説明

有機廃液処理装置

【課題】高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液を安価にかつ効率よく生物学的に処理し、メタン発酵させて有価物として利用する。
【解決手段】高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液を希釈する希釈工程、塩化ナトリウム濃度が希釈された有機廃液を酸発酵する酸発酵工程、酸発酵された有機廃液を中和する中和工程、中和によりpH5.5〜8.5となった有機廃液をメタン発酵するメタン発酵工程、を順に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液を処理する方法に関し、その有機廃液をメタン発酵させて有価物として利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、石鹸製造業における廃液は、グリセリン、脂肪酸等の有機物が含まれているが、従来、この廃液は有価な有機物を回収、再生した後廃棄されていた。しかし、バイオディーゼル製造副産物としてのグリセリンが大量に流通する昨今、廃液からのグリセリンの回収がコスト的に見合わなくなってきており、近年ではこのような廃液を焼却処理等により処分することが主流になってきている。
【0003】
しかし、このような処理を行うと、エネルギー的に無駄が多く、環境負荷が高いことなどの理由で廃液中の有機物を有効利用することが検討されている。廃液中の有機物の利用形態としては、回収、再生を除けば、他に微生物によるメタン発酵を利用してメタンガスとしてエネルギーを回収することが考えられるが、高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの廃液は、メタン発酵を行う微生物が活動する環境としては好ましくなく、上記石鹸製造業における廃液などには適用することができないという実情があった。
【0004】
尚、本発明では、主に石鹸製造廃液を例に説明を行うが、バイオディーゼル製造業など各種産業廃液についても同様の問題点を抱えており、廃液中の有機物からメタンを生成することが検討されている(特許文献1)。本発明においては、これらの廃液を有機廃液と総称するものとする。
【0005】
尚、メタン発酵の方法としては、UASB法(上向流嫌気性汚泥床法(Upflow Anaerobic Sludge Blanket))が知られており、UASBによる嫌気性処理装置は汚泥保持濃度が高く、高負荷処理が可能であることから、近年、食品排水を中心に急速に普及している。UASB法は、原水を反応槽の下部より上向流で流入させ、菌の付着担体を用いることなく、汚泥をブロック化または粒状化させて粒径1〜数mmのグラニュール汚泥の汚泥床(スラッジブランケット)を形成させ、反応槽中に高濃度の微生物を保持して、高負荷処理を行う方法であり、好気性活性汚泥法に比べて、反応槽容積当りの有機物負荷が10kg−CODCr/m3/day以上と非常に高い。しかも、曝気のためのエネルギーが不要である;メタンガスとしてエネルギーの回収が可能である;余剰汚泥発生量が少ない;等の優れた特長も備えている。
【0006】
また、酸発酵とは、酸素の存在しない嫌気状態において酸生成菌により有機物が分解されることである。つまり、酸発酵によると、有機物は無酸素状態において、酸生成菌が生産する酵素の加水分解、脱アミノ作用により低分子化され、有機酸、アルコール、アンモニア等が生成する。このような酸発酵は、通常、汚泥の可溶化、油分の発酵処理等の目的でメタン発酵処理の前処理として行われる場合がある(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−027075号公報
【特許文献2】特開2000−237787号公報
【特許文献3】特開2000−271598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明は、高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液を安価にかつ効率よく生物学的に処理し、メタン発酵させて有価物として利用することを目的とする。
【0009】
