説明

果実袋

【課題】十分な病害虫効果を発揮することができるとともに、果実の残留農薬を極めて少なくすることができる果実袋1を提供する。
【解決手段】果実袋1は、所定の果実袋原紙12を封筒状に製袋して形成され、開口する上縁4から果実20を挿入するとともに、当該上縁4から所定距離をあけて下方を前記果実20の果梗21に集縛する果実袋1において、少なくとも前記果梗21に集縛する部分を含む上部に帯状に形成され、害虫防除剤を含浸した上部領域9と、前記上部領域9の下方に形成され、前記果実20を包み込むとともに前記害虫防除剤を含浸しない果実包装領域10と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実袋に関し、特に、安全に高い防害虫効果を発揮する果実袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、梨等の果実を生産する際には、病害虫等の防除、果実表面の保護、果実の成育の促進等の目的で、栽培途中の果実に紙等でできた果実袋を被袋させる栽培法が知られている。しかし、例えばシンクイムシやカイガラムシ等の病害虫の防除には、果実袋を被袋させただけでは十分な効果を発揮できないので、果実栽培に際しては、病害虫の防除に効果のある農薬の散布も併せて行われていた。
【0003】
しかし、農薬の散布は、病害虫の発生時期や気象条件に合わせて適切に行う必要があり、その判断は困難なものである。また、農薬の散布は、飛散した農薬が周辺住民の健康を害する被害や周辺で栽培される他の農産物に付着する被害等、周辺環境に影響を及ぼす所謂ドリフト被害を引き起こす可能性もある。
【0004】
そこで、病害虫の発生時期や気象条件に関係なく病害虫の防除が可能であり、農薬の飛散も起こらない方法として、防虫効果のある農薬を果実袋に含浸させる方法が挙げられる(例えば特許文献1)。この方法によると、病害虫の防除に効果のある農薬を果実袋全体に含浸させるので、病害虫が袋内の果実と接触することはできず病害虫被害を大きく減少させることができる。
【特許文献1】特開2008−5828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように農薬を含浸させた果実袋を果実に被袋すると、果実にある程度の農薬が付着することが避けられず、残留農薬基準値以下ではあるものの、一部の農薬が果実に残留することとなる。残留農薬は、消費者にとって大きな関心事であるので、よりいっそう残留農薬を少なくすることが求められている。
【0006】
そこで本発明は、十分な病害虫効果を発揮することができるとともに、果実の残留農薬を極めて少なくすることができる果実袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1の発明の果実袋は、所定の原紙を封筒状に製袋して形成され、開口する上縁から果実を挿入するとともに、当該上縁から所定距離をあけて下方を前記果実の果梗に集縛する果実袋において、少なくとも前記果梗に集縛する部分を含む上部に帯状に害虫防除剤を含浸した上部領域と、前記上部領域の下方に形成され、前記果実を包み込むとともに前記害虫防除剤を含浸しない果実包装領域と、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明の果実袋は、請求項1記載の果実袋において、前記果実包装領域よりも下方の袋底に沿って帯状に害虫防除剤を含浸し、且つ袋内の水分を袋外に放出する水抜き穴が設けられた下縁領域を更に備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る果実袋によると、少なくとも果実袋を果梗に集縛する部分を含む上部に帯状に形成された上部領域に害虫防除剤を含浸しており、この上部領域の下方に形成され果実を包み込む果実包装領域には害虫防除剤を含浸していない。病害虫は、果梗をつたって果実袋の果梗に集縛する部分の隙間から袋内に侵入する場合が殆どである。したがって、この集縛する部分を含む上部領域に害虫防除剤が含浸されることで、上述のような、集縛する部分の隙間から病害虫が袋内に侵入することを防ぐことができ、果実栽培における病害虫被害を効果的に抑制することができる。
