説明

旋削用チップ

【課題】単一のチップにより粗加工と仕上げ加工とを可能とし、全てのコーナーを有効に活用することができる経済性に優れたチップを提供する。
【解決手段】旋削用チップは、複数の刃先を有する旋削用チップであって、刃先のうち少なくとも2つの刃先は同一の刃先角を有し、かつ、その刃先角が90度以下であり、同一の刃先角を有する刃先のうち少なくとも1つの刃先は、他の刃先と異なるブレーカ形状を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋削加工に用いる切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
被削材の種類や複数の加工条件等に対応できる切削工具として、チップの鋭角コーナー部のノーズ半径をReとし、鈍角コーナー部のノーズ半径をRdとした場合に、Re<Rdである切削工具が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示された切削工具は、上記のようにRe<Rdを満たすことによって鈍角コーナー部を鋭角コーナー部よりも強化し、旋削荒加工(旋削粗加工)における刃先寿命を改善することにより、鈍角コーナー部の使用頻度を高め、経済性を向上させることを目的とするものである。
【0003】
また、特許文献1においては、上記目的を達成するために、鋭角コーナー部と鈍角コーナー部のブレーカ形状が異なるチップが提案されている。このようなブレーカ形状は、その選定が切削加工において非常に重要な意味を持つため、この形状について種々の検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献2においては、スローアウェイ型のインサートにおいて、ノーズ半径の小さいコーナー部に、軽切削での切屑制御性のある切屑溝を設けることが提案されている。また、超硬合金製などのチップ本体のノーズに超高圧焼結体からなる切刃チップをロウ付けしたスローアウェイチップにおいて、ロウ付けする切刃チップに三次元のブレーカを形成しておくことが提案されている(特許文献3)。また、特に浅い切込みに適するように、コーナー切刃より離れるにしたがい低位となる傾斜面と、この低位となる傾斜面の底部よりも起立する起立面とを備えたブレーカの形状が提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2007−7736号公報
【特許文献2】特開平8−52604号公報
【特許文献3】特開平9−19809号公報
【特許文献4】特開平11−48006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、スローアウェイチップなどの切削工具の性能は年々向上しており、個々のチップの寿命が長くなってきている。このような状況下、上記特許文献1に提案されるような切削工具は複数の切削条件等に対応できるものの、例えば鋭角コーナー部が寿命を迎えた場合には、該コーナー部に対応する切削を行なうために鈍角コーナー部が未使用の状態でチップを交換する必要があった。この場合、未使用の鈍角コーナー部を有するチップを在庫として保管しなければならなかった。また、上述のように旋削粗加工における寿命を考慮したものであることから、切削と仕上げのように異種の切削を可能とするものではなかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、1つのチップにより粗加工と仕上げ加工とを可能とし、全てのコーナーを有効に活用することができる経済性に優れたチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の旋削用チップは、複数の刃先を有する旋削用チップであって、刃先のうち少なくとも2つの刃先は同一の刃先角を有し、かつ、その刃先角が90度以下であり、同一の刃先角を有する刃先のうち少なくとも1つの刃先は、他の刃先と異なるブレーカ形状を有することを特徴とする。
【0008】
上記ブレーカ形状は、プレス成形によって付与されることが好ましい。また、上記旋削用チップがネガチップである場合、該ネガチップの同一すくい面内における刃先のブレーカ形状は同一であることが好ましい。
【0009】
上記旋削用チップの対向するすくい面における各対応するコーナーにおける刃先のブレーカ形状は同一であることが好ましい。また、本発明における刃先のブレーカ形状は、各すくい面においてコーナーごとに相異なることが好ましい。
【0010】
