説明

木質フロアの床鳴りを防止する方法および床鳴り防止処理を施した木質フロア

【課題】きつめ施工されたサネ接合部が一部に形成されている木質フロアであっても、そこで発生する床鳴りを確実に防止する。
【解決手段】サネ2、3を有する木質床材Aの多数枚を床下地面4にサネ接合しながら敷き詰めて形成される木質フロアにおいて、木質床材同士の一部のサネ接合部におけるサネ上部の短手方向の垂直木口面間Qに低粘度の接着剤30を注入して、対向する木質床材Aの少なくとも短手方向の垂直木口面間Qを注入した接着剤30により一体に固定する。それにより、対向する木質床材Aにおけるサネ接合部の短手方向の垂直木口面間に生じる位置ずれをなくすことができ、結果として、床鳴りを阻止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サネを有する木質床材の多数枚を床下地面にサネ接合しながら敷き詰めて形成される木質フロアにおいて、その床鳴りを防止する方法および床鳴り防止処理を施した木質フロアに関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、木質基材1の周囲に雄サネ2と雌サネ3を形成した木質床材Aの多数枚を、該サネ同士を互いにサネ接合しながら、コンクリートスラブやその上に配置した捨て貼り合板等の床下地面4上に、接着剤5を介して直貼りして木質フロアを構築することは知られている。このようにして使用される木質床材Aでは、通常、その裏面に防音性や防振性を向上させるための弾性材料からなる緩衝材(バッカー)6が貼り付けられている。
【0003】
裏面に緩衝材6を貼り付けた木質床材Aを床下地面へ敷き詰めた木質フロアでは、フロア上を人間が歩いたときに木質床材Aが僅かに上下するのを避けられない。このときに、サネ接合する隣接する木質床材間で微小な上下方向の移動ズレが生じることから、雄サネと雌サネの加工精度や、隣接する床材間での水平方向での押し付け力の大小等によっては、サネ接合部で軋み音やはじき音などの床鳴りが発生する場合がある。この床鳴りは、サネ接合部におけるサネ上部の短手方向の垂直木口面間で特に起こりやすい。
【0004】
そのような床鳴りの発生を防止するために、木質床材を床下地面に接着施工した後に、床鳴りが生じる目地部分(例えば、サネ接合部における短手方向の垂直木口面間)に、界面活性剤や潤滑性を持つ樹脂等である床鳴り防止剤を注入して接触部分の摩擦を低減することが提案されている(特許文献1、2等参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第2869253号公報
【特許文献2】特開2005−256496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、界面活性剤等からなる床鳴り防止剤をサネ接合部に注入して、接触部分の摩擦を低減する方法は、サネ接合部において雄サネと雌サネが比較的緩く嵌合している場合には、床鳴り防止処理として大きな効果を発揮する。しかし、雄サネと雌サネの加工精度の関係で、施工時に、隣接する木質床材を水平方向に強く押し付けることが必要とされたサネ接合部、すなわち、きつめ施工されたサネ接合部では、充分な効果が得られない場合がある。その理由は、床鳴りを防止のために、サネ上部の短手方向の垂直木口面間に強制的に隙間を作り、そこから床鳴り防止剤を注入しても、きつめ施工されたサネ接合部では、サネ同士の水平嵌合面に充分な量の床鳴り防止剤が浸入せず、また形成した隙間もすぐなくなってしまい、木口面および水平面同士が強く押し付け合うことで、床鳴りが発生すると考えられる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、隣接する木質床材を水平方向に強く押し付けることが必要とされたサネ接合部、すなわち、きつめ施工されたサネ接合部が一部に形成されている木質フロアであっても、そこで発生する床鳴りを確実に防止できるようにした、木質フロアの床鳴りを防止する方法と、床鳴り防止処理を施した木質フロアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による木質フロアの床鳴り防止方法は、サネを有する木質床材の多数枚を床下地面にサネ接合しながら敷き詰めて形成される木質フロアの床鳴り防止方法であって、木質床材同士の全部または一部のサネ接合部におけるサネ上部の少なくとも短手方向の垂直木口面間に接着剤を注入する処理を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明による床鳴り防止方法を施した木質フロアでは、接着剤が注入された短手方向の垂直木口面間は一体に固定されてしまうので、その箇所での垂直木口面間のズレは生じなくなり、きしみ音やはじき音などの床鳴りの発生は阻止される。長手方向の垂直木口面間に接着剤を注入してもよいが、長手方向の垂直木口面間で床鳴り音が発生することはほとんどなく、また接着剤の注入により木質フロア全体の剛性が高くなる恐れがあるので、サネ上部の少なくとも短手方向の垂直木口面間に接着剤を注入するだけで、所期の目的は達成できる。
