説明

架空布設長尺物

【課題】 架空布設された場合でも、それ自体で受ける風圧荷重を低減できる架空布設長尺物を提供すること。
【解決手段】 低抵抗電線100は、電線本体110の外周面120に形成された、角部153を有する複数の窪み部150を有する。複数の窪み部150は、各々菱形をなしている。これら複数の窪み部150は、外周面120に、対向する一対の角部のそれぞれの頂点部分を電線本体110の軸線と直交する平面に位置するようにして、等間隔に並べて配置されている。また、複数の窪み部150の隣り合う辺部どうしは互いに平行である。これら複数の窪み部150によって、電線本体110の外周面が受ける風圧荷重を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空布設され、風圧を受ける低抵抗力電線等の架空布設長尺物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架空布設されている長尺物としては、架空布設される導体で構成される送電線、ワイヤ等のものと、導体上に樹脂などの被覆材を被覆したケーブル等がある。
【0003】
これら布設長尺物において、架空送電線やワイヤ等の長尺物の外周面は、断面円形である素線の撚り合わせによって形成される小さな凹凸を有し、ケーブル等の長尺物の外周面は、外郭が円形状の被覆材の外周面によって形成されるため、平滑となっているものが一般的である。
【0004】
このように架空布設される長尺物は、そのままの状態で布設された場合、風圧荷重を受ける。例えば、長尺物の一側面側で風圧を受ける場合、風上である一側面側では高気圧領域が発生し、風下となる他側面側で低気圧領域が発生して、長尺物自体が他側面側に押圧される。
【0005】
このため、長尺物は、他側面側に押圧されるといった風圧特性に対応できる電柱や鉄塔などの支持物間に架設される。よって、架空布設される長尺物が受ける風圧荷重を低減できれば、支持物の強度を低減して小型化、布設コストの削減を図ることができる。
【0006】
例えば、特許文献1では、架空送電線における撚り線の最外層素線を、角部に丸みを付けた複数のセグメント形素線によって構成することによって、架空送電線の外周面に、それぞれ送電線の軸方向に延びる複数の溝が形成されている。特許文献1では、外周面の溝によって、断面円形の電線より風圧荷重が大きく低下するものとしている。
【特許文献1】特開昭57−90809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような架空送電線等の架空布設長尺物においては、実際に支持物間に架空布設された際に、受ける風圧荷重をできるだけ低下させる構造であることが望ましく、特許文献1とは異なる手段によって、特許文献1よりも、さらに、受ける風圧荷重を低減することが望まれている。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、架空布設された場合でも、それ自体で受ける風圧荷重を低減できる架空布設長尺物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の架空布設長尺物は、長尺物本体の外周面に、前記外周面上で前記長尺物本体の軸方向と交差する方向に屈曲する凸部が形成されている構成を採る。
【0010】
この構成によれば、長尺物本体の外周面に形成される凸部が長尺物本体の軸方向と交差する方向に屈曲しているため、外周面が受ける風を軸方向に分散できる。よって、架空布設長尺物全体で受ける風圧荷重を低減することができる。これにより、架空布設長尺物を支持する支持物の強度を低減して小型化、布設コストの削減を図ることができる。
【0011】
本発明の架空布設長尺物は、上記構成において、前記凸部は、前記外周面に、前記長尺物本体の周方向に並んで複数形成されている構成を採る。
【0012】
この構成によれば、長尺物本体の周方向に、長尺物本体の軸方向と交差する方向に屈曲する凸部が並んで複数形成されているため、外周面において、周方向に回り込む風を軸方向に分散できる。よって、架空布設長尺物全体で受ける風圧荷重を低減することができる。
【0013】
本発明の架空布設長尺物は、上記構成において、前記凸部は、それぞれ同じ方向に屈曲している構成を採る。
【0014】
この構成によれば、外周面において、周方向に回り込む風を軸方向に分散できる。よって、架空布設長尺物全体で受ける風圧荷重を低減することができる。
【0015】
本発明の架空布設長尺物は、長尺物本体の外周面に、角部を有する窪み部が形成されている構成を採る。なお、この窪み部は、長尺物本体の外周面に複数形成されていることが望ましく、また長尺物本体の外周面全面に渡って形成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、長尺物本体の外周面に、角部を有する窪み部が形成されているため、架空布設長尺物が風に吹かれた際に、角部は外周面の窪み部に入った風を分散して、架空布設長尺物全体で受ける風圧荷重を低減することができる。
