説明

椅子

【課題】本発明は、背板を有する椅子に関し、従来の背板に開口等を形成することなく、さらには、背板の強度を保ちつつ、背板を好適に撓ませることが可能な椅子を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決すべく、本発明の請求項1に記載の発明は、背板の前後面に、縦方向に延びる多数の溝を横方向に連続して形成するとともに、隣り合う前記溝の深さがそれぞれ異なることを特徴とし、さらには、前記各溝が、背板の前後面において、深い溝と浅い溝とを交互に並べて形成されることを特徴とする、椅子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背板を有する椅子に関し、撓みを生じやすい背板の形状とすることで、良好な背凭れ感を奏することが可能な椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、椅子の背凭れとしての背板は、木製の背板のみならず、樹脂製の背板やメッシュ製の背板などが知られており、椅子の形態に応じた各種素材の背板が取り付けられる。特に、前記樹脂製の背板は、樹脂成型により比較的容易に成型可能であり、背板形状の自由度が高いといった利点がある。
【0003】
しかしながら、前記樹脂製の背板は、メッシュの背板に比べて撓み効果が小さく背凭れ時のフィット感が硬いといった欠点がある。この場合、背凭れ部分を薄く樹脂成型することで撓み効果を奏することが可能であるが、背凭れ部分の強度が極度に低下してしまう恐れがある。他方、平面状の背凭れ形状では撓み効果が低いといった問題がある。
【0004】
これに対して、背板に孔や開口等を形成することで、背板を撓ませる構成が種々開示されている。例えば、特許文献1に開示された椅子は、プラスチック製シェル構造材に、丸形または多角形の形状からなり、且つ大きさを均一とせずに部分的に大きくあるいは小さくした小孔を粗密な分布となる配列ピッチで配設して部分的に不均一な弾性を有するようにしたメッシュ部を設け、さらに該メッシュ部を凸状に張り出すことにより背凭れ又は座としての弾力を備える構成である。
【0005】
また、特許文献2に開示された椅子は、背板に上下及び左右方向に並ぶ開口を多数穿設してなり、上下に隣接する開口間における連結片の厚さを、左右に隣接する開口間における上下方向に連続する連結片の厚さよりも小とした構成により、背板を撓ませる構成である。
【0006】
しかしながら、何れの椅子においても、背板に複数の開口を形成することで背板を撓ませる構成であり、撓み易い箇所に集中して力が加わりやすいといった問題がある。このため、背板の強度を上げるなどの種々工夫が必要となってくる。
【0007】
さらに、特許文献3に開示された椅子の背板は、熱可塑性樹脂からなる背板の前面又は裏面若しくは前後両面に、上下方向に延びる多数のリブが略平行状に形成される構造であり、隣り合う溝同士の深さがそれぞれ等しくなるように横方向に並べて形成される構成であるが、リブの奥行きが短く隣り合う各溝が浅いと背凭れ板の撓み効果が損なわれてしまう。また、上下方向のリブを横方向に結ぶリブが、横方向に連続して形成される構成であり、背板が変形しても背板が伸びることはなく、結果、背板の撓みが小さいといった欠点があった。
【0008】
また、リブの奥行きが長くかつ隣り合う各溝が深い場合、着座者が背凭れ板に凭れ掛かった状態で背板を背中で強く押圧すると、各リブが大きく撓むとともに変形し背中に密着するため、背板が前後方向に傾動するリクライニング時などに、背中に密着した各リブに強い摩擦力が生じて衣服が大きく捲くれてしまうことがあった。
【0009】
【特許文献1】特許第3434133号公報
【特許文献2】特許第4295266号公報
【特許文献3】特開2008−80090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、背板を有する椅子に関し、背板に開口や貫通孔を形成することなく、背板の強度を保ちつつ好適に撓ませることが可能な椅子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明の請求項1に記載の発明は、可撓性素材からなる背板の前後面に、縦方向に延びる多数の溝を横方向に並べて形成するとともに、隣りに並ぶ各溝の深さがそれぞれ異なることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の椅子において、前記各溝が、背板の前後面において、深い溝と浅い溝とを交互に並べて形成されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の椅子において、前記各溝は、
