格子構造体の音鳴り防止構造
【課題】 カルマン渦、剥離流、揚力捩れモーメントなど、格子構造体に振動騒音を起こさせる発生要因となる諸現象に対して、網羅的に有効な振動騒音発生抑制対策を講じる。
【解決手段】 格子14側面に作用する空気変圧エネルギーを吸収し、かつ、格子14に揚力に対する釣り合い重量を付加するスタビライザー16を有し、スタビライザー16を該格子の両端の支点から等距離の位置で該格子内部に固定する。
【解決手段】 格子14側面に作用する空気変圧エネルギーを吸収し、かつ、格子14に揚力に対する釣り合い重量を付加するスタビライザー16を有し、スタビライザー16を該格子の両端の支点から等距離の位置で該格子内部に固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅のバルコニーなどで使われる手すり格子などの格子構造体に係り、特に、風が格子にあたったときに発生する振動騒音を効果的に抑制する音鳴り防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物では、バルコニーの手すりに格子が採用されていることが多い。バルコニーの手すり格子には、風が直接あたるので、格子が振動して音が発生するという現象が不可避的に生じる。
【0003】
従来から、バルコニーの格子には振動騒音対策が講じられている。例えば、特許文献1は、格子の内部に振動減衰材を充填することを開示している。そして、振動減衰材としては、発泡ウレタンやゴムが提案されている。
また、特許文献2は、格子の内部に錘を設けることを提案している。
【特許文献1】実開平5−6087号公報
【特許文献2】実開平4−55930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の振動騒音対策技術は、風があたることにより起こる格子構造体特有の挙動を解析した上で行っているものではない。すなわち、一口に振動騒音といっても、発生にいたるメカニズムは複雑かつ多様である。実際は、そのときどきの風向や、風速といった条件によって、様々な何種類かの物理現象が単独で、あるいは複合して発生し、その結果、振動騒音が起こる。従来は、この点が看過されている。
【0005】
本発明者の知見によれば、格子構造体に風がぶつかって音が発生する現象には、少なくとも3種類の現象が要因となっている。その現象とは、いわゆるカルマン渦が発生する現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントが発生する現象である。
【0006】
そこで、図12を参照しながら、振動騒音の発生原因となる現象について説明する。
図12(a)は、カルマン渦を説明する図である。カルマン渦は、主に格子1の正面方向からの風によって発生する風の渦である。図12(a)において、矢印は風による空気の流れ方向を示す。空気の流れが格子にぶっかったり、格子の間を通り抜けるときに、格子の後方側に空気の流れの渦が生じる。この渦がカルマン渦と呼ばれるものである。そして、カルマン渦が格子の固有振動数と一致して格子が共振を起こした時に震動放射音が生じる。従来から、手摺り格子で生じる騒音がカルマン渦に起因することは当該技術分野の当業者に知られている。
【0007】
次に、図12(b)は、剥離流の発生メカニズムを説明する図である。剥離流は、主に、格子の正面に対して斜め方向から吹き込む風が原因になつている。すなわち、斜め方向から風が格子に当たると、格子の隅角部から空気の流れが二手に分離する。そして、分離した風の巻き込みと重なりで格子の側面に変圧力の変動にもとづく振動が発生し、それが人の耳には騒音に聞こえることになる。
【0008】
最後に、図12(c)は、揚力捩れモーメントの発生メカニズムを説明する図である。これは、風を受けて格子に作用する捩れモーメントの増幅力の変動により振動が起こる現象である。風を正面から受けた場合には、風の方向に抗力だけが働くが、風を斜め方向に受けると、格子に作用する力は、抗力と揚力の二つの成分の力に分けることができる。このうち、揚力は、格子に対して捻れモーメントを加えることになる。そして、捩れモーメントによる増幅力で振動が大きくなり、それが騒音原因となる。
【0009】
このように、格子構造体に生じる騒音の発生原因となる現象には、カルマン渦、剥離流、揚力ねじれモーメントがあり、実際に起きている騒音は、これらの現象が複雑にからまりあって発生しているといえる。
【0010】
