説明

果実保護体と果実の栽培方法

【課題】果実の糖度を向上させることができると共に、カラス等による鳥害に対する防止効果を有している果実保護体及びそれを用いた果実の栽培方法を提供する。
【解決手段】果実保護体である果実袋1は、袋体3の全体に、あるいは白色の袋体3aの上方側に、果実の糖度を向上させる黄色の着色部30,30aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実保護体と果実の栽培方法に関する。
更に詳しくは、葡萄などの果実を保護すると共に、果実の糖度を向上させることができる果実保護体及び果実の栽培方法に関する。
また、葡萄などの果実の糖度を向上させることができると共に、カラス等による鳥害に対する防止効果を有している果実保護体及びそれを用いた果実の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖度の高い葡萄果実(以下、単に「果実」という場合がある)を生産することは、あまくて美味しい果実を消費者に提供するだけではなく、コクのある高品質な甘口ワイン用の原料葡萄をワイン製造メーカーに提供するためにも重要である。従来より、葡萄果実の糖度を高めるために、堆肥を改善したり、適度な乾燥状態にして水ストレスを与えること等が行われている。
【0003】
また葡萄果実の栽培において、着果した果実を鳥害や病害虫等から保護するために、通常、果実には袋状の果実保護体である果実袋が掛けられる。ところで、特許文献1には、黄色、黄緑、緑、水色系のフィルムからなるゴミ袋が鳥害対策、特にカラス対策用に有効であることが開示されている。なお、特許文献1記載の発明は、あくまでもゴミ袋であって、果実袋についての記載はなく、ましてや葡萄などの果実の糖度向上に関しては何ら記載はない。
【特許文献1】特開2006−76761号公報(段落番号[0061]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、葡萄果実の糖度を高めるために、堆肥を改善したり、適度な乾燥状態にする方法が採用されているが、葡萄果実の糖度をより向上させるために、従来の方法とは異なる新たな方法の開発が求められている。
【0005】
ところで、本発明者らは、当初、葡萄果実の鳥害対策という観点から、着色を施した葡萄果実の果実袋に関して鋭意研究を行っていたところ、その過程において、黄色に着色を施した果実袋が葡萄果実の糖度向上に優れた効果を奏することを見い出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、葡萄などの果実を保護すると共に、果実の糖度を向上させることができる果実保護体及び果実の栽培方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、葡萄などの果実の糖度を向上させることができると共に、カラス等による鳥害に対する防止効果を有している果実保護体及びそれを用いた果実の栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0008】
本発明は、果実を保護する袋状または傘状の果実保護体であって、果実の糖度を向上させる黄色の着色部(30)(30a)を有する、果実保護体である。
【0009】
本発明は、果実を保護する袋状の果実保護体であって、袋体(3)の全体に、果実の糖度を向上させる黄色の着色部(30)を有する、果実保護体である。
【0010】
本発明は、果実を保護する袋状の果実保護体であって、白色の袋体(3a)の上方側に、果実の糖度を向上させる黄色の着色部(30a)を有する、果実保護体である。
【0011】
本発明は、上記果実が葡萄果実である、果実保護体である。
また、本発明は、上記いずれかに記載の果実保護体で果実を保護するようにした、果実の栽培方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る果実保護体を用いて栽培することにより、葡萄などの収穫する果実の糖度を向上させることができる。また本発明に係る果実保護体を用いて栽培することにより、葡萄などの果実の糖度を向上させることができると共に、カラス等による鳥害を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る果実保護体としては、袋状の果実袋や、傘状の果実傘を挙げることができる。果実傘としては、果実の上部または全体を覆う傘状のカバーを有しているものを好適に使用できる。
【0014】
果実保護体が果実袋の場合、袋体の全体に、あるいは白色の袋体の上方側に、葡萄果実の糖度を向上させる黄色の着色部を有しているものを好適に採用できる。
【0015】
