家畜の飼育のために有効に利用することができる。
【0032】
培養を終了した菌体培養液は乾燥して用いることもできる。菌の活力が低下するため効力が低下する欠点はあるが、長期に保管して魚類や家畜の飼育に使用できる観点から適している。乾燥方法は、特に限定するものではないが、例えば、噴霧乾燥、真空乾燥、真空凍結乾燥などを用いることができる。
【0033】
培養を終了した培養液は、菌体と培養液上清を分離して使用することができる。菌体と培養液上清の分離方法に制限はないが、例えば、遠心分離、膜分離によって菌体と培養液上清のそれぞれを回収することができる。培養液上清は必要に応じて加熱減圧濃縮、限外ろ過などによって濃縮することもできる。得られた菌体または培養液上清は、冷蔵、冷凍、乾燥品のいずれの形態にも加工することができ、それぞれが魚類や家畜の飼育のために利用することができる。
【0034】
本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物は、他の任意の成分との混合物として用いることも可能である。例えば、混合できる物質として、配合飼料、乳酸菌、バチルス菌、クロレラ、朝鮮人参、クロレラエキス、ローヤルゼリー、魚粉、穀物粉末、海藻粉末、ゼオライトが挙げられ、飼料として利用できるものまたは飼料に添加できるものであれば種類を問わない。
【0035】
本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物は、他の任意の物質に吸着させることが可能である。例えば、ゼオライト、活性炭、米ぬか、魚粉などに吸着させることによって、飼育環境中に散布したときに、安定して飼育環境中に維持され、長期にわたって効果を期待することができる。
【0036】
本発明の細菌は動物飼育用の飼料、飼料添加物または飼育環境の浄化剤に使用することが可能である。
【0037】
本発明において「動物」とは魚類、家畜、ペット、家禽などを指す。
【0038】
本発明において「魚類」とは当業者にとって自明である任意の魚類を意味するが、例えば、アユ、ニジマス、ウナギ、ヤマメ、アマゴ、イワナ、ワカサギ等の淡水魚、またはタイ、ハマチ、ヒラメ、カンパチ、シマアジ、ギンザケ、フグ等の海水魚が挙げられる。
【0039】
本発明において「家畜」とは当業者にとって自明である任意の動物を意味するが、例えば、ブタ、ブロイラー、養鶏、牛、家兎などが挙げられる。
【0040】
本発明において「ペット」とは当業者にとって自明である任意の動物を意味するが、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、うさぎなどが挙げられる。
【0041】
本発明において「病原性微生物」とは、例えば病原性の細菌が挙げられ、ビブリオ・アンギララム(Vibrio anguillarum)、エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)、サルモネラ・エンテリチディス(Salmonella enteritidis)、サプロレジナ・ディクリナ(Saprolegina diclina)、デルモシスティディウム・アンギラ(Dermocystidium anguillae)などが挙げられる。
【0042】
本発明において「病原性ウイルス」とは、例えば伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)、インフルエンザウイルス(Influenza Virus)、イリドウイルス(LCDV)、ノダウイルス(SJNNV)、ビルナウイルス(YAV)、ラブドウイルス (HIRRV) 等が挙げられる。
【0043】
本発明において飼育環境の浄化剤とは、動物の飼育環境に散布することによって、環境中に存在する病原菌や病原性ウイルスの低減に役立つと共に、養殖底土に蓄積する有機物や飼育環境中に排泄される有機物を分解する資材を指す。
【0044】
本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物はまた、病原性微生物の増殖抑制剤、病原性ウイルスの増殖抑制剤、あるいは有機物の分解剤として用いることができる。これらの実施形態においては、本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物は、使用目的(例えば医薬用途、獣医学的用途、水産養殖用途)において許容される賦形剤または担体とともに使用することができる。
