説明

木質パネルの製造方法

【課題】軽量かつ高い圧縮強度および圧縮弾性率を有するのに加えて、高い寸法安定性を有する木質パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】複数の平らな木製薄板を準備する準備工程(ステップ1)と、コア用木製薄板を軟化させる軟化工程(ステップ2)と、軟化したコア用木製薄板を波形に変形する変形工程(ステップ3)と、変形したコア用木製薄板を、治具にセットした状態のまま、コア用木製薄板に所定の熱処理を施すことにより、コア用木製薄板の変形を固定する変形固定工程(ステップ4)と、変形固定したコア用木製薄板の表裏面にそれぞれ、平らな木製薄板を接着する接着工程(ステップ5)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材や家具材、楽器、その他各種の工業用材料に適用可能な木質パネルの製造方法に関し、特に、波形に成形された木製薄板をコアとするサンドイッチ構造の木質パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の木質パネルとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この木質パネルは、各々が木製薄板から成る3つの層で構成されており、波形に成形されたコアの表裏面に、平らなフェースプレートが接着されている。また、コアは、その波形の山および谷の延びる方向が木目方向(繊維方向)に沿うように成形されている。以上のように構成される木質パネルでは、コアにすべき木製薄板が、所定の加工装置を用いて、波形に成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/067662号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の木質パネルは、同じ材料で構成されかつ同じ厚さを有する合板などに比べて軽量化でき、また、比較的高い圧縮強度や圧縮弾性率を有する。しかし、この木質パネルのコアには、波形に成形されることによる内部応力が残存しやすく、この残留応力に起因して、変形が生じるおそれがある。また、一般に木材は、周囲の環境(温度や湿度)などによって伸縮しやすく、特に木材の繊維方向と直交する方向の伸縮率は、繊維方向のそれよりも5〜10倍大きい。前述したように、上記の木質パネルでは、波形に成形されたコアの山および谷の延びる方向が木目方向に沿っており、換言すると、木質パネルの厚さ方向が、コアの繊維方向に直交している。したがって、上記の木質パネルでは、コアの変形や伸縮によって、木質パネル自体の厚さが変化することがあり、寸法安定性を確保できないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、軽量かつ高い圧縮強度および圧縮弾性率を有するのに加えて、高い寸法安定性を有する木質パネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、複数の平らな木製薄板を準備する準備工程と、準備した複数の木製薄板のうち、コアにすべき木製薄板としてのコア用木製薄板を軟化させる軟化工程と、軟化したコア用木製薄板を波形に変形する変形工程と、変形したコア用木製薄板を、変形を保持するための治具にセットした状態のまま、コア用木製薄板に所定の熱処理を施すことにより、コア用木製薄板の変形を固定する変形固定工程と、変形固定したコア用木製薄板の表裏面にそれぞれ、準備した複数の木製薄板のうちの他の平らな木製薄板を接着する接着工程と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明によって木質パネルを製造する場合、まず、複数の平らな木製薄板を準備し(準備工程)、これらの木製薄板のうちのコア用木製薄板を軟化させる(軟化工程)。次いで、軟化したコア用木製薄板を波形に変形し(変形工程)、そのコア用木製薄板を、変形を保持するための治具にセットした状態のまま、コア用木製薄板に所定の熱処理を施すことにより、コア用木製薄板の変形を固定する(変形固定工程)。そして、このコア用木製薄板に対し、その表裏面にそれぞれ、平らな木製薄板を接着する(接着工程)。