背板の前面における深い溝の背板の後面を浅い溝とし、背板の前面における浅い溝の背板の後面を深い溝としたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3に記載の椅子において、前記各溝が、縦方向に延びる左右一対の側片と、該両側片を横断面略H字形をなすように連結する縦方向に延びる連結片とによって、横方向に連続して並ぶように形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4に記載の椅子において、前記連結片を前方寄りに形成することで、背板の前面に浅い溝を形成するとともに背板の後面に深い溝を形成し、前記連結片を後方寄りに形成することで、背板の前面に深い溝を形成するとともに背板の後面に浅い溝を形成することを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5に記載の椅子において、前記各溝が、横方向に略円弧状に並べて形成されることで、背板の水平断面形状が略円弧状に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、背板に溝を形成する簡単な構成により、背板に開口等を形成することなく、さらには背板の強度が低下することなく背板全体を好適に撓ませることが可能である。特に、隣り合う溝の深さを変えることで、背板の撓み量を大きくすることが可能であり、着座者の背凭れ感が向上する効果がある。
【0018】
また、請求項2に記載の発明によれば、背板の横方向に深い溝と浅い溝とを交互に形成する簡単な構成により、背板の強度を保ちつつ背板を変形させることが可能であり、小さな力で背板を容易に撓ませることが可能である。
【0019】
また、請求項3に記載の発明によれば、背板の前面における深い溝の背板の後面を浅い溝とし、背板の前面における浅い溝の背板の後面を深い溝とする簡単な構成により、背板の前後面に深さの異なる溝を形成することが可能であり、背板の前後面の溝の深さを変えることで、背板の撓み量を大きくすることが可能であり、着座者の背凭れ感が向上する効果がある。
【0020】
また、請求項4に記載の発明によれば、左右一対の側片側片と該側片間に形成される連結片とが横断面略H状に形成される簡易な構成で、背板の前後面に縦方向の溝を形成することが可能である。特に、各溝が横方向に連続して並ぶことで、背板の前後面に側片が複数形成されることとなり、背板の強度を向上する効果がある。さらには、着座者が座板に腰をかけ、背板に凭れると、背板が後方に力を受け、背板の側片が略ハ字状に変形するため、背板が円弧形状を保ちつつ後方向かつ横方向に伸びて背板を好適に撓ませることが可能である。また、着座者が凭れ掛かって背板を背中で強く押圧しても、各側片の撓み変形を小さくでき、なおかつ、縦方向の側片が背中に密着して摩擦力を生じることも少ないから、背板のリクライニング時などに衣服が大きく捲くれてしまうことがない。
【0021】
また、請求項5に記載の発明によれば、連結片を前方寄り若しくは後方寄りに形成する簡単な構成により、背板の前面とその後面とに浅い溝と深い溝とを交互に形成することが可能である。
【0022】
また、請求項6に記載の発明によれば、前記背板の水平断面形状が、略円弧状であるから、背板へのフィット感が向上するとともに、小さな力で背板を容易に撓ませることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の椅子1の一例としては、図1に示すように、使用者が着座するための座板2と、着座者が背中を凭れるための背板3とを有し、該背板3および前記座板2を支持する脚部4を有する椅子1である。
【0024】
特に、本発明の椅子1は、可撓性素材からなる背板3の前後両面(前後面A、B)に、縦方向に延びる多数の溝9を横方向に並べて形成するとともに、隣りに並ぶ各溝9の深さがそれぞれ異なる点に特徴があり、後述する、着座者が座板2に腰をかけ背板3に凭れた際に、椅子の背板3を好適に撓ませることが可能である。
【0025】
以下に、本発明の椅子1を構成する各部材について説明する。
本発明の椅子1は、図2に示すように、パイプ管などの管材を折り曲げてなる左右の脚部4と、該左右の脚部4を連結する連結杆5と、前記座板2を載置し固着するための前後の座支持部6とを有し、左右の脚部4の端部同士が密着しかつ上方に突出した背支持部7を有する。
【0026】
他方、前記背板3は、該背板3の前後面の略中央部に縦方向の溝9を複数有する可撓性素材からなる背板3であって、背板3の左右下方には、下端縁から上方にかけて内部が空洞の取付孔8(図中点線部分)が形成されている。そして、背板3の取付孔8を、前記脚部4の背支持部7へと挿通し固着することで、背板3を脚部4へと取り付ける構成である。同様に、前記座板2の下面を、脚部4の前記座支持部6に載置し固着することで、座板2を脚部4へと取り付ける構成である。
【0027】
次に、椅子の背板3について説明する。
前記背板3は、図3(a)(b)に示すように、背板3の水平断面形状が、後方に凸状の略円弧形状をなすとともに、背板3の前後面A、Bには縦方向に伸びる溝9(P,D)が複数形成されている。そして、前記各溝9が、横方向に略円弧状に並べて形成されることで、背板3の水平断面形状が略円弧状に形成される構成である。特に、前記各溝9は、背板の前面Aにおける深い溝Pの背板の後面Bを浅い溝Dとし、背板3の前面Aにおける浅い溝Dの背板の後面Bを深い溝Pとした点に特徴がある。
【0028】
