説明

果実保護用被覆体及びその製造方法

【課題】本発明は、毛羽立ちがなく開口部が確実に閉塞することができる果実保護用被覆体を提供することを目的とするものである。
【解決手段】被覆体1は、1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントにより編成された筒状編地であって、筒状編地を構成するループが引き伸ばされてモノフィラメントFが経方向に配列された状態に設定されており、緯方向の最大伸長率が10%以上で目付が10g/m2〜100g/m2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実の風雨による損傷や害虫の被害を防止する果実保護用被覆体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露地栽培される果実類は、風雨等の自然災害による損傷や害虫の被害を受けやすく、そのため果実全体を袋で覆うことでこうしたダメージを避ける対策が講じられている。果実に袋を掛ける作業は手間がかかり、また紙製の袋は耐久性に乏しいことから、筒状編地を用いた果実用袋が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、編地横方向における最大伸長率が10%以上の伸縮性を有しており、目付が60〜250g/m2である疎水性繊維の筒状編地からなる果実の保護・成長促進用袋が記載されている。また、特許文献2では、単繊維太さが1〜10デニールの化学繊維糸を仮撚り加工し、伸縮性を付与した原糸を用いて筒状編地袋に編成した後、該筒状編地袋に対して長手方向に1m当たり1〜40回の撚りを掛けての熱処理と、撥水加工を施し、編地上に多数のしわと撥水性を有する中晩柑類果実の樹上越冬用袋が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭57−19973号公報
【特許文献2】特許第4019340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した先行技術では、筒状編地に伸縮性を持たせて果実に対するフィット性を良好にして取付作業の効率化を図るようにしているが、筒状編地に使用する糸としてマルチフィラメントを用いると、編加工の際に毛羽が立ちやすい欠点がある。毛羽立った編地表面が果実に接触した状態が長期間継続すると、果実表面に悪影響を及ぼすおそれがある。また、果実へ袋を取り付ける際に、果実の皮、樹皮又は作業者の手肌に編地が引っ掛かり、そのため取扱いがしにくく破れやすい欠点がある。
【0006】
また、筒状編地を編成する場合、細幅に編成するのは限界があり、そのまま果実に被覆した場合に開口部が十分に閉塞しないことがある。特許文献2では、筒状編地に撚りを掛けて熱処理してしわを付与するようにしているが、確実に閉塞するとまではいえず、また、撚り固定で糸に負荷がかかって毛羽立ちやすくなるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、毛羽立ちがなく開口部が確実に閉塞することができる果実保護用被覆体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る果実保護用被覆体は、1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントにより編成された筒状編地であって、当該筒状編地を構成するループが引き伸ばされてモノフィラメントが経方向に配列された状態に設定されており、緯方向の最大伸長率が10%以上で目付が10g/m2〜100g/m2であることを特徴とする。さらに、前記モノフィラメントは、伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られたモノフィラメントであることを特徴とする。さらに、前記筒状編地は、周方向の長さが20mm〜150mmであることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る果実保護用被覆体の製造方法は、伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られた1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントを用いて目付が10g/m2〜150g/m2で筒状編地を編成し、編成された筒状編地に対して経方向の引張力を加えて筒状編地のループを引き伸ばしてモノフィラメントが経方向に配列した状態で熱セットすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のような構成を有することで、1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントにより編成された筒状編地であるので、マルチフィラメントのような毛羽立ちが発生することがない。また、筒状編地を構成するループが引き伸ばされてモノフィラメントが経方向に配列された状態に設定されているので、配列されたモノフィラメントの間の間隔が狭く設定され、筒状編地をより細幅にすることができ、開口部を確実に閉塞することが可能となる。また、モノフィラメントの間を拡げるように緯方向には伸長することができるので、果実に対して筒状編地を容易に被覆させることが可能となり、取付作業の効率が向上する。また、1デシテックス〜33デシテックスの細いモノフィラメントを用いることで、果実表面に対して斑なく日光が入射するようになり、被覆体により被覆した影響を最小限に抑えることができる。