以上により、波形に成形した木製薄板をコアとする木質パネルが製造され、そのコアを構成する木製薄板の波形の変形が固定されるので、軽量かつ高い圧縮強度および圧縮弾性率を有するのに加えて、高い寸法安定性を有する木質パネルを得ることができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の木質パネルの製造方法において、変形固定における熱処理は、変形したコア用木製薄板を、コア用木製薄板に含まれるリグニンのガラス転移点以上に加熱し、その後、ガラス転移点以下に冷却することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、変形固定工程の熱処理では、まず、治具で波形に保持されたコア用木製薄板を、それに含まれるリグニンのガラス転移点以上に加熱する。リグニンは一般に、木材中の20〜30%を占め、セルロースと結合した状態で存在する高分子物質であり、木材を強固にする役割を果たす。上記のように、コア用木製薄板を、それに含まれるリグニンのガラス転移点以上に加熱することにより、リグニンが軟化し、ゴム状態になる。その後、加熱したコア用木製薄板を、リグニンのガラス転移点以下に冷却することにより、リグニンが固化し、ガラス状態になる。以上の熱処理により、変形工程において波形に変形したコア用木製薄板の残留応力が解放され、そのコア用木製薄板は、治具にセットされた状態、すなわち波形に保持された状態に、変形が固定される。以上のように、上記の熱処理により、波形に変形したコア用木製薄板の変形固定を効果的に行うことができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の木質パネルの製造方法において、熱処理における加熱は、水蒸気を用いて行うことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、変形固定工程の熱処理における加熱の際に、水蒸気の水分がコア用木製薄板に浸透するので、それに含まれるリグニンに対し、そのガラス転移点を下げるとともに軟化を促進することなどにより、乾燥雰囲気で単に加熱する場合に比べて短時間で、コア用木製薄板の変形を固定することができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の木質パネルの製造方法において、変形工程において、軟化したコア用木製薄板を、その繊維方向と変形すべき波形の連続する方向とが一致するように変形することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、コア用木製薄板の繊維方向、すなわち、その木製薄板に含まれる繊維が延びる方向と、変形すべき波形の連続する方向とが一致するので、波形に成形されたコアの山と谷の間に位置する、コアを構成する木製薄板の繊維が、木質パネルの表裏の木製薄板の対向方向に延びるように配置される。通常、木材では、その繊維方向の強度が、繊維方向に直交する方向の強度に比べて非常に大きい。このため、例えば、上記構成と異なり、コア用木製薄板を、その繊維方向と波形が連続する方向とが直交するように、換言すると、繊維方向が波形の山および谷の延びる方向に沿うように、波形に変形する場合に比べて、コアの高さ方向、すなわち木質パネルの厚さ方向の強度を高めることができる。したがって、本発明によれば、より高い圧縮強度および圧縮弾性率を有する木質パネルを得ることができる。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の木質パネルの製造方法において、接着工程の後、木質パネルを表裏方向の一方に凸に湾曲するように成形する湾曲成形工程を、さらに備えていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、表裏方向の一方に凸に湾曲した木質パネルが得られるので、このような木質パネルを、例えば防音室内に配置したり、その壁に掛けたりすることなどにより、防音室内で発する音を良好に反射させる調音板として利用することができる。また、この木質パネルを、例えばアコースティックピアノの響板に適用する場合、凸に湾曲した側を、弦の振動を響板に伝える駒側に配置することにより、いわゆるムクリを有する響板を得ることができる。これにより、弦の振動を効率的に響板に伝えることができ、ピアノ特有の張りのある音色と音量を得ることができる響板を実現することができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の木質パネルの製造方法において、変形固定したコア用木製薄板と、その表裏面に接着される、少なくとも一方の木製薄板とで画成されるスペースに、発泡材を充填する充填工程を、さらに備えていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、コア用木製薄板と、その表裏面に接着される、少なくとも一方の木製薄板とで画成されるスペースに、発泡材を充填するので、木質パネルに種々の特性、例えば吸音性や断熱性、遮音性、耐衝撃性を付与することができる。また、発泡材の種類は、木質パネルに求められる特性に応じて選択され、その特性の度合などに応じて、コア用木製薄板の表裏の一方側にのみ発泡材を充填したり、コア用木製薄板の表裏の両側に発泡材を充填したりすることが可能である。さらには、コア用木製薄板の表裏で互いに異なる種類の発泡材を充填することも可能である。
