説明

木材の改質方法

【課題】木材に強度低下や構造上の狂いが生じるような処理を施すことなく、また、簡潔な工程により、木材の内部にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようにする木材の改質方法を提供する。
【解決手段】木材の内部から空気を除去するために脱気処理を行う。続いて、この木材を処理薬剤が含有された浸漬液に浸漬する。更に、この木材を浸漬液に浸漬した状態のまま、高温高圧条件で処理することにより、上記処理薬剤を木材内部に均一に効率よく注入できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種薬剤を木材内部に効率よく注入できるように木材を改質する木材の改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、森林資源の有効活用の一環として、例えば、一般の木材に防腐性、防虫性又は難燃性等の機能を付加することにより、これらの木材の利用範囲を拡大することが検討されている。このように、木材の機能化を目的として、木材内部に機能薬剤を注入する各種方法が提案されている。しかし、木材は無数の植物細胞の集合体であり、これらの細胞は各々細胞壁に囲まれており、微小な壁孔により各細胞間が連結されているが、樹脂や有縁壁孔により細胞間の水の移動が困難となっているために、木材内部に各種薬剤を効率よく、且つ、均一に注入することは難しい。特に、木材としての用途が広いマツ、ヒノキ等の針葉樹においては、有縁壁孔の閉鎖により木材への薬剤の注入はより困難なものとされている。
【0003】
これまでに提案されている各種方法としては、例えば、下記特許文献1の方法では、予め木材表面にレーザーサイジング等で複数の貫通孔を開けておく。そして、これらの貫通孔に高温水蒸気を滞留させた状態で、当該木材を薬剤液中に浸漬すると、温度低下による水蒸気の凝縮が起こり、その結果生じる減圧を利用して木材内部に薬剤が含侵されるというものである。
【0004】
また、下記特許文献2の方法では、木材を収容した容器内部をほぼ真空状態にした後に、当該木材に薬剤液を噴霧して供給し、その後、高温の水蒸気を供給して加圧する。この加圧状態を維持した後に、今度は冷却水を噴霧して木材を冷却し、更に、容器内部を再度減圧して、ほぼ真空状態とする。これらによって生じる圧力差を利用して木材内部に薬剤が含侵されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−335365号公報
【0006】
【特許文献2】特開2008−110546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の方法では、水蒸気の凝縮水により薬剤液の内部浸透が阻害され又は薬剤液が希釈されることにより、木材の全体に渡って薬剤を均一に含侵できないという問題があった。また、この方法では、木材表面にレーザーサイジング等で開けられた複数の貫通孔が存在し、当該木材を構造材に使用したときには、その強度がかなり低下しており、構造物の強度が不十分となり、且つ、構造に狂いが生じるという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献2の方法では、真空状態、水蒸気加圧状態及び再度の真空状態というように、減圧、加圧を人為的に繰り返すという煩雑な工程を必要とする。また、薬剤液の供給が噴霧によるものであり均一性に欠ける。また、薬剤液の上から冷却水を噴霧により供給することにより薬剤液が希釈され、更に不均一な処理となる。従って、この方法は、木材の全体に渡って薬剤を均一に含侵できないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述のようなことに対処して、木材に強度低下や構造上の狂いが生じるような処理を施すことなく、また、簡潔な工程により、木材の内部にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようにする木材の改質方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、高温高圧条件の液体の中で木材を処理することにより、木材の内部、即ち、木材細胞の内腔にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようになることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明に係る木材の改質方法は、請求項1の記載によれば、木材の内部から空気を除去する脱気処理を行う脱気処理工程と、