この点、従来は、十把一からげに騒音現象をとらえており、条件によっては、音の発生に効果がある場合もあれば、ほとんど役立たない場合もある。現実には多くの場合、カルマン渦の起因する騒音対策としてはある程度の抑制効果が得られるという段階にとどまっている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、カルマン渦、剥離流、揚力捩れモーメントなど、格子構造体に振動騒音を起こさせる発生要因となる諸現象に対して、網羅的に有効な振動騒音発生抑制対策を講じることを可能とする格子構造体の音鳴り防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、矩形中空断面を有する金属製の格子体を一定の間隔で配列した格子構造体に発生する風による振動騒音を抑制するための音鳴り防止構造であって、前記格子側面に作用する空気変圧エネルギーを吸収し、かつ、該格子に揚力に対する釣り合い重量を付加するスタビライザーを有し、前記スタビライザーを該格子の両端の支点から等距離の位置で該格子内部に固定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カルマン渦、剥離流、揚力捩れモーメントなど、格子構造体に振動騒音を起こさせる発生要因となる諸現象に対して、いずれの現象に対しても有効な振動騒音発生抑制対策を講じることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による格子構造体の音鳴り防止構造の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明が適用される手すり格子を示す。左右の柱10、11には、笠木12と下胴縁13が上下平行に取り付けられ、格子構造体の枠が構成されている。笠木12と下胴縁13の間を格子14が一定の間隔で平行に架け渡されている。格子14は、矩形断面を有する金属製の格子であり、格子自体は、この種の手すり格子に一般に用いられている型材である。
【0015】
図2に示すように、格子14の内部には、スタビライザー16が装着されている。図3は、スタビライザー16の横断面を示す。
スタビライザー16は、格子14の断面に対応した横断面をもつ、角棒状の部材である。このスタビライザー16は、格子14の内壁面に密着するように装着されている。スタビライザー16の材料としては、高分子粘弾性材料、例えば、ゴム系材料は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)またはリトリルゴム(NBR)が用いられる。そして、比重が略1.4の有するように調整される。
【0016】
本実施形態では、スタビライザー16の本体の長さは、格子14の全長の略1/6の長さを有している。そして、スタビライザー16は、次のようにして、その格子の内部で位置決めし、スタビライザー16本体の側面を格子14の内壁面に密着させている。
【0017】
図3(a)に示すように、スタビライザー16の本体には、中心を貫通する貫通孔17が長さ方向に形成されている。また、スタビライザー16の一側面には、凹部15が長さ方向に形成されており、この凹部15には、格子14の内壁面から突き出している一対の突起部19a、19bが形成されている。スタビライザー16の凹部15には、突起部19a、19bに嵌合する凸条18が形成されている。そして、図3(b)に示すように、スタビライザー16の貫通孔17には、その孔径よりも大きな直径の棒体20が挿入される。この棒体20によりスタビライザーの16本体を膨張させ、その側面を格子14の内壁面に密着させることができる。
本実施形態による格子構造体の音鳴り防止構造は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用について説明する。
【0018】
格子構造体に風がぶつかって音切り音などの騒音が発生するのは、基本的には、格子14に振動が生じることが原因である。
【0019】
そこで、本発明では、スタビライザー16を設けることにより、次のようにして、格子14に生じる振動を減衰させる。
図4に示すように、手すり格子のような格子構造体の場合、一本一本の格子は、両端をピン支持した棒の挙動にモデル化することができ(図4(a))、棒が弓なりにたわむ動きが振動であると考えられる。振動のモードには、図4(b)〜図4(d)に示すように、一次振動モード、二次振動モード、三次振動モードがあり、手すり格子のような構造体の場合、主として一次振動モードの振動が生じている。振幅が騒音の大きさに関係するから、振幅を小さくすることが騒音低減の改善につながる。
【0020】
そこで、格子14にスタビライザー16を設けると、図5に示すように、格子14に生じる振動を物理振り子の振動とパラレルに考えることがことができる。この場合、格子14の上下両端は、それぞれ支点である固定端になっている。振幅の抑制には、慣性モーメントが大きく関係しており、この慣性モーメントは、スタビライザー16の位置が支点に近いほど小さくなり、支点から離れるほど大きくなる。慣性モーメントは大きいほど有効に働き、振幅速度を減少させるから、スタビライザー16の位置は支点から一番遠い位置ほどよいことになる。しかし、この場合、一方の支点から遠くなると、他方の支点には近くなるから、結局、上下の支点から等しい距離の位置に取り付けることが好ましい。