尚、酸発酵を行う酸生成菌は、特殊な菌ではなく、自然環境中に広く分布する通性および絶対嫌気性細菌であり、増殖に必要なエネルギーを酸発酵により得ているものである。このような酸発酵により有機酸が生成する。
ここで、酸発酵を行う酸生成菌としては、通常の嫌気性処理で用いられる種々のものを使用可能であり、たとえば、Bacillus属、Clostridium属、Lactobacillus属、Bacteroides属、Vibrio属、Staphylococcus属、Micrococcus属、Butyrivibrio属、Fusobacterium属、Enterobacter属、Streptococcus属、Peptococcus属等の菌体が例示される。たとえば、Clostridium属菌では、C.formicoaacetium,C.butyricum ATCC 6014,C.thermoacetium,C.thermocellum,C.thermohydro−sulfuricum等;Lactobacillus属菌では、L.casei IFO 3914、L.brevis IFO 13109等の菌が用いられることが知られている。これら微生物は、たとえば、下水処理場の下水汚泥等に含まれる菌体をそのまま利用することができる。
【0010】
また、メタン発酵を行うメタン生成菌としては、特に限定されるものではないが、たとえば、Methanobacterium属、Methanococcus属、Methanosarcina属、Methanosaeta属、Methanogenium属、Methanospirillum属細菌等が好適に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の有機廃液処理方法の特徴構成は、
高濃度塩化ナトリウムを含有し、高pHの有機廃液を希釈する希釈工程、
前記希釈工程で塩化ナトリウム濃度が希釈された有機廃液を、酸発酵する酸発酵工程、
前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液を、pH5.5〜8.5に中和する中和工程、
前記中和工程でpH5.5〜8.5となった有機廃液を、メタン発酵するメタン発酵工程、
を順に行う点にある。
【0012】
〔作用効果2〕
希釈工程により、高濃度塩化ナトリウムを含有し、高pHの有機廃液を希釈すると、微生物の生育に好ましくない高い塩化ナトリウム濃度(以下単に塩濃度と称する)を微生物がメタン発酵活性を示す濃度に低下させることができる。
【0013】
酸発酵工程により前記希釈工程で塩化ナトリウム濃度が希釈された有機廃液を、酸発酵すると、酸生成菌が有機廃液中の有機物を資化して、前記有機廃液を酸発酵させ、その有機廃液をより流動化させるとともに、含有される有機物をメタン発酵に適したものとすることができる。また、酸発酵により生成した酸は、前記有機廃液の高pH条件を緩和する役割も担う。
【0014】
中和工程により、前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液を、pH5.5〜8.5に中和すると、中和された有機廃液は、メタン生成菌の生育に適した環境に整えられる。尚、中和処理はpH5.5〜8.5としておけば、微生物の活動に支障が生じにくくかつ、微生物の働きによって、有機廃液のpHがさらに変動したとしても適度な微生物育成環境が維持されるので好ましい。ここで、前記有機廃液は、酸発酵工程を経たものであるから、有機物が適度に低分子化され、メタン発酵の効率よく行われる条件まで消化されていることになり、安定的にメタン発酵を行うことができる。
【0015】
具体的には、希釈工程の後、酸発酵工程を行わず、中和工程により中和しただけの有機廃液をメタン発酵工程に供すると、pHを低下させる酸発酵と、有機酸を分解してpHを上昇させるメタン発酵とが同時に起こるため、pHが不安定になりやすく、安定的にメタン発酵を起こさせることが困難である。酸発酵工程を経た有機廃液をメタン発酵工程に供することにより、pHを安定させることが可能となり、良好にメタン発酵が行えることがわかった。
【0016】
〔構成2〕
また、前記メタン発酵工程でメタン発酵された有機廃液を、さらに好気性菌により分解する好気処理工程を行うことが好ましい。