本発明の旋削用チップには識別マークが施されており、この識別マークは、すくい面のコーナーごとに設けられるマークであって、コーナーごとのブレーカ形状または該ブレーカ形状に関連するマークであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、刃先角が同一でブレーカ形状のみが異なる刃先を単一のチップが備えるので、被削材の粗加工と仕上げ加工とを同一のチップで行なうことが可能となる。その結果、加工効率を向上させることができ、また、チップの全てのコーナーを有効に活用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0013】
<旋削用チップ>
本発明の旋削用チップは、旋削加工用刃先交換型切削チップとして有効に用いることができ、例えば、基材と該基材上に形成された被膜とを備える構成とすることができる。被膜を含む場合は、該被膜の組成を調整することで対象とする被削材を多種多様にすることができ、例えば鋼や鋳鉄などの旋削加工用刃先交換型切削チップとして有用なものとすることができる。
【0014】
このようなチップとしては、切削面が片面であり、かつ、すくい面が基準面に対してプラス角であるいわゆるポジチップと、切削面が両面であり、かつ、すくい面が基準面に対してマイナス角であるいわゆるネガチップのいずれを用いてもよい。
【0015】
<基材>
本発明の旋削用チップの基材としては、このようなチップの基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。具体的には、超硬合金(例えばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等を例示することができる。このような基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層がされていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていたりしてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0016】
<被膜>
本発明の旋削用チップの上記基材上に被膜を形成する場合、このような被膜の組成は特に限定されず、従来公知の1層または2層以上からなる被膜を適用することができる。被膜は、基材上の全面を被覆するものに限定されるものではなく、部分的に被膜が形成される態様をも含む。
【0017】
<刃先>
本発明の旋削用チップは複数の刃先を有し、この刃先のうち少なくとも2つの刃先は同一の刃先角(頂角)を有する。複数の刃先において、少なくとも2つの刃先を同一の刃先角とすることによって、後述のように粗加工と仕上げ加工とを単一のチップにより施すことが可能となるので、加工ごとのチップ交換等を省略でき、製造効率を高めることができる。なお、本発明において、刃先とはチップのコーナーのうち切れ刃を備えた部分をいい、刃先角とは、JIS B 4120(1998)により規格化された、チップ形状として規定されたものであり、各刃先において2本の刃先稜線がなす角である。本発明において同一とは実質的に同一なものを含み必ずしも完全一致のみをいうものではない。このような実質的に同一なものとは、誤差の範囲を含むものであり、刃先角におけるこの誤差の範囲は±30′である。
【0018】
本発明において上記刃先の刃先角は90度以下である。刃先角が90度以下である刃先を備えた旋削用チップの形状としては、JIS B 4120(1998)またはISO1832に規格されるS型(正方形、刃先角90度)、T型(正三角形、刃先角60度)、C型(菱形、刃先角80度)、D型(菱形、刃先角55度)、V型(菱形、刃先角35度)、W型(六角形、刃先角80度)等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、所望の形状で刃先角が90度以下であればいずれの形状であってもよい。なお、刃先角が90度を超える鈍角のものであっても刃先とすることは可能であるが、鋭角のコーナー部を刃先とすることが一般的である。
【0019】
<ブレーカ>
本発明において、上記同一の刃先角を有する刃先のうち少なくとも1つの刃先は、他の刃先と異なるブレーカ形状を有する。すなわち、同一の刃先角を有する刃先のブレーカ形状が2種以上存在するので、粗加工と仕上げ加工とを単一のチップで行なうことが可能となる。また、このように単一のチップで粗加工と仕上げ加工とを行なう場合は、チップの全コーナーが使用されることになり、従来のように一部のコーナーを使用したチップを多数在庫として保有しなければならないということが少なくなる。なお、ブレーカ(チップブレーカ)とは、一般に切屑を強制的に分断処理する機能を有するものであり、ブレーカを設けないコーナーの形状も、そのような分断処理する機能を有するのでブレーカ形状のひとつとする。