【0045】
本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物はまた、動物の成長促進剤として用いることもできる。この用途では、本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物を動物飼育用の飼料、飼料添加物等の形態で動物に摂食させることにより、動物の成長を促進する。ここで「動物」とは上記で定義した通りである。これらの実施形態においては、本発明の細菌の培養物、菌体、またはそれらの処理物は、使用目的(例えば医薬用途、獣医学的用途、水産養殖用途)において許容される賦形剤または担体とともに使用することができる
【実施例1】
【0046】
フラボバクテリア・エスピーBC-07株の単離および同定
本実施例に使用するフラボバクテリア・エスピーBC-07株は淡水魚飼育環境より単離された菌株であり、以下のような特徴を持つ。
ア):長さ1〜3ミクロンで、形状は短桿菌。コロニーの色は黄白色である。
イ):培地:ペプトン培地組成:Bacto-peptone (Difco Co. Ltd.) 2 g、 Bacto-yeast extracts (同上) 1 g 、クエン酸鉄(同上) 0.1 g、 純水 1 L、 pH 7.2においてよく増殖する。
【0047】
フラボバクテリア・エスピーBC-07株の菌学的性状
1−1. 細胞の形:短桿状。 細胞の大きさ :1〜3(μm)。1−2. 多形性 :長さの異なる種々の細胞が通常の培養で多々存在する。1−3. 運動性 :なし、 鞭毛 :なし、胞子 :なし、グラム染色性 :陰性、抗酸性 :なし。
2−1. 生育程度 :3日間培養で数mmのコロニーを形成する、 色 :薄い黄白色、 光沢 :特になし、表面は平滑、 拡散性色素 :なし。
3−1. 硝酸塩還元 :+。 3−2. 脱窒反応 : +。 3−3. MRテスト : −。 3−4. VPテスト : −。 3−5. インドール : −。 3−6.硫化水素 : −。 3−7.デンプン水解 : +。3−8. クエン酸 :−。 3−9.硝酸塩利用 : −、 アンモニウム塩利用 : +。3−10.色素生成 : +。3−11.ウレアーゼ : −。3−12.オキシダーゼ :+。3−13.カタラーゼ : +。3−14.pH :5.0(-), 5.6(+), 8.6(+), 9.0(−) 。3−15.温度 :中温性 5−30℃.酸素要求性 :好気性。 3−16. OFテスト :−。
4−1. NaCl濃度と生育 :0−2%で生育、至適範囲 0−1%。
【0048】
(1)核酸の抽出
"Sepa Gene"キット(三光純薬(株)製)を用いて核酸の抽出を行った後、エタノール沈殿により核酸を回収した。
(2)PCR
16SrRNAに特異的なユニバーサルプライマー2種(5’ 末端側及び3’ 末端側)を用いて増幅を行った。
(3)PCR増幅産物の精製
増幅終了後、スピンカラム(ファルマシア社製)を用いて精製を行った。
(4)16SrRNA塩基配列の解析
精製したPCR増幅産物をアプライド バイオシステムズ 377DNAシークエンサー(パーキンエルマー社製)により5’ 末端側の塩基配列解析を行った。
(5)16SrRNAデータベース検索による相同解析
ジーンバンクのデータベースよりオンラインで検索を行った。
フラボバクテリア・エスピーBC−07株の16SrRNAの部分塩基配列を配列番号1に示す。
【0049】
本発明菌を産業別審査基準応用微生物工業改訂版(特許庁編)の新種細菌の記載例に従って、その性状を調べ、Baumann 等(1984)に基づきその分類学上の位置を検討した結果、本菌株は、フラボバクテリア属と同定されたが、既存の種とは一致しなかった。なお本願基礎出願時には本菌株はシュードモナス属に分類されたが、その後の検討によりフラボバクテリア属に分類するほうがより適切であることが明らかとなった。
【0050】