上記木材を浸漬液に浸漬する浸漬工程と、
上記木材を上記浸漬液に浸漬した状態のまま、高温高圧条件で処理する高温高圧処理工程とを備えている。
【0012】
上述の構成によれば、本発明は、木材に強度低下や構造上の狂いが生じるような処理を施すことなく、また、簡潔な工程により、木材の内部にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようにする木材の改質方法を提供することができる。
なお、脱気処理工程、浸漬工程及び高温高圧水蒸気処理工程は、どの順序で行なってもよく、それらの3つの工程が行なわれればよい。
【0013】
本発明において、木材とは、ブナ、ナラ、カバ、キリ等の広葉樹、スギ、ヒノキ、カラマツ等の針葉樹などどのような植物からなるものであってもよいが、本発明は、薬剤注入が難しいとされる針葉樹からなる木材に特に有効である。また、本発明によって改質する木材の形状とサイズは特に限定するものではない。
【0014】
ここで、浸漬液とは、上記高温高圧条件を維持できる液体であって、例えば、木材に注入しようとする処理薬剤又はその溶液であってもよい。また、浸漬液は水であってもよい。浸漬液が処理薬剤又はその溶液である場合には、上述の構成による処理の結果、処理された木材は、その内部に処理薬剤が注入された状態の改質木材となる。
【0015】
一方、浸漬液が水である場合には、上述の構成による処理の結果、処理された木材は、未だ処理薬剤を注入された状態にはない。しかし、当該木材は、処理薬剤をその内部にまで均一で効率よく注入することができる状態に改質されている。従って、当該木材に処理薬剤を均一に注入する操作は、通常の方法、例えば、常圧注入法、減圧注入法、減圧・加圧注入法等いずれの方法においても容易に行うことができる。
【0016】
本発明において、木材を改質することができる機構については、次のように考えられる。すなわち、木材は無数の植物細胞の集合体であり、これらの細胞は各々細胞壁に囲まれている。特に薬剤注入が難しいとされる針葉樹からなる木材においては、仮道管の細胞壁に隣接細胞内腔から一次壁に達する穴、有縁壁孔(以下、ピットという)が存在しているが、通常乾燥材ではこのピットはトールスによって閉鎖された状態になっている。隣接する細胞同士にピットが対応しており、これを壁孔対という。
【0017】
図1にこれらの壁孔対のうち、縁部(1)を有する有縁壁孔対(2)の例を示す。この細胞間の有縁壁孔対の内部には、肥厚したトールス(3)と、そのまわりの薄いマルゴ(4)からなる壁孔壁が存在し、この壁孔壁によって、細胞間のピット(5)が閉鎖されている。更に、このトールス(3)がピット(5)の縁部(1)に接触してピット(5)が塞がれたものを閉塞壁孔対(6)という。
この閉塞壁孔対(6)においては、図2(A)に示すように、細胞間物質であるペクチン及びリグニンによってトールス(3)とピット(5)の縁部(1)が接着されており、浸漬液の流れは完全に阻害されている。
【0018】
本発明においては、上述のように木材を浸漬液に浸漬した状態のまま、高温高圧条件で処理することにより、図2(B)に示すように、上記トールス(3)とピット(5)の縁部(1)とを接着しているペクチン及びリグニンが分解除去され、ピット(5)の開放が起こると考えられる。その結果、細胞間の浸漬液の流れが容易になり、開放されたピット(5)を通して木材の内部まで均一に処理薬剤を注入することができるようになると考えられる。
【0019】
また、本発明の第2の局面では、上記高温高圧処理工程後に、上記高温高圧条件を常圧に開放し、徐々に冷却する除冷工程を備えることを特徴とする。
このことにより、木材が高温高圧状態から常圧に解放されると、木材内部の細胞内腔も減圧状態となるため、浸漬液は開放されたピットを通して効率よく木材内部にまで注入される。また、常圧に解放されたときには、木材は未だ高温状態にあり、時間をかけて冷却されることにより、浸漬液はより効率よく木材内部にまで注入される。その結果、木材の内部、即ち、木材細胞の内腔にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようになるという発明の作用効果がより一層向上され得る。
