説明

新規人工核酸を用いた標的核酸の検出方法

【課題】一本鎖核酸の迅速、簡便かつ高精度な検出方法およびそれに用いられる新規人工核酸を提供すること。
【解決手段】式(I)


(式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよいアミノ基等を示す。]で表される基等、Rは、水素原子、置換されていてもよいリン酸基等、RおよびRは、同一または異なって、水素原子等、Bは、置換されていてもよいプリン−9−イルまたは2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を示す。)で表される化合物またはその塩、該化合物を単位構造として含むオリゴヌクレオチド、および該オリゴヌクレオチドを用いた標的核酸の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規人工核酸、該核酸を含有するオリゴヌクレオチド、および該オリゴヌクレオチドを用いた標的核酸の検出方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
膨大なゲノムの塩基配列情報を研究や医療の現場で幅広く活用するために、DNAやRNAの配列解析方法の開発が望まれている。中でも、病気のマーカー遺伝子の発現状況や、ウイルスなどの病原微生物感染を検査するための遺伝子検査方法は、健康の維持管理や病気のリスクマネージメント、最適治療法の選択などにおいて重要な役割を果たす。
しかしながら、従来から用いられている遺伝子検査方法は、遺伝子の検出感度が十分でない;遺伝子の検出感度を上げるために、煩雑な遺伝子増幅過程を要する;あるいは、遺伝子増幅過程を単純化させるために、特殊なプライマー設計(例、ループプライマー、キメラプライマー)を要し、特殊な酵素を使用する;実験系が複雑である;などの多くの改良すべき問題点がある。特に、現在遺伝子検査の場において多用されているPCR法は、その原理的な制約から反応温度を大きく上下に変化させつつ、酵素反応を数十ステップ繰り返すことを要するため、操作が煩雑であり、速やかに遺伝子を検出することが困難である。
したがって、これらの方法に代わる迅速簡便な遺伝子検査方法が切望されている。
【0003】
本発明者らは、5’−アミノ−2’,4’−BNAと称する下記化学式:
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、Aは、直接結合、炭素数1〜4のアルキレン基、−O−(CH−(ここで、酸素原子は4’位のメチレン基と結合している。mは1〜3の整数を示す。)、または、−N(R)−(CH−(ここで、窒素原子は4’位のメチレン基と結合している。nは1〜3の整数を示す。)を示す。Bは、置換基を有していてもよい芳香族複素環基もしくは芳香族炭化水素基を示す。R、R、R、Rは、同一または異なって、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、シリル基、リン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルキルチオ基、炭素数1〜6のシアノアルコキシ基、または、炭素数1〜5のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。]を示す。)で示されるヌクレオシド類縁体(特許文献1)、または5’−アミノ−DNAを用いてP3’→N5’ホスホロアミダート結合を有する人工核酸プローブを開発し、かかる人工核酸プローブを用いた三重鎖核酸形成を基盤とした標的核酸の検出方法を確立した(特許文献2)。特許文献2の検出方法は、用いる人工核酸の特性により、二重鎖核酸に優先的に結合し、dsDNA,dsRNA(siRNAなど)の検出に好適に用いられる。また、別の研究グループは、P3’−N5’ホスホロアミダート結合を有する人工核酸を用いて、ゲノム配列の多型のハイスループット解析(非特許文献1参照)や細胞内での配列特異的転写阻害(非特許文献2参照)を報告している。
【0006】
他方、従来のセントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質)で定義付けられていた転写産物であるmRNA以外にも、多数のncRNA(non−coding RNA)の存在が知られており、これらの一本鎖核酸も遺伝子の発現制御やタンパク質の機能発現に関与していることが近年の研究で判明している。これにより、プロモーターの再定義の必要性や、触媒機能を有するRNAや他の遺伝子の転写、翻訳に関与するRNAを発見することなど、細胞内における一本鎖核酸の配列とその役割を解明する重要性が高まってきている。
【0007】
しかしながら、例えば、PCRの原理に基づく方法でこれら一本鎖核酸を検出するためには、RNAの場合は逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、二本鎖のDNAを鋳型として増幅して検出するという迂遠な操作が必要であった。従って、一本鎖核酸を簡便かつ迅速に検出可能な新規な方法論も求められている。
【特許文献1】国際公開第03/068795号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/026823号パンフレット
【非特許文献1】Proc.Nat.Acad.Sci.,vol.97,3862−3867(2000)
【非特許文献2】Nucleic Acids Res.,29,3864−3872(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、一本鎖核酸の迅速、簡便かつ高精度な検出方法およびそれに用いられる新規人工核酸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、5’位の窒素原子によりホスホロアミダート結合を、2’位でリン酸エステル結合を形成可能な人工核酸を合成し、かかる人工核酸を含むオリゴヌクレオチドをプローブとして用いることにより、標的核酸ではなく標的核酸と結合するプローブを検出する、すなわち、標的核酸を増幅せずに検出プローブを増幅するという方法論を確立させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]式(I)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、
およびRは、同一または異なって、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C6−14アリール基、C7−16アラルキル基、アシル基、シリル基、核酸合成の保護基、置換されていてもよいリン酸基、または−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、
は、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−8シクロアルキル基、C6−14アリール基、C7−16アラルキル基、アシル基、シリル基、C1−6アルキル基で置換されていてもよいアミノ基、核酸合成の保護基、置換されていてもよいリン酸基、または−P(R)R[式中、RおよびRは、前記と同義を示す]で表される基を示し、
およびRは、同一または異なって、水素原子、置換されていてもよい水酸基またはC1−6アルキル基を示すか、あるいはRおよびRは、一緒になって、オキシC1−4アルキレン基を形成し、
Bは、下記α群から選択される置換基で置換されていてもよいプリン−9−イルまたは2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(I)と記載する)またはその塩、
(α群)
ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基および置換されていてもよいアミノ基。
[2]RおよびRが、同一または異なって、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基または核酸合成の保護基を示し、
が、水素原子または−PR[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、
およびRが、水素原子を示すか、あるいはRおよびRが、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、[1]記載の化合物、
[3]式(II)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、
は、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−8シクロアルキル基、C6−14アリール基、C7−16アラルキル基、アシル基、シリル基、核酸合成の保護基、置換されていてもよいリン酸基、または−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、
およびR10は、同一または異なって、水素原子、置換されていてもよい水酸基またはC1−6アルキル基を示すか、あるいはRおよびR10は、一緒になって、オキシC1−4アルキレン基を形成し、
Bは、下記α群から選択される置換基で置換されていてもよいプリン−9−イルまたは2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を示す。)
で表される核酸単位構造を少なくとも一つ含有する、オリゴヌクレオチド類縁体(以下、核酸単位構造(II)と記載する)またはその塩、
(α群)
ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基および置換されていてもよいアミノ基。
[4]Rが、水素原子、C1−6アルキル基またはC7−16アラルキル基を示し、
およびR10が、同一または異なって、水素原子を示すか、あるいはRおよびR10が、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、[3]記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩、
[5]2’,4’−BNA、3’,4’−BNA、2’−deoxy−3’−N−3’,4’−BNA、3’−N−2’,4’−BNA、5’−N−2’,4’−BNA、2’,4’−BNACOCおよび2’,4’−BNANCからなる群から選択される架橋された人工核酸がさらに少なくとも一つ組み込まれている、[3]または[4]に記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩、
[6]一つ以上の核酸単位構造または核酸が標識されている、[3]〜[5]のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩。
[7]標識が蛍光基および消光基の組み合わせである、[3]〜[6]のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩、
[8][3]〜[7]のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして用いることを特徴とする標的核酸の検出方法、
[9][3]〜[7]のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして、標的核酸とハイブリダイズさせる工程、
ハイブリダイズした標的核酸−プローブ複合体を酸性条件下で処理する工程、および
処理工程で切断されたプローブを検出する工程
を含む標的核酸の検出方法、
[10]ハイブリダイズさせる工程と処理工程が同一の工程で行われる、[9]に記載の検出方法、