本発明者らは該菌株を独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−20738として寄託した。本発明者らは該菌株をフラボバクテリア・エスピーBC−07株と命名した。
【0051】
抗細菌試験
上記のフラボバクテリア・エスピーBC−07株が病原性細菌の増殖を抑制する能力を有することを以下のように確認した。
寒天培地にあらかじめ塗沫した2本の上記菌株のスミアの間に、魚類疾病原因細菌であるビブリオ・アンギララムまたはエドワジエラ・タルダを移植して25℃下にて10日間培養後のスミアの間の病原菌のコロニーの大きさを、病原菌のみを対照区として培養した場合のコロニーの大きさと比較したところ、表1に示すとおり、ビブリオ・アンギララムおよびエドワジエラ・タルダの増殖が抑制された。表1中の「阻害率」は、対照区培地上のビブリオ・アンギララム(またはエドワジエラ・タルダ)のコロニーの横幅の大きさと試験区の同菌のコロニーの同大きさとの比を百分率で表したものである。
【0052】
【表1】

【0053】
抗ウイルス試験
上記の菌株フラボバクテリア・エスピーBC−07株が病原性ウイルスの増殖を抑制する能力を有することを以下のように確認した。
【0054】
マスノスケの細胞 CHSE-214の培養系において、上記菌株の培養上澄液が伝染性造血器壊死症の原因ウイルスである伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)の作用を抑制するか否かについて検定した。作用抑制効果はマスノスケ細胞の変性効果 (CPE) を抑制する度合いを指標として判定した。
【0055】
マスノスケ細胞 CHSE-214を、1 mLの液体培地(10%ウシ血清成分、0.075%NaHCO3、100 IU/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1.6%Tris-HCl(pH 7.8) 含有)中で15℃にて培養し、その培養系に、IHNV培養液および上記フラボバクテリア属細菌の培養上清液(0.1 mL)を加えた。対照実験として、前記培養系にIHNVの培養液のみ(0.1 mL)を添加した。ここで、上記フラボバクテリア属細菌の培養上清液とは、該細菌をニュートリエントブロス培地中で3日間25℃で培養した後に遠沈 (4000rpm)して菌体を沈澱させ、0.22μmのフィルターでろ過して得られた濾液を指す。またIHNVの培養液とは、同様の上記培養液およびCHSE-214を用いてIHNVを増殖させた後、0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾液を指す。
【0056】
上記の菌体培養上清液を添加した後のCPEを経時的に測定した。CPEが低いということは、すなわちウイルスの増殖が抑制されていることを意味すると考えられる。結果を図1に示す。図1に示すとおり、フラボバクテリア・エスピーBC-07株の培養上清を添加した場合にIHNVの増殖が抑制された。
【0057】
更に、上記の方法を一部改変し、菌株フラボバクテリア・エスピーBC−07株がインフルエンザウイルスの増殖を抑制する能力を有することを確認した。すなわち、上記の方法においてマスノスケ細胞(IHV)の替わりにヒト結腸腺由来細胞(Caco-2)を用い、伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)の替りにインフルエンザウイルス(H3N2弱病原性)を用いて調べた結果、BC−07株培養上清液はインフルエンザウイルスの増殖を抑制した(図2)。
【実施例2】
【0058】
タイに対するウイルス攻撃試験
本発明の飼料(実験区)は、市販の粉末配合飼料(日本水産株式会社製)に、フラボバクテリア・エスピーBC−07株の培養液(ヘプトン10g、酵母エキス2g、リン酸一カリウム1.67g、硫酸マグネシウム1.67g、クエン酸鉄33mg、塩化カルシウム34mgを水道水1000mlに溶解させpH7.2に調整して得られた液体培地中で同菌株を培養した菌体を含む培養液)を20%(V/W)の割合で添加し、よく混合することにより調製した。また、従来法の飼料(対照区)は、市販の粉末配合飼料(日本水産株式会社製)に細菌用の液体培地だけ(菌株は含まず)を20%(V/W)の割合で添加し、よく混合することにより調製した。