すなわち、前記各溝9が、縦方向に延びる左右一対の側片a,aと、該両側片を横断面略H字形をなすように連結する縦方向に延びる連結片bとによって、横方向に連続して並ぶように形成されている。そして、前記連結片を前方寄り若しくは後方寄りに形成する簡単な構成により、背板の前面とその後面とに浅い溝と深い溝とを交互に形成することが可能である。
【0029】
例えば、図4(a)(b)に示すように、前記連結片を後方寄りに形成することで、背板の前面Aに深い溝Pを形成するとともに背板の後面Bに浅い溝Dを形成することが可能である。このように、各溝が横方向に連続して並ぶことで、背板の前後面に側片が複数形成されることとなり、背板の強度を向上する効果がある。
【0030】
また、着座者が座板2に腰をかけ背板3に凭れると、背板3が後方に力を受け、背板3の側片aが略ハ字状に変形することとなり、背板3が円弧形状を保ちつつ後方向かつ横方向に伸びて背板3を撓ませることが可能である。
【0031】
すなわち、着座者が座板2に腰をかけ、背板3に凭れると、背板3が後方に力を受け、図5に示すように、背板3の側片aが略ハ字状に変形するとともに、背板の連結片bが、横方向に伸縮し又は反ることとなる。これにより、背板3が円弧形状を保ちつつ後方向かつ横方向に伸びて背板3を撓ませることが可能である。
【0032】
特に、深い溝Pと浅い溝Dとを、背板3の前後面A,Bに交互に形成するとともに、深い溝Pと浅い溝Dとを、背板3の横方向に交互に形成することにより、小さな力でも背板3が撓みやすく、背板3の撓み量を大きくすることが可能である。また、着座者が凭れ掛かって背板3を背中で強く押圧しても各側片aの撓み変形を小さくでき、なおかつ、各側片aが背中に密着して摩擦力を生じることも少ないから、背板3のリクライニング時などに衣服が大きく捲くれてしまうことがない。
【0033】
このように、本発明の椅子1は、深い溝Pと浅い溝Dとを、背板3の横方向に交互に形成するとともに、深い溝Pと浅い溝Dとを、背板3の前後面A,Bに交互に形成する簡単な構成により、背板3の強度を保ちつつ背板3が変形しやすい効果がある。よって、背板3の撓み量を大きくすることが可能であり、着座者の背凭れ感が向上する効果がある。
【0034】
以上のように、本発明の椅子1における背板3は、可撓性素材からなる背板の前後面に、縦方向に延びる多数の溝を横方向に並べて形成するとともに、隣りに並ぶ各溝の深さがそれぞれ異なる構成により、背板に開口等を形成することなく、さらには背板の強度が低下することなく背板全体を撓ませることが可能な椅子を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の椅子を示す図である。
【図2】椅子の各部材を示す分解図である。
【図3】背板の一部切断図(a)および平面図(b)である。
【図4】背板の一部切断図(a)および断面図(b)である。
【図5】背板の撓みを示す一部切断図(a)および平面図(b)である。
【符号の説明】
【0036】
1 椅子
2 座板
3 背板
4 脚
5 連結杆
6 座支持部
7 背支持部
8 取付孔
9 溝(縦方向の溝)
a 側片
b 連結片
P 深い溝
D 浅い溝
A 背板の前面
B 背板の後面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性素材からなる背板の前後面に、縦方向に延びる多数の溝を横方向に並べて形成するとともに、隣りに並ぶ各溝の深さがそれぞれ異なることを特徴とする、椅子。
【請求項2】
前記各溝が、背板の前後面において、深い溝と浅い溝とを交互に並べて形成されることを特徴とする、請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記各溝は、
背板の前面における深い溝の背板の後面を浅い溝とし、
背板の前面における浅い溝の背板の後面を深い溝としたことを特徴とする、
請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
前記各溝が、縦方向に延びる左右一対の側片と、該両側片を横断面略H字形をなすように連結する縦方向に延びる連結片とによって、横方向に連続して並ぶように形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3記載の椅子。
【請求項5】
前記連結片を前方寄りに形成することで、
背板の前面に浅い溝を形成するとともに背板の後面に深い溝を形成し、
前記連結片を後方寄りに形成することで、
背板の前面に深い溝を形成するとともに背板の後面に浅い溝を形成することを特徴とする、請求項4記載の椅子。
【請求項6】
前記各溝が、横方向に略円弧状に並べて形成されることで、背板の水平断面形状が略円弧状に形成されることを特徴とする、請求項1乃至5記載の椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−125615(P2011−125615A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289257(P2009−289257)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】