[11]標的核酸が一本鎖核酸である[8]〜[10]のいずれか1項に記載の検出方法、
などに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物(I)は、5’位の窒素原子によりホスホロアミダート結合を、2’位でリン酸エステル結合を形成可能な人工核酸として機能する。かかる化合物を用いて、オリゴヌクレオチド類縁体を容易に合成することができる。
【0016】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体によれば、化合物(I)を用いて形成された核酸単位構造(II)を含むことから、RNA等の一本鎖核酸との結合力に優れ、一本鎖核酸とハイブリダイズした際に、2’→5’エステル結合に起因する構造上のひずみを大きくさせることにより、5’位のホスホロアミダート結合の切断を酸性条件下で容易に進行させることができる。すなわち、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体は、一本鎖核酸との二重鎖形成中に酸性条件下で自己切断が可能である。
【0017】
本発明の標的核酸の検出方法によると、前記オリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして用いることにより、標的核酸ではなく標的核酸と結合するプローブを検出する、すなわち、標的核酸を増幅せずに切断されたプローブが検出対象のプローブとして増幅される原理を利用して、核酸増幅工程や特殊な酵素を用いることなく、簡便、迅速かつ高精度な核酸の配列情報を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書中において使用する各置換基および各記号などの定義は次の通りである。なお、本明細書中、「置換されていてもよい」とは、単に種々の置換基(例えば、置換基Xと記載する)で置換されていてもよいことを示すだけでなく、種々の保護基(例えば、保護基Yと記載する。)で「保護」されていてもよいことを含むものである。よって、本明細書中、「置換基Xで置換されていてもよい」なる記載が意図する概念には、「保護基Yで保護されていてもよい」概念が包含される。具体的には、
「置換基Xで置換されていてもよい水酸基」には、例えば、「保護基Yで保護されていてもよい水酸基」が含まれる。
「置換基Xで置換されていてもよいメルカプト基」には、例えば、「保護基Yで保護されていてもよいメルカプト基」が含まれる。
「置換基Xで置換されていてもよいアミノ基」には、例えば、「保護基Yで保護されていてもよいアミノ基」が含まれる。
【0019】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
「C1−6アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖または分枝鎖のC1−6アルキル基が挙げられる。
「C2−6アルケニル基」としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基などの直鎖または分枝鎖のC2−6アルケニル基が挙げられる。
「C2−6アルキニル基」としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−ヘキシニル基などの直鎖または分枝鎖のC2−6アルキニル基が挙げられる。
「C3−10シクロアルキル基」としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[3.1.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[3.2.2]ノニル基、ビシクロ[3.3.1]ノニル基、ビシクロ[4.2.1]ノニル基、ビシクロ[4.3.1]デシル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0020】
「C6−14アリール基」としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
「C7−16アラルキル基」としては、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基などが挙げられる。
「C7−16アラルキルオキシ基」としては、例えば、ベンジルオキシ基、1−フェニルエチルオキシ基、2−フェニルエチルオキシ基などが挙げられる。
【0021】
「C1−6アルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などの直鎖または分枝鎖のC1−6アルコキシ基が挙げられる。
「C2−6アルケニルオキシ基」としては、例えば、エテニルオキシ基、n−プロピニルオキシ基、イソプロピニルオキシ基、n−ブテニルオキシ基、イソブテニルオキシ基、sec−ブテニルオキシ基、tert−ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基、ヘキシニルオキシ基などの直鎖または分枝鎖のC2−6アルケニルオキシ基が挙げられる。
「C1−6アルキルチオ基」としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基などの直鎖または分枝鎖のC1−6アルキルチオ基が挙げられる。
「C6−14アリールチオ基」としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基が挙げられる。
【0022】
「C1−4アルキレン基」としては、例えばメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基等のC1−4アルキレン基が挙げられる。
「オキシC1−4アルキレン基」としては、例えばオキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシ−n−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、オキシ−n−ブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシ−sec−ブチレン基、オキシ−tert−ブチレン基等のオキシC1−4アルキレン基が挙げられる。
【0023】
「シリル基」としては、例えば、トリC1−6アルキル−シリル基(例、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、メチルジ−t−ブチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、ジフェニルt−ブチルシリル基、ジフェニルイソプロピルシリル基、ジフェニルイソプロピルシリル基等)が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子およびC6−14アリール基から選択される1〜3個の置換基でさらに置換されていてもよい
【0024】
「アシル基」としては、例えば、ホルミル基、カルボキシル基、C1−21アルキル−カルボニル基(例、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、バレリル基、イソバレリル基、オクタノイル基、デカノイル基、8−メチルノナノイル基、3−エチルオクタノイル基、3,7−ジメチルオクタノイル基、ウンデカノイル基、トリデカノイル基、ヘキサデカノイル基、14−メチルペンタデカノイル基、13,13−ジメチルテトラデカノイル基、1−メチルヘプタデカノイル基、ノナデカノイル基、イコサノイル基、ヘンイコサノイル基等)、C2−6アルケニル−カルボニル基(例、(E)−2−メチル−2−ブテノイル基等)、C1−6アルコキシ−カルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基等)、カルボキシ−C1−6アルキル−カルボニル基(例、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基等)、C3−8シクロアルキル−カルボニル基、C6−14アリール−カルボニル基(例、ベンゾイル基、α−ナフトイル基、β−ナフトイル基等)、C2−6アルケニルオキシ−カルボニル基(例、ビニルオキシ−カルボニル基、アリルオキシ−カルボニル基等)、C7−16アラルキルオキシ−カルボニル基(例、ベンジルオキシカルボニル基等)、カルバモイル基、C1−6アルキル−スルホニル基などが挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、ニトロ基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C6−14アリール基、C1−6アルコキシ−カルボニル基およびシリル基から選択される1〜5個の置換基でさらに置換されていてもよい。
ここで、「カルボキシ−C1−6アルキル−カルボニル基」および「C1−6アルコキシ−C1−6アルキル−カルボニル基」における「C1−6アルキル」、「C1−6アルコキシ−カルボニル基」および「C1−6アルコキシ−C1−6アルキル−カルボニル基」における「C1−6アルコキシ」、「C3−8シクロアルキル−カルボニル基」における「C3−8シクロアルキル」、「C6−14アリール−カルボニル基」における「C6−14アリール」、「C1−6アルキル−スルホニル基」における「C1−6アルキル」、「C2−6アルケニルオキシ−カルボニル基」における「C2−6アルケニルオキシ」、「C7−16アラルキルオキシ−カルボニル基」における「C7−16アラルキルオキシ」としては、それぞれ、上記「C1−6アルキル基」、「C1−6アルコキシ基」、「C3−10シクロアルキル基」、「C6−14アリール基」、「C2−6アルケニルオキシ基」、「C7−16アラルキルオキシ基」が例示される。
また、上記「アシル基」として例示される基が置換されていてもよい置換基として挙げられた、「C1−6アルコキシ−カルボニル基」における「C1−6アルコキシ」としては、上記「C1−6アルコキシ基」が例示される。
【0025】
「核酸合成の保護基」としては、核酸、好ましくは式(I)で表される化合物や式(II)で表されるオリゴヌクレオチド類縁体を合成する際に安定に各置換基を保護し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、
(1)核酸合成の際に水酸基を安定に保護し得る基(本明細書中、「水酸基の核酸合成の保護基」と記載する)、
(2)核酸合成の際にアミノ基を安定に保護し得る基(本明細書中、「アミノ基の核酸合成の保護基」と記載する)、
(3)核酸合成の際にリン酸基を安定に保護し得る基(本明細書中、「リン酸基の核酸合成の保護基」と記載する)、
(4)核酸合成の際にメルカプト基を安定に保護し得る基(本明細書中、「メルカプト基の核酸合成の保護基」と記載する)
が挙げられる。
【0026】
上記(1)〜(4)の基は、それぞれが保護対象とする置換基に対してのみ適用されるわけではなく、可能であれば別の欄に記載された置換基を用いてもよい。例えば、(2)の基が保護対象とする「アミノ基」を保護するために(1)の「水酸基の核酸合成の保護基」を用いてもよいし、(1)の基が保護対象とする「水酸基」の保護に(2)の「アミノ基の核酸合成の保護基」を用いてもよい。
【0027】