【0011】
そして、緯方向の最大伸長率を10%以上とすることで、果実が小さい実の段階から被覆体で被覆しておいても実の成長に合わせて被覆体が緯方向に拡がっていくようになり、目付を10g/m2〜100g/m2とすることで、被覆体の重量が果実に与える影響がほとんどなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る実施形態に関する外観斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図及びB−B断面図である。
【図3】被覆体を果実に装着して取り付けた状態に関する外観斜視図である。
【図4】被覆体の製造過程に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る実施形態に関する外観斜視図であり、図2は、図1のA−A断面図(図2(a))及びB−B断面図(図2(b))である。果実保護用被覆体1は、細幅の筒状編地からなる。図2(a)に示すように、内周面が密着して平面状に設定された状態における幅Dは10mm〜75mmであり、周方向の長さは、幅Dの2倍の20mm〜150mmに設定されている。周方向の長さが10mmよりも小さくなると、果実への取付作業が難しくなり、150mmを超えると、果実に取り付けた場合に開口部が十分閉じた状態にならなくなる。
【0015】
また、長手方向の長さは、編成された長尺状の筒状編地を被覆する果実に応じて適当な長さに切断して設定すればよく、例えば、170mm〜300mm程度にすればよい。
【0016】
両端の開口部2及び3は、折り返されており、果実に取り付ける際に果実を挿入しやすくなっている。端部の折り返しは、片方の開口部のみに形成するようにしてもよい。
【0017】
被覆体1は、1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントを用いて丸編機により編成されており、モノフィラメントとしては、疎水性の合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ乳酸繊維、ビニロン繊維等が挙げられる。図1の拡大図に示すように、被覆体1の筒状編地を構成するループLは、経方向(被覆体1の長手方向)に引き伸ばされて、ループLを構成するモノフィラメントFが折れ曲がるように経方向に配列されている。引き伸ばされたループLの経方向の長さは1mm〜3mm程度の細かい網目状となっている。
【0018】
こうした編目構造を有するため、緯方向(被覆体1の幅方向)に伸縮性を有しており、緯方向に引張ることでループLを拡げるように引き伸ばすことができる。緯方向の最大伸長率は10%以上有しており、好ましくは50%以上であるとよい。最大伸長率が10%以上であれば、果実が熟成する前から被覆体1を取り付けて風雨や害虫のダメージから保護することができる。また、最大伸長率が50%以上であれば、果実が小さい段階から被覆体1を取り付けることができ、長期にわたって果実を保護することが可能となる。
【0019】
被覆体1を構成する筒状編地の目付は10g/m2〜100g/m2であることが好ましい。10g/m2より小さいと、筒状編地の網目が大きくなって害虫が侵入しやすくなる。また、100g/m2を超えると、網目が小さくなって日光の透過率が低くなり、果実表面に対して被覆体の影響が及ぶようになる。
【0020】
図3は、被覆体1を果実に装着して取り付けた状態に関する外観斜視図である。被覆体1の開口部2が形成された一端部分は、果実の果梗部を覆う位置まで被覆しており、果梗部に密着した状態になっている。果実を覆う部分では、拡大図に示すように、被覆体1を構成するループLが緯方向に拡がり、果実表面に密着して被覆するようになる。開口部3が形成された他端部分では、緯方向に拡がらずに狭窄した状態のままとなっている。
【0021】
被覆体1は、緯方向に伸縮性を有しているので、開口部2の一端部分では果梗部に密着して蟻等の害虫の侵入ができないようになっており、また開口部3の他端部分についても開口部3が狭窄した状態で閉鎖しており、同様に害虫の侵入を防止している。
【0022】
果実表面を覆う部分については、ループLが緯方向に拡がって網目状になり、日光が十分透過するようになる。また、モノフィラメントFとして繊度が1デシテックス〜33デシテックスと細いものを用いているため、モノフィラメントの影が果実表面に影響を及ぼすことがなく、果実表面に斑なく日光が照射されるようになる。モノフィラメントの繊度が33デシテックスよりも太くなると、果実表面に均等に日光が照射されなくなり、果実表面の色合いが斑模様となる。
【0023】
そして、モノフィラメントを用いているため、マルチフィラメントを用いた場合のように毛羽立ちが生じないので、果実表面に密着した状態でも果実表面に与える影響はほとんどない。
【0024】
また、ループLが拡がった網目状態でも細かい網目なので、害虫の侵入や果実表面の損傷を確実に防止することができる。さらに、疎水性のモノフィラメントを用いているので、果実に雨滴が付着しにくくなり、風雨に対する影響を確実に抑止することができる。
【0025】