【0017】
〔作用効果2〕
メタン発酵工程において有機物をメタン発酵させてメタンガスに転換したとしても、実際には処理しきれなかった有機物などが有機廃液中に残存することになる。そこで、これらを好気性菌によって分解することによって、残存有機物を二酸化炭素と水に転換してしまえば、環境負荷の少ない比較的清浄な有機排水のみを排出すればよいことになる。したがって、好気処理工程により、有機廃液をさらに高度に処理することができる有機廃液処理装置を提供することができた。
【0018】
〔構成3〕
また、前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液に、好気処理工程で得られた有機廃液を混合して、前記中和工程を行うことができる。
【0019】
〔作用効果3〕
酸発酵工程を経た有機廃液は、通常、酸性である。一方、好気処理工程を経た有機廃液は酸発酵工程を経た有機廃液を中和するために添加したアルカリ等により、通常アルカリ性化している。そこで、前記中和工程において、酸発酵工程を経た酸性の有機廃液を中和するのに、前記好気処理工程で得られた有機廃液を用いると、中和工程で用いるべきアルカリの量を減量しつつ中和工程を行えるとともに、外部に放流される好気処理工程を経た有機廃液の液性を、より無害化すべく中和処理するような場合にもその中和処理に要する酸性物質量を少なくすることができる。
【0020】
〔構成4〕
また、前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液に、酸発酵前の有機廃液を混合して前記中和工程を行うことができる。
【0021】
〔作用効果4〕
先述のように酸発酵工程を経た有機廃液は、通常、酸性である。これに対し、酸発酵前の有機廃液は、高pHである。したがって、前記中和工程において、酸発酵工程を経た酸性の有機廃液を中和するのに、前記酸発酵前の有機廃液を用いることによっても、中和工程で用いるべき酸の量を減量しつつ中和工程を行える。尚、このとき、前記酸発酵前の有機廃液としては、希釈前のものであっても、希釈後のものであってもかまわないが、後続の工程での塩濃度の影響を避けるためには、希釈後の有機廃液を用いることが好ましい。尚、ここで用いられる有機廃液は、中和工程後に酸発酵を経ることなくメタン発酵工程に供されることになるので、メタン発酵工程におけるpH変動を考慮して、使用量を制限して設定することが望ましい。
【0022】
〔構成5〕
また、前記希釈工程において、有機廃液を塩化ナトリウム濃度が2.0%以下になるように希釈することが好ましい。
【0023】
〔作用効果5〕
通常のUASBで用いられる嫌気性菌は、塩濃度の高い環境下であまり高い活性を示さないが、本発明者らの検討の結果、2.0%以下程度の低塩濃度環境では、十分メタン発酵活性を示すことが後述の実施例より明らかになっている。そのため、前記希釈部において有機廃液を塩化ナトリウム濃度が2.0%以下になるように希釈すると、高い活性のUASBでメタン発酵工程を行い、メタンを生成することができるようになる。
【0024】
〔構成6〕
上記目的を達成するための本発明の有機廃液処理装置の特徴構成は、
高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液を希釈する希釈部、
前記希釈部で塩化ナトリウム濃度が希釈された有機廃液を、酸発酵する酸発酵部、
前記酸発酵部で酸発酵された有機廃液を、pH5.5〜8.5に中和する中和処理部、
前記中和部でpH5.5〜8.5となった有機廃液を、メタン発酵するメタン発酵部、
を設け、前記メタン発酵部で得られるメタンガスを燃料として消費するガス消費部を設けた点にある。
【0025】
〔作用効果6〕
上記有機廃液処理装置によると、先述の有機廃液処理方法における希釈工程を希釈部において行うことができ、酸発酵工程を酸発酵部で行うことができ、中和工程を中和処理部で行うことができ、メタン発酵処理をメタン発酵部で行うことができる。すなわち、有機廃液処理装置によると、先述の有機廃液処理方法における高効率な有機廃液処理が行える。また、ガス消費部を設けてあるから、このようにして生成したメタンガスを、有効に消費することができる。
【0026】
〔構成7〕
