説明

果汁製品の製造方法

【目的】 果汁製品製造過程における果汁と大気との接触を防止し、また加熱殺菌温度を低減することにより、果汁成分の変質と熱による異臭味成分の生成を抑止し、これにより、フレッシュな風味の果汁製品を製造する。
【構成】 果実の搾汁によって得られた原果汁をセラミック膜で濾過する工程と、得られた透過果汁を必要に応じて高温瞬間加熱殺菌を行った後に容器に充填する工程、あるいは容器に充填した透過果汁を65〜85℃で加熱殺菌処理する工程からなり、それらの工程を一貫して窒素ガス雰囲気下に行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は果汁製品の製造方法に関する。詳しくは本発明は、原果汁をセラミック膜濾過し、次いで必要に応じて容器に充填後に加熱殺菌するか、あるいは高温瞬間加熱殺菌した後に容器に充填することからなる一連の工程において、濾過工程から充填工程までを一貫して窒素ガス雰囲気下に行うことにより、果汁の大気との不要な接触を回避し、かつ加熱殺菌処理における加熱条件を緩和し、かくして果汁成分の変質あるいは異臭味成分の生成を抑止してフレッシュな香味の果汁製品を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に果汁製品は、果実の搾汁によって得られた原果汁を必要に応じて適宜ブレンドしたり清澄濾過により混濁物を除去した後、容器に充填して消費者に提供される。この果汁製品の製造過程において原果汁は大気と接触し、しばしば果汁成分の変質が生ずることがある。たとえば仁果類、特にりんごの果汁の場合には、果汁が大気中の酸素と接触することにより褐変が進行する。通常市販されているりんご果汁製品は、その色からわかるように褐変がかなり進行しており、あるいは混濁した不透明なものであるため清涼感に乏しいとされる難点がある。
【0003】また果汁製品は、保存あるいは流通過程における細菌類の繁殖による腐敗や変質を防止するために、通常、その製造過程において加熱殺菌が施される。この加熱殺菌は、65℃以上、通常は90℃〜120℃に加熱することにより行われるわけであるが、これにより異臭味物質が生成されることがしばしばある。たとえば、みかんやオレンジなどの柑きつ類の果汁中にはメチルメチオニンスルフォニウム(MMS)という物質が含まれ、これが加熱によりイモ臭の原因物質であるジメチルスルフォニウム(DMS)に変る。この異臭味物質の生成量は一般に加熱温度が高く加熱時間が長いほど多いと考えられるが、十分な殺菌効果をあげるにはある程度高温かつ長時間の加熱が好ましいことから、それらの相反する要請の妥協点として上記のような加熱条件が採用されている。また、果糖より合成されるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)という物質があり、これは悪い風味をもたらす物質一つであると言われているが、これも加熱により生成が促進されると考えられる。
【0004】
【発明が解決すべき課題】以上のように、従来、果汁製品の製造は搾汁、調整、殺菌、充填などの各工程がそれぞれ個別に条件設定された操作として行われており、それら全体の結果として果汁成分の変質や異臭味物質の生成といった不合理を生じていた。したがって、そのような不合理を解消し、フレッシュな香味の果汁製品を製造するためには、果汁の大気との接触の機会ををできるかぎり少なくするとともに、果汁が高温に曝される時間、頻度、温度などを低減し、さらにその他の条件をも考慮した、トータルプロセスとして最適化された方法を開発する必要があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、果実の搾汁により得られた原果汁をセラミック膜で濾過する工程と、得られた透過果汁を必要に応じて高温瞬間加熱殺菌した後に容器に充填する工程、あるいは容器に充填した透過果汁を65〜85℃で加熱殺菌処理する工程からなり、該濾過工程から該充填工程までを一貫して窒素ガス雰囲気下に行う果汁製品の製造方法であって、このような構成をとることにより果汁のフレッシュな香味をそのまま生かした果汁製品を提供するものである。
【0006】
【作用】本発明は、果実の搾汁により得られた原果汁の濾過から容器への加圧充填までの一連の工程を、一貫して窒素ガス雰囲気下に行うものである。これにより、この間における原果汁あるいは透過果汁の大気との接触が回避される。しかも、これらの工程の全体を通して窒素ガス雰囲気下で行うため、溶存酸素を十分に置換して追出すことができ、また充填の際に、容器のヘッドスペースの酸素を窒素で置換する必要もなくなる。
【0007】本発明はまた、搾汁により得られた原果汁をまず清澄濾過し、しかる後にその他の工程を行うものである。特に、濾過により混濁物を除去した後に加熱殺菌処理を行うものである。これは、加熱殺菌処理において、混濁物に由来する異臭味物質の生成を防止するという意義を有するが、それだけにとどまるものではない。すなわち本発明では、濾過に用いる膜を好適に選定することにより、濾過による除菌作用をも利用するのである。もちろん濾過後の透過果汁に対しては高温瞬間加熱殺菌または充填後の加熱殺菌を行うわけであるから、濾過には必ずしも完全な除菌効果が要求されるわけではないが、不完全であっても予め除菌しておくことによりその後の加熱殺菌の条件を緩和することができる。したがって、例えば充填後の加熱殺菌であれば65〜85℃で行えば十分であり、従来は90〜120℃で行っていたのに比べてかなり低い温度で行うことになるため、この加熱殺菌処理による果汁成分の変質や異臭味物質の生成が抑止される。特に異臭味物質の生成を嫌う場合には、65〜75℃で加熱殺菌処理を行えばよい。