【0017】
本発明の架空布設長尺物は、上記構成において、前記長尺物本体の外周面に格子状の凸部が形成され、前記窪み部は、前記外周面に、前記格子状の凸部によって仕切られることにより等間隔に複数形成されている構成を採る。
【0018】
この構成によれば、長尺物本体の外周面に、格子状の凸部によって複数の窪み部が形成されているため、架空布設長尺物全面に渡って架空布設長尺物が受ける風圧荷重を低減することができる。
【0019】
本発明の架空布設長尺物は、上記構成において、前記窪み部の開口形状は菱形であることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、架空布設長尺物が受ける風圧荷重を低減することができる。
【0021】
本発明の架空布設長尺物は、上記構成において、前記複数の窪み部の各々において対向する2つの角部は、前記長尺物本体の軸線と直交する方向に並ぶ位置に配置されている構成を採る。
【0022】
この構成によれば、外周面上の窪み部の各々における対向する2つの角部が、長尺物本体の軸線と直交する方向に並ぶ位置に配置されているため、それぞれの窪み部の対向する角部によって周方向に回り込む風を軸方向に分散できる。よって、架空布設長尺物全体で受ける風圧荷重を低減することができる。
【0023】
本発明の架空布設長尺物は、上記構成において、前記窪み部の開口形状は六角形である構成を採る。
【0024】
この構成によれば、窪み部が六角形であるため、それぞれの角部において、架空布設長尺物が布設された際に受ける風を分散することができ、架空布設長尺物が受ける風圧荷重をより効果的に低減できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、架空布設された場合でも、それ自体で受ける風圧荷重をより効果的に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る架空布設長尺物を示す部分断面図である。図2は、図1のA−A’線矢視断面図である。なお、この実施の形態では、架空布設長尺物を、導体を被覆材により被覆してなる低抵抗電線(ケーブル)100として説明するが、これに限らず、所定の支持部材間に掛け渡して配置される架空長尺物であれば、どのようなものでもよい。例えば、架空布設長尺物をワイヤ、より具体的には、耐食アルミ合金性の丸棒などとしてもよい。
【0028】
図1及び図2に示す低抵抗電線100は、導体101を被覆材102により被覆してなる長尺のものであり、例えば、鉄塔など、離間して配置される支持部材間に架空布設される。
【0029】
この低抵抗電線100には、被覆材102が構成する電線本体(長尺物本体)110の外周面120に、外周面120から突出する凸部130が形成され、この凸部130は、電線本体110の軸方向と交差する方向に屈曲される突条部131を含む。
【0030】
この突条部131は、ここでは、それぞれ電線本体110の軸方向と交差する方向に延在する2つの突条辺部133によって構成されているものとする。
【0031】
この凸部130は、外周面120上に設けられた複数の突条部131、別言すれば、複数の突条辺部133によって格子状をなしている。
【0032】
外周面120には、格子状の凸部130によって仕切られる複数の窪み部150が形成されている。窪み部150は、凸部130における突条辺部133が交差する部分に形成される入り隅部によって角部を有するものとして画成されている。
【0033】
窪み部150は、窪み部150の開口形状が菱形、つまり、電線本体110の外方から見て、矩形状、ここでは菱形状をなしている。そして、これら窪み部150は、電線本体110、詳細には被覆材102の外面部分に、互いの辺部を隣り合わせて並んで配置されている。
【0034】
これら窪み部150の深さは、例えば、0.1mm〜1.0mmである。別言すれば、凸部130の外周面120からの突出高さは、0.1mm〜1.0mmとなっている。
【0035】
そして、これら窪み部150は、凸部130、詳細には、屈曲する突条部131を構成する突条辺部133によって形成される角部151〜154を有する。
【0036】
これら複数の窪み部150の各々における角部151〜154のうち、対向する2つの角部(例えば、図1では、角部152、153)は、電線本体110の軸線Bと直交する方向に並ぶ位置に配置されている。言い換えれば、この実施の形態における菱形の窪み部150では、対向する一対の角部152、153の頂点部分は、軸線Bと直交する平面上に位置している。
【0037】
つまり、窪み部150において対向する角部152、153が軸線Bと直交する方向に並ぶため、軸線Bと直交する方向に隣り合う窪み部150どうしは、同じ方向に屈曲する突条部131により形成される角部(例えば、角部152)を有するものとなっている。
