説明

有機無機複合組成物、有機無機複合材料、光学素子および積層型回折光学素子

【課題】可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、且つ高透明な光学素子を形成するための有機無機複合組成物および有機無機複合材料を提供する。
【解決手段】少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する有機無機複合組成物。前記有機無機複合組成物の硬化物からなり、アッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性が、(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)で囲まれた範囲内に含まれる有機無機複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合組成物、有機無機複合材料、光学素子および積層型回折光学素子に関し、特にカメラ等の撮像光学系に用いる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光の屈折を利用した屈折光学系では、分散特性の異なる硝材からなるレンズを組み合わせることによって色収差を減らしている。例えば、望遠鏡等の対物レンズでは分散の小さい硝材を正レンズ、分散の大きい硝材を負レンズとし、これらを組み合わせて用いることで軸上に現れる色収差を補正している。しかしながら、レンズの構成や枚数が制限される場合や、使用される硝材が限られている場合などでは、色収差を十分に補正することが困難な場合があった。
【0003】
非特許文献1には、屈折面を有する屈折光学素子と回折格子を有する回折光学素子とを組み合わせて用いることで、少ないレンズの枚数で色収差を抑制することが開示されている。
【0004】
これは、光学素子としての屈折面と回折面とでは、ある基準波長の光線に対する色収差の発生する方向が逆になるという物理現象を利用したものである。また回折光学素子に連続して形成された回折格子の周期を変化させることで、非球面レンズと同等の特性を発現することができる。
【0005】
しかしながら、回折光学素子に入射した1本の光線は、回折作用により各次数の複数の光に分かれる。この時、設計次数以外の回折光は、設計次数の光線とは別な所に結像してフレアの発生要因となる。
【0006】
特許文献1および特許文献2には、各光学素子の屈折率分散と、光学素子の境界面に形成される格子の形状を最適化することで、広波長範囲で高い回折効率を実現することが開示されている。使用波長領域の光束を特定の次数(以後設計次数と言う)に集中させることで、それ以外の回折次数の回折光の強度を低く抑え、フレアの発生を抑制している。
【0007】
具体的には、特許文献1の場合は、BMS81(nd=1.64,νd=60.1:オハラ製)とプラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成製)を用いている。特許文献2の場合は、COO1(nd=1.52,νd=50.8:大日本インキ製)、プラスチック光学材料PC(nd=1.58,νd=30.5:帝人化成製)、BMS81(nd=1.64,νd=60.1:オハラ製)等を用いている。
【0008】
なお、アッベ数(νd)は、以下の式(1)により算出される。
νd=(nd−1)/(nF−nC) 式(1)
nd:d線(587.6nm)屈折率
nF:F線(486.1nm)屈折率
nC:C線(656.3nm)屈折率
【0009】
本発明者等が、前記回折光学素子の光学材料として、市販もしくは研究開発されている光学材料を調べたところ図2に示す様な分布となっていた。図2(a)は、一般の光学材料におけるアッベ数(νd)と屈折率(nd)の分布を示すグラフである。図2(b)は、一般の光学材料におけるアッベ数(νd)と異常分散性(θg,F)の分布を示すグラフである。特許文献1および特許文献2に記載の積層回折光学素子の材料も図2の分布内に含まれる。
【0010】
また、特許文献1には、広い波長範囲で高い回折効率を有する構成を得るために、相対的に屈折率分散の低い材料で形成された回折光学素子と、屈折率分散の高い材料で形成された回折光学素子を組み合わせて使用することも開示されている。
【0011】
すなわち、屈折率分散の高い材料と低い材料との屈折率分散の差が大きいほど、構成される光学素子の回折効率は高くなり、光学素子の画角は広くなる。従って、色収差を高精度に補正するには、より屈折率分散の高い(アッベ数が小さい)材料及びより屈折率分散の低い(アッベ数が大きい)材料を使用する事が必要である。
【0012】
特許文献3には、屈折率(nd)とアッベ数(νd)との関係が、nd>−6.667×10−3νd+1.70であり、屈折率の異常分散性(θg,F)とアッベ数(νd)との関係が、θg,F≦−2νd×10−3+0.59である光学材料が開示されている。これらの式を満足することで、可視光領域全域における回折効率を向上させることができる。なお、屈折率の異常分散性(θg,F)は、以下の式(2)により算出される。
θg,F=(ng−nF)/(nF−nC) 式(2)
ng:g線(435.8nm)屈折率
nd:d線(587.6nm)屈折率
nF:F線(486.1nm)屈折率
nC:C線(656.3nm)屈折率
【0013】
上記特許文献3における光学材料においては、屈折率分散が高く、異常分散性の低い性質を示す透明導電性金属酸化物としては、ITO、ATO、SnO等の透明導電性金属酸化物が挙げられている。
【0014】
特許文献4、特許文献5には、具体的にアクリル樹脂やフッ素系アクリル樹脂等に屈折率分散の高い材料としてITO等の金属酸化物微粒子を含有した材料、屈折率分散の低い材料としてZrO等の金属酸化物微粒子を含有した材料で形成された回折光学素子を組み合わせて使用することが開示されている。
【0015】
特許文献4、特許文献5に記載されている積層型回折光学素子の代表的な全体構成について図3を用いて説明する。図3は、積層型回折光学素子201の模式図である。図3(a)は上面図、図3(b)は断面図である。この積層型回折光学素子は、ガラスやプラスチックからなる透明基板層202の上に、回折格子形状を有する高屈折率低分散特性の層203と低屈折率高分散特性の層204とが、空間無く積層された構成を有している。なお、高屈折率低分散特性の層203と低屈折率高分散特性の層204の積層の順序は逆であってもかまわない。また、透明基板層202の両面は、平面であっても、球面形状であっても、非球面形状であってもよい。また高屈折率低分散特性の層203と低屈折率高分散特性の層204は、両方のとも透明基板層で挟まれた構成であってもよい。
尚、dは格子高さであり、fは回折格子以外の部分(以下、ベース膜)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平09−127321号公報
【特許文献2】特開平11−044808号公報
【特許文献3】特開2004−145273号公報
【特許文献4】特開2008−203821号公報