【0008】本発明における原果汁の濾過はセラミック膜を用いて行う。セラミック膜は耐熱性が大きいので膜自体の加熱殺菌を行うことが可能であり、これにより上記除菌作用を十分に活用することができる。好適には、モノリス型あるいはチューブラー型のセラミック膜濾過エレメントを組込んだモジュールの形で用い、循環濾過を行う。セラミック膜としてはアルミナ系のものがアルカリ洗浄等も可能なことから好ましい。濾過による除菌作用を期待するには、セラミック膜の細孔径は0.05〜0.5ミクロンであることが好ましく、0.1〜0.2ミクロンであることがより好ましい。プレコート材を併用していわゆるプレコート濾過を行えばより粗い細孔径の膜でも除菌作用が期待できるが、プレコート濾過を行うと濃縮液をブレンドのための原料などとして有効利用することが困難となるため、本発明ではプレコート材を用いずに直接セラミック膜で原果汁を濾過することが好ましい。
【0010】本発明において高温瞬間加熱処理を行う場合は、上記セラミック膜を透過した果汁に対して容器への充填前に行う。高温瞬間加熱処理は、透過果汁を加熱用熱交換器と冷却用熱交換器に順次通すことにより、135〜150℃に2〜3秒間加熱するものである。またこの処理は、基本的に配管内の果汁に対して流れ系での処理を行うものであるため、密閉系に保つのが容易である。
【0011】本発明の方法の対象となる果汁としては、温州みかん、オレンジ、グレープフルーツなどの柑きつ類、りんご、なしなどの仁果類、あるいはぶどう、キウイ、いちご、ももなどの果汁のように加熱により異臭味成分が生成されるものが主として含まれる。仁果類の果汁を含む果汁製品の製造には特に有利である。
【0012】
【実施例】図1は、本発明の方法を実施するための好適な装置のプロセスフローの一例を示すものである。果実の搾汁工程(不図示)から得られた原果汁は原液タンク1に投入される。原液タンク1、セラミック膜濾過器3および熱交換器5は循環ポンプ2を介する循環系を構成し、果汁の一部はセラミック膜を透過して透過果汁となる。当該膜濾過に必要な圧力は循環ポンプ2または原液タンク1に導入されるシール用窒素ガスにより供給されるが、窒素ガス加圧による方が循環ポンプ2での発熱が低減されるため好ましい。多管式熱交換器5は循環系内の温度上昇を抑制するために必要に応じて設けられるものである。透過果汁は充填機4により容器に充填され、最後に加熱殺菌装置6で殺菌処理を受けて果汁製品となる。図1のプロセスフローに従い、以下の条件でりんご(つがる)果汁を濾過し、透過果汁を加熱殺菌した。
原液タンク: 50リットルシール用窒素ガス導入圧力0.5kPa膜濾過器: 日本碍子製材質アルミナモノリス型、長さ1000mm、外径30mmφ内径4mmφ×19個操作圧力: 200kPa膜面流速: 3m/s膜孔径: 0.05、 0.1、 0.2ミクロン加熱殺菌: 75℃、10分間得られたりんご果汁製品は淡色で透明度が高く、また異臭味のほとんどないフレッシュな香味を有していた。このりんご果汁は異臭味がほとんどないため、香味の良否をより高い次元で評価することができる。このことを次の様にして確認した。すなわち、上記加熱殺菌処理後の透過果汁について、パネラー11人により、使用する膜の孔径の香味への影響を比較評価するテストを行った。その結果、パネラー11人がすべて、0.1ミクロンの膜で処理したものを「良」と判定した。このように、分離精度の高いセラミック膜を採用すると、膜孔径を適当に選択することにより香味の優れた果汁を製造することができることもわかった。
【0013】図2は、高温瞬間加熱殺菌を行う例を示すものである。透過果汁は充填機4に送られる前に加熱用熱交換器7および冷却用熱交換器8を順次通過し、高温瞬間加熱の時間は加熱用熱交換器7の出口から冷却用熱交換器8の入口までの配管における滞留時間を調節することにより設定される。
【0014】
【発明の効果】本発明によれば、果汁製品製造過程における果汁と大気との接触が著しく低減されるため、果汁成分の変質、特に仁果類における褐変が抑止される。また、製造過程における発熱要因および加熱殺菌時の加熱温度が低減されるため、熱による異臭味物質の生成が抑止される。これらにより、フレッシュな風味の果汁製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を実施するのに好適な装置のプロセスフローの一例を示す。
【図2】本発明の方法を実施するのに好適な装置のプロセスフローの別の例を示す。
【符号の説明】
1 原液タンク
2 循環ポンプ
3 セラミック膜濾過器
4 充填機
5 多管式熱交換器
6 加熱殺菌装置
7 加熱用熱交換器
8 冷却用熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 果実の搾汁により得られた原果汁をセラミック膜で濾過する工程と、得られた透過果汁を容器に充填する工程と、容器に充填した透過果汁を65〜85℃で加熱殺菌処理する工程からなり、該濾過工程から該充填工程までを一貫して窒素ガス雰囲気下に行うことを特徴とする果汁製品の製造方法。
【請求項2】 果実の搾汁により得られた原果汁をセラミック膜で濾過する工程と、得られた透過果汁を高温瞬間加熱殺菌する工程と、瞬間加熱殺菌した透過果汁を容器に充填する工程からなり、該濾過工程から該充填工程までを一貫して窒素ガス雰囲気下に行うことを特徴とする果汁製品の製造方法。
【請求項3】 原果汁が仁果類の果汁を含む請求項1または2記載の方法。
【請求項4】 該濾過工程が原果汁をプレコート材なしに直接セラミック膜で処理するものである請求項1または2記載の方法。
【請求項5】 該セラミック膜の細孔径が0.05〜0.5ミクロンである請求項4記載の方法。
【請求項6】 65〜75℃で加熱殺菌処理する請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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