【0020】
本発明においては同一の刃先角のブレーカ形状が異なるため、これらの識別を容易にするために、例えば、ネガチップにおいて上面と下面とでブレーカ形状を変更することや、対向する上下すくい面における各対応するコーナーの刃先は同じブレーカ形状にしておくことが有効である。
【0021】
具体的には、ネガチップを使用する場合は、該ネガチップの同一すくい面内における刃先のブレーカ形状を同一とすることができる。この場合、例えば、一方のすくい面で粗加工を行ない、その後すくい面をかえて仕上げ加工を行なうので、切れ刃の選択を誤る可能性が著しく低くなる。
【0022】
本発明において上記刃先のブレーカ形状を、旋削用チップの上下対向するすくい面の各対応するコーナーでは同一の形状とすることが好ましい。このように対向する上下すくい面の各対応するコーナーのブレーカ形状が同一の場合は、チップがケースに入ったままの状態で刃先形状を識別することが可能であり、特に側面が無研磨の状態のままであるときは、この識別性が特に有効である。
【0023】
また、上記のように上下対向するすくい面の各対応するコーナーにおいて同一のブレーカ形状とする場合、各すくい面のコーナーごとのブレーカ形状は相異なるものとすることが好ましい。このような形態とすることによって、より幅広い加工に対応させることができる。
【0024】
チップにおけるこのようなブレーカ形状について説明するために、図1に典型的な旋削用チップの模式図を示す。図1はCNMG1204形状のチップであって、切れ刃A、B、CおよびD(図中Dは、切れ刃Bの対向するすくい面における切れ刃を示す)を有する。なお、図1は、本発明に相当するような2種以上のブレーカ形状を示すものではなく、以下の説明のために切れ刃位置を模式的に示すものである。
【0025】
上記ブレーカ形状の態様としては、例えば、図1に示す切れ刃A〜Dが相異なる場合が挙げられる。具体的には、切れ刃Aが仕上げ用ブレーカを有し、切れ刃Bが汎用ブレーカを有し、切れ刃Cが断続切削用ブレーカを有し、切れ刃Dが強断続切削用ブレーカを有する場合である。また、同一面内のブレーカ形状が同じとは、切れ刃Aと切れ刃Bとが仕上げ用ブレーカであり、切れ刃Cと切れ刃Dとが断続切削用ブレーカのような場合が挙げられる。また、対向するすくい面の各対応するコーナーにおいてブレーカ形状が同一の場合とは、例えば、切れ刃Aと切れ刃Cとが仕上げ用ブレーカであって、切れ刃Bと切れ刃Dとが断続切削用ブレーカである場合が相当する。
【0026】
また、本発明におけるブレーカ形状は、右勝手と左勝手とは異なるものとし、各すくい面において勝手違いを混在させることも可能であり、例えば、上すくい面は右勝手のブレーカとし、下すくい面を左勝手のブレーカとしてもよい。
【0027】
ブレーカ形状は、仕上げ切削から重切削まで幅広く対応することができるいわゆる3次元形のものや、軽切削から荒切削に適したいわゆる全周溝形のものや、仕上げ切削から中切削に好適ないわゆる研ぎ付形などに大別され、さらに突起形やディンブル形などに細分類されるが、本発明において、ブレーカの形状は特に限定されず、用途に応じて従来公知の形状をいずれも採用することができる。
【0028】
本発明において上記ブレーカ形状は、プレス成形(プレス加工)または研磨加工によって付与されることが好ましい。本発明においてプレス成形によりブレーカ形状を付す場合は、例えば切れ刃が旋削用チップの本体(基材)と一体のものであって、超硬合金やサーメットをその基材とするものであり、基材の原料粉末をプレス成形する際に上記各ブレーカ形状も形成して、その後に基材の焼結を行ない、任意の後加工を施すことにより製造される。
【0029】
上記のように、プレス加工においてブレーカ形状を付与した場合は、特定のブレーカ形状を備えた刃先をロウ付けにより設けたチップに比べて、得られた旋削用チップが容易に刃先が交換可能であるという大きな利点がある。また、ブレーカ形状をプレス成形する場合、2種以上のブレーカ形状を一度のプレス加工により成形できるので、製造工程を著しく簡略化することができる。
【0030】
<研磨>