また、前記希釈部に低濃度塩化ナトリウム含有排水を供給する排水供給部を備えてもよい。
【0027】
〔作用効果7〕
高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液の発生する環境では、低濃度塩化ナトリウム含有排水も同時に発生する場合が多い。これらの有機廃液および有機排水を組み合わせることにより、排水中の有機物を効率よくメタン発酵処理部に供給することができるようになり、排水に含まれる有機物もあわせて有効に利用しながら有価物を生産することができるようになり、2種類の有機廃液、有機排水を同時に処理できることになって効率がよい。
【0028】
〔構成8〕
また、前記低濃度塩化ナトリウム含有排水が、石鹸製造塩析工程の冷却水や洗浄排水の混合排水であってもよい。
【0029】
〔作用効果8〕
たとえば、石鹸製造業においては、各工程における冷却水や洗浄排水として塩濃度の低い有機排水が発生する。このような石鹸製造設備の排水は、有機物を高濃度に含有しつつ、塩濃度が低く、pHも中性に近いので、上記低濃度塩化ナトリウム含有排水として前記希釈部に供給するのに適する。
【0030】
〔構成9〕
前記有機廃液が、石鹸製造における塩析工程の廃液であってもよい。
【0031】
〔作用効果9〕
また、石鹸製造業においては、塩析工程において高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液が発生し、かつ、高濃度の有機物を含有するので、上記有機廃液処理装置で先述の有機廃液処理方法により処理する廃液として好適である。尚、石鹸製造業において、各工程における冷却水や洗浄排水として発生する塩濃度の低い有機排水と組み合わせると、きわめて高効率で石鹸製造設備の排水を有効に利用しながら有価物を生産することができる
【0032】
〔構成10〕
また、前記メタン発酵部が、UASB法によりメタン発酵を行うUASB反応槽を備えることが好ましい。
【0033】
〔作用効果10〕
生物処理法としては、嫌気処理法で一般にメタンを生成することができるので、メタン発酵部としていずれの形態を採用してもかまわないが、メタン発酵部としてUASB法を採用すると、有機廃液中の有機物量に対するメタン転換能力が高く、かつ、反応処理速度も速いので好適である。
【0034】
尚、石鹸製造業における排水の組成は、おおよそ表1のようになっている。表中の高濃度排水が塩析工程における排水に相当し、本発明では有機廃液と称している。一方、低濃度排水が各工程における冷却水や洗浄排水として発生する排水に相当し、本発明で有機排水と称している。また、参考に、バイオディーゼルフューエル製造業における排水の物性についても同様に表1に示す。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の有機廃液処理装置の全体図である。
【図2】各実験例における塩濃度とメタン転換率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は本発明の有機廃液処理装置の一例を示す。尚、以下に、示す有機廃液処理装置は、本発明を具体的に説明するための例示であって、本発明は、この記載に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成の変更、追加が可能であることは言うまでも無い。
【0038】
図1に示すように、本発明の有機廃液処理装置は、有機廃液貯留部1、排水供給部として機能する有機排水貯留部2、希釈部3、酸発酵部4、中和処理部5、メタン発酵部6、ガス消費部7、好気処理部8を備え、たとえば、有機廃液1aとしての石鹸製造廃液を処理する構成としてある。
【0039】
前記有機廃液貯留部1は、有機廃液1aを貯留するタンク10からなり、たとえば、石鹸製造プラントにおける塩析工程の廃液を有機廃液1aとして一時貯留するものである。この有機廃液1aは、通常、先に示した表1に示すように、高濃度塩化ナトリウム含有で高pHとなっており、有機物として高濃度のグリセリンを含んでいる(CODCr40000〜120000mg/L程度)。
【0040】