【特許文献5】特開2009−197217号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】“SPIE”,Vol.1354,International Lens Design Conference(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように可視領域全域における回折効率を向上させるために、回折光学素子を成形する材料として、屈折率分散の高いITOに代表される金属酸化物微粒子を含有した材料を用いる例が開示されている。一般に前記金属酸化物微粒子は可視光域に比較的大きな吸収を有することが知られており、そのためカメラ等の撮像系の光学素子に前記材料を用いる場合には、より透過率を上げるべく前記金属酸化物微粒子の含有量は少ない方が良好である。
【0019】
しかしながら前記特許文献3から5によれば、前記金属酸化物微粒子の含有量が多い程、得られる材料の屈折率分散が高く、異常分散性が低くなり、回折光学素子の格子高さをより低く、回折効率をより高くすることが可能である。回折光学素子において、格子高さが高くなることで、また回折効率が低くなることで、様々なフレア発生の要因となることが分かっており、単純に前記金属酸化物微粒子の含有量を少なくすることは好ましくない。そのため前記特許文献3から5記載の屈折率分散の高いITO等の金属酸化物微粒子を用いて、前記微粒子の量を少なくすることなく透過率をより向上させるためには、例えばベース膜fをより薄く形成することが挙げられる。しかしながら前記回折光学素子を成形する材料は、硬化収縮を伴うアクリル等の官能基を有するエネルギー硬化性樹脂であり、そのため格子高さdに対して、よりベース膜fを薄く成形しようとすることはヒケ等の欠陥を発生し易くなる。それらを回避すべく、硬化反応を制御し非常にゆっくり反応させることや、加圧機構のもとで硬化反応を行う工夫等があるが、成形の長タクト化や装置の高級化が必要になる。またそれら手法によるヒケ等の欠陥の抑制には限界もある。
【0020】
従って、従来の技術においては、格子高さdに対してベース厚fを極端に薄く成形することなく、可視光域で回折効率を高く保ったまま、格子高さを低く、且つ高透明な光学素子を実現できる材料は見つかっていない。
【0021】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、且つ高透明な光学素子を形成するために用いられる有機無機複合組成物および有機無機複合材料を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記材料により形成された光学素子および積層型回折光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題を解決する有機無機複合組成物は、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する組成物であって、前記透明導電性物質の微粒子の含有量が組成物の硬化物に対して7.7vol%以上20.0vol%以下であることを特徴とする。
【0024】
【化1】

【0025】
(R、Rは水素原子、もしくは分子中に少なくともアクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれかの重合性官能基を有する基であって、R、Rの両方もしくはいずれか一方は前記重合性官能基を有する基である。)
【0026】
上記の課題を解決する有機無機複合材料は、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する組成物の硬化物からなる有機無機複合材料であって、前記有機無機複合材料のアッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性が、(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)で囲まれた範囲内に含まれ、且つ前記透明導電性物質の微粒子の含有量が有機無機複合材料に対して7.7vol%以上20.0vol%以下であることを特徴とする。
【0027】
【化2】

【0028】
(R、Rは水素原子、もしくは分子中に少なくともアクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれかの重合性官能基を有する基であって、R、Rの両方もしくはいずれか一方は前記重合性官能基を有する基である。)
【0029】
上記の課題を解決する積層型回折光学素子は、上記の有機無機複合材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、前記第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きい材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し、該第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、且つ高透明な光学素子を形成するために用いられる有機無機複合組成物および有機無機複合材料を提供することができる。
【0031】
また、本発明によれば、前記材料により形成された光学素子および積層型回折光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の積層型回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。
【図2】一般の光学材料におけるアッベ数νdと屈折率nd、アッベ数νdと異常分散性θg,Fの分布を示すグラフである。
【図3】従来の積層型回折光学素子を示す概略図である。
【図4】屈折率の評価サンプルの作製方法を示す概略図である。
【図5】内部透過率の評価サンプルの作製方法を示す概略図である。
【図6】本発明の積層型回折光学素子の製造方法を示す概略図である。
【図7】実施例1における積層型回折光学素子(P1)の回折効率を示すグラフである。
【図8】本発明の有機無機複合材料のアッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性の範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明に係る有機無機複合組成物は、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する組成物であって、前記透明導電性物質の微粒子の含有量が組成物の硬化物に対して7.7vol%以上20.0vol%以下であることを特徴とする。
【0035】
【化3】

【0036】
(R、Rは水素原子、もしくは分子中に少なくともアクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれかの重合性官能基を有する基であって、R、Rの両方もしくはいずれか一方は前記重合性官能基を有する基である。)
【0037】