上記(1)の「水酸基の核酸合成の保護基」としては、例えば、アシル基;テトラヒドロピラニル基またはテトラヒドロチオピラニル基(例、テトラヒドロピラン−2−イル基、3−ブロモテトラヒドロピラン−2−イル基、4−メトキシテトラヒドロピラン−4−イル基、テトラヒドロチオピラン−2−イル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラン−4−イル基等);テトラヒドロフラニル基またはテトラヒドロチオフラニル基(例、テトラヒドロフラン−2−イル基、テトラヒドロチオフラン−2−イル基等);シリル基;C1−6アルコキシ−C1−6アルキル基(例、メトキシメチル基、1,1−ジメチル−1−メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、ブトキシメチル基、t−ブトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−(イソプロポキシ)エチル基等);C1−6アルコキシ−C1−6アルコキシ−メチル基(例、2−メトキシエトキシメチル基等);ハロゲン原子で置換されたアルコキシメチル基(例、2,2,2−トリクロロエトキシメチル基、ビス(2−クロロエトキシ)メチル基);1〜3個のハロゲン原子で置換されたエチル基(例、2,2,2−トリクロロエチル基);1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基(例、ベンジル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、α−ナフチルジフェニルメチル基、9−アンスリルメチル基);C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロゲン原子およびシアノ基から選択される置換基でアリール環が置換された1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基(例、4−メチルベンジル基、2,4,6−トリメチルベンジル基、3,4,5−トリメチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、トリチル基、モノメトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基、2−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、4−クロロベンジル基、4−ブロモベンジル基、4−シアノベンジル基等);C1−6アルケニルオキシ−カルボニル基(例、ビニルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等);等が挙げられる。
なお、本明細書中、「トリフェニルメチル基」を「トリチル基」と記載する場合がある。またトリチル基の置換基は、特に記載のない限り、フェニル部分のパラ位に位置する。
【0028】
上記(2)の「アミノ基の核酸合成の保護基」としては、例えばアシル基が挙げられる。該基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、ニトロ基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C6−14アリール基、C1−6アルコキシ−カルボニル基およびシリル基から選択される1〜5個の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0029】
上記(3)の「リン酸基の核酸合成の保護基」としては、例えば、C1−6アルキル基;C1−6アルケニル基;C6−14アリール基;C7−16アラルキル基等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基およびC1−6アルキル基から選択される1〜5個の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0030】
上記(4)の「メルカプト基の核酸合成の保護基」としては、例えば、前記(1)「水酸基の核酸合成の保護基」の定義において挙げられた基に加え、C1−6アルキルチオ基、C6−14アリールチオ基等の「ジスルフィド結合を形成可能な基」が挙げられ、好ましくはアシル基であり、さらに好ましくはベンゾイル基である。
【0031】
本明細書中、「オキシC1−4アルキレン基」とは、式−O−(CH−〔式中、nは、1〜4の整数を示す〕で表される基のことをいい、例えば、−O−(CH)−〔オキシメチレン基〕、−O−(CH−〔オキシエチレン基〕等が挙げられる。
【0032】
本明細書中、「ホスホロアミダイト基」とは、式−P(OR’)(N〔R’’〕)(式中、R’は、シアノ基で置換されていてもよいC1−6アルキル基を示し、R’’は、C1−6アルキル基を示す)で表される基のことをいう。なかでも、式−P(OCCN)(N〔CH(CH)で表される基または式−P(OCH)(N〔CH(CH)で表される基が好ましく用いられる。
【0033】
本明細書中、「ホスホロアミダート結合」とは、リン酸基中のリン原子と窒素原子により形成された結合(以下、P−N結合と記載する場合がある)のことをいい、特に限定されないが、好ましくは、前記ホスホロアミダイト基中のP−N結合が例示される。
本発明の化合物およびオリゴヌクレオチドは、当該ホスホロアミダート結合を含む場合、後述する標的核酸とのハイブリダイズの後、後述する酸性条件下で切断され、標的核酸から脱離する。
【0034】
本発明は、化合物(I)またはその塩を提供する。
【0035】
化合物(I)において、R、RおよびRで示される「核酸合成の保護基」としては、好ましくは、水酸基の核酸合成の保護基である。
当該「水酸基の核酸合成の保護基」につき、RおよびRにおいては、アシル基、シリル基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基、ハロゲン原子およびシアノ基から選択される置換基でアリール環が置換された1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基が好ましく、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、ジメトキシトリチル基、モノメトキシトリチル基またはtert−ブチルジフェニルシリル基がさらに好ましい。
一方、Rにおいては、アシル基、シリル基、1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロゲン原子およびシアノ基から選択される置換基でアリール環が置換された1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基が好ましく、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、tert−ブチルジフェニルシリル基がさらに好ましい。
【0036】
化合物(I)において、RおよびRで示される「置換されていてもよいリン酸基」の「リン酸基」が有していてもよい置換基としては、例えば、核酸合成の保護基が挙げられる。
当該保護基としては、好ましくはリン酸基の核酸合成の保護基が挙げられ、特に好ましくは、ハロゲン原子およびシアノ基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、ハロゲン原子およびニトロ基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよいC7−16アラルキル基、またはハロゲン原子、ニトロ基およびC1−6アルキル基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよいC6−14アリール基が挙げられる。最も好ましくは、2−シアノエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ベンジル基、2−クロロフェニル基または4−クロロフェニル基が挙げられる。
【0037】
化合物(I)において、R、R、R、Rおよびα群で示される「置換されていてもよい水酸基」の「水酸基」が有していてもよい置換基としては、例えば、シアノ基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、核酸合成の保護基が挙げられる。
上記「核酸合成の保護基」としては、好ましくはアミノ基の核酸合成の保護基または水酸基の核酸合成の保護基が挙げられ、特に好ましくは水酸基の核酸合成の保護基が挙げられる。
当該「水酸基の核酸合成の保護基」としては、好ましくは、アシル基、シリル基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基およびC1−6アルコキシ基から選択される1〜5個の置換基でアリール環が置換されていてもよい1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基が挙げられ、さらに好ましくは、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、トリチル基、モノメトキシトリチル基(特に好ましくは、4−メトキシトリチル基)、ジメトキシトリチル基またはtert−ブチルジフェニルシリル基が挙げられる。
また、「シアノ基で置換されていてもよいC1−6アルキル基」としては、好ましくは、メチル基、エチル基、シアノメチル基、シアノエチル基が挙げられ、より好ましくは、メチル基、シアノエチル基が挙げられる。
【0038】
化合物(I)において、R、Rおよびα群で示される「置換されていてもよいメルカプト基」の「メルカプト基」が有していてもよい置換基としては、核酸合成の保護基が挙げられる。
上記「核酸合成の保護基」としては、RおよびRで示される核酸合成の保護基の好ましい例として挙げられた「水酸基の核酸合成の保護基」で例示された基と同様の基が挙げられる。
【0039】
化合物(I)において、R、Rおよびα群で示される「置換されていてもよいアミノ基」の「アミノ基」が有していてもよい置換基としては、C1−6アルキル基、核酸合成の保護基が挙げられる。置換基の数は1または2であり、置換基の数が2の場合、各置換基は同一または異なっていてもよい。
上記「核酸合成の保護基」としては、好ましくはアミノ基の核酸合成の保護基が挙げられ、より好ましくは、ハロゲン原子、カルボキシル基、ニトロ基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C6−14アリール基、C1−6アルコキシ−カルボニル基およびシリル基から選択される1〜5個の置換基でさらに置換されていてもよいC1−21アルキル−カルボニル基、C2−6アルケニル−カルボニル基またはC6−14アリール−カルボニル基、あるいはC1−6アルコキシ基およびニトロ基から選択される1〜2個の置換基で置換されていてもよいC7−16アラルキルオキシ−カルボニル基が挙げられる。また、さらに好ましくは、ハロゲン原子、カルボキシル基、C1−6アルコキシ基およびC6−14アリール基から選択される1〜5個の置換基でさらに置換されていてもよいC1−21アルキル−カルボニル基、またはC2−6アルケニル−カルボニル基、あるいはC1−6アルコキシ基およびニトロ基から選択される1〜2個の置換基で置換されていてもよいC7−16アラルキルオキシ−カルボニル基が挙げられ、最も好ましくは、トリフルオロアセチル基またはベンジルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0040】
化合物(I)において、RおよびRが、一緒になって形成する、「オキシC1−4アルキレン基」中の酸素原子は、化合物(I)中の五単糖部分の3位に結合してもよい(3’−O,4’−C−アルキレン架橋を形成してもよい)し、4位に結合してもよい(4’−O,3’−C−アルキレン架橋を形成してもよい)が、3位に結合することが好ましい。
「オキシC1−4アルキレン基」としては、好ましくはオキシメチレン基、オキシエチレン基である。
【0041】