本発明の旋削用チップは、上記のようなブレーカ形状を有する限り、側面(逃げ面)または上下すくい面の少なくともいずれが研磨されていても有効である。この場合の研磨対象は、被膜を有さない場合は基材単独であり、基材に対して被膜が形成されている場合は基材および被膜となる。なお、研磨のかわりに側面または上下すくい面の少なくともいずれかが表面処理されていても本発明の効果は奏される。なお、側面を研磨するチップの場合には、同一コーナーの上下の刃先は同じブレーカ形状にしておくことが工業的に有利である。
【0031】
<マーキング>
旋削用チップの刃先に識別性を付与するためには、すくい面の切れ刃毎のコーナーに識別用の刻印(マーキング、識別マーク)を付与する方法も有効である。このようなマーキング方法は特に限定されず、例えば旋削用チップの製造工程におけるプレスと同時に刻印を付してもよいし、加工後にレーザマークやボールエンドミルなどにより刻印を付してもよい。また、刻印の形状は、それぞれの刃先のブレーカ形状に対応させて(ブレーカ形状に関連する形状、例えば、ブレーカ略名やブレーカ名に関する文字列など)識別性を付与すれば、どのような形状でも採用することができる。このような識別マークを設ける位置は、特に限定されるものではなく、ブレーカの機能を低下させず、かつ目視できる位置であればよい。
【0032】
<その他の形状>
本発明において、チップのノーズ半径の大きさは特に限定されず、また、コーナー毎にノーズ半径が同一であっても異なっていても本発明の効果は奏される。なお、ノーズ半径とは、JIS B 4120(1998)により規格化された各刃先の基準内接円直径をいう。また、コーナー毎の刃先処理量が同一であっても異なっていても、上記ノーズ半径と同様、本発明の効果は奏される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例においてブレーカ形状の呼び記号は、JIS B 4120(1998)に規定されるように任意記号である補足記号および/または勝手記号によるものであり、その形状を図2〜図8に模式的に示すが、これらは単なる例示にすぎず、本発明のブレーカ形状は上記呼び記号と図面との組み合わせに限定的に解釈されるべきものではない。すなわち、呼び記号によりブレーカ形状が限定されるわけではない。また、図2〜図8は単にブレーカ形状を示す模式図であるため、便宜上全てのコーナーにおけるブレーカ形状を同一のものとしている。
【0034】
(実施例1)
実施例1においては、超硬合金に対してCVD法によってコーティング材質AC2000(住電ハードメタル(株)製)でコーティングした、刃先角が80度である刃先を4つ備えたネガチップ(CNMA1204形状)を製造した。このような形状のネガチップは、図1の典型的な旋削用チップの模式図に示されるように、切れ刃A〜Dの4つの刃先を有する。
【0035】
超硬合金の原料となる原料粉末を公知の方法でプレス成形する際に、切れ刃Aおよび切れ刃Bのブレーカを図2に示すような仕上げ用ブレーカSU型(小切込み、高送りに適する)とし、切れ刃Cおよび切れ刃Dのブレーカを図3に示すような汎用型のGU型(低抵抗で耐摩耗性に優れる)にプレス成形した。その後、焼結および上記コーティング材質AC2000により被膜を形成して旋削用チップ1を得た。
【0036】
(実施例2)
切れ刃Aおよび切れ刃Cのブレーカを上記仕上げ用ブレーカSU型とし、切れ刃Bと切れ刃Dのブレーカを上記汎用型であるGU型にプレス成形した以外は、実施例1と同様にして旋削用チップ2を得た。
【0037】
(実施例3)
切れ刃Aのブレーカを上記仕上げ用ブレーカSU型とし、切れ刃Bのブレーカを上記汎用型であるGU型とし、切れ刃Cのブレーカを図4に示すような断続用UX型(刃先強度が強く、信頼性の高い汎用ブレーカ)とし、切れ刃Dのブレーカを図5に示すような強断続用MU型(低抵抗で、高送りに適する)としてプレス成形した以外は、実施例1と同様にして旋削用チップ3を得た。
【0038】
(実施例4)
切れ刃A〜Dの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として、「SU」または「GU」のそれぞれを、同時にプレス成形して刻印した以外は実施例1と同様にして旋削用チップ4を得た。
【0039】
(実施例5)
切れ刃A〜Dの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として、「SU」または「GU」のそれぞれを、同時にプレス成形して刻印した以外は実施例2と同様にして旋削用チップ5を得た。
【0040】
(実施例6)
切れ刃A〜Dの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として、「SU」、「GU」、「UX」または「MU」のそれぞれを、同時にプレス成形して刻印した以外は実施例3と同様にして旋削用チップ6を得た。