【0059】
上記のフラボバクテリア・エスピーBC−07株を含有した飼料(実験区)、またはフラボバクテリア・エスピーBC−07株を含有しない飼料(対照区)を、タイ(体長約8cm、各実験区につき20個体)に、100 L容量の水槽中で0.2個体/Lの飼育密度で、25℃において、5g/個体/日の割合で10日間投与した後、タイの致死濃度に設定したイリドウイルス液を腹腔内注射した。なお上記のイリドウイルス液は、予めタイ腹腔内でウイルスを培養させ、タイの死亡後に腹腔内より取り出したウイルス液を致死濃度に希釈したものである。ここで、致死濃度は、タイの死亡後に腹腔内より取り出したウイルス液を種々の割合で希釈したものをタイに投与して実際に感染して死亡する濃度を確認することにより決定した。
【0060】
その後、両実験区のタイを対照実験で使用したのと同じフラボバクテリア・エスピーBC−07株を含有しない飼料で飼育し、両実験区における魚体生残率を経時的に測定した。結果を図3に示す。フラボバクテリア・エスピーBC−07株無添加区のタイは全て死滅したが、フラボバクテリア・エスピーBC−07株添加実験区のタイは70%が生残した。
【実施例3】
【0061】
アユ飼育槽底砂の栄養塩の定量
砂を底面に敷き詰めた水槽(100 L容量)において、アユ(実験当初の体長約10cm)を10個体/mの密度で、20℃において1g/個体/日の割合で市販の飼料を投与して約3ヶ月間飼育した。試験区には実施例2に記載したフラボバクテリア・エスピーBC−07の培養液を、飼育水当たりの菌数が10〜10/mlとなるように毎日散布した。飼育終了後に、砂に蓄積した栄養物質の中で全硫化物量、全窒素量、全リン量および全有機物量(灼熱減量)を測定した。
【0062】
全硫化物量はヨウ素滴定法により測定した。全窒素量はペルオキソ2硫酸カリウム酸化法により測定した。全リン量はアスコルビン酸還元法により測定した。灼熱減量は、試料有機物を600℃で熱することにより測定した。これらの測定はいずれも当業者にとって周知の標準的な測定手順に従って行った。
【0063】
結果を図4に示す。フラボバクテリア・エスピーBC−07株を含有する飼料をアユに投与した場合に全硫化物量、全窒素量、全リン量および全有機物量が低減した。このように、養殖水域底土中の有機物分解が進行したことが示された。
【実施例4】
【0064】
シュードモナス・コレンシスBC-08株の単離および同定
本実施例に使用するシュードモナス・コレンシスBC‐08株は淡水魚飼育環境より単離された菌株であり、以下のような特徴を持つ。
ア):長さ1〜3ミクロンで、形状は短桿菌。鞭毛を持ち、運動を行う。コロニーの色は白色である。
イ):培地:ペプトン2g、酵母エキス0.5g、肉エキス0.2g、クエン酸鉄0.033g、リン酸一カリウム0.167g、硫酸マグネシウム0.167g、塩化カルシウム0.2g、酢酸ナトリウム0.2g、水道水1000ml、pH7.2〜7.4においてよく増殖する。
【0065】
シュードモナス・コレンシスBC-08株の菌学的性状
1−1. 細胞の形:短桿状。 細胞の大きさ :1〜3(μm)。1−2. 運動性 :あり、 鞭毛 :あり、胞子 :なし、グラム染色性 :陰性、抗酸性 :なし。
2−1. 生育程度 :3日間培養で数mmのコロニーを形成する、 色 :白色、 光沢 :特になし、表面は平滑、 拡散性色素 :なし。
3−1. 硝酸塩還元 :−。 3−2. 脱窒反応 : −。 3−3. MRテスト : −。 3−4. VPテスト : −。 3−5. インドール : −。 3−6.硫化水素 : −。3−7. クエン酸 : −。 3−8.硝酸塩利用 : −、3−9.色素生成 : −。3−10.ウレアーゼ : −。3−11.オキシダーゼ :−。3−12.カタラーゼ :+。3−13.pH :5.0(-), 5.6(+), 8.6(+), 9.0(+) 。3−14.温度 :中温性 5−35℃。3−15. OFテスト :−。
4−1. NaCl濃度と生育 :0−3%で生育、至適範囲 0−3%。
【0066】
(1)核酸の抽出