化合物(I)において、Bで示される「プリン−9−イル基」としては、特に限定されないが、好ましくは、6−アミノプリン−9−イル基(すなわち、アデニニル基)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された6−アミノプリン−9−イル基、2,6−ジアミノプリン−9−イル基、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基(すなわち、グアニニル基)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、アミノ基および水酸基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル基、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル基、2,6−ジメトキシプリン−9−イル基、2,6−ジクロロプリン−9−イル基、6−メルカプトプリン−9−イル基が挙げられ、より好ましくは、6−ベンゾイルアミノプリン−9−イル基、アデニニル基、2−イソブチリルアミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、グアニニル基が挙げられる。
【0042】
化合物(I)において、Bで示される「2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基」としては、特に限定されないが、好ましくは、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(すなわち、シトシニル基)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(すなわち、ウラシニル基)、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(すなわち、チミニル基)、4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(すなわち、5−メチルシトシニル基)またはアミノ基が核酸合成の保護基で保護された4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基が挙げられ、より好ましくは、2−オキソ−4−ベンゾイルアミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、シトシニル基、2−オキソ−5−メチル−4−ベンゾイルアミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、5−メチルシトシニル基、ウラシニル基またはチミニル基が挙げられる。
【0043】
化合物(I)において、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基または水酸基の核酸合成の保護基であることが好ましく、なかでも、水素原子、メチル基、エチル基、ベンジル基、トリチル基、モノメトキシトリチル基であることがさらに好ましい。
【0044】
化合物(I)において、Rは、水素原子または−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基であることが好ましく、なかでも、水素原子または−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、シアノ基で置換されていてもよいC1−6アルキル基で置換されていてもよい水酸基、もしくはC1−6アルキル基で置換されていてもよいアミノ基を示す。]であることがさらに好ましく、水素原子またはホスホロアミダイト基であることが特に好ましく、水素原子または式−P(OCCN)(N〔CH(CH)で表される基または式−P(OCH)(N〔CH(CH)で表される基であることが最も好ましい。
【0045】
化合物(I)において、RおよびRは、いずれも水素原子であるか、あるいは一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成することが好ましい。
【0046】
化合物(I)は、種々の塩を形成することができる。
化合物(I)の塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩等があげられる。
【0047】
金属塩の好適な例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等があげられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、トロメタミン〔すなわち、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン〕、tert−ブチルアミン等との塩があげられる。
無機酸との塩の好適な例としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩があげられる。
有機酸との塩の好適な例としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩があげられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩があげられる。
【0048】
化合物(I)は水和物および非水和物のいずれであってもよい。化合物(I)の水和物としては、例えば、0.5水和物、1水和物、1.5水和物および2水和物等があげられる。また、自体公知の溶媒との溶媒和物であってもよい。
【0049】
化合物(I)は同位元素(例、H、H、14C、15N、33P、35Sなど)などで標識されていてもよい。
本発明の化合物(I)は、上記の水和物、溶媒和物等の種々の化合物をも包含する。
【0050】
本発明の化合物(I)としては、
およびRが、同一または異なって、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基または水酸基の核酸合成の保護基を示し、
が、水素原子または−PR[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、かつ
およびRが、水素原子を示すか、あるいはRおよびRが、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、化合物(I)が好ましい。
【0051】
さらに、本発明の化合物(I)としては、
およびRが、同一または異なって、水素原子、メチル基、エチル基、ベンジル基、トリチル基またはモノメトキシトリチル基を示し、
が、水素原子またはホスホロアミダイト基を示し、かつ
およびRが、水素原子を示すか、あるいはRおよびRが、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、化合物(I)がより好ましい。
【0052】
また、本発明の化合物(I)としては、
およびRのいずれか一方が、メチル基、エチル基またはベンジル基を示し、もう一方が、トリチル基またはモノメトキシトリチル基を示し、
が、ホスホロアミダイト基を示し、かつ
およびRが、水素原子を示すか、あるいはRおよびRが、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、化合物(I)が最も特に好ましい。
【0053】
本発明の化合物(I)は、例えば、以下の方法で製造することが可能である。
【0054】
【化4】

【0055】
(式中、R、R、R、R、RおよびBは、前記と同義であり、R’は、アシル基を示す。)
【0056】
なお、本明細書中、「室温」とは、特に記載されない限り、10℃〜40℃の範囲内の温度、好ましくは15℃〜35℃の範囲内の温度をいう。
【0057】
工程1
工程1は、化合物(1)に、式RNH(式中、Rは、前記と同義である)で表される化合物を付すことで、化合物(2)を得る反応である。
【0058】
化合物(1)は、自体公知の方法を利用することで製造することができる。当該製造方法としては、例えば、Tetrahedron Lett.,1992,33,4149に記載の方法や、J.Org.Chem.,2001,66,8504−8512に記載の方法などが挙げられる。
【0059】
化合物(1)中、R’で表される基としては、好ましくは、C1−6アルキル−カルボニル基、C1−6アルキル−スルホニル基である。より好ましくはC1−6アルキル−スルホニル基であり、特に好ましくはメシル基(メタンスルホニル基)である。
【0060】
式RNHで表される化合物中、Rで表される基としては、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基または水酸基の核酸合成の保護基が好ましく、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、ベンジル基が特に好ましい。当該化合物は、化合物(1)1モルに対し、通常1モル〜2000モル用いるが、4モル〜1000モル用いることが好ましい。
【0061】
本工程による反応は、溶媒中で行っても無溶媒で行ってもよい。使用できる溶媒としては、本工程に影響を与えない限り特に限定されないが、好ましくは自体公知の極性溶媒であり、特に好ましくは、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、アセトンなどである。溶媒の使用量は、化合物(1)1gに対して5mL〜30mL、好ましくは10mL〜20mLである。
【0062】
また、本工程は密閉した空間内で行うことが好ましい。
本工程の反応温度は特に限定されないが、0℃〜50℃で行うことが好ましく、室温で行うことがさらに好ましい。反応時間は、使用する試薬や溶媒の量、反応温度によっても異なるが、通常1時間〜100時間、好ましくは24時間〜48時間である。
【0063】
本工程で得られた化合物(2)は、反応混合物から自体公知の手段、例えば抽出、濃縮、中和、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、中圧分取液体クロマトグラフィー(中圧分取LC)等の手段を用いることによって単離・精製することができるが、反応混合物のまま次工程2に付すこともできる。
【0064】
上記反応により、目的物が遊離の状態で得られる場合には、常法に従って塩に変換してもよく、また塩として得られる場合には、常法に従って遊離体または他の塩に変換することもできる。
さらに、化合物(2)は、化合物(2)の水和物、溶媒和物、立体異性体、光学異性体等の種々の化合物をも包含する。
【0065】
工程2
工程2は、化合物(2)に、式RX(式中、Rは、前記と同義であり、Xは、ハロゲン原子を示す)で表される化合物を付すことで、化合物(3)を得る反応である。
【0066】
式RXで表される化合物中、Rで表される基としては、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基または水酸基の核酸合成の保護基が好ましく、水酸基の核酸合成の保護基がより好ましく、シアノ基およびC1−6アルコキシ基から選択される1〜5個の置換基でアリール環が置換されていてもよい1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基が特に好ましい。当該化合物は、化合物(2)1モルに対し、通常0.5モル〜2モル用いるが、0.8モル〜1.2モル用いることが好ましい。
【0067】
本工程による反応は、溶媒中で行っても無溶媒で行ってもよいが、通常、溶媒中で行われる。使用可能な溶媒としては反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、ピリジンなど、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は、化合物(2)1gに対して5mL〜20mL、好ましくは8mL〜12mLである。反応温度は、通常0℃〜50℃、好ましくは室温である。反応時間は、使用する試薬や溶媒の量、反応温度によっても異なるが、通常1時間〜12時間、好ましくは2時間〜6時間である。