【0041】
(実施例7)
実施例7においては、超硬合金に対してCVD法によってコーティング材質AC410K(住電ハードメタル(株)製)でコーティングした、刃先角が80度である刃先を4つ備えたネガチップ(CNMA1204形状)を製造した。このような形状のネガチップは、図1の典型的な旋削用チップの模式図に示されるように、切れ刃A〜Dの4つの刃先を有する。
【0042】
超硬合金の原料となる原料粉末を公知の方法でプレス成形する際に、切れ刃Aおよび切れ刃Bのブレーカ形状を断続切削用として、ブレーカを設けず、切れ刃Cおよび切れ刃Dのブレーカを汎用型の上記断続用UX型にプレス成形した。その後、焼結および上記コーティング材質AC410Kにより被膜を形成して旋削用チップ7を得た。
【0043】
(実施例8)
切れ刃Aおよび切れ刃Cのブレーカブレーカ形状を断続切削用として、ブレーカを設けず、切れ刃Bと切れ刃Dのブレーカを汎用型の上記断続用UX型にプレス成形した以外は、実施例7と同様にして旋削用チップ8を得た。
【0044】
(実施例9)
切れ刃CおよびDの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として、「UX」を同時にプレス成形して刻印した以外は実施例7と同様にして旋削用チップ9を得た。
【0045】
(実施例10)
切れ刃BおよびDの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として、「UX」を同時にプレス成形して刻印した以外は実施例8と同様にして旋削用チップ10を得た。
【0046】
(実施例11)
実施例11においては、サーメットT1200A、刃先角が60度である刃先を6つ(上面3つ、下面3つ)備えたネガチップ(TNGA1604形状)を製造した。
【0047】
サーメットの原料となる原料粉末を公知の方法でプレス成形した後に、焼結させて、その後研磨加工する際に、チップ上面における3つの刃先のブレーカ形状を図6に示すような汎用型のUM型(砥付けタイプ)として、右勝手用のブレーカを設け、チップ下面における3つの刃先のブレーカ形状を汎用型の上記UM型として、左勝手用のブレーカを設けるように研磨加工して旋削用チップ11を得た。
【0048】
(実施例12)
チップ上面3つの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として「UM‐R」、チップ下面の3つの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として「UM−L」を同時にレーザマーキングした以外は実施例11と同様にして旋削用チップ12を得た。
【0049】
(実施例13)
チップ上面3つの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として「R」、チップ下面の3つの各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として「L」を同時にレーザマーキングした以外は実施例11と同様にして旋削用チップ13を得た。
【0050】
(実施例14)
実施例14においては、超硬合金に対してPVD法によってコーティング材質ACZ310(住電ハードメタル(株)製)でコーティングした、刃先角が55度である刃先を2つ備えたポジチップ(DPGT11T3形状)を製造した。
【0051】
ACZ310の基材となる原料粉末を公知の方法でプレス成形および焼結して、その後研磨する際に、チップ上面における一方の刃先のブレーカ形状を図7に示すようなFY型(いわゆるシャープエッジワイドブレーカ)として、チップ上面における他方の刃先のブレーカ形状を図8に示すようなFX型(いわゆるシャープエッジ平行ブレーカ)として、ブレーカ形状を成形した。その後、焼結および上記コーティング材質ACZ310により被膜を形成して旋削用チップ14を得た。
【0052】
(実施例15)
各刃先のすくい面にブレーカ形状に対応する記号として、「FY」または「FX」を同時にプレス成形して刻印した以外は実施例14と同様にして旋削用チップ15を得た。
【0053】
実施例1〜15で得られた旋削用チップは、刃先角が同一でブレーカ形状のみが異なる刃先を単一のチップが備えるので、従来の旋削用チップと比べて1つのチップで粗加工と仕上げ加工とのような広範囲の切削を、単一の旋削用チップで行なうことが可能となった。
【0054】