【0018】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の木質パネルの製造方法において、接着工程において、変形固定したコア用木製薄板に接着される木製薄板に代えて、または木製薄板とともに、変形固定したコア用木製薄板の表裏面の少なくとも一方に、振動を抑制するための制振シートを接着することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、コア用木製薄板の表裏の少なくとも一方側に、制振シートが設けられるので、表裏方向における振動の伝搬を抑制できる木質パネルを得ることができる。
【0020】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の木質パネルの製造方法において、準備工程において準備される木製薄板は、複数の木材単板を積層することによって、または一つ以上の木材単板と樹脂製シートもしくは紙製シートとを積層することによって、構成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、複数の木材単板を積層することによって木製薄板を構成する場合、木材単板のみで木製薄板を構成するのに比べて、木製薄板自体の強度を高めることができ、それに伴い、木質パネルの圧縮強度および圧縮弾性率をより高めることができる。一方、一つ以上の木材単板と樹脂製シートまたは紙製シートとを積層することによって木製薄板を構成する場合、例えば、複数の木材単板を互いに平面的に密着させ、その裏面側に、樹脂製シートや紙製シートを裏打ちするように積層することにより、面積が大きな木製薄板を容易に作製でき、それを用いることによって、面積が比較的大きな木質パネルを得ることができる。また、例えば、複数の木材単板の間に樹脂製シートや紙製シートを挟むように積層することにより、木製薄板自体の強度を高めることに加えて、木質パネルの製造時に、木製薄板における割れなどの発生を効果的に防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による製造方法によって作製した木質パネルを示しており、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図、(c)は部分断面図である。
【図2】木質パネルの製造方法を工程順に示す図である。
【図3】コア用木製薄板を波形に変形させるための治具を示す部分斜視図である。
【図4】コア用木製薄板を治具にセットした状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図である。
【図5】一対の凹凸ローラによるコア用木製薄板の変形処理を説明するための説明図である。
【図6】図1(c)と同様の木質パネルの部分断面図であり、コアにおいて採用可能な各種の波形を示している。
【図7】木質パネルを調音板やピアノの響板などに適用する場合の説明図であり、(a)は湾曲前の木質パネル、(b)は湾曲後の木質パネルを示す部分断面図である。
【図8】内部に発泡材が充填された木質パネルを示す部分断面図である。
【図9】制振シートをフェースプレートに有する木質パネルを示す部分断面図である。
【図10】吸音パネルに適用した木質パネルを示す斜視図である。
【図11】波形に成形された2層のコアを有する木質パネルを示しており、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1(a)は、本発明の製造方法によって作製した木質パネルを示している。この木質パネル1は、複数(本例では3枚)の木製薄板から成るサンドイッチ構造のものであり、建材や家具材、楽器、その他各種の工業用材料に適用可能である。具体的には、建材としては、建築物の床や天井、壁、ドアなどに適用でき、家具材としては、タンスやテーブルなどに適用でき、楽器としては、ピアノの響板の他、ギターやバイオリンの表板などに適用することができる。
【0024】
なお、図示の便宜上、木質パネル1について、平面形状が矩形状のものを示しているが、その平面形状は、適用される建材や家具材、楽器などに応じて、矩形以外に、各種の形状(円形や多角形、異形など)に成形される。また、以下の説明ではまず、木質パネル1の構成について説明し、その後で、木質パネル1の製造方法について説明するものとする。