また、前記有機排水貯留部2は有機排水2aを貯留するタンク20からなり、たとえば、石鹸製造プラントにおける各工程における冷却水や洗浄排水として発生する排水を有機排水2aとして一時貯留するものである。この有機排水2aは、通常、表1に示すように、塩化ナトリウムをほとんど含有せず、ほぼ中性となっており、有機物としてグリセリンを含んでいる(CODCr100〜5000mg/L程度)。
【0041】
前記希釈部3は、前記有機廃液貯留部1からの有機廃液1aを受けて、前記有機排水貯留部2からの有機排水2aにより希釈する希釈槽30を備えてなり、希釈槽30内の塩濃度が所定値(たとえば2.0%)以下、(さらに好ましくは、1.5%以下)となるように混合希釈して、その希釈された有機廃液3aを希釈槽30外へ排出する希釈工程を行うことができるように構成してある。
【0042】
前記酸発酵部4は、前記希釈部3からの有機廃液3aを酸発酵する酸発酵槽40を備え、前記酸発酵槽40に、有機廃液3aを受ける供給部41を備えるとともに、酸発酵済みの有機廃液4aを排出する排出部42を備えて構成される。酸発酵部4では、内部に通性嫌気性菌(酸生成菌)を主体とする汚泥を収容するとともに、酸発酵槽内の有機廃液4aを酸発酵して酢酸等の有機酸を生成する酸発酵工程を行うことができる構成となっている。
【0043】
前記中和処理部5は、前記有機廃液4aを中和する中和反応処理のための反応槽50に、有機廃液4aを供給する供給部51を備え、アルカリ(たとえば水酸化ナトリウム水溶液)5bを投入するためのアルカリ添加部52を備え、前記酸発酵部4からの有機廃液4aを受けて内部で混合反応させ、中和する中和工程を行うことができる構成としてある。この反応は、所定の反応効率を維持するために、前記アルカリ添加部52からのアルカリ5bの添加による中和反応により反応を促進させることができる。そして、反応槽50内のpHが所定範囲(たとえばpH5.5〜8.5)になると、その中和した有機廃液5aを廃液排出部53から反応槽50外へ排出できるように構成してある。
【0044】
前記メタン発酵部6は、図1に示すように、前記UASB反応槽60を備えて構成してあり、前記UASB反応槽60は、下部に嫌気性菌(UASB菌)を主体とする汚泥のグラニュール60aを充填されるスラッジベッド61を備えるとともに、中和処理部5から排出された有機廃液5aを分散供給する有機廃液供給部62を備える。これにより、導入される有機廃液5aの上向流が形成されるとともに、内部の有機廃液5aの循環を促し、流動するグラニュール60aにより有機物をメタン発酵するメタン発酵工程が行われる。前記スラッジベッド61の上部には、グラニュール60aの流失を防止するとともに処理済みの上澄液および生成したメタンガス6bを上方に移流させる分離板63を設けてある。分離板63上方に移流した処理済みの有機廃液6aは、オーバーフロー部64よりUASB反応槽60外へ取出されるとともに、生成したメタンガス6bは、ガス回収部65よりUASB反応槽60外へ取出される構成となっている。また、オーバーフロー部64には有機廃液の一部6cを有機廃液供給部62に循環させる循環処理液循環路66を設けて、必要な滞留時間を維持しながら、塔内の液線速度を適切な値に設定できる構成としている。塔内の液線速度は、速すぎるとグラニュール60aが磨耗あるいは流出し、遅すぎると分解速度が遅くなったり、グラニュール以外の懸濁物質が蓄積されやすくなるため、3m/h程度とすることが好ましい。
【0045】
前記ガス消費部7は、可燃性ガス7aを、前記ガス回収部65から回収されたメタンガス6bとともに混合して燃料ガスとして供給する燃料ガス供給部70を備え、燃料ガスを燃料として消費して蒸気や動力7bを発生するボイラ、エンジン、タービン等からなる。ここで発生した蒸気や動力7bは、たとえば、石鹸製造プラントの熱源や動力源として用いられ、有効利用される。
【0046】
前記好気処理部8は、活性汚泥槽、接触曝気槽等の種々公知の廃水処理槽を適用でき、前記メタン発酵部6から供給される有機廃液6aをさらに好気分解処理して、清浄な排水8aとして排出可能に構成する。
【0047】
尚、中和処理部5には、アルカリ添加部52のほかに、前記希釈部で希釈された有機廃液の一部3bを、酸発酵部4を経ずにバイパス路31より直接供給する原液供給部54を設けて、アルカリ添加部52から供給すべきアルカリ5bの一部または全部を前記有機廃液の一部3bで代用して前記酸発酵を受けた有機廃液4aを中和処理可能に構成してある。