<識別性評価>
実施例1で得られたブレーカ形状に対応する記号がプレス成形されていない(マーキングされていない)旋削用チップ1と、実施例4で得られたブレーカ形状に対応する記号がプレス成形された旋削用チップ4との識別性を評価するために、被加工物の生産現場において作業者4名を対象としてこれらの旋削用チップをそれぞれ100回使用させた。実施例1で得られた旋削用チップ1では、作業者全平均で14%の頻度で本来使用すべきブレーカ形状と異なるブレーカを選択した(GUブレーカ形状の刃先を使用しなければならない加工においてSUブレーカ形状の刃先を装着、またはその逆)のに対し、実施例4で得られた旋削用チップ4では、このような装着ミスが全く起こらなかった。
【0055】
同様に、実施例11で得られたブレーカ形状に対応する記号がプレス成形されていない(レーザマーキングされていない)旋削用チップ11と、実施例12および13で得られたブレーカ形状に対応する記号がレーザマーキングされた旋削用チップ12および13との識別性を評価するために、上記と同様に、被加工物の生産現場において作業者4名を対象としてこれらの旋削用チップをそれぞれ100回使用させた。実施例11で得られた旋削用チップ11では、作業者全体平均で3%の頻度で本来右勝手の刃先を使用しなければならない加工において、左勝手の刃先を装着した後にブレーカ形状の選択ミスに気付いたのに対して、実施例12および13で得られた旋削用チップ12および13では、このような選択ミスは起こらなかった。
【0056】
また、同様に、実施例14で得られた旋削用チップと実施例15で得られた旋削用チップ15について識別性の評価を行なったところ、実施例14で得られた旋削用チップ14では作業者全体平均で2%の頻度でブレーカ形状の選択ミスがあったが、実施例15で得られた旋削用チップ15ではこのような選択ミスは起こらなかった。
【0057】
これらの結果から、ブレーカ形状に対応する識別マークを付与した場合には、ブレーカ形状の選択ミスを排除することができ、その結果切削加工の効率がより向上することがわかった。
【0058】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0059】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】典型的な旋削用チップの模式図である。
【図2】実施例におけるSU型のブレーカ形状を示す模式図である。
【図3】実施例におけるGU型のブレーカ形状を示す模式図である。
【図4】実施例におけるUX型のブレーカ形状を示す模式図である。
【図5】実施例におけるMU型のブレーカ形状を示す模式図である。
【図6】実施例におけるUM型のブレーカ形状を示す模式図である。
【図7】実施例におけるFY型のブレーカ形状を示す模式図である。
【図8】実施例におけるFX型のブレーカ形状を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の刃先を有する旋削用チップであって、
前記刃先のうち少なくとも2つの刃先は同一の刃先角を有し、かつ、その刃先角が90度以下であり、
前記同一の刃先角を有する刃先のうち少なくとも1つの刃先は、他の刃先と異なるブレーカ形状を有する旋削用チップ。
【請求項2】
前記ブレーカ形状は、プレス成形によって付与される請求項1に記載の旋削用チップ。
【請求項3】
前記旋削用チップはネガチップであり、該ネガチップの同一すくい面内における刃先のブレーカ形状は同一である請求項1に記載の旋削用チップ。
【請求項4】
前記旋削用チップは、対向するすくい面における各対応するコーナーにおける刃先のブレーカ形状が同一である請求項1に記載の旋削用チップ。
【請求項5】
前記刃先のブレーカ形状は、各すくい面においてコーナーごとに相異なる請求項1に記載の旋削用チップ。
【請求項6】
前記旋削用チップは、識別マークが施されており、
前記識別マークは、すくい面のコーナーごとに設けられるマークであって、前記コーナーごとのブレーカ形状または該ブレーカ形状に関連するマークである請求項1〜5のいずれかに記載の旋削用チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−42462(P2010−42462A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207218(P2008−207218)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】