【0025】
図1(a)〜(c)に示すように、木質パネル1は、波形に成形されたコア2と、このコア2の表裏面にそれぞれ接着された、平らなフェースプレート3、3とを備えている。コア2および各フェースプレート3はいずれも、所定の厚さ(例えば0.4〜1.5mm)を有する木製薄板から成り、互いに同一の平面形状を有している。
【0026】
なお、これらのコア2およびフェースプレート3の木材の種類は特に限定されるものではないが、例えば、スプルース、スギ、ヒノキ、エゾマツ、またはトドマツなどの針葉樹、カエデ、メープル、ブナ、バスウッド、パイン、ポプラ、またはキリなどの広葉樹、さらにはタケなどを採用することが可能である。
【0027】
波形に成形されたコア2は、所定のピッチP(例えば10mm)および高さH(例えば4mm)を有しており、コア2を構成する木製薄板の繊維方向と、波形が連続する方向(図1(c)の左右方向)とが一致するように成形されている。一方、各フェースプレート3は、平らな木製薄板で構成されている。また、図示は省略するが、各フェースプレート3を構成する木製薄板の繊維方向は、コア2のそれと一致している。
【0028】
次に、木質パネル1の製造方法について説明する。図2は、木質パネル1の製造方法を工程順に示している。同図のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)に示すように、まず、複数の平らな木製薄板を準備する(準備工程)。これらの木製薄板は、木質パネル1のコア2および表裏のフェースプレート3、3になるものであり、木材の表面をスライサやロータリーレースなどによって切削加工することによって得られる木材単板である。
【0029】
なお、面積が比較的大きな木質パネル1を製造するために、面積の大きな木製薄板が必要な場合、その木製薄板を単一の木材単板で構成する他、複数の木材単板を、互いに平面的に密着させ、その裏面側に、所定の紙(例えば和紙)から成る紙製シートや、所定の樹脂(例えばポリウレタン)から成る樹脂製シートを裏打ちするように積層することによって、木製薄板を構成することも可能である。また、複数の木材単板の間に紙製シートや樹脂製シートを挟むように積層することによって、木製薄板を構成することも可能である。この場合には、木製薄板自体の強度を高めることに加えて、木質パネル1の製造時に、木製薄板における割れなどの発生を効果的に防止することもできる。
【0030】
次いで、ステップ1において準備した複数の木製薄板のうち、コア2にすべき木製薄板(以下「コア用木製薄板」という)を軟化させる(ステップ2、軟化工程)。この軟化処理では、後述するステップ3において、コア用木製薄板を波形に変形し得る程度に軟化可能な各種の方法を採用可能であり、例えば蒸煮法や煮沸法、高周波加熱法を採用することができる。
【0031】
蒸煮法では、コア用木製薄板を、所定の温度(例えば80〜100℃)で蒸す他、加圧容器に収容して蒸すことも可能であり、さらに、加圧容器内を減圧した後に、その加圧容器内に水蒸気を導入する真空蒸煮法を採用することも可能である。また、煮沸法では、コア用木製薄板を、所定の温度(例えば80〜100℃)の水が入った煮沸槽に入れて加熱する。この煮沸法では、蒸煮法に比べて装置が簡便、安価であり、コア用木製薄板を比較的短時間で軟化させることができる。なお、煮沸法における煮沸温度および煮沸時間は、コア用木製薄板の樹種および厚さに応じて決定される他、コア用木製薄板からの溶出成分の量、廃液処理、コア用木製薄板の変色や強度変化なども考慮して決定されることが好ましい。
【0032】
また、高周波加熱法では、コア用木製薄板の含水率が比較的高いときに適しており、例えば、13、27または40MHzの高周波や、2450MHzのマイクロ波を、コア用木製薄板に照射することによって行われる。この場合には、コア用木製薄板の温度を比較的短時間で上昇させ、軟化処理を迅速に行うことができる。
【0033】
次いで、軟化したコア用木製薄板を、波形に変形する(ステップ3、軟化工程)。図3は、コア用木製薄板を変形させる際に使用する治具の一例を示している。同図に示すように、この治具10は、互いに間隔を隔てて平行に延びる一対のサイドプレート11、11と、これらのサイドプレート11、11間に掛け渡され、サイドプレート11の長さ方向に互いに等間隔に取り付けられた複数のロッド12により、梯子状に構成されている。各サイドプレート11には、ロッド12を支持するための複数の支持孔11aが、サイドプレート11の長さ方向に沿って、所定の間隔ごとに形成されている。一方、各ロッド12は、サイドプレート11の支持孔11aの径よりも若干小さい径を有する丸棒で構成されている。そして、各ロッド12は、両端部が支持孔11aに挿入された状態で、両サイドプレート11、11に着脱自在に取り付けられている。