【0048】
また、同様に、中和処理部5には、好気処理部8からの排水の一部8bを返送路81より返送供給する排水返送部55を設けアルカリ添加部52から供給すべきアルカリ5bの一部または全部を前記排水の一部8bで代用して前記酸発酵を受けた有機廃液4aを中和処理可能に構成することもできる。
【0049】
以下に、具体的な廃液を上記有機廃液処理装置に供給した場合のメタン生成効率を検討した実験例を示す。以下に示す実験例は、本発明を具体的に示すためのものであって、本発明は、以下の実施例に限られるものではない。
【0050】
〔実験例〕
模擬有機廃液および模擬有機排水として、下記性状の有機廃液および有機排水を用意した。
【0051】
有機廃液:
CODCr:130000(mg/L)
塩濃度 :9.9(%)
pH :12
【0052】
有機排水:
CODCr:500(mg/L)
塩濃度 :0(%)
pH :7.2
【0053】
〔実験1〕
上記有機廃液に硫酸を加えてpH7.5に中和した後、上記有機排水と容量比1:9となるように混合した。得られた混合液8mLを容積200mLのバイアル瓶に採り、UASB反応槽の汚泥10mLを加え、気相部分を窒素で置換した上で密封し、55℃で13日間培養した。培養後のバイアル瓶気相部分のガスを採取し、量、メタンガス濃度を測定した結果、添加したCODの99.9%がメタンに転換されたことが明らかになった。
【0054】
〔実験2〕
実験1における中和後の有機廃液に有機排水を容量比で1:4となるように混合した混合液4mLを容積200mLのバイアル瓶に採った以外は実験1と同様の実験を行った。その結果、添加したCODの90.1%がメタンに転換されたことが明らかになった。
【0055】
〔実験3〕
実験1における中和後の有機廃液に有機排水を容量比で1:1となるように混合した混合液1.6mLを容積200mLのバイアル瓶に採った以外は実験1と同様の実験を行った。その結果、添加したCODの63.7%がメタンに転換されたことが明らかになった。
【0056】
〔実験4〕
実験1における中和後の有機廃液のみ0.8mLを容積200mLのバイアル瓶に採った以外は実験1と同様の実験を行った。その結果、添加したCODの28.1%がメタンに転換されたことが明らかになった。
【0057】
実験1〜4の結果を、横軸:塩濃度(%)、縦軸:メタン転換率(%)としてプロットすると図2のようになった。
【0058】
図2より、本発明でいう有機廃液を有機排水で希釈する場合には、塩濃度を2.0%以下となるように希釈すれば、少ない希釈率でかつ高いメタン転換率を実現でき、また、塩濃度はさらに低下させて、1.5%以下となるように希釈することが望ましいことが示唆された。
〔実機運転例〕
図1に示した有機廃液処理装置に、表1に示す石鹸製造業における有機廃液および有機排水を供給した。
【0059】
希釈部3における希釈工程は、有機廃液1aを50tに対し、有機排水2aを280t混合して希釈することにより、塩濃度が15000mg/L、pH12、CODが10000Cr(mg/L)程度に希釈された有機廃液3aを得ることができた。
【0060】
次に酸発酵部4における酸発酵工程を行うと、投入された有機廃液3aのpHは約5まで低下し、低分子化された有機廃液4aが得られていることがわかった。
【0061】
次に中和処理部5における中和工程では、希釈された有機廃液の一部3bを添加して有機廃液4aの中和を図るとともに、最終的なpHをアルカリ(水酸化ナトリウム)5bの添加により目標pH7に調製した。
【0062】
得られた有機廃液5aはメタン発酵部6においてメタン発酵工程に供したところ発酵阻害を生じることなくメタンガス6bを生成し、ガス消費部7に供給することにより蒸気や動力7bに変換して有効利用することができた。
【0063】
また、このメタン発酵工程から流出する有機廃液6aはpH約7であった。前記有機廃液6aは好気処理部8によって好気処理工程に供され、さらに有機物の除去された清浄な排水8aとすることができた。尚、排水8aのPHは約9であり、酸(硫酸など)を添加することにより中性化して外部に放流することができた。
【0064】