以下に本発明の有機無機複合組成物を構成する各成分について説明する。
【0038】
(樹脂成分)
本発明の有機無機複合組成物を構成する樹脂成分としては、下記一般式(1)で表されるナフタレン骨格を有する化合物を含むことを特徴とする。
【0039】
【化4】

【0040】
、Rは水素原子、もしくは分子中に少なくともアクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれかの重合性官能基を有する基であって、R、Rの両方もしくはいずれか一方は前記重合性官能基を有する基である。R、Rの置換位置は特に限定はなく、1位から8位のいずれの位置でもよい。
【0041】
本発明に用いられる下記一般式(1)で表される化合物の好適な例としては、ナフタレンジカルボン酸モノアリルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジアリルエステル、ナフタレンジカルボン酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジアクリロイルオキシエチルエステル、ナフタレンジカルボン酸モノメタクリロイルオキシエチルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジメタクリロイルオキシエチルエステル、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレン等が挙げられる。上記の化合物は、単量体である前記モノマーだけでなく、それらのオリゴマー、プレポリマー、前記モノマーの二量体から重合体からなるポリマーでもよい。前記樹脂は硬化性、屈折率特性、結晶性等に合わせて1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0042】
本発明の有機無機複合組成物に含有される一般式(1)で表される化合物の含有量は、組成物の硬化物に対して3wt%以上60wt%以下、好ましくは6wt%以上45wt%以下の範囲であることが望ましい。前記範囲より少くすると、光学設計上、必要な屈折率特性(アッべ数)を得るために透明導電性物質の微粒子をより多く添加しなければならず、透過率の低下を生ずる。また前記範囲より多くしても、光学設計上、必要な屈折率特性(異常分散性)を得るために透明導電性物質の微粒子をより多く添加しなければならず、同様に透過率の低下を生ずる。
【0043】
本発明の有機無機複合組成物を構成する樹脂成分には、一般式(1)で表されるナフタレン骨格を有する化合物以外に、必要に応じて架橋剤としてアクリル基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基等の重合性官能基を有する他のモノマー、オリゴマー、ポリマー等の他の成分を添加することもできる。また、他の成分のモノマー、オリゴマー、ポリマーは重合性官能基を有していなくとも良い。
【0044】
また、本発明の有機無機複合組成物を構成する樹脂成分には、離型剤、増感剤、酸化防止剤、安定剤、増粘剤等を添加することもでき、その際は相溶性等に優れている樹脂を選択することが好ましい。
【0045】
(透明導電性物質の微粒子)
本発明の有機無機複合組成物を構成する透明導電性物質の微粒子としては、金属酸化物微粒子であることが好ましい。
【0046】
透明導電性物質の好適な例としては、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、ガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、およびフッ素をドープした酸化スズ(FTO)、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて、Si、Ti、Sn、Zr等との複合酸化物微粒子を用いることもできる。
【0047】
前記微粒子の平均粒径としては、透過率、散乱等に悪影響を及ぼさない大きさの粒子径が望ましく、2nm以上50nm以下、特に2nm以上30nm以下の範囲が好ましい。しかし例えば平均粒径が30nm以下であっても、微粒子の凝集した場合も含めて、粒子径の分布が幅広く30nmより大きな粒子径の粒子が体積分率で全微粒子の5%以上の割合になると散乱に大きな悪化の影響を及ぼす。そうした場合は材料製造段階で、取り除きたい粒子サイズより比較的小さな細孔を持つフィルターで濾過処理をして、不要な大きな微粒子を取り除くことが好ましい。
【0048】
有機無機複合組成物に含有されている透明導電性物質の微粒子の含有量は、有機無機複合組成物の硬化物である有機無機複合材料に対して、体積分率で7.7vol%以上20.0vol%以下である。20.0vol%より多いいと、散乱増加や透過率低下の原因となる。上述したように、特にITO等の可視光域に着色を有する物質の場合、形成する光学素子の格子高さdやベース膜fの厚さによっては透過率への影響が顕著なものとなる。また粘度も増加することとなり、その結果、成形性や取り扱い性、材料製造性が低下する恐れがある。微粒子の分散に際して分散剤や表面処理剤を併用する場合は、微粒子の量が多くなるにつれて分散剤や表面処理剤も増加する。それにより所望の光学特性や機械物性が得られにくくなることもある。7.7vol%より少ないと、微粒子に依存した屈折率、アッベ数、異常分散性等の光学特性の影響が小さくなるため好ましくない。
【0049】
(重合開始剤)
本発明の有機無機複合組成物には、重合性官能基を有する前記樹脂等に重合開始剤を含有させることで、活性エネルギーを付与し重合させて硬化物とすることができる。
【0050】
活性エネルギーとしては、光源から発せられる紫外線、通常、20から2000kVの電子線加速器から取り出される電子線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線、赤外線等の光照射が挙げられる。光源は、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等が挙げられる。また熱や超音波等の活性エネルギー付与も挙げられるが、これに限定させるものではない。
【0051】
光照射により重合させる場合の重合開始剤(以下、光重合開始剤)としては、ラジカル重合開始剤を利用して、光照射によるラジカル生成機構を利用することができる。通常、レンズ等のレプリカ成形に好ましい。前記重合可能な樹脂において、利用可能な光重合開始剤としては、例えば、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、4−フェニルベンゾフェノン、4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジフェニルベンゾフェノン、4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン等を挙げることができる。ラジカル重合開始剤に限らず、カチオン、アニオン重合開始剤も用いることができる。なお、光重合開始剤の添加比率は、光照射量、更には、付加的な加熱に応じて適宜選択することができ、また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整することもできる。