【0021】
このようにスタビライザー16は、振り子の錘りの働きをして、格子14の振動を減衰させる。この場合の減衰効果は、振動騒音発生の要因に関係なく作用するこになる。
【0022】
本実施形態において、スタビライザー16の機能は、振り子の錘りとしての振動減衰機能に尽きるのではなく、むしろ、以下に説明するように、振動騒音発生の要因、すなわちカルマン渦が発生する現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントの発生という要因ごとに個別に働き、振動の要因にさかのぼって根元的な抑制効果を及ぼすことにある。
【0023】
そこで、まず、カルマン渦について説明する。図6に示すように、正面方向から吹き付ける風が格子14の間を通り抜けるときに、格子14の後方側にはカルマン渦が生じる。しかし、格子14の内部にスタビライザー16が入っていることによって、そのスタビライザー16のある部分が重くなり、その他の部分との間で固有周期に時差が付加される。これにより、カルマン渦流との同調が抑制される結果、共振が発生し難くなる。
次に、剥離流の影響に対するスタビライザー16の作用を説明する図が図7である。剥離流は、主として、斜め方向から吹き付ける風が格子1に当たったときに発生し易い状況となる。すなわち、格子14の隅角部から空気の流れが二手に分離すると、この分離した風の巻き込みと重なりで格子14の側面に変圧力が作用し、これが格子16の加振力になる。ところが、格子14の内部に入っているスタビライザー16は、この剥離流による流体変圧エネルギーをその粘弾性材質であるために短時間で急速に吸収し、格子14に加わる加振力のを減衰させる。これにより、加振力の伝達が減少される結果、剥離流による振動の振幅を小さくする。
【0024】
次に、揚力捩りモーメントに対するスタビライザー16の作用を図8を参照して説明する。揚力捩れモーメントは、主として、風を斜め方向に受けると発生し易い状況となる。このとき、格子14に作用する力を抗力と揚力の二つの成分の力に分けると、揚力の方が、格子14に対して捻れモーメントを加えることになる。ところが、格子14の内部にスタビライザー16があるために、このスタビライザー16は、揚力を減少させる釣り合い重量を付加するので、揚力を減少させて捻れモーメントの働きを抑制し、振幅を小さくする。
【0025】
以上のように、スタビライザー16は、カルマン渦が発生する現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントの発生という要因ごとに、個別にその振動原因に対して振幅を抑制する働きを持つので、風向等の様々な状況下での格子の風きり音の抑制に効果がある。
【実施例】
【0026】
次に、本発明による格子構造体の音鳴り防止構造の実施例に関して風洞試験を行った試練結果について説明する。
【0027】
実施例では、断面寸法の異なる三種類の格子(18×18格子、24×20格子、40×22格子(単位ミリ))に本発明を適用した。
【0028】
スタビライザーは、EPDM(比重1.4)を材料として、格子長さの1/6のもの用意し、材長の1/2の位置に装着した。
図9(a)乃至図9(c)は、それぞれ18×18格子、24×20格子、40×22格子にスタビライザーを装着した格子構造体について、風向と風速を変えながら、風洞試験により騒音を測定した結果を示す。
【0029】
また、図10(a)乃至図10(c)を比較例として、それぞれ18×18格子、24×20格子、40×22格子にスタビライザーの無い格子構造体について、同じ条件で騒音を測定した結果を示す。なお、これらの図において、○、●、◎、☆、★は、騒音の大きさを順に段階的に表している。
【0030】
実施例と比較例の風洞試験を比較すると明らかなように、スタビライザーを格子に装着することにより、騒音低減効果が得られることがわかる。
【0031】
次に、このような騒音低減効果が、カルマン渦現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントの発生、の要因うち、いずれに対して効果があったのかを検討する。
【0032】
まず、カルマン渦は、正面からの風向で生じやすいという特徴があることから比較例の図10(a)および図10(b)において、風向0°で風速14〜20m/sのA、Bで示す範囲で発生している振動騒音は、主としてカルマン渦に起因するものと考えられる。これに対して、実施例では、図9(a)および図9(b)に示すように、同じ条件では振動騒音は生じておらず、したがって、スタビライザーを格子内部に装着することにより、カルマン渦に起因する騒音抑制効果が得られることがわかる。
【0033】