【0020】
また、本発明に係る木材の改質方法の第3の局面では、
木材の内部から空気を除去する脱気処理を行う第1脱気処理工程と、
上記第1脱気処理工程後に、上記木材を第1浸漬液に浸漬する第1浸漬工程と、
上記第1浸漬工程後に、上記木材を前記第1浸漬液に浸漬した状態のまま、高温高圧条件で処理する高温高圧処理工程と、
上記高温高圧処理工程後に、上記高温高圧条件を常圧に開放し、上記第1浸漬液を除去する脱液工程と、
上記脱液工程後に、再度、木材の内部から空気を除去する脱気処理を行う第2脱気処理工程と、
上記第2脱気処理工程後に、上記木材を第2浸漬液に浸漬する第2浸漬工程とを備えている。
【0021】
このことによっても、木材の内部、即ち、木材細胞の内腔にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようになるという発明の作用効果が達成し得る。
【0022】
ここで、第1浸漬液は、例えば、水であってもよい。第1浸漬液が水である場合には、上記高温高圧処理工程による処理の結果、処理された木材は、未だ処理薬剤を注入された状態にはない。しかし、当該木材は、処理薬剤をその内部にまで均一で効率よく注入することができる状態に改質されている。
そこで、第1浸漬液を脱液した後に、再度の脱気を行ってから第2浸漬液に浸漬する。この第2浸漬液は、木材に注入しようとする処理薬剤又はその溶液であることが好ましい。このようにして、上記木材は、処理薬剤をその内部にまで均一で効率よく注入することができる。
従って、上記第2浸漬液に浸漬する場合には、上記木材は既に改質されていることから、その処理条件は、高温高圧条件に限るものではなく、常温常圧条件、或いは、高温常圧条件によるものであってもよい。またこの操作を連続して行ってもよい。

【0023】
また、上記脱液処理工程後に、上記木材を処理装置から取り出し、乾燥等の処理をした状態で保管することができる。この場合においても、上記木材は、ピットが開放されたままであり、処理薬剤をその内部にまで均一で効率よく注入することができる状態に改質されている。従って、上記保管後の木材に対して、上記第2浸漬液に浸漬する第2浸漬工程を行うようにしてもよい。
【0024】
また、本発明の第4の局面では、上記高温高圧条件は、温度が120〜200℃であることを特徴とする。高温高圧条件を温度が120〜200℃とすれば、木材の内部、即ち、木材細胞の内腔にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようになるという発明の作用効果が一層向上され得る。
【0025】
このように、本発明における高温高圧条件は、温度が120〜200℃であることが好ましく、更に、150〜180℃であることがより好ましい。ここで、上記高温条件における高圧条件とは、上記浸漬液又は第1浸漬液が当該高温条件の下に液体状態を保つことができる圧力条件をいう。
【0026】
従って、上記浸漬液又は第1浸漬液が水又は水溶液である場合には、上記温度条件における水の気液平衡状態にある圧力以上であることが好ましい。ここで、水の気液平衡状態にある圧力とは、温度が120〜200℃である場合には、圧力は、0.2〜1.6MPaであり、また、温度が150〜180℃である場合には、圧力は、0.5〜1.0MPaである。
【0027】
なお、上記木材を上記高温高圧条件で処理する場合の処理時間に関しては、当該木材の種類とサイズ、及び、処理温度と圧力等により適宜選定すればよい。上記温度条件120〜200℃においては、例えば、10分〜120分が好ましく、更に30分〜60分がより好ましい。
【0028】
また、本発明の第5の局面では、上記浸漬液又は上記第2浸漬液は、木材の防腐剤、防虫剤、害虫忌避剤、抗菌剤、難燃剤及び染料のうち、少なくとも1つを含有する液体であってもよいとした。
このように、防腐剤、防虫剤、害虫忌避剤、抗菌剤及び難燃剤を木材に注入することにより、当該木材にそれぞれの薬剤が持つ機能を付加することができる。また、染料を木材に注入することにより、当該木材に色彩的な審美性を付加することができる。 但し、上記浸漬液又は上記第2浸漬液は、上記薬剤のみに限定されるものではなく、その他の機能又は性能を有する各種薬剤であってもよい。
【0029】