【0052】
本発明に係る有機無機複合組成物の硬化・成形に利用する場合、用いる微粒子の種類、添加量によっても異なってくるが、重合可能な成分に対して光重合開始剤の添加量は0.01wt%以上10.00wt%以下の範囲に選択することが好ましい。より好ましくは0.1wt%以上5.00wt%以下である。光重合開始剤は重合しうる成分との反応性、光照射の波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0053】
また加熱により重合させる場合の重合開始剤(以下、熱重合開始剤)としては、前記同様にラジカル重合開始剤を利用して、加熱によるラジカル生成機構を利用することができ、通常、レンズ等のレプリカ成形に好ましい。前記重合可能な樹脂において、利用可能な熱重合開始剤としては、例えば、アゾビソイソブチルニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等を挙げることができる。ラジカル重合開始剤に限らず、カチオン、アニオン重合開始剤も用いることができる。なお、熱重合開始剤の添加比率は、加熱温度、更には、付加的な光照射に応じて、適宜選択することができ、また、得られる成形体の目標とする重合度に応じて、調整することもできる。
【0054】
本発明に係る有機無機複合組成物の硬化・成形に利用する場合、用いる微粒子の種類、添加量によっても異なってくるが、重合可能な成分に対して熱重合開始剤の添加量は0.01wt%以上10.00wt%以下の範囲に選択することが好ましい。より好ましくは0.1wt%以上5.00wt%以下である。熱重合開始剤は重合しうる成分との反応性、光照射の波長によって1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0055】
(表面処理剤、分散剤)
本発明における透明導電性物質の微粒子には必要に応じて表面処理を施しておくことが望ましい。各表面処理は微粒子の合成、製造段階で行っても良いし、微粒子を得た後に別途行っても良い。
【0056】
本発明において透明導電性物質の微粒子を凝集しないよう均一に分散させるための表面処理剤(界面活性剤)、分散剤は以下のものが好ましい。一般に表面処理剤、分散剤を用いて微粒子を溶媒、樹脂等に分散する場合、添加する表面処理剤、分散剤の種類、添加量、分子量、極性、親和性等によって全く異なった分散状態を示すことが知られている。本発明に使用する表面処理剤、分散剤としては顔料の誘導体や樹脂型や活性剤型のものを好適に用いることができる。ここで表面処理剤、分散剤としては、カチオン系、弱カチオン系、ノニオン系あるいは両性界面活性剤が有効である。特にポリエステル系、ポリカプロラクトン系、ポリカルボン酸塩、ポリリン酸塩、ハイドロステアリン酸塩、アミドスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、オレフィンマレイン酸塩共重合物、アクリル−マレイン酸塩共重合物、アルキルアミン酢酸塩、アルキル脂肪酸塩、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系、シリコーン系、フッ素系を用いることができるが、本発明においてはポリカプロラクトン系から選択される少なくとも一種のものを用いることが好適である。またディスパービックシリーズ(ビッグケミー・ジャパン社製)の中ではディスパービック102、103、104、116、142、145、163、164、170、180、2155、2164、2096、ANTI―TERRA―U100、205、ソルスパースシリーズ(ゼネガ社製)の中ではソルスパース3000、9000、17000、20000、24000、41090等も好適である。
【0057】
かかる表面処理剤、分散剤の添加量としては、大きく分けて表面処理剤、分散剤の種類、微粒子の種類、微粒子の表面積(微粒子径)、微粒子を混合する樹脂成分の種類、溶媒の種類等に応じて異なってくる。本発明においては微粒子の重量に対して0.1wt%以上30.0wt%以下、好ましくは5.0wt%以上25.0wt%以下が望ましい。添加量が多すぎると白濁の原因となり散乱が生じてしまうため、また微粒子を含有して得られた最終的な組成物の特性(屈折率、アッベ数、異常分散性、弾性率等)を必要以上に低下させる。また分散剤は1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。
【0058】
(溶媒)
本発明に用いる溶媒は、前述の樹脂や重合開始剤を溶解するため、もしくは透明導電性物質の微粒子を溶媒に分散させておくため、必要に応じて表面処理剤、分散剤を溶解させるために用いられる。溶媒の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、DMF、DMAc、NMP等のアミド系、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ブチルカルビトール等のエチル類、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いる樹脂や重合開始剤の溶解性、微粒子の親和性、表面処理剤、分散剤の親和性に合わせて分散溶媒を選択することができる。また有機溶媒は1種類のみで使用することもできるし、溶解性や微粒子の分散性を損なわない範囲において2種類以上を併用して使用することもできる。
【0059】
次に、本発明の有機無機複合材料は、有機無機複合組成物の硬化物からなることを特徴とする。
【0060】
本発明に係る有機無機複合材料は、少なくとも前記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する組成物の硬化物からなる有機無機複合材料であって、前記有機無機複合材料のアッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性が、(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)で囲まれた範囲内に含まれ、且つ前記透明導電性物質の微粒子の含有量が有機無機複合材料に対して7.7vol%以上20.0vol%以下であることを特徴とする。
【0061】
図8は、本発明の有機無機複合材料のアッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性の範囲を示すグラフである。本発明の有機無機複合材料は、図8に示す様に、アッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性が(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)で囲まれた範囲内に含まれることを特徴とする。図8には、一般の光学材料におけるアッベ数(νd)と異常分散性(θg,F)の分布も示されているが、本発明の屈折率特性は一般の光学材料とは異なることがわかる。