次に、剥離流、揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音については、斜めの風向になると発生し易い状況になることから、図10(a)乃至図10(c)において、それぞれC、D、Eで示す範囲で発生している振動騒音は、剥離流と揚力による捻れモーメントに起因し、これらの要因が複合して振動が大きくなったため発生した振動騒音であると考えられる。
【0034】
これに対して、実施例の図9(a)では、比較例の図10(a)でCの範囲にあった騒音がなくなっており、また、実施例の図9(b)および図9(c)では、それぞれ振動の生じる範囲F、Gが、比較例のD、Eの騒音発生領域に較べて、狭い範囲に限定されている。この結果から、スタビライザーを格子内部に装着することにより、剥離流と揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音に対しても抑制効果があることがわかる。
【0035】
図11は、実施例が剥離流と揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音に対して抑制効果があることをさらに実証するグラフである。
【0036】
この図11は、24×20格子について、風向角75°で風速14m/sの条件で振動加速度を測定した結果を示すグラフである。図10(b)によれば、この風向角75°、風速14m/sは、剥離流と揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音が発生しやすい条件である。図11で、上段は、スタビライザーのない格子についての測定結果であり、下段がスタビライザーを装着した実施例である。この結果から、あきらかにスタビライザーを装着することにより、振動が顕著に減少していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明が適用される手すり格子を斜視図。
【図2】同手すり格子に取り付けられるスタビライザーの取付位置を示す側面図。
【図3】同手すり格子の横断面図。
【図4】格子の振動をモデル化した説明図。
【図5】スタビライザーの付いた格子の振動を物理振り子として模式的に表した図。
【図6】カルマン渦に対するスタビライザーの作用を説明する図。
【図7】剥離流に対するスタビライザーの作用を説明する図。
【図8】揚力捻れモーメントに対するスタビライザーの作用を説明する図。
【図9】本発明の実施例にる振動騒音の測定結果を示す図表。
【図10】スタビライザー用いない比較例について振動騒音の測定結果を示す図表。
【図11】本発明の実施例にる振動加速度の測定結果を示す図表。
【図12】格子の風きり音の原因の説明図
【符号の説明】
【0038】
10 柱
11 柱
12 笠木
13 下胴縁
14 格子
16 スタビライザー
17 貫通孔
20 棒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅のバルコニーなどで使われる手すり格子などの格子構造体に係り、特に、風が格子にあたったときに発生する振動騒音を効果的に抑制する音鳴り防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物では、バルコニーの手すりに格子が採用されていることが多い。バルコニーの手すり格子には、風が直接あたるので、格子が振動して音が発生するという現象が不可避的に生じる。
【0003】
従来から、バルコニーの格子には振動騒音対策が講じられている。例えば、特許文献1は、格子の内部に振動減衰材を充填することを開示している。そして、振動減衰材としては、発泡ウレタンやゴムが提案されている。
また、特許文献2は、格子の内部に錘を設けることを提案している。
【特許文献1】実開平5−6087号公報
【特許文献2】実開平4−55930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の振動騒音対策技術は、風があたることにより起こる格子構造体特有の挙動を解析した上で行っているものではない。すなわち、一口に振動騒音といっても、発生にいたるメカニズムは複雑かつ多様である。実際は、そのときどきの風向や、風速といった条件によって、様々な何種類かの物理現象が単独で、あるいは複合して発生し、その結果、振動騒音が起こる。従来は、この点が看過されている。
【0005】
本発明者の知見によれば、格子構造体に風がぶつかって音が発生する現象には、少なくとも3種類の現象が要因となっている。その現象とは、いわゆるカルマン渦が発生する現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントが発生する現象である。
【0006】
そこで、図12を参照しながら、振動騒音の発生原因となる現象について説明する。