【0038】
これら角部152、153は、受けた風を軸方向に分散して流すものである。なお、低抵抗電線100における菱形の窪み部150は、電線本体110の軸線B方向に配置される角部151、154間の対角線の長さが、角部152、153間の対角線の長さよりも長いものとなっている。
【0039】
低抵抗電線100による作用効果を図1を参照して説明する。ここでは、図1に示す複数の窪み部150のうち、軸方向と直交方向に並ぶ窪み部150−1、150−2を用い、例えば、低抵抗電線100が図1の矢印Cで示す方向から風圧を受けるといった局所的な場合について説明する。
【0040】
低抵抗電線100において窪み部150−1が外方から受ける風は、窪み部150−1の角部152−1により軸方向に分散される。次いで、分散された後の風は、窪み部150−2内に入り、窪み部150−2の角部152とともに、この角部152を形成する突条部131(詳細には、突条辺部133、133と、これらの接合部分)で、さらに軸方向に分散されることになる。つまり、風の流路としての、風を受けた面側の反対側では、気流の渦が発生しにくくなる。このような作用が、低抵抗電線100外周面全面で生じるため、低抵抗電線100の受ける風圧は削減する。
【0041】
図3は、本実施の形態の低抵抗電線100の抗力係数と風速との関係を示す図である。なお、抗力係数は風圧に相当するものである。この図3では、本実施の形態の低抵抗電線100の抗力係数をグラフDで示すとともに、従来の断面円形の電線の抗力係数をグラフEで示している。
【0042】
図3に示すように、低抵抗電線100によれば、従来の断面円形の電線と比べて、約4割程度抗力係数が減少する。
【0043】
このように本実施の形態によれば、電線本体110の外周面に、角部151〜154を有する菱形の窪み部150が複数形成されているため、各角部151〜154によって受けた風を分散して流し、風圧荷重を減少することができる。
【0044】
特に、外周面120に形成される複数の窪み部150の各々における角部152、153によって、周方向に回り込む風を軸方向に分散することができるため、低抵抗電線100全体で受ける風圧荷重を激減させることができる。低抵抗電線100では、従来の断面円形の電線と比較して約4割の抗力係数(風圧荷重に相当)を減少することができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、降雪時において、低抵抗電線100の外周面110に雪が付着した場合、外周面110には、凸部130及び窪み部150が形成されているため、低抵抗電線100自体が、雪の重みにより回転する。したがって、低抵抗電線100では、降雪時において雪の付着による荷重を低減することができる。
【0046】
なお、上記実施の形態において、凸部130は、格子状としたが、これに限らず、外周面120から突出する凸部130が、軸方向に交差する方向に屈曲する部分を有するものであれば、どのように形成されていてもよい。
【0047】
例えば、電線の外周面にV字状に屈曲した形状の突条部(凸部)を、その屈曲部分の屈曲方向を軸方向と交差する方向にして、つまり、屈曲部分を構成する突条の2辺部分のそれぞれを電線本体の軸線と交差して配置される状態にして、複数配置したものとしてもよい。また、V字状の突条部を外周面上に複数形成する際に、等間隔に外周面全面に渡って設けても良い。なお、電線本体の外周面にV字形の突条部を複数設けた場合、複数のV字状突条部全体は、低抵抗電線100の凸部130に相当する。
【0048】
また、例えば、電線の外周面に、軸方向に沿ってジグザグに延在する長尺の突条部(凸部)を形成してもよく、さらにこのジグザグ状の突条部を、電線の外周面に、軸方向に沿って、複数並べて形成した構成としてもよい。その際、互いの屈曲部分を同方向に屈曲するように配置したり、異なる方向に屈曲するように配置したりしてもよい。
【0049】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る架空布設長尺物を示す部分断面図である。図5は、図4のF−F’線矢視断面図である。なお、この実施の形態では、架空布設長尺物を、導体を被覆材により被覆してなる低抵抗電線(ケーブル)200として説明するが、これに限らず、低抵抗電線100と同様、所定の支持部材間に掛け渡して配置される架空長尺物であれば、どのようなものでもよい。
【0050】
図4及び図5に示す低抵抗電線200は、図1及び図2に示す低抵抗電線100における窪み部150の形状のみ異なり、その他の構成は同様のものである。よって、異なる構成のみ説明し、低抵抗電線100と同様の構成については説明を省略する。
【0051】