【0010】
また、フロアの施工時に、すべての短手方向の垂直木口面間に接着剤を注入してもよいが、やはり木質フロア全体の剛性が高くなるのを阻止する目的から、フロア施工後に床鳴りが確認された部分の短手方向の垂直木口面間にのみ、補修の観点で接着剤を注入することが望ましい。さらに好ましくは、床鳴りが確認される部分であっても、木質フロアの施工時にきつめ施工されたサネ接合部にのみ、前記接着剤の注入を行うことが好ましい。この場合、床鳴りが確認された他の部分には、従来の界面活性剤等からなる床鳴り防止剤をサネ接合部に注入する床鳴り防止方法を適用する。それにより、フロアの剛性の向上を最少に抑えた状態での効果的に床鳴り防止処理を施すことが可能となる。
【0011】
本発明において、注入に用いる接着剤の種類は任意であるが、狭い隙間へ注入がしやすく、かつ注入後の浸透および充填が確実なことから、低粘度の接着剤が好ましく、イソシアネート系接着剤等がある。さらに好ましくは、ホルムアルデヒドを含まないことから、低粘度かつ常温硬化型の水性高分子イソシアネート系接着剤である。また、シアノアクリレートを主成分とする瞬間接着剤も用いることができる。
【0012】
本発明による木質フロアの床鳴り防止方法において、前記した接着剤を注入する処理を行う前に、接着剤を注入しようとする垂直木口面間に水を注入する処理を行うようにしてもよい。水を注入する態様には、当該垂直木口面間およびその近傍にスプレー等で水を噴霧する態様も含まれる。
【0013】
上記のようにして予め水を注入する処理を行うことにより、接着剤の濡れ性が向上して狭い隙間への接着剤の充填がより確実となり、接着剤の種類によっては、硬化促進も図ることができる。
【0014】
本発明はさらに、サネを有する木質床材の多数枚を床下地面にサネ接合しながら敷き詰めて形成される木質フロアであって、木質床材同士の全部または一部のサネ接合部におけるサネ上部の少なくとも短手方向の垂直木口面間を接着剤により一体に固定する床鳴り防止処理が施されていることを特徴とする木質フロアも開示する。
【0015】
上記の床鳴り防止処理を施した木質フロアにおいて、前記床鳴り防止処理が施されている箇所は、木質床材同士のサネ接合部におけるすべての短手方向の垂直木口面間であってもよいが、前記方法の発明で説明したように、フロア施工後に床鳴りが確認された部分の短手方向の垂直木口面間にのみ、補修の観点で接着剤を注入して一体に固定することが望ましい。また、床鳴りが生じている一部の垂直木口面間を接着剤により一体に固定し、他の部分は従来の界面活性剤等からなる床鳴り防止剤をサネ接合部に注入する床鳴り防止方法を適用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、きつめ施工されたサネ接合部が一部に形成されている木質フロアであっても、そこで発生する床鳴りを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面を参照しながら説明する。図1は木質床材の一例を示しており、図2はそれを床下地面に敷き詰めて形成された木質フロアを示している。図3は本発明による床鳴り防止処理を施す一例を模式的に説明する図である。
【0018】
図1に示す木質床材Aは、長尺の単位材20を雁行状に組み付けたものであり、図1(b)の断面に示すように、各単位材20は木質基材1と表面化粧層22とを備え、木質基材1の周囲には雄サネ2および雌サネ3が形成されていて、相互にサネ接合している。そして、各単位材20は緩衝シート6の上に一体に組み付けられて、一枚の木質床材Aとなっている。このような木質床材Aがサネ接合により所要枚数だけ床下地面4に接着剤5を用いて敷き詰められて、図2に示すような木質フロアとされる。
【0019】
このようにサネ接合により木質床材A同士が(また長尺の単位材20同士が)接合されている木質フロアでは、床面を人が歩くときに床鳴り現象が一部に起き易いことは、図4に基づき先に説明した。そこで、図2のPの領域で床鳴りが起こっていると想定し、その領域での、サネ接合部におけるサネ上部の短手方向の垂直木口面間Qに、本発明による床鳴り防止方法を適用することとする。
【0020】