図12(a)は、カルマン渦を説明する図である。カルマン渦は、主に格子1の正面方向からの風によって発生する風の渦である。図12(a)において、矢印は風による空気の流れ方向を示す。空気の流れが格子にぶっかったり、格子の間を通り抜けるときに、格子の後方側に空気の流れの渦が生じる。この渦がカルマン渦と呼ばれるものである。そして、カルマン渦が格子の固有振動数と一致して格子が共振を起こした時に震動放射音が生じる。従来から、手摺り格子で生じる騒音がカルマン渦に起因することは当該技術分野の当業者に知られている。
【0007】
次に、図12(b)は、剥離流の発生メカニズムを説明する図である。剥離流は、主に、格子の正面に対して斜め方向から吹き込む風が原因になつている。すなわち、斜め方向から風が格子に当たると、格子の隅角部から空気の流れが二手に分離する。そして、分離した風の巻き込みと重なりで格子の側面に変圧力の変動にもとづく振動が発生し、それが人の耳には騒音に聞こえることになる。
【0008】
最後に、図12(c)は、揚力捩れモーメントの発生メカニズムを説明する図である。これは、風を受けて格子に作用する捩れモーメントの増幅力の変動により振動が起こる現象である。風を正面から受けた場合には、風の方向に抗力だけが働くが、風を斜め方向に受けると、格子に作用する力は、抗力と揚力の二つの成分の力に分けることができる。このうち、揚力は、格子に対して捻れモーメントを加えることになる。そして、捩れモーメントによる増幅力で振動が大きくなり、それが騒音原因となる。
【0009】
このように、格子構造体に生じる騒音の発生原因となる現象には、カルマン渦、剥離流、揚力ねじれモーメントがあり、実際に起きている騒音は、これらの現象が複雑にからまりあって発生しているといえる。
【0010】
この点、従来は、十把一からげに騒音現象をとらえており、条件によっては、音の発生に効果がある場合もあれば、ほとんど役立たない場合もある。現実には多くの場合、カルマン渦の起因する騒音対策としてはある程度の抑制効果が得られるという段階にとどまっている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、カルマン渦、剥離流、揚力捩れモーメントなど、格子構造体に振動騒音を起こさせる発生要因となる諸現象に対して、網羅的に有効な振動騒音発生抑制対策を講じることを可能とする格子構造体の音鳴り防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、矩形中空断面を有する金属製の格子体を一定の間隔で配列した格子構造体に発生する風による振動騒音を抑制するための音鳴り防止構造であって、前記格子側面に作用する空気変圧エネルギーを吸収し、かつ、該格子に揚力に対する釣り合い重量を付加するスタビライザーを有し、前記スタビライザーを該格子の両端の支点から等距離の位置で該格子内部に固定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カルマン渦、剥離流、揚力捩れモーメントなど、格子構造体に振動騒音を起こさせる発生要因となる諸現象に対して、いずれの現象に対しても有効な振動騒音発生抑制対策を講じることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による格子構造体の音鳴り防止構造の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明が適用される手すり格子を示す。左右の柱10、11には、笠木12と下胴縁13が上下平行に取り付けられ、格子構造体の枠が構成されている。笠木12と下胴縁13の間を格子14が一定の間隔で平行に架け渡されている。格子14は、矩形断面を有する金属製の格子であり、格子自体は、この種の手すり格子に一般に用いられている型材である。
【0015】
図2に示すように、格子14の内部には、スタビライザー16が装着されている。図3は、スタビライザー16の横断面を示す。
スタビライザー16は、格子14の断面に対応した横断面をもつ、角棒状の部材である。このスタビライザー16は、格子14の内壁面に密着するように装着されている。スタビライザー16の材料としては、高分子粘弾性材料、例えば、ゴム系材料は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)またはリトリルゴム(NBR)が用いられる。そして、比重が略1.4の有するように調整される。
【0016】
本実施形態では、スタビライザー16の本体の長さは、格子14の全長の略1/6の長さを有している。そして、スタビライザー16は、次のようにして、その格子の内部で位置決めし、スタビライザー16本体の側面を格子14の内壁面に密着させている。
【0017】