黄色の着色部は、果実保護体の表面(外面)または裏面(内面)の何れか一方または双方に施すことができる。また、少なくとも果実保護体の表面に黄色の着色部を設けることで、鳥害に対する防止効果(鳥に対する忌避効果)が得られる。
【0016】
また黄色の着色部は、着色部全体に同じ色の濃さで均一に着色を施すこともできるし、濃淡を変えて施す(グラデーションを施す)こともできる。例えば果実袋の上半分を黄色とし、下半分を白色とする場合、その境界部分を黄色と白色で明確に分けるのではなく、黄色から次第に白色になるようなグラデーションとすることもできる。
【0017】
果実保護体で保護する果実としては、栽培時に果実保護体を使用する果実、例えば葡萄果実を挙げることができる。また葡萄果実に限らずにナシ,ビワ等の他の果実にも使用することができる。
【0018】
果実保護体(果実袋の場合は袋体)の材質としては、紙、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂フィルム等といった合成樹脂フィルム、またはこれらの複合体(紙への熱可塑性樹脂フィルムのラミネート処理や、熱可塑性樹脂フィルム同士のラミネート処理、あるいは紙と熱可塑性樹脂フィルムの貼り合わせ)等が挙げられる。
【0019】
上記した黄色の着色部を設ける方法としては、果実保護体の成形前の素材または成形後の果実保護体の表面または/及び裏面等に塗布または印刷等の処理によって着色を施す方法や、成形前の状態である原材料に予め着色のための顔料を含有させておく方法等が挙げられる。
【0020】
紙製材料、または紙製材料を主に使用して形成した果実保護体(合成樹脂フィルムを一部含んでいるものも含む)で葡萄果実を栽培する場合、葡萄果実の糖度を好適に向上させ、カラス等の鳥害に対する防止効果が好適に得られる黄色としては、L***表色系におけるL*値が85〜90、a*値が−15〜−5、b*値が85〜100であることが好ましい。
更に、紙製材料、または紙製材料を主に使用して形成した果実保護体(合成樹脂フィルムを一部含んでいるものも含む)で、ナシ、ビワ等の果実を栽培する場合、これら果実の糖度を好適に向上させる黄色としては、L***表色系におけるL*値が65〜100、a*値が−15〜15、b*値が40〜110であることが好ましい。
なお、L***表色系は、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間であり、日本工業規格ではJISZ8729に規定されている。
【0021】
果実保護体が果実袋の場合、その形態は、実際に果実に袋掛けをする際に袋状になっていれば良く、未使用時にはシート状に折り畳んでまたは閉じて保管できる形態であっても良いことは言うまでもない。
【0022】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明を図面に示した実施例に基づき更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明に係る果実保護体である果実袋の第1の実施例を示しており、葡萄果実に果実袋を取り付けた使用状態を示す斜視説明図である。
【0024】
図1に示す果実袋1は、葡萄果実2を覆うことができる大きさの袋体3と、葡萄果実2の枝部である果梗21に括って(かたく結んで)袋体3を外れないようにする細長い帯状の果梗緊結部4とを有している。図1で袋体3の上端部には、葡萄果実2を挿入する開口部(図面では現れない)が形成されている。上記した果梗緊結部4は、袋体3の上部側における幅方向の一端側に設けてある。
【0025】
即ち、袋体3の幅方向の一端縁部分には、高さ方向に所要の長さの切込部5(果梗緊結部4と共に、図1では一部が見えている)が形成されている。この切込部5によって、袋体3の一端側に細長い帯状の果梗緊結部4が構成されている。果梗緊結部4の内部には針金等の鋼線材41が挿通した状態で設けてある。
【0026】
以上のような構成により、葡萄の栽培時において袋掛けを行う際には、まず、袋体3に空気を入れて風船状態に膨らませる。そして、膨らませた袋体3で葡萄果実2を包み込んだ後、開口部(符号省略)を葡萄の果梗21部分ですぼめる。最後に、鋼線材41が入った果梗緊結部4で果梗21を括って、袋体3が果梗21から外れないように固定する。
【0027】
更に袋体3は、その表面側(外側)の全体に黄色の着色部30(図1では灰色で図示)を有している。詳しくは、袋体3は、パラフィンワックス等の撥水剤によって表面が撥水加工された白色ロール紙で袋状に成形されている。更に、成形前の段階で、原材料である上記白色ロール紙の表面に黄色の水性インキ(商品名「アクワプラス 23黄」、東洋インキ製造株式会社製)を印刷または塗布して着色部30を構成し、その後、成形工程を経て袋体3が製造される。