【0068】
本工程で得られた化合物(3)は、反応混合物から自体公知の手段、例えば抽出、濃縮、中和、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、中圧分取液体クロマトグラフィー(中圧分取LC)等の手段を用いることによって単離・精製することができるが、反応混合物のまま次工程2に付すこともできる。
【0069】
上記反応により、目的物が遊離の状態で得られる場合には、常法に従って塩に変換してもよく、また塩として得られる場合には、常法に従って遊離体または他の塩に変換することもできる。
【0070】
本化合物(3)は、化合物(2)で説明したものと同様に、化合物(3)の水和物、溶媒和物、立体異性体、光学異性体等の種々の化合物をも包含する。
【0071】
工程3
工程3は、化合物(3)から化合物(I)を得る反応である。化合物(3)中、Rは前記と同義である。上記反応において化合物(3)と反応する化合物は、当業者であれば適宜選択することが可能である。当該化合物としては、2−シアノエチル N,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホジアミダイトが好ましく用いられる。
当該化合物は、化合物(3)1モルに対し、通常0.5モル〜2モル用いるが、0.8モル〜1.2モル用いることが好ましい。
【0072】
本工程による反応は、溶媒中で行っても無溶媒で行ってもよいが、通常、溶媒中で行われる。使用可能な溶媒としては反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、アニソール、トルエン、メシチレン、キシレン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジエチルエーテルなど、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は、化合物(3)1gに対して、通常10mL〜40mL、好ましくは20mL〜30mLである。反応温度は、通常0℃〜50℃、好ましくは室温である。反応時間は、使用する試薬や溶媒の量、反応温度によっても異なるが、通常1時間〜24時間、好ましくは6時間〜12時間である。
【0073】
また、本工程には反応促進剤として、ジイソプロピルアンモニウムテトラゾリドなどを用いることができる。当該反応促進剤の使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常0.5モル〜2モルである。
【0074】
本工程で得られた化合物(I)は、反応混合物から自体公知の手段、例えば抽出、濃縮、中和、濾過、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、中圧分取液体クロマトグラフィー(中圧分取LC)等の手段を用いることによって単離・精製することができる。
上記反応により、目的物が遊離の状態で得られる場合には、常法に従って塩に変換してもよく、また塩として得られる場合には、常法に従って遊離体または他の塩に変換することもできる。
【0075】
化合物(I)を、オリゴヌクレオチドを製造するための核酸単位とすることで、核酸単位構造(II)を含むオリゴヌクレオチドを製造することができる。
【0076】
上記オリゴヌクレオチド類縁体は、化合物(I)を通常のオリゴヌクレオチド合成に用いられる核酸と同様に、DNA合成機などに付し、合成することができる。DNA合成機としては特に限定されず、自体公知のDNA合成機であればいずれであってもよい。
また、そのオリゴヌクレオチド類縁体合成に適用されるオリゴヌクレオチドの合成法についても自体公知のものが適用され、例えば、ホスホロアミダイト法、H−ホスホネート法等が挙げられる。
【0077】
本発明は、上記方法によって製造された、核酸単位構造(II)を含むオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩を提供する。
【0078】
核酸単位構造(II)において、Rで示される「核酸合成の保護基」としては、好ましくは、水酸基の核酸合成の保護基であり、さらに好ましくは、アシル基、シリル基、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基、ハロゲン原子およびシアノ基から選択される置換基でアリール環が置換された1〜3個のC6−14アリール基で置換されたメチル基であり、特に好ましくは、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、ジメトキシトリチル基、モノメトキシトリチル基またはtert−ブチルジフェニルシリル基である。
【0079】
核酸単位構造(II)において、Rで示される「置換されていてもよいリン酸基」の「リン酸基」が有していてもよい置換基としては、例えば、核酸合成の保護基が挙げられる。
当該保護基としては、好ましくはリン酸基の核酸合成の保護基が挙げられ、特に好ましくは、ハロゲン原子およびシアノ基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、ハロゲン原子およびニトロ基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよいC7−16アラルキル基、またはハロゲン原子、ニトロ基およびC1−6アルキル基から選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよいC6−14アリール基が挙げられる。最も好ましくは、2−シアノエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ベンジル基、2−クロロフェニル基または4−クロロフェニル基が挙げられる。
【0080】
核酸単位構造(II)において、R、R、R、R10およびα群で示される「置換されていてもよい水酸基」としては、化合物(I)において、R、R、R、Rおよびα群で示される「置換されていてもよい水酸基」と同様のものが例示される。
また核酸単位構造(II)において、R、Rおよびα群で示される「置換されていてもよいメルカプト基」、「置換されていてもよいアミノ基」としては、化合物(I)において、R、Rおよびα群で示される「置換されていてもよいメルカプト基」、「置換されていてもよいアミノ基」と同じものがそれぞれ例示される。
【0081】
核酸単位構造(II)において、RおよびR10が、一緒になって形成する、「オキシC1−4アルキレン基」中の酸素原子は、核酸単位構造(II)中の五単糖部分の4位に結合してもよい(4’−O,3’−C−アルキレン架橋を形成してもよい)し、3位に結合してもよい(3’−O,4’−C−アルキレン架橋を形成してもよい)が、4位に結合することが好ましい。
【0082】
核酸単位構造(II)において、Bで示される「プリン−9−イル基」、「2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基」としては、化合物(I)において、Bで示される「プリン−9−イル基」、「2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基」と同じものがそれぞれ例示される。
【0083】
核酸単位構造(II)において、Rは、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基であることが好ましく、なかでも、水素原子、メチル基、エチル基、ベンジル基であることがさらに好ましい。
【0084】
核酸単位構造(II)において、RおよびR10は、いずれも水素原子であるか、あるいは一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成することが好ましい。
【0085】
核酸単位構造(II)を含むオリゴヌクレオチド類縁体は、種々の塩を形成することができる。
核酸単位構造(II)を含むオリゴヌクレオチド類縁体の塩としては、例えば、化合物(I)の塩として例示した塩が挙げられる。
【0086】
核酸単位構造(II)は、同位元素(例、H、H、14C、15N、33P、35Sなど)などで標識されていてもよい。
【0087】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体としては、
が、水素原子、C1−6アルキル基またはC7−16アラルキル基を示し、かつ
およびR10が、水素原子を示すか、あるいはRおよびR10が、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、核酸単位構造(II)を含むオリゴヌクレオチド類縁体が好ましい。
【0088】
さらに、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体としては、
が、水素原子、メチル基、エチル基またはベンジル基を示し、かつ
およびR10が、水素原子を示すか、あるいはRおよびR10が、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、核酸単位構造(II)を含むオリゴヌクレオチド類縁体がより好ましい。
【0089】
本発明において「核酸単位構造」とは、「結合部分」−「糖部分」−「塩基部分」からなり、天然の核酸中のヌクレオチドに相当する部分である。
【0090】
「結合部分」とは、天然の核酸中のホスホジエステル結合に相当する部分である。本発明のオリゴヌクレオチド類縁体においては、天然核酸が有するホスホジエステル結合の少なくとも1つが、隣接する核酸(単位)中のリン酸基中のリン原子と共に形成するP3’→N5’ホスホロアミダート結合、または隣接する核酸(単位)中のリン酸基中のリン原子と共に形成するP2’→N5’ホスホロアミダート結合に置き換わり、かつ、天然核酸が有する3’→5’ホスホジエステル結合の少なくとも別の1つが2’→5’結合に置き換わっている。すなわち本発明のオリゴヌクレオチド類縁体は、5’位におけるP2’→N5’ホスホロアミダート結合またはP3’→N5’ホスホロアミダート結合と、2’位における2’→5’ホスホジエステル結合とによりそれぞれ隣接する核酸(単位)と結合し、形成されるものである。
前記2’→5’結合は、2’→5’ホスホジエステル結合および2’→5’ホスホロアミダート結合のいずれの結合であってもよい。
【0091】
「糖部分」とは、天然の核酸中の糖に相当する部分であり、前記化合物(I)で定義した五単糖部分である。本発明のオリゴヌクレオチド類縁体において、前記化合物(I)に由来しない「糖部分」としては、天然核酸中に存在するもの(好ましくはデオキシリボースまたはリボース)であってもよく、天然核酸中に存在しないもの、例えば、アラビノース、2’−O−アミノエチルリボース、2’位と4’位の間を架橋した五単糖、またはこれらの糖の修飾体などであってもよい。すなわち、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体の糖部分の一部または全部が天然核酸中に存在しないものであってもよい。
【0092】
「塩基部分」とは、前記化合物(I)で示すBに相当する部分である。本発明のオリゴヌクレオチド類縁体において、前記化合物(I)に由来しない「塩基部分」としては、天然核酸中に存在するもの(アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)もしくはウラシル(U))であってもよく、天然核酸中に存在しないもの、例えば、イノシン、5−メチルシトシン、5−プロピニルシトシン、ピリドンなどであってもよい。すなわち、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体の塩基部分の一部または全部が天然核酸中に存在しないものであってもよい。