"Sepa Gene"キット(三光純薬(株)製)を用いて核酸の抽出を行った後、エタノール沈殿により核酸を回収した。
(2)PCR
16SrRNAに特異的なユニバーサルプライマー2種(5’ 末端側及び3’ 末端側)を用いて増幅を行った。
(3)PCR増幅産物の精製
増幅終了後、スピンカラム(ファルマシア社製)を用いて精製を行った。
(4)16SrRNA塩基配列の解析
精製したPCR増幅産物をアプライド バイオシステムズ 377DNAシークエンサー(パーキンエルマー社製)により5’ 末端側の塩基配列解析を行った。
(5)16SrRNAデータベース検索による相同解析
ジーンバンクのデータベースよりオンラインで検索を行った。
【0067】
シュードモナス・コレンシスBC−08株の16SrRNAの塩基配列を配列番号2に示す。
【0068】
本発明菌を産業別審査基準応用微生物工業改訂版(特許庁編)の新種細菌の記載例に従って、その性状を調べ、Baumann 等(1984)に基づきその分類学上の位置を検討した結果、本菌株は、シュードモナス・コレンシスと同定された。
【0069】
本発明者らは該菌株をシュードモナス・コレンシスBC−08株と命名し、平成18年12月1日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERMP−21120として寄託した。
【0070】
抗細菌試験
上記のシュードモナス・コレンシスBC−08株が病原性細菌の増殖を抑制する能力を有することを以下のように確認した。
寒天培地にあらかじめ塗沫した2本の上記菌株のスミアの間に、魚類疾病原因細菌であるビブリオ・アンギララムまたはエドワジエラ・タルダを移植して25℃下にて10日間培養後のスミアの間の病原菌のコロニーの大きさを、病原菌のみを対照区として培養した場合のコロニーの大きさと比較したところ、表2に示すとおり、ビブリオ・アンギララムおよびエドワジエラ・タルダの増殖が抑制された。表2中の「阻害率」は、対照区培地上のビブリオ・アンギララム(またはエドワジエラ・タルダ)のコロニーの横幅の大きさと試験区の同菌のコロニーの同大きさとの比を百分率で表したものである。
【0071】
【表2】

【0072】
抗ウイルス試験
上記の菌株シュードモナス・コレンシスBC−08株が病原性ウイルスの増殖を抑制する能力を有することを以下のように確認した。
【0073】
マスノスケの細胞CHSE-214の培養系において、上記菌株の培養上澄液が伝染性造血器壊死症の原因ウイルスである伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)の作用を抑制するか否かについて検定した。作用抑制効果はマスノスケ細胞の変性効果 (CPE) を抑制する度合いを指標として判定した。
【0074】
マスノスケ細胞 CHSE-214を、1 mLの液体培地(10%ウシ血清成分、0.075%NaHCO3、100 IU/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、1.6%Tris-HCl(pH 7.8) 含有)中で15℃にて培養し、その培養系に、IHNV培養液および上記シュードモナス属細菌の培養上清液(0.1 mL)を加えた。対照実験として、前記培養系にIHNVの培養液のみ(0.1 mL)を添加した。ここで、上記シュードモナス属細菌の培養上清液とは、該細菌をニュートリエントブロス培地中で3日間25℃で培養した後に遠沈 (4000rpm)して菌体を沈澱させ、0.22μmのフィルターでろ過して得られた濾液を指す。またIHNVの培養液とは、同様の上記培養液およびCHSE-214を用いてIHNVを増殖させた後、0.45μmのフィルターで濾過して得られた濾液を指す。
【0075】
上記の菌体培養上清液を添加した後のCPEを経時的に測定した。CPEが低いということは、すなわちウイルスの増殖が抑制されていることを意味すると考えられる。結果を図5に示す。図5に示すとおり、シュードモナス・コレンシスBC-08株の培養上清を添加した場合にIHNVの増殖が抑制された。
【0076】