【0062】
以下に、本発明における有機無機複合材料の製造工程について説明する。
【0063】
光重合機構を用いた本発明に係る有機無機複合組成物の硬化物を製造する方法を説明する。
【0064】
まず、溶媒に表面処理剤もしくは分散剤を適量溶解させる。次に、所望の透明導電性物質の微粒子を添加し、種々の方法で分散処理することで、前記微粒子が溶媒に均一に分散したスラリを得る。分散処理としては、超音波ミル、サンドミル、ジェットミル、ディスクミル、ビーズミル等の分散機を用いて調製することができる。前記の分散処理手法の内、特にビーズミル分散処理装置で処理することでより散乱の低いスラリを製造することができる。ビーズミル処理に用いるメディアにはシリカ、アルミナ、ジルコニア製等、種々の材質のメディアを用いることができるが、硬度の面からジルコニア製のメディアが好ましい。メディアの平均粒径は10μmから500μmのサイズのものを用いることができる。分散させる前記微粒子の平均粒径や分散度合いにより、メディアの粒径を調整することができ、より好ましくは10μmから100μmのサイズのものを用いることができる。
【0065】
次に、得られたスラリに樹脂成分、重合開始剤等を溶解させる。必要に応じて同時に架橋剤、離型剤、増感剤、酸化防止剤、安定剤、増粘剤等を含有させても良い。その際は微粒子の分散状態の悪化がより少ない溶媒、表面処理剤、分散剤の組み合わせにすることが望ましい。また必要に応じてフィルタリング処理を行い、凝集微粒子を除去することができる。微粒子の沈殿等がなく好適に微粒子が分散していることを確認した後、エバポレーター等を用いて溶媒を除去することにより、本発明にかかる有機無機複合組成物を得ることができる。
【0066】
溶媒除去の際、溶媒の沸点、残留溶媒量等に応じて減圧度、加熱温度を適宜調整することが望ましい。減圧度が高すぎると、または減圧と同時に過剰に加熱を伴うことで、若しくは長時間にわたる減圧工程を経ることで、溶媒と共に添加した表面処理剤、分散剤およびその他添加した成分も留去される恐れがある。そのため個々の分子量、沸点、昇華性等を考慮した減圧度、温度、時間等の調整が必要である。また急激な溶媒の蒸発、除去により微粒子の凝集の程度を悪化させ、分散性を損なうことがある。
【0067】
また上記で得られた有機無機複合組成物には除去し切れなかった残留溶媒を含有することがある。その含有率によっては後の成形品等における耐久性、光学特性に影響を及ぼすことが考えられる。そのため、残留溶媒の含有率は全重量に対して、0.001wt%から0.50wt%の範囲であることが望ましい。
【0068】
次に、前記有機無機複合組成物を活性エネルギーの付与により硬化させて硬化物からなる有機無機複合材料を得る。
【0069】
具体例として、本発明に係る回折光学素子の製造における、光照射による重合機構を利用して型成形体層を形成する過程により硬化物を得る工程を示す。
【0070】
基板に利用する透過基板上に膜厚の薄い層構造を形成する際には、例えば、硝子材料を基板に利用し、一方、微細な回折格子構造に対応する型に金属材料を利用する。両者の間に、有機無機複合組成物を設置し、圧力をかけ型形状に前記組成物を充填させることで、型成形を成す。その状態に保ったまま光照射をすることで重合を行う。その後、前記型から離型することで透明基板と一体になった有機無機複合組成物が硬化した有機無機複合材料で形成された回折光学素子を得る。
【0071】
かかる光重合反応に供する光照射は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に対応して、好適な波長の光、通常、紫外光もしくは可視光を利用して行う。例えば、前記基板に利用する硝子材料の基板を介して、充填されている有機無機複合組成物に対して、均一に光照射を実施する。照射される光量は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に応じて、また、含有される光重合開始剤の含有比率に応じて、適宜選択される。
【0072】
一方、かかる光重合反応による型成形体層の作製においては、照射される光が充填されている組成物に均一に照射されることがより好ましい。従って、利用される光照射は、硝子材料の基板を介して、均一に照射することが可能な波長の光を選択することが一層好ましい。また、基板にかける圧力や型形状を制御することで基板上に形成する型成形体を含む回折格子のベース膜fの厚みを調整できる。
【0073】
同様に、加熱による重合機構を利用して型成形体層を形成することもできる。この場合、全体の温度をより均一とすることが望ましい。
【0074】
従って、本発明における有機無機複合組成物を用いて上記方法を利用することで、屈折率分散特性の異なる材料からなる複数層を基板上に積層することができる。それにより使用波長域全域で特定次数(設計次数)の回折効率を高くする設計とした回折光学素子を、短時間で作製することができる。
【0075】
本発明の光学素子は、透明基板と、前記透明基板上に形成された上記の有機無機複合材料とからなることを特徴とする。前記有機無機複合材料の表面は、回折形状が形成された回折面であることが好ましい。
【0076】
本発明の積層型回折光学素子は、上記の有機無機複合材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、前記第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きい材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有する。前記第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする。
【0077】
第1の回折光学素子は、本発明の有機無機複合材料により形成される。第1の回折光学素子の屈折率特性は、(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)の範囲を満たすことが好ましい。
【0078】
第2の回折光学素子は、ガラスまたは樹脂または有機無機複合材料により形成される。有機無機複合材料には、例えばZrO、Al等の金属酸化物微粒子が含有されている。
【0079】
本発明の積層型回折光学素子の代表的な全体構成について図1を用いて説明する。
【0080】
図1は、本発明の積層型回折光学素子101の模式図である。図1(a)は上面図、図1(b)は断面図である。この積層型回折光学素子は、ガラスやプラスチックからなる透明基板層102の上に、回折格子形状を有する高屈折率低分散特性の層103と本発明に係る有機無機複合材料からなる低屈折率高分散特性の層104とが、空間無く積層された構成を有している。なお、高屈折率低分散特性の層103と低屈折率高分散特性の層104の積層順は逆であってもかまわない。また、透明基板層102の両面は、平面であっても、球面形状であっても、非球面形状であってもよい。また高屈折率低分散特性の層103と低屈折率高分散特性の層104は、両方のとも透明基板層で挟まれた構成であってもよい。
【0081】