上記薬剤としては、例えば、天然木材であるヒバ、ヒノキ、ウエスタンレッドシダー等から抽出される抽出液を使用することができる。これらの抽出液には、安全で高い抗菌性を示すヒノキチオールやツヤ酸等が含まれており、天然の抗菌剤として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】木材の有縁壁孔対及び閉塞壁孔対を示す概略図である。
【図2】上記閉塞壁孔対においてピットの開放を示す概念図である。
【図3】本発明の一実施形態に使用する木材改質装置の全体概略図である。
【図4】上記実施形態に係る実施例の結果を写真で示す木材の断面図である。
【図5】上記実施形態に係る比較例の結果を写真で示す木材の断面図である。
【図6】上記実施形態に係る評価結果を染色割合で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る木材の改質方法の実施形態について説明する。本実施形態においては、高温高圧条件を維持することのできる木材改質装置を使用する。
図3において、木材改質装置(100)は、圧力容器(10)と、プレス機(20)と、圧力容器(10)内に装填可能な処理槽(30)とを備えている。圧力容器(10)は、円筒形状の容器本体(11)と、これの開口部に開閉可能に取り付けられた開閉蓋(12)とからなる。容器本体(11)は、減圧用配管(13)と、蒸気導入用配管(14)と、排気用配管(15)と、浸漬液導入用配管(16)と、廃液用配管(17)とを備えている。
プレス機(20)は、容器本体(11)内で、押え持具(21)を昇降駆動させるプレスシリンダー(22)を備えている。また、処理槽(30)の内部には、木材(31)と、これを浸漬する処理液(32)が充填される。
【0032】
上記構成の木材改質装置を使用して、本実施形態に係る実施例及び比較例による木材の改質を行い、薬剤注入の状態を評価した。
【0033】
なお、木材内部の細胞の配列には異方性があり、木材内部への処理薬剤の注入に方向性がでる。そこで、木材の各面について定義する。木材の幹軸方向をL(longitude)軸とする。このL軸に直行して幹の放射方向をR(radial)軸とする。また、L軸とR軸に直行する幹の接線方向をT(tangent)軸とする。従って、木材の長軸方向の側面をそれぞれ、LT面、LR面として、木材の木口面をRT面とする。
【0034】
また、本実施例においては、各種処理薬剤の中から染料を使用して評価した。染料を使用することにより、薬剤注入の程度及び均一性を目視により容易且つ正確に判断することができる。染料は、他の処理薬剤と同程度の分子量をもち、また、木材内部への注入の機構も同じであることから、各種処理薬剤の代表として考えられる。本実施例においては、青色酸性染料である、パテントブルーV(C. I. Acid Blue 1)を使用した。
【0035】
(実施例)
木材として、4cm(T軸)×9cm(R軸)×100cm(L軸)のヒノキ材を用いた。このヒノキ材をLT面が底部となるようにして、16cm(巾)×25cm(高さ)×220cm(奥行)の処理槽(30)に収容し、この処理槽(30)を圧力容器(10)内に装填した。このとき、後工程で供給する浸漬液によってヒノキ材が浮かないように押え持具(21)の位置をプレスシリンダー(22)で調節した。
【0036】
まず、圧力容器(10)内及びヒノキ材内部に包含されている空気を抜くために、減圧用配管(13)を通して圧力容器(10)内を真空ポンプにて20分間減圧した。この減圧状態を維持したまま、浸漬液導入用配管(16)を通して、パテントブルーVの0.05%水溶液(以下、パテントブルー水溶液という)をヒノキ材が完全に浸漬されるように処理槽(30)内に供給した。
【0037】
その後、蒸気導入用配管(14)を通して、圧力容器(10)内に高温高圧水蒸気を導入し、圧力容器(10)内が180℃に安定するようにして、30分間高温高圧処理を行った。
【0038】
その後、排気用配管(15)を通して圧力容器(10)内から高温高圧水蒸気を排気し、圧力容器(10)内を常圧状態とした。その後、ヒノキ材を浸漬したパテントブルー水溶液の温度は、長時間100℃程度を維持し、液温が60度になるまで放令した。なお、液温が110度程度まで冷却した時点で浸漬液を排出して、脱気することもできる。こうであれば、処理剤の乾燥工程を容易にすることができる。
【0039】
その後、廃液用配管(17)を通して、パテントブルー水溶液を排出し、圧力容器(10)から処理槽(30)を取り出した。そして、処理後のヒノキ材を処理槽(30)から取り出して乾燥し、本実施例の改質された木材を得た。