【0034】
上記のように構成された治具10に対し、図4に示すように、軟化したコア用木製薄板2’をセットすることにより、波形に変形する。治具10へのコア用木製薄板2’のセットは、例えば次のように行う。まず、両サイドプレート11、11の長さ方向に連続する複数の支持孔11aに対し、あらかじめ1つおきにロッド12を取り付ける。次いで、それらのロッド12上に、コア用木製薄板2’の繊維方向が両サイドプレート11、11の長さ方向に沿うように、コア用木製薄板2’を載置する。そして、コア用木製薄板2’に対し、その一端側から順に、隣り合うロッド12、12間の部分を押圧して凹ませ、その部分の上側に他のロッド12が位置するよう、上記の隣り合うロッド12、12間のロッド未装着の支持孔11a、11aに、他のロッド12を一方のサイドプレート11の外側から挿入する。このセット動作を、コア用木製薄板2’の一端側から他端側まで順に行うことにより、コア用木製薄板2’は、図4(b)に示すように、治具10の連続する複数のロッド12で複数の山および谷が支持された状態の波形に変形される。
【0035】
また、治具10へのコア用木製薄板2’のセットは、上述した手順以外に、例えば次のように行うことも可能である。まず、両サイドプレート11、11の一端側の支持孔11a、11aにのみ、ロッド12を取り付ける。次いで、そのロッド12にコア用木製薄板2’の一端部を押さえ付けた状態で、コア用木製薄板2’の他端部を、両サイドプレート11、11の長さ方向と直交する所定方向に移動させた状態で、上記のロッド12を支持する支持孔11a、11aの隣の支持孔11a、11aに、他のロッド12を一方のサイドプレート11の外側から挿入する。そして、コア用木製薄板2’の他端部を、上記と反対方向に移動させた状態で、他のロッド12を、直前に取り付けたロッド12を支持する支持孔11a、11aの隣の支持孔11a、11aに、上記と同様にして挿入する。このように、コア用木製薄板2’の他端部を、前記所定方向およびその反対方向に交互に移動させながら、ロッド12を、両サイドプレート11、11の一端側から他端側に向かって順に挿入することによっても、コア用木製薄板2’を治具10にセットし、波形に変形させることが可能である。
【0036】
なお、軟化したコア用木製薄板2’に対する波形の変形は、例えば段ボールを製造するためのコルゲートマシンと同様の装置で行うことも可能である。図5は、周面に連続する凹凸を有し、互いに噛み合うように配置された一対の凹凸ローラ13、13を示している。同図に示すように、両凹凸ローラ13、13を矢印の方向に回転させながら、それらの間に、軟化したコア用木製薄板2’を白抜き矢印の方向に送り出すことにより、コア用木製薄板2’を波形に変形させることが可能である。
【0037】
次いで、波形に変形したコア用木製薄板2’に対し、その変形を固定するために、所定の熱処理を施す(ステップ4)。この熱処理ではまず、コア用木製薄板2’を、前記治具10にセットした状態のまま加熱室に入れ、所定温度で所定時間、加熱する。なお、コア用木製薄板2’を、上記の凹凸ローラ13、13を用いて波形に変形した場合には、治具10にセットしてから、加熱室に入れる。
【0038】
上記の加熱温度および加熱時間は、コア用木製薄板2’を構成する樹種に加えて、その厚さおよび含水率などによって異なるが、少なくとも、コア用木製薄板2’に含まれるリグニンのガラス転移点(例えば70〜240℃)以上の温度で、リグニンが十分に軟化する程度の時間(例えば30分)、加熱する。これにより、軟化したリグニンがゴム状態になる。なお、リグニンのガラス転移点は、それが含まれる木材が乾燥状態であるときには比較的高く、その木材が湿潤状態であるときには比較的低いので、コア用木製薄板2’の含水率が高い場合には、比較的低温で加熱することが可能である。
【0039】
そして、上記加熱後、加熱室内のコア用木製薄板2’を、それに含まれるリグニンのガラス転移点以下に冷却する。これにより、リグニンが固化し、ガラス状態になる。
【0040】
以上の熱処理により、波形に変形したコア用木製薄板2’の残留応力が解放され、そのコア用木製薄板2’は、治具10にセットされた状態、すなわち波形に保持された状態に、変形が固定される。
【0041】