【0093】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体において、「塩基部分」の塩基配列は、標的核酸の塩基配列に相補的となるように決定することができる。相補性は、高いほど好ましいが、検出目的に応じて相補性の程度を適宜設定すればよく、必ずしも100%である必要はない。
【0094】
これらの糖部分および塩基部分を含むヌクレオシドまたはヌクレオチドの製造方法ならびに結合部分の形成方法は、当業者に公知である。
【0095】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体の長さは、標的核酸配列の長さ、その塩基配列、二重鎖または三重鎖形成条件、所望の検出感度や選択性、さらには後述する検出方法などの要因により様々であるが、一般には5〜50塩基、好ましくは10〜40塩基、より好ましくは15〜25塩基である。
【0096】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体中の核酸単位構造(II)の挿入数は、少なくとも1つであり、上限はオリゴヌクレオチド類縁体の全塩基数である。核酸単位構造(II)の結合部分であるP3’→N5’ホスホロアミダート結合またはP2’→N5’ホスホロアミダート結合は、標的核酸とハイブリダイズした場合、後述する酸性条件下で容易に切断され、標的核酸から脱離する。この性質を利用して、後述する本発明の標的核酸の検出方法にプローブとして用いられる。したがって、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体を切断する目的で使用する場合は、核酸単位構造(II)の5’側が切断部位となり、生じる断片が標的核酸から脱離するように、挿入数とその位置を決定すればよい。
【0097】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体中の核酸単位構造(II)以外の核酸としては、天然の核酸または他の人工核酸を限定なく用いることができる。標的一本鎖核酸との結合性を高めるためには、本発明者らがこれまでに開発してきた、糖部分が架橋された人工核酸(以下、「BNA」と称する)を用いることが好ましい。このような人工核酸としては、2’,4’−BNA(WO98/39352)、3’,4’−BNA(WO98/22489)、2’−deoxy−3’−N−3’,4’−BNA(WO01/000641)、3’−N−2’,4’−BNA(特開2001−89496号公報)、塩基部分がピリドン体である2’,4’−BNA(WO02/18388)、5’−N−2’,4’−BNA(WO03/068795)、2’,4’−BNACOC(WO03/068795)、2’,4’−BNANC(WO2005/021570)などがあげられる。
【0098】
前記BNAを用いる場合、オリゴヌクレオチド類縁体中のBNAの位置は特に限定されず、核酸単位構造(II)に隣接していてもよく、隣接していなくてもよい。
【0099】
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体は、検出を容易ならしめるために、検出可能な標識、例えば、放射性基、酵素、蛍光基、蛍光基と消光基等で標識されていてもよい。
放射性基としては、H、14C、32P、35S、125I、131Iなどがあげられる。酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼなどがあげられる。
蛍光基としては、Acridine、AMCATM、BODIPYTM、Cascade BlueTM、Cy2TM、Cy3TM、Cy5TM、Cy7TM、Dabcyl、Edans、Eosin、Erythrosin、Fluorescein、6−FAMTM、TETTM、JOE、HEXTM、LightCyclerTM、NBDTM、Oregon GreenTM、Rhodamine 6GTM、Rhodamine GreenTM、Rhodamine RedTM、Rhodol GreenTM、TAMRATM、ROXTM、Texas RedTM、NEDTM、VICTM、ベンズイミダゾール系骨格を有する蛍光物質(WO2007/094325)などがあげられる。
蛍光基と消光基の組合せとしては、
1)Oregon Green 488TM−X、6−FAMTM、TETTM、JOE、HEXTMまたはCy3vの蛍光基とDabcyl消光基の組合せ;
2)Oregon Green 488TM−X、6−FAMTM、Rhodamine GreenTM−X、Oregon GreenTM 514、TETTM、JOE、HEXTM、Cy3TM、Rhodamine RedTM−XまたはTAMRATMの蛍光基とBHQTM−1消光基の組合せ;
3)HEXTM、Cy3TM、6−FAMTM、Rhodamine GreenTM−X、Rhodamine RedTM−X、TAMRATM、ROXTM、Texas RedTM-X、Bodipy 630/650TM−XまたはBodipy 650/665TM−Xの蛍光基とBHQTM−2消光基の組合せ;
4)6−FAM、Rhodamine Green−X、Oregon Green 514、TET、JOE、HEX、Cy3、Rhodamine Red−X、ROX、Texas Red-X、TAMRA、Bodipy 630/650−X、Bodipy 650/665−XまたはCy5の蛍光基とBHQ−1消光基の組合せ
などがあげられる。
【0100】
前記蛍光基および消光基の結合位置は当業者が適宜設定できるが、後述する本発明の標的核酸の検出方法において処理工程で切断されたプローブを検出するためには、核酸単位構造(II)(すなわち、プローブの切断部位)をはさむように、かつ当該部位のなるべく近くに配置して、切断した検出プローブが標的核酸から脱離して、蛍光基と消光基の距離が離れたときに蛍光を発するようにすることが必要である。これにより、検出を簡便かつ高感度に行うことができる。前記蛍光基および消光基は、核酸単位構造(II)の両隣に位置する塩基部分にそれぞれ結合していることが好ましい。
【0101】
本発明は、前記オリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして用いることを特徴とする標的核酸の検出方法を提供する。検出対象の標的核酸は、一本鎖核酸または二本鎖核酸のいずれでも可能であるが、本発明のプローブの特性上、一本鎖核酸との結合能力に優れる点、および一本鎖核酸を二本鎖にする工程を省略できる点から、一本鎖核酸が好ましい。また、標的核酸の種類は特に限定されず、DNAであってもRNAであってもよく、天然由来の核酸であっても合成核酸であってもよい。本発明の検出方法の概念図を図1に示す。本発明の検出方法は、具体的には下記工程(1)〜(3)を含む。
【0102】
(1)本発明のオリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして、標的核酸とハイブリダイズさせる工程
ハイブリダイゼーションの条件は、標的核酸の塩基配列、プローブの構造およびその塩基配列などに応じて適宜設定することができる。ハイブリダイゼーションは、液相中、または標的核酸もしくはプローブが固相に固定された固−液中のいずれで行ってもよい。例えば、反応温度は、標的核酸の塩基配列から算出したTm値から約5〜10℃低い温度が好ましい。ハイブリダイゼーションの時間は、通常1〜60分程度である。また、ハイブリダイズさせる工程を省くこともできる。
【0103】
(2)ハイブリダイズした標的核酸−プローブ複合体を酸性条件下で処理する工程
本発明のオリゴヌクレオチド類縁体は、標的核酸の非存在下に比べて、標的核酸とハイブリダイズして二重鎖または三重鎖を形成した場合に、酸性条件下でホスホロアミダート結合の切断が顕著に促進される。かかる知見に基づいて、本工程では、標的核酸にハイブリダイズしたプローブのみが切断される。他方、標的核酸にハイブリダイズしないプローブは、本工程ではホスホロアミダート結合の切断が実質的に生じない。酸性条件は、通常pH約2〜約5、好ましくはpH約3〜約4であり、処理時間は、通常約5分以上であり、好ましくは10〜30分である。ハイブリダイゼーション溶液のpHを上記のように調整するため、プロトン酸またはルイス酸を添加する。プロトン酸の例としては、酢酸、クエン酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、塩酸、硫酸等があげられる。
本処理工程において、プローブの切断が進行し、それに伴い、切断されたプローブが標的核酸から脱離する。プローブフリーとなった標的核酸は、新たなプローブとハイブリダイズすることができる。この過程を繰り返すことにより、検出対象のプローブが増幅される。したがって、処理工程中にハイブリダイズ工程も同時に進行させることができる。この目的のためには、処理温度をハイブリダイゼーション温度と同じにすることが好ましい。
【0104】
本発明の検出方法では、前記工程(1)と工程(2)を同一の工程で行うことができる。したがって、本発明の検出方法では、工程(1)を省略して工程(2)から開始することも可能である。
【0105】
(3)処理工程で切断されたプローブを検出する工程
切断されたプローブの検出方法は、用いるプローブの種類に応じて適宜選択することができる。標識されていないプローブまたは同位体で標識したプローブを用いた場合、質量分析法または高速液体クロマトグラフ(HPLC)法、キャピラリーゲル電気泳動法などにより切断されたプローブを検出することができる。蛍光基または蛍光基と消光基の組合せで標識されたプローブを用いた場合、蛍光分析法により検出する。例えば、蛍光マイクロプレートリーダーを用いることにより、多検体の同時解析を行うことができる。さらに、標識が放射性基または酵素の場合も、常法に従って切断されたプローブを検出することができる。
【0106】
本発明の検出方法は、遺伝子に関する研究、遺伝子診断、遺伝子治療などの遺伝子に関連する様々な技術分野において利用可能である。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を示してさらに具体的に本発明を説明する。以下は代表的な実施例を示すものでこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0108】
実施例1 5’−アミノ−3’,4’−BNAの製造
【0109】
(1)ジオール体の製造
【0110】
【化5】

【0111】
共通中間体1(1.0g,1.73mmol)のエタノール(25mL)溶液に、20% Pd(OH)−C(250mg)およびシクロヘキサン(3.5mL,34.7mmol)を加えた。混合物を2時間還流した。混合物をろ過した後、ろ液を減圧濃縮して粗製物を得た。残渣(840mg)のメタノール(25mL)溶液に炭酸カリウム(143mg,1.04mmol)を添加し、混合物を室温で15分間攪拌した。反応混合物を37%HCl溶液で中和し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl/MeOH=5:1)で精製し、表題化合物(621mg,81% over 2steps)を無色固体として得た。なお、共通中間体1は、当業者であれば自体公知の方法(J.Org.Chem.,66,8504−8512(2001))で入手可能である。
Mp 98−101℃.