【0010】
しかも、上部領域の下方に形成され果実を包み込む果実包装部には害虫防除剤を含浸していないので、果実に直接害虫防除剤が付着することがない。したがって果実に害虫防除剤が残留することを極めて効果的に抑制することができる。
【0011】
また、このように果実袋の全体ではなく、一部にのみ害虫防除剤を含浸させることで、害虫防除剤の使用量を少なくすることができる。
【0012】
請求項2に係る果実袋によると、果実包装部分よりも下方に袋底に沿って帯状に形成され、袋内の水分を袋外に放出する水抜き穴を設けた下縁領域に害虫防除剤を含浸させたので、水抜き穴からの病害虫の果実袋内への侵入を抑止することができる。果実袋において、害虫が侵入可能な部分は、開口する上縁と水抜き穴のみであるので、これらの部分からの病害虫の侵入を防ぐことで、果実袋内に病害虫が侵入することを極めて効果的に防ぐことができる。しかも、この害虫防除剤が含浸された下縁領域は、果実包装部よりも下方に形成されているので、この部分が直接果実に接することもなく、果実に害虫防除剤が付着して残留するといったことを抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図1から図5を参照しつつ、本発明の果実袋1について説明する。果実袋1は、例えば、白色模造紙、褐色模造紙、赤色模造紙、筋入りクラフト紙、筋無クラフト紙、新聞用原紙などの種々の原紙を封筒状に製袋して形成されるものであって、図1から図3に示すように、外袋2の内部に、上端が外袋2よりもやや下方に位置するように内袋3が収納されている。外袋2は、例えば幅が15cm程度で高さが18cm程度の封筒形状であり、その上縁4は開口して果実20を挿入することができるように形成されるとともに、その下端は外袋2の一方の面を他方の面側に折り曲げて接着剤等で貼着することで袋底5を形成している。また、外袋2の袋底5の両隅には雨水の排出や換気ができる水抜き穴6が設けられている。
【0014】
なお、本実施例においては、外袋2の果実20を挿入する開口を有する側を上方、外袋2の袋底5が形成される側を下方という。また、上下方向の長さを高さ、左右方向の長さを幅という。
【0015】
外袋2の上縁4は、一方の面側が他方の面側よりも中央部分が下方に窪んだ形状となっており、この上縁4を開口させる際に拡げ易く、また、果実20を挿入し易くしている。外袋2の上縁4から3cm程度下方の所定位置には、この外袋2を果実20の果梗21に集縛することができる集縛用針金7が粘着テープ8などによりその長手方向を幅方向に向けて固定されている。
【0016】
ここで、集縛用針金7は、例えば、幅が狭く、長い帯状のポリエステルなどの樹脂材を2枚重ねた間に鉄製の針金を挟み、上記2枚のポリエステルを接合したものが用いられる。これにより、単に針金を用いる場合に比べて指に突き刺さる虞が軽減されるので、安全に果実袋1の集縛作業を行うことができる。また、上記のように帯状とすることで、集縛用針金7を粘着テープ8で果実袋1により確実に固定することができる。なお、集縛する手段として上述のような集縛用針金7が好適に用いられるが、例えば紐などの締結手段であってもよく、果実袋1を果梗21の周囲に締め付けて固定することができるあらゆる手段を適用することができる。
【0017】
一方、内袋3は高さが例えば14cmで幅が例えば14.5cm程度の筒状に形成されている。このように、内袋3は外袋2よりもやや小さい形状であるので、外袋2の内部に収納することができる。内袋3は外袋2の袋底5に内袋3の底がほぼ重なるように収納され、内袋3上縁付近および底付近の糊付け部で、内袋3の外側と外袋2の内側とを接着剤等によって貼着される。
【0018】
以上のように構成される果実袋1の外袋2の上縁4から4cm程度下方位置までは、帯状に害虫防除剤が含浸された上部領域9が形成されており、また外袋2の袋底5から1cm程度上方位置までにも、帯状に害虫防除剤が含浸された下縁領域10が形成されている。また、これらの上部領域9と下縁領域10との間には、果実20を包み込む部分である果実包装領域11が形成されており、この果実包装領域11には害虫防除剤は含浸されていない。
【0019】