更に、上記の方法を一部改変し、菌株シュードモナス・コレンシスBC−08株がインフルエンザウイルスの増殖を抑制する能力を有することを確認した。すなわち、上記の方法においてマスノスケ細胞(IHV)の替わりにヒト結腸腺由来細胞(Caco-2)を用い、伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV)の替りにインフルエンザウイルス(H3N2弱病原性)を用いて調べた結果、BC−08株培養上清液はインフルエンザウイルスの増殖を抑制した(図6)。
【実施例5】
【0077】
タイに対するウイルス攻撃試験
本発明の飼料(実験区)は、市販の粉末配合飼料(日本水産株式会社製)に、シュードモナス・コレンシスBC−08株の培養液(ペプトン2g、酵母エキス0.5g、肉エキス0.2g、クエン酸鉄0.033g、リン酸一カリウム0.167g、硫酸マグネシウム0.167g、塩化カルシウム0.2g、酢酸ナトリウム0.2g、水道水1000ml、pH7.2〜7.4に調整して得られた液体培地中で同菌株を培養した菌体を含む培養液)を20%(V/W)の割合で添加し、よく混合することにより調製した。また、従来法の飼料(対照区)は、市販の粉末配合飼料(日本水産株式会社製)に細菌用の液体培地だけ(菌株は含まず)を20%(V/W)の割合で添加し、よく混合することにより調製した。
【0078】
上記のシュードモナス・コレンシスBC−08株を含有した飼料(実験区)、またはシュードモナス・コレンシスBC−08株を含有しない飼料(対照区)を、タイ(体長約8cm、各実験区につき20個体)に、100 L容量の水槽中で0.2個体/Lの飼育密度で、25℃において、5g/個体/日の割合で10日間投与した後、タイの致死濃度に設定したイリドウイルス液を腹腔内注射した。なお上記のイリドウイルス液は、予めタイ腹腔内でウイルスを培養させ、タイの死亡後に腹腔内より取り出したウイルス液を致死濃度に希釈したものである。ここで、致死濃度は、タイの死亡後に腹腔内より取り出したウイルス液を種々の割合で希釈したものをタイに投与して実際に感染して死亡する濃度を確認することにより決定した。
【0079】
その後、両実験区のタイを対照実験で使用したのと同じシュードモナス・コレンシスBC−08株を含有しない飼料で飼育し、両実験区における魚体生残率を経時的に測定した。結果を図7に示す。シュードモナス・コレンシスBC−08株無添加区のタイは全て死滅したが、シュードモナス・コレンシスBC−08株添加実験区のタイは80%が生残した。
【実施例6】
【0080】
アユ飼育槽底砂の栄養塩の定量
砂を底面に敷き詰めた水槽(100 L容量)において、アユ(実験当初の体長約10cm)を10個体/mの密度で、20℃において1g/個体/日の割合で市販の飼料を投与して約3ヶ月間飼育した。試験区には実施例5に記載したシュードモナス・コレンシスBC−07の培養液を、飼育水当たりの菌数が10〜10/mlとなるように毎日散布した。飼育終了後に、砂に蓄積した栄養物質の中で全硫化物量、全窒素量、全リン量および全有機物量(灼熱減量)を測定した。
【0081】
全硫化物量はヨウ素滴定法により測定した。全窒素量はペルオキソ2硫酸カリウム酸化法により測定した。全リン量はアスコルビン酸還元法により測定した。灼熱減量は、試料有機物を600℃で熱することにより測定した。これらの測定はいずれも当業者にとって周知の標準的な測定手順に従って行った。
【0082】
結果を図8に示す。シュードモナス・コレンシスBC−08株を含有する飼料をアユに投与した場合に全硫化物量、全窒素量、全リン量および全有機物量が低減した。このように、養殖水域底土中の有機物分解が進行したことが示された。
【実施例7】
【0083】
家兎の飼育実験
対照区及び試験区それぞれ3羽の家兎(開始時の平均体重2.1kg)を用いて飼育実験を行った。餌は家兎用飼料(オリエンタル酵母工業製)を用い、試験区の飼料はシュードモナス・コレンシスBC−08株の培養液(ペプトン2g、酵母エキス0.5g、肉エキス0.2g、クエン酸鉄0.033g、リン酸一カリウム0.167g、硫酸マグネシウム0.167g、塩化カルシウム0.2g、酢酸ナトリウム0.2g、水道水1000ml、pH7.2〜7.4に調整して得られた液体培地中で同菌株を培養した菌体を含む培養液)を10%(V/W)の割合で配合飼料に添加し、よく混合することにより調製した。飼料は1日に100g程度を与え、6週間の飼育を行った。