尚、本実施の形態においては、中和処理部5における目標pH値を5.5〜8.5としたが、これに限らず、有機廃液の性状に対応して適宜変更することができる。また、希釈部3における塩濃度に関しても同様である。
【符号の説明】
【0065】
1 :有機廃液貯留部
1a :有機廃液
10 :タンク
2 :有機排水貯留部
2a :有機排水
20 :タンク
3 :希釈部
3a :有機廃液
3b :有機廃液の一部
30 :希釈槽
31 :バイパス路
4 :酸発酵部
4a :有機廃液
40 :酸発酵槽
41 :供給部
42 :排出部
5 :中和処理部
5a :有機廃液
5b :アルカリ
50 :反応槽
51 :供給部
52 :アルカリ添加部
53 :廃液排出部
54 :原液供給部
55 :排水返送部
6 :メタン発酵部
6a :有機廃液
6b :メタンガス
6c :有機廃液の一部
60 :UASB反応槽
60a :グラニュール
61 :スラッジベッド
62 :有機廃液供給部
63 :分離板
64 :オーバーフロー部
65 :ガス回収部
66 :循環処理液循環路
7 :ガス消費部
7a :可燃性ガス
7b :蒸気や動力
70 :燃料ガス供給部
8 :好気処理部
8a :排水
8b :排水の一部
81 :返送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度塩化ナトリウムを含有し、高pHの有機廃液を希釈する希釈工程、
前記希釈工程で塩化ナトリウム濃度が希釈された有機廃液を、酸発酵する酸発酵工程、
前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液を、pH5.5〜8.5に中和する中和工程、
前記中和工程でpH5.5〜8.5となった有機廃液を、メタン発酵するメタン発酵工程、
を順に行う有機廃液処理方法。
【請求項2】
前記メタン発酵工程でメタン発酵された有機廃液を、さらに好気性菌により分解する好気処理工程を行う請求項1に記載の有機廃液処理方法。
【請求項3】
前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液に、好気処理工程で得られた有機廃液を混合して、前記中和工程を行う請求項2に記載の有機廃液処理方法。
【請求項4】
前記酸発酵工程で酸発酵された有機廃液に、酸発酵前の有機廃液を混合して前記中和工程を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機廃液処理方法。
【請求項5】
前記希釈工程において、有機廃液を塩化ナトリウム濃度が2.0%以下になるように希釈する請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機廃液処理方法。
【請求項6】
高濃度塩化ナトリウム含有、高pHの有機廃液を希釈する希釈部、
前記希釈部で塩化ナトリウム濃度が希釈された有機廃液を、酸発酵する酸発酵部、
前記酸発酵部で酸発酵された有機廃液を、pH5.5〜8.5に中和する中和処理部、
前記中和処理部でpH5.5〜8.5となった有機廃液を、メタン発酵するメタン発酵部、
を設け、前記メタン発酵部で得られるメタンガスを燃料として消費するガス消費部を設けた有機廃液処理装置。
【請求項7】
前記希釈部に低濃度塩化ナトリウム含有排水を供給する排水供給部を備えた請求項6に記載の有機廃液処理装置。
【請求項8】
前記低濃度塩化ナトリウム含有排水が、石鹸製造塩析工程の冷却水や洗浄排水の混合排水である請求項7に記載の有機廃液処理装置。
【請求項9】
前記有機廃液が、石鹸製造における塩析工程の廃液である請求項6〜8のいずれか一項に記載の有機廃液処理装置。
【請求項10】
前記メタン発酵部が、UASB法によりメタン発酵を行うUASB反応槽を備えるものである請求項6〜9のいずれか一項に記載の有機廃液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−152675(P2012−152675A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12281(P2011−12281)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】