また、上記の変形固定における加熱は、水蒸気を用いて行ってもよい。具体的には例えば、加熱室に水蒸気を導入したり、高耐圧の加熱室に100℃以上の過熱水蒸気を導入したりする。この場合には、水蒸気の水分がコア用木製薄板2’に浸透するので、それに含まれるリグニンに対し、そのガラス転移点を下げるとともに軟化を促進することなどにより、乾燥雰囲気の加熱室内で単に加熱する場合に比べて短時間で、コア用木製薄板2’の変形を固定することができる。
【0042】
次いで、波形に変形固定したコア用木製薄板2’の表裏面に、平らな木製薄板をそれぞれ接着する(ステップ5、接着工程)。すなわち、前記ステップ1において準備した複数の木製薄板のうち、フェースプレート3にすべき木製薄板(以下「フェースプレート用木製薄板」という)をコア用木製薄板2’に接着する。なお、コア用木製薄板2’とフェースプレート用木製薄板を接着させる接着剤には、両者を強固に接着し、長期間にわたって良好な接着状態を維持するものであればよい。そのような接着剤として、例えば、水溶性ビニルウレタン系、酢酸ビニル系、溶剤タイプの接着剤、エマルジョンタイプの接着剤、合成ゴム系、ホットメルトタイプの接着剤、尿素系樹脂、尿素メラミン共重合樹脂、フェノール系樹脂、レゾルシノール系樹脂、エポキシ系などの熱硬化性樹脂系接着剤を採用可能である。
【0043】
以上により、コア用木製薄板2’をコア2とする木質パネル1が製造され、そのコア2が波形に変形固定されているので、軽量かつ高い圧縮強度および圧縮弾性率を有するのに加えて、高い寸法安定性を有する木質パネル1を得ることができる。
【0044】
また、コア2では、その繊維方向と、波形が連続する方向とが一致するので、波形に成形されたコア2の山と谷の間に位置する、木製薄板の繊維が、両フェースプレート3、3の対向方向に延びるように配置される。前述したように、木材では、その繊維方向の強度が、繊維方向に直交する方向の強度に比べて非常に大きいので、木質パネル1の厚さ方向の強度を高めることができる。したがって、コア用木製薄板を、その繊維方向が波形の山および谷の延びる方向に沿うように、波形に変形する場合に比べて、より高い圧縮強度および圧縮弾性率を有する木質パネル1を得ることができる。
【0045】
なお、コア2の波形は、図1(c)に示す正弦波のような形状に限定されるものではなく、例えば鋸波や矩形波など、各種の形状を採用することが可能である。図6(a)〜(d)は、コア2において採用可能な各種の波形を例示しており、(a)は図1の波形に比べてピッチが短い波形、(b)は三角形状の波形、(c)は台形状の波形、(d)は矩形状の波形を示している。これらのような形状にコア2を成形する場合には、コア用木製薄板2’を波形に変形する際に、成形すべき波形の形状に応じて、前記治具10のロッド12の断面形状や隣り合うロッド12、12間のピッチなどを変更したり、前記一対の凹凸ローラ13、13の凹凸の形状およびサイズを変更したりすることによって行われる。
【0046】
次に、図7〜図11を参照して、上述した木質パネル1の各種の変形例について説明する。図7(b)は、調音板やアコースティックピアノの響板などに適用される木質パネルを示している。同図(a)に示す木質パネル1、すなわち全体が平らな木質パネル1を、調音板やピアノの響板に適用する場合、同図(b)に示すように、表裏方向の一方(図7では上側)に、凸に湾曲するように成形する(湾曲成形工程)。この湾曲成形は、木質パネル1の製造後、すなわちコア用木製薄板2’の表裏へのフェースプレート用木製薄板の接着後、木質パネル1に対し、木材の一般的な湾曲成形と同様の手法によって行われ、それにより、湾曲した木質パネル1Aが得られる。
【0047】
上記の湾曲した木質パネル1Aを、例えば防音室内に配置したり、その壁に掛けたりすることなどにより、防音室内で発する音を良好に反射させる調音板として利用することができる。また、上記の木質パネル1Aをピアノの響板に適用する場合、凸に湾曲した側を、弦(図示せず)の振動を響板に伝える駒側に配置することにより、いわゆるムクリを有する響板を得ることができる。これにより、弦の振動を効率的に響板に伝えることができ、ピアノ特有の張りのある音色と音量を得ることができる響板を実現することができる。
【0048】
図8は、内部に発泡材が充填された木質パネルを示している。同図(a)に示す木質パネル1Bでは、コア2と一方のフェースプレート3とで画成されるスペースに発泡材4が充填され、(b)に示す木質パネル1Cでは、コア2と両フェースプレート3、3とでそれぞれ画成されるスペース、すなわち両フェースプレート3、3間の全体に、発泡材4が充填されている。また、同図(c)に示す木質パネル1Dでは、コア2の表裏で互いに異なる種類の発泡材4、4’が充填されている。これらの発泡材4、4’の種類は、木質パネル1に求められる特性に応じて選択され、また、その特性や度合に応じて、木質パネル1B、1Cおよび1Dのような発泡材4、4’の充填パターンが選択される。なお、発泡材として、例えばポリスチレンやフェノール樹脂を採用することが可能である。