この低抵抗電線200には、導体201を被覆する被覆材202が構成する電線本体(長尺物本体)210の外周面220に、複数の窪み部250が、等間隔で形成されている。
【0052】
これら窪み部250は、窪み部250の開口形状が六角形、つまり、電線本体210の外方から見て六角形をなし、外周面220から突出する凸部230によって仕切られている。
【0053】
窪み部250の深さは、それぞれ、例えば、0.1mm〜1.0mmである。別言すれば、凸部230の外周面220からの突出高さは、0.1mm〜1.0mmとなっている。
【0054】
窪み部250において対向する一対の角部251、252は、電線本体210の軸線と直交する方向に並んで配置されている。換言すれば、角部251、252は、電線本体210の軸線と直交する平面上に位置している。なお、これら角部251、252は、それぞれ、凸部230において、電線本体210の軸方向と交差する方向に屈曲する屈曲部分(詳細には屈曲部分における入り隅部)により形成されている。これら角部251、252は、それぞれ受けた風を軸方向に分散して流すものである。
【0055】
この低抵抗電線200による作用効果は、低抵抗電線100と略同様である。つまり、複数の窪み部250の角部により受ける風は分散され、周方向に回り込むことによって、風を受けた面と反対側の面側に発生する空気の渦を分散して、電線本体210が受ける風圧加重を減少することができる。特に、本実施の形態では、低抵抗電線200は、六角の窪み部250を複数有するため、窪み部250のそれぞれの角部で受ける風を分散して、一層効果的に電線本体210自体の受ける羽風圧荷重を低減している。
【0056】
なお、各実施の形態における低抵抗電線100、200における窪み部150、250の形状はこれに限定されることなく、角部を有する窪み部であり、角部を形成する凸部の2辺部分が互いに軸方向と交差する方向に延在するものであれば、どのような形状を成していても良い。
【0057】
また、架空布設長尺物における窪み部の大きさ、個数等については、窪み部を有する低抵抗電線(架空布設長尺物)が受ける風圧加重を減少する効果を有するよう適宜変更可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る架空布設長尺物は、布設された際に受ける風圧荷重を減少させる効果を有し、架空布設される電線として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1に係る架空布設長尺物を示す部分断面図
【図2】図1のA−A’線矢視断面図
【図3】本発明の実施の形態1に係る架空布設長尺物の抗力係数と風速との関係を示す図
【図4】本発明の実施の形態2に係る架空布設長尺物を示す部分断面図
【図5】図4のF−F’線矢視断面図
【符号の説明】
【0060】
100、200 低抵抗電線
101、201 導体
110、210 電線本体
120、220 外周面
130、230 凸部
131 突条部
133 突条辺部
150、250 窪み部
152、153、251、252 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺物本体の外周面に、前記外周面上で前記長尺物本体の軸方向と交差する方向に屈曲する凸部が形成されていることを特徴とする架空布設長尺物。
【請求項2】
前記凸部は、前記外周面に、前記長尺物本体の周方向に並んで複数形成されていることを特徴とする請求項1記載の架空布設長尺物。
【請求項3】
前記凸部は、それぞれ同じ方向に屈曲していることを特徴とする請求項2記載の架空布設長尺物。
【請求項4】
長尺物本体の外周面に、角部を有する窪み部が形成されていることを特徴とする架空布設長尺物。
【請求項5】
前記長尺物本体の外周面に格子状の凸部が形成され、
前記窪み部は、前記外周面に、前記格子状の凸部によって仕切られることにより等間隔に複数形成されていることを特徴とする請求項4記載の架空布設長尺物。
【請求項6】
前記窪み部の開口形状は菱形であることを特徴とする請求項4または5記載の架空布設長尺物。
【請求項7】
前記複数の窪み部の各々において対向する2つの角部は、前記長尺物本体の軸線と直交する方向に並ぶ位置に配置されていることを特徴とする請求項5または6記載の架空布設長尺物。
【請求項8】
前記窪み部の開口形状は六角形であることを特徴とする請求項4記載の架空布設長尺物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−156016(P2006−156016A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342324(P2004−342324)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(502122521)株式会社エクシム (25)
【Fターム(参考)】