図3は、図2の領域Pにおけるサネ接合部の1つを断面で示している。なお、図3において、図1(b)および図4で説明したと同じ部材には同じ符号を付している。図示しないが、最初に、サネ上部の短手方向の垂直木口面間Qに水を注入して、水を前記垂直木口面間Qおよびサネ同士の水平嵌合面間Rに行き渡らせる。水の注入はノズル等による注入のほかに、スプレー等による垂直木口面間Qの周囲への噴霧であってもよい。この処理を行うことにより、後に注入する注入用接着剤30の濡れ性が向上し、注入用接着剤30が垂直木口面間Qおよびサネ同士の水平嵌合面間Rに浸入しかつそこを充填しやすくなる。また、注入用接着剤30の種類によっては、硬化促進効果ももたらされる。
【0021】
注入した水が行き渡った時点で、サネ上部の短手方向の垂直木口面間Qに、注入用接着剤30(例えば、低粘度のイソシアネート系瞬間接着剤)を注入する。注入された注入用接着剤30は、図3に示すように、垂直木口面間Qに浸入していき、そこを注入用接着剤30で充填する。さらに多くの量の注入用接着剤30を注入することにより、サネ同士の水平嵌合面間Rにまで浸入する。注入した接着剤が硬化することにより、サネ接合部におけるサネ上部の短手方向の垂直木口面同士は、一体に固定される。また、接着剤の注入量によっては、サネ同士の水平嵌合面間Rも、一体に固定される。この固定により、木質床材の上を人が歩いたときでも、垂直木口面間Qでのズレは生じなくなり、前記領域Pにおいてきしみ音やはじき音などの床鳴りが生じるのを確実に阻止することができる。
【0022】
なお、上記の接着一体化による床鳴り防止処理はすべての床鳴り発生箇所に適用してもよいが、前記したように、きつめ施工されたサネ接合部にのみ適用することが、木質フロア全体の剛性低下を阻止する観点から好ましい。その場合、その他の床鳴り発生箇所には、従来の界面活性剤のような床鳴り防止剤を注入あるいは塗布する処理を行う。
【0023】
注入用接着剤30の注入時に、垂直木口面間Qの周辺領域にまで注入用接着剤30が広がってしまったような場合、注入用接着剤30がそのまま硬化するとそれが汚れとして残り、除去できなくなる恐れがある。それを防止するために、注入用接着剤30の注入に先立って、予め垂直木口面間Qの周辺をマスキングテープ(不図示)で保護しておくことが望ましい。
【0024】
なお、低粘度でありかつ浸透性に優れた性質を備えた接着剤を用いる場合には、前記した水を注入する処理を省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(a)は木質床材の一例を示す平面図、図1(b)は図1(a)のb−b線に沿う断面図。
【図2】図1に示す木質床材を床下地面に敷き詰めて形成された木質フロアの一例を示す図。
【図3】本発明による床鳴り防止処理を施す一例を模式的に説明する図。
【図4】木質床材のサネ接合部を説明する図。
【符号の説明】
【0026】
A…木質床材、P…床鳴りが生じている領域、Q…サネ上部の短手方向の垂直木口面間、R…サネ同士の水平嵌合面間、1…木質基材、2…雄サネ、3…雌サネ、4…床下地面、5…床材貼り付け用接着剤、6…緩衝シート、20…長尺の単位材、22…表面化粧層、30…注入用接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サネを有する木質床材の多数枚を床下地面にサネ接合しながら敷き詰めて形成される木質フロアの床鳴りを防止する方法であって、木質床材同士の全部または一部のサネ接合部におけるサネ上部の少なくとも短手方向の垂直木口面間に接着剤を注入する処理を行うことを特徴とする木質フロアの床鳴りを防止する方法。
【請求項2】
接着剤を注入する処理を行う前に、接着剤を注入しようとする垂直木口面間に水を注入する処理を行うことを特徴とする請求項1記載の木質フロアの床鳴りを防止する方法。
【請求項3】
接着剤としてイソシアネート系接着剤を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の木質フロアの床鳴りを防止する方法。
【請求項4】
サネを有する木質床材の多数枚を床下地面にサネ接合しながら敷き詰めて形成される木質フロアであって、木質床材同士の全部または一部のサネ接合部におけるサネ上部の少なくとも短手方向の垂直木口面間を接着剤により一体に固定する床鳴り防止処理が施されていることを特徴とする木質フロア。
【請求項5】
接着剤を注入しようとする垂直木口面間に水を注入する処理を行った後に、該垂直木口面間を接着剤により一体に固定する床鳴り防止処理が施されていることを特徴とする請求項4に記載の木質フロア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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