図3(a)に示すように、スタビライザー16の本体には、中心を貫通する貫通孔17が長さ方向に形成されている。また、スタビライザー16の一側面には、凹部15が長さ方向に形成されており、この凹部15には、格子14の内壁面から突き出している一対の突起部19a、19bが形成されている。スタビライザー16の凹部15には、突起部19a、19bに嵌合する凸条18が形成されている。そして、図3(b)に示すように、スタビライザー16の貫通孔17には、その孔径よりも大きな直径の棒体20が挿入される。この棒体20によりスタビライザーの16本体を膨張させ、その側面を格子14の内壁面に密着させることができる。
本実施形態による格子構造体の音鳴り防止構造は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用について説明する。
【0018】
格子構造体に風がぶつかって音切り音などの騒音が発生するのは、基本的には、格子14に振動が生じることが原因である。
【0019】
そこで、本発明では、スタビライザー16を設けることにより、次のようにして、格子14に生じる振動を減衰させる。
図4に示すように、手すり格子のような格子構造体の場合、一本一本の格子は、両端をピン支持した棒の挙動にモデル化することができ(図4(a))、棒が弓なりにたわむ動きが振動であると考えられる。振動のモードには、図4(b)〜図4(d)に示すように、一次振動モード、二次振動モード、三次振動モードがあり、手すり格子のような構造体の場合、主として一次振動モードの振動が生じている。振幅が騒音の大きさに関係するから、振幅を小さくすることが騒音低減の改善につながる。
【0020】
そこで、格子14にスタビライザー16を設けると、図5に示すように、格子14に生じる振動を物理振り子の振動とパラレルに考えることがことができる。この場合、格子14の上下両端は、それぞれ支点である固定端になっている。振幅の抑制には、慣性モーメントが大きく関係しており、この慣性モーメントは、スタビライザー16の位置が支点に近いほど小さくなり、支点から離れるほど大きくなる。慣性モーメントは大きいほど有効に働き、振幅速度を減少させるから、スタビライザー16の位置は支点から一番遠い位置ほどよいことになる。しかし、この場合、一方の支点から遠くなると、他方の支点には近くなるから、結局、上下の支点から等しい距離の位置に取り付けることが好ましい。
【0021】
このようにスタビライザー16は、振り子の錘りの働きをして、格子14の振動を減衰させる。この場合の減衰効果は、振動騒音発生の要因に関係なく作用するこになる。
【0022】
本実施形態において、スタビライザー16の機能は、振り子の錘りとしての振動減衰機能に尽きるのではなく、むしろ、以下に説明するように、振動騒音発生の要因、すなわちカルマン渦が発生する現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントの発生という要因ごとに個別に働き、振動の要因にさかのぼって根元的な抑制効果を及ぼすことにある。
【0023】
そこで、まず、カルマン渦について説明する。図6に示すように、正面方向から吹き付ける風が格子14の間を通り抜けるときに、格子14の後方側にはカルマン渦が生じる。しかし、格子14の内部にスタビライザー16が入っていることによって、そのスタビライザー16のある部分が重くなり、その他の部分との間で固有周期に時差が付加される。これにより、カルマン渦流との同調が抑制される結果、共振が発生し難くなる。
次に、剥離流の影響に対するスタビライザー16の作用を説明する図が図7である。剥離流は、主として、斜め方向から吹き付ける風が格子1に当たったときに発生し易い状況となる。すなわち、格子14の隅角部から空気の流れが二手に分離すると、この分離した風の巻き込みと重なりで格子14の側面に変圧力が作用し、これが格子16の加振力になる。ところが、格子14の内部に入っているスタビライザー16は、この剥離流による流体変圧エネルギーをその粘弾性材質であるために短時間で急速に吸収し、格子14に加わる加振力のを減衰させる。これにより、加振力の伝達が減少される結果、剥離流による振動の振幅を小さくする。
【0024】
次に、揚力捩りモーメントに対するスタビライザー16の作用を図8を参照して説明する。揚力捩れモーメントは、主として、風を斜め方向に受けると発生し易い状況となる。このとき、格子14に作用する力を抗力と揚力の二つの成分の力に分けると、揚力の方が、格子14に対して捻れモーメントを加えることになる。ところが、格子14の内部にスタビライザー16があるために、このスタビライザー16は、揚力を減少させる釣り合い重量を付加するので、揚力を減少させて捻れモーメントの働きを抑制し、振幅を小さくする。
【0025】
以上のように、スタビライザー16は、カルマン渦が発生する現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントの発生という要因ごとに、個別にその振動原因に対して振幅を抑制する働きを持つので、風向等の様々な状況下での格子の風きり音の抑制に効果がある。