尚、dは格子高さであり、fは回折格子以外の部分(以下、ベース膜)である。
dは格子高さであり、格子高さは15.0μm以下が好ましい。fはベース膜であり、ベース膜は成形体の形成に支障がない範囲においてより薄い方が好ましい。
【0082】
本発明の有機無機複合材料は光学材料として用いられる。本発明の積層型回折光学素子は、一方の回折光学素子より、相対的に低屈折率で、且つ屈折率分散の高い特性を有する他方の回折光学素子を有する。そのため、前記有機無機複合材料で形成された他方の回折光学素子と、対応する一方の回折光学素子からなる積層型回折光学素子は、効率良く色収差を除去でき、小型軽量化が可能になる。得られる光学素子の回折効率は非常に高く、また格子高さを低くすることができ、且つ高透明である。
【0083】
また本発明の有機無機複合組成物は、材料構成として重合開始剤を含有することから、種々の活性エネルギーにより硬化させて硬化物を得ることができ、高い加工性を付与することができる。そのため所望の形状の光学素子を低コストで効率良く製造できる。製造時、金型等を用いて形状を転写する場合には、最適なものとなる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の好適な実施例について説明するが、本発明がそれらによって何ら制限されるものではない。
【0085】
図1に示す構成からなる積層型回折光学素子の実施例を示す。
【0086】
(低屈折率高分散層104を構成する有機無機複合組成物の製造)
(実施例1)
本発明に係る有機無機複合組成物a1からa4は、以下の様にして製造した。
【0087】
まずキシレン溶媒6329.0gに分散剤としてポリカプロラクトン142.3gを溶解させ、続いて透明導電性物質の微粒子として平均粒径15nmのITO微粒子709.0gを添加し、分散剤とITO微粒子が混合したキシレン溶液を得た。得られたキシレン溶液を平均粒径300μmのジルコニア製ビーズを用いて、ビーズミル分散処理後、細孔が100nmのフィルターで濾過処理して、キシレン溶媒にITO微粒子が9.87wt%で分散したスラリを得た。
【0088】
なお、平均粒径は、レーザー方式の粒度分布計(ELS:大塚電子株式会社製)で測定を行った。
【0089】
続いて前記スラリ71.80gに、ナフタレン骨格を有するナフタレンジカルボン酸ジアリルエステル4.50g、ウレタン変性ポリエステルアクリレート4.75g、フッ素含有のアクリレート4.89gおよび光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン0.37gを添加、溶解させ混合溶液を得た。この混合溶液をエバポレーターにセットし、45℃、100ヘクトパスカルから徐々に圧力を下げ、最終的には3ヘクトパスカルとした。キシレン溶媒を20時間かけて十分に除去し、低屈折率高分散層を構成する実施例1の有機無機複合組成物a1を作製した。
【0090】
(実施例2から4)
実施例1のスラリの配合量を92.90g(実施例2)、140.00g(実施例3)、228.70g(実施例4)と変えて、上記の実施例1と同様の方法により、本発明にかかる実施例2から4の有機無機複合組成物a2からa4を作製した。
【0091】
(実施例5)
実施例1と同様にして、キシレン溶媒にITO微粒子が9.87wt%で分散したスラリを得た。
【0092】
続いて前記スラリ68.10gに、ナフタレンジカルボン酸ジアリルエステル2.00g、UV硬化可能な樹脂であるGRANDIC RC−C001(DIC株式会社製)8.00gを添加、溶解させ混合溶液を得た。この混合溶液をエバポレーターにセットし、45℃、100ヘクトパスカルから徐々に圧力を下げ、最終的には3ヘクトパスカルとした。キシレン溶媒を20時間かけて十分に除去し、低屈折率高分散層を構成する実施例5の有機無機複合組成物b1を作製した。
【0093】
(実施例6から7)
実施例5のスラリの配合量を102.60g(実施例6)、183.40g(実施例7)と変えて、上記の実施例5と同様の方法により、本発明にかかる実施例6から7の有機無機複合組成物b2からb3を作製した。
【0094】
(実施例8)
実施例1と同様にして、キシレン溶媒にITO微粒子が9.87wt%で分散したスラリを得た。
【0095】
続いて前記スラリ106.7gに、ナフタレンジカルボン酸ジアリルエステル10.00g、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン0.37gを添加、溶解させ混合溶液を得た。この混合溶液をエバポレーターにセットし、45℃、100ヘクトパスカルから徐々に圧力を下げ、最終的には3ヘクトパスカルとした。キシレン溶媒を20時間かけて十分に除去し、低屈折率高分散層を構成する実施例8の有機無機複合組成物c1を作製した。
【0096】
(比較例1)
実施例1と同様にして、キシレン溶媒にITO微粒子が9.87wt%で分散したスラリを得た。
【0097】
続いて前記スラリ68.10gに、GRANDIC RC−C001を10.00g添加、溶解させ混合溶液を得た。この混合溶液をエバポレーターにセットし、45℃、100ヘクトパスカルから徐々に圧力を下げ、最終的には3ヘクトパスカルとした。キシレン溶媒を20時間かけて十分に除去し、低屈折率高分散層を構成する比較例1の有機無機複合組成物f1を作製した。
【0098】
(比較例2)
比較例1のスラリの配合量を82.80gに変えて、比較例1と同様の方法により、比較例2の有機無機複合組成物f2を作製した。
【0099】
(比較例3)
実施例1と同様にして、キシレン溶媒にITO微粒子が9.87wt%で分散したスラリを得た。
【0100】
続いて前記スラリ55.95gに、フッ素含有のアクリレート9.70gおよび光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン0.28gを添加、溶解させ混合溶液を得た。この混合溶液をエバポレーターにセットし、45℃、100ヘクトパスカルから徐々に圧力を下げ、最終的には3ヘクトパスカルとした。キシレン溶媒を20時間かけて十分に除去し、低屈折率高分散層を構成する比較例3の有機無機複合組成物g1を作製した。
【0101】
(比較例4)
比較例3のスラリの配合量を68.10gに変えて、比較例3と同様の方法により、比較例4の有機無機複合組成物g2を作製した。
【0102】
(屈折率特性の評価)
次に、上記で得られた実施例1から8の有機無機複合組成物a1からa4、b1からb3、c1、および比較例1から4の有機無機複合組成物f1からf2、g1からg2のそれぞれの硬化物である有機無機複合材料A1からA4、B1からB3、C1、および比較例1から4の有機無機複合材料F1からF2、G1からG2の屈折率特性の評価方法を記述する。
【0103】
次のようにして評価用サンプルを作製して屈折率特性を測定した。
【0104】