【実施例2】
【0028】
図2は、本発明に係る果実保護体である果実袋の第2の実施例を示しており、葡萄果実に果実袋を取り付けた使用状態を示す斜視説明図である。
なお、実施例1と同一または同等箇所には同一の符号を付して示している。また、実施例1で説明した箇所については、説明を省略し、主に相異点を説明する。
【0029】
実施例2に係る果実袋1aでは、実施例1(図1参照)と相違して、果実を覆う白色の袋体3aの上方側に黄色の着色部30aを有している。なお、本実施例では、袋本体3aの上半分に着色部30aが施されている。
その他の構成は、実施例1と同じか大体において同じであるため、説明を省略する。
【0030】
[実験例]
(糖度)
上記した実施例1の果実袋1(図1参照)と、実施例2の果実袋2(図2参照)が葡萄果実2の糖度にどのように影響するかを、以下のような実験で確認した。なお、対照として、着色していない白色の袋体からなる果実袋(着色していない以外は実施例1、2と同様にして作製)を用意し、これを比較例1とした。
【0031】
実験対象とした葡萄の品種は巨峰である。実験は、葡萄農園において結実時期に同じ木の各果実に対し、実施例1、2及び比較例1の各果実袋をそれぞれ掛け(実施例1、2及び比較例1ごとに5房づつ、合計15房)、通常の出荷できる状態になるまで成熟させた(袋を掛けてから出荷までの64日間)。そして、収穫後、各葡萄の糖度を測定し、比較・検討した。
【0032】
詳しくは、図1及び図2に示すように、葡萄果実一房に対して一つの果実袋を掛け、収穫後、同じ果実袋内の房の上部、中部、下部からそれぞれ3、4、3粒づつ採取し(一房あたり合計10粒)、その10粒の平均の糖度をその房の糖度とした。そして、上記したように実施例1、実施例2及び比較例1ごとに、それぞれ5房の果実を収穫し、5房の糖度の平均を各実施例1、実施例2及び比較例1の糖度とした。
【0033】
糖度は、糖度計(京都電子工業株式会社製、ポータブル糖度計RA-250)により測定した。その結果を図3に示す。下記図3の結果から明らかなとおり、比較例1の糖度16.06%に対して、実施例1(全体を黄色で着色)では糖度16.52%、実施例2(上方側を黄色に着色)では16.63%と優れた値を示した。
【0034】
また、図3で示した各実施例1、2及び比較例1に係る糖度を房の上部、中部、下部にそれぞれ分けて表した測定結果のグラフを図4に示す。即ち、図4で示す各房の上部、中部及び下部の平均値が図3で示した値となる。なお、棒グラフの上方に各糖度の測定値を示している。
【0035】
図4の結果から明らかなように、果実袋の上部から中部にかけては、白色(比較例1)よりも黄色(実施例1、2)に着色する方が葡萄果実の糖度が向上することが分かる。これに対し、果実袋の下部については、黄色(実施例1)よりも白色にする方(実施例2及び比較例1)が葡萄果実の糖度が向上することが分かる。
【0036】
(遮光率)
また、各果実袋における黄色の部分と、白色の部分の遮光率を照度計(一般形AA級照度計,型名510 01,横河M&C株式会社製)を用いてそれぞれ測定した。即ち、外界からの光を遮った箱の上部にライトを取り付け、最初の照度計の値を25,000Lxに調整し,照度計に試験片(果実袋を切ったもの)を載せて再度照度を測定し、その前後の値より遮光率を求めた。得られた測定結果を平均すると、黄色部分の遮光率が約48%、白色部分の遮光率が約36%であり、白色部分に比べ、黄色部分の遮光率が高いことが分かる。
【0037】
この黄色の着色の有無によって生じる遮光率の差と、葡萄果実の糖度の関係について考えると、その正確なメカニズムは明らかではないが、葡萄果実の下部側に比べて太陽光線が過度に当たりやすい葡萄果実の上部側に関しては、黄色に着色して遮光率を上げることで太陽光線を適度に抑制して糖度の低下を防止できるのではないか、と推察できる。また、葡萄果実の上部側に比べて太陽光線の影響が少ない葡萄果実の下部側に関しては、白色にすることで太陽光線が十分に当たるようになって糖度が向上するのではないかと、推察できる。更にフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)分析を行ったところ、この黄色の着色部分は白色部分よりも赤外線の透過率が高いことが分かり、分光光度計による測定を行ったところ、約350nm〜550nmに高い吸光度がみられた。このことから特異的な波長域の光の透過が葡萄果実の糖度向上に関与している可能性も示唆される。なお、実際の理由が仮に上記した推察によるものでない場合も、本実施例の技術的効果が否定されるものではない。
【0038】
(鳥害に対する防止効果)