被覆体1を構成するループLが上述したように引き伸ばされた状態に設定するためには、モノフィラメントFとして伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られたモノフィラメントを用いるとよい。こうしたモノフィラメントは、糸長方向に引っ張られていない状態では、撚れたように各所で湾曲又は折れ曲がった状態で変形しており、筒状編地に編成してループとなった場合でもこうした変形が残留した状態となる。したがって、編成された筒状編地に対して経方向に引張力を加えることで、モノフィラメントの変形が引き伸ばされて経方向に配列した状態に設定されるようになる。
【0026】
なお、伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られたモノフィラメントを用いているが、こうしたモノフィラメントを複数本まとめたマルチフィラメントで用いてもループを引き伸ばした状態に設定することができる。
【0027】
図4は、被覆体1の製造過程に関する説明図である。まず、伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られたモノフィラメントFを公知の丸編機Mにセットして筒状編地Nを編成する。編成された筒状編地はボビンに巻き付けられてロール10が得られる(図4(a))。
【0028】
次に、ロール10から筒状編地Nを繰り出しながらフィードローラ11及び12で搬送する。その際にフィードローラ12の搬送速度をフィードローラ11よりもわずかに速く設定することで、筒状編地Nに対して経方向の引張力を付与し、筒状編地Nを構成するループを引き伸ばした状態に設定する。フィードローラ11及び12の間には加熱装置13が設けられており、ループが引き伸ばされた状態の筒状編地Nを加熱して熱セットする。熱セットされた筒状編地Nは、巻取りロール14に巻き取られる(図4(b))。
【0029】
そして、巻取りロール14は、果樹園等の取付作業が行われる場所に持ち込まれて所定の長さに切断され、被覆体1が果実を覆うように取り付けられる。なお、果実に取り付ける際には、切断せずに果実に一旦取り付けた後に適当な長さを残して切断するようにしてもよい。
【実施例】
【0030】
モノフィラメントとして、22デシテックスのポリエステル繊維からなるモノフィラメントを用いた(愛知繊維株式会社製)。このモノフィラメントは、伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られたものである。
【0031】
モノフィラメントを丸編機(英光産業株式会社製)により13コース/インチ及び19ウエール/インチで、ニードルループ数240個で筒状編地を編成した。目付けは30g/m2であった。
【0032】
筒状編地に対して、図4に示すように、経方向に引張力を加えてループを引き伸ばし、100℃で熱セット処理した。処理された筒状編地は、幅20mmであり、ループを構成するモノフィラメントは経方向に配列されていた。筒状編地を緯方向に拡げたところ幅100mmまで拡げることができた。最大伸長率は500%であった。
【0033】
筒状編地を長さ270mm分切断して被覆体とし、直径25mm〜35mmのイチジクの実に装着した。果実の果梗部に70mm分被覆し果実部を50mm分で被覆した。被覆体は果梗部及び果実部に密着した状態となり、果実部から開口端までは閉鎖した状態となってショウジョウバエ等の害虫が侵入するような隙間は形成されていなかった。
【0034】
被覆体を装着後3ヶ月経過した段階では、被覆体がずれていることはなく果実表面に均一に日光が照射して斑模様は生じていなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 果実保護用被覆体
2 開口部
3 開口部
F モノフィラメント
L ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントにより編成された筒状編地であって、当該筒状編地を構成するループが引き伸ばされてモノフィラメントが経方向に配列された状態に設定されており、緯方向の最大伸長率が10%以上で目付が10g/m2〜100g/m2であることを特徴とする果実保護用被覆体。
【請求項2】
前記モノフィラメントは、伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られたモノフィラメントであることを特徴とする請求項1に記載の果実保護用被覆体。
【請求項3】
前記筒状編地は、周方向の長さが20mm〜150mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の果実保護用被覆体。
【請求項4】
伸縮性を有する嵩高加工糸を分繊して得られた1デシテックス〜33デシテックスのモノフィラメントを用いて目付が10g/m2〜150g/m2で筒状編地を編成し、編成された筒状編地に対して経方向の引張力を加えて筒状編地のループを引き伸ばしてモノフィラメントが経方向に配列した状態で熱セットすることを特徴とする果実保護用被覆体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−72280(P2011−72280A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229245(P2009−229245)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(591109049)岡本レース株式会社 (6)
【出願人】(509274267)川▲崎▼産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】