まず、図4に示すように、厚さ1mmの高屈折率ガラス301の上に、厚さ10μmのスペーサー302と、前述した有機無機複合組成物、例えば有機無機複合組成物a1を配置した(図4(a))。その上に厚みが1mmのBK7ガラス303をスペーサー302を介して乗せ、有機無機複合組成物a1を押し広げてサンプル304とした(図4(b))。この屈折率評価用サンプル304に20mW/cm、1000秒の条件で高圧水銀ランプ(EXECURE250、HOYA CANDEO OPTRONICS(株))を照射し、有機無機複合組成物a1を硬化させ有機無機複合材料A1とした(図4(c))。それにより屈折率測定用サンプル305を得た(図4(d))。
【0105】
前記屈折率測定用サンプル305は、屈折計(KPR−30、株式会社島津製作所)を用いて、g線435.8nm、F線486.1nm、e線546.1nm、d線587.6nm、C線656.3nmの屈折率を測定した。また、測定した屈折率より、それぞれ式(1)、式(2)に基づいてアッベ数νd、異常分散性θg,Fを算出した。なお、屈折率特性の評価は23℃の環境で行った。
【0106】
(内部透過率の評価)
次に、上記で得られた本発明にかかる実施例1から8の有機無機複合組成物a1からa4、b1からb3、c1、および比較例1から4の有機無機複合組成物f1からf2、g1からg2のそれぞれの硬化物である有機無機複合材料A1からA4、B1からB3、C1および比較例1から4の有機無機複合材料F1からF2、G1からG2の内部透過率の評価方法を記述する。
【0107】
次のようにして評価用サンプルを作製して内部透過率を求めた。
【0108】
まず、図5に示すように、厚さ1mmのBK7ガラス401の上に、厚さ6.5μmのスペーサー402と、前述した有機無機複合組成物、例えば有機無機複合組成物a1を配置した(図5(a))。その上に厚みが1mmのBK7ガラス403をスペーサー402を介して乗せ、有機無機複合組成物a1を押し広げてサンプル404とした(図5(b))。この内部透過率評価用サンプル404に20mW/cm、1000秒の条件で高圧水銀ランプ(EXECURE250、HOYA CANDEO OPTRONICS(株))を照射し、有機無機複合組成物a1を硬化させ有機無機複合材料A1とした(図5(c))。その後、BK7ガラス403を剥がした。それにより内部透過率測定用サンプル405を得た(図5(d))。
【0109】
前記内部透過率測定用サンプル405は、分光光度計(U4000、日立製作所)にて波長370nmから730nmまで透過率を測定した。その値から有機無機複合材料A1とBK7ガラス401の反射率を考慮して、有機無機複合材料A1の内部透過率を算出した。尚、測定はBK7ガラス403を剥がしてから5分以内に行った。
【0110】
(透明導電性物質の微粒子の体積分率の評価)
各硬化物中の透明導電性物質の微粒子の含有量の測定はTGA(TGA Q500;TAインスツルメント社製)を用いて行った。まず各硬化物を600℃まで昇温したときの残存重量パーセントを測定し、透明導電性物質の微粒子の含有量の体積を換算した。その際、透明導電性物質の微粒子として用いたITOの比重値は6.7を使用した。
【0111】
また各硬化物の比重は密度勾配管法直読式比重測定装置で測定し、硬化物の体積を算出した。前記よりそれぞれ得られた微粒子、硬化物の体積値から硬化物中の透明導電性物質の微粒子の含有量(vol%)を算出した。尚、評価に際して各硬化物は適宜適当な大きさにカットした。
【0112】
表1には、実施例にかかる有機無機複合材料A1からA4、B1からB3、C1、および比較例1から4の有機無機複合材料F1からF2、G1からG2における透明導電性物質の微粒子体積分率、屈折率特性、内部透過率を示す。屈折率特性としては、屈折率として587.6nmにおける屈折率nd、アッべ数νd、異常分散性を示すθg,Fを記載した。内部透過率としては、膜厚6.5μm、波長λ550nmの値を示す。
【0113】
表2には、同様にして、比較例にかかる有機無機複合材料F1からF2、G1からG2の値を記載する。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
表1、表2において、有機無機複合材料のそれぞれの屈折率特性が(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)に囲まれた特性範囲を満たすものを、屈折率特性の判断として○と記載した。満たさない場合を×と記載した。
【0117】
表1より、本発明の実施例にかかる有機無機複合材料は上記屈折率特性の範囲を満たすことを確認した。またその際の透明導電性物質の微粒子の含有量は7.7vol%以上20.0vol%以下の範囲である。
【0118】
表2より、比較例にかかる有機無機複合材料は、透明導電性物質の微粒子の含有量に関わらず、上記屈折率特性の範囲を満たさないことを確認した。
【0119】
また内部透過率の値については、基本的に透明導電性物質の微粒子含有量に依存していることがわかる。有機無機複合材料における微粒子の体積分率が少ない程、透過率は高く、多い程、透過率は低くなる。表1、表2に記載のある同じ体積分率(同じ内部透過率)9.54vol%(94.7%)で比較すると、屈折率特性の内、主に格子高さの設計値に影響を及ぼすアッべ数νdは実施例に示すものの方がより低い値であることが分かる。その為、比較例に示すアッべ数νdをより低くして実施例に近づけるためには、微粒子の含有量を増やす必要がある。その結果、内部透過率はより低いものとなる。
【0120】
従って、本実施例に示す有機無機複合材料を用いることで、より少ない透明導電性物質の微粒子含有量で、所望の低アッべ数νd、即ち、低格子高さを実現出来る。これにより高透明性の光学素子を実現出来る。
【0121】
(高屈折率低分散層103を構成する有機無機複合組成物の製造)
積層型回折光学素子を製造する上で必要な高屈折率低分散層103を構成する高屈折率低分散材料は、表3の屈折率特性のものを用いた。尚、高屈折率低分散材料としては、金属酸化物であるZrO微粒子がアクリル樹脂に均一に分散されたものを用いた。前記高屈折率低分散材料の屈折率特性は、光学設計に応じて、前記アクリル樹脂に対するZrO微粒子の含有量を変えることで調整した。表3にそれぞれ高屈折率低分散材料A’1からA’4、B’1からB’3、C’1の屈折率特性を示す。
【0122】
【表3】

【0123】
(積層型回折光学素子101の製造)
表1に示す低屈折率高分散材料である有機無機複合材料、および表3に示す高屈折率低分散材料である有機無機複合材料を用いて、図1に示す構成の積層型回折光学素子を作製した。
【0124】
積層型回折光学素子は、図6の示す方法により作製した。
【0125】
代表して有機無機複合材料A1と有機無機複合材料A’1を用いた積層型回折光学素子の製造方法を示す。
【0126】