【0049】
上記の木質パネル1B、1Cおよび1Dでは、その製造時において、発泡材4、4’の充填が、コア用木製薄板2’へのフェースプレート用木製薄板の接着の前後に行われる(充填工程)。以上のように、発泡材4、4’を内蔵した木質パネル1B、1Cおよび1Dには、種々の特性、例えば吸音性や断熱性、遮音性、耐衝撃性を付与することができる。
【0050】
図9は、制振シートをフェースプレートに有する木質パネルを示している。同図(a)に示す木質パネル1Eは、前記木質パネル1の表裏一方のフェースプレート3に代えて、制振シート3Aが設けられたものであり、(b)に示す木質パネル1Fは、一方(同図では上側)のフェースプレート3の表面に制振シート3Aが接着されたものである。これらの制振シート3Aは、例えばゴムやプラスチック、金属などの制振性を有する材料で構成されている。
【0051】
上記の木質パネル1Eを製造する場合には、前述した木質パネル1の製造工程のステップ5において、一方のフェースプレート用木製薄板に代えて、制振シート3Aを接着する。一方、木質パネル1Fを製造する場合には、フェースプレート用木製薄板の表面にあらかじめ制振シート3Aを接着してから、前記ステップ5を実行する他、ステップ5の終了後、一方のフェースプレート3の表面に制振シート3Aを接着する。上記のように構成された木質パネル1Eおよび1Fでは、制振シート3Aにより、表裏方向における振動の伝搬を抑制することができる。
【0052】
なお、図9では、表裏の一方にのみ制振シート3Aを有する木質パネル1Eおよび1Fを例示したが、木質パネルの表裏の両方に制振シート3Aを設けることも、もちろん可能である。また、コア2とフェースプレート3の間に、制振シート3Aを配置することも可能である。
【0053】
図10は、吸音パネルに適用した木質パネルを示している。同図に示す木質パネル1Gは、前記木質パネル1の表裏一方のフェースプレート3に代えて、多数の吸音孔を有する木製またはプラスチック製の吸音プレート3Bが設けられたものである。この木質パネル1Gを製造する場合には、前述した木質パネル1の製造工程のステップ1において、木製薄板とともに吸音プレート3Bを準備し、前記ステップ5において、一方のフェースプレート用木製薄板に代えて、吸音プレート3Bを、コア用木製薄板2’に接着する。上記のように構成された木質パネル1Gでは、吸音プレート3B側において発生した音を効果的に吸音することができる。
【0054】
なお、図10では、表裏の一方にのみ吸音プレート3Bを有する木質パネル1Gを例示したが、木質パネルの表裏の両方に吸音プレート3Bを設けることも、もちろん可能であり、さらに、コア2を、多数の吸音孔を有する木製の吸音プレートで構成することも可能である。
【0055】
図11は、波形に成形された2層のコアを有する木質パネルを示している。同図に示す木質パネル1Hは、2つのコア2、2を接着によって積層したものである。具体的には、前記木質パネル1に対し、そのコア2と一方(図11では上側)のフェースプレート3との間に、他のコア2が配置されるとともに、両コア2、2の間に、フェースプレート3と同様の中間プレート3Cが配置されている。また、両コア2、2は、それぞれの波形の連続する方向が、互いに直交するするように配置されている。一方、中間プレート3Cは、フェースプレート3と同じ平らな木製薄板で構成されている。
【0056】
上記の木質パネル1Hを製造する場合には、前述した木質パネル1の製造工程と同様にして、2つのコア用木製薄板2’、2’を作製し、それらの間に中間プレート3C用の木製薄板を配置して接着するとともに、両コア用木製薄板2’、2’の外面にそれぞれ、フェースプレート用木製薄板を接着する。上記のように構成された木質パネル1Hでは、その厚さ方向の強度をより高めることができ、圧縮強度および圧縮弾性率をより一層高めることができる。
【0057】
なお、図11では、2層のコア2、2を有する木質パネル1Hを例示したが、コア2を3つ以上積層し、3層以上の木質パネルを構成することも可能である。また、隣り合うコア2、2を、それぞれの波形の連続する方向を一致させるように配置することが可能である。さらに、隣り合うコア2、2のそれぞれの波形の連続する方向が互いに直交する場合には、中間プレート3Cを省略することも可能である。