【0040】
(比較例)
本比較例においては、木材として上記実施例と同じ、4cm(T軸)×9cm(R軸)×100cm(L軸)のヒノキ材を用いた。このヒノキ材をLT面が底部となりようにして、16cm(巾)×25cm(高さ)×220cm(奥行)の処理槽(30)に収容し、この処理槽(30)を圧力容器(10)内に装填した。
【0041】
まず、圧力容器(10)内及びヒノキ材内部に包含されている空気を抜くために、減圧用配管(13)を通して圧力容器(10)内を真空ポンプにて60分間減圧した。
【0042】
その後、蒸気導入用配管(14)を通して、圧力容器(10)内に高温高圧水蒸気を導入し、120℃で60分間水蒸気処理を行い、ヒノキ材を軟化処理した。この軟化処理後のヒノキ材をプレス機(20)によりR軸方向に圧縮した。圧縮は、圧縮前のR軸方向のサイズ(9cm)の50%を目標にしてR軸方向に押え持具(21)の位置をプレスシリンダー(22)で調節して圧縮した。
【0043】
その後、排気用配管(15)を通して圧力容器(10)内から高温高圧水蒸気を排気し、圧力容器(10)内を常圧状態とした。このとき、プレス機(20)による圧縮は維持している。続いて、圧力容器(10)内を真空ポンプにて再度20分間減圧した。この減圧状態を維持したまま、浸漬液導入用配管(16)を通して、パテントブルー水溶液をヒノキ材が完全に浸漬されるように処理槽(30)内に供給した。
【0044】
続いて、蒸気導入用配管(14)を通して、圧力容器(10)内に高温高圧水蒸気を導入し、パテントブルー水溶液の温度を120℃になるまで昇温させた。この間、押え持具(21)の位置をプレスシリンダー(22)で上昇させて圧縮状態を開放することにより、ヒノキ材をR軸方向に元寸法まで回復させ、パテントブルー水溶液をヒノキ材に吸収させた。
【0045】
更に、パテントブルー水溶液の吸収をより均一化するために、ヒノキ材をパテントブルー水溶液中でR軸方向のサイズの50%を目標にしてR軸方向に押え持具(21)の位置をプレスシリンダー(22)で調節して圧縮した。
その後、排気用配管(15)を通して圧力容器(10)内から高温高圧水蒸気を排気し、圧力容器(10)内を常圧状態とした。続いて、廃液用配管(17)を通して、パテントブルー水溶液を排出し、圧力容器(10)から処理槽(30)を取り出した。そして、処理後のヒノキ材を処理槽(30)から取り出して乾燥し、本比較例の改質された木材を得た。
【0046】
評価:
上述のようにして得られた本実施例及び本比較例の改質された木材について、その改質の状態を評価した。この改質状態の評価は、染色状態の目視観察と染色割合の測定とにより行った。
【0047】
まず、改質された木材のL軸方向に1/2量を木口からL軸方向に10cm間隔のRT面で切断した。本実施例のRT面の染色状態を示す写真を図4(A)に、本比較例のRT面の染色状態を示す写真を図5(A)に示す。
【0048】
次に、改質された木材の残りの1/2量をL軸に沿ってLR面で切断した。本実施例のLR面の染色状態を示す写真を図4(B)に、本比較例のLR面の染色状態を示す写真を図5(B)に示す。
【0049】
図4及び図5から明らかなように、本実施例により改質された木材は、木口の部分のみ濃色になっているが、全体に渡ってRT面及びLR面のいずれにおいてもほぼ均一に染色されている。一方、本比較例により改質された木材は、RT面において年輪の縞が明確に残っており、また、LR面においても木口側から中心側に向かって明らかに濃度差が現れ、全体に染色が不均一になっている。
【0050】
次に、染色割合を以下の方法で測定した。すなわち、上記の目視観察で使用したL軸方向に10cm間隔で切断したRT面の各サンプルを用い、染色後の表面写真を撮影し、その写真を画像処理して染色された面積の割合を算出した。
【0051】
上述の方法で算出した本実施例及び本比較例の染色割合の結果を図6に示す。図6から明らかなように、本実施例における染色割合は、木口から50cmの距離に至るまで、ほぼ100%近くを示しており、木材の表面から内部に至るまで全体に渡って均一に染色されている。このことは、本実施例によって、木材内部まで均一に薬剤が注入されるように木材が改質されていることがわかる。
【0052】