果実袋1は、上縁4及び水抜き穴6のみが外部に向かって開いているので、病害虫はこれら上縁4及び水抜き穴6からのみ果実袋1内に侵入することができるが、このように上縁4の下方の果実袋1を果梗21に集縛する部分を含む上部領域9及び水抜き穴6の近傍である下縁領域10に害虫防除剤が含浸されることで、病害虫はこれらの部分を通過することができない。したがって、上述のような構成とすることで、果実袋1内に病害虫が侵入することを効果的に抑制することができる。害虫防除剤としては、例えばダイアジノン等の有機リン系薬剤、ペルメトリン等のピレスロイド系薬剤、等の殺虫成分又は病害虫が忌避する成分を有効成分とする農薬取締法の規定により登録された種々の農薬を単独又は複数混合したものを用いることができ、果実袋1を使用する農作物の品種や防除したい病害虫の種類に応じて選択することができる。
【0020】
上述のような果実袋1を果実20に被袋するときには、果実袋1の上縁4の下側を指で挟持して幅方向にずらし、果実袋1の上縁4を広げる。そして、この広がった上縁4から果実袋1の内袋3内に果実20を挿入する。次に、果実20を果実袋1内に挿入した状態で、果実袋1の上部領域9を果実20の果梗21に集め、外袋2に固定されている集縛用針金7を用いて縛る。これにより、果実袋1は果実20を内部に内包した状態で果梗21に固定される。
【0021】
このとき、害虫防除剤を含浸された果実袋1の上部領域9は、果梗21部分に固定されるので果実20に触れることはなく、また、果実20は果梗21に固定されているので、果実袋1の害虫防除剤を含浸させた部分である下縁領域10にも、果実20が触れることはない。したがって、果実20は害虫防除剤が含浸されていない果実包装領域11にのみ接触することとなるので、果実20に害虫防除剤が付着することはなく、害虫防除剤が残留することもない。
【0022】
以上のような果実袋1を製造するときには、図4に示すように、複数の外袋2を製造できる大きさの果実袋原紙12の一方の面に、まず、製袋したときに果実袋1の上部領域9となる位置A及び製袋したときに果実袋1の下縁領域10となる位置Bに、例えば水で希釈した害虫防除剤を付着させた刷毛又はローラを用いて、帯状に害虫防除剤を塗布する。なお、このとき害虫防除剤を希釈する溶媒としては、水以外にも、アルコール、有機溶媒、又はニス等の害虫防除剤の有効成分が溶けることができる液体を用いることができる。そして、害虫防除剤を塗布した果実袋原紙12に例えばパラフィンワックスやエマルジョンワックスなどを用いて撥水加工を行い、その後、図5に示すように、外袋2を展開した形状に切断する。以上のようにして切断された外袋2を、害虫防除剤を塗布した面が外側となるように製袋し、その内部に内袋3を挿入して固定し、上部領域9の所定位置に集縛用針金7を固定して、図1に示すような果実袋1を完成させる。
【0023】
なお、本実施形態においては、上述のように果実袋原紙12の一方面に害虫防除剤を刷毛又はローラを用いて塗布又は含浸させたが、本発明の果実袋1はこれに限定されるものではなく、例えば、製袋機を用いて製袋作業を行う際に、害虫防除剤を塗布又は浸漬するものであっても良い。また、本実施形態においては、本発明に係る果実袋1の一例として2重の果実袋1を提示しているが、例えば外袋2のみからなる1重の果実袋1であっても良い。
【0024】
[農薬残留値の調査]
以下に表1に示す実施例及び表2に示す比較例毎に果実袋1を用いて栽培した果実20の残留農薬値を調査した。調査には果実20の一例として二十世紀梨を用い、被袋した期間は6月20日から8月25日までの間であり、8月25日に各実施例及び比較例の二十世紀梨の果実20を採取し、その残留農薬値を調査した。
【0025】
実施例1では、内袋3として褐色模造紙を製袋したものを用い、外袋2としてパラフィンワックスを塗布した白模造紙を製袋したものを用い、その果実袋1の上部領域9及び下縁領域10に、1袋あたり4.0mgのダイアジノン及び3.7mgのペルメトリンを含浸させたものを用いた。また、実施例2では、内袋3としてパラフィンワックスを塗布した白模造紙を製袋したものを用い、外袋2として油加工クラフト紙を製袋した物を用い、その果実袋1の上部領域9及び下縁領域10に、1袋あたり4.0mgのダイアジノン及び5.8mgのペルメトリンを含浸させたものを用いた。