【0058】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、木質パネル1のコア2として、その繊維方向と、波形が連続する方向とが一致するように成形したものを用いたが、このコア2に代えて、繊維方向が波形の山および谷の延びる方向に沿うように成形されたコアを用いることも可能である。また、木質パネル1の変形例として、各種の木質パネル1A〜1Hを例示したが、これらを適宜、組み合わせて、木質パネルを構成することも可能である。さらに、実施形態では、コア2およびフェースプレート3を構成する木製薄板として、木材単板を採用したが、複数の木材単板を積層した合板やパーティクルボード、MDFなどの木質プレートを採用してもよい。なお、フェースプレート3として、アクリル樹脂やポリ塩化ビニルなどのプラスチックプレート、アルミや鉄、ステンレスなどの金属製プレート、さらには人工大理石プレートやセラミックス系プレートなど、種々のプレートを採用してもよい。
【0059】
また、実施形態で示した細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 木質パネル
1A 木質パネル
1B 木質パネル
1C 木質パネル
1D 木質パネル
1E 木質パネル
1F 木質パネル
1G 木質パネル
1H 木質パネル
2 コア
2’ コア用木製薄板
3 フェースプレート
3A 制振シート
4 発泡材
4’ 発泡材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の平らな木製薄板を準備する準備工程と、
前記準備した複数の木製薄板のうち、コアにすべき木製薄板としてのコア用木製薄板を軟化させる軟化工程と、
前記軟化したコア用木製薄板を波形に変形する変形工程と、
前記変形したコア用木製薄板を、当該変形を保持するための治具にセットした状態のまま、当該コア用木製薄板に所定の熱処理を施すことにより、当該コア用木製薄板の変形を固定する変形固定工程と、
前記変形固定したコア用木製薄板の表裏面にそれぞれ、前記準備した複数の木製薄板のうちの他の平らな木製薄板を接着する接着工程と、
を備えていることを特徴とする木質パネルの製造方法。
【請求項2】
前記変形固定における前記熱処理は、前記変形したコア用木製薄板を、当該コア用木製薄板に含まれるリグニンのガラス転移点以上に加熱し、その後、当該ガラス転移点以下に冷却することを特徴とする請求項1に記載の木質パネルの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理における前記加熱は、水蒸気を用いて行うことを特徴とする請求項2に記載の木質パネルの製造方法。
【請求項4】
前記変形工程において、前記軟化したコア用木製薄板を、その繊維方向と変形すべき波形の連続する方向とが一致するように変形することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の木質パネルの製造方法。
【請求項5】
前記接着工程の後、前記木質パネルを表裏方向の一方に凸に湾曲するように成形する湾曲成形工程を、さらに備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の木質パネルの製造方法。
【請求項6】
前記変形固定したコア用木製薄板と、その表裏面に接着される、少なくとも一方の木製薄板とで画成されるスペースに、発泡材を充填する充填工程を、さらに備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の木質パネルの製造方法。
【請求項7】
前記接着工程において、前記変形固定したコア用木製薄板に接着される前記木製薄板に代えて、または当該木製薄板とともに、前記変形固定したコア用木製薄板の表裏面の少なくとも一方に、振動を抑制するための制振シートを接着することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の木質パネルの製造方法。
【請求項8】
前記準備工程において準備される木製薄板は、複数の木材単板を積層することによって、または一つ以上の木材単板と樹脂製シートもしくは紙製シートとを積層することによって、構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の木質パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−207159(P2011−207159A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79152(P2010−79152)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】