H NMR(CDCl)δ 1.89(3H,d,J=1Hz),3.13(3H,s),3.19(3H,s),4.35(1H,d,J=6Hz),4.41(1H,d,J=7Hz),4.45,4.54(2H,AB,J=11Hz),4.45(2H,s),6.00(1H,d,J=7Hz),7.35(1H,d,J=1Hz).
Mass(FAB):m/z 445(MH).
【0112】
(2)化合物2bの製造
【0113】
【化6】

【0114】
ジオール体(426mg,0.96mmol)のDMF(15ml)溶液にNaHMDS(THF2.11mL中2.11mmol,1M)を室温で加えた。混合物を1.5時間攪拌した。10%HCl溶液で中和した後、組成物を留去した。得られた残渣をシリカゲル(−NH)カラムクロマトグラフィー(CHCl/MeOH=10:1)で精製し、DMFを含む目的のヌクレオシド溶液(331mg)を得た。CHNH(15mL)の該ヌクレオシド溶液を封管中、室温で17時間攪拌し、過剰のCHNHを揮発させた。残渣をシリカゲル(−NH)カラムクロマトグラフィー(CHCl/CHOH=10:1)で精製して、2b(208mg,76% over 2 steps)を無色固体として得た。
Mp 102−104℃.
H NMR(CDOD)δ 1.90(3H,d,J=1Hz),2.41(3H,s),2.94,3.02(2H,AB,J=13Hz),4.30(1H,dd,J=5,8Hz),5.01(1H,d,J=5Hz),6.30(1H,d,J=8Hz),7.51(1H,d,J=1Hz).
Mass(EI):m/z 283(M).
【0115】
(3)化合物2cの製造
【0116】
【化7】

【0117】
2b(205mg,0.72mmol)のピリジン(2.0mL)溶液にEtN(0.2mL,1.44mmol)および塩化4−メチルトリチル(245mg,0.79mmol)を室温で加え、混合物を16時間攪拌した。AcOEtで希釈し、飽和NaHCO溶液、飽和NaCl水溶液で洗浄し、NaSOで乾燥した。混合物を減圧下で留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/n−hexane=1:2→2:1)で精製して、2c(310mg,77%)を無色固体として得た。
Mp 105−107℃.
[a]24 −56.9(c 0.5,CHCl).
IR(KBr)nmax 3201,3060,2925,2851,1694,1461,1249cm−1
H NMR(CDCl)δ 2.03(3H,d,J=1Hz),2.05(3H,s),2.58,2.77(2H,AB,J=14Hz),4.12(1H,dd,J=5,7Hz),4.70,4.95(2H,AB,J=8Hz),4.94(1H,d,J=5Hz),6.37(1H,d,J=7Hz),6.81(2H,d,J=9Hz),7.13−7.49(12H,m).
13C NMR(CDCl)δ 12.8,29.8,38.5,55.1,55.2,74.5,77.2,80.6,84.4,86.8,87.7,112.1,112.9,126.1,127.6,129.1,129.1,130.5,135.0,150.9,157.6,163.3.
Mass(FAB):m/z 556(MH).
HRMS(FAB):C3234(MH)からの計算値:556.2448.実測値:556.2456.
【0118】
(4)5’−アミノ−3’,4’−BNA(化合物2d)の製造
【0119】
【化8】

【0120】
2c(284mg,0.51mmol)のCHCN−THF(3:1,4mL)溶液に、2−シアノエチル N,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホジアミダイト(0.18mL,0.56mmol)およびジイソプロピルアンモニウム テトラゾリド(123mg,0.72mmol)を室温で加え、17時間攪拌した。反応混合物をAcOEtで希釈し、飽和NaHCO溶液で洗浄し、NaSOで乾燥した。次いで、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/n−hexane with 1%EtN=1:2)で精製して、2d(340mg,88%)を無色固体として与えた。
Mp 95−98℃.
Mass(FAB):756(MH).
31P NMR(CDCl)δ 150.2,150.4.
【0121】
実施例2 5’−アミノ−2’,5’−DNAの製造
(1)化合物7aの製造
【0122】
【化9】

【0123】
3’−デオキシチミジン(118mg,0.49mmol)のピリジン(1.5mL)溶液に、塩化メタンスルホニル(50.4μL,0.65mmol)を氷冷下で加えた。反応混合物を室温で3.5時間攪拌した。飽和NaHCO溶液を加えたのち、混合物を留去して粗製物を得た。該残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(AcOEt/n−hexane=1:1)で精製して、7a(106mg,72%)を無色固体として得た。
Mp 87−89℃.
[a]26 −10.3(c 0.5,EtOH).
IR (KBr)nmax 3244,3018,2833,1685,1479,1432,1347cm−1
H NMR(CDOD)δ 1.88(3H,d,J=1Hz),2.01(1H,ddd,J=3,6,13Hz),2.15(1H,ddd,J=6,9,13Hz),3.14(3H,s),4.36−4.45(2H,m),4.53−4.62(2H,m),5.77(1H,d,J=2Hz),7.59(1H,d,J=1Hz),.
13C NMR(CN)δ 12.9,34.8,37.4,71.0,75.4,78.1,93.6,110.5,109.4,151.8,164.8.
Mass(EI): m/z 320(M).
1116S・HOからの分析値:C,39.05;H,5.36;N,8.23.実測値:C,39.19;H,5.20;N,4.29.
【0124】
(2)化合物7bの製造
【0125】
【化10】

【0126】
7a(1.50g,4.68mmol)のCHNH(20mL)溶液を密封管中で63時間静置し、過剰のCHNHを揮発させた。残渣をショートシリカゲル(−NH)カラムクロマトグラフィー(CHCl/CHOH=20:1→10:1)で精製して、粗製物(852mg)を得た。粗製物(852mg)のピリジン溶液に塩化4−メトキシトリチル(1.03g,3・34mmol)およびEtN(0.93mL,6.68mmol)を室温で加え、16時間室温で攪拌した。反応混合物をAcOEtで希釈し、飽和NaHCO溶液、水および飽和NaCl溶液で洗浄し、NaSOで乾燥した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/n−hexane with 1%EtN=0:1→1:1)で精製し、7b(742mg,30% over 2steps)を無色固体として得た。
Mp 107−109℃.