【実施例】
【0026】
次に、本発明による格子構造体の音鳴り防止構造の実施例に関して風洞試験を行った試練結果について説明する。
【0027】
実施例では、断面寸法の異なる三種類の格子(18×18格子、24×20格子、40×22格子(単位ミリ))に本発明を適用した。
【0028】
スタビライザーは、EPDM(比重1.4)を材料として、格子長さの1/6のもの用意し、材長の1/2の位置に装着した。
図9(a)乃至図9(c)は、それぞれ18×18格子、24×20格子、40×22格子にスタビライザーを装着した格子構造体について、風向と風速を変えながら、風洞試験により騒音を測定した結果を示す。
【0029】
また、図10(a)乃至図10(c)を比較例として、それぞれ18×18格子、24×20格子、40×22格子にスタビライザーの無い格子構造体について、同じ条件で騒音を測定した結果を示す。なお、これらの図において、○、●、◎、☆、★は、騒音の大きさを順に段階的に表している。
【0030】
実施例と比較例の風洞試験を比較すると明らかなように、スタビライザーを格子に装着することにより、騒音低減効果が得られることがわかる。
【0031】
次に、このような騒音低減効果が、カルマン渦現象、剥離流現象、揚力による捩れモーメントの発生、の要因うち、いずれに対して効果があったのかを検討する。
【0032】
まず、カルマン渦は、正面からの風向で生じやすいという特徴があることから比較例の図10(a)および図10(b)において、風向0°で風速14〜20m/sのA、Bで示す範囲で発生している振動騒音は、主としてカルマン渦に起因するものと考えられる。これに対して、実施例では、図9(a)および図9(b)に示すように、同じ条件では振動騒音は生じておらず、したがって、スタビライザーを格子内部に装着することにより、カルマン渦に起因する騒音抑制効果が得られることがわかる。
【0033】
次に、剥離流、揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音については、斜めの風向になると発生し易い状況になることから、図10(a)乃至図10(c)において、それぞれC、D、Eで示す範囲で発生している振動騒音は、剥離流と揚力による捻れモーメントに起因し、これらの要因が複合して振動が大きくなったため発生した振動騒音であると考えられる。
【0034】
これに対して、実施例の図9(a)では、比較例の図10(a)でCの範囲にあった騒音がなくなっており、また、実施例の図9(b)および図9(c)では、それぞれ振動の生じる範囲F、Gが、比較例のD、Eの騒音発生領域に較べて、狭い範囲に限定されている。この結果から、スタビライザーを格子内部に装着することにより、剥離流と揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音に対しても抑制効果があることがわかる。
【0035】
図11は、実施例が剥離流と揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音に対して抑制効果があることをさらに実証するグラフである。
【0036】
この図11は、24×20格子について、風向角75°で風速14m/sの条件で振動加速度を測定した結果を示すグラフである。図10(b)によれば、この風向角75°、風速14m/sは、剥離流と揚力による捻れモーメントに起因する振動騒音が発生しやすい条件である。図11で、上段は、スタビライザーのない格子についての測定結果であり、下段がスタビライザーを装着した実施例である。この結果から、あきらかにスタビライザーを装着することにより、振動が顕著に減少していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明が適用される手すり格子を斜視図。
【図2】同手すり格子に取り付けられるスタビライザーの取付位置を示す側面図。
【図3】同手すり格子の横断面図。
【図4】格子の振動をモデル化した説明図。
【図5】スタビライザーの付いた格子の振動を物理振り子として模式的に表した図。
【図6】カルマン渦に対するスタビライザーの作用を説明する図。
【図7】剥離流に対するスタビライザーの作用を説明する図。
【図8】揚力捻れモーメントに対するスタビライザーの作用を説明する図。
【図9】本発明の実施例にる振動騒音の測定結果を示す図表。
【図10】スタビライザー用いない比較例について振動騒音の測定結果を示す図表。
【図11】本発明の実施例にる振動加速度の測定結果を示す図表。
【図12】格子の風きり音の原因の説明図
【符号の説明】
【0038】
10 柱
11 柱
12 笠木
13 下胴縁
14 格子
16 スタビライザー
17 貫通孔