これに対して、本比較例における染色割合は、木口から10cmの距離で80%以下に低下し、木口から40cmの距離では更に50%以下にまで低下して、RT面の染色が不均一となっている。このことは、木材内部が不均一な状態のままであり、本比較例によって木材の改質が行われていないことがわかる。
【0053】
以上のことから、本実施形態においては、木材に強度低下や構造上の狂いが生じるような処理を施すことなく、また、簡潔な工程により、木材の内部にまで均一で効率よく処理薬剤を注入できるようにする木材の改質方法を提供することができる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も含まれるものとする。例えば、下記のような変形例が考えられる。
(1)本実施形態においては、特定の木材改質装置を使用するものであるが、高温高圧状態を維持することのできる装置であればこれに限定されるものではない。
(2)本実施形態においては、処理薬剤として染料水溶液を使用するものであるが、染料に代えて、木材に各種機能又は性能を付加することのできる薬剤及びその溶液を使用することができる。
(3)本実施形態においては、処理薬剤として染料水溶液を使用するものであるが、これに代えて、水を使用することができる。この場合には、その後に一般の方法で各種薬剤を木材に容易に注入することができる。
(4)本実施形態においては、高温高圧条件として180℃で30分間処理するものであるが、処理温度と処理時間は処理する木材の種類と形状、及び、処理薬剤等の条件により適宜選定すればよい。
(5)本実施形態においては、木材としてヒノキ材を使用するものであるが、ヒノキ材に代えて他の木材を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る木材の改質方法によれば、簡潔な工程により、木材の内部にまで均一で効率よく各種処理薬剤を注入することができる。このことにより、一般の木材に各種の機能又は性能を付加することができ、木材の利用範囲を拡大し、森林資源の有効活用を図ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…縁部、2…有縁壁孔対、3…トールス、4…マルゴ、5…ピット、6…閉塞壁孔対、7…ペクチン、8…浸漬液の流れ、10…圧力容器、11…容器本体、12…開閉蓋、13…減圧用配管、14…蒸気導入用配管、15…排気用配管、16…浸漬液導入用配管、17…廃液用配管、20…プレス機、21…押え持具、22…プレスシリンダー、30…処理槽、31…木材、32…浸漬液、100…木材改質装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の内部から空気を除去する脱気処理を行う脱気処理工程と、
前記木材を浸漬液に浸漬する浸漬工程と、
前記木材を前記浸漬液に浸漬した状態のまま、高温高圧条件で処理する高温高圧処理工程とを備える木材の改質方法。
【請求項2】
前記高温高圧処理工程後に、前記高温高圧条件を常圧に開放し、徐々に冷却する除冷工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の木材の改質方法。
【請求項3】
木材の内部から空気を除去する脱気処理を行う第1脱気処理工程と、
前記第1脱気処理工程後に、前記木材を第1浸漬液に浸漬する第1浸漬工程と、
前記第1浸漬工程後に、前記木材を前記第1浸漬液に浸漬した状態のまま、高温高圧条件で処理する高温高圧処理工程と、
前記高温高圧処理工程後に、前記高温高圧条件を常圧に開放し、前記第1浸漬液を除去する脱液工程と、
前記脱液工程後に、再度、木材の内部から空気を除去する脱気処理を行う第2脱気処理工程と、
前記第2脱気処理工程後に、前記木材を第2浸漬液に浸漬する第2浸漬工程とを備える木材の改質方法。
【請求項4】
前記高温高圧条件は、温度が120〜200℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の木材の改質方法。
【請求項5】
前記浸漬液又は前記第2浸漬液は、木材の防腐剤、防虫剤、害虫忌避剤、抗菌剤、難燃剤、樹脂、磁性流体及び染料のうち、少なくとも1つを含有する液体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の木材の改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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