[a]24 −4.1(c 0.5,CHCl).
IR(KBr)nmax 3058,2958,2837,1694,1502,1467,1255cm−1
H NMR(CDCl)δ 1.76(3H,d,J=1Hz),2.19(3H,s),1.96−2.09(2H,m),2.30(1H,dd,J=2,13Hz),2.69(1H,dd,J=8,13Hz),4.31(1H,d,J=4Hz),4.85(1H,m),5.77(1H,s),6.80(2H,d,J=9Hz),7.13−7.55(13H,m),9.76(1H,brs).
13C NMR(CN)δ 12.7,36.4,38.3,55.1,57.0,76.2,77.2,80.5,94.0,110.3,112.7,125.9,127.4,129.3,130.6,134.7,142.8,142.8,150.9,157.5,164.2.
Mass(FAB):m/z 550(MNa).
HRMS(FAB):C3133Na(MNa)からの計算値:550.2318.実測値:550.2338.
【0127】
(3)5’−アミノ−2’,5’−DNA(化合物7c)の製造
【0128】
【化11】

【0129】
7bのCHCN−THF(3:1,8mL)溶液に2−シアノエチル N,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホジアミダイト(0.40mL,1.25mmol)およびジイソプロピルアンモニウム テトラゾリドを室温で加え、16時間室温で攪拌した。反応混合物をAcOEtで希釈し、飽和NaHCO溶液、水および飽和NaCl溶液で洗浄した。ついで、NaSOで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt/n−hexane with 1%EtN=1:3→1:2)で精製し、少量の不純物を含む所望の化合物を得た。残渣をAcOEtおよびn−ヘキサンで再沈殿させ、無色固体として7c(660mg,87%)を得た。
Mp 93−95℃.
Mass(FAB):750(MNa).
31P NMR(CDCl)δ 149.5,150.5.
【0130】
実施例3 核酸プローブの酸加水分解
標的となるシングルストランドDNA(ssDNA)およびssRNAと相補的な配列を有し、かつ本発明の核酸単位構造を含む核酸プローブ(配列番号1)を合成した。ついで、この標識核酸プローブ(333pmol)を同モルの標的ssDNA(配列番号2)またはssRNA(配列番号3)にハイブリダイズさせ、その後酸加水分解を行った。酸加水分解反応は、100mMクエン酸ナトリウム−塩酸緩衝液(pH4.0)8.5 μLを加えてpHを4.0±0.1とすることで開始した。一定時間経過後、反応液15 μLを分取し、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)115 μLにより中和し、完全長のオリゴヌクレオチド残量を逆相HPLCにより分析し、定量することで切断されていない標識核酸プローブ(図2中、オリゴヌクレオチドと記載)の割合を計算した。コントロールとして、ハイブリダイズさせない場合についても実験を行った。結果を図2に示す。HPLCは島津LC−20システム(LC−20AB,SPD−20A,CTO−20A,SIL−20A)を用いた。
〔HPLC定量条件〕
溶解液:A液(0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液:pH7.0)
B液(0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液:アセトニトリル=1:1,pH7.0)
グラジエント:6−12% B液(15min)
使用カラム:Waters XTerra(登録商標)MS C18 2.5μm(4.6×50mm)
流速:1.0ml/min
カラム温度:50℃
検出:UV(254nm)
【0131】
配列番号1 5’−d(TTTTTCTXYCTCTCT)−3’
(但し、Cは2’−デオキシ−5−メチルシチジンを、Xは核酸単位構造(II)(R=Me,R=H,R10=H,B=T)を、Yは2’,4’−BNA−Tをそれぞれ示す)
配列番号2 5’−d(AGAGAGAAAGAAAAA)−3’
配列番号3 5’−r(AGAGAGAAAGAAAAA)−3’
【0132】
この結果、例えば反応後10分の時点でssRNAとハイブリダイズした本発明の核酸単位構造を含むプローブは約60%の分解が認められた。また、ssDNAとハイブリダイズした本発明の核酸単位構造を含むプローブでは約40%の分解が認められた。一方で、ハイブリダイズさせていない場合では全く分解が認められていない。このように、本発明の核酸単位構造を含むプローブはssDNAまたはssRNAとハイブリダイズすることで、酸加水分解されやすくなることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の標的核酸の検出方法によれば、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして用いることにより、標的核酸を増幅することなく、標的核酸に結合することにより切断されたプローブを検出することができる。そのため、従来の核酸増幅工程や特殊な酵素を利用する必要がある核酸検出方法に比べて、簡便、迅速かつ高精度な核酸検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の標的核酸の検出方法の概念図である。
【図2】一本鎖RNA、一本鎖DNAを標的としたオリゴヌクレオチド類縁体の酸加水分解を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、
およびRは、同一または異なって、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C6−14アリール基、C7−16アラルキル基、アシル基、シリル基、核酸合成の保護基、置換されていてもよいリン酸基、または−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、
は、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−8シクロアルキル基、C6−14アリール基、C7−16アラルキル基、アシル基、シリル基、C1−6アルキル基で置換されていてもよいアミノ基、核酸合成の保護基、置換されていてもよいリン酸基、または−P(R)R[式中、RおよびRは、前記と同義を示す]で表される基を示し、
およびRは、同一または異なって、水素原子、置換されていてもよい水酸基またはC1−6アルキル基を示すか、あるいはRおよびRは、一緒になって、オキシC1−4アルキレン基を形成し、
Bは、下記α群から選択される置換基で置換されていてもよいプリン−9−イルまたは2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を示す。)
で表される化合物またはその塩。
(α群)
ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基および置換されていてもよいアミノ基。
【請求項2】
およびRが、同一または異なって、水素原子、C1−6アルキル基、C7−16アラルキル基または核酸合成の保護基を示し、
が、水素原子または−PR[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、
およびRが、水素原子を示すか、あるいはRおよびRが、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
式(II)
【化2】

(式中、
は、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−8シクロアルキル基、C6−14アリール基、C7−16アラルキル基、アシル基、シリル基、核酸合成の保護基、置換されていてもよいリン酸基、または−P(R)R[式中、RおよびRは、同一または異なって、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基もしくは置換されていてもよいアミノ基を示す。]で表される基を示し、
およびR10は、同一または異なって、水素原子、置換されていてもよい水酸基またはC1−6アルキル基を示すか、あるいはRおよびR10は、一緒になって、オキシC1−4アルキレン基を形成し、
Bは、下記α群から選択される置換基で置換されていてもよいプリン−9−イルまたは2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を示す。)
で表される核酸単位構造を少なくとも一つ含有する、オリゴヌクレオチド類縁体またはその塩。
(α群)
ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、置換されていてもよい水酸基、置換されていてもよいメルカプト基および置換されていてもよいアミノ基。
【請求項4】
が、水素原子、C1−6アルキル基またはC7−16アラルキル基を示し、
およびR10が、同一または異なって、水素原子を示すか、あるいはRおよびR10が、一緒になって、オキシメチレン基またはオキシエチレン基を形成する、請求項3記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩。
【請求項5】
2’,4’−BNA、3’,4’−BNA、2’−deoxy−3’−N−3’,4’−BNA、3’−N−2’,4’−BNA、5’−N−2’,4’−BNA、2’,4’−BNACOCおよび2’,4’−BNANCからなる群から選択される架橋された人工核酸がさらに少なくとも一つ組み込まれている、請求項3または4に記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩。
【請求項6】
一つ以上の核酸単位構造または核酸が標識されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩。
【請求項7】
標識が蛍光基および消光基の組み合わせである、請求項3〜6のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体またはその塩。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして用いることを特徴とする標的核酸の検出方法。
【請求項9】
請求項3〜7のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド類縁体をプローブとして、標的核酸とハイブリダイズさせる工程、
ハイブリダイズした標的核酸−プローブ複合体を酸性条件下で処理する工程、および
処理工程で切断されたプローブを検出する工程
を含む標的核酸の検出方法。
【請求項10】
ハイブリダイズさせる工程と処理工程が同一の工程で行われる、請求項9に記載の検出方法。
【請求項11】
標的核酸が一本鎖核酸である請求項8〜10のいずれか1項に記載の検出方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−184931(P2009−184931A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23288(P2008−23288)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】