まず、切削研磨加工により格子高さd11.80μm、ピッチ幅x200μm、表面粗さRa2nmになるように回折格子を加工した金型501上に有機無機複合組成物a1、透明基板502を設置した(図6(a))。次に透明基板502に圧力をかけ型形状に有機無機複合組成物a1を充填させることで、型成形を成した(図6(b))。その状態に保ったまま20mW/cm、1000秒の条件で高圧水銀ランプを照射した(図6(c))。その後、金型501から離型することで有機無機複合組成物a1が硬化した有機無機複合材料A1で形成された回折光学素子503を得た(図6(d))。得られた回折光学素子503の回折格子面上に未硬化の有機無機複合材料A’1を乗せた(図6(e))。その未硬化の有機無機複合材料A’1の上に透明基板504を乗せて未硬化の有機無機複合材料A’1を押し広げた(図6(f))。続いて透明基板504を介して20mW/cm、1000秒の条件で高圧水銀ランプを照射し、有機無機複合材料A’1とした(図6(g))。それにより透明基板に挟まれた有機無機複合材料A1と有機無機複合材料A’1から形成された積層型回折光学素子P1を得た(図6(h))。
【0127】
同様にして、他の積層型回折光学素子P2からP8を製造した。
【0128】
表4に積層型回折光学素子P1からP8の回折格子の形状(格子高さd、ピッチ幅x)を示す。
【0129】
得られた回折光学素子の格子高さdは非接触三次元表面形状・粗さ測定機(NewView5000、ザイゴ株式会社)を用いて測定した。その結果、設計通りに格子高さが形成されていることを確認した。
【0130】
(回折効率の評価)
積層型回折光学素子P1からP8の回折効率を測定した。その結果を表4に示す。
【0131】
回折効率は、積層型回折光学素子に照射して透過した光量の内、回折格子の設計次数の光量の割合である。
【0132】
表4において、回折効率が波長400nmから700nmの範囲において99%以上である場合を○、99%未満の場合を×とした。回折効率の評価は23℃の環境で行った。
【0133】
【表4】

【0134】
[評価結果]
表4から分るように、本発明にかかる有機無機複合材料から形成された積層型回折光学素子P1からP8の回折効率は、可視光領域の波長400nmから700nmの範囲でいずれも99%以上と良好であった。代表して、図7に積層型回折光学素子P1の各波長における回折効率のグラフを示す。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、可視光域での回折効率が高く、格子高さを低くすることができ、且つ高透明な光学素子を形成するために用いられる有機無機複合組成物および有機無機複合材料を提供することができる。
【0136】
また、本発明によれば、前記材料により形成された光学素子および積層型回折光学素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0137】
101 積層型回折光学素子
102 透明基板層
103 高屈折率低分散層
104 低屈折率高分散層
201 積層型回折光学素子
202 透明基板層
203 高屈折率低分散層
204 低屈折率高分散層
301 高屈折率ガラス
302 スペーサー
303 BK7ガラス
304 屈折率評価用サンプル(硬化前)
305 屈折率測定用サンプル(硬化後)
401 BK7ガラス
402 スペーサー
403 BK7ガラス
404 内部透過率評価用サンプル(硬化前)
405 内部透過率評価用サンプル(硬化後)
501 金型
502 透明基板
503 回折光学素子
504 透明基板
d 格子高さ
f ベース膜
x ピッチ幅
P1 積層型回折光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する組成物であって、前記透明導電性物質の微粒子の含有量が組成物の硬化物に対して7.7vol%以上20.0vol%以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。
【化1】


(R、Rは水素原子、もしくは分子中に少なくともアクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれかの重合性官能基を有する基であって、R、Rの両方もしくはいずれか一方は前記重合性官能基を有する基である。)
【請求項2】
少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含む樹脂成分と、透明導電性物質の微粒子と、重合開始剤とを含有する組成物の硬化物からなる有機無機複合材料であって、前記有機無機複合材料のアッベ数νdと異常分散性θg,Fの屈折率特性が、(νd、θg,F)=(16、0.50)、(16、0.40)、(23、0.50)、(23、0.47)で囲まれた範囲内に含まれ、且つ前記透明導電性物質の微粒子の含有量が有機無機複合材料に対して7.7vol%以上20.0vol%以下であることを特徴とする有機無機複合材料。
【化2】


(R、Rは水素原子、もしくは分子中に少なくともアクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基、エポキシ基のいずれかの重合性官能基を有する基であって、R、Rの両方もしくはいずれか一方は前記重合性官能基を有する基である。)
【請求項3】
前記透明導電性物質の微粒子が、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、ガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、およびフッ素をドープした酸化スズ(FTO)よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項2に記載の有機無機複合材料。
【請求項4】
前記透明導電性物質の微粒子の平均粒径が2nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の有機無機複合材料。
【請求項5】
透明基板と、前記透明基板上に形成された請求項2乃至4のいずれかに記載の有機無機複合材料からなることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
前記有機無機複合材料の表面が回折形状を有する回折面であることを特徴とする請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
請求項2乃至4に記載の有機無機複合材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と、前記第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きい材料により形成され、一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し、該第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする積層型回折光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53201(P2013−53201A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191428(P2011−191428)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】