また果実袋に黄色の着色部を設けることによって、カラス等の鳥害に対してどの程度の効果があるかを確かめるために、以下のような実験を行った。即ち、上記した各実施例1、2及び比較例1に係る各果実袋を各120枚(合計360枚)巨峰に掛け、出荷までの64日間、毎週、検査して被害にあった袋の数を確認した。その結果を図5に示す。
【0039】
図5の結果から明らかなように、全面黄色に着色した実施例1では、出荷するまでの64日間、被害を全く受けなかった。これに対し、全面白色の比較例1では、49日後に2件、56日後に9件、64日後に7件の合計18件の被害を受けた。また上方が黄色で下方が白色の実施例2では、多少の被害を受けたものの、比較例1に比べて8件と少ない被害件数であった。
【0040】
なお、実施例2では上方だけを着色するために、手作業で黄色の水性インキを白色ロール紙上に塗布したため、印刷によって着色を施した実施例1に比べて太陽紫外線や雨等による色落ちが進んでおり、これが鳥害を受けやすかった原因ではないかとも考えられる。
【0041】
(L***系表色の測定)
果実袋における黄色に着色した部分と、白色の部分とを、色彩色差計(KONICA MINOLTA製、型式CR-400)を用いてそれぞれ測定し、これをJISZ8729に規定するL***表色系にて定義した。黄色に着色した部分は、L*値が87.76、a*値が−8.50、b*値が95.67であった。白色の部分は、L*値が93.95、a*値が−0.82、b*値が7.52であった。また黄色に着色した部分の主波長(XYZ(Yxy)表色系から求められる波長)は約575nmであった。
【0042】
なお、色彩色差計による測定は、平板机の白色の天板上で行った。詳しくは、黄色に着色した部分に関しては、実施例1の果実袋の上部と下部をそれぞれ3点ずつ合計で3袋測定したものと、実施例2の果実袋の上部を3点、合計で3袋測定したものとを合わせた全27点の平均値を測定値とした。また白色の部分に関しては、実施例2の果実袋の下部を3点、合計で3袋測定したものと、比較例1の果実袋の上部と下部をそれぞれ3点ずつ、合計で3袋測定したものとを合わせた全27点の平均値を測定値とした。
【0043】
本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0044】
更に、特許請求の範囲には、請求項記載の内容の理解を助けるため、図面において使用した符号を、括弧を用いて記載しているが、特許請求の範囲を図面記載のものに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る果実保護体である果実袋の第1の実施例を示しており、果実袋を葡萄果実に取り付けた使用状態を示す斜視説明図。
【図2】本発明に係る果実保護体である果実袋の第2の実施例を示しており、果実袋を葡萄果実に取り付けた使用状態を示す斜視説明図。
【図3】実施例1、実施例2及び比較例1をそれぞれ用いて栽培した葡萄果実の糖度を示すグラフ。
【図4】実施例1、実施例2及び比較例1をそれぞれ用いて栽培した葡萄果実の上部、中部、下部の各部位の糖度を示すグラフ。
【図5】実施例1、実施例2及び比較例1をそれぞれ用いて栽培した葡萄果実の鳥害にあった被害件数を示すグラフ。
【符号の説明】
【0046】
1,1a 果実袋
2 葡萄果実
21 果梗
3,3a 袋体
30,30a 着色部
4 果梗緊結部
41 鋼線材
5 切込部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実を保護する袋状または傘状の果実保護体であって、
果実の糖度を向上させる黄色の着色部(30)(30a)を有する、
果実保護体。
【請求項2】
果実を保護する袋状の果実保護体であって、
袋体(3)の全体に、果実の糖度を向上させる黄色の着色部(30)を有する、
果実保護体。
【請求項3】
果実を保護する袋状の果実保護体であって、
白色の袋体(3a)の上方側に、果実の糖度を向上させる黄色の着色部(30a)を有する、
果実保護体。
【請求項4】
果実が葡萄果実である、
請求項1ないし3のいずれかに記載の果実保護体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の果実保護体(1)(1a)で果実を保護するようにした、
果実の栽培方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−104447(P2008−104447A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86815(P2007−86815)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(504289417)江見製袋株式会社 (1)
【Fターム(参考)】