【0084】
その結果、対照区では下痢症状を起こす個体が認められたのに対して試験区の個体は健全であり、実験終了時の体重も対照区では平均体重2.8kgであったのに対して試験区では平均体重3.3kgと成長がすぐれていた。更に、対照区に比べて試験区では糞尿の悪臭も軽減された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】フラボバクテリア・エスピーBC-07株の培養上清を添加した場合にIHNVの増殖が抑制されたことを示す図である。
【図2】フラボバクテリア・エスピーBC-07株の培養上清を添加した場合にインフルエンザウイルスの増殖が抑制されたことを示す図である。
【図3】抗ウイルス細菌フラボバクテリア・エスピーを添加した、或いは無添加の配合飼料の投与によるタイの飼育結果を示す図である。
【図4】飼料中にフラボバクテリア・エスピーBC-07株を添加した場合と、無添加の場合における、アユ飼育水槽底砂中の栄養塩濃度を示す図である。
【図5】シュードモナス・コレンシスBC-08株の培養上清を添加した場合にIHNVの増殖が抑制されたことを示す図である。
【図6】シュードモナス・コレンシスBC-08株の培養上清を添加した場合にインフルエンザウイルスの増殖が抑制されたことを示す図である。
【図7】抗ウイルス細菌シュードモナス・コレンシスを添加した、或いは無添加の配合飼料の投与によるタイの飼育結果を示す図である。
【図8】飼料中にシュードモナス・コレンシスBC-08株を添加した場合と、無添加の場合における、アユ飼育水槽底砂中の栄養塩濃度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボバクテリア属またはシュードモナス属に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する細菌。
【請求項2】
フラボバクテリア・エスピー BC−07(受託番号FERM P−20738)またはその変異株である請求項1記載の細菌。
【請求項3】
シュードモナス・コレンシス (Pseudomonas koreensis) に属し、病原性微生物および病原性ウイルスの増殖を抑制する能力ならびに有機物を分解する能力を有する請求項1記載の細菌。
【請求項4】
シュードモナス・コレンシス BC−08(受託番号FERM P−21120)またはその変異株である請求項3記載の細菌。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する飼料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する飼料添加剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する動物の飼育環境の浄化剤。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する病原性微生物の増殖抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する病原性ウイルスの増殖抑制剤。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する有機物の分解剤。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物の培養物、菌体、またはそれらの処理物を含有する動物の成長促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−222162(P2007−222162A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13056(P2007−13056)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(506030088)バイオプロジェクト株式会社 (2)
【出願人】(000105051)クロレラ工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】