【0026】
調査結果は表1に示すとおりである。
【表1】

【0027】
比較例1では、内袋として褐色模造紙を製袋したものを用い、外袋としてパラフィンワックスを塗布した白模造紙を製袋したものを用い、その果実袋の全面に、1袋あたり4.0mgのダイアジノン及び3.5mgのペルメトリンを含浸させたものを用いた。また、比較例2では、内袋としてパラフィンワックスを塗布した白模造紙を製袋したものを用い、外袋として油加工クラフト紙を製袋した物を用い、その果実袋の全面に、1袋あたり4.0mgのダイアジノン及び3.7mgのペルメトリンを含浸させたものを用いた。
【0028】
調査結果は表2に示すとおりである。
【表2】

【0029】
以上に示すように、実施例1及び実施例2においては、梨の果実20からダイアジノン及びペルメトリンは検出されなかった。したがって、残留農薬値は、ダイアジノンが検出限界値の0.01ppm未満であり、ペルメトリンが検出限界値の0.02ppm未満であることがわかる。一方、比較例1においては、梨の果実20から0.01ppmのダイアジノンが検出されており、0.18ppmのペルメトリンが検出されている。また、比較例2においては、梨の果実20から0.01ppmのダイアジノンが検出されており、0.19ppmのペルメトリンが検出されている。
【0030】
このように、果実袋1の上部領域9及び下縁領域10にのみ害虫防除剤を塗布した実施例1及び実施例2においては、果実袋10の全面にペルメトリン及びダイアジノンといった害虫防除剤を塗布した比較例1及び比較例2と比べて、残留農薬値が格段に低いことがわかる。したがって、本実施形態の果実袋1を用いると、従来よりも残留農薬値の低い安全な果実20を生産することができる。また、害虫防除剤を塗布する部分を上部領域9及び下縁領域10に限定することで、害虫防除剤の使用量を減らすこともできる。。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る果実袋1は、例えば二十世紀梨等の果実20の栽培に用いる果実袋1に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態の果実袋の正面図である。
【図2】本実施形態の果実袋の展開図である。
【図3】本実施形態の果実袋を果実に取付けた例を示す図である。
【図4】本実施形態の果実袋を製造する際に、果実袋原紙に害虫防除剤を塗布した状態を示す図である。
【図5】果実袋の原紙を果実袋の外袋を展開した形状に裁断する状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
1 果実袋
4 上縁
5 袋底
6 水抜き穴
9 上部領域
10 下縁領域
11 果実包装領域
20 果実
21 果梗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の原紙を封筒状に製袋して形成され、開口する上縁から果実を挿入するとともに、当該上縁から所定距離をあけて下方を前記果実の果梗に集縛する果実袋において、
少なくとも前記果梗に集縛する部分を含む上部に帯状に害虫防除剤を含浸した上部領域と、
前記上部領域の下方に形成され、前記果実を包み込むとともに前記害虫防除剤を含浸しない果実包装領域と、
を備えることを特徴とする果実袋。
【請求項2】
前記果実包装領域よりも下方の袋底に沿って帯状に害虫防除剤を含浸し、且つ袋内の水分を袋外に放出する水抜き穴が設けられた下縁領域を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の果実袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−29085(P2010−29085A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193164(P2008−193164)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(506180383)日本農業資材株式会社 (5)
【Fターム(参考)】