20 棒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形中空断面を有する金属製の格子体を間隔を取って配列した格子構造体に発生する風による振動騒音を抑制するための音鳴り防止構造であって、
前記格子側面に作用する空気変圧エネルギーを吸収し、かつ、該格子に揚力に対する釣り合い重量を付加するスタビライザーを有し、前記スタビライザーを該格子の両端の支点から略等距離の位置で該格子内部に固定したことを特徴とする格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項2】
前記スタビライザーは、前記格子の内壁面に密着して空気変圧エネルギーを吸収する高分子粘弾性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項3】
前記高分子粘弾性材料は、ゴム系材料からなり、略1.4の比重を有することを特徴とする請求項2に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項4】
前記ゴム系材料は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)またはリトリルゴム(NBR)からなることを特徴とする請求項3に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項5】
前記スタビライザーの本体は、格子全長の略1/6の長さを有し、該本体を格子の内部で位置決めし、該本体の側面を格子の内壁面に密着させる手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項6】
前記スタビライザーの本体は、長さ方向に中心を貫通する貫通孔を有し、この貫通孔にその孔径よりも大きな直径の棒体を挿入することにより、該本体を膨張させ、その側面を格子の内壁面に密着させるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項1】
矩形中空断面を有する金属製の格子体を間隔を取って配列した格子構造体に発生する風による振動騒音を抑制するための音鳴り防止構造であって、
前記格子側面に作用する空気変圧エネルギーを吸収し、かつ、該格子に揚力に対する釣り合い重量を付加するスタビライザーを有し、前記スタビライザーを該格子の両端の支点から略等距離の位置で該格子内部に固定したことを特徴とする格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項2】
前記スタビライザーは、前記格子の内壁面に密着して空気変圧エネルギーを吸収する高分子粘弾性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項3】
前記高分子粘弾性材料は、ゴム系材料からなり、略1.4の比重を有することを特徴とする請求項2に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項4】
前記ゴム系材料は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)またはリトリルゴム(NBR)からなることを特徴とする請求項3に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項5】
前記スタビライザーの本体は、格子全長の略1/6の長さを有し、該本体を格子の内部で位置決めし、該本体の側面を格子の内壁面に密着させる手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【請求項6】
前記スタビライザーの本体は、長さ方向に中心を貫通する貫通孔を有し、この貫通孔にその孔径よりも大きな直径の棒体を挿入することにより、該本体を膨張させ、その側面を格子の内壁面に密着させるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の格子構造体の音鳴り防止構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−342522(P2006−342522A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167138(P2005−167138)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(302045705)トステム株式会社 (949)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(302045705)トステム株式会社 (949)
【Fターム(参考)】
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